ルイズアドベンチャー~使い魔のガンマ~   作:三船

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個人的にソニックXでガンマの走行モードのシーンを見たかったなぁって思います(´・ω・`)


ミッションー121:おでかけ

今日は虚無の曜日―――――

 

この日は魔法の授業は行われず、生徒達にとって安息日である。 この日も爽やかな風が流れる気持ちのよい天気で、若きメイジ達は各々が好きなように休みを満喫しており、のんびりと羽を伸ばしていた。

 

 

 

時刻は昼頃。

 

塔の中庭で、タバサは自分の使い魔である青いドラゴンを背もたれにして、眼鏡の奥から見える海のように澄んだ青い瞳をキラキラと輝かせ、ゆったりと読書を嗜んでいた。

 

タバサは虚無の曜日が好きだった。誰にも邪魔されずに、自分の世界に好きなだけ浸っていられるからである。 彼女にとって他人は、自分の世界に対する無粋な闖入者である。数少ない例外に属する人間でも、よほどの事でない限り鬱陶しく感じるし、話し声ですら雑音でしかないのである。

それで他人からどう見られようと、彼女にとってはどうでもいいことであり、とにかく放っておいて欲しい・・と考えるタイプの少女であった。

 

虚無の曜日の時は寮の自分の部屋の中で読書をするのだが、今日は気分転換にたまには外で本を読もうと思ったらしい。 それで外に出たところ…ちょうど木の木陰で昼寝をしている自分の使い魔がいたため、遠慮もなくその巨体に背を預けて読書を始めたのである。

使い魔の青いドラゴンも主人の存在に気づいていたようで、薄目を開けてチラっとみたが、気にもせずまたすぐにグーグーと眠り出した。

 

 

ペラッ……

 

 

ページをゆっくりと捲り、彼女は次のページを開いて本の世界に没頭する。青い空と同じように青みがかった髪を爽やかな風が揺らし、彼女はこの平和な時間を満喫していた・・・

 

 

 

―――――――ドッドッドッドッドッドッ!

 

 

 

だが…そんな彼女の平穏を破るかのように、空気が響くような音がタバサを本の世界から引き剥がした。

空気に振動が伝わるような耳を劈く音で、馬小屋の馬達も驚いてヒヒーンと高く鳴いて騒いでいるのが聞こえた。

寝ていた使い魔のドラゴンも、その音に驚いたようにビクリと目を覚ましてキョロキョロと頭を動かした。

 

せっかくの休日に、一体誰がこんな音を出してるのだろうか?これではうるさくて本を読むのに集中できないではないか・・・。

と、タバサは不快そうに音の発信源である門のほうへ目を向けた。

 

 

目を向けた門の前で、ルイズと赤いゴーレムの姿が見えた。 その赤いゴーレムは学院で話題にもなっていた、ルイズの使い魔のガンマである。ルイズは肩に鞄を掛けており、ガンマは足を折りたたんだ状態で、大きな音を出してるようだ。

どうやらこの音の正体はあのゴーレムの仕業のようだ、たしか一週間前の召還の儀式でも同じような音を出していたことをタバサは覚えており、興味深げにじっとガンマをその青い瞳で見つめていた。

 

 

 

――――――ギュィィィィイイーーーーンッ!!

 

 

 

すると、ガンマはルイズを左手で抱きかかえると、大きな音を響かせながらものすごい勢いで走りだし、門から出て行った。ちょうどそこにいた門兵は、手に持った槍を落としてしまい、あんぐりと口を開けて走り去っていったガンマを見つめていた。

 

 

「・・・・速い」

 

タバサは呟いた、重い金属でできてるとは思えない凄まじいスピードであのゴーレムは走っている。 ルイズが鞄を持っているということは、どうやらでかけるためにガンマに乗っていったのだろう、どこへでかけるかは自分の知るところではないが、あのゴーレムに乗っていけば遠出するのには便利そうである。

そう驚きもせず落ち着きながら眺めていれば、あっという間にルイズを抱えたガンマはさらに遠くへ移動しており、音もだんだんと遠のいていった。興奮していた馬達も餌やりに来ていたメイドになだめられて落ち着きだしたようで、再び静けさが学院に戻ってきた。

 

タバサは表情をピクリとも動かさず、やっと彼女の集中を妨げる音が消え去って興味をなくし、静かに本に視線を向けた。

 

 

「きゅい、きゅい!」

 

だが、それとは対照に・・青いドラゴンはそのゴーレムの速さに対抗意識を燃やしたように楽しそうに声を出している。うずうずと翼を動かし、今にも飛び上がって追いかけようとしていた。

 

「ダメ」

 

ゴンッ

 

「ぎゅんっ!?」

 

 

興奮気味の自分の使い魔に、タバサは身の丈よりも長い杖で頭を叩いた。青いドラゴンは涙目できゅいきゅいと主人に抗議の声を上げるが、タバサはそれを無視してまた読書に耽っていた・・・

 

 

 

 

「タバサーーー!!」

 

 

今度は寮のほうから、慌てたようにキュルケがこちらのほうに向かって走って来た。

日に二度も読書を邪魔されるとは、安息の日を何だと思っているのだろうか・・。タバサはめんどくさそうに『サイレント』を唱え、音を消した。

 

「―――――!――――っ!――――っ!!」

 

「・・・・・」

 

急いで走って来たのか、近くまでやってきたキュルケは息を切らせながらタバサに向かって何事かを大げさに喚いているが、タバサの『サイレント』の呪文が効果を発揮しているため、声どころか足音さえもタバサに届いていない。

タバサは自分の空間に入ってきた闖入者であるキュルケに気づいているが、本から目を離さなかった。

 

 

「~ッ!」

 

――パッ

 

「あ…」

 

「~~~!!~~~ッ!!」

 

 

キュルケはタバサの本を取り上げると、タバサの肩を掴んでガクガクと肩を揺らしながら先ほどよりも激しく何かを訴えだした。

タバサは揺さぶられながらも、人形のように無表情にキュルケの顔を見つめていた。その顔からはいかなる感情も伺えないが、まったく歓迎していないことは確かであった。もし相手が他人だったなら、なんなく『ウィンド・ブレイク』でも使ってふっ飛ばしてやるところなのだが・・・相手はキュルケだ。キュルケはタバサにとって数少ない例外であり、タバサの大切な友人である。

 

しかたなく、タバサは『サイレント』の魔法を解いた。

魔法を解いたことで効果がなくなり、いきなりスイッチが入ったオルゴールのように、キュルケの口から言葉が飛び出した。

 

 

「やっと解いてくれたわね! タバサ、今から出かけるわよ!早く支度をしてちょうだい!!」

 

タバサは短くぼそっとした声で自分の都合を友人に述べた。

 

「虚無の曜日」

 

それで十分であると言わんばかりに、タバサはキュルケの手から本を取り戻そうとした。だがキュルケはタバサの手が触れる前に本を高く掲げた。タバサはルイズよりも背がさらに5サントも低く小柄であるため、背の高いキュルケが持ってる本には、タバサの手では届かなかった。

 

「わかってる。あなたにとって虚無の曜日がどんな日だか、あたしは痛いほどよ~~く知ってるわよ。 でもね、今はそんなことを言ってられないの! 恋なのよ!恋!」

 

それでわかるでしょ? と言わんばかりのキュルケの態度であるが、タバサは首を縦には振らなかった。キュルケは感情で動くが、タバサは理屈で動く。 どうにも対照的な二人であるが・・そんな二人は何故か不思議なほどに仲が良い。

 

「そうよね、あなたは理由を説明しないと動かないのよね。ああもう! あたしね、恋をしちゃったの! 今日はどうやってその"ひと"とお話しようか考えながら着替えてたら、外から音が聞こえてきたの。でね? 気になって窓から覗いたら、あのにっくきヴァリエールがその"ひと"と一緒にでかけちゃったのよ! あたしはそれを追って、二人がどこへ行くのか突き止めなくちゃいけないんだけど、あなたの使い魔じゃなくちゃ追いかけられないの! わかった?」

 

タバサはコクリと首を縦に振った。先ほどその現場を目撃したところなので、自分の使い魔でなければあのゴーレムのスピードに追いつけないのは理解できた。

 

でも・・・タバサは一つ理解できないところがあった。たしかゴーレムがルイズの他に運んでいった"男"はいなかったはずだが・・・? 誰かはわからないがキュルケの恋の相手は、ルイズと一緒にでかけたということだろう、しかしそんな人物は見なかったし馬が借り出されたところもなかったから、タバサは首をかしげた。

 

 

「・・・相手は?」

 

「もちろんガンマのことに決まってるじゃない! あたし、彼のことがすっっごく好きになっちゃったのよ!」

 

 

キュルケの耳を疑うような発言に、タバサは無表情のまま固まった。

 

 

 

「・・・熱でもある…?」

 

「ないわよっ! 『微熱のキュルケ』だけど!熱なんてないわ!!」

 

「相手はゴーレム・・・」

 

「そんなの、些細な問題だわ。 好きになった相手が人間でなくとも、恋に境界線なんて存在しないわ! それに種族の壁は、高ければ高いほど恋を燃え上がらせるのよ!」

 

タバサは、呆れたように友人を見つめた。友人の惚れっぽさや恋愛ごとによく振り回されたことがあるためキュルケのことをよく理解してはいるつもりだ、恋をした相手が誰だろうと、それは彼女の自由である。『恋の情熱は全てのルールに優越する』 それがキュルケの家の家訓なのだそうだ。

まさかゴーレムが相手とは正気を疑うところだが・・タバサは口を挟む気はなかった。

 

 

「だからお願いよタバサ!あなたのシルフィードに乗せてちょうだいっ! もうあなたが最後の希望なのよ!助けて!」

 

キュルケはタバサに泣きついた。

 

 

「・・・・わかった」

 

 

小さく溜め息をつきながらコクリッとタバサは頷き、キュルケの表情はパァッと明るくなる

 

「ありがとう! じゃ、追いかけてくれるのね!」

 

タバサは再び頷いた。 本当は読書を楽しみたいところだが・・友人のキュルケが自分にしか解決できない頼みごとを持ち込んだ、ならば仕方がない。それに自分もあのゴーレムには個人的に興味があったため、友人の頼みを引き受けることにしたのである。

 

タバサは杖をもってドラゴンの背中に飛び乗ると、キュルケも続いて飛び乗った。

 

 

「出発」

 

 

タバサは自分の使い魔にそう命じると、青いドラゴンは待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに高鳴き…二人をその背に乗せて、ばっさばっさと力強く両の翼を陽光にはためかせ、地面から飛び上がった。

 

 

「いつ見ても、あなたの"シルフィード"は惚れ惚れするわね」

 

キュルケが突き出た背びれにつかまり、感嘆の声を上げた。 そう、タバサの使い魔は『風竜』と呼ばれるウィンドドラゴンの幼生なのであった。

タバサに風の妖精という名を与えられたシルフィードは、この大きさで幼生ではあるが…『風竜』の名の如く空を風のように飛び、竜の中でも一番速い種族だ。 あっという間に空に飛び上がると、寮塔に当たって上空に抜ける上昇気流を器用に捉え一瞬で200メイルも空を駆け昇った。

正面から受ける風で赤い髪をなびかせてるキュルケに、タバサは尋ねた。

 

 

「どっち?」

 

キュルケが、あ、と声にならない声をあげた。

 

「わからない・・・。慌ててたから」

 

タバサは別に文句をつけるでなく、ウィンドドラゴンに命じた。

 

「赤いゴーレム。後を追って」

 

ウィンドドラゴンは短く鳴いて了解の意を主人に伝えると、青い鱗を輝かせ、力強く翼を振り始めた。

高空に上り、その視力でゴーレムを見つけるのである。あのような派手な色のゴーレムを草原で見つけるなど、この風竜にとってたやすいことであった。

 

 

「きゅい!」

 

どうやらすぐ見つけたようだ。タバサとキュルケはウィンドドラゴンが向いている方角に目を向けると、草原を走る赤い点が目に見え、かすかにだが木霊する音がその方角から伝わってきた。

 

 

「すごい・・・もうあんなに進んでるの? あなたのシルフィードより速いんじゃない?」

 

「規格外・・」

 

ウィンドドラゴンの飛行速度は馬の約5倍の速さを出すことができるが、この短時間であんな距離まで走っているということは、あのゴーレムはそれ以上の速度を出しているということだ。 

 

「くるるる…!」

 

シルフィードはふんすっ!とムキになったようで、自分も負けまいと、ガンマの走っている方角へと力強く翼をはためかせた。

 

「あら。負けず嫌いなのね、あなたの使い魔」

 

「・・・知らない」

 

とりあえず、自分の忠実な使い魔が仕事を開始したことを認めると、タバサはキュルケの手から本を奪い取り、尖った風竜の背びれを背もたれにしてページをめくり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

――――ブロロロロロォォ・・!!

 

 

 

「マスター。目的地マデ、アトドノクライノ距離ダロウカ?」

 

「さっき看板を通り過ぎていったから、もうすぐのはずよ!」

 

 

トリステイン魔法学院から出発して30分近くが経過し、ガンマは草原の上をスポーツカー並みのスピードで走っている。

移動手段として用いている乗馬用の馬だと、学院から町まで走り続けて3時間、徒歩だと二日はかかる距離がある。それを、ガンマはなんとものの半時で駆け抜けているのだ。ガンマの腕に抱っこされた状態で必死にしがみ付いているルイズは、ピンクのブロンドの髪を乱しながらガンマの速さに内心舌を巻いていた。

 

最初は調子に乗ってガンマにさらに飛ばすよう命令してしまって、体が冷えて寒かったり、風圧で落ちそうになってしまったが、ルイズはこの自分の身に受ける風が自分の使い魔によるものだと思うと、そんなことなど気にもならず、自分が今風のように走っていることを楽しんでいた。

 

 

 

 

そうしてまたしばらく走っていると・・・前方に、目的の場所が見えてきだした。

 

 

 

 

「見えてきたわ!少しスピードを落としなさい!」

 

「了解」

 

ルイズに命令され、ガンマは少しずつスピードを落としていき、町の門が見える場所にまで到着すると、ちょうど休められそうな腰かけられる岩があるところに止まるよう指示をだした。

 

 

「あ~もう、髪がボサボサだわぁ・・」

 

途中で止まったところで、ルイズはガンマの腕から降ろされると、風で乱れてしまった髪を手で整えだした。

ガンマはガシャガシャと歩行モードに戻り、緑のカメラアイを目的地であるその場所に向けた。

 

 

 

「アソコガ・・・・」

 

 

 

カメラアイがチカチカと点滅し、その壮大な風景がカメラアイに大きく映りこんだ。

 

 

 

そこには、トリステイン魔法学院よりも、さらに巨大で立派な美しい白い城が佇み、そこを中心に大きな城壁が町を覆い囲んでいた。

 

 

ルイズはガンマに、誇らしげに説明をした。

 

 

「すごいでしょ?  あそこが、女王陛下が治める私たちの国・・・」

 

 

 

 

 

 

「『トリステイン王国』よ!」


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