っというわけでやっとできた次の話です。
「こんの・・・バカ使い魔ーーーーーー!!! 罰を与えた矢先になにやってんのよーーーーー!!!!」
ピンクのブロンドの髪を激しく揺らし、家具が震えるほどに強く地団駄を踏んだ。
「マ、マスター、現在就眠時刻…他ノ人ノ睡眠妨害ニ・・・」
「その原因を作ったのはあんたでしょうがぁあ!!」
「スミマセン・・」
ルイズは部屋に戻ると、部屋の鍵を閉め、唇を噛み締めながら両目を吊り上げて怒りを爆発させていた。 今までにも何度か怒られたことのあるガンマだが、今回のルイズの怒り具合は凄まじい。ルイズが破壊神の咆哮のような怒鳴り声を上げる度に、ガンマは大きな身体を縮こまらせていた。
ルイズは顎をしゃくった。
「ガンマ、そこに座りなさいっ」
「了解・・」
ガシャガシャと足を折りたたんで床に座りこむ。ルイズは両手を組んでゴゴゴゴ…と威圧的に見下ろした
「もうね、あんたには心底呆れたわ。ゴーレムのくせに仕事をサボっただけじゃ飽き足らず、よりにもよってあの忌々しいツェルプストーの女に尻尾を振るだなんて!見損なったわよこのタマゴーレム!!」
「タ、タマゴーレム…?」
たしかにエッグマンの作るメカは卵型の体系をしているのは認めるが、また上手い具合のネーミングを付けられたものだ。
「今度ばかりは勘弁ならないわ! その体に使い魔とはなんたるかを徹底的に叩き込んでやるっ!」
そう言ってルイズは机の引き出しから乗馬用の鞭を取り出し、ガンマの頭を鞭を宙で舞わしながらビシバシと激しく叩き始めた。
「ル、ルイズ、落チ着イテ」
「なによ!あんな胸がでかいだけの女のどこがいいのよッ!しかもあんなにべったりとくっついて~~~!!」
―――――ビシッ!バシッ!ビシッ!
ガンマも自分に落ち度があるため大人しく罰を受けている、これだけシバかれると頭に鞭の後が残りそうだが…鈍器で叩かれないだけ幾分かマシではあるだろう。
しかし・・・ルイズが怒ってる理由は理解できるが、どうもあのキュルケとのやり取りや先ほどの言動を聞いてると、ガンマがキュルケと接触していたことを怒ってるように感じられる・・・。二人の仲が良くないのはたしかなようだが、それにしてはルイズは過剰反応ともいえるため、ガンマはそこが気になっていた。
「・・マスター、ボクガ一時的デモ任務カラ離レテシマッタ事ハ謝罪スル。 デモ、ボクハタダ キュルケニ話ガアルト言ワレテ行ッタダケ。何故、ソコマデ怒ル?」
そう疑問を持ちかけると、ピタリと鞭を振るう手が止まり…ルイズはフー、フー、と息を切らしながらガンマを見る。
少し間を置き・・・ルイズはまだ息を荒げてはいるが怒りはだいぶ収まったようで、ルイズは近くにあった椅子に座ると、足を組んだ。
「いいわ、この際だから教えてあげる。まず、キュルケはトリステインの人間じゃないの。隣国のゲルマニアの貴族よ。それだけも許せないわ、私はゲルマニアが大嫌いなの!」
なるほど、キュルケだけこの学院の中で褐色の肌をしているのは、ゲルマニアという国から来た留学生だからなのか。
「ドウシテ、嫌ウ?」
「私の実家があるヴァリエールの領地はね、ゲルマニアとの国境沿いにあるの。だから戦争になるといっつも先頭切ってゲルマニアと戦ってきたの。 そして・・・!」
ダン!っと机を叩いた。
「そして!国境の向こうの地名はツェルプストー! キュルケの生まれた土地よ!」
ルイズは歯軋りをしながら叫んだ。
「つまり、あのキュルケの家は……ヴァリエールの領地を治める貴族にとって不倶戴天の敵なのよ。実家の領地は国境挟んで隣同士! しかも寮では隣の部屋! 許せない!」
「シカシ、キュルケカラハ敵対的意思ヲ検知セズ、友好的ト思ワレル。 ソレニ、彼女ト会話ヲシタトコロ…キュルケハ、俗ニ言エバ『恋スル乙女』トイウ印象ガ見受ケラレルガ・・」
「な~にが『恋する乙女』よ!! あの女の決まり文句は必ず 『恋と炎はフォン・ツェルプストーの宿命なのよ。身を焦がす宿命よ。恋の業火で焼かれるなら、あたしの家系は本望なのよ』…って言うけどね! あんなのただの色ボケの家系よ! キュルケのひいひいひいおじいさんのツェルプストーは、私のひいひいひいおじいさんの恋人を奪ったのよ! 今から二百年前に!!」
「二百年・・・」
さらにルイズはヒートアップさせた
「それから、あのツェルプストーの一族は、散々ヴァリエールの名を辱めたわ! ひいひいおじいさんは、キュルケのひいひいおじいさんに、婚約者を奪われたの! さらにひいおじいさんのサフラン・ド・ヴァリエールなんかね!奥さんをとられたのよ!あの女のひいおじいさんのマクシミリ・フォン・ツェルプストーに! いや、弟のデゥーディッセ男爵だったかしら・・・・」
「ツマリ、ツェルプストー家ノ人間ガ、マスターノヴァリエール家ノ人間ノ…恋人?ト言ウ人間ヲ、横取リサレ続ケラレタト?」
恋人の意味は理解できてないが、ガンマは前に釣竿を持った大きな猫から尻尾が生えたカエルを横取りしたことを連想していた。たしかにそう考えたらせっかく吊り上げた獲物を取られ続けられたら根に持つのは当然だ。しかも二百年ときてるのだからそうとうだろう、なんかソニックとエッグマンの因縁よりも根深いようだ。
「ちょっと意味が違うけどそういうことよ。 でもそれだけじゃないわ!戦争の度に殺しあってるのよ。お互い殺し殺した一族の数はもう数え切れないわ! だからあのキュルケには、たとえ小鳥の一匹だろうと取られたくもないし、触れさせてなるもんですか! ご先祖様に申し訳がたたないわ!!」
ルイズがそこまでいうと、喉が渇いた様子を見てガンマは近くの水差しからコップに水を注ぎ込んで、ルイズに渡す。
「ドウゾ」
ルイズはそれを受け取り、一気に飲み干した。
「ぷはぁっ…というわけなのよ。キュルケとの接触はダメ。絶対禁止」
「・・・・・・」
水を飲んで幾分か落ち着いた様子で、ルイズは言い聞かせるように言うと、ガンマは少し考え込んだ。
「・・・了解、マスター。理解シタ」
「よかった、ちゃんとわかってくれたのね。じゃぁ今後…」
「今度カラハ、ルイズノ許可ヲ取ッテカラ、話ヲスル」
ズルッ、とルイズは椅子からこけそうになった。
「ぜんっぜんわかってないじゃない!! 私が言ってるのは、キュルケとは絶対に関わるなって言ってるのよ!!」
ルイズは苛立たしげに頭を抱え、再びガンマにきつく怒り出した。ガンマは困ったようにおどおどしだす。
「デモ・・・キュルケハ、話ヲシタイト言ッテ・・」
「ダメなものはダメっ! あんたはわたしの使い魔でしょう!つまりあんたはもうヴァリエール家と関係してるってことなんだからね! 言う事聞かないようなら、今後自由時間は無しよ!」
「っ! ソレハ…」
ルイズの無慈悲ともいえるような罰に、ガンマはうろたえた様に反応した。自由時間がなくなれば、情報収集がより難航してさらに時間がかかってしまう上に、食堂の油が飲めなくなってしまうのだ。
「とにもかくにも、ヴァリエール公爵家の元で世話になってるんだから、わたしの言うことはちゃんと従いなさい。」
「・・・了解、マスター」
ガンマは音声を若干落としながら返事をした。緑のカメラアイも悲しげに薄く光っている。
「ぅ・・・そんなに落ち込まなくたっていいでしょ・・・(少し言いすぎたかしら・・)」
叱られた子供のように落ち込んでるガンマを見て、ルイズは少しばかり罰が悪そうにした。 こいつは抜けてはいるがほんとによく働いてくれるし、叱ってばかりでは逆に教育に悪いかもしれない。 だがだからといって自由にさせてあのツェルプストーとの交流を許すのはルイズのプライドが許せないし、制限をかけすぎるのもこいつが可哀相だ・・・・。
――――「(・・・よし、ここはご主人様の器量の見せどころね)」
ルイズは一人納得するように頷いた。
「ガンマ、明日街へ買い物にいくわよ」
「・・買イ物?」
ガンマはその声に反応し、いつもの明るさの緑のカメラアイをルイズにむける。
「あんたはよく働いてくれてるからね、ご褒美として剣を買ってあげるわ」
ガンマはルイズの以外な申し出に疑問を浮かべた
「何故、剣ヲ…? 現在ノトコロ、ボクニ近接武器ヲ所有スル必要性ハナイト思ワレルガ」
首をかしげて疑問符を浮かべてるガンマに、ルイズは答えた。
「あんたは魔法の銃を持ってるけど、この前の騒動で学院内での銃の使用を禁止されたでしょ? それじゃもしもって時に私を守ることができないじゃない。 それにキュルケに好かれたんじゃ、男連中が黙ってないでしょうしね。剣を持てば抑制効果にはなるし、あんたに手をだそうとする輩も出ないはずよ」
たしかに、あの騒動でガンマの右腕が銃だったのがかなり問題になっていたから、学院内での使用を禁じられたのだ。 つまり今のガンマは丸腰の状態であるため、攻撃手段がないのだ。
剣があれば、ルーンの効果で扱えるようになっているし、抑制効果になるなら無用な戦闘を避けれるようになるし、銃が使えなくなった事態が発生した場合、近接武器での応用が可能となる。
「・・デハ、プレゼントッテ事?」
「ご褒美なんだからプレゼントに決まってるでしょ? 言っとくけど、これはあんたが使い魔としてご主人様を守れるようにするために買ってあげるんだからね。 せっかく左手で武器が扱えるんだから有効的に使ったほうがいいし、降りかかる火の粉は自分で払いなさい」
そう再び厳しく言うルイズは、ガンマの体に目を向ける。 まだ身体にはワルキューレから受けた傷痕が残っているが、大したダメージではないようだ。 だが、また問題が起こらないという保障はない、剣を買うのはまた問題を起されないようにするためでもあるし・・・ガンマがまた傷ついてしまうのを防ぐためでもあるのだ。
ガンマはコクリと頷いた
「了解、マスター。感謝スル」
「じゃ、もう遅いし寝るわよ。明日は虚無の曜日だから授業は休みだしね、昼頃には出発するからちゃんと準備しておきなさい」
「了解」
どうやらこの世界でも曜日によって休みが決まっているようだ。そういえば魔法に関する情報ばかり探っていたが、この世界での常識とも言える一般的な情報はまだ得られていない・・・これらの情報も時間があったら調べてみようと思いながら、ガンマは廊下に出ようとした。
「どこに行くのよ」
「? 部屋ノ見張リ任務・・」
あ、そうだった・・・っとルイズは思い出したように頬を掻いた。
「はぁ……いいわよ。今回の見張りの仕事は免除するわ、部屋にいなさい。またキュルケに絡まれたら大変でしょ」
ガンマは驚いたように緑のカメラアイを点滅させた。
「なによ」
「本当ニ・・・イイノ?」
ガンマは恐る恐ると問いかけた。 まるで何か別の仕事でも言い渡されるんじゃないかと心配してるような態度に、ルイズはなんとなくムカついた。
「いいって言ってるでしょ! さっさと寝る!!」
「アイアイマムッ」
そうルイズが叫ぶと、ガンマはそれ以上は何も言わないで藁束を部屋に運び入れ、その上で待機モードとなった。
「ほんとにもう・・」
ぶつぶつ言いながらルイズも温かいベッドに潜り込んで、パチンと指を鳴らして魔法のランプを消すと、部屋は真っ暗になる。
ルイズも疲れたのか、瞼が自然に重くなり、眠りに入ろうとした・・・
「ルイズ」
そこでふいに、ガンマが待機モードになってる状態で、ルイズを呼んだ。
「んん・・・何よ?」
眠りを邪魔されたせいか片目を開けて少しぶっきらぼうに答える
「剣ノプレゼント・・・トテモ嬉シイ。アリガトウ」
ルイズはそのガンマのどこか感情がこもった様な無機質な言葉に、一瞬きょとんとした顔になり、頬が少し赤くなった。
「っ・・・あ、そう。でもまだ渡したわけじゃないんだから、そのお礼は早いわよ」
「ウン・・・」
そう誤魔化すように言って、ルイズは布団をかぶった。
「オヤスミ、ルイズ」
「・・おやすみ」
―――――今日も長い一日だったと思いながら、ルイズの寝息と共にガンマもスリープモードへと入った。