原作一巻分の話しが終わるまでの道のりが長い(遠い目)
午前の仕事をやり終え、自由時間を済ませたガンマは次にルイズの居る教室へと訪れ、護衛任務を務めなければならない。
護衛任務に就くのは時間指定になっており、授業中の時は授業の邪魔になってしまうため入ることを許されておらず、ガンマは次の授業に移るまでの合間の休憩時間になってから教室に入ることにしている。
教室から出てきた担当の教師にペコリと挨拶をしてから教室に入室すると、ガンマの姿に気づいた生徒達が一斉に視線を向けるも、それは一時的なもので初日の時のように"へんてこ"だの"貧弱"だのというものは居なかった。
ルイズが座ってる席へと移動し、主人のルイズに午前の任務の報告をした。
「マスター。午前ノ掃除任務完了。コレヨリ、マスターノ護衛任務ニ就ク」
「ご苦労様。もうすぐ授業が始まるから、いつものように後ろで待機してなさい」
「了解」
ルイズは報告をしたガンマに満足そうに頷き、ガンマは指示されたとおりに教室の後ろへと待機して護衛任務に就いた。
この任務ではルイズの授業のお供を務め、ルイズに追従して一日を過ごすことになっている、この任務中では独断の行動を許されなくなっており、ガンマは主人の命令を第一として行動しなければならない。
ルイズは真面目に働いているガンマに自由時間を与えてはいるが・・・それと反比例して使い魔任務初日の時よりも躾がとても厳しくなっていた。
前に勝手に傍から離れたり、時間に遅れたり、掃除がちゃんとできてなかったり、余計な一言を言って怒らせてしまったりして、何度か怒られたことがある。
ルイズが言うには「ご主人様の言い付けを守れない間抜けな使い魔には罰を」というのがルイズのモットーであるらしい・・。 それに、何故か使い魔としてだけでなく執事としての仕事もやらされるようになり、食事の時はルイズの給士の役割をしなくてはならないため、午前の仕事も含めれば多忙な一日となる。・・なんだかメイドロボットにでもなった気分だ。
もしこれが自分のようなロボットではなく一般人だったならば、ステーションスクエアの駅の職員のようにストを起こしているかもしれない。
もっとも、こうなったのもガンマがルイズの命令を聞かずにギーシュと決闘をして騒ぎを起してしまったことが元々の原因なのだから仕方がないだろう・・と、ガンマは文句もなく素直に受け止めていた。
「それではこれより次の授業を始める、全員席に着きなさい」
少し経つと、教室の扉が開き、今日の授業の担当の先生が入ってきて黒板の前に立ち、生徒全員が席に着くのを確認すると授業が始まる。
ガンマはこの護衛任務で、魔法の授業を緑のカメラアイでデータを取りながら魔法についての情報収集を行うのが日課となっていた。
水からワインを作り出す授業や、秘薬調合してポーションを作り出す講義や、目の前に現れる大きな火球や、空中に箱やボールなどを浮かせ、それを窓の外に飛ばして使い魔に取りに行かせる授業など・・・・ガンマには理解不能な超常現象の数々に、驚愕するばかりだった
「(授業中・・・暇・・・・)」
しかし・・最初はその授業に夢中になって見ていたのだが、ガンマは一度見た授業内容はメモリーにデータとして記憶してしまうため、同じような内容を何度も見るのは正直飽きてしまった。 生徒達にとって一度習ったことを復習することは大事なことではあるのだが、今やっている授業もこの前に見た同じ内容で、これ以上のデータを取れるような情報はない。
だからといって護衛任務中に動き回るわけにもいかず、ガンマはじっと授業が終わるのを待つことにした・・・
―――――「カァッカァッ」
そこへ一羽のカラスがバサバサと羽音を立てながらガンマに近づき、ガンマはその声に反応して緑のカメラアイを向けた。
そのカラスに右腕をそっと差し出すと、そのカラスは警戒することもなくガンマの右腕の上に止まった。
「コンニチワ、ラッキー。今ハ授業中ダカラ、オ静カニ」
ガンマがそのカラスに音声を落として小さい声で挨拶をして、ラッキーというカラスは応えるように「カァッ」と一鳴きした。
――――そう、このカラスは前にルイズが魔法の爆発を起こしたさいに、使い魔達の混乱の影響で大蛇に食べられてしまったラッキーだ。
あの時呼び出したばかりの使い魔が大蛇に食べられたことでその主人の生徒が困ってる様子だったから、ガンマが自分の長い腕を使って大蛇の口の中に突っ込み、まだ飲み込まれて間もなかったことだから何とか飲み込まれたラッキーを掴みだすことができた。 大蛇の口から救助されたラッキーは胃液でベトベトでグッタリしていたが・・なんとか一命を取り留め、今では元気に飛びまわれるほどに回復している
それ以来から回復したラッキーに懐かれてしまい、教室に入るたびにこうやってガンマに寄り添うことが多く、ガンマは腕に止まったラッキーを優しく撫でてラッキーは気持ちよさそうにクァ~ッと小さく鳴いた。
それを皮切りに、他の使い魔達もガンマに寄り集まってきては傍で擦り寄ったりして戯れており、ガンマの回りはちょっとした動物園状態になっている。
しばらくすると、窓からポカポカと暖かい陽気に当てられ、回りの使い魔達は次第にぐーぐーと眠りだした、ガンマの体に止まってるラッキーや小鳥の使い魔も、寄り添いながらお互いの羽毛に顔をうずめて仲良く眠っている。ガンマは緑のカメラアイで見つめながら、その使い魔達を起こさないように、自分の足元にいる一匹の体毛をそっと撫でた。
「(もう…またやってる)」
チラッとその様子を見たルイズは、授業に集中しているご主人様を差し置いて他の使い魔と戯れてるガンマを睨んでいたが、授業の妨害にならない以上授業中の使い魔が居眠りしたり他の使い魔と戯れるのを禁じる校則はない。
決闘騒ぎの時は教師達は暫くガンマのことを警戒していたが、ガンマの性格と従順に働いている姿や、そして『土』メイジのミセス・シュヴルーズからの弁明もあり、最近では警戒も解かれ、今じゃガンマが使い魔達とじゃれ合ってても放置気味である。
ルイズとしてはもっと執事としての姿勢も示して欲しいと思うところだが、使い魔と戯れてもまだ静かにしている分躾が行き届いているということだ。ガンマもちゃんと授業の内容を覚えているし、ルイズはしぶしぶと我慢することにした。
「(それにしてもあいつ、随分と懐かれてるわね。使い魔は使い魔同士、気が合うのかしら・・・)」
使い魔達がガンマに寄り集まっている光景を、ルイズは不思議そうに眺めた。
本来契約した使い魔は主人に好意を寄せるようになってるが、元々幻獣や野生動物には気性が獰猛なものもいれば臆病な性格のものさえいる、だから他者に対して警戒心をそう簡単に解くようなことはしないはずだ。それなのに…ガンマにこんなにも心を許しているのは、無害なゴーレムと理解してるからなのか…同じ使い魔ゆえか…それともガンマの純粋さからなのだろうか……?
それはわからないが・・・ 同じ生き物でもない、命を持たない鉄の塊のゴーレムなのに、使い魔達はまったく恐れようとはしていない。 ガンマの傍で撫でられながら眠り込んでるマンティコアの顔を見ると、とても安心しているような安らかな表情をしている・・。
魔法の銃を持った戦闘用ゴーレムだといっても、こうも穏やかな雰囲気を漂わす姿を見せられては、とても戦うために造られたゴーレムとは想像しにくいものだ。
そんな風に考えていると・・・
「ミス・ヴァリエール、ちゃんと聞いてるのですか!」
「! は、はい!聞いてます!」
余所見をしているのを先生に注意され、ルイズは慌てて黒板の前に意識を向ける。回りの生徒はクスクスと笑い、ルイズは顔を赤くさせていた。
「(ガンマだって余所見してるのになんで私が・・)」
っと、ルイズはう~っと唸りながら半ば八つ当たり気味にガンマを睨んでたが、ガンマはまったく気づいていなかった。
すると、ガンマの近くに並んである席の通路からガンマをじっと睨んでいる赤い影があった。
「(・・フレイム?)」
ガンマは良く知っている、キュルケのサラマンダーのフレイムだ。床に腹ばいになり、通路から顔をひょっこりとだしてガンマをじっと見つめている。
「フレイムモ、一緒ニ寝ル?」
フレイムにそう問いかけるが、フレイムは尻尾を振ると口からわずかに炎を吹き上げて、主人のもとに去って行った。
「・・・?」
一緒に寝るのはいやなのだろうか・・・。とガンマはフレイムのその行動がわからず、首をかしげていた。
―――――――――そして、教室でガンマが使い魔達と日向ぼっこを満喫している頃・・・・。
学院長室で、秘書のミス・ロングビルは書き物をしていた。
机に束ねられた羊皮紙を、一枚、また一枚と確認しながらその紙の上に羽ペンを滑らせるように動かしている。そして何枚目かの羊皮紙を机に並べ、ミス・ロングビルは手を止めるとオスマン氏のほうを見つめた。オスマン氏は、セコイアの机に伏せて居眠りをしていた。
――――――フッ…
ミス・ロングビルは薄く笑った。誰にも見せたことのない、笑みである。
コトッ
羽ペンを置いて、それから立ち上がると、低い声で『サイレント』呪文を唱えようとした・・・
「・・・けしからんのぉ、ミス・ロングビル…」
「ッ!?」
寝ているはずのオスマン氏が、ボソリと呟き、ミス・ロングビルは目を大きく見開き心臓が飛び跳ねるかのように驚いた。つぅ…と額に一筋の冷や汗が伝う。
「むにゃ・・・けしからんのぉ~・・・むふふ・・やっぱりおぬしは白より黒が似合うわい・・」
「(・・・このエロジジイ…)」
ただの寝言にホッと安堵するも・・・一瞬、オスマン氏のふざけた夢ごと、寝顔に一発ソバットでもぶちこんでやろうかという衝動に駆られたが、それを押さえて改めて再び『サイレント』の呪文を唱える。オスマン氏を起こさないように、自分の足音を消して学院長室を出た。
ミス・ロングビルが向かった先は、学院長室の一階下にある、宝物庫がある階である。
階段を下りて、強固に作られた金属性の巨大な扉を見上げる。扉には、分厚い閂がかかっており、閂にもこれまた大げさともいえるほどに巨大な錠前で守られていた。
ここまで厳重に守られてるのは当然。この宝物庫には、魔法学院成立以来の秘宝が納められているのだ。
ロングビルは慎重に辺りを見回すと、ポケットから鉛筆くらいの長さの杖を取り出した。ミス・ロングビルがくいっと手首を振ると、杖がするすると伸び出し、オーケストラの指揮者が使用している指揮棒くらいの長さになった。
ミス・ロングビルは低く呪文を唱え、詠唱が完成すると杖を錠前に向けて振った。
しかし・・・・錠前からはうんともすんとも音がしない。
「やっぱりか……ま、ここの錠前に『アン・ロック』が通用するとは思ってなかったけどね」
くすっと妖艶に笑うと、ミス・ロングビルは自分の得意な呪文を唱え始めた。それは『錬金』の呪文であった。朗々と呪文を唱え、今度は分厚い鉄の扉に向かって杖を振る。 魔法は扉に届いたが・・・しばらく待っても扉にはなんの変化は見られなかった。
「ふぅん・・どうやらスクウェアクラスのメイジが、扉全体に『固定化』の呪文をかけてるようね」
ミス・ロングビルは呟いた。『固定化』の呪文は、物質の酸化や腐敗を防ぐ呪文である。これをかけられた物質は、あらゆる化学反応から保護され、そのままの姿を永遠に保ち続ける効力をもつものだった。『固定化』をかけられた物質には『錬金』の呪文の効力を失わせる力があり、この『固定化』をかけたメイジの実力を上回ったメイジでなければ、『固定化』に『錬金』の呪文は通じないようだ。
しかし、この鉄の扉に『固定化』の呪文をかけたメイジは、相当強力なメイジであるようだ。 『土』系統のエキスパートであるミス・ロングビルの『錬金』が受け付けなかったのがいい証拠である。
「さて、どうしたものかしら・・・」
ミス・ロングビルは、かけた眼鏡をくいっと持ち上げ、扉を見つめていた。
―――その時に、階段を上ってくる足音に気づく。音の数からして一人のようだ。ミス・ロングビルは杖を折りたたみ、ポケットにしまった。
現れたのは、太陽のように輝きそうなハゲ頭のコルベールだった。
「おや、ミス・ロングビル。ここでなにを?」
コルベールは間の抜けた声で尋ねた。ミス・ロングビルはさきほどの妖艶な笑みではなく、普段の愛想のいい笑みを浮かべた。
「ミスタ・コルベール。 宝物庫の目録を作っているのですが・・・」
「はぁ。それは大変ですな。ミス・ロングビルお一人でやるとなると、一つ一つ見て回るだけで、一日がかりですよ。何せここにはお宝やガラクタひっくるめて、所狭しと並んでいますからな。」
「でしょうね」
「でも、何故中に入らず扉の前に?オールド・オスマンに鍵を借りられなかったのですか?」
ミス・ロングビルは少し困ったように微笑んだ
「それが・・・、オールド・オスマンはご就寝中なのです。まぁ、目録作成は急ぎの仕事ではないので・・・」
「なるほど、ご就寝中ですか。あのジジイ…じゃなかったオールド・オスマンは、寝るとなかなか起きませんからな。では、僕も後で伺うことにしよう」
寂しい頭を摩りながらミスタ・コルベールは歩き出した。それから突然立ち止まり、ロングビルに振り向いた
「その・・・・・、ミス・ロングビル」
「なんでしょう?」
ミスタ・コルベールは照れくさそうに、口を開いた。
「その・・・・もしよろしかったら、なんですが・・・・昼食をご一緒にいかがですかな?」
ミス・ロングビルは少し考えたあと、ニッコリと微笑んで、申し出を受けた
「ええ、喜んで」
ロングビルはコルベールの横に並び、二人並んで歩き出した。
「ねぇ、ミスタ・コルベール」
ちょっとだけくだけた言葉遣いになって、ミス・ロングビルは話し掛けた
「え、は、はい? なんでしょう?」
思ったよりあっさりと自分の誘いが受けられたことに気をよくしたミスタ・コルベールは、跳ねるような調子で答えた。
「宝物庫の中には、入ったことがありまして?」
「ええ、ありますとも」
「では、『破壊の杖』をご存知?」
「ああ、あれは、奇妙な形をしておりましたなぁ」
ミス・ロングビルの目がキラリと光った。
「奇妙と、申されますと?」
コルベールは顎に手を当て、首をひねりながらうなった
「う~ん、なんと説明すれば良いでしょう。杖というにはあまりに無骨で、本当に杖として造られたものなのか・・。とにかく、とても奇妙な品としか説明のしようがありません。はい。 ・・それよりも、ミス・ロングビルは何をお召し上がりになります? 本日のメニューは平目の香草包みですが・・・。 あ!そういえばメイドから聞いたのですが、コック達が珍しい異国の料理を作ってるそうですよ? たしか"はんばかあ"というサンドイッチのようなものだそうで・・、それを頼んでみるのも良いかもしれませんな。 なに、僕はコック長のマルトー親父に顔が利きましてね、僕が一言言えば、世界の珍味、美味を・・・」
「ミスタ」
ミス・ロングビルは、コルベールのおしゃべりを遮った。
「は、はい?」
「宝物庫は、本当に立派なつくりですわね。 あれでは、どんなメイジを連れて来ても、開けるのは不可能ではないでしょうか」
「たしかにそのようですな。並大抵のメイジでは、開けるのは不可能と思います。 なんでも、スクウェアクラスのメイジが何人も集まって、あらゆる呪文に対抗できるよう設計したそうですから」
「ほんとに関心しますわ。ミスタ・コルベールはとても物知りなのですわね。私も見習いたいですわ」
ミス・ロングビルはコルベールを頼もしげに見つめた。
「へ?いや・・・・は、はは、そんな自慢できるようなものではないですよ。暇な時に気晴らしで書物に目を通すことが多いもので・・・・、研究一筋といいましょうか。ははは、まぁ・・おかげでこの年になっても独身のままですがね・・・はい」
少し照れながら話すも、だんだんと自嘲気味になって寂しげに笑うコルベール。彼の頭を見ればその悲しさが物語っている。
それをミス・ロングビルは、スッと彼と距離を少し縮める。
「ミスタ・コルベールのお傍にいられる女性は、きっと幸せでしょうね。だって、誰も知らないようなことをこんなにたくさん教えてくださるんですから・・・」
「えっ」
ミス・ロングビルはうっとりとした熱のこもった視線で、コルベールを見つめた。コルベールはその視線に思わず、ボッと顔から湯気が出て、ハゲ頭が赤くなりゆで卵みたいになっている。
「いっいや! いやいや! もう! からかってはいけませんぞミス・ロングビルっ! 」
裏返った声でコルベールはカチコチに緊張しながら、禿げ上がった額の汗を拭いた。 彼は今までここまでの女性経験がなかったため、耐性がないようだ。
それから冷静になり、キリッと真顔になって、ミス・ロングビルの顔を覗き込んだ。
「ミス・ロングビル。ユルの曜日に開かれる『フリッグの舞踏会』はご存知ですかな?」
「いいえ、初耳ですわ。なんですの?それは」
「ははぁ、貴女はここに来てまだ二ヶ月ほどでしたな。その、なんてことない、ただのパーティーですよ。ただ、このパーティーには伝統や言い伝えのようなものがありましてね、ここで一緒に踊ったカップルは・・結ばれるとかなんとか!」
「まぁ!そんな素敵な伝統があるのですわね。 で?」
ミス・ロングビルはにっこりと笑って相槌し促した。
「その・・・もしよろしければ、僕と一緒に踊りませんかと、そういう。はい」
「喜んで。でも、舞踏会も素敵ですが、それよりも、もっと宝物庫のことについて知りたいですわ。私、見たことのない色んな魔法の品々にはとても興味がありますの」
コルベールはなんとかミス・ロングビルの気を引きたい一心で、頭の中を探った。
「(宝物庫・・・宝物庫・・・・・・。そうだ!あの話がある!)」
そこでやっとミス・ロングビルの興味を引けそうな話をコルベールは、一度咳払いをし、もったいぶって話し始めた。
「では、ご披露いたしましょう。そこまでたいした話ではないのですが・・・」
「是非とも、伺いたいですわ」
「実を言うと、宝物庫には確かに魔法に関しては無敵ですが、一つだけ弱点があると思うのですよ」
「(弱点……) とても、興味深いお話ですわ」
「それは・・・・もっとも単純で大雑把な方法、つまり、物理的な力です」
「物理的な力・・・ですか?」
「そうですとも! 例えば、まぁ、そんなことはありえないのですが、巨大なゴーレムが・・・・」
「巨大なゴーレムが?」
その話の続きを促したミス・ロングビルに、さらにコルベールはもう一つの話題を持ち上げた。
「それともう一つ・・・。 この宝物庫には"あるちょっとした噂"があるのですよ。・・お聞きになりますか?」
「ええ、是非ともお聞きしたいですわ」
それからコルベールは、得意げにミス・ロングビルに自説を語った。 二つの話を聞き終わった後、ミス・ロングビルは満足気に微笑んだ。
「大変興味深いお話でしたわ。ミスタ・コルベール」
―――――ミス・ロングビルの眼鏡の奥にある瞳が、妖艶に輝いていた。