美しい晴天の青い空、大地に広がる緑豊かな草原、その一枚の絵とも言えるほどのどかで綺麗な風景の中心に、
白く聳え立つ大きな石造りの城が建っていた。
ここはトリステイン魔法学院。
貴族の子供たちに魔法と貴族としての礼儀作法を教育するため、そして立派なメイジへと成長させるための場所である。
その学院から離れたところでは、杖を持ちマントを羽織った数十人ほどの学院の生徒達が集まり…ある儀式を行っていた
学院で一年に一回行われる、春の進級試験・・・"サモン・サーヴァント"と呼ばれるメイジにとって自分の一生のパートナーを呼び出すための使い魔召喚、契約するための儀式である。
すでにほとんどの生徒が召喚と契約に成功しており、呼び出された生き物は様々で…犬や猫、カエル、大きなモグラ、一つ目の生き物、火を噴く巨大なトカゲなど、中にはドラゴンを呼び出した者までいる。
召喚される生き物は選んで呼ぶことができるわけではなく、術者の技量や魔法属性に見合ったものが召喚されるというもので、どのような生物が呼び出されるかは予想ができないらしい。
召喚に成功した生徒達は、自分の使い魔と触れ合ったり、他の生徒の使い魔を見せ合ったり自慢したりと、とても微笑ましい光景に見えた
――――――ドォォオーンッ!
だが……召喚に成功した大勢の生徒達の中でただ一人
「何で・・・何でよ・・・・なんで何も出てこないのよっ!!」
ピンク色がかかったブロンド髪の目立つ美しい少女が、悔しそうに爆風で髪を乱しながら、何度も何度もサモン・サーヴァントの呪文を唱え、普通なら起こるはずがない大きな爆発を起こしていた。
彼女の名は「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」。
名門貴族出身であるはずの彼女は、トリステイン魔法学院に通っている生徒ならば使えるはずである基礎の魔法ですら爆発を起こし、色んな呪文も試してみたが、どれもこれも同じように爆発する始末で、魔法属性を持たない無能なメイジとして見られていた。
そんなルイズをメイジなのに魔法が使えないと言う理由から、回りの同級生からは魔法の成功率0(ゼロ)というところから「ゼロのルイズ」という不名誉極まりないあだ名を付けられては失敗するたびに馬鹿にされたりからかわれたりという、苦汁の学院生活を送っていた。
そんな彼女は今回の進級試験であるサモン・サーヴァントを成功させようと必死だった。 もしこれで結果が出せなければ落第・・・良くても留学となってしまう。もし実家にいるただでさえ厳しい父と母、姉達にそんなことを知られたらと思うとゾッとした。
だが、今彼女にあるのはここで諦めたくないという貴族としてのプライドで、絶対にこの儀式だけは成功させてみせると折れそうになる己のプライドに鞭を打っていた。
「おーい、いい加減に諦めろよゼロのルイズ!!」
「何度爆発を起こせば気が済むんだよっ!俺たちまで爆風で埃だらけじゃないか!」
「もうこの爆発で何回目?たしか今ので101回はいったんじゃない?」
「とうとう100回を超えたのか、流石にもう見飽きちまったし爆発のせいで耳が痛いよ・・・」
「どうせ無駄なのに・・」
そんな必死に抗っているルイズを尻目に、周りの生徒達は最初こそはルイズの起こす失敗魔法に嘲笑したが、ここまで何度も同じように爆発する光景を見ていれば流石に見飽きてしまい、最終的には冷やかな目で眺めたり、野次を飛ばす者まで出始めていた。
「ミス・ヴァリエール・・・貴方が必死なのはわかりますが、もう今日はこれくらいにしてはいかがでしょう?
後日、貴方には特別に再試験を行わせますから・・」
そう彼女に優しく問いかけるのは、眼鏡をかけ磨きのかかった禿頭が特徴の今回の儀式の担当である教師、ジャン・コルベール。
彼は何度もめげずに呪文を唱え続けてるルイズの姿をみてしばらく見守っていたが、待機していた生徒達が抗議を起こし始めてきたため、それにこの後の予定なども考えると流石にこれ以上時間がかかりすぎてはまずいと思い、彼女には悪いがここで切り上げようと声をかけるが・・・
「お願いですミスタ・コルベール!! あと一回!あと一回だけやらせてくださいっ!!!」
ルイズは儀式の中断を持ちかけてきたコルベールに、最後のチャンスを求め頭を下げた。
コルベールは魔法が使えないルイズが他の誰よりも勉強し、努力していることを知っているため…100回も詠唱を唱えすでに喉も体力も限界に近くになっているのに、必死に最後のチャンスを求めきた彼女の意思を尊重し、はぁ…っとため息をはきながら
「・・わかりました、あと一回だけですぞ? ただし、これでダメだったら本当に終わりですからね?この後の予定もあるのですから」
そうルイズに笑いかけ、最後のチャンスを与えた。
「はい!ありがとうございますっ!」
ルイズはコルベールに頭を再度下げたあと、深呼吸し一度気持ちを落ちつかせ、目を閉じて意識を集中させる。
そんなルイズを今でもなお"諦めろ"など"100回やっても成功率ゼロなルイズには無理さ"と、再び嘲笑をする生徒達を尻目に、侮辱の言葉を合えて無視し、唇をかみ締めて杖を握りしめる
「(見てなさい…!絶対にあんたたちがあっと驚くような使い魔を召喚して、見返してやるんだから!!)」
そんな気持ちを思いながら、気を引き締め次で102回目であるサモン・サーヴァントを行うため、大きく息を吸い……呪文の詠唱を行う。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 宇宙の果てにいる、我が僕よ! 神聖で、美しく、強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに答えなさいっ!!!」
――――――チュドォォオオオーーーンッ!!!!
ルイズの渾身の力をふりしぼった呪文は、大きな光を放ったと同時にさきほどよりも大きな大爆発を起こした。
その影響は凄まじかったらしく、周りの生徒達は爆風で転んだり舞い上がる砂煙で涙目になって咳き込むものが続出した。
「いってて・・・ルイズ!いい加減にしろよ!!」
「ゲホッゲホッ!目に砂が…!」
「もう!服が砂だらけだわ!」
「なんだったんださっきの光? いままでの爆発にしちゃぁ妙だったなぁ、でもこれでルイズも留年決定だな!」
「ミス・ヴァリエール! 大丈夫ですか!?」
コルベールは爆風で尻餅をついているルイズにかけより、爆発の被害を受けた生徒達はルイズに罵倒の嵐をあげるが……当の本人であるルイズはそれどころではなかった。
モクモクと砂煙が舞う、先ほどの爆発が起こった場所へ、己が求めた強力な使い魔が現れるのを祈るように手を組んだ。
「(お願い、お願い!私の元にその姿を現して!)」
ルイズは心の中で強く願い、砂煙が収まるのを待った・・・。
「お、おい・・・なんかいるぞ」
一人の生徒が薄れてきた砂煙から一つの影が見えたらしく、その言葉に生徒達が次々と驚愕の表情を浮かべる。
「え!うそだろ!?」
「まさか・・・あのゼロのルイズが召喚に成功したのか?」
「ありえねぇ!」
ガヤガヤと生徒達が騒ぎだし、その言葉を聴いたルイズは俯いていた顔をバッとあげ、砂煙の先に見える使い魔らしき影が確認できた。
「わ、私・・・本当に召喚できたんですか?ミスタ・コルベール・・・」
「ええ・・よくがんばりましたね、ミス・ヴァリエール。まだどんな使い魔かはわかりませんが、召喚は成功のようです」
隣にいるコルベールに自分が本当に召喚に成功したのか困惑しながらも問いかける。
そんなルイズに、コルベールは肩にそっと手を乗せ、優しく答える。内心では、自分の教え子ができなかったことをやりとげ成し遂げたことを彼はとても喜んでいた。
「い・・・・いやっったぁぁああああ~~っ!!!」
ちなみにルイズは、自分の召喚が・・・初めて自分の魔法が成功したことに喜びを隠せず、今までに見せたことのないような満面の笑みを浮かべてピョンピョンと飛び跳ねていた。
そんなよろこぶルイズをコルベールは落ち着かせ、儀式の続行を促した。
「さぁ、ミス・ヴァリエール。 サモン・サーヴァントが成功したからといってもまだ合格と言うわけではありませんぞ? これからあなたと生涯を共にするであろうパートナーにコントラクト・サーヴァントを行わければなりませんからね。」
「は、はい!必ず成功させてみせますミスタ・コルベール!」
ルイズは舞い上がりそうな自身をなんとか押さえ、今だ砂煙が舞っている場所へゆっくりと歩き出す。
砂煙は時間が経つにつれてだんだんと薄れてきだし、そこにあった影がだんだんと形を現してきた。
「(うーん・・影の大きさからしてドラゴンとかグリフォンとかじゃなさそうね)」
ルイズが近づくにつれ影の大きさが見えるようになり、その使い魔は倒れている状態のようで、見たところ2メイルほどの大きさのようだ。 先ほど神聖で美しい使い魔をと願ったが、この様子だとグリフォンなどは無理そうだ。
「(でも、この際大きさなんかどうだっていいわ! やっとの思いで初めて召喚ができた使い魔だもの! きっと私に相応しいすごいのに違いないわ!)」
ルイズの脳内では、自分の美しい使い魔を学院内に連れて歩き、その使い魔の強大さと美しさに今まで自分を見下していた同級生たちがこぞってひれ伏し、「ルイズ様!今までの我らの無礼をお許しください!」「ルイズ様こそトリステイン一・・・いや、ハルケギニア一のメイジでございます!」 っと、自分を褒め称え崇め称える姿を想像してはニヤけそうな顔をなんとか抑えようと必死だった。
妄想に耽っている内に、ルイズは影のあるほうへと近づいていく
「(さぁ、姿を見せて頂戴!神聖で美しい私の使い魔!)」
わくわくしながら影のある場所に到着し、砂煙が晴れ・・・その使い魔の姿が現れた。
「・・・・・へ?」
その姿を見た瞬間、ルイズは間抜けな声を出し、唖然とした表情で足元で倒れている使い魔を見下ろす。
「・・・・あれって・・・ゴーレム?」
一人の生徒が煙が晴れてその使い魔が見えたのか、第一声がそれだった。
そのゴーレムは体が丸っこく、まるで卵みたいな形をしており、その卵に細長い腕と足が付いているようななんとも珍妙な姿をしていた。 足は鳥などの足のように逆関節になっており、人間でいう足首部分には丸い車輪のようなものが付いている。
堅そうな見た目からして恐らくは金属でできてるのだろう。目のような部分にキラキラとした緑色のガラス球が二つはめこまれ、頭部はオレンジ色、胴体らしき部分は赤・白・赤と色が分かれており、腰の部分には筒のようなものが二本付けられ、真ん中から少し左よりに何のためについてるのかわからないレンズのようなものが付いている。
そして一番目を引くのは、その卵のようなものの右腕先に付いている黒い鉄の塊だった。 左手は指が三本しかないがちゃんとした手になっているのに、なんで右腕だけこのような形なのだろうか? もしかしたら鈍器の役割をする武器なのだろうとルイズは一人で納得する。
・・・・・・さて、現在のこの使い魔の姿からして、ルイズの見解は・・・これは神聖とも言えないし、美しいともいえる様なものではないと断言できる。間違いなくできる。
極め付けに、この使い魔はゴーレムというにはなんとも非力そうな見た目をしている。こんなマッチ棒みたいな腕と足でゴーレムの得意である力仕事などできるのか? そこらの大きめの石をもっただけでも折れてしまいそうなほどその腕は細かった。
ルイズが呆然と立っている間、そんなへんてこなゴーレムらしき使い魔を見て、周りの生徒達は再び爆笑の渦に飲まれていた。
「ぶっ・・・ぶわはははははは!! お、おいおいルイズ!そ…そんな弱そうなゴーレムが神聖で美しい使い魔かよ!!」
「見ろよあの細い腕、あれならまだ平民に力仕事をさせたほうがましってもんだぜ!」
「さっすがゼロのルイズ!最後の最後で笑わしてくれるぜははははははっ!!」
ルイズはプルプルと体を震わし、顔を真っ赤にさせながら勢いよくコルベールのほうへ振り返る。
「ミスタ・コルベール!、もう一度召喚をやり直させてください!!」
「それはダメだ」
ルイズは悲願するも、コルベールは即座に却下する。
「ミス・ヴァリエール、これは伝統なんだ、この春の使い魔召喚は神聖な儀式であり、一度呼び出した以上どんなものだろうと変更はできない。それにミス・ヴァリエール…先ほど言ったはずですぞ?あと一回だけだと。」
コルベールはこればかりは譲らないとルイズを突き放すように言う。
ルイズはコルベールのその言葉に、ガックリとうな垂れながらも「わかりました・・・」とトボトボとそのゴーレムのほうへ歩みだす。
「(こんなゴーレムを使い魔にして連れて歩いたら、一生の恥さらしね・・)」
重いため息をはき、ゴーレムらしき使い魔の近くに腰を下ろし、そのゴーレムに
「…あんた、感謝しなさいよね。誰が作ったのかは知らないけれど・・あんたみたいなへんてこなゴーレムが、こんなことされるなんて普通はありえないんだからね」
と、すこし悪態をつくように言い、ゴーレムの顔の前に手に持った小さな杖を振る
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァルエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
ゴーレムの前でコントラクト・サーヴァントの呪文を唱え、すっとゴーレムの額(目と目の真ん中部分かしら?)に杖を置く。
「(ええっと・・・唇ってどこなの?っというよりゴーレムに口なんてあるの? どの部分にすれば・・)」
最後のキスで完了なのだが、どの部分にすればいいのか迷いがらも、適当に顔のようなところの真ん中あたりにキスをした。
その瞬間―――――
キュィィイイイーーーンッ!
「キャッ!?」
突然ゴーレムから何かが動くような音が鳴り出すと同時にガラスのような緑の目が光だして、ルイズは驚いてばっと離れる。
ゴーレムの左手に"使い魔のルーン"が現れ、そのゴーレムの体の隙間からブシューッと音を立てながら蒸気を排出し、ゆっくりと上半身を起こす。
「・・・・?・・・・っ!」
何度か目をチカチカと点滅したあと、ルイズのほうへ顔をむけ一瞬驚いたような反応を見せるが・・そのあとは不思議そうに周りをキョロキョロと見回し、細長い手足で体を支えながらゆっくりと立ち上がる。
「(こ、こうして見ると・・・けっこうデカいわね・・・)」
倒れていた為わからなかったが、こうして立っている姿をみるとその大きさがよくわかる。 ルイズの身長は153サントに対し、このゴーレムはコルベールよりも高く2メイルは超えている。 よくあんな細い足で金属でできた体を支えられるものだ。
「ミスタ・コルベール、終わりました」
「うむ、サモン・サーヴァントは何度も失敗したが、コントラクト・サーヴァントは一回で出来たね。 ・・・それにしてもこのゴーレムは不思議な構造をしているなぁ、こんなものは見たことがない。 ・・・ふむ、それに使い魔のルーンも珍しい形をしている、一応スケッチしておこう」
コルベールは興味ぶかそうにそのゴーレムを見ながらも、ルーンのほうもしっかりとスケッチしておく。
「きっとそのゴーレムはすごく弱いからルイズなんかにも契約できたんだよ!」
「ゼロのルイズにはその使い魔がお似合いね!」
契約も成功したルイズを再び周りの生徒が馬鹿にするようにゴーレムとルイズに指を刺しながら笑う。
「う、うるさいわね!!わたしにだってちゃんとこれくらいできるわよ!!」
ルイズは顔を真っ赤にさせながら嘲笑する生徒たちに食って掛かる・・
ゴーレムはその様子をじっと見つめ、視線をちょうど目の前にいたルイズに移し、肩を後ろからちょんちょんとつつく
「もう、なによ!少しまってなさい!今はあんたにかまt 「ココハ」
・・・え?」
その場に居た者の空気が凍りつき、生徒やコルベール、そしてルイズが・・・・声が発せられたであろう一つのものに視線が集中する。
その場に居るものの視線が集中しているのは、ゴーレムだった。
「ココハ・・・ドコ?」
「「「「「「「しゃ、喋ったぁ~~~!!!??」」」」」」」
ゴーレム以外の者全員が驚愕の表情で叫んだ。
「現在位置・・・不明。・・・・・・・コマッタ。」
――――――――これが、ルイズとゴーレムのような使い魔の初めての出会いであった。 ・・・そしてルイズたちは気づいていない、このゴーレムはこの世界とはまったく別の世界からやってきたモノであることを。 このゴーレムには、"彼"の体にはある番号が書かれていたことを。
「102」 くしくもルイズが行った召還の回数と同じ、102回目に現れた彼・・・E-100シリーズの製造番号2番、その名は―――――
―――――"E-102γ(ガンマ)"―――――
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次の話もできしだい投稿したいと思います。