ルイズアドベンチャー~使い魔のガンマ~   作:三船

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お待たせしました、今年初投稿の続きです。

正直ロボットのガンマとマルトー達をどうやって絡ませるのかめっちゃ悩みました。


ミッションー117:我らの銃剣

シエスタと一緒に部屋の掃除を終わらせてアルヴィーズの食堂の裏にある厨房へ訪れたガンマは、コック達に囲まれながら歓迎を受けていた。

 

 

「『我らの銃剣』が来たぞ!」

 

最初にそう叫んで歓迎してくれたのが、この厨房を一手に切り盛りをしている魔法学院コック長のマルトー。 彼はシエスタと同じ平民で、エッグマンみたいに太った四十過ぎほどの男性だがガッシリとした体系をしており、あの数々の豪勢な料理を作り上げるほどの腕前をもつ料理人だ、そしてなにより魔法と貴族を毛嫌いしている。

当初彼はゴーレムであるガンマも例に漏れず毛嫌いの対象として見ていたのだが、食堂で聞いた異国の料理の話や決闘でメイジのギーシュを倒したガンマを気に入ったようで、それ以来彼を『我らの銃剣』と呼んでもてなしてくれるようになった。

 

 

「よく来てくれたな『我らの銃剣』!お前のお求めのものは用意してあるから、ゆっくりくつろいでいってくれ!」

 

「感謝スル、マルトーコック長」

 

 

ガンマは用意された自分用の椅子(と言う名の木箱)に逆間接の足を器用に動かして座ると、シエスタがさっと寄ってきてにっこりと笑いかけ、この世界の文字が書かれたラベルの貼られてる液体の入ったボトルを出してくれた。

 

「どうぞガンマさん、今日の"油"は特別ですわ」

 

シエスタは嬉しそうに微笑んだ。

 

「アリガトウ、シエスタ」

 

 

シエスタが出してくれた目の前に置かれた液体の入ったボトル。 この厨房で料理に使われている"料理用油"だ。

 

何故ガンマがこの厨房に訪れているのか・・・それはこの厨房で使われている"料理用油"をオイル代わりとして貰いにきているのだ。エッグマンの元から離れこの世界に来てからメンテナンスもろくにしておらず、そのメンテナンスに必要な工具も部品もない状況だから仕方がないのだが…せめて潤滑剤となる油を必要としていた為コック達からその代用となる料理用油を分けてもらってるのだ。

本当なら機械用油が欲しいところではあるが、貴族達のための料理を作るだけあってそれに使われている油も高級なもので、成分も酸化し難く、体内に保存すれば長持ちするためガンマはここの油をとても気に入っており、これを飲みにくるのが楽しみの一つでもあった

 

 

トクトクトクトク・・・

 

 

ガンマはテーブルに置かれたボトルを左手でもち、口(?)の部分にあたるボディーの装甲の一部が開き、現れた給油口に油をトクトクと流し込んだ。それを見ている周りの一部のコック達はなんともいえない顔で苦笑いを浮かべる

 

 

「ゴーレムとは言え・・・よくあれをそのまま飲めるよな・・」

 

「うん・・」

 

「うう・・また胃がムカムカしてきた」

 

 

飲んでるのが人間ではなくゴーレムだと言うのはわかってても、あんなドロッとした液体をジュースみたいに飲んでるガンマに慣れない者も居るようだ。それを間近でうっとりとした面もちで見つめているシエスタは色んな意味ですごいものである。

そんな周りの反応も気にせず、油を飲み干したガンマは空になったボトルをテーブルに置き、緑のカメラアイを輝かせた。

 

 

「コレハ・・・トテモイイ油」

 

 

ガンマは手をグリグリと調子を確認するように動かしながら満足気にそう言った。

 

 

「今マデノ料理用油ヨリモ 機体ノ稼動部分ニ循環シヤスク、何ヨリ高純度デ質ガ良ク馴染ミヤスイ。 料理用ノ油ニ、コノヨウナ物ガアッタトハ・・」

 

「ガンマさん、口が汚れてますよ」

 

「ア、ゴメン・・・」

 

ガンマが感激したように油の感想を言ってたら、シエスタが優しく布巾でガンマの口周りに垂れてしまった油を拭いてくれた。まるで姉が大きな弟の世話をしている様子みたいで、回りのコックやメイド達は不思議と和んでいた。

すると、包丁をもったマルトーがやってきた。

 

 

「気に入ってくれたか。その油は『ツヴァギ油』っていうやつで、貴族どもの晩餐会や特別な日にしか使わないやつだからな」

 

「『ツヴァギ油』・・?」

 

「ああ、これはシエスタの故郷のタルブの村で栽培されてる"ツヴァギの花"でしか取れないものなんだ。 健康にもよくて特に女連中に人気があってよ、なかなか手に入らないやつなんだ」

 

シエスタの故郷と聞いて緑のカメラアイをシエスタにむけると、自分の故郷の品をガンマが喜んでくれたことが嬉しかったのか、シエスタは幸せそうに微笑んだ。

 

そしてガンマはテーブルに置いた空のボトルに視線を向ける

 

 

 

「(『ツヴァギ油』・・・・・"椿油"ノ事ダロウカ?)」

 

 

 

"椿油"はアメリカではカメリアオイルと呼ばれている、世界三大オイルの一つといわれる高級油だ。 前にステーションスクエアのアンティークショップを経営しているもの好きな主人と情報収集で話してるさいに、ロボットであるガンマを見て「食用油の中には機械油の代わりとして使えるものもある」と言うことを聞き、その例として挙げられたのが"椿油"なのだ。

発音が微妙に違うが…語感が似ているし、成分も椿の花と同じものだ。この異世界にも自分の世界と同じものが存在していたとは驚きだが、マルトーはそんな貴重な品を自分にくれてよかったのだろうか? 晩餐会や特別な日にしか使わないとなると、それを勝手に使ったと貴族にバレたら怒られるのではないだろうか?

 

 

「コンナ貴重ナ油ヲ、ボクナンカニクレテ大丈夫?」

 

「ふんっ! 料理に別の油を使ったところで、貴族のガキ共には味の違いなんてわかりっこないさ、それならお前に飲んでくれたほうがその油も喜ぶってもんよ」

 

ガンマがそう言うと、マルトーは得意げに鼻を鳴らした。

 

「あいつらは、なに、確かに魔法はできる。 土から鍋や城を作ったり、とんでもない炎の玉を吐き出したり、果てはドラゴンを操ったり、たいしたもんだ! でも、この油と調味料を使って絶妙の味に料理をし立て上げるのだって、言うなら一つの魔法さ。そう思うだろ、ガンマ」

 

ガンマは頷いた

 

「ボクモ、ソウ思ウ。 ボクハ物ヲ食ベル事ガ出来ナイカラ、マルトーノ料理ノ味ヲ知ル事ガデキナイガ・・肉ヤ野菜、果物ナドノ様々ナ物ヲ使ッテ、数々ノ料理ヲ作レルコトハ、トテモスゴイ事」

 

ハンバーガーショップで得た食べ物以外の情報を知らないガンマには、マルトーが作る豪勢な料理はとても興味深いものでもあった。ハンバーガーやピザなどとは違う作り方で、しかも一品一品が盛り付けなども一つも手を抜かず丹精こめて作られているのだ。

 

「いいやつだな! お前はまったくいいやつだ! 貴族の魔法人形なんかとは大違いだ!」

 

マルトーは感激したようにぶっとい腕をガンマの首(?)に巻きつけた。マルトーのこの押しにはガンマは少し引き気味である

 

「マ、マルトーコック長、落チツイテ・・」

 

「なあ、『我らの銃剣』!俺はお前の鉄の頭に接吻するぞ!こら!いいな!」

 

「イエ…アノ、ソノ呼ビ方ト、接吻ハヤメテイタダケナイダロウカ・・」

 

ガンマはそう言った。

 

 

「どうしてだ?」

 

「接吻ヲシタラ、マルトーノ口ガ汚レテシマウ可能性アリ。ソレニ、ボクハソンナスゴイ事ヲシテナイ」

 

マルトーは、ガンマから体を離すと、両腕を広げてみせた。

 

「お前は魔法を使えない俺達じゃ敵わなかった、あの高慢ちきな貴族を倒しちまったんだぞ!わかってるのか!」

 

「ハイ」

 

「しかも、聞けばお前は魔法のない国で造られたゴーレムだそうじゃねぇか!」

 

マルトーがニカっと笑いながらそう言うと、ガンマの肩をバンッ!と叩いた

 

「そんな国で造られたっていうゴーレムのお前が、貴族のゴーレムを右腕の銃で次々と撃ち抜き、左手の刃で切り裂く姿は、まさに『銃剣』だ! 俺は魔法で造ったゴーレムも気に入らなかったが、お前は俺達にとって誇りだ!そんなお前を『我らの銃剣』と呼ばずになんと呼べってんだ!」

 

「ガンm…「そうだろお前たち!」

 

ガンマが言い切る前にマルトーが振り向きながら若いコックや見習い達にそう怒鳴ると…

 

 

「「「「そのとおりです親方!」」」」

 

 

コック達が嬉しげに唱和する。

マルトーは油を貰いにくるガンマに、毎回こうやって尋ね、ガンマはその度に困ったようにしながら同じ答えを繰り返してるのである。

 

「やい、『我らの銃剣』。俺はお前の事がますます好きになったぞ。どうしてくれる」

 

「ソウ言ワレテモ・・・」

 

ただ自分はギーシュにルイズとモンモランシーとケティに謝らせるためにやっただけのことだったのだが、遠慮しながら言ってもマルトーはそれを謙遜と受け取っている。 まさかエッグマンの戦闘用ロボットとして造られた自分が、ソニックのように英雄扱いをされるとは思いもしなかった。 もっともギーシュに勝てたのはこのルーンのおかげなのではあるが、これの謎自体も解明されていない。

 

 

「(・・・一体ナンナノダロウ、コノルーンハ・・・・)」

 

 

とガンマがじっと自分のルーンを見つめていても、マルトーはそれをガンマの控えめさ、と受け取ってしまうのであった。

 

 

「お! そうだ、シエスタ!」

 

マルトーは思い出したようにポンと手を叩き、シエスタの方を向いた。

 

「はい!」

 

二人の様子を、ニコニコしながら見守っていたシエスタが、元気よく返事を返す。

 

「我らの勇者に、俺の自身作を持ってきてくれ」

 

「わかりました!」

 

シエスタは満面の笑みになり、厨房の奥へと向かった。・・・自信作とはなんのことだろう?

 

「マルトー、自身作トハ?」

 

「『我らの銃剣』、お前がご主人様と初めて食堂へ来た時、食べ物の話をしていただろう? たしかハンバガアだったか…」

 

「ハンバーガーノ事?」

 

「そうそう!それだそれ! お前のその異国の料理の話を聞いて俺も興味が沸いてな。お前を驚かしてやろうと思って試作品を作ってみたんだよ」

 

マルトーは自信満々に豪快に笑った。 つまり自分が話したハンバーガーの情報を元に、マルトー流のハンバーガーを作って自分に見せようとしてるということだ。

 

「トテモ、楽シミ」

 

ガンマも、マルトーが作ったというハンバーガーに興味が沸いた。バーガーショップのハンバーガーにも色んな種類のものがあるが、この世界のコックが作るハンバーガーがどういったものになるのか気になった。あれほどの豪華な料理を作れる腕を持つマルトーならきっとすごいハンバーガーになるに違いない。

 

「お持ちしました!」

 

シエスタが言われたとおりに、蓋で隠したマルトーの自信作を持ってきてガンマのテーブルの上に置いた。 ・・随分と大きな皿に載せてるようだが、たくさん作りすぎたのだろうか?

ガンマが不思議そうに大きな皿を見ていると、マルトーはガンマの前にやってきて、蓋の取ってに手をかける

 

 

「さぁ『我らの銃剣』!その緑の目ん玉でよ~く御覧じよ! これがマルトー様の自信作!"トリステイン流ハンバーガー"だ!!!」

 

 

そう叫びながら勢いよく蓋を開けられ、ガンマの緑のカメラアイにマルトーの自信作が どどーん!と映し出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・マルトーコック長、『コレ』ハナンダロウカ?」

 

少し間を空けて、マルトーに緑の目を向け『コレ』について問いかける。

 

「何って、ハンバーガーに決まってるじゃないか」

 

ガンマは再び、『ハンバーガー』に目を向けた・・・

 

 

 

 

 

 

結論から言おう、デ カ ス ギ ル

 

 

 

 

 

 

なんでホールケーキサイズにしたんだ? ビッグバーガーも真っ青なほどの大きさだ。たしかに大きさの説明はしていなかったが、これでは手軽に食べることなどできないのではないか? 軽くハンバーガー6個分の大きさはあるほどだ。

 

いや、大きさはこの際置いておくことにしよう。それよりもハンバーガー自体のつくりが問題だ。

たしかに・・多少形が違うが、ハンバーガーとしての基本的なものは出来ている。ちゃんとパンの間にハンバーグらしき牛肉の塊・・・・・これはステーキだろうか? 肉の塊とは言ったが・・そのまんますぎる。まぁこれはおいといて、ちゃんとレタスや刻んだタマネギ、ソースであるケチャップも使われているからこれはオーケーだ(何故かポテトまで挟んでるが)。 しかし・・・なぜスライスチーズをパンの間にではなく、"パンの上"に乗せてるのだ?しかもその上にハムやトッピングまで乗せている。きっとピザの作り方の話まで聞いて間違えて混ぜてしまったのだろう。

 

 

そんな風にガンマのイメージにあったハンバーガーをぶち壊すほどのぶっ飛んだインパクトのあるハンバーガーである。

 

 

 

 

「どうだ『我らの銃剣』、実物を見たことがねぇが、これぞお前の説明どおりにあったハンバーガーだろう!」

 

「全然違イマス」

 

「え?」

 

 

 

―――――その後、あっさりとダメ出しを食らったマルトーはガックリと肩を落としつつも、ガンマが異国の料理の話をしてくれることで持ち直し、他のコックやシエスタまでが食いつき気味にガンマの話を熱心に聞いていた。結局、ガンマはマルトー達にハンバーガーの説明をすることでこの日の自由時間を潰すことになったのである・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゅるきゅる」

 

 

――――そして誰も気づかなかった、窓の外から赤い影が覗き込み、きゅるきゅると鳴きながら消えて行ったのを・・・。


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