今回は短い上に、決闘を覗き見してたオスマンとコルベールの視点です。
「・・・オールド・オスマン」
「うむ」
「あのゴーレム、勝ってしまいました・・・」
「そうじゃな」
決闘の決着が着いた頃――――『遠見の鏡』から決闘の一部始終を見終えたコルベールとオスマン氏はお互いの顔を見合わせ、コルベールが震えながらオスマン氏に呟いた。 ガンマの右腕が銃だと発覚したところからコルベールは食い入るように『遠見の鏡』に釘付けになり、今でも既に興奮気味のようだ。
「すごい・・・すごすぎる!! 見ましたかオールド・オスマン!? あのゴーレムの右腕、まさか銃だったとは…!! しかも見たところ火薬を使った実弾製のものではなく、魔力を弾丸として射出するマジックアイテムのようです! たしかにミスタ・ギーシュは一番レベルの低い『ドット』メイジですが、それでもゴーレムの戦いにおいて遅れをとるとは思えません!それなのに、青銅で出来たゴーレムをたった一撃で破壊してしまうとは、なんという威力!。それにミスタ・ギーシュのゴーレムの斬撃をいくつも受けてるのに、あの体にはかすり傷程度しかついてないじゃないですか!。そしてあの動き! あんなに早く動けるゴーレムなど見た事がない! やはりあのゴーレムは『ガンダールヴ』!!」
「わかった、わかったから落ち着かんかコルベールくん…」
オスマン氏も流石にうんざりしたように興奮してるコルベールに落ち着くよう促す。気持ちは分からなくはないが、もう少し落ち着きを持って欲しいものだ。
「あ…すみません、こんなにすごいゴーレムだったものですから・・・。ですがオールド・オスマン、このゴーレムは本当にすごいですよ!」
コルベールがこうも興奮するのは無理もない。ガンマのあのような細い腕で武器を操り、槍で吹っ飛ばされたワルキューレが両手で持つほどの重さのある大きな斧を片手で軽々と持ち、あの大きなワルキューレを真っ二つに引き裂いてしまったのだ。 例え土のメイジがガンマに似せて作った金属のゴーレムを作ったとしても、あんな細さの腕では重さに耐え切れずに折れてしまう。
しかも、あのガンマの金属の体の質量から考えて、少なく見積もって重量は1500リーブルはあるはず。そんな重さであんな動きができるなど、こんなこと普通はありえない。
「うむ…ワシから見ても、このゴーレムは普通ではない。 それに・・」
オスマンは、机に置かれたガンマのスケッチを手に取る
「やはり、この右腕は銃だったんじゃなぁ・・・」
スケッチに描かれたガンマの右腕を、オスマン氏はどこか懐かしそうに見つめる。まるで遠い昔の友人のことを思い浮かべてるかのような表情だ。
「ひょっとしてオールド・オスマンは、あのゴーレムの右腕が銃とわかっていらしたのですか?それで『眠りの鐘』の使用許可を?」
「ん? いやなに、単なる勘じゃよ。むか~し見た短銃と形がたまたま似ておるものじゃからもしかしてな~っとおもってのぉ。」
「はぁ・・」
コルベールにそう尋ねられ、オスマンはあっけらかんとひらひらと手を振る。コルベールは首をかしげるもそれ以上は追求せず、一度咳払いをしオスマン氏を促した。
「オールド・オスマン。さっそくこのことを王室に報告して、指示を仰がないことには・・・」
「それには及ばん」
オスマン氏は、重々しく頷き、白い髭が厳しく揺れる。
「どうしてですか? これは世紀の大発見ですよ! 現代に蘇った『ガンダールヴ』!」
「ミスタ・コルベール。君も知っておるだろうが、『ガンダールヴ』はただの使い魔ではない」
「そのとおりです。始祖ブリミルの用いた『ガンダールヴ』、その姿形は記述がありませんが、主人の呪文詠唱の時間を守るために特化した存在と伝え聞きます」
「そうじゃ。始祖ブリミルは、その呪文があまりに強力ゆえに、呪文を唱える時間が長かった・・・。知ってのとおり、詠唱時間中のメイジは無力じゃ。そんな無力な間、己の体を守るために始祖ブリミルが用いた使い魔が『ガンダールヴ』じゃ。その強さは・・・・」
その後を、コルベールは興奮した調子で引き取った。
「千人もの軍隊を一人で壊滅させるほどの力を持ち、あまつさえ並みのメイジではまったく歯がたたなかったとか!」
「でじゃ、ミスタ・コルベール」
「はい」
「そんな敵を一撃で破壊してしまう魔法の銃を持つようなゴーレムを、現代の『ガンダールヴ』にしたのは、誰なんじゃね?」
「ミス・ヴァリエールですが・・・」
「あのヴァリエールの三女か・・・彼女は、優秀なメイジなのかね?」
「いえ・・彼女は大変努力家であるのですが、悪い言い方をしますと、無能というか・・・」
コルベールは言いにくそうにそう告げる。彼としてはルイズのことを卑下するようなことを言いたくないが、魔法が使えないと言うメイジとして致命的なのは事実なのだ。
「さて、その二つが謎じゃ・・・。無能なメイジと契約した自我を持ったゴーレムが、何故『ガンダールヴ』になったのか。それに、今まで"生物"しか召還されなかったはずのサモン・サーヴァントで、どうして無機物のゴーレムが召還がされたのか・・。 まったくもって謎じゃ。理由が見えん」
「そうですね・・・意思を持たないはずのゴーレムが、自我をもっているだけでも前代未聞ですからなぁ」
「とにかく、王室のボンクラどもに『ガンダールヴ』とその主人を渡すわけにはいくまい。いくら人間のように自分の意思を持っていようと、あのような魔法の銃を装備したゴーレムは、ボンクラどもにとってはただの兵器としか見ないじゃろうて。そんなオモチャを与えてしまっては、またぞろ戦でも引き起こすなど目に見えておる。宮廷で暇をもてあましている連中はまったく、戦が好きじゃからな」
そうオスマン氏は、ムスっとしたように眉間に皺をよせる。
「ははぁ。学院長の深謀には恐れ入ります」
「この件は私が預かる。他言は無用じゃぞ。ミスタ・コルベール」
「は、はい!かしこまりました!」
オスマン氏は重い腰をあげ、杖を握ると窓際へと向かった。遠い歴史の彼方へ、思いを馳せる。
「伝説の使い魔『ガンダールブ』か・・・・。いったい、どのような姿をしておったのだろうなぁ」
コルベールは夢見るように呟いた。
「『ガンダールヴ』は、あらゆる『武器』を使いこなし、敵と対峙したとありますから・・・」
「ふむ」
「生き物だったのかどうかはともかく、とりあえず腕と手はあったんでしょうなぁ」
「そうじゃろうな・・・」
キィ…
オスマンは窓をそっと開け、窓際から見える、どこまでも広がる美しい青空を眺めた。 外から部屋へと流れてくる爽やかな風がオスマンの白い髭を優しく揺らす。
「今日は、風の精霊の機嫌が良いようじゃのう・・・」
窓から流れ込む優しい風は、重くなっていた空気を洗い流すように部屋の中を周り、コルベールもどこか心地よさそうに、その風を受け止めた。
そしてその風は、再び外の風に乗るように走りさり、どこまでも青い空へと流れていった。
誰にも縛られることもなく、自由に大空を駆け巡る青い風は・・・人々の荒んだ心を吹き飛ばし、優しい風を送り届ける英雄のようだ
「(あのゴーレムも・・・ひょっとすると、貴方の仲間と同じ"ロボット"なのかもしれないのう)」
オスマンは、懐から古びた丸いバッジを取り出し、大切そうに持って懐かしむように見つめる。バッジを見つめるその目には、哀愁も漂っていた。
バッジはかなり古びており、所々の塗装が剥がれ、元々は綺麗な金属プレートだったようだ。その中心には、ある一つの文字が紋章のように描かれていたが、オスマンにはそれがなんなのかはわからなかった。
―――――そのバッジには、ガンマの世界の文字でこう書かれていた。
『G』と。
前の焦ってやってしまった投稿失敗もありますので、余裕をもって書いていこうと思います。