先に投稿してしまったAパートと内容がかなり違っているかもしれませんが、そこはご了承くださいませ。
"ガゴォォォオンッ!!"
ギーシュが杖を振ってワルキューレ達に指示を出したのと同時に、タワーシールドを持った大きなワルキューレは、両手の盾をお互いにぶつけてゴングのように大きな音を鳴らし、三体のワルキューレを引き連れガンマへ向かって前進する。
先頭に立つワルキューレは他のワルキューレよりも体格が大きく、重厚な鎧と全身を覆い隠せるほどの大きなタワーシールドを持っているため、重量が他のワルキューレよりも重くスピードは遅いようだ。だが周りにいる三体は先頭のワルキューレのスピードの合わせるように走っており、陣形を崩さず綺麗に並んで走っている。
「ワルキューレ四体確認。ターゲット、ロック…」
ガンマは先ほどの三体と同様にワルキューレ達をロックオンし、いつでもホーミング弾を撃てるようにする。先頭に立っている大きなワルキューレ・・・個体名として『アーマードワルキューレ』と命名しよう。 そのアーマードワルキューレを先頭にしているということは、その鎧の装甲と盾の防御力に自信があるということだ。
しかし・・・陣形は整っているが、何故三体のワルキューレはアーマードワルキューレと距離を開けてるのだろう? アーマードワルキューレのあの巨大な盾ならば、自身の体も他のワルキューレすら隠しながら走れるはずだ。 それなのに三体とも姿をさらけ出している・・・・もしかしたらこの三体はあくまでただの武装した兵士で、こちらの注意を引き付けるための、ようはおとり用なのだろうか?。本命はアーマードワルキューレのほうで、ホーミング弾を盾で防ぎつつ、一気に近づいて接近戦に持ち込む気なのかもしれない。ならば先に他のワルキューレを排除するのが先決だ。
ガンマはそう判断し、ターゲットを周りにいる三体のワルキューレへと変更する
「発射」
ドドドウゥゥンッ!
右腕の銃から三発のホーミング弾が放たれ、三体に向かって光弾が向かっていく。武器を装備している以外は最初に破壊した三体と能力は同じだ、この三体も問題なく破壊は可能だとガンマはそう予測する。
その時、アーマードワルキューレは動きを止めて盾を持った両手を大きく広げ、防御範囲を広げた。
それと同時に周りのワルキューレはアーマードワルキューレの後ろに素早く隠れ、追尾した三発の銃弾をアーマードワルキューレがタワーシールドとその身で防いだのだ。被弾した盾と鎧は当たった部分にヒビが入り、一部が抉れてはいるが攻撃を防ぐことに成功したようだ。それでもガンマの銃の破壊力が勝っていることがわかる。
「(疑問。アーマードワルキューレニ隠レルノナラ、何故最初カラ隠レナカッタ?)」
ガンマはこのワルキューレ達の行動に疑問を感じた。ワルキューレ達の装甲では一撃で破壊されるのはすでに実証済みのはずだ。それなのに・・・このワルキューレ達の行動はまるでこちらが撃つことを誘ったかのように姿をさらしていたように思える。何故そのような無駄なことを・・? とガンマはワルキューレの不可解な行動に理解ができずにいた。
そしてそのワルキューレ達を操っているギーシュは、ガンマの放った光弾を見て納得したように目を鋭くした。
「やっぱり、あの光の弾は相手を追尾することができるのか…」
そう呟き、ギーシュはさっき出した二体が破壊された時の事を思い返し、ガンマの銃に気になる点があったことに気づいた。 あの時は取り乱したせいで気づかなかったが、ガンマが銃を撃った時、銃口を向けてはいたが・・・"射線の向きを変えていなかった"。
それに三体目のワルキューレが撃たれた時のあの光弾・・・わずかにだが、軌道を変えていたように見える、つまりあのゴーレムの銃の弾は相手を追尾することができるということだ。
実弾ならば肉眼で見ることはできないが、この光弾はちゃんと認識することができる。 だからそれを確かめるためにこの四体のワルキューレの陣形を散開するような形にしたが、どうやら自分の読みは当たっていたようだ。
・・・だが、それがわかったからと言って勝機が見えたと言うわけではない。自分が作り出したあの前衛のワルキューレに倍の魔力を注ぎ込んで(美しくないのがちょっといやだけど)強固な鎧にしたものの、それでも青銅である以上あのゴーレムの強力な魔力の弾をそう何発も防げない。 ここからどこまであのゴーレムに近づくかが勝負の肝だということだ。
「ワルキューレ! そのまま進めぇー!!」
ギーシュが薔薇の杖をむけてそう叫び、三体のワルキューレを守るようにアーマードワルキューレは両手のタワーシールドでガッチリと前を防ぎ、まるで戦車のようにガンマにむかって突進していく。
「! ターゲット変更、破壊対象、アーマードワルキューレ」
ドウンッ!ドウンッ!ドウンッ!ドウンッ!
ガンマは三体のワルキューレがアーマードワルキューレに隠れてしまったことでロックオンできなくなり、こちらに突っ込んでくるアーマードワルキューレへとターゲットを変え、一発一発集中的に攻撃する。
回りこんで横から射撃することも可能だが……まだギーシュにゴーレムを作り出す以外の魔法を使う可能性がある以上下手に動くわけにもいかず、正面から迎え撃つしかない。
ガンマの武装の『15.5cm単装誘導速射砲』のホーミング機能は命中精度がとても高く、あのソニックの動きすら捉えるほどだ。 ロックオンをするための頭部に装着しているレーザースコープは多数のターゲットの姿を捉えることでロックオンすることが可能だが・・・一体に付き一発しか撃てず、その一発がロックオンした対象に当たるまでは次の弾を撃つ事ができないというデメリットがある。
ガンマの銃はロックオン機能を使わなくとも射撃することは可能だ。しかし、ガンマは今この場でそれができないのに理由があった・・・
「(バースト射撃デ一掃スルコトハ可能。シカシ…今ノ現状デハソノ行為ハ危険)」
ロックオン無しでの射撃には危険がある。たしかにあのワルキューレはソニックのように弾を避けられるわけでもないし、改造されたベータのように弾を弾くことさえできないだろう。だが、それよりも"場所"が問題なのだ。
万が一弾がターゲットから外れて、周りにいる観客の生徒達に流れ弾が当たってしまうという危険があるため、ガンマは命中率の高いホーミング弾のみを使っているのだ。今までは敵しかいない場所でしか戦ったことがないガンマには、このような周りにたくさんの人間がいる中で戦うのにやり辛さを感じていた。
それでもガンマは、今目の前にいる敵を緑のカメラアイで真っ直捉え、右腕の銃を撃ち続けた。
そしてそのガンマの攻撃を受け続けているギーシュのワルキューレのほうは、さっきまで見事に出来ていたアーマードワルキューレの二つのタワーシールドがガンマが撃つごとにその強固な盾の姿がボロボロになり、すでにあちこちにヒビが入っては崩れていき、限界が近づいていた。
「(頼む!もう少しだけ持ってくれ…ワルキューレ!)」
ギーシュは冷や汗を垂らし、焦る気持ちをグッと抑えながら、ワルキューレに祈るように前進させていき、ガンマとの距離を縮めていく。
―――バゴォオンッ!!
とうとう一つ目のタワーシールドが破壊され、アーマードワルキューレはもう一つのボロボロのタワーシールドを構えながらガンマの攻撃を受け続ける。
ピシッピシッ…
そのもう一つのタワーシールドもガンマの攻撃を受ける度にヒビが入り、壊れそうになるが、アーマードワルキューレはそれでも足を止めず、一歩また一歩と、どんどんガンマへ突き進んで行く。
「(ワルキューレ接近。後退開始)」
ガンマは怯むことなくこちらに進んでくるアーマードワルキューレに危険を感じ、後ろに下がりながら撃ちつづける。 あのアーマードアルキューレは自身を盾にして、後方の三体のワルキューレの攻撃範囲内にまで接近させてこちらに奇襲をかけるつもりなのだろう。
サイ型メカのリノタンクよりも防御力が高いアーマードワルキューレの突進力も侮れない…だが、この距離でたとえ攻撃を仕掛け、二体のワルキューレが持っている盾で攻撃を一度防げたとしても、あのワルキューレのスピードではこちらに接近する前にホーミング弾を撃つ余裕がある。 データどおりならば、このまま攻撃を続ければ殲滅は可能だ。とガンマはデータを分析して、ワルキューレを今まで破壊したエネミーと大差ないと判断していた。
――――しかし、そのデータに頼っているガンマは肝心なことを失念していた。ここは異世界であり、ガンマは自分の世界での戦いしか知らないということを。 そしてガンマは知らなかった。今相手をしている『土』系統のメイジ、ギーシュ・ド・グラモンが"軍人家系"の貴族であるということを。
―――バゴォォォンッ!!
ついに二つ目のタワーシールドが限界を向かえ、光弾を受けて粉々に砕け散り、アーマードワルキューレは無防備になってしまう。続けてガンマの攻撃を体で受けて装甲が数発の光弾と同じ大きさに抉られ、ガクリッとその場で膝を突く。
アーマードワルキューレの動きが止まったことで、ガンマは続けて攻撃をしようとしたとき、今まで沈黙していた後方にいるワルキューレ達が動き出した。
「(今だっ!!)」
アーマードワルキューレがガンマに攻撃を仕掛けれる距離にまで接近し、タワーシールドが破壊されたのと同時にギーシュが三体のワルキューレに指示を送る。
盾をもった剣と槍の二体のワルキューレがアーマードワルキューレの左右から現れ、ガンマに向かって武器を構え走りだした。
「ワルキューレ二体確認。 ターゲット、ロック…」
しかしガンマはこのワルキューレの行動は想定内のようで、慌てることなく二体に向けてロックオンした時・・・
――――シュバッ!
「っ!」
なんとアーマードワルキューレを踏み台にして、後方からジャンプしてきた二振りの手斧を持ったワルキューレが飛び出した。 ガンマはこれは想定外だったようだが、続けてその三体目にロックオンをしようとレーザースコープを向ける。
ブオンッ!!
「!?」
だが三体目のワルキューレはロックオンされる前に両手の手斧を同時にガンマにむけて投げつけ、手斧は円を描くようにガンマに向かって飛んでくる。 ガンマはターゲットを三体目のワルキューレから飛んでくる二振りの手斧にロックオンし、速く撃たなければ間に合わないと判断し二体のワルキューレと手斧に向かってホーミング弾を放った。
四発の光弾がそれぞれのターゲットを狙って飛んで行き、二本の手斧が撃ち落とされ、二体のワルキューレは片手に装備した盾で光弾を防御し、両方の盾が腕ごと砕け散った。
もしこれが人間だったならば腕を失った痛みで行動などできるはずがないのだが、この意思のないゴーレムに痛覚などないのだ、失った腕を意にも介さず二体は武器を構えて突撃してくる。 三体目の投げた手斧には驚いたが、それでもまだ次の攻撃には間に合う。
「ターゲット、ロッ…!!?」
――ガキィィィンッ!!
再びガンマがロックオンしようとしたが、なんと二体のワルキューレがスキャンしたデータ以上のスピードで急接近し、ガンマに攻撃を浴びせたのだ。攻撃によってロックオンを阻害され、ホーミング弾を撃つことが出来なくなる。
ガンマは一旦下がって体制を整えようと後方へバックステップをするが、それでもワルキューレに追いつかれてしまい剣と槍による連携攻撃で動きを封じられる。
「(理解不能。理解不能。何故スキャンシタデータ以上ノ動キヲ・・!!)」
ガンマはこのワルキューレ達の急なスピードアップに困惑した。 たしかにスキャンしたデータではあの重量でここまでの動きなど出せるはずがない、なのにどうして・・・。とガンマは気になってこのワルキューレ達の体を再スキャンし、一体目に破壊したワルキューレのステータスと比較して確認する。
「(! 装甲ガ減少シテイルタメ、ソノ分ノ重量ガ減ッテイル!?)」
なんとこのワルキューレ達の装甲が通常の数値に比べ、半分にまで薄くなっている。そのためにその分の重量が減って装甲が薄くなっている分、動きが破壊した三体よりも身軽になっているのだ。イレギュラーで現れた手斧を持ったワルキューレの斧の投擲によってロックオンのタイミングがズレたのも影響があり、だからあの距離からロックオンする前に一気に接近することが出来たということなのだろう。
だがそれよりもこの状況がまずい。ガンマはたしかにエッグマンが作り出したEシリーズの中でも評価されているが、それでも接近戦に対応されていない"射撃用ロボット"なのだ。 エッグキャリアの上で戦ったソニックやベータも接近攻撃をしてきたが、スピンアタックや体当たりなどの直線的な攻撃方法だった。
この二体のワルキューレの動きは只単に攻撃してるわけではなく、射撃ができないよう確実に自分の動きを封じさせるような連携のとれた動きだ。数で押してくるエネミーと違い、ガンマはこの動きに着いていけず、ワルキューレに翻弄されている。
――――ガゴッ!ギギンッ!ガンッ!
「戦闘データ無シ。対応不能、対応不能!」
体に攻撃を受ける度に金属同士がぶつかる音が鳴っていく。 ガンマがなんとかロックオンして銃を向けようとすると右側から剣を持ったワルキューレが銃を剣で弾いて妨害し、左側からは槍を持ったワルキューレがガンマが距離を取って離れようとすると、動きを封じるように体や腕や足を鋭い槍で突いてバランスを崩してくる。
片腕を失っているというのに、たった二体でも動きは熟練の兵士のようで卒が無い。お互いが失った片腕の分の補佐をして隙を埋めているのだ。
ガンマはこのような近接武器による接近戦闘の経験がなくて対応ができず、細い腕で何とか防ごうとするが、ワルキューレの動きのほうが早く体に斬撃をいくつも受ける。
ガンマの体は丈夫な金属で出来ているため、青銅でできた武器では傷を付けることは難しいが、それでもワルキューレに押されつつもあった。
「いいぞワルキューレ! そのまま追い詰めろ!」
ガンマへ接近戦に持ちこむことができたことにより、ギーシュは自分が有利になったことで調子をとり戻し、自分の戦法が上手くいったことで笑みを浮かべた。 前衛として作ったタワーシールドのワルキューレに、他のワルキューレの装甲を削って注ぎ込んだのもガンマに近づくためである。攻撃用の三体はただ装甲を削っただけではなく、自身の重量を減らし、身軽にして速さに特化した動きができるようにしたのだ。
そしてもう一つが、あのガンマの銃に貫通性能がないということだ、あの右腕の銃から放たれる光弾は被弾したと同時に四散し、そのまま消えたのだ。つまり、実弾と違って魔力で出来ているために破壊力はあるが物体を貫くことができない。だからあの二体のワルキューレは盾と片腕を失うだけですんだのだ。
あのゴーレムの銃はたしかに強力だ。だが、逆に言えば接近戦に弱いという事でもある。元に、あのゴーレムが前衛のワルキューレが接近したときも近づかれるのを避けようと後退してたし、接近戦ができるのであれば、最初に出した一体目のワルキューレに銃を使わずに攻撃できてたはずだ。 銃さえ使えなければ、今あそこにいるのは力のない貧弱なゴーレムであることに変わりない!
「ガ、ガンマァ!しっかりしなさいよ!!」
ルイズはガンマがワルキューレに一方的にやられ始めているのを見て思わず叫んだ。やっぱりあのゴーレムは見た目どおり格闘向けではなかったのだ、ああもワルキューレに近づかれては銃を使いようが無い。ルイズは自分の使い魔を信じると決めたものの、それでも不安と焦りを隠せずにいた。
「あーあ…油断なんてするからギーシュに一杯食わされちゃうのよ。」
ガンマが追いこまれている状況を眺めながら顎に手をやってそう呟くのは、今朝ルイズに使い魔自慢をしていたキュルケだ。大勢いるギャラリーの中でもその燃えるような赤い髪がとても目立ち、ギャラリーの一角からガンマの決闘を観戦していた。彼女もまた周りの生徒と同じようにガンマがギーシュと決闘するという話を聞いて、面白そうだからと見に来たようだ。
「動きがまったくなってないところを見ると、戦闘のほうはからっきしなのかしらねぇ、あのゴーレム。あんな強い魔法の銃を持ってるのに、あれじゃぁ宝の持ち腐れだわ・・。」
ワルキューレを一撃で破壊できるような遠距離武器を持っているというのに、それを生かせず相手に接近を許してしまったガンマに呆れたようにため息をつく。
「ねぇタバサ、貴方はどう思う?」
そして自分の隣にいる、眼鏡を掛けた青い髪の少女…タバサに声をかける。タバサは決闘には興味がなさそうに手に持っている本に集中しており、そんな彼女に声をかけてきたキュルケにタバサはチラッと視線を向けて、小さく呟く。
「・・・何が?」
「あのガンマってゴーレムのことよ。あなたから見て、ガンマはギーシュに勝てると思うかしら?」
そうキュルケが問うと、タバサは眼鏡越しから戦っているガンマへと視線を向け、少し眺めたところでまた手に持っている本に視線を落とす。
「・・・あのまま何もできないようだったら、所詮はただのゴーレム。」
でも・・・っと、タバサは小さく言葉を切り、ぺラリと次のページを捲る。
「・・・自我があるということは、人間のように考えもするし、覚えることもできるということ。」
「・・?それってどういう意味なの?タバサ、教えなさいよ~」
タバサの言葉の意味がわからず、首をかしげるようにキュルケがどういう意味なのか聞こうとするが、タバサはそれ以上は言わずに口を閉ざし、本に集中した。このタバサは本を読み始めたら一日中でも読みっぱなしなのだ。
キュルケはタバサがこれ以上は何も喋らないのだろうと諦め、自分もまた決闘の続きを観戦することにした。
「見事だゴーレムくん、君には本当に驚かされたよ。 僕をここまで本気にさせたんだからね!」
そしてギーシュは地面に杖を向け、地面に膝をついているアーマードワルキューレの隣にいるワルキューレの足元に新しい斧を作り出し、ワルキューレはそれを拾い上げる。 その斧はさっきの手斧よりも大きく、刃も鋭く、丸太を一振りで両断できそうなものだ。
「ここで一気に片をつけてあげよう!」
―――ギラリッ
そのワルキューレは陽光で煌く斧を構え、ガンマが二体のワルキューレに翻弄されてるところに向かって走り出す。 剣や槍と違ってあのような重い武器で攻撃を受ければ、いくら自分の体が青銅よりも硬い合金で出来ていても、衝撃で内部にダメージが入ってしまう。ガンマはなんとかこの状況を打破しようとするが、こうも動きを封じられては行動しようがない。
「(現状デノ回避ハ不可。ホーミング弾発射不可)」
ロックオン自体はできるが、こうも狙いを定められなければ外れる可能性がある限り撃ちようがない。まずこの二体をどうにかしなければならないが、接近戦闘の機能を持たない自分ではどうしようもない。仮に左腕で殴ったとしても、その衝撃で左腕が故障でもして使えなくなったらこの世界での生活に支障が出る。パーツの替えや修理などができない今の現状ではそのリスクは避けなければならない。
だがこのままでは一方的にやられるだけだ、一体どうすれば・・・!
―――ビュッ!
「ッ!!」
左側のワルキューレが槍をガンマの緑のカメラアイに向けて鋭く突きを放つ。
ガシィッ!!
カメラアイに槍が刺さる寸でのところで、ガンマはとっさに左手で槍を掴む事が出来た。何度も攻撃を受けたことである程度のワルキューレの動きを学習して、攻撃パターンを読んで槍を防いだのだ
―――――その時、槍を掴んだガンマの左手の、"使い魔のルーン"が輝きだした。
ピピピピッ
《―――NEW WEAPON:青銅の槍―――》
「!・・コレハ?!」
ガンマは突然自分の電子頭脳に今掴んでいる青銅の槍の情報が流れ込んできたことに動揺した。まるでコンピューターに接続して情報をダウンロードしたかのように、この青銅の槍の使い方を瞬時に理解してしまったのだ。
それだけではない、ググググッとワルキューレが槍に力を入れるが、まったくビクともしていない。まるで巨大な岩に槍を突きたてようとしてるかのように、ガンマの槍を掴んでいる左手から動かないのだ。
「(未知ノエネルギー上昇ニヨルパワーアップヲ確認、原因ハ不明……何ナンダコレハ?)」
突然の槍の情報のダウンロードだけでなく、なんとガンマ自身の体にも変化が起こっていた。接近戦闘型でないはずの自分のパワーが急激に上がっている・・・一体何が起こっている!?
「よく掴むことができたね!でもそれはほんの一時凌ぎにしかすぎないぞ!!」
ギーシュはガンマの変化には気づいておらず、続けてワルキューレに指示を出し攻撃を続行させ剣を持ったワルキューレがガンマに向かって剣を振り下ろす。
「ッ!!」
――――パキィーン!
一瞬のことだった。
ガンマが剣を持ったワルキューレが攻撃を仕掛けてきたのを認識した途端、自然に体が動いた。 右腕の銃でワルキューレの剣を叩き折り、左手の掴んだ槍をそのままそのワルキューレの顔面を貫いたのだ。
そして自分の槍に引っ張られたワルキューレはそのままガンマに引き寄せられ、ガンマの右腕の銃を腹部に押し付けられる
―――ドウゥゥンッ!
そのままガンマはワルキューレの腹部に銃をめり込ませ、体を吹き飛ばした。
ガンマは次に斧を持ってこちらに向かってくる三体目のワルキューレを視認し、ワルキューレの顔面に突き刺した槍を引き抜いてそのまま上半身を一回転させて、勢いよく槍を三体目のワルキューレをなぎ払うように振りぬいた。
――――メギャァッ!!
三体目のワルキューレはバットのように振りぬかれた槍を腰に食らい、鈍い音を立てて体がくの字に折れ曲がって吹き飛ぶ。
三体の武装したワルキューレが瞬く間に倒されたことで、ギーシュは再び声にならないうめきをあげ、まわりの観客の生徒は驚愕の声をあげる。今までワルキューレに一方的にやられていたガンマがまさかのどんでん返しを行ったのだ、しかもあの槍を振るった速さも、ゴーレムとは思えない速さで、あんな細い腕で青銅のゴーレムを叩き折るなどありえないのだ。
「・・・理解不能・・・理解不能」
ガンマ自身もこのパワーアップに驚いており、自分が倒した三体のワルキューレを見下ろして、突然の自分の変化と戦闘能力の上昇に困惑と驚愕が入り混じり、電子頭脳がオーバーヒートしそうになる。
自分に何が起こったのだ? 自分の中の未知のエネルギーが突然活発化して、槍を掴んだだけで接近戦闘型でないはずの自分のパワーや性能が大きく上回り、それにまるで"知っている"かのように槍を使いこなし、あの青銅のゴーレムをまるで粘土のように叩き潰してしまった・・・・一体何が・・?
そう疑問に思い、ふと槍を持っている自分の左手の使い魔のルーンを見ると、光り輝いていた。
「(光ッテイル・・・?)」
試しに槍を捨ててみるとその光が消え、次に三体目のワルキューレが落とした斧を拾い上げると、再びルーンが光りだし今度は青銅の斧の情報がダウンロードされる。 ・・・まさか、このルーンが戦闘能力を飛躍的にアップさせたのか?どうやら武器を持つことで発動するようだが、使い魔のルーンにそんな効果があるだなんてルイズは言っていなかった・・・これも使い魔の能力の一つなのだろうか?
・・・。疑問は尽きないが、今はそれについては置いておくことにしよう。まずは・・・・
ジャキンッ
「最終ターゲット確認。目標、ギーシュ・ド・グラモン」
斧を構え、ギーシュに向かって聞こえるようにそう宣言し、力強く駆け出した。
「(体ガ軽イ・・・コレモルーンノ効果?)」
825kgもある自身の重量を感じさせないほどに、その走る足が通常のスピードよりも軽く速くなっていた。
「ワワ、ワルキューレェ!!」
ギーシュは最後に残った傷ついたアーマードワルキューレを自分の盾に置いた。そして迫ってくるガンマに向かってアーマードワルキューレが最後の抵抗のように拳を振り下ろすが、ガンマにはワルキューレの動きがスロー再生の映像のように遅く見え、難なくそれを避けると青銅の斧を大きく振り上げ、アーマードワルキューレの脳天目掛けて一気に振り下ろす
―――――ズバァンッ!!
次の瞬間、あの強固な鎧に見に纏ったワルキューレが、ギーシュの目の前で真っ二つに切り裂かれる。
「ひぃっ!」
ギーシュは小さく悲鳴を上げ、尻餅をついた。 ガンマはアーマードワルキューレが動かなくなったのを確認し、青銅の斧を捨てて、ギーシュの元ヘとゆっくりとした足取りで歩く。
ガシャッガシャッガシャッ・・・
無機質な緑のカメラアイでじっとギーシュを見つめ、ジャコンッ とガンマは右腕の銃のレバーを引きながら歩いてくる姿を見て、ギーシュはこのガンマの姿を見て恐ろしい存在に見えたようにガタガタと震えだした。
そして目の前まで近づいたところで、ガンマが腕を伸ばしてきたことでギーシュは「うわぁあああ!!」と悲鳴を上げながら頭を抱えてギュッと目を瞑る。
「ぅぅ・・・う・・?」
いつまでたっても何も起きず、恐る恐る目を開けると・・・・ガンマの左手に、自分が持っていた薔薇の杖が握られていた。
「ミスタ・ギーシュ、降参シマスカ?」
ガンマのその無機質な声に、ギーシュは呆気にとられたような顔をしながら首を縦に振った
「こ・・降参だ」
ガンマはギーシュが降参したことで勝利条件が達成されたことで決闘のミッションが完了したと判断する。
「ミッション、完了」
―――ドウゥーンッ!
右腕を高く上げて空に向かって勝利の咆哮のように空砲を広場に響かせた。 広場にいた生徒達からわっと歓声があがり、「ギーシュが負けたぞ!」とか「あのゴーレムやるじゃねぇか!」などと、ガンマの戦いぶりを称えていた。中には土系統の生徒がこちらを見て「あんなゴーレム欲しい」なんて言っているが、気にしないでおこう。
未だに尻餅をついているギーシュに視線を向け、手を伸ばす
「ミスタ・ギーシュ、立テマスカ?」
「あ、ああ・・・ありがとう」
ギーシュは差し出されたガンマの三本指の左手を握り、立ち上がると、薔薇の杖を返してくれた。ガンマのその行為を見て、自分の主人を侮辱され、しかもあんなにワルキューレに殴られたというのに、なんでこんなに優しくしてくれるんだろうかとギーシュは不思議に思っていた。
「ガンマァ!!」
後ろのほうからガンマの主人であるルイズが駆け寄ってきた。
「マスター・ルイズ。決闘ニ勝利シマシタ」
一仕事終えたように主人のルイズにガンマは勝利の報告をする
「勝利しました、じゃないわよ!!なんであんたその右腕が銃だってことを言わなかったのよ!そんな危なっかしいものを所持してるのなら最初に言うべきでしょ!?」
勝利を喜んでくれたかと思ったら、すごい剣幕で怒り出した。これにはガンマもタジタジで、さっきまでの戦いぶりが嘘かのようだ
「デ・・デモ、コレガ銃ト理解シテイルモノダト思ッテ・・・」
「そんなメイスみたいな形のものが銃だなんてわかるわけないでしょ!!あんたは一体どこまで抜けてるのよ!!?・・・それに勝手に決闘はするし、こんなに傷だらけになって心配させるし・・・」
ガンマの傷ついた体に触れ、ルイズの目に涙が滲んでいた
「主人の身にもなりなさいよ、この馬鹿使い魔・・・」
「・・・・スマナイ、ルイズ・・心配ヲカケテ」
そっと頭を優しく撫で、ガンマは静かに謝罪する。
「だ、だから恥ずかしいから止めなさいって!もう!」
ルイズは恥ずかしそうにガンマの手を払いのけ、目をごしごしとこすってぷいっとそっぽ向くが、ガンマが無事でいてくれたことが何より嬉しかったようだ。
「・・ルイズ、ちょっといいかい?」
そこへギーシュが割って入り、ルイズはギーシュを睨むようにじっと見る。
「・・・何よ」
「このギーシュ・ド・グラモン、今まで君をゼロと侮辱したことと、そして君の使い魔を役立たずと馬鹿にしたことを謝罪する。どうか許して欲しい」
ギーシュはいつものキザッたらしいポーズもとらず、真面目に頭を下げた。それを見て周りの生徒は驚き、ルイズもルイズで呆気にとられたようにきょとんとした顔をするが・・・しばらくして小さくため息を吐き、ポリポリと頬を掻く
「・・・どういう風の吹き回しか知らないけど、私の使い魔が勝ったから気分もいいし、その姿勢に免じて許してあげるわ。」
「あ、ありがとう…!このギーシュ・ド・グラモン、心から感謝する!」
ギーシュはパァっと明るくなり、再びキザったらしいポーズをとって背景に薔薇のイメージ映像が映るような幻が見える。本当にこのギーシュは反省をしているのだろうか・・?
「ガンマもそれでいいわよね?」
「ボクハ別ニ気ニシテイナイ、デモルイズガ許スナラ、ボクモ許ス。ダカラ、仲直リ」
スッとガンマは左手を差し出す
「感謝するよゴーレムくん・・本当にすまなかった」
ギーシュも答えるように差し出してギュッと手を握って握手する。ガンマの金属で出来た左手は大きく、ギーシュの手を包み込んでしまうかのように優しく握っていた。
「デモ、ミスタ・ギーシュ。貴方ガ二股ヲシテ傷ツケタミス・モンモランシート、ミス・ケティニモ謝ル事ヲオ忘レナク」
「う゛っ・・あ、ああもちろんだともさ!」
ガンマのその一言がグサリっと刺さり、ギーシュは引きつった顔でなんとか答えた。ガンマのド直球な言葉はかなり心を抉ってくるようだ。ガンマ本人にその自覚がないのが性質が悪い。
ルイズはガンマがいつもどおりのようすで、呆れながらも安心していた。
「ルイズ・・・このゴーレムくんは何者なんだ?この僕のワルキューレを倒すだなんて・・・」
「授業の時言ってたでしょ?こいつは遠い国の"ロボット"て呼ばれる自我を持ったゴーレムだって」
「そうだけど、それでもホントに彼はただのゴーレムなのかい? 僕が作ったあの前衛のワルキューレだって一撃だったんだぞ?」
「ふんだ。ただあんたが弱かっただけなんじゃないの?」
そう言って、ルイズは隣にいるガンマに視線を向ける・・。 ギーシュの言うとおり、このガンマというゴーレムは何者なんだろうか?金属の体で、馬より早く走り、強力な魔法の銃を持ち、そしてあの細い腕からは想像できないような速さで武器を振るう姿・・・戦闘用と言っていたから、きっとその国の戦闘用のゴーレムなのかもしれないいが、それでも自分の知っているゴーレムとはかけ離れすぎている。
それに、ガンマの過去に何があったのかもわからない。カガクシャという男に作られ、兄弟のゴーレムを失い、自我を得て、海の上で壊れていた・・・ガンマの身に何が起こったのか気になるが、ガンマにとってあまり触れられたくない記憶なのかもしれない・・。それにまだ一日しかたってないのに、ガンマの全てを知るにはまだまだ彼のことを知らなすぎるのだ。
だからルイズは、確認するように、ガンマに問いかけた。
「ねぇガンマ、あんた……一体何者なの?」
―――――何者なのか・・・・・・たしかに、今の自分は何者なんだろう? エッグマンによって戦闘用ロボットとして生み出され、忠実に命令に従い、エミーと小鳥に出会って自我に目覚め、そして任務に失敗した兄弟を破棄しベータを改造したエッグマンの元から離れ、兄弟をエッグマンの呪縛から解放するために戦い・・・最後に同じ小鳥の兄弟が入ったベータと共に相打って壊れてしまった自分。 そして、今こうやってルイズに召喚されて使い魔として存在する自分。・・・一体自分は何者なんだ?―――――
――――――だが、これだけは言える。今の自分は、もうエッグマンのロボットのE-102γ(ガンマ)ではない。 エミーと再び、もう一度・・・友達として会えることを望むE-102γ(ガンマ)であり、そして――――――
「・・・・ボクハ、E-102γ(ガンマ)。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールニ召喚サレ、君ヲ守ル為ニ呼バレタ――――――
――――――使イ魔ノガンマダ」