今回もちょっと長めです。 もうすぐ戦闘回だけど上手く書けるかなぁ・・
トリステイン魔法学院の本塔の最上階には、学院長室がある。
その学院長室の中には重厚なつくりのセコイアのテーブルがあり、そのテーブルに肘をついて座っているのはトリステイン魔法学院の学院長を務めるオスマン氏だ。彼は白い口髭と髪を揺らし、ぼんやりと鼻毛を抜いては退屈をもてあましていた。 そこでおもむろに「うむ」と呟いて引き出しを引き、中から水キセルを取り出した。
その水キセルを吸おうとしたところ…部屋の隅に置かれた机に座って書き物をしている秘書のミス・ロングビルが羽ペンを振ったことで水キセルが宙を飛び、ミス・ロングビルの手元までやってきた。つまらなそうにオスマン氏は呟く。
「年寄りの楽しみを取り上げて楽しいかね? ミス・・・」
「オールド・オスマン。あなたの健康を管理するのも、わたくしの仕事の一つなのですわ」
オスマン氏は椅子から立ち上がると、理知的な凛々しい顔をしながらミス・ロングビルに近づく。そして椅子に座ったロングビルの後ろに立つと、重々しく目を瞑る。
「こう平和な日々が続くとな、時間のすごし方というものが何より重要な問題になってくるのじゃよ」
オスマン氏は外見からしてかなりの高齢の老人であることはたしかだが、彼の顔に刻まれた皺が、彼が過ごしてきた歴史を物語っている。100歳とも、300歳とも言われているが、本当の年齢が幾つなのかは誰も知っているものはおらず、本人も知らないのかもしれない。
「・・・オールド・オスマン」
「なんじゃね?ミス・・・」
「暇だからといって、わたくしのお尻を撫でるのはやめてください」
ミス・ロングビルは羊皮紙の上を走らせる羽ペンから目を離さず言った。 普通の女性ならば顔を真っ赤にして抗議してるはずなのだが、学院長の秘書なだけあって冷静だ。
そしてそんなオスマン氏は口を半開きにすると、誤魔化すかのようによちよちと歩き始めた。
「都合が悪くなるとボケた振りをするのもやめてください」
どこまでも冷静な声で、ミス・ロングビルはオスマン氏に言った。ボケた振りを止めたのかオスマン氏はため息をつく。深く、苦汁が刻まれたため息であった。
「真実はどこにあるんじゃろうか? 考えたことはあるかね? ミス・・・」
「少なくとも、わたくしのスカートの中にはありませんので、机の下に貴方のネズミを忍ばせるのはやめてください」
「はぁ・・・・モートソグニル」
オスマン氏は悲しそうな顔で顔を伏せ、ネズミの名前を呟く。
ミス・ロングビルの机の下から小さなハツカネズミが現れ、オスマン氏の足を上って肩にちょこんと乗っかって、可愛らしく首をかしげる。 ポケットからナッツを取り出し、ネズミの顔の先で振ると、そのネズミは嬉しそうにちゅうちゅうと喜んでいる。
「気を許せる友達はお前だけじゃな、モートソグニル」
そういってナッツをあげると、ネズミはナッツを齧り始めた。 齧り終えると再びちゅうちゅうと鳴いた。
「そうかそうか、もっと欲しいか。よろしい。くれてやろう。だが、その前に報告するんじゃモートソグニル」
「ちゅうちゅう」
「そうか、白か。うむ…しかし、ミス・ロングビルには色気のある黒に限るのう。そう思わんかね。可愛いモートソグニルや」
コレにはさすがに冷静なミス・ロングビルの眉が動いた。
「オールド・オスマン」
「なんじゃね?」
「今度やったら、王室に報告します」
「カーッ! 王室が怖くて魔法学院学院長が務まるかーッ!!」
よぼよぼの年寄りとは思えない迫力でオスマン氏は目を剥いて怒鳴った。
「下着を覗かれたぐらいでカッカしなさんな! そんな風だから婚期を逃すのじゃ。はぁ~~~~~、若返るのう~~~~、ミス・・・」
ここまでどうどうと開き直るのは返って関心してしまうほどだ。オールド・オスマンは再びミス・ロングビルのお尻を堂々と撫で回し始めた。
コトリ…
そしてミス・ロングビルは羽ペンを机に置き、静かに立ち上がって軽く息を吸うと・・・
「ふっ!」
ドゴォッ!!
「おぐっふぉお!!?」
ドガシャァァアッ!!っと、ミス・ロングビルの見事なソバットが決まり、オスマン氏は机の上の書類をぶちまけながら壁に叩きつけられドサリッと床に倒れる。 どこぞの怪盗コウモリを彷彿させるほどの綺麗な蹴りだ。
「ぉ“ぉ“お“お“~~っ……ミ・・ミス・ロングビル。お主…いつの間に、そんな体術を身につけたんじゃ・・・?」
ピクピクとオスマンは蹲りながら震えた声でロングビルに問いかける。 かなり丈夫のようだ。
「いやですわ、オールド・オスマン。 ただ魔法が使えるだけでは立派なメイジとは言えないと、あなたも仰ったではありませんか」
ミス・ロングビルは乱れた服を直しながら眼鏡をくいっと持ち上げて冷静に言う。
「た、たしかにそんなことを言ったようなことがあったと思うが・・・年寄りに対して、暴力を振るうのはどうかと思うのう・・・。そんな事だから余計に婚期を逃して・・・」
―――ピキッ
はっ!とオスマン氏はうっかり出てしまった一言に気づいてばっと口を押さえるが、時既に遅し。ミス・ロングビルからいいようがないほどのオーラがあふれ出し、ゆっくりとした足取りでオスマンに近づいていく。
「どうやら…もっとわたくしの蹴り技を…その身をもって感応したいようですわね」
「待って、今のは完全にワシの失言じゃった。このとおり謝るから許して、お願い!」
ダラダラと汗を流しながら手を前に出して許しを請う。ミス・ロングビルのぐんばつの脚に蹴られるのは人によってはご褒美かもしれないが、今のオスマンから見たら断頭台の上に立っている気分のようだ。
そしてロングビルによる蹴りの嵐が起ころうとしたところへ・・・
「オールド・オスマン!!」
ガタン!っとドアが勢いよくあけられ、中へ飛び込んできたのは教師のコルベールだ
「なんじゃね?そんなに慌ておって…」
ミス・ロングビルは何事もなかったかのように机に座っており、散らばった書類もいつの間にか元の位置に戻り、オスマン氏は腕を後ろに組んで重々しく闖入者を迎え入れた。まさに早業である。
オスマン氏は内心ホッとしていたがロングビルのほうは「チッ」と小さく舌打ちしていたのは言うまでもない。
「たた、大変です!」
「大変なことなど、あるものか。全ては小事じゃ」
「ここ、これを見てください!」
コルベールは、オスマン氏に古めかしい古書を手渡した。
コルベールは昨日の『春の使い魔召還』の際に、ルイズが召喚したゴーレムのガンマが気にかかっていたようで、そのゴーレムの構造と珍しさもあるが・・・正確にいうと、そのゴーレムの左手に現れたルーンのことが気になってしかたがなく、彼は先日の夜から図書館にこもりっきりで、先ほどまでそのルーンについての本を探していたのである。
そして彼の努力が実り、一冊の本を見つけたのである。 その本は始祖ブリミルが使用した使い魔たちが記述された古書であった。 彼はその本に記されたある一節に目を奪われ、古書の一節とガンマの左手に現れたルーンのスケッチを見比べると、何かに気づいたのか慌てたようにその本を抱えてここ学院長室へ駆け込んできたのである。
「これは『始祖ブリミル』の使い魔たち』ではないか。まーたこのような古臭い文献など漁りおって。そんな暇があるのなら、たるんだ貴族たちから学費を徴収するうまい手をもっと考えるんじゃよ。ミスタ・・・・・・ハゲールじゃったっけ?」
オスマン氏はチラッと彼の頭を見て首をかしげた。
「コルベールです!お忘れですか!それにそんな名前じゃありません!」
「そうそう、そんな名前だったな。君はどうも早口でいかんよ、その輝きそうな頭は印象的には覚えやすいはずなんじゃがのう…。で、コルベール君、この書物がどうかしたのかね?」
「頭のことはほっといてください! これも見てください!」
コルベールはガンマの手に現れたルーンのスケッチを手渡した。
それを見た瞬間、オスマン氏の表情が変わった。 先ほどまでのエロじじいとはうってかわって、目を光らせ厳しい色になる。
「ミス・ロングビル。席を外しなさい」
ミス・ロングビルは立ち上がって一礼したあと、その部屋を出て行く。 彼女の退室を見届け、オスマン氏は視線をコルベールに移し、口を開いた。
「詳しく説明するんじゃ。ミスタ・コルベール」
――――――――――――――
「マスター。教室ノ壊レタ机、窓ガラスノ後片付ケ及ビ、修理ハ完了。 後ハコノ集メタ瓦礫ヲ撤去スルダケ」
「そう・・・」
ガンマはそう報告するが、ルイズは気力なく返事をし、椅子に座ったまま俯いていた
爆発騒ぎを起こしたあと、罰としてルイズはめちゃくちゃにした教室の片づけを命じられ、しかも魔法を使って修理することを禁じられた。 といってもルイズは魔法が使えないからほとんど意味はなかったが、それでも片付けに時間が掛かり、片付けが終わったのは昼休み近くだった。
ほとんどの片付けはガンマがやってくれていた。彼はゴーレムであるためか文句一つ言わずに散らかった教室を片付けたり、新しい机やガラスを運んできてくれた。ただ、彼は左腕しか使えないためやっぱり作業がなかなか上手くいかず、余計に時間が掛かってしまいそうだったためルイズは彼の手伝いをすることにした。(それでも窓ガラスを支えたり机を拭いたりする程度だが)
それでなんとか片付けが終わり、ガンマは戦闘以外の作業がこんなに大変だったとはと思い、新しい経験を得てある種の達成感があった。
・・・だが、片付けをしている時から主人のルイズは元気がなく、終わった今もほとんど喋らず暗い表情のままだ。 ガンマはどう対応すればいいのか迷っていた。
「マスター、オ昼ノ食事ノ時間ガ近ヅイテル。 ソロソロ動カナイト・・」
「ほっといてよ・・・」
ルイズは小さく震えた声で呟く。
「マスター」
「…うるさいわねっ!ほっといてって言ってるでしょっ!!!」
「・・・スミマセン」
ガンマはそれでもなんとか声を掛けるが、ルイズは声を荒げながらガンマに怒鳴り散らす。 ガンマはいつもどおり無機質な声で謝罪するしかなかった
一人と一体の間に沈黙が流れる・・・
「・・・・あんた、もう気づいたでしょ? 私が何で『ゼロ』って呼ばれてるのか・・・私が魔法を使えないってことが、さっきの授業を見てわかったでしょう…?」
最初に口を開いたのはルイズだった。 先ほどの爆発騒ぎで、自分がなんで周りから『ゼロのルイズ』と呼ばれているのか、このもの覚えのいい使い魔のガンマならすぐに察しがついただろう。それなのにそのことには全く触れようとはせず、自分から進んで教室の片づけをしているところを見ていると、主人に気を使ってるようで逆にそれがルイズにとって辛く感じた。
だがガンマは返事をすることなく、ただ黙ってルイズを緑のカメラアイで見つめたままだ。
「ガッカリしたでしょ? あんなに偉そうにご主人様ぶっといたやつが、魔法も使えず、爆発を起こすだけの落ちこぼれだったんだから。」
「・・・・・」
「それに比べて・・・あんたはすごいわよね。 自我のない只のゴーレムだったやつが、自分で自我に目覚めて、誰に命令されたわけでもなく…自分で物を考え、自分のその目で見て、自分の知りたいことを知って、自分の意思で行動できるようになったんだからね。・・・・・貴族なのに魔法が使えない私なんかよりも、よっぽど立派だわ」
顔を俯かせたままそう呟きながら、ルイズは服の裾をぎゅっと握りしめる
「ソンナ事ハナイ、ボクハルイズヲ立派ナ主人ダト思ッテル」
その言葉に、ルイズは顔を上げて目に涙を滲ませ、怒りの表情でキッとガンマを睨んだ。
「…それって、慰めてるつもりなの? 言っとくけどね・・・ゴーレムのあんたにはわからないだろうけど、優しい言葉は返って人を傷つけるだけなのよ!。人間じゃないあんたなんかに・・・人の気持ちなんかわかるのっ!!?」
「・・・・・」
ルイズは思わず叫んだ、この優しいゴーレムのガンマは本当に主人のことを心配しているのをルイズはわかっているはずなのだ。だが、それでも頭で分かっていても声を荒げて叫ばずにはいられなかった。
「私は今までだってね・・・"いつか魔法が使えるようになる""努力すれば必ず実る"って、そんな確証のない言葉を家庭教師の先生や学院の教師にだって言われたわ。小さい頃から魔法が使えないことで、お父様やお母様、お姉さまたちに魔法が使える様厳しく教育されたり、自分でも誰よりも魔法についての勉強をしたり、色んな方法を試したりしたわ・・・・でも・・・」
再びルイズは声のトーンを落として俯く
「たまたまサモン・サーヴァントに成功したからって、まともに魔法が使えるようになったわけじゃなかったのよ。 結局・・・私はただの、魔法の成功率ゼロ・・無能な『ゼロのルイズ』なんだわ・・・」
ルイズは再び沈黙し、ポロポロと涙を流しながら何も喋らなくなった。 ガンマはその主人をしばらく見つめた後、何を思ったのか主人の傍まで近づく
「・・・・なによ、もういいでしょ? いい加減ほっといて・・」
ポフッ
「え?」
ナデナデナデ……
ルイズの頭の柔らかいピンクの髪の上に、ガンマは自分の手をそっと乗せ、まるで子供でもあやすかのように優しく撫で始める。
「ちょっ・・ちょっと!何よいきなり! やめなさいよ!」
「ヨシヨシ・・・」
ルイズは恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にさせてなんとか振り払おうとするが、ガンマのほうが力が強いようでただその手を掴んで止めようとするしかなかった。
「・・マダ、落チ着カナイ?」
「こ、今度はなによ・・・ひゃぁっ!?」
ガンマは撫でるのを止め、ルイズを両手でヒョイッと抱っこするように持ち上げると、まるで高い高いするかのようにルイズを上下にゆっくりうごかす
「イイ子イイ子・・・」
「~~~~~っ!! こ、ここここの・・・この馬鹿使い魔ぁーーーーっ!!!さっさと降ろしなさーーい!!!」
まるで赤ん坊を泣き止ますようなやり方に、とうとうルイズは怒ってガンマの頭をポカポカと叩いたり蹴ったりし、降ろすように命令する。先ほどまで泣いていた少女とは思えないほどの勢いだ。
「ヤット、泣キ止ンダ」
「降ろし・・って、え・・・?」
ガンマはルイズが泣き止んだのを確認して、そっと降ろす。
ガンマはステーションスクエアで、チャオガーデンという人工生命体チャオを育成する施設に行ったことがあり、そこで何度かチャオの世話をしたことがあった。 そのチャオは小さく、非力で赤ん坊のような生命体だった。訪れたその時、たくさんいるチャオたちの中で一匹がどうしたのかめそめそと泣きじゃくっていた。
泣いている理由も、どうやって対応すればいいのかもわからなかったガンマは、ステーションスクエアの電車乗り場である人間の親子をみかけ、その時子供が泣いていて親がその子供を優しく撫でていたのを思い出し、それと同じようにチャオを優しく撫でたら・・・先ほどまで泣いていたチャオが撫でてるガンマを不思議そうに見て、落ち着いたのか泣き止んでニッコリと笑った。 その後はそのチャオにとても懐かれ、抱っこしてと要求したり、ガンマの絵を描いて嬉しそうに見せてきたりと、ガンマにとって不思議な体験だった。
そんな経験があったガンマは、泣いているルイズを見て・・・あのチャオと同じようにすれば泣き止んでくれると思い、同じように撫でたり抱っこしたりしたが、ルイズはチャオとは違って何故か恥ずかしがって怒ってるが、それでも泣き止んでくれたことがガンマは安心した。
「マスター、落チ着イタ?」
「え、ええ・・・まぁ・・」
ルイズはこのガンマの唐突な行動にただキョトンとするしかできず、涙の跡はあったがもう悲しそうな表情ではなくなった。
「・・・ルイズ、君ノ言ウトオリ ボクハ人間デハナイ、自我ガアッテモロボットデアルコトニ変ワリナイシ、魔法ノ事モワカラナイ。デモ、サッキノボクノ言葉ハ慰メデハナク、本当ノ事ヲ言ッタダケ。」
「・・・何が本当なのよ・・・現に、錬金で爆発を起こしちゃったじゃない」
「確カニ爆発シタ。ソレハ事実。デモ、召喚ハ成功シテルコトハ、魔法ガ使エタコトニ変ワリナイノデハ?」
「それは・・・・たしかに、そうだけど・・・」
ルイズは口ごもる、たしかにガンマを召還してることで魔法が使えたことはたしかだ。だが、それでも他の魔法が使えないんじゃ意味がないのではと納得が出来ない様子だ。
「ソレニ、ルイズ。ボクガ召喚サレタ時、ソノ時ノボクハドンナ状態ダッタ?」
「え?・・その時のあんたは・・まるで抜け殻みたいな感じだったけど・・・」
昨日の召喚の時の事をルイズは思い出していた。 ただのゴーレムやガーゴイルならただの魔力切れ程度にしか感じなかっただろうが、今思えばあの時倒れていたガンマは・・・まるで"さっきまで動いてた"かのような感じがした。
「ウン、ボクハ一度・・・アル理由デ壊レテシマイ、モウ二度ト動クコトナク海底へ沈ムハズダッタ。 ダケド、君ガボクヲ召喚シテクレタ事デ、今コウヤッテ動ク事ガ出来ル。…ボクハ、トテモ感謝シテイル」
ルイズは大きく目を見開いた、このガンマはなんと召喚される前は壊れていたのだ。 しかも海底へ沈むと言う事は、恐らくは海の上にいたということだ。一体そこで何があったのだろう?
「でも・・・だからって、それと私の魔法と何が関係してるのよ」
「ルイズ、君達ガ言ッテタ『ゴーレム』ト『ガーゴイル』ハ、ドウヤッテ動イテル?」
「そんなの簡単なことよ。ゴーレムもガーゴイルも、その術者の魔力を供給することで動いて・・・・・・あ」
「ソウ、ボクハソレト同ジヨウニ、君ノ魔力デ動イテイル。 サッキ君ガ起コシタ爆発ノエネルギーガ、ボクノ中ノモノト同質デアルコトガ分カッタ。 ツマリ……君ハ魔法ノ成功率0(ゼロ)ノルイズデハナイ」
「・・・・!!」
ガンマはスッと左手に刻まれた使い魔のルーンを見せ、自分がルイズの魔法が成功したことの証なのだと訴えるように、緑色のカメラアイでルイズをじっと見つめた。
ルイズは両手で顔を覆う、ガンマのその言葉が、今まで自分に友達や味方などいないと思っていた自分の荒んだ心に深く染みこむように感じた。自分が無能なメイジの『ゼロ』なんかじゃないという。慰めなどではなく、本当に自分のことを思って、ずっと欲していた言葉をこの使い魔は言ってくれたのだ。
「ソレニ、例エ君ガ本当ニ魔法ガ使エナイトシテモ、ルイズハボクニトッテマスターデアリ、ボクハ君ノ使イ魔ダ。ソレハ変ワル事ハナイ」
ルイズはゴシゴシと涙を拭き、いつもの彼女らしい笑顔を見せる
「・・・・・ありがとう、ガンマ。 さっきは酷いこと言ってゴメンね。 やっぱりあんた、本当に立派な私の自慢の使い魔よ」
「ソウ思ッテクレルダケデ嬉シイ。 ソレニ、君ハ泣イテイルヨリ元気ニ笑ッテル方ガイイト思ウ」
「ゴーレムのくせに口が上手いわね、あんたは。 ・・・でもありがとね。」
ちょっと照れくさそうにルイズは頬をかく。ガンマはルイズのこの仕草をする意味を理解してなかったが、彼女が元気になってくれてよかったと思った。
「(・・・エミー。 ボクニモ、キミノヨウニ人ヲ助ケレルカナ・・?)」
今は会うことが出来ない友達を思うように、ガンマはエミーの笑顔を思い浮かべていた。
そうして立ち直ったルイズは残りの瓦礫の撤去をさっさと終わらせようとした時、ガンマはふと思ったことを言った。
「・・デモ、ルイズノ爆発ノ魔法ハ失敗デハナイト思ウ」
「え、どういうこと? 何か別の魔法の効果があったりするってこと?」
ルイズは自分の失敗魔法の爆発に何か別の使い道があるのではないかと期待をしてガンマに聞く
「アノ威力ナラ、多クノ敵ヲ倒ス事ガ出来ル」
「・・・・・・は?」
「アレホドノ広範囲ノ爆発ナラバ、密集シタ敵ヲ一網打尽デ破壊スルコトガデキ、サラニ威力ガ高ケレバ、巨大ナ対象ニ対シテモ効果的ナ威力ガアルタメ、戦闘ニハ打ッテツケデアルト判断。 ダカラルイズハ破壊ニ関シテノ才能ガアルト思ワレ・・・・ルイズ?」
「・・・・・・・」
ガンマはなんとルイズのコンプレックスである失敗魔法の爆発を攻撃用としての威力があると評価したつもりだったが、ルイズはそれを聞いてぷるぷると拳を震わしていた
「・・・・・アノ・・・何カ、悪イ事言ッタ?」
恐る恐る聞いたガンマだが、ルイズはビシッとガンマに指差す
「あんた、罰としてこの瓦礫の山一人で片付けなさい」
「・・・エ?」
「返事は!!?」
「アイアイマムッ!」
ルイズの気迫に押され、ガンマは敬礼するかのようにいい返事で返す。何で怒らせてしまったのか結局ガンマにはわからなかった・・。
「(ヤッパリコノマスター怖イ)」
そしてさらに主人のルイズを怒らせたら怖いと認識することになった。
ルージュの蹴りを食らってみたいのは僕だけじゃないはず