アルヴィーズの食堂での朝食を終え、ルイズはガンマを連れて教室に向かうことにした。
先ほどまでガンマの異文化料理の話に夢中になり、内容が自分が知っている料理とはだいぶ調理法が違っていたり、聞いたことが無い材料や調味料などとても新鮮で聞いてて飽きなかった、そのため授業の時間が近くなっているのに気づきガンマの話を切り上げ食堂から少し急ぎめに廊下を歩いている
「あんたの国の料理ってこことはだいぶ違うのね。ひょっとして他にもあったりするの?」
「ボクガ知ッテイルノハ、ホンノゴク一部。モット調ベレバ沢山ノ食ベ物ノ情報ガ取得可能ダガ、現在ココデハソレハ不可能」
「あれでごく一部なの・・・あんたのところの国って意外とすごいのね・・」
平民だけの国と思っていたが、ほんの一部だけでもここまで料理の文化が進んだ国があるだなんて驚きだ。もしガンマの住んでた国に観光にいけるなら自分の見たことのない料理を食べて回るというのも楽しそうだとルイズは思った。
「ソレヨリ、コレカラルイズガ受ケル授業ハ、魔法ノ授業?」
「そうよ、私たちが受けてるのは四大系統の授業なの。 今日はたしか『土』系統の授業だったわね・・・って、あんたは魔法のこと知らないんだっけ」
「四大系統・・?」
「説明してもいいけど・・・私が教えるよりも実際に授業を見れば学べるはずよ。あんたにとっても魔法のことを知るいい機会だしね。 …ただし、部屋で言ったように粗相をして私に恥をかかせる様なことはしないこと、教室の中では大人しくしてること、いい?」
ルイズはガンマに再度釘を刺すように指を立てる
「了解、マスター」
ガンマにとって魔法の授業を見られるのはデータを得られるチャンスでもあり、実際に魔法の力がどのようなものなのか見たいという好奇心があった。それにさきほどルイズが言った四大系統という言葉も気になる、もしかしたら魔法に関する重要な要素かもしれない。
そんな話をしながら二人は教室の前に近づき、入り口の扉を開ける。
魔法学院の教室は大学の講義室のように広く、石造りになっている。黒板が設置されている場所は講義を行うであろう魔法使いの先生が一番下の段に位置し、そこから階段のように生徒達が座って勉強するための席が続いている。先に教室にやってきていた生徒達は入ってきたルイズ達のほうに一斉に振り向いた。
そしてルイズとガンマの姿を見てはクスクスと笑う者もいれば昨日ガンマに追い抜かれたことで訝しげに見たりするものなど反応は様々だが、やはりガンマのこの姿をへんてこなゴーレムかガーゴイルと思っているのが大半のようだ。 ガンマがキュルケのサラマンダーなんかよりも珍しくて立派な使い魔だと自分が思っていても、周りはそうは思わないのがルイズにとって悔しかった。
ガンマは座っている生徒達に視線を向けると、今朝出会ったキュルケの姿があった。キュルケの周りの席には男子達が囲い、まるで女王様のように祭り上げられている。
そのキュルケがガンマのほうを見て、ニコリと笑顔を浮かべてひらひらと手を振っていたため、こちらも手を振り返したら足に小さな衝撃がくる。どうやらルイズがガンマの足を蹴ったようだ
「何あの女に手を振ってんのよ、さっさと来なさい!」
「? 了解・・」
ルイズにせかされ、なんでいきなり怒ってるんだろう?と思い、手を振っただけで怒られる理由がガンマにはわからなかった。
・・・しかし見渡してみると、他の生徒達は皆様々な種類の使い魔を連れているようだ。キュルケのサラマンダーは椅子の下で眠り込んでいたり、肩にフクロウを乗せている生徒や、窓から顔を覗かせる巨大な蛇、カラスや猫など、サラマンダー以外ならステーションスクエアやミスティックルーインのジャングルなどで見かけるような生き物だ、これらは大して珍しくはない。
だが一番目を引いたのは、ガンマのデータにはインプットされていない生物達だ。六本足のトカゲや宙に浮いている巨大な一つ目の生き物など…ソニックやエミーのような種族とは違う、自分の世界にはいないものばかりだ。ガンマはそんな未知の生物達を珍しそうに見つめる、
「マスター、アノ生物達ハナンテ・・・」
「ガンマッ」
「! スミマセン・・・」
ガンマが質問しようとしたところでルイズが強めの口調で睨んだことでガンマはしゅんっと黙る。 ガンマが他の使い魔が気になるのはわかるが、もうすぐ先生が来る頃だから今は大人しくしてもらいたい。それに好奇心で他の使い魔を触れ回ったりしたらしつけのなっていない使い魔と思われてこちらが笑いものになってしまう。
「椅子」
ルイズが機嫌悪そうに声を掛けたことで、ガンマは急いでルイズの席の椅子を引く。また怒られるのは勘弁願いたいようだ。
ルイズは椅子に座り、ガンマは恐る恐る尋ねる
「アノ・・マスター、ボクハドコニ・・?」
「食堂の時みたいに傍に控えて大人しくしていなさい…いいわね?」
「了解・・」
ガンマは素直に従いちょうどルイズの席の隣に待機することにした。ルイズはガンマが大人しくなったのを確認してそれ以上は何も言わなかった。
教室の扉が開き、ここの先生らしき女性が入ってきた。 その女性は中年ほどの女の人で、紫色のローブと帽子を身に付け、ふくよかな頬が優しい雰囲気を漂わせている。どうやらこの女性がこの授業の担当の先生のようだ。
「おはようございます皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」
シュヴルーズと言う女性は周りを見渡して満足そうに微笑んで言った。そして見渡す際に数ある使い魔の中で異色の存在であるガンマに目が入る
「おやおや。随分と変わった使い魔を召喚したのですね、ミス・ヴァリエール。土のメイジである私でもそのようなゴーレムは見たことがありません。噂で聞いた話だと、そのゴーレムは喋れるそうですが、ガーゴイルなのでしょうか?」
「は、はい!ミセス・シュヴルーズ。ええっと・・ガーゴイルというか・・」
ルイズはシュヴルーズに尋ねられ、ガンマの事をどう説明したものか迷った。 ガンマから聞いた話では作られたばかりの頃は自我をもっていなかったと言っていたから意思のないゴーレムで間違いないのだろうが、その後で自我に目覚めたことでただのゴーレムではなくなっているのだ。 この場合はただ単に高位のゴーレムだといったって信じてはくれないだろう。ましてやゴーレムからガーゴイルになったなんて変だろうし、周りのやつらに笑われるだけだ・・・・ならば納得するような話にするしかあるまい、ルイズは軽く一度咳払いをして口を開く
「んんっ…このガンマと言うゴーレムは遠い国で作られた"ロボット"と言うものらしく、最初は普通のゴーレムのように自我を持っていなかったのですが、前の持ち主の下で長い時間をかけて自分の自我に目覚め、最初から自我を確立しているガーゴイルとは違う特別な個体のゴーレムなんだそうです。」
「エ? ボクソンナコト言ッテ…」
「(いいから私の話に合わせなさい!)」
ガンマが疑問の声をかけようとしたがルイズが即座にボソボソと周りに聞こえないように肘で軽くガンマの体を小突いて囁く。
多少の嘘は混ぜてはいるが、ガンマの経緯は概ね間違ってはいない。ガンマはすこし困惑しながらもルイズに合わせるようにシュヴルーズに挨拶することにした。
「ハ…初メマシテ、ミセス・シュヴルーズ。 ボクハE-102γ(ガンマ)ト申シマス。 マスター・ルイズノ言ウ通リ、ボクガ住ンデイタ国デハ、ボクノヨウナゴーレムハ"ロボット"ト呼バレテイテ、前ノ主人ノ元デハ只ノゴーレムトシテ働イテイマシタガ、前ノ主人カラ離レタ後、自分ノ自我ニ目覚メ、ボクハボク自身ト言ウ存在ヲ認識スルコトガ出来マシタ。 マダ マスター・ルイズノ使イ魔トシテ不十分デハアリマスガ、ドウカヨロシクオ願イシマス」
そう挨拶をしてペコリと頭を下げる。 周りの生徒はロボットと言う単語もそうだが、ガンマがガーゴイルではなく自我に目覚めたゴーレムだということに驚いていた。 何とかルイズの話に合わせれるように自分なりの解釈をして自己紹介をしたが、これでいいのだろうか?
そんな心配をよそに、シュヴルーズは手で口を軽く押さえて驚いていた。
「驚きましたわ・・・まさかそのような自分で自我に目覚めたゴーレムが存在するだなんて。ここトリステインではそのような例など聞いたことがありません。 それに人間のようにお話ができるだなんて、変わった姿ではありますが…ガンマさんは知性のある立派なゴーレムのようですね。 いい使い魔を持ちましたね、ミス・ヴァリエール。土のメイジである私もとても喜ばしく思います。」
そうシュヴルーズは嬉しそうに優しく微笑えんだ。
「あ、ありがとうございます。ミセス・シュヴルーズ」
どうやら無事納得してくれたようだ。ガンマが上手く話を合わせてくれたのもあるが、無機質な喋り方だが丁寧な口調で挨拶をする姿は土のメイジのシュヴルーズには印象がよかったようだ。あとでガンマを褒めてやろう…
「ゼロのルイズ!召喚できないからって、金で雇った土のメイジに作らせた貧弱なガーゴイルでほら話をするなよ!」
そう野次を飛ばしてきたのは食堂で見かけた太った生徒だ。ルイズは立ち上がり、ピンクのブロンドの髪を揺らしてその野次を飛ばしてきた生徒に向かって怒鳴る
「違うわ! きちんと召喚したもの!たしかに見た目は弱そうかもしれないけど、こんな構造をしたガーゴイルをそこらのメイジに作れるわけないでしょ! それに言っておくけどこいつはゴーレムなの!!」
「嘘つくな!どうせ『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろ?」
「ミセス・シュヴルーズ!侮辱されました!かぜっぴきのマリコルヌがわたしを侮辱したわ!」
握り締めた拳で、ルイズは机を叩いた。 隣にいたガンマはおろおろしながらも興奮してる主人のルイズをなんとか宥めようとした
「マ、マスター、落チ着イテ・・・」
「あんたは黙ってなさい!」
「ハイ・・」
だがすぐ黙らされてしまう。あのマリコルヌと言う生徒に召喚に難癖をつけられたのがよほどご立腹のようだ。
「かぜっぴきだと?俺は風上のマリコルヌだ! 風邪なんか引いてないぞ!」
「あんたのガラガラ声は、まるで風邪も引いてるみたいなのよ!」
マリコルヌという生徒は立ち上がり、ルイズを睨みつける。 ルイズもルイズでマルコリヌを睨み返し険悪なムードとなっている。
シュヴルーズは見かねたのか手に持った小ぶりな杖を振った。
その瞬間先ほどまで怒りを露にしていた二人はまるで糸が切れた操り人形のように、すとんと席に落ちた。
「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マルコリヌ。みっともない口論はやめなさい。お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません。それにミス・ヴァリエール、注意をしてくれた自分の使い魔に怒鳴るものではありませんよ、わかりましたか?」
シュヴルーズにそう言われ、ルイズはしょぼんとうなだれている。どうやったかはわからないが、ルイズが落ち着きを取り戻したようでよかったとガンマは思った。
「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきはただの中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」
それを皮切りに、周りの生徒がくすくすと笑い始める。シュヴルーズは厳しい顔で教室を見回し、杖を振るとくすくす笑っていた生徒達が急に黙りだした。
「(今度ハ何ヲシタノダロウ?)」
ガンマは気になって笑っていた生徒のほうへ緑のカメラアイを向けると・・・生徒の口にいつの間にかどこから表れたのか赤土の粘土がピッタリと押し付けられていた。
一体どこから粘土を出したんだ? もしシュヴルーズが飛ばして来たものなら少なからずとも反応があったはず・・。さっきのルイズとマリコルヌを座らせたことといい・・・これが魔法なのだろうか?
ガンマは不思議そうに生徒の口についた粘土を見つめていた
「貴方達は、その格好で授業を受けなさい」
生徒達のくすくす笑いが止まったのを確認し、シュヴルーズはこほんと重々しく咳きをする。杖を振って石ころがいくつか机の上に現れた
「それでは、授業を始めますよ。 私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年皆さんに講義します。魔法の四大系統はご存知ですね? ミスタ・マリコルヌ」
「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。『火』『水』『土』『風』の四つです!」
シュヴルーズはこくりと頷いた。
「今は失われた系統魔法である『虚無』を合わせて、全部で五つの系統があることは、皆さんも知ってのとおりです。その五つの系統の中で『土』はもっとも重要なポジションを占めていると私は考えます。それは、私が『土』系統だから、というわけではありませんよ。私は単なる身びいきではありません」
シュヴルーズは再び、重々しく咳をした。ガンマはシュヴルーズの話を緑のカメラアイを向けてじっと聞いている
「『土」系統の魔法は、万物の組成を司る、重要な魔法であるのです。この魔法がなければ、重要な金属を作り出すこともできないし、加工することもできません。大きな石を切り出して建物を建てることもできなければ、農作物の収穫も、今より手間取ることでしょう。このように、『土』系統の魔法は皆さんの生活に密接に関係しているのです」
「(・・ツマリコノ異世界デハ、科学技術ガ発展シテイナイ分、魔法技術ガ発展シテイルコトデ魔法ガ科学技術ノ役割ヲシテイルト言ウコトカ・・・)」
『土』系統という魔法だけでここまで人間達の生活に深く関わっているのならば、魔法が使える人間が貴族としての力を得ているのに納得がいく。魔法が使える人間の力だけで機械がなくとも多くの役割を果たせるのならば、科学よりも魔法の技術に重点が置かれるのはおかしくない。 魔法があるかないかだけで、ここまで世界が違うものなのか・・。
「今から皆さんには『土』系統の魔法の基本である、『錬金』の魔法を覚えてもらいます。一年生のときにできるようになった人もいるでしょうが、基本は大事です。もう一度、おさらいすることに致します」
シュヴルーズは机に置いた石ころに向かって、手に持った小ぶりな杖を振り上げ短くルーンを呟くと、石ころが光りだした。 そして光がおさまり、ただの石ころだったそれはピカピカ光る金属に変わっていた。
ガンマはその光景を見て緑のカメラアイをパチクリと点滅させ、ポカーンとしているとキュルケが身を乗り出した。
「ゴゴ、ゴールドですか? ミセス・シュヴルーズ!」
「違います。ただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの・・・」
こほんと、もったいぶった咳をして、シュヴルーズは言った。
「『トライアングル』ですから・・・」
ゴールドじゃないと聞いたキュルケは残念そうに椅子に座りなおすが、ガンマはただその真鍮を見つめたままだ。
スキャンをしながら見ていたが、シュヴルーズが杖を振り上げ石ころに向かってなにか言葉を呟いただけで、石ころだったものがまったく別の物質へと変わったのだ。 ここまで魔法がなんでもありならこれでは汗水垂らして機械を作ってるエッグマンが哀れに見えてしまいそうだ・・・。 だが問題がある、スキャンしたデータを確認したが、石ころが真鍮に変質していくところをチェックしても、やっぱりその作用を起こしている魔法のエネルギーが検出されなかった。食堂のアルヴィーズもそうだったが、もしかして魔法のエネルギー自体には反応できないのだろうか?
「(ダガソレナラ・・・ボクノ中ノ、コノ"未知ノエネルギー"ハ一体・・・?)」
ひょっとしたら魔法と関係してるかと思ったが、魔法のエネルギーに反応できないのであれば、この未知のエネルギーは魔法の関連性はないのかもしれないだろう。そう思い、ガンマは未知のエネルギーについては後回しにし、先ほどシュヴルーズが言った言葉が気になりルイズに視線を向ける。
「マスター、質問ヲシテモイイダロウカ?」
「何よ、大人しくしてなさいって言ったじゃない、授業中よ」
ルイズは小声で話し、慌ててガンマもそれに合わせてルイズが聞こえるくらいにまで音声を落として話しかける
「ミセス・シュヴルーズガ言ッタ、"スクウェア""トライアングル"トハ、ドウイウ意味?」
「系統を足せる数のことよ。それでメイジのレベルが決まるの」
「メイジノレベル?」
ガンマは気になって仕方がないような様子に、ルイズは はぁっと小さくため息をつきながら小声で説明する
「例えばね? 『土』系統の魔法はそれ単体でも使えるけど、『火』の系統を足せば、さらに強力な呪文になるの」
コクリッとガンマは頷く
「『火』『土』のように、二系統を足せるのが、『ライン』メイジ。シュヴルーズ先生みたいに、『土』『土』『火』、三つ足せるのが『トライアングル』メイジ」
ガンマはシュヴルーズの三つの系統の種類に首(胴体)を捻る
「何故、同ジ系統ガ・・・? 同ジ系統ガ二ツアルト言ウコトハ…ソノ系統ノチカラガ倍増スルノカ?」
「よくわかったわね。あんたの言うとおり、同じ系統の数が多いほどその系統はより強力になるわ」
「ナルホド・・」
そこでガンマは一度シュヴルーズの授業の内容を思い出し、ルイズに問いかける
「デハ、ミセス・シュヴルーズハ三ツノ系統ヲ持ツ強力ナ『トライアングル』メイジデ、四ツノ系統ヲ持ッタ『スクウェア』メイジガ、ヨリ高イレベルノメイジト言ウコトダロウカ?」
「そのとおり。すごいじゃない、よく理解したわね。やっぱりあんた高位のゴーレムなんじゃないの?」
ルイズは自分の使い魔のもの覚えのよさに嬉しそうにする。
「(これでもうちょっと抜けたようなところが直ってくれればいいんだけどねぇ・・。)」とルイズは思った
「ソンナコトナイ、ミセス・シュヴルーズトルイズノ説明ヲマトメタダケ。」
「あんたほんとに真面目なヤツね・・・それで、聞きたいことはもうそれだけ?」
「モウ一ツ、マスターハドノ系統ガ得意ナノダロウカ?」
「・・・・・」
何気なく聞いたその質問に、ルイズは黙ってしまった
どうしたんだろうと思い、ガンマは声を掛けようとしたが、喋っていたところを見られていたらしくそこへシュヴルーズに見咎められる
「ミス・ヴァリエール!、自分の使い魔との仲がいいのはよろしいですが、授業中に私語は慎みなさい。」
「す、すいません・・・」
ルイズはビクッと背筋を伸ばし謝罪する。
「申シ訳アリマセン、ミセス・シュヴルーズ・・・」
ガンマも同じようにシュヴルーズに謝罪する。ガンマは自分のせいでルイズが怒られてしまったと思い、ルイズの反応も気になるが…もうこれ以上は質問しないほうがいいと判断する。
「ガンマさんも、授業中に私語などのお喋りは厳禁です、今後は気をつけてくださいね?」
「了解シマシタ・・」
主人と一緒に謝ってきた使い魔のガンマにシュヴルーズは優しく注意する。 周りの生徒は怒られてるルイズと使い魔を見てくすくすと笑うと、シュヴルーズが「また赤土が欲しいのですか?」といったらピタリと笑いが止まった。それを確認してシュヴルーズは軽く咳をする
「ではそうですね・・せっかくですから、ミス・ヴァリエール、あなたにやってもらいましょう」
「え? わたし?」
「そうです。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」
そう言われたルイズだが立ち上がろうとしない。何故か困ったようにもじもじとしている。
「ミス・ヴァリエール!どうしたのですか?」
「マスター?」
シュヴルーズと同じようにガンマもルイズの様子が気になって呼びかけると、キュルケが困った声で言った。
「先生」
「なんです?」
「やめといた方がいいと思いますけど・・・・」
「どうしてですか?」
「危険です」
キュルケはきっぱりとそう言うと、教室のほとんど全員の生徒が頷く。
何が危険なんだろう? ただ石ころを別の物質へ変換させるだけなのに・・・とガンマはキュルケの言葉に疑問を浮かべる
「危険? どうしてですか?」
「先生は、ルイズを教えるのは初めてですよね?」
「ええ。でも、彼女が努力家ということは聞いています。さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何もできませんよ?」
「ルイズ。やめて」
キュルケは蒼白な顔で言ったが、しかしルイズは席から立ち上がった
「やります」
そして意を決したように緊張した顔で、つかつかと教室の前へと歩いていった。
隣にたったシュヴルーズはにっこりとルイズに笑いかける
「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」
こくりと頷き、ルイズは真剣な顔で手に持った杖を振り上げる
ガンマはそういえばルイズが魔法を使うところを見たことがなかったため、主人のルイズがどのように魔法を使うのか興味がありその様子を見守った。
「・・・・?」
そこでふと周りを見たら、キュルケを含む周りの生徒がこそこそと机の物陰に身を潜めていた。まるで地震かなにかがくるかのような姿勢だ。 どうしたんだろうとキョロキョロと見ていると、ちょうど近くに隠れていたキュルケが声を掛けてくる
「ねぇちょっと、ガンマ」
「ドウシマシタ? ミス・キュルケ」
「あなたはゴーレムだから大丈夫だろうとは思うけど、今から起こることは覚悟しといたほうがいいわよ…」
「?、ドウイウ意味デスカ?」
「すぐにわかるわ・・」
まるで意味がわからないという風にガンマは首を傾げそうになる。 まだこの世界に召喚されてから一日程度しかたっていないが、周りの生徒の反応から見て、ルイズはあまりいい印象をもたれていないようにも見える。それに"ゼロのルイズ"という二つ名もまるでルイズを馬鹿にしているような呼び方だった。だがだからといって、それで危険というのは何故なんだ?
ガンマはわけがわからないと思いながら、再びルイズのほうへ緑のカメラアイをむける。目をつぶっているところを見るとどうやら呪文を唱えようとするところのようだ。
そしてルイズが短くルーンを唱え、石ころにむかって杖を振り下ろす
―――――ドガァァアアアーーーンッ!!
その瞬間、机ごと石ころが爆発した。
爆風によってルイズとシュヴルーズは黒板に叩きつけられ、教室中に悲鳴があがる。 その爆発の影響で驚いた使い魔たちは暴れだし、キュルケのサラマンダーは睡眠からたたき起こされて怒ったのか火を吐き、マンティコアが飛び上がって窓ガラスを突き破り、そこから巨大な蛇が中に入ってカラスを丸呑みしてしまった。まさにいま教室中は阿鼻叫喚の渦に飲まれていた
キュルケは立ち上がり、ルイズを指差す
「だから言ったのよ!あいつにやらせるなって!」
「もう! ヴァリエールは退学にしてくれよ!」
「俺のラッキーが蛇に食われた! ラッキーが!」
などと生徒達か怒りの声が上がっていた
「・・・・危険ノ意味、理解・・・」
ガンマのほうはまさか爆発するとは予想もできず、体は他の使い魔たちよりも重いため爆風では倒れはしなかったが、飛んできた机の破片がぶつかってよろめいて尻餅をついている状態になっていた。 緑のカメラアイでルイズとシュヴルーズのほうをズームアップして安否を確認したが、煙だらけでよく見えないが二人とも怪我はないようだが …シュヴルーズのほうは気絶してしまってるようだ。
キュルケがあれほど危険と言っていたのはこのことだったのか・・・だが、今の爆発は・・・
「ゲロ~~~~!」
っと考えようとした時、ポテッと爆風によって吹っ飛ばされたのか誰かの使い魔の黄色いカエルがちょうどガンマの腕の中に飛び込んできた。
「・・・カエル?」
「ゲロ~~・・」
爆発で吹っ飛ばされたためかそのカエルは目を回していた。 怪我はない様だが、このままほっとくわけにもいかず、立ち上がってガンマは大騒ぎになっている教室を見回してこの使い魔の主人を探していた。
「ロビン! ロビン、どこいっちゃったのぉ!?」
離れた席のところで綺麗な金髪の巻き髪をし頭に赤いリボンを付けたそばかすのある少女が、自分の使い魔らしき名前を呼んで机の下や使い魔たちがいる足元を探し回っている。 状況から考えると小さな使い魔のようだから、もしかしてこのカエルの主人なのだろうか? そう思ってその少女のほうへ近づくと、目を覚ましたカエルがその少女にむかってケロケロと鳴きはじめる。
「スミマセン、モシカシテコノカエルハ貴方ノデショウカ?」
「ああ! ロビン!! よかったぁ・・無事だったのね!」
黄色いカエルはガンマの手からピョンッと飛びはね、主人である少女の腕に飛び込む。その少女はよほど心配してたのか嬉しそうにそのカエルを抱きしめている
「大丈夫デス、怪我ハ見当タリマセンデシタ」
「あ。その・・・あ、ありがとう・・・ゴーレムさん」
その少女はガンマにお礼を言うが、どこかぎこちない。 ガンマは別に気にする様子もなくその場を離れ、再びルイズに視線をむける。
煤で真っ黒になったルイズがむくりと立ち上がるが、見るも無残な格好だった。 ブラウスが破れ、肩の肌が見えてしまい、スカートも破れていてパンツが丸見えだ。 ガンマが洗濯で下着を破いてしまった時よりも酷い状態である。
しかし、さすがである。大騒ぎの教室を意に介した風もなく、顔についた煤を取り出したハンカチで拭きながら淡々とした声でいった。
「ちょっと失敗したみたいね」
だが当然ながら、他の生徒たちから猛然と反撃を食らう
「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」
「いつだって"成功の確率、ほとんどゼロ"じゃないかよ!」
その生徒の言葉を聴いて、ガンマはやっと理解した
「・・・成功ノ確率・・・0(ゼロ)・・」
最初はガンマは自分が生まれたE-100シリーズのプロトタイプのZEROのことを思い浮かべていた。 ゼロ・・つまり初めに生まれたものの意味をこめて付けられたものと思っていたが、まったく違っていたようだ。
魔法が使えない、爆発を起こしてしまう、つまり魔法の成功率0(ゼロ)・・・それが『ゼロのルイズ』。
その『ゼロ』の意味がわかることができた・・。 だが、ガンマはそれよりももっと重要なことに気が付いていた。
「(アノ爆発スル瞬間・・・・確カニ、"エネルギー"ガ発生シテイタ)」
そう、ルイズが魔法を使った瞬間に起きた爆発。 その時スキャンしたデータから、あるエネルギーが検出されていたのだ。 今までの情報の推測からして、魔法のエネルギーは感知できないはずなのだ、なのに・・・ルイズの放った魔法からエネルギー反応が出た。 それも、今ガンマを動かしている動力ともなっているものと同質のもの・・つまり・・・
「(間違イナイ・・・アレハ、ボクノ中ニアルモノト同ジ、"未知ノエネルギー"・・・!!)」