長らくお待たせしてすいません。
これからも頑張って更新していくのでよろしくお願いします。
段々と近づくのは、死への道。
誰がそこへと
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突然かかってきた大阪にいるはずの服部からの電話に戸惑いを隠しきれないコナン。
「服部・・・!?」
「何だい?誰からの電話なんだい?」
そんなことも知らない太宰は興味津々な顔でコナンの顔を覗き込んでくる。
『何や工藤、そこに誰かおるんか?』
「あっいやっそれはだなそのっ・・・。」
いくらあろうと服部を今回の件に巻き込む訳にはいかない。
『服部君、私に代わり給え。』
すると、知らない男の声が耳に入ってきた。
「はっ服部、今のは一体っ……。」
『やぁ、君が江戸川コナン君で間違いないかな?」
「うっうん、間違いないけど…おじさん誰?」
自分の名前を知っている電話の向こうの男にコナンは警戒心を持った。
『嗚呼、怖がらないでくれ給え。私は森鴎外。今、君の傍に居る中原中也君が所属する組織の長だ。』
「なっ……!何で平次兄ちゃんと一緒にいるの!?」
『何でって訊かれても…偶々だったとしか説明できないねぇ。其れなら君だって、如何してそんな話し方をするんだい“工藤新一”君?』
「っ……!!」
当然のことだとは思っていたが、やはりこの男もコナンの正体を知っていた。
一体どうやったらそのような情報が手に入るのだろうか。
そもそも、どうしてそんな奴が服部と一緒にいるのだ?
『中也君から話は訊いたかい?』
「いや…誰かに狙われてるってことしか……。」
『じゃあ私が話そうじゃないか。中也君や“太宰君”にも訊こえるようにスピーカーにできるかい?』
「はっはい………。」
コナンは森に言われるがままスピーカーにした。
『やぁ太宰君、久し振りだねぇ。』
「矢張り私が此処に来ると解っていたんですね。」
如何やら森は太宰と知り合いらしい。
如何いう関係の知り合いかは知らないが只ならぬ因縁がありそうな気がする。
『其れについてはとっくの昔から予測していたからねぇ。君なら必ず中也君に接触すると思っていたよ。』
「流石首領ですね。では、早速話を訊かせてください。」
『江戸川君─────否、工藤新一君を狙っている組織の名前は、“feint”と云う裏社会で最近よく耳にする非合法組織だ。彼らは主に暗殺、拷問、密輸入の仲介人等…様々な犯罪に手を染めている。』
いきなり口にされた言葉を聞いてコナンは息を呑んだ。
黒の組織も散々なことをやってきたと思っていたが、それ以上のことをそのfeintと呼ばれる組織はするのか。
─────犯罪に容易く手を染める彼らには果たして“情”があるのだろうか。
『今回君が狙われている理由は…君を幼児化させる切っ掛けにもなった“アポトキシン4869”にある。』
「えっ……?どうしてその薬の情報が渡ってるんだ?」
動揺を隠しきれず、思わず“新一”の方の喋り方になってしまったが、今はそんなことどうでもいい。
『如何やら…その薬を作っている組織の誰かが情報を横流ししたみたいなんだよ。金を交換条件に。』
今度は息が止まりそうになった。
─────アポトキシン4869を作っている組織なんてコナンの中では一つしか浮かんでこなかった。
「黒の組織………。」
そこでコナンは理解した。
森鴎外に─────ポートマフィアに自分の警護を依頼したのは、“ベルモット”だと。
あいつが態々こんなことをするのだから、恐らくfeintに情報を売ったのはベルモットの直属の部下。
─────あいつも困った部下を持ったようだな。
「おい、大丈夫かコナン?」
「えっ……あぁ大丈夫。」
「中也、今の彼は“工藤新一”君なのだから其の名前で呼ぶのは失礼だよ。」
「そっ然うか?」
「いっいやっ大丈夫!」
……一人でつい考え込んでしまった。
「ねぇ…森さん。」
『何だい?』
「feintの奴らはアポトキシン4869を使って、一体何をしようとしてるの?」
『……此れはあくまで私の推測なのだが、彼らは其れを主に暗殺の任務等で使おうとしていると思う。』
「何でそう思うの?」
『……中也君。』
「はい。」
中原の名前を呼んで少し間を置いた後、森はこう言った。
『中也君は組織の殲滅や或る特定の人物の暗殺の任務の時、見られてはいけない誰かに見られたりしたら如何する?』
それを聞いたコナンは少し驚いた。
中原さんも“そういう仕事”をしているんだ、と─────。
中原は迷いのない透き通った青い瞳で言った。
「俺は……其奴が餓鬼だったら保護します。」
「じゃあ“大人”だったら?」
「手前…大概屑だな。」
「お褒めに預かり光栄だね。」
「褒めてねぇ!!」
太宰が中原をおちょくるということは────大方太宰は中原の考えてることが分かっているんだろう。
そして、中原は渋りながら口を開いた。
「大人だったら────迷わず殺します。」
『流石中也君。其れでこそ五大幹部の一角を担う人間だ。』
「もう首領ったら中也に対するお世辞なんて如何でもいいからさ、早く話を進めてよ。」
『…太宰君の云う通りだね。話を進めようか。』
「ホント手前はムカつく野郎だなあ。」
「なぁに中也?真坂首領にお世辞云われて嬉しかったの?残念な帽子置き場だねぇ。」
「五月蝿ぇ余計なお世話だ。」
やはり、この二人の喧嘩はどこか子供じみた感じに見えてしまう。
……まぁ、簡単に言えばしょうもないってことなんだが。
『今、中也君が云った通り任務に支障を来す者は殺すのだが、彼らは其の殺しを“手短か”に済ませようとしているのだよ。』
「手短かに……?」
『嗚呼。アポトキシン4869を使えば其の人間の存在はなかったことになるし、最悪の場合は死んでくれるんだからね。彼らにとっては無駄に人殺しをしなくて済む訳だ。』
「ッ……!」
「feintのボスも随分と酷い奴だねぇ。手を煩わせない為にそんな手段を使おうとするなんて。」
太宰の言う通りだ。
そんな奴らに自分は狙われているのか。
『取り敢えず君達は探偵社に行くといいよ。私の方にいる“二人”も直ぐに連れて行くから。』
「ふっ二人…?」
『私のことよ、工藤君。』
「はっ灰原!?お前までどうして……。」
『どうしてって……貴方のせいなのよ。忘れ物を届けに行ったら親戚にしばらく預けられるって言われて心臓が止まりそうになったんだからね。』
親戚………。
その“親戚”は恐らく中原のことを指しているのだろう。
「悪いな灰原………心配かけて。」
『別に………死んでないだけ良かったわ。』
「そんな縁起でもないことを言うんじゃねえ!」
盛大に言い返すと、電話の向こう側から笑い声が聞こえてきた。
笑い方的に多分服部であろう。
コナンは密かに服部に苛立ちを募らせた。
「然し、善いのですか首領。探偵社に連れて行ったりなんかして。」
『大丈夫だよ中也君。私が云わなくてもどうせ探偵社には行かなきゃいけなくなるんだから。』
ねぇ太宰君、と付け足した森の心の内がコナンにはさっぱり分からなかった。
「まぁ…仰る通りです。私は何方にしろ“安室透”からも詳しく話を聞かなくちゃいけないから。」
────その名前を聞いてハッとした。
安室は無事なのか。
彼は一体何に巻き込まれているんだ。
「おいおい……本当に行く気なのか?」
「私は冗談半分でこんなことを云うと思っているのかい中也?」
「………ねぇな。」
「でしょ?其れじゃあ話は早い。今直ぐに探偵社に行こう。」
「はぁあ!?手前何処までマイペースなんだよッ!」
「あー声が訊こえた気がしたのだけど、視界に何も入ってこないなー幽霊かなー?」
「態と上を見ながら云うんじゃねえ!!」
いつのまにか中原が太宰に拳を振りかざしていた。
当の太宰は軽やかに避けているのだが。
────それよりそろそろ止めなければ時間が勿体無い。
今、この瞬間にも“feint”の奴等の手がこちらに近づいているかもしれないのだから。
「はっ早く探偵社に行こうよ!」
コナンの鶴の一声で太宰と中原は口論をやめた。
「…矢っ張り違和感がある。………“新一”君、変な喋り方はやめ給え。」
「……………悪かったな変な喋り方で。慣れちまったんだからしょうがねえだろ。」
「ふーん。其れが君本来の喋り方なんかい。其方の方が未だ善い。」
半ばやけくそで“工藤新一”の口調にしたコナンは立ち上がり部屋の外へと行こうとした。
「……ということで、私達は先に探偵社に行くから此れで失礼するよ森さん。」
太宰が通話終了ボタンを押そうしたら────
『ちょっちょい待ち!』
服部がそれを阻んだ。
『工藤!』
そして、コナンもまた足を止め、服部の声がするスマホを見た。
『絶対に死ぬなよ。』
「……………死なねぇよ。そんな当たり前なこと言わせんな、バーロー。」
────────そうして、コナンは電話を静かに切った。
「さぁ行こうじゃないか、武装探偵社へ。」
三人は目的のため、外へと一歩を踏み出した─────
───が。
ピルルルルルルルルルッ
「如何やら私の様だね。」
太宰の電話の着信音が鳴り響いた。
太宰は通話ボタンを押し耳に当てる。
「乱歩さん……一体如何されたんですか?」
“乱歩さん”───。
恐らくその人物も探偵社の社員なのだろう。
仕事関係の依頼かと思っていたら段々とその顔から笑みが消えていく。
「………敦君が?」
▼ ▼ ▼ ▼
──────雑居ビルの質素な会議室。
そこに集まるのは一般人とはかけ離れた力………“異能力”を持った六人の人間だ。
「今回集めたのは他でもない……“工藤新一”の捕獲についてだ。」
一番偉そうに鎮座し、他の面々に話しているのが、feintを束ねる長、通称『first』、
異能力───“我の虚”。
「やっと其の話に移ることが出来て善かった。私の所為で足を引っ張ると思っていたから。」
「否、大丈夫だ。secondのお陰で敵に我らの存在を知らしめれたからな。」
今喋ったのが、feintの幹部を統べる幹部長、通称『second』、紀伊由羽。
異能力───“今宵も踊り狂う”。
「first様、彼の程度のことで我々の存在を彼らに知らしめることは不可能です。もっと確実に奴らを痛ぶり、絶望の淵に立たされた時、彼らは初めて我々が何れだけ非情の集まりなのかを知るのです。」
「貴方も随分と残酷な考えを持っているのね。」
「我の此の程度の考えなんかより、first様の考えの方がよっぽど残酷ではないのか?」
黒いフード付きのマントを羽織る老人は、feintの幹部の一人、通称『third』、レジェース・アストル。
異能力───“天と地”。
「もう皆!そんなことより早く話を進めようよ!何人人を殺せるのか、僕、わくわくして堪らないんだよッ!!」
「落ち着かんかfifth。其の溢れ出る狂気じみた殺気を抑えろ。」
「そんなに出てた?」
「嗚呼、出てた。」
「ありゃりゃ此れはうっかり失礼しちゃったね!」
どこか可愛げのある青年は、其の見た目と巧みな話術で敵を油断させて容赦無く殺す、feintの幹部の一人、通称『fifth』、
異能力───“哀れな道化人”。
「fifthが死体の山を作ろうが作るまいかそんなの私達の知ったところじゃないですわ。死者から流れ出る赤い血も亦、美しい……。」
「はっ……僕なんかよりsixthの方が狂気じみてると思うけどなぁ。」
淡い水色のドレスに身を包んだ女性は、最近幹部になったばかりの新参者、通称『sixth』、ラソーナ・ティラサー。
異能力───“桜花爛漫”。
「まぁまぁ皆さん落ち着いて。………first様、今回も此の私めが作戦提案しても宜しいでしょうか?」
「嗚呼……構わない。seventhは此の組織の“脳”だからな。」
「……有難う御座います。」
席から立ち上がりfirstと話しているのが、feintの幹部であり、作戦参謀の通称『seventh』、ノスカ・ファーリッド。
異能力───“孤高の神”。
此の七人がfeintを此処まで強くした“逸材”である。
そして、ノスカはまた口を開いた。
「今回の『工藤新一捕獲作戦』………『K』に参加してもらうのはthird君とfifth君だ。」
「えッ!?本当に!!?ヤッター!!!」
「其れは誠か……せふよ。」
「はい。」
名前を呼ばれた斐賀原は席から立ち上がり、飛び上がっているのに対し、レジェースは眉間に皺を寄せて溜息を吐いた。
「君達二人なら必ず彼を捕まえることが出来る筈です。ですが、二つ程云っておくことが………。」
「何々!?」
斐賀原が興奮気味の様子でノスカに詰め寄ると、彼は懐から二枚の写真を出した。
その写真には……一方は包帯を至る所に巻いている顔立ちが良い黒髪の蓬髪の男性、もう一方は少し小柄で洒落た帽子を被った赤毛の男だった。
「seventh………
レジェースの問いにノスカは微笑みながら答えた。
「其の二人は黒髪の方が太宰治で赤毛の方が中原中也と云うのだけれどね。……昔、一夜にして一つの組織を滅ぼした黒社会最悪最恐のコンビ、“双黒”なんだよ。」
「へぇ……此の二人が。」
これには河末も興味を持ったようでノスカの話に耳を傾ける。
「とてもそんなのには見えないけど……本当なの?」
「嗚呼………彼らのコンビネーションは正しく“最強”と呼ぶに相応しい。」
「そう……ノスカがそう云うのなら本当なんでしょうね。でも………此の二人が『K』と如何関係してくるの?」
その場の誰もが思った疑問を紀伊は投げかけた。
「よく訊いてくれたねsecond君。実を云うと、今工藤新一の傍には此の二人が居るのだよ。」
「そうなのッ!?うわぁ滅茶滅茶会いたい!!」
「向こうも随分と面倒な護衛を置きましたことですわ。seventh、要は此の二人を突破しなければ工藤新一は捕まえられない……そう云いたいのでしょう?」
「流石sixth、話が早い。でも、其処でもう一つ。」
全員がノスカの言葉に耳を傾けているのを確認してから、ノスカは云った。
「……工藤新一だけではなく、中原中也も確保してほしいのだよ。」
「……ナカハラチューヤも、って何で?」
「“実験台”になってもらうんですよ。私が作る試作品の。」
「………そういうことか。然し、其れなら別に太宰治でも善いではないのか?」
「否、太宰治では駄目なのだよ。……second君が如何してなのか一番理解しているのだろう?」
ねぇ、と紀伊に笑いながら視線をやったノスカに対して、紀伊は至って冷静な顔で答える。
「太宰治の異能力は全ての異能を無効化する異能力。其れにかなりの策士と有名だから一筋縄で捕まるとは思わない………からでしょ?」
「全く其の通りだ。君は私達とは“別行動”をしていたからね。判ってくれると思っていたよ。」
「じゃあ……ダザイオサムは殺しても構わないってこと!?」
斐賀原の期待の眼差しに応えるようにノスカはまた微笑んだ。
「嗚呼……太宰治だけなら殺しても構わない。」
「やったー!!そうと決まれば早く行こうよthird!!!」
「……老人を無理に引っ張ろうとするな。」
会議室を後にして出ようとする二人にノスカは云った。
「………彼らはsecond君の蒔いた種のお陰もあると思いますが、必ず武装探偵社に行く筈です。其処を一網打尽にしてくださいね。」
「………期待しているぞ、『嘩栄』、『レジェース』。」
河末の言葉に目を見開いて驚きながらも二人は答えた。
「「はい、『河末』様。」」
──────その場にいる誰もがfeintの完全勝利を信じている中で、紀伊だけはやりきれない顔をしていた。