――――――――――――偶然とは実に不思議なものだ。
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「――――ごめんなさい!探すのに手間を取っちゃって・・・。」
「全然構へんよ。」
米花町の通りで佇む――――服部と灰原はコナンを探すために協力していた。
――――そして、今灰原が持ってきたのはコナンが普段つけている普通とは違うGPS機能付きのメガネだった。
「おっでかした!」
「予備ぐらい、いくらでもあるわ。」
「じゃあさっそく工藤がどこにおんのか調べてや!」
「分かってるわよ。」
「・・・・・。」
「なっ何か分かったんか?」
「工藤君が今いる場所は――――
―――――ヨコハマ。」
「ヨコハマ?・・・何か聞いたことあるような・・・。」
「よく分からないけど、とにかく工藤君は今そこにいるわ。早く行きましょう。」
「おっおうそうやな!!」
じゃあ、と服部が歩き出そうしたら――――。
「ねぇ!!」
「「!」」
突然金髪の小さな少女に話しかけられた。
外国人の様に見えるが日本語はペラペラみたいだ。
「リンタロウ見なかった?背がおっきい変態オジサンなんだけど!」
「いや・・・・見てへんで。」
見てないとか言う前以前に背が大きい変態オジサンって世の中にたくさんいるんじゃないか?と服部は頭の中で考えてしまったがすぐにその考えは頭から追い払った。
・・・・ただ身近にそういう人がいるのを思い当ってしまったからである。(ここではあえて伏せておく)
「そう・・・・じゃあヨコハマが何処か解る!?」
二人はすぐさま少女の発した言葉に食いついた。
「あなた・・・・ヨコハマに住んでるの?」
「うん!お兄さん達もそこに用があるの?」
「用っちゅうか・・・・人探しや。」
「人探し・・・・?」
服部の言葉を聞いてしばらく黙っていたが何か閃いたのか、顔色を明るくして服部のズボンの裾を掴んだ。
「なっ何や・・・?」
「ねぇ!!」
「だから何なんや!!」
「私にもその人探し手伝わせて!」
「「え!?」」
「二人はヨコハマに行ったことないんでしょ?私が案内してあげるから其の代わりに人探し手伝わせて!!」
少女の提案に二人は一瞬ためらった。
何の関係もない一般人―――ましてや灰原よりも小さい少女を自分達の私情に巻き込んで危険にあわせてしまうんじゃないかと思ったからである。
――――しかし。
「折角エリスちゃんがお願いしてるのに其れを断ろうと云うのなら幾ら一般人であっても此の私が許さないよ。」
「りっリンタロウ!?」
恐らく少女の保護者なのだろう漆黒のスーツに身を包んだ男、森鴎外によって服部と灰原は人探しを“手伝わせることになる”ことをまだ知らなかった。
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東京の誰も目がつかない路地裏――――。
そこは裏社会で生きる者からしてみれば、“居場所”と言うべきなのか。
その中で一際目立っていたのが黒塗りの車二台だった。
――――やがて一台の車からはスタイル抜群の金髪のブロンドヘアーの女性がもう一台の車からは少し年を重ねた一つ結びの男が降りてきた。
「今回は君が我がポートマフィアに依頼に来たのかね?」
ポートマフィア。
ヨコハマで二大異能力組織と呼ばれる一方に入るマフィアである。
そして、今女性に向き合っている男、森鴎外はその組織のトップに君臨する人物なのである。
「えぇ。あなた達になら依頼できると思ってね。」
依頼人の女の名はベルモット。
彼女もまた、裏社会では結構有名らしい。
最も、その実績を知る人物は数少ないらしいのだが。
「依頼はすごく簡単よ。」
「ほぉ・・・如何いった物なのかな?」
「・・・・・少年の保護及び監視。簡単に言えば護衛ってところかしら。」
それを聞いた森の顔は一瞬曇ったがすぐに笑顔に切り替えた。
「其の少年の名前は?」
「江戸川コナン。聞いたことない?世ではキッドキラーと呼ばれてるのよ?」
「うーん・・・・訊いたことが有る気はするけど具体的には・・・。」
「じゃあ・・・・工藤新一は?」
「・・・・其れなら訊いたことが有る。東の高校生探偵と称されている青年のことだろう。」
「そうよ。」
「だが・・・其れとその少年が何の関係が有る?」
すると、ベルモットはその質問を待っていましたと言わんばかりにニヤリと笑った。
「その彼―――工藤新一は実は今、江戸川コナンとして暮らしているのよ。」
「・・・・え?」
森は彼女の言葉が理解できなかった。
「其れはつまり・・・如何いうことだ?」
「工藤新一君は組織の大事な取引を見られちゃったからうちの組織の構成員の一人がある人物が開発した特殊な薬を口封じとして飲ませたたんだけど・・・運が良かったのか彼は幼児化した。」
「素晴らしい・・・。そんな物が有るなんて。」
「そして彼は自分が元の姿に戻るために“江戸川コナン”として生活しながらその薬の解毒剤の在りかを探っているってわけ。」
森は思わず言葉を失った。
高校生ぐらいの人間を小学生並の姿にすることが出来る薬を作ることが出来る逸材がいるということに。
「これが今回護衛してほしい子に関しての説明。問題は何故護衛なんかをあなた達に頼んだのか。」
彼女はそう言いながら森に何枚かの紙を渡した。
「此れは・・・・『feintに関する資料』?此れが理由なのかい?」
「えぇそうよ。その組織が最近になって私達がそういう幼児化の薬とかの開発をしていることを知ったらしくてね。」
「・・・・其れを横取りしようと考えている。」
「さすがね。話が早いわ。・・・それで彼らは考えたの。どうやったら横取りできるか。」
「真坂・・・・・。」
何かを察したのか、顔色が少しだけ青ざめていく。
「そう、その被験者である江戸川コナンからサンプルを取り出そうって考えに辿り着いたのよ。まぁ被験者は彼も含めて二人いるんだけど。」
「然し、そうだとしても何故江戸川君達が被験者ってことが解ったのかい?」
「それは・・・・私の側近の部下の裏切りよ。」
ベルモットは悔しいそうに言った。
「向こうの誘いにまんまと引っかかって・・・ね。」
その後は分かるでしょと皮肉さを込めているのか冷たく言い放った。
「其の所為で彼らは江戸川君達の存在を知り、追いかけることになったということか。」
「残念だけど組織内には協力者がいないのよ。彼らが生きていることを知ってるのは私と数少ない側近の部下だけだから。知られたら私が始末される。」
「大変だねぇ君も。」
「そっそれは置いといて。」
「はいはい。是非とも其の依頼を受けさせてもらうよ。全力を尽くさせてもらう。」
「・・・・報酬は何をお望み?」
森は少し考えてから口を開いた。
「今度部下に変装の技術を教えてくれないかい?」
「えっ?」
「君は『千の顔を持つ魔女』と訊いている。変装は裏社会の仕事をこなす際には必要だから其の技術を少しでもいいから教えてもらえないかな?」
彼女は唖然をしていた。
「普通なら金かと思ったのに・・・意外ね。それに私のことをそこまで調べるなんて。」
「調べてはいないよ。ただ耳に入れただけ。」
「本当かしら。」
「首領!!」
森が乗ってきた車からサングラスをかけた男が降りてきた。
「何だい?」
「エリスお嬢様が・・・・東京の景色を堪能してからヨコハマに帰りたいと・・・。」
「全部かい?」
「はっ・・・はい。」
「・・・・・ベルモット君。」
さっきとは打って変わって何か急いでいるような表情に変わった。
「何。」
「私はエリスちゃんと東京観光するから此れで失礼させてもらうよ。事が終わり次第直ぐに連絡を入れよう。」
「分かったわ。」
「・・・・さぁエリスちゃん!!」
「いや!!何かリンタロウ何時もより気持ち悪い!!」
森と小さな少女の声を聞きながらベルモットは静かにそこを立ち去った。
――――これは、コナンと中原が出会う二日前の話。