闇を照らす光   作:れいたん

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第五話

「角谷君・・・・・待っててね。」

 

 

 

 

―――――長い髪をなびかせながら女性はぽそりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

それが誰にも届かないと分かっていながら―――。

 

 

 

 

  ▼  ▼  ▼  ▼  ▼

 

 

「あっ貴方は誰なんですか!!?」

 

扉の前にいきなり現れた男に中島達は驚きながらも尋ねた。

 

「名前なんて名乗る程でもない。だが、強いて言うとするなら俺はFBIの人間だ。彼もそれに値するぐらいここにいてはいけない奴だ。だからこちらで彼を引き取らせてもらう。」

「ふっふざけるな!!大体何でお前なんかに俺が引き取られなくちゃいけないんだ!!?」

 

淡々と話す“赤井”の横で降谷はさきほどとはまた違った険しい顔で怒鳴っている。

中島の正直な気持ちを代弁するならば―――この場になぜ太宰がいないのか。

 

 

 

彼ならいつものマイペースな調子で周りを巻き込み、本来ならこの場のぎこちない空気も和ませることができたはずなのだ。

それなのに肝心の本人はどこかに行ってくると言い残し出て行ってしまったせいで、今は誰がこの状態をどうにかするのだろうかと頭を抱えなければいけない。

 

 

 

 

 

「まぁまぁお二人さんとも、そんなにピリピリしないでください!」

 

 

 

 

 

 

唯一この場にいる賢治だけが場を和ませようとしてくれるのはありがたいことだ。(ただたんに賢治が天然なだけである。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ!僕はあなたに引き取られなくとも自分の足で帰りますよ!・・・・すみません皆さん。助けて頂いたのは大変感謝していますがこちらにも守秘義務というものがありますので失礼させていただきます。」

 

そう言ってから、降谷は最低限の身だしなみを整えて部屋を出て行ってしまった。

 

「国木田さん拙いですよ。」

 

「嗚呼、彼の爆発の原因なども一切判ってない中で唯一の手掛かりを野放しにするのは余りにも危険すぎる。」

 

 

降谷に続いて部屋を出た中島達は探偵社を今まさに出ようとしている彼を必死に引き留めようとした。

 

 

 

「待ってください降谷さん!今外に出るのは危険すぎます!」

 

「僕をその名前で呼ばないでください!何と言われようが僕は帰りますからね!」

 

 

 

 

中島達の話すら聞かずに降谷はドアノブを回し扉を開けた――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは角谷君。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を開けた先に立っていたのは、淡いピンク色の長いロングヘアーで体型も綺麗な女性だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紀伊さん・・・・?」

 

 

降谷の驚きの顔から見るに恐らく『butterfly』の潜入の時に知り合った人間なのだろう。

 

 

「何日ぶりかしらね・・・貴方に会うのは。」

 

「四日か五日ぐらいじゃないですかね。」

 

「もうそんなに時間が経ってるの?昨日のことのように思えてくる。」

 

「えぇ、僕もですよ。・・・・ところで、何で紀伊さんがここにいるんですか?」

 

「えっ?そんなのあなたにはすぐに分かるでしょ?―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――あなたを殺すために決まってるじゃない。」

 

 

 

 

 

「降谷君っ!!!」

 

「降谷さん!!」

 

 

 

二人の会話に気を取られ過ぎて“紀伊”が懐からナイフを出したのを確認するのが遅れた中島達は慌てて降谷と彼女の間に割って入ろうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

グサッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――――――なっ何で君が・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降谷には幸い怪我はなかった―――――が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ降谷さんが無事で好かった・・・・・。」

 

「おいっ敦!!」

 

中島は降谷をかばい、紀伊が向けてきた刃物が彼の腹に突き刺さった。

 

それを物語るかのように中島の腹からは鮮やかな鮮血が流れ出していた。

 

 

 

「なっ・・・・何で?」

 

紀伊自身もこの事態は予測していなかったのか、顔から冷や汗が流れている。

 

「敦しっかりしろ!敦!」

 

「あまり近づくんじゃないよ国木田!」

 

 

 

中島に駆け寄ろうとする国木田を牽制した与謝野は慎重に中島の傷口と側に落ちている刃物を確認する。

 

 

 

 

 

「不味い・・・・。刃物の表面に毒物が塗られているね。早く治療しないと命が危ない。」

 

「・・・っ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でこんなことをあなたがするんですか!?紀伊さん!!」

 

降谷の言葉に紀伊の表情は一瞬曇ったが、すぐに表情を切り換えまるで何人の人々を殺した殺人鬼のように冷酷な顔で降谷達を見た。

 

 

 

「そんなに知りたいなら・・・・私のことを調べたら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――公安の降谷零さん。」

 

彼女はそう言い残し、武装探偵社から逃げるように出ていった。

 

 

「糞っ!今直ぐに追いかけっ」

 

「そんなことしなくていい!!」

 

「はっ!?」

 

後を追おうとした国木田を降谷は大声で呼びとめた。

 

「僕が・・・・彼女を捕まえます。」

 

「巫山戯るな!!此方の社員に怪我人が居るんだぞ!?お前一人なんかに任せてられるか!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「国木田!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「らっ乱歩さん・・・・?」

 

国木田と降谷の間に割って入った乱歩は二人の顔を真剣に見つめた。

 

 

 

「二人とも冷静さが欠けている。一回落ち着いた方が善い。社長と太宰には僕から連絡を入れておく。国木田は与謝野さんと一緒に敦の怪我の措置をしろ。谷崎君と賢治君は周辺に怪しい女性が居なかったかどうかの聞き込みに行ってくれ。」

 

「・・・俺にも何か出来ることはあるか?」

 

 

赤井に話しかけられた乱歩はすぐに赤井の方を向いた。

 

「君には・・・・其処の色黒君から今回のい爆発事故や先程の淑女について訊いてほしい。」

 

「分かった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕のせいだ・・・。」

 

降谷は下を向いて静かに泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを隠すように赤井は降谷を部屋の外へと連れ出した。


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