「国木田君、私ちょっとお腹が痛いのだけど・・・。」
「そうか。なら、今すぐお前の腹を殴って楽にしてやろうか?」
「・・・・エンリョシマス。」
「それがいいですよ太宰さん。」
とある大通りを並んでいる三人組は、武装探偵社の社員の通称“自殺愛好家”、太宰治と、その太宰の世話役をする国木田独歩、そして、最近新しく入社した中島敦である。
彼らは、軍警から違法取引の差し押さえの依頼を受けてある地下施設に向かっていた。
その地下施設の存在を知るものは少なく、中にはバーなどの色々な娯楽店があるらしい。
その地下施設は知っている人達の間では、真夜中のネオンと言われている。
「えっと・・・・。賢治君の話によると、問題の地下施設はこのビルの地下にあるそうです。」
「随分と地味な建物だが本当にここで合っているのか?」
「多分・・・。」
「もう二人とも早く中に入ろうよ!」
「全く・・・。少しは落ち着けんのか貴様は。」
「あははは・・・・。」
この太宰治と言う人間はいつも頭の中で何を考えているのかは同じ職場にいる人間でも誰一人分かる者はいない。
分かってることは自殺が趣味なことと物凄く頭は冴えているということだけだ。
「じゃあ開けますね・・・。」
その時、扉のわずかな隙間から鼻を強く刺激するようなとてつもない臭いがした。
思わず敦も鼻を手で覆って臭いを遮断する。
「如何した敦?具合でも悪くしたか?」
「あっ、さては熱中症かい?なんなら私に移してくれても構わないよ。」
「貴様は馬鹿なのか?熱中症が人に感染する訳がないだろう。」
「其れ位は判ってるよ。例え話に決まってるじゃないか。」
「はぁ・・・。」
虎化の異能力を持っているせいなのか、普通の人には分からない臭いさえも分かってしまうのだろう。
「・・・何か、変な臭いがするんです。その・・・何か焦げ臭い感じの臭いが・・・。」
「焦げ臭いねぇ・・・。」
「取り敢えず中に入ろう。」
「はい。」
国木田に促され、地下施設へと繫がる扉を開けると───
壁から何までが黒ずんでいた。
「こっ此れは一体・・・。」
「若しかしたら、問題の彼の店にも何かあったかもしれない。」
「じゃあ急ぎましょう!!!」
急いで三人は灰が舞う施設の通路を駆け抜けて施設の一番奥、『butterfly』があるはずの場所へと向かった。
しかし、三人がそこに着いた時はそこに店があったのかさえ分からないぐらいに内装やら何やらが灰と化していた。
「そっそんな・・・!!!」
「敦君、諦めるのは未だ早いと思うよ。」
「太宰さん・・・。」
「太宰の云う通りだ。未だ此処に居た奴らが全員死んでいると断定はできんからな。手分けして探そう。」
「はい!」
三人は手分けして店の中を探した。
カウンターらしき所の中や厨房があったと思われる場所、探せる場所はくまなく探した。
だが、どこにも生存者は見当たらない。
あるのは人なのかどうなのかも分からない黒焦げの物体ばかりだ。
「糞・・・!」
「矢っ張り皆死んじゃったんじゃ・・・。」
「敦君、国木田君。此方に来てくれ給え。」
太宰に呼ばれて二人は太宰の声のする方へと行った。
太宰の声を辿って二人が着いたのは大きな鉄の扉の前だった。
扉に文字が書いてあって、灰のせいで霞んでいるが「従業員専用」と書いてある。
「此れかなり頑丈な扉でしょ?此の中に若しかしたら誰か居るかもしれないよ。」
「そうですね。」
「ってことで敦君!此れ開けちゃって!!」
「えっ。」
「はっ?」
「いやぁ試しにさっき開けようとしたんだけど、全然ビクともしないんだよねぇ。多分、爆風か何かの影響で扉が開きにくくなったんだと思う。」
「はぁ・・・。」
「だ・か・ら!頑張って敦君!」
「・・・仕方がない。」
「ええええぇ・・・。判りました・・・。」
渋々返事をした中島は一人扉の前に立つ。
「・・・異能力“月下獣”。」
その言葉を発したと同時に中島の腕は獣の様に醜い腕になり、指先の爪はいつ誰かの喉笛を掻き切るか分からないくらい鋭かった。
そして、虎化した腕で扉を無理矢理開き始める。
「うああああああ!!」
一つずつ留め具のねじも取れ、ついに限界を迎えた鉄の扉が引き剥がれ床に転がる。
「太宰さん!国木田さん!誰か倒れています!!」
「何っ。」
中にいたのは、およそ二十代ぐらいの男性だった。
「だっ大丈夫ですか!?」
「んっ・・・。」
幸い死んではいないようだ。
「敦、急いで探偵社に戻ろう。其奴の手当てをしなくてはな。」
「はっはい!」
男性を軽々と担いだ中島は太宰と国木田に続いてその場を後にした。
「・・・・・か・・・い。」
移動している時に男性がなにか呟いていたが、その声は中島達三人には届かなかった。
▼ ▼ ▼ ▼
「じゃあねーコナン君!哀ちゃん!また明日ー!」
「じゃあなー!」
「また明日ー!」
「おう!またな!」
東京にある町、米花町に住んでいる江戸川コナンは今日も学校での一日を終え、家に帰宅していた。
「・・・工藤君。」
「えっ?あっ・・・どうした灰原?」
そして、一緒にいるのが灰原哀だ。
二人はアポトキシン4869を飲んで体が縮んでまった心は成人に近い小学生一年生なのだ。
「ポアロの人・・・心配なの?」
「あっ・・・あぁ・・・。」
ポアロで働いている毛利小五郎の弟子、安室透はいつもコナンと一緒に居候している毛利蘭が登校する時には店の前で必ず掃除をしているが、今日に限って同じ仕事仲間の梓が掃除をしていたのだ。
それに加えて、昨日から連絡がとれないと話を聞いたコナンは学校での授業にも全く集中ができずにいた。
「あんまり深く考えない方がいいんじゃない?そのうちひょっこり現れるかもしれないし。」
「そっそう・・・だよな。」
「じゃあ私帰るわ。またね工藤君。」
「あぁ・・・。」
灰原を見送りながらコナンは一人その場に佇んだまま動かなかった。
「江戸川コナン君だよね?」
「!・・・僕に一体何の用なの?」
突然声をかけてきた男は全身黒のスーツに身にまとい、黒のサングラスをしているため、見た感じは不審者にしか見えない。
「あぁ・・・別に怪しい者ではない。小さな探偵君に依頼をしにきたのだよ。」
「なっ何で僕なの?僕なんかより小五郎のおじさんに依頼をしたほうがいいよ。」
「いや、これは眠りの小五郎よりも君のほうが適しているのだよ。」
やけにおしてくる男にコナンは溜息を吐いた。
「分かったよ。」
「本当か?じゃあちょっとついてきてもらえないか?」
「?・・・うん。」
疑問に思いながらもコナンは歩き出す男の後を追いかけようとした。
「おい。」
が、突如別の男に手を掴まれた。
「!?」
「どうした江戸川君っ・・・!?」
「よお、生憎だが此奴は俺が先に予約してんだよ。」
「(いや、あんた予約とかしてないだろ。)」
目の前に現れたのは黒のコートを羽織り、黒い帽子を被ったどこかやばそうな雰囲気の男性だった。
「何のつもりなんだ。」
「あっ?其れをそっくり其の儘手前に返してやるぜ。」
落ち着いた対応をしていた男は一転して、冷や汗を流している。
それに何か余裕のない顔をしている。
「今直ぐに此処から失せろ。じゃねぇと、・・・・手前の骨がなくなるぐらいに潰してやる。」
「潰すって・・・・。一体何を言ってるのお兄さん?」
「嗚呼、手前が気にする事じゃねぇ。其れより、少し待ってろ。」
「うん・・・。」
コナンがぎこちなさそうに首を縦に振ると隣の男は静かに微笑んで、コナンの頭を撫でてから前に一歩進んだ。
「まさか、お前・・・。あの中原中也なのか・・・?」
サングラスをかけた男は何かを悟ったらしく、酷く顔が青ざめている。
「命があるうちに逃げた方がいいんじゃねぇか?」
「くっ・・・!!」
ついに諦めたのか、踵を返してどこかへと走り去ってしまった。
「はぁ・・・やっと行ったか。大丈夫かお前。」
「あっうん。ありがとうお兄さん。」
「よし、逃げるか。」
「えっ?逃げるってどういうこと?」
「見て判んだろ。手前は狙われてんだよ。何処の何奴かは知らねぇが。」
「でもっ・・・!」
「安心しろ。そんなに長い時間は逃げねぇから。犯人見つけてぶっ飛ばせば終わりだ。」
「ぶっ飛ばす!?」
「てなことで、行くぞ。」
コナンの返事すら待たずに男は歩き始めた。
「待って!お兄さんの名前は何ていうの?」
「中原中也、ヨコハマでマフィアに入ってる。」
「なっ何でそんな人が僕のところに・・・。」
「手前の名前、江戸川コナン・・・だったよな?」
いかなり自らの名前を呼ばれたので、コナンは思わず跳ね上がってしまった。
「うっうん・・・。」
すると、進めていた足を泊めてコナンのもとへと歩み寄っていった。
「俺は・・・江戸川コナンを・・・。いや、“工藤新一”を守ってほしいって依頼を受けたから此処に居る。」
「えっ・・・・?」
酷く目眩を感じた気がした。