日本には様々な職業が存在するが、その中でも、特に裏社会に関わっている職業と言われると数は大幅に絞られる。
そして、今日もどこかで私達が生活する時、陰の中で静かに彼らは動いている。
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「角谷君!第二テーブルお願いします!」
「はい!」
東京のとある所にあるバー『butterfly』。
そこで働いている色黒の男性、安室透――改め、降谷零は公安の仕事の一環で潜入捜査をしていた。
『降谷さん。そちらに何か変わったことはありましたか?』
耳に付けている小型通信機から聞こえる声の主は彼の部下である風見だ。
「いや、今のところは特に何もない。」
『分かりました。しかし、万が一のことを考えて行動してくださいよ。降谷さんはたまに考えるのを忘れてしまう時がありますからね。』
「分かった。気を付ける。」
「角谷君!早く注文の品出して!」
「あっ・・・はい!・・・・ということだから、僕はとりあえず捜査に戻る。そっちも何か分かったら報告をよろしくたのむぞ。」
『はい。』
通信を切ると、すぐさまワインを持って客のところへ運んでいく。
「お待たせしました。」
「あっ角谷君ありがとう。」
「いえいえ。」
角谷と言う名前はもちろん自分の正体を知られないようにするための偽名だ。
「あ~あ。このお店で飲むワインもこれで最後なのか・・・。」
さっきから話している相手は、一ヶ月前からこの店に訪れる常連客の二十代ぐらいの女性だ。
歳も近いため、よく話も弾む。
「その言い方だと、もしかして今日でここに来店するのは最後になるんですか?」
「まぁ・・・そんな所かな。」
「今までご来店してくださり、誠にありがとうございました。」
「そんなこと言わないでよ。悲しくなっちゃうじゃない。」
そう言って彼女はグラスに入っているワインを飲みほした。
「ずいぶんとすごい飲みっぷりですね。」
「この後仕事だからね。じゃっここに代金置いておくから。」
机に五千円札を置いて彼女は席から立ちあがった。
「ねぇ角谷君。」
「はい、何でしょうか?」
「私、角谷君に名前教えてなかったよね?」
「はっはい・・・。そうですけど・・・。」
そう答えると、店の出入り口に向かう途中で彼女は振り向いた。
「私の名前は
彼女から匂う甘い甘いストロベリーの匂いが鼻を刺激する。
「はい。その時はゆっくり世間話でもしましょう。」
「えぇ。」
出入り口の扉のドアノブに彼女――――紀伊由羽が触れる。
「・・・・その時まで、バイバイ角谷君。」
「・・・さようなら紀伊さん。」
紀伊由羽が出ていった扉を降谷は
「角谷君!何してんの?もう今日は上がっていいよ?」
どのくらい時間が経っていたのか、気付いた時にはもう夜の九時を回っていた。
あの後はいきなり大人数が来店していたから、ばたばたしていて時間が何時間動いていたのかよく分からない。
「じゃあお疲れ様でした。」
「うん!お疲れー。」
すぐさま降谷は更衣室に入り、着替えを始める。
「やっぱり・・・人と別れるのは寂しいですね・・・。」
そう言いながら着替える彼の瞳はいつなのか覚えていない――過去の光景を映していた。
ドゴオオォォォォン――――
しかし、彼の気持ちを無視するかのように――――――――――『butterfly』がある地小さな地下施設が爆発した。
地上ではその爆発現場の近くに薄い茶髪の女性が一人月を見つめていた。
「これじゃあ約束果たせないね、角谷君。」
そこの付近に甘い甘いストロベリーの匂いが漂っていた。