ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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最終話 ニンジャスレイヤー・アンド・マジカルガールハンター・バーサス・ニンジャマジカルガール#9

♢スノーホワイト

 

 スノーホワイトの感覚はかつてないほど研ぎ澄まされていた。空から聞こえるマグロツェッペリンの宣伝放送、ビルの下から聞こえる雑踏の声、ニンジャスレイヤーの身体に触れて蒸発した重金属酸性雨の匂い。周りの様々なものを5感で感じ取れている。魔法で聞こえる困った声もいつもより多くかつ鮮明に聞こえてくる。

 しかしそれらに意識を向けることなくフォーリナーXXXに向ける。今の状態であればフォーリナーXXXに全ての意識を向けながら周りの情報を無意識で処理し、第三者の不意打ちなど状況の変化に対応できるだろう。魔法少女生活の中でも限りなくベストだった。

 

 そして感覚だけではなく精神も研ぎ澄まされていた。ニンジャスレイヤーとフォーリナーXXXは可視化できそうなほどの怒気をお互いにぶつけていた。

 今まで感じたことのない憎悪、ニンジャスレイヤーの憎悪は対象ではないが、精神が強化された魔法少女であっても恐れ慄く程だ。そしてフォーリナーXXXには直接憎悪をぶつけられている。その精神にかかる負荷は甚大だ。

 過去のスノーホワイトであればその場で崩れ落ちはしないが、無意識レベルで動きに影響が出ていた。だが今なら精神は揺るがず無意識レベルでの影響もない。

 あの異様な空間でラ・ピュセルに選択した道を肯定してもらった。それはスノーホワイトの支えとなり、自分なりの清く正しい魔法少女を目指すという理想と決意をさらに強固にした。

 

 スノーホワイトは改めてフォーリナーXXXに意識を向ける。『マンキヘイが居なくなって困る』という声が脳内に響く。だがそれは心情的な意味で戦闘的な意味では然程困っていないと気づく。

 本体より強い戦闘力もさることながら、フォーリナーXXXとの息の合ったコンビネーション攻撃は強力で、あれこそが最大の長所だと思っていた。それが無くなっても困っていないという事実、警戒心をさらに強め、注意を促す意味でニンジャスレイヤーに視線を向ける。だがそれは杞憂だった。

 ニンジャスレイヤーに慢心も油断も一切ない。どんなに弱いニンジャだろうが、どんなに強いニンジャだろうが揺るがぬ殺意を持って全力で戦う。そのブレなさに頼もしさすら覚える。

 

 スノーホワイトは一瞬向けた視線をフォーリナーXXXに戻し駆け出す。その動きから数コンマ遅れてニンジャスレイヤーとフォーリナーXXXの手が動く。

 

「イヤーッ!」

 

 ニンジャスレイヤーは手裏剣を生成しフォーリナーXXXに投げる。フォーリナーXXXは片手で大剣を握り柄で手裏剣を弾き、もう片手で魔法の袋から何かを取り出しばら撒く。その動きはつい先ほどよりさらに速くなっていた。

 地面には小さな人形が10体に全長1メートル程度で円柱に筒がついたものが2つ召喚される、人形は致命傷ではないが隙を作るには充分なダメージを与える攻撃力を持ち、円柱は筒から紫色の球体を射出し、これも隙を作るには充分な攻撃力持っている。どれもスノーホワイトを苦しめた異世界のアイテムだった。

 だが小さな人形の目玉には手裏剣が突き刺さり、円柱の全ての筒に手裏剣が放り込まれると同時に爆発した。ニンジャスレイヤーの手裏剣による攻撃だ。

 その連射力と正確さは友人であり「手裏剣を投げれば百発百中だよ」の魔法を使うリップルの投擲攻撃を思わせる程だった。

 

 スノーホワイトは迷わず駆ける。ニンジャスレイヤーがアイテムによる物量攻撃に対処しながらサポートにまわってもらい、こちらが本体を倒すという役割分担を思い浮かべていた。

 間合いまであと数歩迄近づくがフォーリナーXXXの目や口や耳から粘度が高い液体が一気に噴き出す。スノーホワイトはあれに触れてはマズいと反射的に足を止めバックステップし、その直後に液体が降り注いだ。

 それはスライムのような形状で緑色だった。そのスライムは触手を次々と作り出しニンジャスレイヤーとスノーホワイトに襲い掛かる。

 スノーホワイトは左右から襲い掛かる触手を避けていき、その分だけフォーリナーXXXから離れていく。困った声によってジツの性質の大体を理解した。毒のジツがあのスライムに付与されている。触れた瞬間即死はしないが、毒によって動きが鈍りあのスライムのような触手に握りつぶされ殺される。

 触手を避け続けるその間にフォーリナーXXXは袋からアイテムを取り出し続けていた。ニンジャスレイヤーも手裏剣を投擲するが触手によって阻まれている。    

 触手を盾にしながら手駒を増やし続ける。相手のパターンにハマりつつある。何としてもアイテムの取り出しを防がなければならない。だが触手を搔い潜り接近する術が思いつかない。

 

「近づけスノーホワイト=サン!カラテを込めろ!あの触手はカラテで弾ける!」

 

 ニンジャスレイヤーはフォーリナーXXXに向かいながらアドバイスを送る。カラテを込める?スノーホワイトはアドバイスの意味を理解できなかった。だがこのままではジリ貧なのは理解しており、意を決して近づく。

 前方と右から触手が襲い掛かる。ニンジャスレイヤーのアドバイスは結果的にスノーホワイトに迷いを生じさせ、回避の選択肢が無くなる。

 絶体絶命と呼べる状況だった。だがスノーホワイトに諦めの心は一切なく、カラテという単語から打開策を探す。すると脳裏に己に攻撃を繰り出したニンジャスレイヤーとドラゴンナイトの姿が浮かぶ。

 

「イヤーッ!」

 

 スノーホワイトは気が付けば腹から声を出しながら前からくる触手に前蹴りを繰り出し、ルーラから片手を離し、右からくる触手には右手の裏拳を繰り出した。すると触手は手足に触れる前にはじけ飛んだ。その光景にフォーリナーXXXは思わず目を向く。

 

◆◆◆

 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのチョップを振るい緑色のアンコクトンを弾く。「イヤーッ!」スノーホワイトのストレートパンチが緑色のアンコクトンを弾く。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがボディアッパーで弾く。スノーホワイトがミドルキックで弾く。2人はドサンコの雪道を突き進むラッセル車めいてアンコクトンを弾いて接近する。

 

フォーリナーXXXは魔法によって最初に宿ったニンジャソウルの他に5つのソウルを宿し、合計6つのソウルを宿している。ドク・ジツのホロビ・ニンジャクランのグレーターのソウル。強力な戦闘力を持つカラテデミ人形を召喚する、アーチ級のマギカ・ニンジャのソウル。触れた物を爆発させるバクハツ・ジツ、サソリ・ニンジャクランのグレーターのソウル。

 

この3つのソウルによるジツはニンジャスレイヤーとスノーホワイトに見せていた。そして残ったうちの1つのニンジャソウルの力を使った。それはダイコク・ニンジャのグレーターソウルの力だった。スライムのような物体はアンコクトン・ジツによるもので、その物体は術者の意のままに操れ、敵を拘束し締め付け吸収し糧として増殖する。

 

そしてニンジャ魔法少女はジツを2つ同時に使える。今まではマンキヘイの召喚とドク・ジツの使用を基本としていた。だがマンキヘイが召喚出来なくなったが、その分だけ他のジツとの掛け合わせられるようになった。今はドク・ジツとアンコクトンを同時に使用している。触れただけで毒に蝕まれ、最悪死んでしまうという恐ろしいジツと化していた。

 

そしてアンコクトンにドク・ジツを加える。一見恐ろしいジツに見えるかもしれないが相性は然程良くなかった。アンコクトンはある一定のカラテが籠った攻撃であれば触らずに弾ける。故にドクが付与できず効果を発揮できない。ミヤモトマサシがこの光景を見れば「便利な道具が有りすぎるのも困る」と呟いただろう。

 

ニンジャスレイヤーは過去の経験で知っていたが、スノーホワイトは知らなかった。その魔法は無意識レベルの困った声が聞こえる。だがフォーリナーXXXはジツのテストとして異世界に訪れ、アンコクトンによって相手の抵抗を跳ねのけ多くの命を奪った。その犠牲者の中にアンコクトンを弾けるカラテの持ち主は誰も居なかった。

 

故にフォーリナーXXXは弱点を知らず声にも出なかった。サイオーホースである。だがニンジャスレイヤーのアドバイスによって対策法を知った。そしてルーラでなく素手で攻撃したがその選択は正しかった。この世界にはカラテ伝導率という概念があり、武器は素手と比べカラテが籠らず、ルーラではアンコクトンを振り払えなかった。

 

スノーホワイトはアンコクトンを弾いていく。カラテを込めるという意味は分からなかった。だが今なら何となく理解できる。カラテとは意志の力、それを手足に込めるのがカラテを籠めるという意味だ。スノーホワイトは手足に悪い魔法少女を止めるという決断的な意志と自分と友人達の理想を籠める。

 

「アンコクトン!イヤーッ!」フォーリナーXXXは魔法の袋からアイテムを取り出すのを忘れ、拒絶するようにアンコクトンの触手がクラーケンめいて襲い掛かる。さらに取り出した人形たちも襲い掛かる。波状攻撃だ!「イヤーッ!」しかし左右から迫りくる2人は止められない!2人のカラテはアンコクトンの触手を全て弾き飛ばし人形も破壊する!

 

スノーホワイトはルーラが届く間合いに辿り着く。ニンジャスレイヤーも同程度までに近づく。アンコクトンの障害無し、スノーホワイトはルーラを振り上げ、ニンジャスレイヤーはスリケンを生成し振りかぶる。その瞬間にフォーリナーXXXは魔法の袋から巨大なティーポットに口とオレンジの目がついたオバケめいた物体を取り出し、放り投げた。

 

これは視線を強制的に固定させるマジックアイテムのリトオだ!ナムサン!これはニンジャスレイヤーを敗北に追いやった、魔法によってマバタキ・ジツを再現するマジカルマバタキ・ジツによるセットアップ攻撃だ!フォーリナーXXXは魔法によってスノーホワイトの後ろに移動する!

 

「ンアーッ!?バカナーッ!?」スノーホワイトは回転しながら後ろにルーラを振り抜き、フォーリナーXXXの腹が切り裂かれる!さらにスリケンが肩に突き刺さっている!マジカルマバタキ・ジツ破れたり!思わぬ反撃にフォーリナーXXXは5連続バック転で2人からタタミ5枚分の距離を取る。

 

ニンジャスレイヤーはリトオが飛び出した瞬間に、目を閉じてスリケンを投擲し破壊、そこからニンジャソウル感知によってスノーホワイトの後ろに移動した瞬間にスリケンを投擲した。一方スノーホワイトは魔法で後ろに居ると知られたら困るという声を聞き、姿が消えた瞬間にルーラを背後に向かって振り抜いた。

 

「そんな大道芸が通じると思ったか?オメデタイ頭だ。それに先程のジツはかつてデスドレインというサンシタが同じジツを使っていたが、それ以下だ」「クソが!ワタシをサンシタニンジャと一緒にするな!」「オヌシよりマンキヘイ=サンの方が余程強かった」「お前がその名前を出すな!イヤーッ!」「来る!」

 

CABOOM!フォーリナーXXXはバクハツ・ジツを利用したスプリントによってタタミ5枚分の距離を一気に詰め斬りつける。ニンジャスレイヤーはブリッジで辛うじて回避する。(((あれはバクハツ・ジツ、攻撃だけではなく移動にも使ってくる。何を呆けているフジキド!)))ニンジャスレイヤーのニューロン内でナラク・ニンジャの罵倒が響く。

 

ニンジャスレイヤーは本来であれば完全に躱しきれなかった。だがスノーホワイトの声でコンマ数秒だけ速く動け無傷で回避する。スノーホワイトも魔法と戦闘の経験によってバクハツ・ジツで間合いを詰めてくると察知できた。「イヤーッ!」CABOOM!フォーリナーXXXは即座にUターンし、バクハツ・ジツで加速し大剣を突く!

 

ニンジャスレイヤーはマイめいた動きで半身になり突きを躱す。バクハツ・ジツによる加速を完全に見切ったのだ!タツジン!「イヤーッ!」そこから180°回転しながら空きの側頭部にバックハンドブロー!ニンジャスレイヤーのニューロン内で吹き飛ぶフォーリナーXXXの姿が浮かぶ。だが拳は空を切る。

 

ニンジャスレイヤーはマジカルマバタキ・ジツによる回避だと判断し、即座にソウルを探る。後ろ左右にはいない。「イヤーッ!」CABOOM!フォーリナーXXXが真上からバイオハゲタカめいた勢いで急降下し大剣を振り下ろす!バクハツ・ジツで勢いが増している!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転回避、肩を僅かに斬られる!

 

スノーホワイトは攻撃後の隙をつくように、大剣を振り下ろしたフォーリナーXXXに向かって突く。しかし攻撃は空を切る、マジカルマバタキ・ジツだ!だがスノーホワイトは直前でルーラを停止すると引き戻し真上に向かって突く。そこにはバイオハゲタカめいた勢いで急降下しながら剣を振り上げるフォーリナーXXX!

 

ルーラが寸分たがわずフォーリナーXXXの眉間を貫か……ない!フォーリナーXXXの姿が消える。マジカルマバタキ・ジツでスノーホワイトの後ろに移動している。「イヤーッ!」フォーリナーXXXは片手を大剣に添える。CABOOM!大剣はバクハツ・ジツによって推進力が増加、そのままテニスのバックハンドめいて振る!

 

スノーホワイトは柄で大剣を防ぎ、地面にブレーキ跡を作りながらタタミ5枚分ノックバック、手に残る衝撃にスノーホワイトの顔が僅かに歪む。フォーリナーXXXはスノーホワイトに追撃、手のしびれで数コンマ行動不能だ、アブナイ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがスリケン投擲でインターラプト、フォーリナーXXXの姿が消える。

 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの左からフォーリナーXXXが攻撃、ブリッジ回避、「イヤーッ!」フォーリナーXXXの振り下ろし、ニンジャスレイヤーは連続バックフリップで回避、「イヤーッ!」CABOOM!フォーリナーXXXの追撃ダッシュ突き、殺戮バッファローめいた勢いで迫る!一方ニンジャスレイヤーの態勢は不十分だ!

 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは両手で大剣を挟みケバブめいた死体になるのを阻止!シラハドリ・アーツだ!ゴウランガ!フォーリナーXXXは全身に力を入れる!そのまま串刺しにするつもりだ!「ヌゥ!」ニンジャスレイヤーもカラテを漲らせシラハドリ・アーツを維持し抵抗する。

 

「イヤーッ!」フォーリナーXXXはマジカルマバタキ・ジツで後ろに瞬間移動からカラテボレーキック!「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの首は95°に曲がり、キリモミ回転しながら吹き飛ぶ!フォーリナーXXXは大剣をキャッチするとニンジャスレイヤーに決断的にトドメを刺しに行く!しかし進行方向上にはスノーホワイトがいた。

 

「イヤーッ!」フォーリナーXXXはスノーホワイトを無視し、マジカルマバタキ・ジツでニンジャスレイヤーの元へ移動、そのまま剣を振り下ろす。ニンジャスレイヤーはワームムーブメントで回避、スノーホワイトはニンジャスレイヤーをカバーするように駆け寄る。何たるマジカルマバタキ・ジツとバクハツ・ジツを合わせた神出鬼没かつ高速移動カラテか!

 

2人は死角を減らすように背を合わせ、フォーリナーXXXは追撃せず機を窺うように2人の周りを移動する。おお見よ!フォーリナーXXXの身体が2つ3つと増えていく!まさかブンシンジツを使えるのか!?否!これはバクハツ・ジツの高速移動とマバタキ・ジツによるランダム出現による錯覚である。

 

その速さはお互いに死角をカバーして辛うじて目で追えるほどだ。2人は背を合わせてハカイシめいて動かない。安易に仕掛ければ翻弄され手痛い一撃を受けると分かっていた。相手の隙をついて攻撃する。フォーリナーXXXは動き回り、2人は動かない。イクサはサウザンド・デイズ・ショーギめいた状況になる。

 

「それで凌いだつもりか!」フォーリナーXXXは叫ぶと同時に魔法の袋に手を入れる。「「「「ザッケンナコラーッ!」」」」スーツを着た角刈りの男性が1ダース現れる!これはクローンヤクザだ!テレビゲームめいた演出をするために雑兵用として購入して収納していたのだ!2人を取り囲むように現れる!その手にはマシンガン!

 

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは飛び上がりヘリコプターめいて回転し360°にスリケンを投げる!ヘルタツマキだ!「「「「グワーッ!」」」」クローンヤクザの眉間にスリケンが刺さり緑の血をシャンパンめいて噴出させる。全員即死!サツバツ!

 

「イヤーッ!」フォーリナーXXXがニンジャスレイヤーの真上に出現!大剣を振り下ろす!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはオーバーキックめいた蹴りで大剣の側面を叩き軌道を変える!ワザマエ!「イヤーッ!」フォーリナーXXXは即座に大剣を左逆袈裟に振り上げる!イアイドーの奥義スワローリターンだ!

 

「ンアーッ!」スノーホワイトが間欠泉めいた急上昇と同時にルーラでフォーリナーXXXの腹部を切り裂く!スワローリターン不発!痛みと動揺で無様に地面に落ちる寸前に何とか着地する。スノーホワイトが近づくスピードがハヤイすぎる!何をやった!?

 

ここで読者の皆様はニンジャスレイヤーの足元に注目していただきたい、フックロープがついており、その先はスノーホワイトの手に巻かれている。ニンジャスレイヤーの蹴りは防御だけではなく、蹴りの動きによってスノーホワイトを引っ張り上げる狙いもあった。そしてスノーホワイトはタイミングを合わせ飛び上がる。

 

さらにフックロープの巻き上げも利用した。その上昇スピードは通常の10倍である!何たる長年組み続けた傭兵めいた即興コンビネーションか!これはスノーホワイトがニンジャスレイヤーのフックロープを出したと同時に魔法で意図を察し、かつブリーフィングで巻き上げ機構の存在を知っていたから実現可能なコンビネーションである!タツジン!

 

◆フォーリナーXXX

 

 フォーリナーXXXに痛みが駆け巡る。普通のニンジャや魔法少女であれば多少怯むが、今はマンキヘイを失った怒りや攻撃を受けた怒りでアドレナリンが過剰分泌し、然程感じない。

 ニンジャスレイヤーとスノーホワイトが左右から挟み込むように追撃する。これまでに魔法を応用した瞬間移動攻撃は2度破れた。マジックアイテムを利用した攻撃も見破られ、バクハツ・ジツを使った攪乱攻撃も決定打を与えられなかった。これ以上は多用しない方がいい。瞬間移動攻撃の使用を控える方針に切り替える。

 フォーリナーXXXは腰を低くし迎撃態勢を取る。先に近づいてくるニンジャスレイヤーに対しては大剣を2度3度振るい、ニンジャスレイヤーは懐に入れず足を止める。スノーホワイトはルーラで喉元を突いてくる。ギリギリまで引き付けて刃の側面を払い軌道を逸らす。

 スノーホワイトは立て続けに攻撃するがフォーリナーXXXは全て対処する。上段振り下ろしは裏拳で払い、中断の薙ぎ払いはチョップで叩き落とし、下段の切り払いは足の裏で刃を踏みつけ、ルーラは床のアスファルトに埋まる。

 それと同時にスノーホワイトに踏み込み大剣を振るう。致命傷は与えられないが肩や脇腹が斬られ衣服の一部が宙に舞う。

 ニンジャスレイヤーが背後から首を刈り取ろうとチョップを繰り出すが、即座に振り返りチョップを手のひらで止め押し出すような蹴りで、ニンジャスレイヤーを吹き飛ばす。

 

 フォーリナーXXXはこの戦いでの方針を変更する。攻撃と防御の比率は7:3ぐらいだったが、3:7で防御を優先するようにした。

 今までは攻撃では常に致命傷を与えようと剣を全力で振るい続けてきた。威力を出そうと全力を出せば出す程躱された後に隙が生まれる。今は隙が生まれないように余力を残し当てるだけの攻撃にする。

 当てるだけの攻撃では敵の命は取れない。だがフォーリナーXXXの場合は違う。ドク・ジツによって触れるだけで少しずつ毒が回り、戦闘力は低下していく。

 ドク・ジツは毒物に耐性がある魔法少女のスノーホワイトにも利くのは最初の戦いで判明している。ニンジャスレイヤーにも恐らく利く。相手に触りながら防御に徹し当てるだけの攻撃で削っていき、毒が回った後に攻撃重視にして相手の命を絶てばいい。

 

 フォーリナーXXXはスノーホワイトに大剣を振るう。連撃重視の軽い攻撃で相手を牽制する。だがスノーホワイトは狙いを見透かしたように攻撃を受けながら間合いを詰め、攻撃を繰り出す。

 まるで心を見透かしたかのような行動、それはフォーリナーXXXにとってある意味予想通りだった。魔法を理解してはいないが思い通りにいかないとは思っていた。

 フォーリナーXXXはスノーホワイトの中段の突きをチョップで下に叩き落とす。だがスノーホワイトは直前でスピードが落ちると同時に刃が下から上に向きを変え、柄ではなく刃の部分にチョップが当るように調整する。しかしフォーリナーXXXはチョップを縦から横に軌道を変え弾く。

 

 フォーリナーXXXは6つのソウルのうちの1つである。ライデン・ニンジャのソウルを使っていた。その力は雷を操作するもので電撃を相手に当てるなどが主な使用方法で、今までは主にその用途で使用していた。

 そしてライデン・ニンジャクランの者は電撃を当てる以外にも体内の電気信号を操るなどして、身体能力や反応速度の上昇の用途で使う者もいた。そして今は後者の用途で使用している。

 この瞬間までは試したことは無く、漫画で電気の力をそのように使用しているのを思い出し、ぶっつけ本番で試して成功した。

 結果反射神経と身体能力は格段に上がり、散々苦しめられたスノーホワイトが魔法で相手の思考を読むような攻撃も、斬撃を変化させても変化する前に叩き落とすか、変化しても対応可能になっていた。

 

 スノーホワイトの攻撃を防ぎながら当てるだけの攻撃を繰り出す。今のフォーリナーXXXとスノーホワイトのスピード差は当初以上に広がり、スノーホワイトは相手の狙いが分かっていながらも斬りつけられていた。

 

「攻撃重視で!」

 

 スノーホワイトは声を出しながら攻撃を続ける。すると背後からニンジャスレイヤーが片目を赤く光らせメンポから蒸気を発しながら近づいてくる。その様子を見てフォーリナーXXXはスノーホワイトの防御をこじ開け、腹部に押し出すような蹴りを叩き込み吹き飛ばす。

 今のニンジャスレイヤーはマンキヘイと一緒にやられかけた時の雰囲気に似ている。2人同時に相手する時間を限りなく減らす必要がある。

 フォーリナーXXXはニンジャスレイヤーが間合いに入った瞬間大剣を振るう。スノーホワイトのアドバイスで防御重視のスタイルはバレた。そのままでは被弾覚悟で素手の間合いに入られる可能性がある。攻撃の比重を少し上げる。

 

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」

 

 突き、下段横薙ぎ、中段横薙ぎ、出来るだけ隙が無く、かつ躱しにくい攻撃を繰り出す。防御に比重を置いているが、それでも一撃で致命傷になる攻撃を繰り出す。それをニンジャスレイヤーは躱していく。

 動きの速さや剣を弾く衝撃の重さ、確実に戦闘力は増している。先程までなら一撃ぐらいは当っているはずだ。さらに一撃繰り出すごとに動きは速くなり目の赤い輝きは増している。

 

「イヤーッ!」

 

 フォーリナーXXXは胴体への横薙ぎを繰り出す。ニンジャスレイヤーは身を屈め下を掻い潜る。強化された反射神経が大剣を即座に止め返す刀でしゃがみ込んだニンジャスレイヤーを斬りつける。

 だがニンジャスレイヤーはそれより早くクラウチングスタートの態勢からフォーリナーXXXの懐にダッシュする。その瞬間握っていた大剣を即座に放した。

 

「イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!」

「イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!」

 

 ニンジャスレイヤーとフォーリナーXXXは超ショートレンジでの打ち合いをする。フォーリナーXXXは懐に侵入されると察知し即座に大剣を手放し素手に切り替える。その判断は正しく、剣を振り切っていればニンジャスレイヤーの徒手空拳により、手痛い一撃を受けていた。そしてライデン・ニンジャのソウルの力が無ければ間に合わなかった。

 さらにフォーリナーXXXはニンジャスレイヤーに向かって一歩踏み込み、超ショートレンジの打ち合いに持ち込む。この間合いは強化された反射神経とスピードを最も生かせる間合いだった。

 

「イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!」

「イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!」

 

 ニンジャスレイヤーの動きは隙が大きいがスピードは想像以上に速く、一撃繰り出すごとに速く重くなっている。だがフォーリナーXXXにはまだ余裕が有った。

 攻撃の意識を無くしニューロンの電気信号を射程に入った攻撃を叩き落とせという単純なものにし、反応速度はより速くなる。今は意識がほぼなく反射だけで動いていた。さらに防御すれば相手に触るので、少しずつ確実に毒を与えられる。

 フォーリナーXXXは背後からスノーホワイトが迫ってくる気配を感じ、攻撃を捌きながらスノーホワイトとニンジャスレイヤーが見える位置に移動する。今のニンジャスレイヤーを相手にしながら背後から来るスノーホワイトの攻撃を防ぐのを流石に厳しい。

 ニンジャスレイヤーは距離を詰めず蹴りも出せる間合いに留まる。そのコンマ数秒後にスノーホワイトが近づき、2人は左右から同時に攻撃する。

 フォーリナーXXXはより守備に意識に向けて思考を単純化する。射程に入った攻撃を弾く。あとは何も考えるな。そうすればニンジャスレイヤーは毒で弱体化する。

 

 フォーリナーXXXは射程に入った攻撃をひたすら弾いた。2人の攻撃は強者と呼ばれるニンジャや魔法少女でも捌き切れるものではない。ただフォーリナーXXXの反射速度が圧倒的に速かった。

 フォーリナーXXXは2人の攻撃を捌き続ける。何も考えず体の反射に任せ捌く、それだけに思考を没頭させる。怒りや憎しみもこの瞬間は消え去っていた。

 攻撃を捌き続け十数秒が経過したのを境にフォーリナーXXXの思考にノイズが走る。弾こうとした攻撃が弾けない。正確には弾こうと動いた瞬間に射程から離れていく。その回数は時間が経つごとに増えていく。

 これは良くはないか?だが脳内に浮かぶ漠然とした不安を押し込み、思考を体の反射に身を任せ、攻撃を弾く事のみに没頭する。

 

「イヤーッ!」

「ンアーッ!」

 

 フォーリナーXXXの脳内を占めていた弾くという思考は強烈な痛みと衝撃に塗り替えられていた。

 

◆◆◆

 

「ンアーッ!」ニンジャスレイヤーのポンパンチが腹部に直撃しフォーリナーXXXはワイヤーアクションめいて吹き飛んでいく!(((所詮は何でも食らいつくタボハゼなり!儂の助言が無ければ防御を破れぬお前のカラテの惰弱さには呆れかえるわ)))(((黙れナラク)))ニンジャスレイヤーはニューロン内に響くナラクの罵倒を切り捨てる。

 

フォーリナーXXXのニンジャ魔法少女としてのカラテとライデン・ニンジャクランのジツを合わせた防御は超高性能迎撃ミサイルめいてニンジャスレイヤーとスノーホワイトの攻撃を防いだ。実際鉄壁かと思われたがナラクのアドバイスによってフォーリナーXXXの防御を崩す。

 

ライデン・ニンジャクランのジツにより反応速度と身体能力を上げ、余計な思考を挟まないように射程に入ったら攻撃を弾くという思考のみに集中し、無慈悲な迎撃マシーンと化し、攻撃を防ぐ。それはインテレセプション・ディフェンスと呼ばれ、ライデン・ニンジャクランの名を轟かせた。しかし時が経つにつれ廃れ使用されなくなった。

 

この防御は射程に入った攻撃を自分の意志に関係なくオートで迎撃する。それが弱点だった。ニンジャスレイヤーは攻撃しながら射程を見極め、防御の射程に入った瞬間に攻撃を止め、次の攻撃に移行する。即ちフェイントである。タツジンであれば相手のカラテでフェイントかどうかは判別できる。だがオートで迎撃するが故に判別できず全てを弾こうとする。

 

フェイントに反応するだけ無駄な動きを強いられコンマ数秒の隙となる。フォーリナーXXXはニンジャスレイヤーのフェイントに全て反応してしまい、隙が広がり続け、攻撃を受ける決定的な隙を作ってしまった。何たる30手先のオオテツミを予測できるアドバンズドショーギ名人めいたカラテか!

 

そしてスノーホワイトもニンジャスレイヤーと同じ作戦をとっていた。スノーホワイトの魔法は本人が無意識に困っている思考も聞き取れる。フォーリナーXXXは無意識に弱点を想像してしまい、それが困った声になってしまっていた。これが理想を実現するために鍛えた魔法の恐ろしさである!マジカル!

 

2人は好機と見てフォーリナーXXXにトドメを刺さんとスプリントする。「イヤーッ!」フォーリナーXXXはバウンドしながらも腕を前方に翳し手のひらを握る。スノーホワイトは突如前転する。その頭上をシンカンセンめいた勢いで何かが通り過ぎ髪の一部をカットする。アブナイ!

 

その物体はフォーリナーXXXの手に収まる。それはフォーリナーXXXの大剣である。まるで意志を持つかのように戻ってきた。これは6つのソウルのうちの1つ、念動力で物体を操作するタナカ・ニンジャのグレーターソウルの力である。「調子乗ってんじゃねえぞ!非ニンジャと非魔法少女のクズが!イヤーッ!」

 

シャウトと同時に大剣が浮遊しその上にフォーリナーXXXが乗り、殺人カジキマグロめいた勢いでスノーホワイトに向かって突っ込む!スノーホワイトは即座に横っ飛びで回避する。大剣をルーラで受け止めようとすれば、上に乗っているフォーリナーXXXの攻撃を防げないと魔法で察知した。

 

「イヤーッ!」フォーリナーXXXは大剣から飛び出しスノーホワイトに飛び蹴りを繰り出す。CABOM!スノーホワイトはボールめいてバウンドしながらはじけ飛ぶ。さらにフォーリナーXXXは反動を利用して大剣の上に乗り、サーファーめいて移動する。

 

スノーホワイトは脇腹を触りダメージを確認する。肉の焦げた匂いとダメージ具合、バクハツジツの蹴りだ。ニューロンに駆け巡る痛みを魔法少女としての意志と決意で抑え込み、フォーリナーXXXを睨みつける。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはフォーリナーXXXにスリケン投擲。「イヤーッ!」フォーリナーXXXはスリケンを掴み取り投げ返す!

 

「イヤーッ!」フォーリナーXXXはスノーホワイトにUターンして突っ込む。スノーホワイトは脇腹を斬られながらもサイドステップでギリギリ回避!「イヤーッ!」大剣の上からヤリめいた蹴り!スノーホワイトは腕をクロスさせてブロック!タタミ2枚分ノックバックする!

 

「イヤーッ!」フォーリナーXXXは魔法の袋から槍を取り出しながらスノーホワイトにUターンして突っ込む。スノーホワイトは頬を斬られながらもサイドステップでギリギリ回避!「イヤーッ!」フォーリナーXXXは大剣上からヤリを突き下ろす!スノーホワイトはルーラで辛うじて防ぐ!

 

「イヤーッ!」フォーリナーXXXはニンジャスレイヤーに向かって突っ込む!ニンジャスレイヤーは二の腕を斬られながらサイドステップ回避!「イヤーッ!」フォーリナーXXXは大剣上からヤリを突く!ニンジャスレイヤーは側転回避!頭上をヤリが通過する!カミヒトエ!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」フォーリナーXXXは東京湾を泳ぐ殺人マグロめいて2人に襲い掛かる!大剣による突撃とフォーリナーXXXによる2段攻撃、それはカラテ馬セキトバに乗り屍の山を築き太古のアジア大陸をアビインフェルノと化したリョフ・ニンジャを想起せざるを得ない!二人は防御に徹する!

 

「キヒヒヒ!どうした!どうした!守っているだけじゃ勝てねぞ!」フォーリナーXXXは攻撃しながら魔法の袋から物を取り出し周りにばら撒く。ばら撒いた先にゾンビめいた生物が出現する。「イヤーッ!」「アバーッ!」ゾンビめいた生物の両目にスリケンが刺さる!即死!「イヤーッ!」「グワーッ!」フォーリナーXXXの突撃!

 

「GRAHHH……」カートゥーンめいたゴーレムが唸り声をあげる。スノーホワイトはゴーレムに向かって走る!あれを放置したらマズい。「GRAHH!」スノーホワイトは頭部をルーラで切り飛ばす。「イヤーッ!」その隙を狙ってフォーリナーXXXの突撃!スノーホワイトの背中が斬られる!

 

「イヤヤヤヤヤヤーッ!」フォーリナーXXXは移動しながら袋からアフリカの投げナイフめいた物体を連続投擲し悪夢めいた曲線を描きながら2人に向かっていく。明らかに異世界のマジックアイテムだ!ニンジャスレイヤー達は動きに惑わされず弾き、回避する。その間にフォーリナーXXXは袋からユニットを召喚する。

 

「アバーッ」「ザッケンナコラー!」フォーリナーXXXの袋から召喚されたユニットが加速度的に増加している、それ以外にも遠距離攻撃ユニットからカラテミサイルめいた物体が発射されていく。ニンジャスレイヤーとスノーホワイトも片っ端から召喚ユニットを破壊していくが、それ以上に召喚されていく。

 

「これがニンジャ魔法少女のフーリンカザンだ!ニンジャスレイヤー=サン!スノーホワイト!」フォーリナーXXXは高らかに叫ぶ。辺りはフォーリナーXXXのユニットで埋め尽くされていく!なんたる異世界で強奪した武器と魔法の袋を生かした物量攻撃か!まさに1人軍隊と呼ぶにふさわしい戦力である。

 

 

◆ファル

 

 数の暴力、それはシンプルにして恐ろしい。どんな優秀な魔法少女でも普通の魔法少女が数百人単位で襲い掛かられれば勝てない。それ程までに数の力は強い。

 しかしフォーリナーXXXが召喚したゾンビなどの雑兵は魔法少女に比べて遥かに弱く、何百何千集まろうが物の数ではない。塔みたいなものもビームを球体にした何かを発射するが銃弾程度のスピードで魔法少女にとって躱すのは難しくなく、問題ではない。だがその雑兵に魔法少女が加われば話は全く違う。

 これだけの雑兵と遠距離ユニットに攻撃されれば、魔法少女でも無傷は難しい。何発は攻撃を喰らうだろう。現にスノーホワイトも中東のテロ組織を壊滅させた際にも銃弾を何発か貰っていた。

 魔法少女でも銃弾を貰えば痛く、当たった場所次第では行動が制限される。それはほんの僅かな隙となり、魔法少女同士の戦いでは致命的になる。

 

「イヤーッ!」

 

 ニンジャスレイヤーは手裏剣を投げながら襲い掛かる雑兵を破壊し、遠距離ユニットから発射されるエネルギー弾を回避していく。それはまさに波状攻撃と言って差し支えない。その波状攻撃に便乗するようにフォーリナーXXXが大剣に乗って突っ込んでくる。

 ニンジャスレイヤーは大剣を躱し切れず胸が裂かれ、大剣の上に乗るフォーリナーXXXの槍の攻撃を辛うじて躱す。その直後にクローンヤクザがマシンガンを乱射する。身を屈めながら回転するとクローンヤクザは叫び声をあげながら倒れる。額には手裏剣が刺さっている。

 

 フォーリナーXXXはニンジャスレイヤーに再度襲い掛からず、急角度で方向転換し雑兵に取り囲まれているスノーホワイトに向かって突撃する。

 スノーホワイトはルーラで雑兵3体の胴体を両断し、即座にバク転とルーラで大剣と槍の攻撃を防ぐ。そしてバク転した先にある塔の形をした遠距離攻撃ユニットを着地しながら破壊する。その地点に雑兵たちが群がり押し寄せる。

 

 物量攻撃をしかける相手には範囲攻撃か圧倒的な手数が有効だ。だがスノーホワイトの魔法ではその2つは出来ない。そしてニンジャスレイヤーは手裏剣によりその両方ができる。

 それはフォーリナーXXXも知るところであり、雑兵たちを殲滅されないように攻撃頻度がスノーホワイトと比べ多く、手裏剣を投げる隙を与えない。このままでは物量作戦に押し切られる。だがそれは数日前の話だ。

 

「グワーッ!」

「GRAAHH!」

 

 炸裂音とマズルフラッシュが雑兵達を照らすと同時にクローンヤクザが緑色の血飛沫をまき散らし、岩のゴーレムが粉々に砕ける。スノーホワイトの左手にはマシンガンが握られていた。

 スノーホワイトは空になったマシンガンで近くの雑兵を殴り飛ばし、投げ捨て別の雑兵を破壊する。そして魔法の袋に手を入れて手榴弾を取り出すとピンを引き抜き、遠距離攻撃ユニットに投げ込む。爆音が鳴り響き遠距離攻撃ユニットは粉みじんに砕ける。

 

 ネオサイタマという都市はスノーホワイトが住んでいる世界の治安が悪い都市と比べても物騒であり、そういった場所には往々にして自衛用の武器が流通している。

 ファルはフォーリナーXXXと戦う前にナンシーを通して銃火器を調達してもらった。ネオサイタマでは金さえ払えば驚くほど簡単に手に入る。

 フォーリナーXXXには銃器での攻撃は当らないのは分かっている。それでも何かの役に立つかもしれないと必死に説得して持たせた。

 スノーホワイトが持つ魔法の袋は容量オーバーになることは決してなく、大は小を兼ねるではないが、持っていく分には損はしない。そして見事に役に立った。

 銃火器はフォーリナーXXXには通用しないが雑兵達を破壊するには充分な火力があり、何より足りない手数を補ってくれる。

 

 スノーホワイトは移動しながら雑兵を倒していく。片手でルーラを振り回し、空いた片手でマシンガンを操作しルーラの範囲外にいる雑兵達を破壊していく。その破壊スピードはフォーリナーXXXが召喚するスピードより速い。

 

「イヤーッ!」

 

 フォーリナーXXXが大剣に乗ってスノーホワイトに襲い掛かる。スノーホワイトはギリギリで大剣と槍の2段攻撃を避けると、即座にUターンして戻り何度も攻撃を仕掛ける。このままスノーホワイトを放置しているとマズいと判断したのだろう。

 

「イヤーッ!」

 

 そうなるとニンジャスレイヤーが空く。空高く飛びあがるとヘリコプターのように回転しながら手裏剣を投擲し、次々と雑兵や遠距離攻撃ユニットが破壊されていく。

 いくらスノーホワイトが銃火器を使おうが、手数や範囲攻撃という面ではニンジャスレイヤーが勝っているようだ。

 フォーリナーXXXはスノーホワイトから離れる。だがニンジャスレイヤーに向かうでもなく2人の中間地点に向かう。

 

 フォーリナーXXXは一瞬苦虫を潰したような顔を見せるが、即座にいつもの表情に戻り、魔法の袋から雑兵を取り出すのをやめ、大剣に乗って槍の攻撃だけをスノーホワイトとニンジャスレイヤーに繰り返す。

 大剣と槍の2段攻撃は非常に厄介だ。大剣の殺傷能力は充分で直撃すれば胴体が真っ二つになる。防御しても動きが止まり大剣に乗ったフォーリナーXXXの槍攻撃の餌食になってしまい、避けても大剣上のフォーリナーXXXが避けた方向に攻撃してくるので回避しづらい。スノーホワイトもニンジャスレイヤーも回避できるが、何とかといった様子だ。

 近づかれる前に遠距離で仕留めようとスノーホワイトは拳銃や手榴弾で攻撃するが、上に居るフォーリナーXXXはあっさりと防御し回避し、ニンジャスレイヤーの手裏剣も同様に防がれる。フォーリナーXXXの攻撃を未だに攻略できていない。

 そしてフォーリナーXXXの攻撃は徐々に苛烈さを増していく。魔法少女やニンジャの動体視力を持たないファルにはフォーリナーXXXが何人にも見える。それほどまでの速さと俊敏性だった。

 

 フォーリナーXXXはニンジャスレイヤーに攻撃を仕掛け、通り過ぎると即座にUターンし襲い掛かる。ニンジャスレイヤーは振り向いて対応すると思いきや、振り向かず全速力で走り始めた。ニンジャスレイヤーの全力疾走の方がフォーリナーXXXより速く、徐々に引き離していく。そして進行方向にはスノーホワイトが居た。

 スノーホワイトもニンジャスレイヤーの意図が読めず一瞬困惑するが、何かを察したのか表情が戻り、ニンジャスレイヤーにぶつからないように横にずれる。

 そしてニンジャスレイヤーはスライディングでブレーキをかけながら地を這う姿勢でフォーリナーXXXに正対し、スノーホワイトは守るようにニンジャスレイヤーの前に立つ。

 

 一方フォーリナーXXXの顔に獰猛な笑みを浮かぶ。このまま重なった2人を殺そうとさらにスピードが増す。スノーホワイトは足を広げ重心を低くし構える。迎撃するつもりだ。だが大剣を止めてもフォーリナーXXXの槍を避けられず、上に居るフォーリナーXXXを攻撃しても大剣を避けられない。どうするつもりだ?

 フォーリナーXXXがあと数メートルまで迫ったところでスノーホワイトのスカートが一陣の風によって靡く。それと同時にスノーホワイトは突きを繰り出す。

 この突きは手のひらに石突を乗せ、全身の力を収縮させ腕を捻りながら突く。回転により貫通力と破壊力は通常の突きより上昇する。以前スノーホワイトが戦った薙刀使いの華刃御前に教えを乞い、編み出した技である。この技で大剣上のフォーリナーXXXを倒すつもりだ。

 だがこの技は大技に分類され、攻撃後の隙は大きい。仮にフォーリナーXXXを倒せても勢いがついた大剣を避けられない。まさか相打ち狙いなのか!?自己犠牲で倒すつもりか、自棄になってはならないと声をかけようとするが、ファルの反応速度では間に合わない。

 ルーラがフォーリナーXXXに刺さると同時にスノーホワイトの体が真っ二つになる惨状のイメージが浮かび上がる。

 

「イヤーッ!」

「ンアーッ!」

 

 だが目の前では脳内のイメージとは全く違った光景が映っていた。まず何かの破片がスノーホワイトに向かっていく。そしてフォーリナーXXXが叫び声をあげながら打ち上げられている。一体何が起こった!?

 ファルの思考が目の前の出来事を推理していく。フォーリナーXXXを打ち上げたのはニンジャスレイヤーだ、上に向かってドロップキックを放ったような態勢を見て推測する。そして徐々に全容が見え始めていた。

 

 スノーホワイトが技を出す前にスカートを翻した一陣の風、あれはニンジャスレイヤーによるものだ。脚を広げたことで出来た空間をニンジャスレイヤーは高速スライディングで通り抜けた。そして勢いそのままにフォーリナーXXXの大剣の下に向かった。そこから逆立ちをするように全身の力を使って跳ね起き、ドロップキックのような蹴りを繰り出し、大剣を粉々に砕きフォーリナーXXXを蹴った。

 だがその蹴りだけでは大剣を壊しフォーリナーXXXにダメージを与えるのは不可能だ。だがスノーホワイトの助力があれば可能だ。

 スノーホワイトは突きをフォーリナーXXXではなく大剣に向けて放った。そして突きは刃先に当った。ルーラは魔法の国製の武器で途轍もなく硬い、硬いということは破壊力も上がる。

 そのルーラに魔法少女の力が加われば相当の衝撃になる。ましてや大剣のスピードも上乗せされ衝撃はさらに増す。そしてスノーホワイトの衝撃に加え、別方向からニンジャスレイヤーの攻撃による衝撃も加わった。

フォーリナーXXXが持っているからには大剣もそれなりに名品だろうが、一たまりもない。

 将を射んとする者はまず馬を射よではないが、大剣に乗るフォーリナーXXXが厄介であれば大剣ごと破壊して攻撃すればいいという豪快な発想だ

 

 口で言えば簡単だが、今の攻撃は相当に難しい。まずスノーホワイトだがいくら大剣と云えど剣だけに刃先は相当に薄い、それに大技をピンポイントに当てた。なんという精密動作か。今までのスノーホワイトでは出来なかった。これも覚醒によって成長した、いや想いの強さが為せた技だ。

 そして大剣を壊すには2人が同時に攻撃しなければならない。許される誤差はコンマ数秒単位だろう。スノーホワイトにはできない。大技を刃先に当てるという精密動作をしながらタイミングを合わせるのは無理だ。

 だとしたらニンジャスレイヤーだ、スノーホワイトを見ながら見事にタイミングを合わせたのだ、これがニンジャを殺し続け培った技術なのだろう。大したものだ。

 

 ニンジャスレイヤーはフォーリナーXXXより先に着地する。その際に片膝立ちで着地している。このまま止めの攻撃を繰り出そうとしているのはファルにも分かった。そしてスノーホワイトも落下地点に駆け寄るとルーラを構える。同じように止めを刺すつもりだ。

 だがフォーリナーXXXの体が消え、落下地点とは別の場所に出現する。瞬間移動で難を逃れたか、だがダメージも大きいはず、そのチャンスを逃すわけがないと2人は近寄る。

 

「イヤヤヤヤヤーッ!」

 

 フォーリナーXXXは魔法の袋から3本の槍をとり出し、その直後に大量の雑兵と遠距離攻撃ユニットを袋から取り出し散布し、2人から距離を取った。

 

◆◆◆

 

「「「「ザッケンナコラー!」」」」「「「「「GRAHH!」」」」」「「「「「「キシャーッ!」」」」」」魔法の袋から取り出された雑兵達がニンジャスレイヤー達に襲い掛かる!その数30体!さらに元からいた雑兵達も襲い掛かる!何たるゾンビ―めいた光景か!「イヤーッ!」「「「「グワーッ!」」」」」ニンジャスレイヤーのボトルネックカットチョップでクローンヤクザ死亡!

 

「「「「「GRAHH!」」」」」スノーホワイトがコマめいて回転しルーラを振るい、ゴーレムの首は黒ひげ人形めいて吹き飛ぶ!サツバツ!「「「「「キシャーッ!」」」」」単眼人形がピラニアめいて襲い掛かる!「「「「「アバーッ!」」」」」単眼人形はキリタンポめいてルーラに全て串刺し!タツジン!

 

邪魔する雑兵は全て破壊!だがまだ塔の遠距離攻撃ユニットが残り、砲台から今にも発射しようとしている!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのスリケン投擲!砲台にスリケンは吸い込まれる!ストライク!直後に塔の遠距離攻撃ユニットは爆発!ワザマエ!これで障害物はなし!

 

スノーホワイトはフォーリナーXXXに向かい決断的にスプリントする。残り距離タタミ15枚分、その瞬間スノーホワイトの感覚が泥めいて鈍化する。フォーリナーXXXの周りに3本の槍が衛星めいて回っている。その1本の柄頭がフォーリナーXXXの人差し指と中指の間に乗り、振りかぶる。

 

「ヒサツワザ!イヤーッ!」(((スノーホワイトに避けられたら困る)))困った声が聞こえる。あの動作は槍を投げるつもりだ、避けなければ。体中の神経をヤリに向ける。(((頭に投げるけど避けられたら)))魔法によって攻撃箇所を絞り込む。これで避けやすくなる。CABOOM!爆音が鳴り響いた瞬間に体感時間がいつもの速さに戻る。

 

「スノーホワイト!」ファルの声が響く。ルーラが空高く舞いスノーホワイトの顔は鮮血に染め上がり、仰向けになって死人めいて動かない。フォーリナーXXXは驚愕と憤怒の表情でスノーホワイトを見つめ、ニンジャスレイヤーは倒れるスノーホワイトに視線を向ける。

 

ニンジャスレイヤーのニンジャ動体視力は今の攻撃を辛うじて捉えていた。フォーリナーXXXはスノーホワイトの頭部に向けてヤリを投げる。だがその威力と速さは流星めいて凄まじかった。まともに受ければニンジャであってもスイカめいて破裂する。そうなっていないのは狙いが外れたからだ

 

「実際キツイな」フォーリナーXXXは目や鼻から血を流しながらぼやく。ニューロンに突如アイディアが浮かび上がり試したが恐ろしい負荷だ。結果として狙いが僅かに逸れスノーホワイトを殺せなかった。しかし威力は悪くはない、スノーホワイトの後方のビルに生じた直径数メートルの円形破壊跡を見て満足げな表情を浮かべる。

 

今の攻撃はヤリの投擲である。だがその過程においてライデン・ニンジャクランの力で身体能力を向上させ、リリースの瞬間にバクハツ・ジツで加速を加え、ソウルをライデンからホロビに切り替えてヤリに毒を付与、そしてサソリとホロビのソウルをタナカに切り替え、サイコキネシスでヤリを操作し推進力を与える。

 

一連の攻撃で5種類のソウルの力を使用した。何たるニンジャ魔法少女器用さか!その威力はヒサツワザと呼ぶにふさわしく、フォーリナーXXXの最強の攻撃である!しかしニンジャ魔法少女だとしても短時間でソウルを切り替えて使用するという行為は多大な負荷が掛り、ニューロンに多大なダメージを受けてしまう。

 

「ジツを何個掛け合わせようが真のカラテの前では無力なり!」ニンジャスレイヤーはジゴクめいた声を発す。口を覆うのは「忍」「殺」と刻まれたメンポではなく、牙めいた歪な形に変わり口から蒸気が漏れる、腕には壊れたはずのブレーサーとは別の歪なブレーサーが装着され、黒炎が纏わりついている。

 

「やってみろニンジャ!」フォーリナーXXXXは叫ぶ。スノーホワイトに放ったヤリは外れたがもう慣れた、次は外さない。ニンジャスレイヤーを殺せる。自分はニンジャ魔法少女という最も優秀な種族だから。そしてマンキヘイの仇をここで討つ。内なるソウルが目の前の相手に慄きを感じているが自尊心と殺意と決意で塗りつぶす。

 

宙に浮いていたヤリがフォーリナーXXXの右手の人差し指と中指の間に乗る。そしてもう1本が左手の人差し指と中指に乗る。2本同時で投げるつもりだというのか!?破壊力は2倍に上がるがニューロンに掛かる負荷も2倍である!ニューロンに不可逆なダメージを受けてもおかしくはない。それは覚悟の上だった。でなければこの怪物は倒せない。

 

2人の体感時間は泥めいて鈍化する。フォーリナーXXXはベストなタイミング、ニンジャスレイヤーは相手の動きの予兆を探り合う。2人の間には可視化できるほどのドロリとした空気が生じる。この間にモータル、いやニュービーのニンジャが居たとしてもショック死するほどのものだった。

 

「ヒサツワザ!イヤーッ!」ライデンのソウルを使い身体能力を上げながら投擲動作に入り、バクハツ・ジツが使えるように指先にジツを籠める。踏み込んだ右足が床を砕き蜘蛛の巣状のヒビが入る。リリース寸前のタイミングを見計らって、ライデンからホロビにソウルを変えヤリに毒を付与しながらバクハツ・ジツを使う。

 

CABOOM!ヤリが離れた瞬間にソウルをサソリとホロビからタナカに変え、サイコキネシスを使う。目から血が噴き出し視界が赤色に滲み痛みが駆け巡る。それを無視しヤリをコントロールし推進力を与える。ジツの接続は上手くいった、ニューロン内で褒めたたえる。実際完璧であり、その威力はスノーホワイトに投げたものより上だった。

 

ネオサイタマに2つの流星が流れた。

 


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