ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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第十三話 ベースボール・フリークス・ブルース#3

ズルズルー。カワベ家の食卓には3人分のオーガニックヒヤムギを啜る音が響く。父親と母親とソウスケが食卓を囲み食事を摂っている。両親は口を開かず食べ、ソウスケも口を開かず黙々と食べる。ソウスケと両親の仲は冷え切っていた。父親は不正行為し、母親は過剰なまでに世間体を気にする。それにウンザリしていた。

 

学校は長期休暇に入り家にいる時間が多くなり不快だった。1秒でも顔を合わせたくなかったが食事の時だけは顔を合わせる。これで食事を部屋に持っていき1人で食べるのは両親に敗北したようで気に障った。母親が沈黙に耐え兼ねたのかTVをつける。『午後もみんなで~元気に過ごそう~』スカムポップが流れ昼のワイドショーが始まる。

 

「ハナサキ・ハイスクールのサワヤカプリンスは……」ソウスケは箸を止め画面に注目を向ける。サワムラの話題だ。きっと昨日の投球を労い讃えるものだろう。司会のホクバラがフリップに近づき意図的に文字を隠しているシールをとり勢いよく剥がす。「ワガママプリンス!?」ホクバラはオーバーリアクションで文字を読み上げる。

 

ソウスケは訝しむ。ワガママプリンス?どういうことだ?「まずはこちらの映像をご覧下さい」画面にはサワムラが逆転満塁サヨナラホームランを打たれた映像が流れる。この1球で肩と肘を痛めた。だがフォームは乱れていない、だからムービングは動かなかったがしっかりボールをストライクに投げた。流石だ。

 

「このシーンなんですが、何と!サワムラ選手はコーチからの敬遠を無視して投げたのです!」「そんな!」「信じられない!」タレントやコメディアンが驚きの声を上げる。ソウスケも驚きの声を上げそうになるが口を抑える。野球においてコーチの指示は絶対だ。無視すれば即ムラハチで二度と試合に出られなくなる。そんなことするわけがない。

 

「何故このような行為を行ってしまったのか?スタッフはサワムラ選手の過去を追い、真実を調査しました」場面は代わりハナサキ・ハイスクールの関係者へのインタビューに代わる。コーチのアメガクレが神妙そうな顔で答えている。

 

「データから考えて次のバッターで勝負すべきでした。ですが勝負してしまいました。1年で試合に出場できて実力以上の結果が出たから驕ってしまったのですね。勝ってメンポを確かめよと散々言ったのですが」アメガクレは目を伏せた。メンポを確かめよ?サワムラは驕ることなどない。

 

「センパイへのリスペクトが足りませんでした。1年生なのでボクは色々と世話をしていたのですが、バッターが点を取らなければ試合に勝てないことを忘れて、チャンスに打てなかったことを責めて、点を取って楽にしろと罵倒してきました」3年のゼンコウインは頭を下げた。ソウスケが持つ箸にヒビが入る。

 

「私達は出身校のアカツキ・ジュニアハイスクールに足を運びました」場面は代わりアカツキ・ジュニアハイスクールに代わる。「元々ワガママな性格でした」ベースボールクラブコーチ。箸が1本折れる。「エラーしたら怒られました。余計な球数を投げさせるなって」ベースボールクラブのコウハイメンバー。もう1本の箸が折れる。

 

「そして私達は本人へのインタビューを試みました。そこで信じられない言葉を聞きました」画面はサワムラがインタビューに応じている姿が映し出される。「何故コーチの指示を無視したのですか?「違います。コーチから特に指示を受けていません」「ですがコーチのアメガクレ=サンは敬遠を指示したようですが」「していません」

 

「アメガクレ=サンはサワムラ=サンを凝視しています。これは敬遠のサインだそうです」「そんなサイン知りません」「レギュラー全員はそうだと言っていますが」「そんなものありません」「貴方の勘違いでは?センパイをウソツキと言うのですか?」「勘違いではありません。センパイ達がウソツキです」

 

サワムラはインタビューに堂々と答える。真実を隠すための虚勢や威圧もない、サワムラが言っていることは本当だ。まずサインの読み違いなんてニュービーがやるようなミスをするわけがない。「ヒドイ!」「奥ゆかしくない!」VTRが終わり、ゲスト達が怒りの声をあげる。

 

「どう思いますか。ウメイ=サン」ホクバラは元プロ野球選手のウメイに話を振る。「生意気だな~俺がセンパイだったらこれですよ」ウメイは拳を振り上げる「暴力ダメダメ」ホクバラが手でペケマークを作りスタジオから笑いが起きる。「冗談は置いておいて、センパイとコーチをウソツキ呼ばわりなんてありえません。サワムラ=サンの勘違いでしょう」

 

ウメイはさらに言葉を続ける「コーチの指示を無視したのもセンパイ達のサポートへの気持ちを忘れ調子に乗り、自分ならプロ候補のチョウジマ=サンを抑えられ、ヒーローになれると勘違いした結果でしょう」「流石元プロ野球選手。鋭い推理です」ホクハラは褒めコメンテーター達も頷く。

 

「今の若者達は奥ゆかしさとリスペクトを忘れがちです。他のベースボールプレイヤーもサワムラ=サンをハンメン・ティーチャーとして、リスペクトと奥ゆかしさを持って欲しいものです。次のトピックスです。タマリバーのラッコですが……」「何だこのスカムワイドショーは!」

 

ソウスケは大声で叫び食卓を全力で殴る。ニンジャの力で殴られた食卓は粉々に砕けオーガニックヒヤムギとオーガニックトマトが宙に舞いフローリングの床にベチョリという音を立て落ちた。両親はソウスケの突然の行動に驚き恐怖を帯びた視線を向ける。ソウスケはそれに気づかず目を血走らせ画面を見つめる。

 

スカムすぎる!ブルシットすぎる!あの元プロ野球選手の推理は全くのアサッテだ!サワムラは目立つためにコーチの指示を無視して勝負するわけがない。チームの勝利のためにエゴを捨てられる。それがサワムラ・イチジュンというプレイヤーだ。それにインタビューを受けたアカツキ・ジュニアハイスクールの関係者にも腹が立つ!

 

ワガママだった?サワムラは明らかに怪我をする練習には意を唱えて口論したことがある。それをワガママというのか?エラーして怒られた?逆だ。エラーしても絶対に責めない。それどころかエラーした選手が気にしないように絶対に点を与えないと励むタイプだ。

 

そして司会もサワムラが全面的悪いという方向で纏めた。これでは視聴者が勘違いしてしまう!「あんなのフェイクニュースだ!センパイがそんなことするわけない!母さんと父さんも分かるでしょう!」ソウスケは険悪な両親に同意を求める。両親も面識はあるがその程度で人柄を理解するのは難しい。それすら分からないほど動揺していた。

 

「だが、サワムラ=サンの家はスイセンエントリーだ、インセンティブを獲得しようとしたのだろう」父親は呟く。サワムラの経済事情ではカチグミが通うアカツキ・ジュニアハイスクールには入学できない。だが野球で活躍して学校の名前を売ろうとする経営者の判断によって援助を受けて入学させた。それがスイセンエントリーである。

 

「マケグミの息子だし、インセンティブに目が眩んだんでしょ」母親が呟く。「ソンナコトスルワケナイダローッ!」「「アイエエエ!」」ソウスケは恫喝し両親はNRSを発症!失禁し気絶する。ソウスケは気絶する両親を侮蔑の目で見下す。スイセンエントリーには細かいインセンティブがあり、大会に優勝したらプラス報酬。0失点ならプラス報酬などプロ野球レベルで存在する。

 

そのインセンティブ目当てでエゴイスティックなプレーをしているという噂がたった。だが所詮それは噂にすぎない。だが両親はそのゴシップを信じ、実の息子の言葉よりスカムワイドショーの情報を信じたのだ!何たるフシアナ!「クソ!クソ!クソ!」ソウスケは口汚い言葉を吐きながら自室に戻った。

 

◆◆◆

 

「ワガママプリンスはさらなるシツレイ!?」TVにはワイドショー司会のホクバラが大げさな動作と声をあげながらフリップのテープを剥がしている。ハナサキ・ハイスクール、ベースボールクラブのコーチアメガクレはその様子を豪勢な調度品で囲まれたコーチングルームでほくそ笑みながら見つめている。

 

いいぞ、もっとやれ。やればやるほど都合が良い。アメガクレは負けた後即座に動いた。負けた責任をサワムラに押し付ける。サワムラが指示を無視してチョウジマに打たれたせいで負けたという筋書きに書き換える。知り合いのマスコミに嘘の情報をリークし、メンバーやサワムラの関係者に嘘の情報を言わせる。

 

サワムラに近しい者には金をバラ撒き嘘を言わせる、3年には今後の働き先を紹介するといい、2年や1年には試合に出さないと脅した。人生オーテツミの3年は喜んで食いついた。未来がある2年と1年も従った。関係者へのバラ撒きでさらなる借金をしたが躊躇している場面ではない。動かなければ破滅する。

 

半ばヤバレカバレだったが予想以上に上手くいっている。丁度めぼしいゴシップが無かったのと、グッドルッキングの苦労人がシツレイを働き奥ゆかしくない人物というギャップでワイドショーは取り上げ脚色しサワムラの印象は悪くなっている。この世論のせいで学校側はまだアメガクレを解雇することができない。

 

あとはさらに世論を味方にして、契約を伸ばしてもらい、ニカワに出場できなかった賠償金をサワムラに被せる。サワムラはスイセンエントリーで入っており、契約で賠償金を被せることができる。これが計画だ。なんたるドタンバ・セルフ・リスク・マネジメント!

 

この才覚がマネジメントではなく野球指導にあれば、ニカワに出場できるチームを作ることができ、このような苦境に立たされることはなかった。だがブッダは野球指導を与えず、スケープゴートとしてサワムラをジゴクに落とそうとしている!ブッダよ!あなたは寝ているのですか!?

 

「そしてこれが完成すれば、サワムラはオーテツミだ」アメガクレはフロッピーディスクをUNIXに差し込み作業を始めた。

 

◇サワムラ・イチジュン

 

 重金属酸性雨で変色したブロック塀、落書きまみれの電柱、ケミカル臭がする食事の匂い、半年も満たない時間帰っていないのに随分と懐かしい。サワムラは左腕を包帯で吊るしながらレインコートを着て重金属酸性雨に打たれながらストリートを歩く、周囲を見回し辺りを警戒しながら進んでいく。目的地に近づくにつれて顔を顰める。

 

「バカ」「スゴイ卑怯」「アホ」「お前の母ちゃんデベソ」「子供がカスなら、親もカス」

 

 目を覆いたくなるような誹謗中傷が書かれた紙が所狭しに貼り付けられている。サワムラは紙に手をかけ剥がそうとするが止める。これで剥がせばさらなる嫌がらせが待っている。悔しさと悲しさで泣きそうなるが、強引に笑顔を作って扉を開いた。

 

「ただいま」

「おかえり、イチジュン」

 

 扉を開けると母親が出迎え抱きしめた。その体はやせ細り目元に濃い隈ができていた。記憶にある感触とは大分違う。サワムラはその事に気づき涙を流した。

 

「ごめん……俺のせいで……かあさんに迷惑を……」

「気にしないで……」

 

 母親は優しく頭に手を置いた。手もやせ細りカサカサだった。玄関を上がるとすぐに6畳分の広さのリビングがある。中央にはちゃぶ台、壁にはトロフィーが飾られた棚、狭いから捨てていいと言ったのに、自分のタンスを売ってまで作ったスペースに設置してくれた。母親がDIYで作ってくれた物で市販品と比べると不格好だ。

 

「大変だったわね……」

 

 母親が重苦しく喋り黙って頷いた。ワイドショーで取り上げられて以降サワムラへのバッシングは続いた。ワイドショーの報道は間違っている。正しいのは自分であり、いずれ正しい報道をしてくれると信じていた。だが状況は一向に変わらなかった。それどころかさらに状況は悪化した。

 

エメリーボール使用疑惑

 

 ワイドショーで紙やすりでボールに傷つける映像が放送された。一目で加工された映像だと分かった。エメリーボールなんてブルシットな事をするわけがない!サワムラにとって最大限の侮辱だった。だが世間はサワムラがエメリーボールを使用すると決めつけた。

 ムービングボール、ストレートのスピードで不規則に動くボールで、ムービングボールを投げる投手はいるがサワムラほど変化しない。このムービングボールをエメリーボールで投げていると嫌疑がかけられた。

 サワムラにも弁論の機会が与えられたがそれがダメ押しだった。感覚的にムービングボールを投げており、もはやオリジナルのボールと言っても差し支えない。他のピッチャーに投げ方を教えたが、自分でも理解できてないものが他人に伝わるわけはなく、そのピッチャーはサワムラのムービングボールは投げられず、嫌疑はさらに強まった。それからはいくら声高に無実を主張しても以前からの報道のせいもあって全く信じてもらえなかった。

 エメリーボールは野球におけるヤバイ級の反則である。これを使えばムラハチ程度ではすまない。セプク級の卑劣な反則行為である。社会的オナーは完全に失った。

 そこからはあっという間だった。エメリーボールを使ったとしてベースボールクラブは退席処分、さらに学校の名誉を著しく傷つけたとして退学処分。母親も卑怯者の親としてありとあらゆる嫌がらせを受け、仕事もクビにされた。

 

「かあさん、ゴメン……ゴメン……」

 

 壊れた機械のように何回も謝る。マケグミなのに必死に働いて野球をさせてくれたかあさん。プロになって活躍してカチグミになり贅沢をさせてあげようと思っていた。それなりの野球が家族を不幸にした。

 

「かあさん、それ……」

 

 リビングの隅に置いてある封筒、それはハナサキ・ハイスクールからの手紙だった。母親は慌てて隠した。あれは請求書だ。中身はニカワに出場できなかった賠償金と名誉毀損に対しての慰謝料の請求、その予想される金額はサワムラ達には払える額ではなく、体の臓器を全て売っても支払えない。破滅は目の前に迫っている、もはやオーテツミだ。だがたった1つだけオーテをひっくり返す手がある。

 

◆◆◆

 

ウシミツアワー、アカツキ・ジュニアハイスクールの校門付近にソウスケ1人立っていた。昨日の昼過ぎサワムラからオリガミメールが届いていた。ウシミツアワーに学校前に野球道具を持って集合と書かれていた。サワムラのことを思うと悔しさと申し訳なさと不甲斐なさでケジメしたくなる。

 

サワムラへのフェイクニュースの1件からソウスケも行動を起こした。インタビューに答えたアカツキ・ジュニアハイスクールの生徒を見つけインタビューした。締め上げるとすぐにウソを言わされた事は分かった。発言を撤回するインタビューを録音したデータをテレビ局に渡したが、そのことは報道されなかった。握りつぶされたのだ。

 

本当ならスノーホワイトに相談したかったのだが、決勝戦以降全く連絡が取れなくなった、仕方がないので1人で握りつぶしの指示を出した人間を突き止めようとしたが、その間にエメリーボール疑惑をかけられ状況を挽回できないほど追い詰められていた。

 

「カワベ=コウハイ」サワムラが野球道具を右手に持ちこちらに向かってくる。笑みを浮かべており、以前会った時と同じだと思われるがそれが空元気であるのは分かった。「スミマセン、サワムラ=センパイがコーチの指示を無視していないのも、エメリーをしていないのも分かってます……でも……皆信じなかった……」

 

ソウスケは頭を下げ、歯を食いしばる。ニンジャになってスノーホワイトにベイビーサブミッションされたり等無力感を感じることは有ったが、ここまでの無力感を覚えたのは初めてだ。いくらカラテが強くなっても世間という大きな力には全く歯が立たなかった。

 

「信じてくれるのはかあさんとお前だけだよ、それで充分だ」サワムラはソウスケの肩にそっと手を置く。辛い状況なのに逆に励まされた。ソウスケはさらに自身を責める。「それで今日は……」「野球するに決まっているだろう。何のために野球道具を持ってこさせたんだよ。ガッハハハ!」サワムラは豪快に笑う。

 

「それでどこで?」「ここだよ。ちょっと俺を運んでフェンスを越えてくれよ。ニンジャなら出来るだろう」サワムラはフェンスの上を親指で差す。「ヨロコンデー!」ソウスケはサワムラを担ぎフェンスを超えて学校内に侵入する。2人は暗黒に包まれた敷地内を僅かな明かりを頼りにグラウンドに向かう。

 

「やっぱりここに有ったか、隠し場所は変わらないな」サワムラは照明室近くにあるタイヤを調べて鍵を手に取ると中に入り照明をつけた。「キャッチボールでもするか」「はい」2人は距離をあけてキャッチボールを始める。「パトロールはどうだ?」「平和ですよ」「ユキノ=サンとはどうだ?告白したか?」「告白ナンデ!?ボク達は同志であり友達です」

 

「それで実際は?」「それは恋人に……」「声が小さい!」「恋人関係になりたいです!」「素直に言えよ」「でも最近連絡が取れなくて会ってないです」「何だ強制前後でも迫ったか?」「奥ゆかしさ重点!実際原因は分からないです。それよりサワムラ・センパイは何か無いんですか?」「俺はプロになってからゲットする。プロになれば選びたい放題だ」

 

ソウスケとサワムラは取り留めのない会話を交わしながらキャッチボールをする。この時間はお互い嫌なことを忘れられていた。「これからどうするんですか?」ソウスケは質問する。サワムラの未来は絶望的なのは知っている。でも何かできることが有るかもしれない。仕事が無ければカワベ建設の仕事を就かせる。拒否されてもニンジャの力で就かせる。

 

「色々と決めているよ」サワムラの言葉は決断的な意志と悲壮感が篭っていた。「よし、肩が温まったな。カワベ=コウハイ、球を受けてくれ」サワムラがいつもの明るいアトモスフィアで指示しながらマウンドに行き、それから2人は思う存分グランドで野球をした。気づけば夜が明けており2人はグランドから出た。

 

「久しぶりに野球したよ。悪いな付き合わせて」「ボクも久しぶりに野球をして楽しかったです」「野球は楽しいよな、本当に……」サワムラは噛み締めるように呟いた。「じゃあな、カワベ=コウハイ」「ハイ、サヨナラ!」2人はアイサツを交わし別々の方向に歩いていく。「サワムラ=センパイ!」ソウスケは呼び止める。

 

「何か有ったらボクに頼ってください!何だってやります!」サワムラは振り向かずサムズアップポーズで答える。力強いポーズだ、でも何故か儚げで諦念がまとわりついていた。何を諦めたのか?ソウスケはそれを問いただすことができなかった。

 

◇ファル

 

 物事というのはどんなに入念に準備し警戒していたとしても何かのきっかけでこうもあっさりと破綻するものなのか。きっかけはほんの些細なことだった。

 先日スノーホワイトが毒物の取引をしようとした一団と一悶着有った時にニンジャと戦った。ニンジャの無力化に成功し、捕縛した一団共々放置した後に警察に通報してその場を去った。

 そして数日後、スノーホワイトが争いごとに介入した際にそのニンジャが居た。どうやら警察に捕まったが圧力によって無罪放免となったようだ。そのニンジャはアマクダリの関係者だったようだ。それ以外にも別のニンジャがおり撃退したが、その際にニット帽やマフラーが破壊され顔を晒してしまい、アマクダリ関係者のニンジャにバッチリ見られ逃してしまった。

 顔を見られて逃げられた。これでアマクダリに面が割れたと判断していいだろう。スノーホワイトは暴力を振るうが可能な限り殺しはしない。それをすれば魔法少女ではなくなってしまうと考えていた。

 魔法少女には悪党魔法少女を捕まえたら、しっかりと拘束し罰を与える警察機関があり、捕らえられた魔法少女が報復することはない。だがネオサイタマでは警察は別の権力に屈し機能していない。この結果はある意味必然だったのかもしれない。

 現時点ではアマクダリに襲撃されるということはない。それはスノーホワイトの所在を把握してない証拠であり、分かっているのはスノーホワイトというニンジャはアマクダリに敵対姿勢を持っており、遭遇したら処分しろというスタンスだろう。さらにスノーホワイトは姫川小雪でもあり、人間の姿に戻れば余程のことが無い限り見つからないだろう。マズい事態だが最悪ではないと言ったところだろう。だがスノーホワイトは最悪を想定した。

 マズい事態だが最悪ではないと言ったところだろう。だがスノーホワイトは最悪を想定した。

 携帯端末を破壊する時はいつもの無表情ではなく、目ざとい人なら分かるほど表情に悲しみを帯びていた。岸辺颯太に瓜二つのドラゴンナイトとの交流はスノーホワイトにとって心地よいものだったのだろう。元の世界に居た時より笑顔を見せることが多かった。

 その日々は失われた青春だったのかもしれない。だからこそスノーホワイトはドラゴンナイトに被害が及ばないように関係を断ったのだろう。

 

「夜のニュースドスエ、今日の昼過ぎ、元ハナサキ・ハイスクールの生徒だった。サワムラ・イチジュン=サンが自宅でハラキリ自殺しました」

 

 サワムラ?確かドラゴンナイトの先輩の、それに切腹?何でそんなエキセントリックな自殺方法を選んだ?スノーホワイトも同じような疑問が浮かんでいたのか、ニュースを流すマグロツェッペリンをじっと見上げていた。

 


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