ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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第十二話 下らなくて大切なもの#6

カワタはしめやかに失禁しながらアクターを見つめる。ドラゴンナイトやスノーホワイトと知り合いになり、コミックでもニンジャを題材にしているせいか、ニンジャは親しみやすくて身近なものだと思い始めていた。だが違った。理不尽で暴力的で理解できない、これがニンジャ本来の姿なのだ。

 

アクターはへたり込むカワタの前に座り込むと懐からメモと録音機器を取り出した。「さっさとこんなビズは終わらすか。カワタ=サン、インタビューの時間だ。まずは…お前のコミックでニンジャが出ているが知り合いにニンジャはいるか?」カワタは恐怖と困惑で支配されたニューロンで質問の意図を探る。

 

それを知ってどうするかは分からない。だが正直に答えてはならない。カワタのニューロンは瞬時に判断した。「……いない。すべて俺の想像だ」「イヤーッ!」「グワーッ!」ナムサン!アクターは即座にカワタの右手の小指をへし折った!「想像力豊かと言いたいところだが、嘘はよくない」アクターは悶絶するカワタを見下ろす。

 

カワタのニューロンはニンジャへの恐怖から痛みが支配する。小指が歪な方向に曲がっている。骨折はここまで痛いのか、それにノータイムでへし折った。ニンジャはここまで躊躇なく暴力を行使できるのか。「じゃあ、もう一度だ。知り合いにニンジャはいるか?」「あ……あ……」

 

カワタの口からドラゴンナイトとスノーホワイトの名前が出かかる。だが強引に抑え込む。ここまで暴力的なニンジャならドラゴンナイトとスノーホワイトに危害を加えるかもしれない。アシスタントが病欠で倒れた時、自身のコミック作家人生は死んでいた。だが二人が手伝ってくれて生き返り今もコミックを描けている。今度は自分が報いる番だ。

 

「いない」「イヤーッ!」「グワーッ!」ノータイムで薬指をへし折る!カワタは左の前腕部を噛み痛みに耐える。その様子をアクターは面白そうに見つめる。「頑張るな、じゃあもう一回だ。知り合いにニンジャはいるか?」「いない」「イヤーッ!」「グワーッ!」ノータイムで中指をへし折る!

 

カワタは痛みで悶絶しながら耐える。噛みしめた左腕から出血していた。アクターはその様子を観察する。ニンジャ観察力で嘘をついているのは明らかだ。このまま手足を延々と折って口を割らせてもいいが、万が一に痛みでショック死したら困る。実際に同じ方法でインタビューしてショック死させて失敗した経験があった。

 

同じミスを犯すのはサンシタだ。ならば方法を変える。「ウウゥ………昔は善意を信じて誠意を持ってインタビューしたさ、でも皆答えてくれないから暴力に訴えるようになっちまった……俺だってこんなことをしたくない……頼む答えてくれ、でないとカワタ=サンの知り合いのニンジャが危ないんだ」アクターはカワタに泣きつきながら懇願する。

 

カワタは二重人格めいた豹変に困惑しながら問う「危ないって?」「ある組織がカワタ=サンに知り合いにニンジャが居ると判断し抹殺しようとしている!俺はそのニンジャを保護しにきたんだ!居ないならそれでいい!でも居たならすぐに保護しなければならない!頼む知り合いを助けさせてくれ!これ以上死なせたくない」アクターは大粒の涙を流す。

 

コウカツ!これは良いマッポ悪いマッポメゾットだ!最初に暴力行使する悪いマッポを演じ、その後にやりたくは無いが仕方が無く暴力を行使しており、本当は心優しい人情派の良いマッポを演じる。このコンビネーションで相手の口を割らす。これはマッポスクールでも教えられる正式なメゾットだ。

 

だがアクターはアシスタント達を惨殺しているので人情派と認識させるのは不可能である。だが卓越したニンジャ演技力でカワタは騙されかけていた。「本当か?」「ああ!ブッダに誓ってもいい!」アクターは懇願するようにカワタを見上げる。「わかった……ニンジャの知り合いはいる。二人だ、一人はドラゴンナイト=サン、ジュニアハイスクールの男だ」

 

「もう1人は?」「スノーホワイト=サン、女子高校生のニンジャだ」「ありがとう!本当にありがとう!これで助けられる!」アクターはカワタを抱きしめる。ALAS!恐るべき良いマッポ悪いマッポメゾットとアクターのニンジャ演技力!古の神話であるノースウィンド&サンを想起せざるを得ない!

 

「あともう1つ聞かせてくれ、カワタ=サンのコミックで登場する江戸時代の徳川はニンジャで現代まで生きてニンジャ組織を作り、ネオサイタマを影で支配するというのはモデルがあるのか?もし本当ならカワタ=サンも保護しなければならない。そんな秘密を知っていればそのモデルのニンジャに殺されてしまう」「いや、それは俺の想像です」

 

「そうか、よかった」アクターは胸をなでおろしながらほくそ笑んだ。アクターが所属するニンジャ組織オウノマツに与えられたミッションは2つ。1つはカワタに知り合いのニンジャがいないか、作中に出るニンジャ組織を知っているかをインタビューし、殺す事。もう1つは知り合いのニンジャがいればスカウト、応じなければ抹殺することだ。

 

「ドラゴンナイト=サンとスノーホワイト=サンとは連絡は取れるか?」「IRCの連絡先は知っている」アクターはさらにほくそ笑む。インタビューの証拠として録音した。用なしだ。後は奪ったIRC通信機でドラゴンナイトを呼び出し、芋づる式でスノーホワイトを呼び出す。アクターは即座に介錯の態勢を取る。カワタは突然のことで全く反応しない。

 

「イヤーッ!」突然のカラテシャウト!アクターのニンジャ第6感はアンブッシュ飛び膝蹴りを察知しクロスガードでブロック。アンブッシュした者は後方回転し距離を取る。「ドーモ、ハジメマシテ。ドラゴンナイトです」ドラゴンナイトはキリングオーラを漲らせながらアイサツをした。

 

◆ドラゴンナイト

 

「アリアシター」

 

 店員の気の抜けそうな掛け声を背にドラゴンナイトは書店を出ていく。その顔は満足げだった。今日はセブンニンジャの単行本発売日だった。さらに系列書店ごとに特典がついておりその種類は五つ。どれも欲しい、ファントムサマー社もあこぎな商売をする。熱心なファンならすべて購入するのだろうが、ドラゴンナイトの懐事情では無理だった。厳選に厳選を重ねた結果、ムカデ・ストリートにある書店のスネーク・ホールで買った。

 特典についている主人公のザンのイラストがカッコイイというのも有るが、書店が手作りのポップ─手作りの広告のようなものを店頭に飾っており―のクオリティが高くセブンニンジャに対する情熱のようなものが伝わってきて、それが決め手だった。家からは少し遠いがそういった店に金を落とすべきだろう。

 アジトに帰って読もうとするとIRC通信機に通知が入る。リュックから取り出す。相手はカワタ=センセイからだ。内容は原稿が完成したので読むかという内容だった。

 ドラゴンナイトは二つ返事で了承した。原稿を手伝ってからは毎週生原稿を読ませてもらっている。やはり生原稿は雑誌と比べて、パワーがある。他のファンには少し申し訳ないが、ピンチも救ったことも有るしこれぐらいのご褒美をもらってもブッダも怒らないだろう。

 行先をアジトからカワタの家に変更し向かう。近道がてらパトロールも兼ねて裏通りを通っていく。案の定カツアゲマンが居たので穏便に制圧してカワタの家があるマンションの玄関に辿り着いた。

 タイルが剥がれており相変わらず修繕されていない。修繕しないのか修繕する管理費が無いのか。セブンニンジャは前作のファストボールと違い打ち切りとは無縁の人気だ。今日出た単行本も前より売れるはずだ。そしたらこのマンションからも引っ越せるはずだろう。   

 ゆくゆくは一番人気の称号である巻頭カラーを描いて、カートゥーン化で爆発的人気を得る。しかしそうなると流行りものに乗っかるだけのにわかファンが出てくる。そういうファンが出てきてほしくないから知る人ぞ知る作品でも居てほしい。二律背反を抱えながら自動ドアを通り階段を上がりカワタの家に向かう。

  家のドアまで5メートルというところでドラゴンナイトの足が止まる。自身のニンジャ6感が警鐘を鳴らす。何かが起こっている、そこからはニンジャ野伏力を駆使して慎重に進み扉に着きドアノブを回す。本来ならチャイムを鳴らすのが礼儀だか敢えて鳴らさなかった。ドアノブは抵抗なく動いた。鍵をかけていないのか、いくら低所得層用のマンションでもハック&スラッシュにあう可能性があるので鍵やチェーンロックをかけるのが常識だ。     

 

 まさかハック&スラッシュか?

 

 ニューロンには最悪の光景が浮かび上がる。ドラゴンナイトはリュックを外し床に置き覚悟を決めてドアノブを回して家に入った。入った瞬間に感じたのはむせ返るような血の匂いだった。そして床一面を濡らす黒ずんだ赤色、そして横たわる首と胴体が別れた死体、惨い、思わず目を細める。

 この凶行はただのハック&スラッシュではない。犯人はモータルではなくニンジャだ。モータルが首を切断という労力がいる方法で殺さない。ニンジャならボトルネックカットの要領で首ぐらい飛ばせる。

 ドラゴンナイトはニンジャへの怒りでリビングに向かおうとするが鎮める。殺すのなら最大限に効果的なアンブッシュを決めるべきだ。怒りを冷徹な殺意に変換し最大限のニンジャ野伏力を発揮し、玄関を抜け仕事場のリビングに向かう。

 すると机が並ぶ向こう正面にいるカワタと正対している男が見えた。あれが犯人のニンジャか。ニンジャを見て反射的にカワタの様子を見た時に右手の小指と薬指と中指が歪に曲がっているのを発見した。

 カワタ=センセイの利き腕の指が折られた?セブンニンジャを生み出す指が折られた?セブンニンジャを生み出すのに欠かせないアシスタント達を殺した?あのニンジャが全てやった?

  許さない!殺す!

 

「イヤーッ!」

 

 ドラゴンナイトはニンジャ野伏力を解除し、敵意と殺意を込めたアンブッシュ飛び膝蹴りを繰り出す。狙いは頸椎!頸椎があと一メートルというところでニンジャは振り返りクロスガードで防ぐ。アンブッシュが失敗した。ドラゴンナイトはすぐさま距離を取りニンジャの作法に則りアイサツをした。

 

「ドーモ、ハジメマシテ、ドラゴンナイトです」

 

◆◆◆

 

「ドーモ、ドラゴンナイト=サン、アクターです。そっちから来たか、好都合だ。お前は……」「イヤーッ!」喋り終わる前にドラゴンナイトが間合いを詰めパンチを放つ!アクターはガードする。「イヤーッ!」チョップを放つ!ドラゴンナイトはブリッジで回避!「イヤーッ!」そのままブレイクダンスめいた動きで足を払う!アクターはジャンプで回避!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」(((これが本当のニンジャの戦い!)))カワタは作品の参考としてスノーホワイトとドラゴンナイトのカラテは見たがあれはあくまでもモータル観賞用のカラテ。今起こっているのは殺意と敵意がぶつかり合い、全力のカラテを繰り出すニンジャのカラテである!

 

カワタの目には色付きの風がぶつかり合っているように見えず、カラテとスリケン投擲の応酬で部屋の中の机や壁やコミック制作道具が次々と破壊されていく。その様子は部屋の中にハリケーンが通り過ぎたような惨状だった。カワタは這いつくばりながらベランダに避難した

 

「イヤーッ!」アクターの鞭めいたローキック!ドラゴンナイトは足を上げて脛で受ける。だが蹴りの軌道が変化し側頭部に向かう!これは暗黒カラテ技ブラジリアンハイキック!「グワーッ!」側頭部に命中!だがそのまま踏みとどまる。咄嗟に変化の軌道を察知し防御し威力を軽減したのだ!

 

「イヤーッ!」そのまま足首を破壊しようと関節技をかける!「イヤーッ!」アクターは体をキリモミ回転させ逃れる!「イヤーッ!」ドラゴンナイトは着地際を狙いフックを繰り出す。しかし大振りだ!アクターはその隙を見逃さず、最短距離のジャブパンチを放つ!だがドラゴンナイトは攻撃を止めジャブパンチを掻い潜りボディーブロー!「グワーッ!」

 

(((よし、相手の攻撃が読めた)))ドラゴンナイトは手応えを実感する。かつてドラゴン・ユカノにインストラクションされたカラテの虚、つまりフェイントについて教わった。それからは意識するようになり、スノーホワイトの組手でもフェイントを使い、スノーホワイトのフェイントも少しずつ察知できるようになった。

 

「フェイントとは小細工を、いいだろう!」アクターが突っ込む。目線、重心、筋肉の動きから鎖骨へのチョップだ!ドラゴンナイトは半身で躱して腕を絡み取り、ジュドーの禁止技脇固めで腕を破壊するシミュレートを描く。予想通りチョップが来た!ドラゴンナイトは半身で避ける。だが攻撃はチョップからバックハンドブローに変化!

 

「グワーッ!」バックハンドブローが直撃!「イヤーッ!」アクターが追撃を図る。これはボディーブローだ!ドラゴンナイトはボディをカードするが、攻撃はフックパンチだ!「グワーッ!」またもフェイントに引っかかる!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

おお!ナムサン!アクターが一方的に攻め立てる!ドラゴンナイトも防御を試みるがアクターのフェイントにマジックショーを見るオーディエンスめいて面白いように引っかかる。アクターの目線や重心や呼吸による演技がドラゴンナイトを見事に騙していた。これも全てアクターの卓越したニンジャ演技力によるものだ!ワザマエ!

 

「グワーッ!」ドラゴンナイトは攻撃を貰いたたらを踏む。相手のフェイントを読めない、カラテの虚は相手が実際ワザマエだ。ならば力業で押し切る!「リュウジン・ジツ!イヤーッ!」アクターはこのジツは発動させてはマズいとインターラプトを図るが、それより速くジツは発動する。ドラゴンナイトは牙と尻尾と鱗を生やした異形と化す!

 

「イヤーッ!」アクターは攻撃を繰り出す。だがこれはフェイントだ。相手が反応を示したら直前で攻撃を変更する。先程までのようにブザマに引っかかれ、だがドラゴンナイトは防御をしない!アクターはフェイントを入れずそのまま攻撃する。「グワ…イヤーッ!」ドラゴンナイトは攻撃を喰らいながら反撃!

 

「グワーッ!」ドラゴンナイトの攻撃がアクターに直撃!攻撃の瞬間が最も無防備である。ならば攻撃を受けた瞬間攻撃をすれば当たる!リュウジン・ジツを使えばニンジャ耐久力が上がり耐えられると判断し、この戦法を選択した。何たるヤバレカバレ!かつてミヤモト・マサシが提唱した捨て身思想「肉を切って骨を断つ」だ!

 

「イヤーッ!」「グワ…イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワ…イヤーッ!」「グワーッ!」ドラゴンナイトのヤバレカバレなカラテはアクターとのダメージ差を埋めていく。一方攻撃すればそれ以上の反撃を喰らう恐怖から、無意識に攻撃の後の防御に比重を置き攻撃が弱くなっていた。

 

その弱気のアトモスフィアを感じ取ったドラゴンナイトは攻勢に転じる!「イヤーッ!」ジュー・ジツの一つモンゴリアンチョップだ!「イヤーッ!」アクターは迫りくるモンゴリアンチョップの内側を弾いて軌道を変えて防いだ!ワザマエ!「グワーッ!」だが意識外の下から顎への打撃!顎骨は砕け脳が揺れる!

 

顎を攻撃したのはドラゴンナイトの尻尾だ!モンゴリアンチョップで上に意識を向けて、意識の外の下からアッパーカットのように尻尾を振り上げた。ワザマエ!「イヤーッ!」さらに尻尾を首に巻き付けバク転をする。これはジュー・ジツの禁じ手技逆フランケンシュタイナーだ!

 

アクターの体は弧を描き脳天が突き刺さる!「サヨナラ!」アクターの体は爆発四散!「ハァー、ハァー、」ドラゴンナイトは即座にジツを解き胡坐を組み息を整える。「終わったのか?」カワタが小動物めいて恐る恐るドラゴンナイトに近寄っていく。

 

「ドラゴンナイト=サン大丈夫か?」「ええ、何とか。それよりカワタ=センセイは?指を折られたみたいですが」「ああ、今ごろ痛みが戻ってきた」カワタは痛みで苦々しい表情を作り、ドラゴンナイトの顔が曇る。

 

「アクター=サンはカワタ=センセイを殺そうとしていました。ニンジャにアシスタントや自分が殺されるような恨みを買った覚えは?」「知る限りではない」「そうですか」ドラゴンナイトは考え込む。ニンジャが差し向けられるなんて余程のことだ。何が起こっている?ドラゴンナイトは立ち上がり外に向かい、リュックの中のIRC通信機を取り出す。

 

連絡相手はスノーホワイトだ。未知の敵にこれだけ騒げばマッポも来るだろう。正直どうすればいいか迷っていた。だが冷静沈着なスノーホワイトなら的確なアドバイスを送ってくれる。それを期待しメッセージを送った。

 

◇スノーホワイト

 

#AMBSDR @dragon knight @snow white

 

#AMBSDR @dragon knight:スノーホワイト=サン判断求む

#AMBSDR @snow white:どうしたの?

#AMBSDR @dragon knight:カワタ=センセイの家に行ったらニンジャと遭遇。アシスタント4名殺害、カワタ=センセイを殺そうとしていたので抗戦し殺害。マッポには通報してない。どうしたほうがいい?逃げた方がいい?

#AMBSDR @snow white:通報しないでその場から離脱して、そのニンジャの持ち物、通信機とかあれば回収して、近くにあるヤブサメ公園に向かって。私もそこに向かう。

#AMBSDR @dragon knight:了解

 

 スノーホワイトは通信を切ると全速力で移動を開始した。ネオン看板を踏み台にし、ビルとビルの間を飛び越え最短距離を移動する。

 

「警察への通報は?」

「今調べているけどまだ通報されてないぽん」

 

  移動しながらファルに指示を送る。いつも通り人助けとフォーリナーXの捜索を行っていたら、ドラゴンナイトから通知がきた。

  ニンジャとの突発的な戦闘、それは日頃から危惧していた可能性の一つであった。幸いにも襲い掛かったニンジャを撃退したようだ。スノーホワイトは胸をなでおろしながら直ぐにドラゴンナイトに送るべき指示を考える。

 普通の倫理観としては警察に通報して捜査への協力をすべきだ。だがニンジャが起こした殺人事件はきちんと捜査されるのか?ネオサイタマの警察の腐敗ぶりは耳に聞く。杜撰な捜査でカワタやドラゴンナイトが罪に処される可能性は充分にある。世間的には正しくはないが、ここは逃げるべきだ。ドラゴンナイトに無実の罪を背負わせるリスクは回避すべきである。

 そしてニンジャが来た理由。ハック&スラッシュと呼ばれる押し込み強盗ならこれで終わりだ。だが何らかの理由で命が狙われているなら、またニンジャが襲い掛かる可能性がある。

 まずは情報、ファルならば携帯端末から情報を拾う事は可能であり、調べさせてカワタが何かしらの悪事を働いていれば警察に突き出す。そうでなければ依頼主を探り逆に乗り込んでカワタの命を狙わないように恐喝する。今後のプランを立てドラゴンナイトに指示を送った。

  幸いにもスノーホワイトが居た場所からヤブサメ公園は近く、魔法少女が全力で移動すれば10分程度で到着する。ヤブサメ公園に辿り着くとベンチには苦悶の表情を見えるカワタとそれを心配そうに見つめるドラゴンナイトが座っていた。ドラゴンナイトはスノーホワイトの姿を確認すると安堵の表情を見せた。

 

 

「スノーホワイト=サン」

「大変だったね。そのニンジャの携帯端末とかあった?」

「これがあった。壊れているかもしれないけど」

 

 ドラゴンナイトはスノーホワイト達が持つ物より一回り小さいIRC通信機を渡した。スノーホワイトは受け取り、ドラゴンナイトから少し離れIRC通信機を操作し始めた。

 

「どう?調べられそう?」

「何とかなりそうだぽん」

 

 ファルはそう言うと沈黙した。詳しい理屈は分からないがファルはハッキングのような技術で他の端末に忍び込み操作できるらしい。これで何かしらの情報を得られれば良いのだが、すると数秒後魔法の端末からファルの立体映像が現れる。鱗粉を振りまきひどく慌てた様子でスノーホワイトに伝えた。

 

「この端末の持ち主はアマクダリのニンジャだぽん!」

 

◇ファル

 

 ネットに繋がっていればコトダマ空間を通して、相手の通信ログを探るのは可能だ。いつも通り意識を集中してすぐ近くにある端末のネットワークに潜り込む。どうせ押し込み強盗で何も出てこないだろう。だが予想に反してこの端末にカワタにニンジャの知り合いが居るかを聞き、聞き出し次第殺せと指示された記録を発見した。突発的な襲撃ではなく、何かしらの意図があってカワタは襲われたということか。

 

「これが一番新しいログかぽん」

 

 ログから通信記録を辿っていく。相撲の土俵がある空間、茶室、森林、コトダマ空間に入ったことでイメージされたアクセスポイントを次々と通過していく。通信するにあたって何か所も中継地点を経由している。用心深い。思ったより大きな組織が絡んでいるのか。そして暫く辿ると最終地点、発信元に辿り着く。そのイメージを見た瞬間ファルの論理肉体は汗が噴き出た。

 そこはカスミガセキ・ジグラットめいて複数の建築物が重なり合い頂上部は目で確認できないほど高い。建物外壁中央には「天下網」と書かれたネオン看板が設置されている。空には数えきれないマグロツェッペリンが遊泳し、「天下」と書かれた漢字サーチライトが周囲一帯を照らしていた。

  忘れるはずもない。ここはアマクダリネットだ。ということこの襲撃はアマクダリの指示か!?ファルは即座にログアウトする。

 

「この端末の持ち主はアマクダリのニンジャだぽん!アマクダリはカワタを殺そうとしたぽん!」

 

 ファルの言葉にスノーホワイトは驚きの表情を見せる。当然だ。何故ネオサイタマを暗躍する秘密結社がわざわざコミック作家を殺そうとするならば官僚や警察の上層部とかだろう。

 

「手を引くぽん。アマクダリに関わったらダメだぽん」

 

 これがヤクザとかだったら止めないだろう。だが相手はアマクダリだ。アマクダリの恐ろしさは骨身に染みている。最初にハッキングした時は何とか逃げたが幸運に恵まれただけだ。でなければヴィルスバスターというニンジャにAIを焼き切られていた。

 今は何度もコトダマ空間に潜り成長したが、アマクダリネットをハッキングしたらAIを焼かれる可能性は高い。

 アマクダリのミッションを邪魔すれば目を付けられ、その組織力を持って追跡する。そうなれば自分のハッキング能力でも痕跡を消しけれる自信は無い。カワタには何一つ否はないかもしれない。だが人は交通事故等で唐突に理不尽に死ぬ。この一件はそういうものだ。

 スノーホワイトは一瞬驚きの表情を作ったがすぐにいつも通りの無表情に戻り、カワタの元に歩み寄り、同じ視線になるようにしゃがみ込み問いかける。

 

「何か殺されるような恨みを買った覚えは?」

「ない!俺はコミックを描いていただけだ!クソ!何でこんな目にあう!?」

 

  カワタは苛立ちをぶつけるように返答する。スノーホワイトは立ち上がり二人に背を向けた。表情は変っていないが何かを決したような顔だった。

 

「やめるぽん!アマクダリに関わるなぽん!」

「カワタさんに後ろめたい感情は何もなかった。だったら守らないと。理不尽に殺されそうとしている人を見捨てたら、私は魔法少女じゃなくなる」

 

 スノーホワイトの言葉を聞きファルは黙る。

 

――――清く正しい魔法少女――――

 

  スノーホワイトはそれを目指し活動している。それが魔法少女スノーホワイトの根幹を支える信念だ。魔法少女狩りとしての活動もその一環だ。例え犯罪者相手であろうと暴力で制するその姿は魔法少女ではないと言う者もいる。それを自覚しながらスノーホワイトは少しでも清く正しい魔法少女であるために歩み続ける。

 だがカワタを見殺しにすればスノーホワイトは清く正しい魔法少女ではなくなる。そうなれば魔法少女としてのスノーホワイトは死ぬ。どんなに敵が強かろうと困難が待ち構えていようが清く正しい魔法少女で有り続けなければならないのだ。

 何となくそう言うだろうと分かっていた。だが口を出さずにはいられなかった。覚悟を決めろ。ネオサイタマ中を敵に回しても主人がやりたいことをやれるようにサポートする。それがマスコットの役目だ。

 

「分かったぽん。やってやるぽん」

 

◇スノーホワイト

 

「分かったぽん。やってやるぽん」

 

  ファルは勝手にしろと言わんばかりに言う。スノーホワイトは苦笑しながら礼を言う。アマクダリと敵対することになったらファルの力は必要不可欠だ。とりあえず協力してくれるようでほっとした。我儘なのは分かっている。だがラ・ピュセルやアリスが望む魔法少女であるためには見過ごすという選択肢は無い。

  スノーホワイトがカワタを助けようとした理由はファルが推測したもので合っている。だがもう一つ理由があった。

 

――――カワタ先生が死んだら困る――――

 

 ドラゴンナイトの困った声が聞こえてくる。知人が死ねば困るのは当然だ、だがこの声の大きさはそれだけではない。何かしらの理由が有るのだろう。詳しい理由は分からないがドラゴンナイトの為に出来る限りのことはしてあげたい。それがカワタを助けようするもう一つの理由だった。

 

「スノーホワイト=サン、これからどうする?」

「ニチョームに行こう」

 

 スノーホワイトの思わぬ言葉にドラゴンナイトは首を傾げる。その反応は予想通りで捕捉を加える。

 

「仮にニンジャが現れてアシスタントを殺して、さらにカワタさんを殺そうとして、その場に居たドラゴンナイトさんがカワタさんを助けようとしてニンジャを正当防衛で殺したと言ったら、警察はどう思う?」

 

  ドラゴンナイトは答えが思い浮かばないようで考え込む。スノーホワイトは答えを待たず話を続ける。

 

「碌に話を聞かないと思う。それどころか頭がおかしい人の妄言と決めつけカワタさんとドラゴンナイトさんが犯人と断定させられる」

 

  一般的にニンジャの存在が秘匿されている。アシスタント四人が首を斬り飛ばされて殺されるという猟奇的殺人現場に居た人物がニンジャの犯行ですといえば狂人認定され犯人にされる可能性は高い。

 

「なるほど、確かにそうかもしれない」

 

  ドラゴンナイトはスノーホワイトの言葉に納得している。本当の理由はアマクダリが警察機構と癒着している可能性が高く、出頭すれば逮捕されカワタは拘束され事故死で処分、ドラゴンナイトはアマクダリのニンジャを殺した事が発覚し殺される可能性がある。そうならないようにアマクダリの息が掛かっている機関には行かないようにしなければならない。

 

「そしてニチョームのザクロさん覚えている?あの人は顔が広いみたいだから、匿ってもらうかネオサイタマから逃がしてもらうのに協力してもらおうと思う」

 

 スノーホワイトは毅然と喋る。だが上手くいく確証は全くない。ザクロとは数回会ったきりで親しいわけではなく、相談に乗ってあげるという言葉を頼りに頼る。厄介ごとを持ってくるなと門前払いを喰らう可能性があり、それどころか警察に通報される可能性が有る。

  さらに仮にザクロが協力してくれネオサイタマから逃れても、ネオサイタマ警察の要請で逃亡先の警察に追われる可能性がある。これらの提案はこのまま何もしないよりマシ程度のものだ。カワタが苦労することに変わらない。

 

「ネオサイタマから逃げるためにニチョームに行くのか?」

 

 すると今まで黙っていたカワタが痛みで顔をゆがめながら喋る。

 

「はい、そうするつもりです」

「国外逃亡するなら俺にも伝手がある。俺はキョート出身だ、キョート大使館に兄貴がいる」

 

 その言葉にドラゴンナイトが、その後にスノーホワイトは言葉の意味を理解する。大使館は他国で生活する自国民をサポートする役目がある。それに大使館は治外法権であり、敷地内はネオサイタマではなくキョートだ。敷地内に入れば外交問題に発展する。とりあえず敷地内に入ればアマクダリでも手が出せないはずだ。

 小学校か中学校で習ったがキョートが外国という認識が薄くドラゴンナイトより気づくのが遅れた。カワタはドラゴンナイトからIRC通信機を借りてプッシュボタンを押した。

 

「モシモシ、兄貴か久しぶりだな。俺だ、ミツハルだ。」

 

◇カワタ・ケイジ

 

 茶室のタタミは全てキョートで栽培され生産されたオーガニックタタミである。値は張るがネオサイタマのタタミと比べ質は良い。茶室の中央には机とUNIXが置いてあり違和感を醸し出している。

 ここは茶室オフィス。オーガニックタタミの匂いを嗅いで仕事をすれば捗ると設計されたキョート大使館独自のオフィスだ。

 

『休憩時間ドスエ』

 

  電子マイコのアナウンスが流れるとカワタ・ケイジはUNIXを打つ手を止めて、急須に入ったチャをカップに入れて口につける。チャはキョートの茶畑で摂れた茶葉を使ったものだ。ネオサイタマのチャは質が悪く、一度飲んで以降常備されているキョート産のものにしか口をつけていない。

 ケイジはチャを飲むと周りを注意深く見まわし、ビジネスバックから有る物を取り出す。それは週刊フジサンだった。

 世間的にはコミックは子供が見るものとされており、キョートではそれが顕著だ。ケイジは30代前半であり、もし読んでいることがバレたらムラハチは免れない。家で読めば安全なのだが気になって仕事にならない。これは仕事を効率的に捗らせるために必要な事だと正当化し読み始める。

 まず読むのはセブンニンジャだ。人気は中堅だが個人的なツボに刺さりまくっており、真っ先に読んでいる。するとIRC通信機からコール音が鳴る。これは仕事用ではなくプライベート用の通信機からだ。親か?彼女のリョウコか?どちらにしても読書の邪魔されたのは気分が悪い。少し機嫌を悪くしながら応答する。

 

「モシモシ」

「モシモシ、兄貴か久しぶりだな。俺だ、ミツハルだ」

 

  ケイジは受話器から聞いて驚きで体が固まる。

 カワタ・ミツハル。5つ下の弟であり、コミックを描くからと勘当同然でキョートからネオサイタマに飛び出した。キョートではコミックを低俗と見る風潮からコミック作家は卑しい職業と認知され、コミック作家になると幼少期から宣言していたミツハルは格式の高いカワタ家では疎まれ、酷い仕打ちを受けていた。

 キョートを出てからはカワタ家では居ない存在と扱われ、連絡をとることも禁じられていた。連絡先は教えたがミツハルもそれを理解しており、連絡は一切してこなかった。そんな弟が突然何の用だ。ケイジは思わず唾を飲む。

 

「頼みがある。トラブルに巻き込まれた。今からキョート大使館に向かうから出国の手続きをしてくれ」

「トラブル?何をやらかした?」

「俺は何もやっていない。ただニンジャに狙われている。そのニンジャにアシスタントが殺された。状況的にアシスタント殺害の犯人としてマッポに捕まる可能性が有る」

「ニンジャだと?いるわけがないだろう、イデオットか?」

 

 ケイジは頭を抱える。未だにコミックを描いているようだが妄想ばかりしているせいか、ニンジャの存在を信じる狂人になってしまったのか。嘆かわしい。

 

「ニンジャは居るんだよ!覚えているだろう!ガキの頃誘拐されて廃工場に連れ込まれて、ニンジャ同士が戦って救出された!あれは夢じゃない現実だった!ニンジャは実在する!」

 

 ミツハルの言葉を聞いた瞬間急激な眩暈が襲う。キョート、廃工場、カラテシャウト、そしてニンジャ。その当時の光景が徐々に浮かび上がる。

 

「オゴーッ!」

 

 吐き気がこみ上げる。その当時はニンジャリアリティショックで記憶をロックしていたが、時が経ちミツハルの話がトリガーになり、記憶と恐怖が蘇る。そうだニンジャは実在する

 

「大丈夫か兄貴?」

「大丈夫じゃない…全く余計な事を思い出せやがって。一生思い出したくなかった」

 

 悪態をつきながら呼吸を整えニューロンを活性化させる。そして無慈悲な事実に気づいてしまう。

 

「お前!ニンジャに狙われたらデッドエンドじゃねえか!」

「大丈夫だ。知り合いのニンジャがいる。そのニンジャに護衛してもらう」

「知り合いのニンジャって……」

 

 ミツハルの言葉を聞き思わずへたり込む。人間がニンジャに勝つことは絶対にない。それは幼少期の体験でわかっている。弟の死は免れないと取り乱してしまったが、ニンジャの知り合いがいるらしい。会わない間にとんでもない交友関係を築いているようだ。

 

「キョートに逃げれば狙われることはないかもしれないらしい。頼む!助けてくれ!俺はまだコミックを描きたいんだよ!」

「分かった。とりあえず上司に聞いてみる。キョート国民を助けるのがキョート大使館の仕事だ。ところで今何を描いているんだ?」

「ああ、フジサンでセブンニンジャってコミックを描いている。知っているか?」

「セブンニンジャ!?ハハッ!」

 

 思わず吹き出す。今嵌っている作品を描いているのが実の弟とは?なんという偶然だ、いや必然か。ケイジとミツハルの娯楽における好みのツボは似ていた。嵌るのも何ら不思議ではない

 

「何がおかしいんだ兄貴!?」

「何でもない、さっさと来い。天下のフジサンで連載しているコミック作家様を丁重にもてなしてやる。カラダニキヲツケテネ」

 

 ケイジは深く息を吐く。コミックが好きでコミック作家を目指していた。だが世間の風潮や親の思想の結果、諦めて外交官を目指した。ミツハルは自分の為に夢を諦めて外交官になってくれたと感謝していた。だが違う。ケイジはコミック作家になるという夢を抱けなかっただけだった。だからコミック作家の弟を尊敬しており、何としても守りたいと思っていた。

 

 





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