ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

5 / 83
これまでのあらすじ

コバヤシ・チャコはスノーホワイトをフィクション上の存在であるニンポ少女と勘違いしていた。そのニンポ少女に会い会話することができ幸せの絶頂にいた。だが突然の来訪者によって幸福は恐怖に変わる。


第二話 ニンポショウジョ・パワー♯4

「アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」コバヤシの突如の絶叫!彼女に何が起こったというのか!?発狂してしまったのか!?読者の中にニンジャについて詳しい方ならこの一連のコバヤシの反応を見て何が起こったかお分かりだろう。これはNRS(ニンジャ・リアリティ・ショック)である。

 

ニンジャとは太古よりカラテで世界を支配してきた半神的存在である。長い年月の間ニンジャは社会の陰に潜み人類を支配し搾取してきた。その恐怖は人の遺伝子レベルに刻み込まれていった。現在ではニンジャはフィクションであり架空の存在とされている。だがもしニンジャが実在し目の前にいたら?

 

その事実を認識した瞬間遺伝子に刻まれた恐怖が蘇る。これがNRSである。症状としては失禁、一次的な記憶の欠如。重篤なものではショックによる死亡すら有りうる!ショック死はまぬがれたがしめやかに失禁していた。コールドスカルはコバヤシ侮蔑的な目線を向けた後チャブ台の上にあるUNIX機に近づき、付近にあった記憶端子を手に取る。

 

「有ったか」その瞬間傍目で分かるほど安堵のため息をついた。スギタ改めコールドスカルはゲイシャバーで記憶端子を紛失したと知った瞬間にすぐさまジツを行使する。ジツとはニンジャ固有の特殊能力である。あるニンジャは火を放出し、あるニンジャは体を鋼のように固くするなど様々なものがある。

 

そしてコールドスカルが使えるジツはシルシ・ジツ。これは触ったものにシルシをつけ遠距離からでも位置を判別できるジツである。コールドスカルは念のために記憶端子にシルシをつけておいたのだ。かつてのカンシ・ニンジャはドサンコからオキナワの距離でも対象の正確な位置を判別できたと言われている。

 

だがコールドスカルはそこまでのタツジンではなく、精々半径十キロメートルにいれば位置がわかる程度のものだった。しかし幸運なことに探知範囲に記憶端子はありそれを追跡、コバヤシの家にたどり着いたコールドスカルは物理鍵とチェーンロックを破壊しエントリーしたのだった。

 

記憶端子を懐に仕舞い込んだコールドスカルは放心状態で座り込んでいるコバヤシの前に腰をおろし問いかける。「この記憶端子の中身を見たか?」「……」コバヤシの返答はない。「この記憶端子の中身を見たか?もしくは見た奴はいるか?」コバヤシの肩に手を置き語気を強めながらもう一度問いただす。

 

 

肩に置いた手に少しばかり力が入るとコバヤシの肩に激痛が走った「アイエエエ!見てないです!アタシも誰も見てないです!ブッタに誓います!」恐怖と痛みで涙ながら訴える様子をコールドスカルは冷ややかな目で観察する。眼球の動き、呼吸の仕方、匂い、様々な仕草をニンジャ観察力で見極めコバヤシは嘘をついていないと判断した。

 

「バリキを大量に飲んでいるな、そんなに好きならわけてやる」コールドスカルは懐からバリキを取り出しコバヤシの口に強引に流し込む。半分ほど飲ませ残りが入った空き瓶と封を開けていないバリキをコバヤシの近くに置きコバヤシに拳を向けて構えをとる。

 

「残りはサンズリバーで飲んでくれ。お前の死因はバリキの飲みすぎによる心臓発作だ」コールドスカルは心臓めがけて電撃的な速度でパンチを放った。これは暗黒カラテ技の一つHBS!(ハート・ブレイク・ショット)相手の心臓に強い衝撃を与え心停止させる恐ろしい技である。

 

バリキを大量に飲むと心臓発作で死亡する事例がある。だが実際に心臓発作で死亡する事例はそう多くは無い。しかしコールドスカルはこの事例を利用し、ターゲットにバリキを飲ませた後にHBSを打ち込みバリキの大量摂取による心臓発作と偽装し、何人もの人間を殺害してきたのだ!

 

 

コバヤシが記憶端子の中身を見ていないのも誰も見ていないのも本当だろう。だがこの記憶端子の存在を知ってしまったことで巡り巡って不都合なことが起きる可能性が僅かながら存在する。コールドスカルはコバヤシを殺すことを選んだ。ナムサン!何たる人の命を何とも思わない残忍かつ冷酷なリスク管理だろうか!

 

だがニンジャにとってモータルを殺すことなど人がモスキートを殺す程度の罪悪感と労力なのだ!コバヤシはこの冷酷かつ残忍なリスク管理のもとで処理されてしまうのか!?しかしコールスカルの拳は心臓の前で静止する。いや背後から伸びる何ものかの手がパンチを止めたのだ。

 

後ろを振り向くとそこにはセーラー服のような白い服を着たピンク髪の少女がいた。

 

♢スノーホワイト

 

 小雪は真っ赤に彩られた容器を手に取りラベルに書かれている文字を読み込む「スゴイ!ヤバイ!洗浄力はヨコヅナ級!コンゴウ」詳しいことは分からないが相撲中継で見かけたような書体で書かれている文字には効き目をアピールする力強い言葉が並んでいる。

 一応洗髪剤と書かれているがまるでペンキでも落とせるような強力な洗剤のような文言だ。確かにこれなら髪に付着した重金属酸性雨の成分も落とせそうだが髪にも悪そうである。

 容器の腹を押し液体を出すとこれまた見事な赤色で髪に悪そうという印象をさらに引き立てる。思わず洗髪剤は使わず水洗いで済まそうと考えるがコバヤシの言葉が頭を過る。

 

―――体と頭はしっかり洗った方がいいですよ。特に髪は重点です。洗剤を使わないでそのままにして変色した子もいますから

 

 年頃の女性としては髪を傷めるのは避けたい。小雪は意を決して赤色の洗髪剤を水に溶かして髪を洗いはじめる。

 

 一通り話を聞いた後コバヤシからお風呂に入るように勧められたが丁重に断った。一泊させてもらいさらにお風呂まで入らせてもらうわけにはいかない。何より初対面の人の浴場を使うことに抵抗感はある。

 だがコバヤシは重金属酸性雨に濡れた体をそのままにしておくと健康に非常に悪いと強く主張し、それに押し切られる形で浴室を借りることになった。

 小雪はいつも以上に時間をかけて髪と体を洗い浴室を出て使用許可をもらったタオルで拭く。このタオルは家に有るものより作りが荒いなと取りとめもないことを考えている時だった。

 

―――アイエエエ!

 

 コバヤシが居る方向から大声が聞こえてきた。悲鳴だろうか?それにしては気が抜けるというか間が抜ける声だな。それが最初に思い浮かんだことだった。

 だが通常ではない何かが起こったことは確かだ。小雪は急いで制服に着替えてコバヤシのいる居間に向かおうとする時にそれを見た。

 そこには男がいた。大柄で黒のレザージャケットを身に纏いX型のモヒカンが特徴的な男だった。

 まず思い浮かんだのが親類か彼氏が訪れた可能性だったがすぐにその可能性は打ち消した。男の影から見えるコバヤシの怯えた表情は尋常ではない。

 その怯えた表情を見た瞬間に小雪はすぐさま浴室に戻り魔法少女スノーホワイトに変身した。これならばコバヤシの身に何かが起ころうとすぐに対処できる。

 スノーホワイトは状況を把握する為に魔法『困った人の声が聞こえるよ』を使い男の声を聞く。

 

―――この女が生きていたら困るな

 

 その声を聞いた瞬間に男は腰を捻り肘を後ろに下げる動作の予兆を見せる。その刹那スノーホワイトは飛び出した。

 あの困った声にこれからされる行為を予測すれば、コバヤシに危害を加えられるのは目に見えていた。

 魔法少女の常人離れした身体能力で距離を詰め、コバヤシに突きが放たれる直前に右手首を後ろから掴んだ。

 

 

◆◆◆

 

コールドスカルは後ろを振り向きスノーホワイトの姿を確認し驚きの表情を見せる。記憶端子を奪還することに集中し過ぎて周りの警戒を怠り接近を許した。何たるウカツ!そして少女の体に見合っていないこの強力な握力。少女でありながらまるでリキシリーグのスモトリのようだ。

 

だが振りほどけないほどではない。コールドスカルは握りこぶしを開き手首を回し下斜めにチョップで繰り出す動作をしてスノーホワイトの拘束から逃れる。一方スノーホワイトも驚きの表情を見せた。魔法少女が本気で握りしめれば人間の手首の骨など簡単に折れてしまう。ゆえにコールドスカルの手首を加減して握った。

 

それでもプロレスラーでも簡単に振りほどけない力で握りしめていた。それをいとも簡単にふりほどくとは。この一連の動作でコールドスカルとスノーホワイトはお互いが警戒すべき相手と認識し正対しながら見つめ合う。その間は一秒にも満たない時間だったが両者のニューロンでは目の前の相手への対応パターンが思い浮かび消えていった

 

「ドーモ、はじめまして。コールドスカルで…グワーッ!」「逃げて!」先に動いたのはコールドスカルだった、アイサツをするためにスノーホワイトに向けて手の平を合わせ頭を下げる最中に腹部に衝撃がはしり気づけば部屋から飛び出していた。正確にいえば腹部に抱きつくスノーホワイトとともに部屋の窓を突き破り外に飛び出ていた。

 

「イヤーッ!」無様にも地面に叩きつけられる直前にスノーホワイトの拘束を強引に振りほどき駐車場にある廃車の上に受け着地する。「貴様……アイサツも碌にできないのか!」コールドスカルは車の上からスノーホワイトに向け侮蔑と怒りの視線を向けた。

 

ニンジャのイクサにおいては幾つかのルールがある。その一つがアイサツである。ニンジャ同士が戦う前に名を名乗りアイサツをおこなうことは神聖な儀式で絶対であり、古事記にもそう記されている。コールドスカルはその身体能力からスノーホワイトをニンジャと判断した。だがスノーホワイトはアイサツの途中に攻撃をしかけてきた。

 

なんたるシツレイ!アイサツ最中での攻撃はニンジャの世界ではシツレイの極致である!だがスノーホワイトはニンジャではなく魔法少女。コールドスカルが勘違いしただけでありニンジャの礼儀作法に従う道理はない。一方スノーホワイトはその侮蔑と怒りの視線を受け止めながら目の前の相手に集中する。だが思考の片隅で部屋にいるコバヤシを心配していた。

 

(((この女も記憶端子のことを知っていたら困るな。生きていたら困るな)))聞こえてくる声でスノーホワイトには相手が自分に対して敵意があるのは分かっている。ここで応戦してもいいがコバヤシを巻き込んでしまう。

 

上手くコバヤシと分離する方法がないものか。そう思案している最中だった。コールドスカルが突如頭を下げ『アイサツ中に攻撃されたら困るな』という声が聞こえてきたその瞬間スノーホワイトは行動に移った。

 

相手にタックルをしかけ一緒に部屋から飛び出てコバヤシと距離を取り、相手を無力化またはコバヤシに遠くに逃げてもらう。それがスノーホワイトのプランだった。飛び出る直前に逃げろと言ったがあの虚ろな目に自分の言葉が届いているか一抹の不安を覚えていた。

 

今日の夜から降っていた重金属酸性雨は勢いを増し鈍色の雲に雷光が走る、駐車場の近くにあるボンボリライトがバチバチと明滅し二人をおぼろげに照らす。CABOOOM!一筋の雷光がはしるとともに轟音が鳴り響きそれが戦いの合図となる。「イヤーッ!」コールドスカルはスノーホワイトとの間にあった五メートルの距離を一瞬で詰め顔面に向けて突きを繰り出す。

 

あと数コンマで直撃するタイミングでスノーホワイトは首を動かし突きを躱す。突きは髪を掠り焦げ臭い匂いが嗅覚を刺激した。スノーホワイトの眼は驚愕と困惑で見開く。コールドスカルの実力を過小評価していた。高い身体能力を有しているが人の域は脱していないと思っていたが、その戦闘能力は完全に人の域を脱し魔法少女と変わりないものだった。

 

そして自分の体の変調具合。フォーリナーXの魔法の影響で体の状態が万全ではないことは確認していたがそれは予想以上だった。『顔面への突きが避けられたら困るな』という心の困った声を聞き攻撃が来るのは分かっていたのに体が反応できなかった。万全なら突きに対してカウンターを合わせられるのだが躱すのがやっとである。

 

 

「イヤッ!イヤッ!イヤッ!」コールドスカルは勢いそのままにワンインチの距離に潜り込みショートフック、ショートアッパーなどの細かい連打を繰り出す。戦闘時には得物である薙刀めいたルーラを使用することが多く、この距離は得意な距離ではない。スノーホワイトは攻撃を防ぎながら何とか距離をとり魔法の袋からルーラを取り出そうと試みる。

 

だがコールドスカルがそれを察知し距離を詰める、二人の間合いは一向に離れない。「イヤッ!」首元へのチョップ!「イヤッ!」側頭部へのエルボー!「イヤッ!」肝臓へのボディーブロー!マシンガンめいた連続打撃を防ぎ続ける!スノーホワイトはこのワンインチの攻防で己のさらなる異変に気付く。

 

ワンインチの距離になれば手数が多くなる。手数が多いということはその手数分だけ困った声が生じる。魔法少女クラスの能力でワンインチの距離で攻撃すれば、その手数に伴う困った声は膨大である。普段のスノーホワイトならばその膨大な心の声も聞き分け対処できるだろう。

 

だが今は違っていた。これまたフォーリナーXの魔法による影響か魔法の精度も落ち手数の多さも相まって処理できず所々声にノイズが混じっている。そのせいで相手の攻撃を読めないのであった。戦いのフーリンカザンは完全にコールドスカルのものである!

 

 

「イヤッ!」コールドスカルはトラの爪めいた手の形をつくり掌打を顔面に打ち込む。スノーホワイトは回避動作を始めるが圧倒的な光量が視界を覆い反射的に目をつぶった!何が起こったというのか!?コールドスカルの右手をよく見ていただきたい。右手の指先から光線が出ているではないか!

 

これはケジメした指をサイバネ手術する際に備え付けた高出力レーザーポインターである!この光を受ければ一時的に視界は奪われ最悪失明してしまうほど強力な光線だ。コールドスカルはそのまま突き立てた指でスノーホワイトの眼球を摘出するつもりである!レーザー光線を浴びた動揺で心の困った声は聞こえていない!

 

 

しかし右手をかざし目への致命的な打撃を防いだ!魔法少女狩りと恐れられた歴戦の魔法少女スノーホワイト、相手の声が聞こえずとも歴戦の戦いで鍛えられた勘が反射的に身を守る。ワザマエ!「イヤーッ!」だがコールドスカルはセットプレーめいたコンビネーションで空いた左わき腹にリバーブロー!

 

拳は深々と突き刺さりスノーホワイトの表情が苦痛に歪む!体が下がったところをすかさず首を抱え首相撲の態勢を作り膝蹴りを繰り出した。「イヤーッ!」スノーホワイトの顔に膝が直撃!「イヤーッ!」二撃目の膝!スノーホワイトは顔の間に手を差し込み直撃を回避!

 

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」首相撲の状態でスノーホワイトを左右に振り回しての膝の連打!ガードするがコールドスカルはコケシ製造マシーンめいて膝を繰り出し続ける。直撃はしないものもガード越しに衝撃が伝わり鼻から出血。ダメージは確実にスノーホワイトに蓄積されている。

 

「イヤッー!」コールドスカルは膝蹴りを頭部ではなくリバーに繰り出す!頭部に意識を向かしてのリバーへの急所攻撃だ!だが辛うじて心の困った声を聞きとったスノーホワイトは右肘でブロックし、空いた左手の掌打が股間を突き上げる。ナムサン!これは暗黒武術コッポ・ドーの奥義ボールブレイカ―だ!

 

この攻撃は選択肢になかったが股間に攻撃を喰らいたくないという声が聞こえてきたので即座に繰り出した攻撃である。魔法少女の膂力でボールブレイカ―を喰らえば痛みで絶命するだろう。それほどまでに恐ろしい技なのである。

 

だが左わき腹の痛みで数コンマほどボールブレイカ―を繰り出すのが遅れ、その数コンマがニンジャとの戦闘においては戦局を左右する。コールドスカルは危険を察知し、首相撲を解き残った右足に力を込め後ろに飛び退く。ボールブレイカ―不発!その隙にスノーホワイトもバックステップで距離を取り魔法の袋からルーラを取り出し構え息を深く吐いた。

 

その瞬間腹部に痛みが走る。左脇腹のダメージは軽くはない、それにレーザー光線のせいで視界がぼやける。厳しい状況に置かれている。一瞬逃げるという考えが思い浮かぶがすぐさま打ち消した。自分が逃げればコバヤシが殺される。何より罪のない人間が殺されるのを見過ごすのは魔法少女としてはありえない!何としても目の前の敵をここで無力化する!

 

スノーホワイトはまた一つ深呼吸を行いぼやける視界でコールドスカルを見据えた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。