ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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第十一話 バース・オブ・ア・ニューエクステンス・バイ・マジカルヨクバリケイカク#3

 

「ワースゴイ、ナンカスゴーイ、ケモビール、ダヨネー」

 

 上空を見上げると夜の海を泳ぐようにマグロ型の飛行船が浮遊し、液晶には猫に翼を生やして人を小馬鹿にしているような動物が映り、脱力させられるようなCM音声が流れている。確かケモビールだったか。

 人間と同じように酒に酔ってこのストレスを解消できたらどれだけ楽だろうか、だが魔法少女は毒に耐性を持っており、アルコールで酔えない。

 何が魔法少女は完璧な生き物だ!酒も楽しめないではないか、それに完璧な生物なら同じ魔法少女のスノーホワイトならともかく、ダイスマスターと呼ばれた奴ぐらいボコボコにできる力ぐらい授けろ。やり場のない怒りをぶつける様に転がっている空き瓶を蹴りつける。空き瓶は粉々に砕け飛散し前方にいたヤクザに命中した。

 

「ダッテメコラー!ファックスッゾコラー!」

「うるさい!」

「グワーッ!」

 

 ヤクザはフォーリナーXに詰め寄るが、右フックを喰らい10メートル横にあったゴミ捨て所まで吹き飛ばされた。ストリートを行き交う人々は一瞬フォーリナーXに視線を向けるが、因縁をつけられるとマズイと感じ、意図的に視線を外した。

 

 フォーリナーXは今モグサ・ストリートに足を運んでいた。モグサ・ストリートは比較的に治安が悪く、ヤクザやギャングなどアウトローな人物が多くいる。ストリートの両脇には明らかに違法な店が並んでおり、サイバネ武器や拳銃などが八百屋の商品のように当たり前のように陳列されている。

 魔法少女も秘匿されている存在であり、ダイスマスターもあの戦闘力ならば同じ種族も秘匿されているだろう。でなければスポーツ等で大手を振って活躍しているはずだ。もしその手の情報が有るなら裏社会だ。そう推理しモグサ・ストリートに来ていた。

 本当ならする必要のない行動だ、フォーリナーXは思わず怒りで癇癪を起こしそうになるが押さえ込む。勝手に侵入した家で一通り暴れたのでガス抜きが出来ていた。ただ怒りと不機嫌さの感情はダダ漏れであり、その美貌と豊満な体を持っていても声をかける男性は皆無だった。

 とりあえず適当にヤクザっぽい奴から話を聞いて、そこから情報を知っている奴を探すか、大まかな計画を立てアウトローな人間を探そうと周りをキョロキョロと見渡し、手頃な相手を見つけて声をかける。

 

「オイ、お前、何か化物みたいに強い奴を知らないか?」

 

 声をかけた瞬間六感のような何かが警鐘を鳴らす。フォーリナーXは異世界でも好き勝手生きて、その分敵も作り時には暗殺されそうになったの事態は数多くあった。無論すべて撃退したが、この感覚は襲われる瞬間に似ていた。フォーリナーXは全力で横に飛んだ、そのゼロコンマ数秒、目の前にいた人間の頭に何かが突き刺さった。これは手裏剣?

 

「ドーモ、ハジメマシテ、ブラッドイーターです」

 

 投擲物が来た方向に首を振るとビルの屋上の上から黒いマントを羽織った長髪の男が手を合わせてお辞儀をした。

 目の前から目を離すという行為、それは魔法少女を相手には致命的な隙であった。明確な殺意を持っていれば致命傷を与えられただろう。だがフォーリナーXは不意打ちによる動揺と目の前の相手がダイスマスターと同種の存在である恐怖で攻撃より観察を選んでしまった。

 

「アイエエー!ニンジャナンデ!?」

「アバババババーッ!」

 

 すると突如周りに居た人間が奇声をあげ失禁し、泡を吹いて気絶し始めた。何かの毒か?それにニンジャ?ニンジャなんてどこにもいない。人がバタバタ倒れ気絶するというその奇妙な現象にさらなる動揺を呼び起こす。フォーリナーXは動揺で声色が変わらないように尋ねる。

 

「今ワタシを狙ったか?」

「そうだ、最近の野良ニンジャはアイサツすらできないほどのクズなのか、こんなのにやられるとはたかが知れている」

 

 ブラッドイーターは侮蔑の目線を送りながら露骨にため息をついた。その動作一つ一つがフォーリナーXの癇に障る。

 

「お前はアマクダリというタイガーの尾を踏んだ。アマクダリフランチャイズのカミツキガメ・ヤクザクランの事務所と賭場を襲撃し金を強奪した。それはアマクダリの金を強奪したと同じだ。死ね」

 

 ブラッドイーターはビルから下りて近づいてくる。フォーリナーXは臨戦態勢をとる。直前までは逃走を考えていたが、今は戦闘しか選択肢はなかった。

 目の前の男は野良ニンジャがどうこうと意味不明なことを言いクズと明確に侮辱した。褒められることはあっても侮辱されたのは魔法少女になって以来初めてだった。

 フォーリナーXは病気による体験から優秀であることにこだわり続け、自分の世界では有用なアイテムを収集してくれて助かると褒められ、異世界生活では強さと能力に畏敬の念を抱かれ続けたことでプライドは肥大し続けた。そして無能と侮辱されるのが何よりも嫌いだった。感情は困惑から嫌悪そして殺意に変わる。

 殺す。侮辱したことを死ぬほど後悔させてやる。賭場では無様を晒したが今は違う、目の前の人間が魔法少女と同等と認識して戦う、そこに動揺も油断もない、ならば勝つのは自分だ。優秀な自分が魔法少女以外に負けるはずもない。自己肯定で闘志を漲らせ、相手への憎しみで殺意を燃やした。

 フォーリナーXはブラッドイーターに向かいながら魔法の袋に手を突っ込み武器を取り出す。それは全長120cm程の両刃の剣だった。異世界では徒手空拳でも十分に荒事には対応できた。だが出来るだけであって効率的ではなく、何か良い武器が無いかと思っていた時に見つけたのがこの剣だった。

 これはフォーリナーXのお気に入りの武器で切れ味は鋭く刃こぼれせず軽い、もし元の世界で作ろうとすれば軽く100kgを超える重量で、魔法少女の力でも振るのは多少苦労する品物だ。だがこの剣は精々10kg、魔法少女の腕力なら木の棒を振っているのと同じだ。何より刃に目玉の紋章が刻まれているデザインがRPGゲームの武器のようでフォーリナーXのセンスにドストライクだった。

 ダイスマスターの時は動揺に加え回避に専念せざる得ない状況に追い込まれたので使えなかった。だが今は違う、こちらから仕掛けることができる今なら使える。剣を居合切りの要領で横一文字に振りぬく、袋から大剣が出てくるという物理的には不可能な現象を伴った攻撃を予期するのはブラッドイーターには困難であった。

 

「グワーッ!」

 

 ブラッドイーターの胸は斬りつけられ鮮血が噴き出る。手ごたえは悪くない、そのまま返す刀で左袈裟に斬りつける。これも致命傷ではないがこれも手ごたえは悪くない。

 

「キヒヒヒ!どうしたどうした!クズにやられる気分はどうだ!?カス!?」

 

 フォーリナーXは大剣を振るい続ける。その剣捌きには武術的技量は伴っていないが、魔法少女の腕力で振るわれる大剣のスピードと圧力は凄まじく、また間合いの広さとダメージもあってかブラッドイーターは攻撃する暇もなく、回避に専念する。

 下段への攻撃が脚部を切り裂きブラッドイーターは体勢を崩す。それを見て勝負を決めようと力いっぱい横一文字に薙ぎ払う。脳内では上半身と下半身が真っ二つに別れる映像が浮かび上がる。

 だが手ごたえはまるで無くブラッドイーターはブリッジで致命的な一撃を回避した。すぐさま縦に真っ二つにしようと大剣を振り下ろすがブラッドイーターはフリップジャンプで回避、そのまま5連続バク転を決めフォーリナーXに背中を見せ逃走を開始した。

 他の魔法少女なら進路上の住人の身を案じてスピードを緩め回避するなどしていたかもしれないが、フォーリナーXは全く意を介すことなく、殴り飛ばし蹴り飛ばし大剣で切り払った。それでも僅かにタイムロスしてしまい、フォーリナーXとブラッドイーターとの距離は少しずつ離されていた。

 他の魔法少女なら進路上の住人の身を案じてスピードを緩め回避するなどしていたかもしれないが、フォーリナーXは全く意を介すことなく、殴り飛ばし蹴り飛ばし大剣で切り払った。それでも僅かにタイムロスしてしまいフォーリナーXとブラッドイーターとの距離は少しずつ離されていた。

 ブラッドイーターは屋上から地面に降りて再び店舗に入る。このままでは逃げ切られる。一か八かこの大剣でも投げるか、思案しながら店舗に入る。

 店は飲食店のようで厨房とカウンターにテーブルが五席ぐらいの普通の店だった。店内は普通ではなく客は全員死んでおり、返り血が壁や床に派手に飛散していた。そしてブラッドイーターがヴァンパイアのように従業員の首に噛みついていた。フォーリナーXは数コンマほどブラッドイーターの行為を逡巡したが、すぐさま従業員ごと斬りつけることを選択する。

 

「イヤーッ!」

 

 ブラッドイーターは従業員を投げつける。フォーリナーXは片手で従業員を払うと視界にはブラッドイーターが懐に潜り込む姿が映る。この間合いでは大剣は意味が無い、反射的に膝で迎撃を図るがそれより先に相手の拳が腹部を貫いた。鈍痛とともに衝撃で後方に吹き飛びストリートに叩き出される。ゴロゴロと転がりながら追撃に備えて立ち上がるが、予想に反してツカツカと余裕をもって近寄ってくる。

 

「さっきはジツに不覚をとったが、もう二度とない。これから本物のカラテを見せてやるクズ」

「マグレが出ただけだろ、ワタシが斬りつけた傷は浅くない、やせ我慢するなよ」

「やせ我慢?よく見てみろ、俺はもう全快だ」

 

 ブラッドイーターは見せびらかすように胸を張る。確かに衣服には斬りつけられた跡が残っている。だがその部分から血が一切出ていなかった。それに最初よりも生命力と呼べるエネルギーが増しているような気がした。何が起こっている?

 疑問を考える隙を与えないと言わんばかりにブラッドイーターは一気に間合いを詰め寄る。明らかにスピードが増している、だがまだ間合いの範囲内だ。

 フォーリナーXは先程のように掻い潜られないように右袈裟に切り上げる。ブラッドイーターは剣に手を添え力を僅かに加えて受け流し、いとも容易く素手の間合いに侵入する。その受け流しの技術は卓越しており、受け流された事に気づかないほどだった。

 隙だらけの肝臓に拳を打ち込まれる。アバラが折れる音が響き全身に痛みが駆け回り胃液がこみ上げる。さらに右フックのフックをもらい錐揉み回転しながら吹き飛ばされる。顎に的確に当たりバキバキという音が体の中から聞こえた。

 

「どうしたクズ?シマッテコーゼ」

 

 体を傷つけ心を完膚なきに叩きのめす。戦いにおいて慢心は命取りであり、その慢心で逆転され命を落としたニンジャは少なくない、だが慢心しても殺されることがない実力差で有ると感じ取っていた。

 クソ!クソ!見下すな!殺してやる!痛みと恐怖で挫けそうな心を怒りで塗りつぶし反撃を試みる。フォーリナーXは一心不乱に剣を振る。それは攻撃と言うより子供が癇癪を起して暴れているだけだった。

 ブラッドイーターは回避し続ける。ダメージを受け平常心を失った攻撃など簡単に掻い潜り数回は致命的な打撃を与えられるが、あえてしなかった。

 体を傷つけ心を完膚なきに叩きのめす。戦いにおいて慢心は命取りであり、その慢心で逆転され命を落としたニンジャは少なくない、だが慢心しても殺されることがない実力差で有る事を感じ取っていた。

 フォーリナーXの剣速が段々と落ち、それに比例するように目から闘志が消え絶望に染まっていく。そして完全に動きが止まり、剣を杖替わりにして膝をついた。その瞬間ブラッドイーターの攻勢が始まる。碌に防御できずサンドバックのように打たれ続けた。アバラは次々へし折られ顔面も誰もが振り向くような美貌は影も形もなくなっていた

 

「ワタシはつよいんだ……優秀なんだ」

 

 フォーリナーXはと呟く。自分を奮い立たせる呪文、だが今の言葉には力も意志も無く機械的に呟いているだけだった。その言葉を聞きブラッドイーターは腹を抱えて笑う。

 

「優秀?イデオットか?お前はニンジャになって勘違いしただけだ!お前はクズでカスなんだよ!」

 

 ブラッドイーターの罵倒が響き渡る。フォーリナーXのプライドと自尊心は粉々に砕けた。確かに優秀である素質は有ったかもしれない。だが病気に罹る前と魔法少女の時の全能感に酔いしれ、異世界の弱者に勝ち続け強くなる鍛錬を怠り、現実から目を背け続けた。

 魔法少女でもニンジャでも一部の例外を除いては鍛錬を積み強敵と戦い強くなっていた。フォーリナーXの敗北は当然であり、自分の力を過信した者が強者によって叩きのめされる。これは魔法少女でもニンジャでも人間の世界でもありふれた光景である。

 

「やはりニュービーを分からせるのは良い、ではカイシャクだ。ハイクをよめ」

 

 ブラッドイーターは満足げな表情を見せると貫手を作り構える。その瞬間光と爆音に包まれた。フォーリナーXが異世界のスタングレネードを使ったのだ。ブラッドイーターは心が砕け介錯を待つ負け犬と断定した。だがフォーリナーXは無意識にアイテムを使用し、慢心が油断を呼び、行動を見逃した。

 

「グワーッ!閃光グワーッ!」

 

 ブラッドイーターは目を抑えもだえ苦しむ。ブラッドイーターに宿ったソウルはブラド・ニンジャクランのソウルであり強烈な光に対して他のニンジャより弱かった。暫くすると視界もはっきりしていく、周辺にはフォーリナーXの姿は消えていた。

 

 

 

今はセクトの仕事を遂行する、反省はその後だ。ブラッドイーターは鼻をスンスンとしながら匂いを嗅ぐ、フォーリナーXの顎を砕き口の中には血で溢れており吐き出すはずだ。そこから追跡する。ブラッドイーターは血に対するニンジャ嗅覚が敏感だった。すると重金属酸性雨が強く降ってくる。匂いが消える早くしなければ。

 

嗅覚に意識を向けながらストリートを歩く、周りにはNRSで倒れているモータルが放置されており、身ぐるみが剥がされている。このストリートに救急車を呼ぼうという良心を持つ者はいない、さらにマッポを呼ぶものもいない。住人もニンジャについて知っている者もおり、ニンジャに関わる者はいない。

 

嗅覚に意識を向けながらストリートを歩く、周りにはNRSで倒れているモータルが放置されており、身ぐるみが剥がされている。このストリートに救急車を呼ぼうという良心を持つ者はいない、さらに警察を呼ぶものもいない。住人もニンジャについて知っている者もおり、ニンジャに関わる者はいない。

 

ストリートを100メートルほど歩く、「アイエエ!ニンジャナンデ!?」右向かいの店を縦断する。ニンジャ存在感を抑えていないのですれ違ったモータルは次々とNRSを発症させていく。店を突っ切り裏口に向かう。血の匂いが新しい、近くにいる。

 

裏口に出ると女が壁にもたれ掛かっていた。フォーリナーXかと思ったが違う。髪は黒色で服装も寝間着でゾンビーめいて生命力がない。ブラッドイーターはゾンビーめいた女を一瞥した後背を向け離れていく。

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」背後からのアンブッシュ!ブラッドイーターのニンジャ六感が致命傷を回避!だが左わき腹を抉られる。「イヤーッ!」背後の襲撃者に反射的にハックハンドブローを繰り出す!襲撃者はガードし衝撃で数メールずれる。

 

ブラッドイーターは襲撃者の顔を見て驚く、あれは先程のゾンビーめいた女!ゾンビ―めいた女は寝間着の袖を千切り口元に巻きアイサツした。「ドーモ、ブラッドイーター=サン、フォーリナーXXです」

 


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