ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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第十話 学生の本分とご褒美#1

◇スノーホワイト

 

「くそ、天気予報では実際強くないって言っていたのに」

 

 夜のネオサイタマに大粒の雨粒が降り注ぐ中ドラゴンナイトは慌てた様子で走り始め、スノーホワイトは後についていく。一分間ほど走ると目の前にネオン装飾で彩られた本屋があり。ドラゴンナイトは中に入らず軒先に止まると息を吐き、被っていた帽子を取り水滴を取り除く。

 

 ネオサイタマで生活する上で雨具は必要不可欠である。スノーホワイトの住む世界では雨に濡れても不快に感じるだけか、体が冷えて風邪をひくぐらいである。だがネオサイタマでは雨に濡れることは命に関わる。

 空から降るのは有害なガスを含んだ重金属酸性雨であり、雨を体に浴びて少量飲んだとしても死に至る毒性はないが、有害であることは変わりない。故にネオサイタマの住人は傘等を常に持っている。他にはサイバーレインコートで雨を防ぐ方法もあるが、ドラゴンナイトは動きの邪魔になるからという理由で基本的には着ていない。

 

「今日は雨が弱いからAAHMR++の帽子とジャージ着ちゃったよ、そういえばスノーホワイト=サンの服ってAAHMRどれくらい?」

「えっと、私のも++かな」

「そうなの?いつもその服だから++++ぐらいあると思ってた。でも++じゃあ実際危ないから、加工してもらうか他の服を着こんだほうがいいよ」

「わかった。そうする」

 

 スノーホワイトはドラゴンナイトの会話に適当に合わせる。AAHMRとは何だ?とりあえず野外で活動するには++++ぐらい必要のようだ。重金属酸性雨については知っていたが魔法少女は毒に強いので特に気にしていなかった。とりあえずファルに調べてもらおう。

 

「とりあえず、雨が弱まるまで中で暇潰す?」

 

ドラゴンナイトが店内を指さし、スノーホワイトは頷き店内に入っていく。

 

「イラッシャイマセドスエ」

 

 自動扉を通過すると女性の声を機械加工した音が聞こえる。すぐ振り向けば自分の世界のVRゴーグルのような物をつけた店員が座り、こちらを振り向くことなく前方を見続ける。

 ゴーグルから「万引きは許さない」「暴力行為合法」「店の中は私が法律」という文字が流れる。中々威圧的な文言だ。 自分の世界では万引き犯に対する暴力行為は違法である。だがネオサイタマであれば合法であっても何の不思議でもない、最初は軽いカルチャーショックを受けたが、もう馴れた。 店内の広さは大型書店というほどではなく、地元が営業している個人経営の店ぐらいの広さだった。客も夜間のせいか、自分たちを含め10人程度だ。

 

「私、あっちのほう見てるから」

「分かった。ボクはあっちにいるから」

 

 二人はそれぞれの方向に向かう。ドラゴンナイトは漫画コーナーに行ったのだろう。普段の行動と趣味嗜好を知っていれば予想できる。 こういうのは一人で物色したいものだ、気持ちは分かる。趣味を共有している者ならともかく、スノーホワイトはコミックにはそこまで興味がない、そういう人物が居るとかえって邪魔だ。自分も魔法少女ものの漫画や小説を物色しようと思う時に理解が無い人が居れば邪魔である。 スノーホワイトは店内を時計回りに回っていく。

 

 「マイナス思考がプラス化する」「そんな事だからお前はダメだ」「これで僕は間違いなく破産する……圧倒的勝利のシステム全開示」「父へ……365の有言実行」「ニュービーでも分かるデジネンブツ」「クッキングアイアンマンのバイオマグロ調理法」

 

 新聞、週刊誌、新書、実用書、小説等様々な書物が置いてあり、スノーホワイトは出来るだけ手に取る。本は立ち読みできないように細工されているが、表と裏の表紙を見るだけでも情報は得られる。ネオサイタマに来てそれなりの月日が経ち、生活に馴れたつもりだがまだ知らないことが多い。こうして情報を収集するのは無駄ではない。

 

「ファル、AAHMRって何?」

「それは衣服が重金属酸性雨に耐えられる数値だぽん、+++++が最高だぽん」

 

 小声で尋ねると端末から答えが返ってくる。知っていたのか会話を聞いて調べたのか、前までは書物で調べる手作業だった。ファルがネットワークに繋がってから、こういう質問をすればすぐに返ってくるのでデーターベースとしては頼りになる。

 店内を物色していると参考書コーナーに辿り着く。そこには中学生らしき少年達が参考書を物色している。その姿を見て自分の世界の学業について思考が移る。

 そういえば学校は期末試験だろうか、この世界に来てから勉強をする余裕もなく、教材もないので全く勉強していない。復習もせず授業を受けていない今の状態でテストを受ければ赤点は免れないだろう。

 姫川小雪が通っている高校は進学校であり、学業成績が落ちるとそれだけ今後の学校生活に影響が出る。この遅れを取り戻すのは大変そうだ。今後のことを考え少しだけ憂鬱になっていた。

 スノーホワイトは何となく数学の参考書を手に取る、ハイスクール1年と書かれているので習った問題もあるかもしれない。表紙には例題と答えが載っていた。

 

答えはルート虚無僧44

 

 √44なら分かる。だがルート虚無僧44とはどういう意味だ?自分が知っている平方根の計算とは根本的に違うのだろうか?スノーホワイトは深く考えず参考書を元の位置に戻した。

 

「期末テストだけど、どう?」

「ノースタディ重点」

「俺も!」

 

 スノーホワイトの近くにいた少年達もテストについて語っている。お互い勉強していないと主張する。だが実際はきっちりテスト勉強しており良い点数を取るというのがテストあるあるの一つだ。

 中学校でもよっちゃんとみっちゃんが勉強していないと言い、安心して手を抜いていたら実は二人は勉強して良い点数をとり、自分は散々だったということあった。今思えば他人を気にせず勉強していればいいのだが、当時は自分だけ良い点数を取って嫉まれるとでも思ったのだろうか。昔の事を思い出しながら参考書コーナーを後にして専門書コーナーに足を運んだ。

 

「そろそろ行こうか」

 

 コミックコーナーの物色を終えたドラゴンナイトと合流し、出口に向かう。外を見ると雨足はすっかり弱まっていた。

 

「そういえばドラゴンナイトさんの学校って期末テストいつ?」

 

 スノーホワイトは何気なく切り出す。先ほどの中学生らしき男の子が試験ならドラゴンナイトもテストがあると世間話のつもりで話す。

 

「1週間後」

「期末テストの勉強は大丈夫?」

「いいよ、あんなものブルシットだ。それよりパトロールや強くなることが大事だよ」

 

 ドラゴンナイトは吐き捨てるように言う、これは勉強が嫌い故の現実逃避か?だがその言葉には怒りや苛立ちの感情が含まれている。只の現実逃避ではなさそうだ。

 

「それじゃ、成績落ちちゃうよ」

「いいよ、良い点数とって、センタ試験に合格して、カチグミになってもあのファッキン父さんの会社に働かされるんだ。それだったらパトロールやトレーニングに時間を使って困っている人を助けるほうが有意義だよ」

 

 ドラゴンナイトは靴の底でアスファルトをジャリジャリと擦り苛立たしい様子を見せる。

 

「でも勉強はしたほうがいいよ。お父さんの会社を継ぐ継がないにしても、勉強して良い点数取っていれば、その分進路選択の幅が広がる。なりたい職業があっても学力が足りなくて後悔することになるかもしれないよ」

 

 スノーホワイトは自分の世界の一般論を諭すように言う。知る限りではこの世界のセンター試験に合格し大学を卒業しなければ一流企業に入れないそうだ。一流企業に入るのが幸せかは分からないが、せっかく私立で良い教育を受けているのだから、それを捨てるのはもったいない。

 

「いいよ、ベースボールプレイヤーにはもう成れないし、なりたい職業なんてもう無い。ボクはニンジャだ。いざとなればニンジャの力で稼げる。いっそ職業ニンジャになればいい」

 

 ドラゴンナイトは自身に言い聞かせるように呟く。一方スノーホワイトはその言葉に危機感を覚えていた。

 魔法少女は永久的になれるわけではない。魔法少女に推奨される人助けを行わなかった者、悪事を働いた者。そういった者は魔法の国から魔法少女の力を剥奪される。そうなれば魔法少女の力もその記憶も消され何も残らない。

 魔法少女は魔法少女であることに縋りつく、その異能の力を手放すのが惜しくなり、魔法の国が推奨する人助けを積極的に行う。自分の時間を削り、生きていくために必要な技術や知識を得る時間を削り、生きるために必要な労働する時間を削って。

 そうして人生は取り返しがつかないほど確実に追い詰められる。けれど魔法少女を手放せない、そして最後は金を得るために犯罪に手を染め、別の魔法少女に捕まる。スノーホワイトもそういった魔法少女を何人も捕まえてきた。

 ニンジャのことは詳しく知らないが、その能力が失われることはないだろう。だが異能の力に頼る生活は必ず落とし穴に嵌ってしまう。異能の力は使うにしても趣味に使う程度に留めておくべきであり、ニンジャの力に頼らず人間としての知識と技術で生きるべきだ。

 異能の力はきっと悪用される。別の誰かによって法を犯される事をさせられるか、自ら法を犯すかだ。そんな後ろ暗い事をすれば逮捕され、最悪死ぬ危険が高まる。

 ドラゴンナイトには、カワベ・ソウスケには岸辺颯太のように清く正しく末永く生きてほしい。それがスノーホワイトの願いだった。

 

「ドラゴンナイトさんの前回のテストの平均点は何点ぐらい?」

「そんなのいいよ」

「言って」

 

 スノーホワイトは冷淡に無感情に呟く、それは魔法少女狩りと恐れられたスノーホワイトだった。その迫力にドラゴンナイトは言うつもりが無かったが思わず平均点60点と口に出してしまう。

 

「平均点60点か、じゃあ1週間後のテストの結果が平均点60点以下だったら、もう一緒にパトロールしないから、私は勉強しないで頭が悪い人は嫌いなの」

「え?ジョーク?」

「本気だよ」

 

 ドラゴンナイトはスノーホワイトの変化についていけないのか呆けた顔をしながら聞き返す。だがスノーホワイトは言い放つと冷ややかな目で見つめる。その表情にドラゴンナイトは動揺し戸惑っていた。

 

「そして、平均点85点超えたら、私がデートに連れて行ってあげる……」

 

 ドラゴンナイトから視線を逸らし僅かに照れ臭そうに呟く、鉄仮面で冷徹な魔法少女狩りの顔ではなく。魔法少女になったばかりの感情を素直に顔に出してしまうスノーホワイトの顔だった。

 スノーホワイトはドラゴンナイトを置きざりにするように移動する。ドラゴンナイトは状況の変化についていけず、目を点にして後ろ姿を見ていた。

 

「スノーホワイトも悪い女ぽん、相手の好意を利用して一緒に行動しないという鞭、デートに連れていくという飴を与え、自分が望む方向に誘導しようとしているぽん。いつの間にそんなテクニックを覚えたぽん」

 

 ファルがスノーホワイトに話しかける。もし表情がついていたらニヤニヤと擬音がつくような笑みを浮かべていただろう。

 

「あのままじゃあダメだから」

「でも何でデートだぽん?飴を与えるにしてもスノーホワイトなら別の何かを言いそうだぽん」

「それしか思いつかなかった」

 

 正確に言えば一番効果が有る飴があれしか思いつかなった。ドラゴンナイトの恋心を利用した飴と鞭、ファルの言う通り悪い女だ。スノーホワイトは軽い自己嫌悪に陥っていた。だがドラゴンナイトの為なら自己嫌悪すらいくらでもなってやる。

 

「詳しくは分からないけど、ドラゴンナイトの為ぽん、よく世話を焼くぽん」

「ドラゴンナイトさんが理不尽に死なない為なら私は何だってする」

「でも、スノーホワイトの行動はその場凌ぎの付け焼刃ぽん、スノーホワイトが居なくなれば鞭も飴も意味がなくなるぽん。まさかずっとこの世界に留まるなんて言うつもりはないぽん?」

 

 ファルの指摘に黙り込む。まさにその通りだった。本人がニンジャの力を使わず真っ当に生きるつもりがなければ、いずれは日常から外れていく。だがこれを機会に思い直すかもしれない、その可能性が僅かでもあればそれに賭ける。ドラゴンナイトの為にやれる事は全てやる

 

───

 

 

ソウスケはチャブ台の前に正座する。上を見上げると「妥協しない」「最低でも六時間」「絶対に六十点以上」と力強くミンチョ体でショドーされた掛け軸が飾られている。これはソウスケがショドーしたものだ。そして深く息を吐くとハチマキを額につける。ハチマキは白色で額の中心の場所に赤色の丸、その等間隔の隣に「六」「十」とショドーされている。

 

ナムサン!これはセンタ試験に向けて勉強する受験戦士がする姿だ。これは普段はせずセンタ試験一週間前にするとされており、死ぬギリギリまで自分を追い込むという決意表明である。何たる覚悟か!それほどまでに学力試験に懸けているのだ!

 

ソウスケはテキストと白紙のノートを開く、本来ならノートには教師が黒板に書いた文字が書き写され、重要なポイントは赤色のペンでマーキングされている。だが授業中はイマジナリーカラテをやり続け、碌に教師の話を聞かずノートをとっていなかった。こんなことになるなら授業を真面目に受ければよかった。

 

だがそんな後悔はニューロンの片隅に追いやる。後悔はテストが終わってからすればいい!ソウスケはテキストを広げ凝視する。ニンジャセンスを全稼働させテストに出そうな単語を読み取りノートに書いていく。1時間後ノートに書く作業は終了する。するともう一つ白紙のノートを取り出し横に置いた。

 

「イヤーッ!」ソウスケは白紙のノートに先ほど書いた単語を全自動スシ握りマシーンめいて書いていく。ページは瞬く間に文字に埋まっていき、すぐさまページを開き文字を書いていく。「ウラガ、ペリー、クロフネ、チョウシュウ、サツマ」ソウスケはマントラめいて呟く。気が狂ったか!?否!これは暗記テクニックである。

 

文字を書き体で覚え、言葉にすることで聴覚を通してニューロンに刻み込み記憶として定着させる。ソウスケは一心不乱に書き言葉を発する。この暗記テクニックは膨大な体力を消費するので長期間はできない。だがソウスケはニンジャ体力を生かし実行する。何たるニンジャの体力を利用した物量作戦か!

 

もっと効率的な方法があるのでは?ソウスケのニューロンに誘惑が駆け巡る。だが己のニンジャ感覚で選んだ項目を覚えるこの方法を貫徹する!ソウスケは雑念を捨て暗記するという一点に全てを注ぎ込む。

 

かつてベーシックカラテを教えたドラゴン・ユカノが居れば、ドラゴンニンジャ・クランのインストラクションワン「百発のスリケンで倒せぬ相手だからといって、一発の力に頼ってはならぬ。一千発のスリケンを投げるべし」を思い出し、そのスピリットを褒めるだろう!

 

6時間後、ソウスケは腕を止め立ち上がる、流石に疲れた。体に取り巻く倦怠感を覚えながらフートンに敷き眠りにつく。暗記は睡眠をとることでニューロンに定着する。それには質の高い睡眠が必要である。フートンに入り深呼吸を繰り返し、精神をヘイキンテキにする。意識が失う間、あの日の夜の事を思い出していた。

 

スノーホワイトの顔は忘れられない。マシーンめいた冷たい表情、あんな顔は初めて見た。思い出しただけで体が竦む。そして60点取れなければ二度と一緒に行動しないと言った。スノーホワイトは初めて会った同志であり、恋焦がれる人だ。その人と二度と会えない、それは死に匹敵する恐怖だった。

 

前回と違い授業を全く真面目に受けていない。点数が取れない、スノーホワイトと二度と会えない。ニューロンにネガティブな感情が駆け巡り支配する。コワイ!ツライ!タエラレナイ!次々にネガティブな言葉が浮かびメンタルを蝕む。その時ニューロンのデーモンが囁く。カンニングしろ、教師から問題を奪え。

 

ニンジャならカンニングの方法はいくらでも有る。学校に侵入し問題用紙を盗む。教師を脅して問題を教えてもらう。どれもベイビー・サブミッションだ。ソウスケは実行に移そうとするが動きが止まる。ニューロンに浮かぶのはスノーホワイトの姿だった。

 

清く正しいスノーホワイト、ソウスケは容姿にも惚れていたがその精神にも惚れ憧れていた。まるで憧れたカートゥーンのヒーローのようだった。もし外道な方法で良い点数を取ったら、もう二度とスノーホワイトの隣に立つことはできない。それ以降ニューロンのデーモンは囁くことは無かった。

 

ソウスケは期末テストまで只管勉強した。スノーホワイトにはテストまでパトロールを休むと連絡し、トレーニングも必要最低限に抑えた。ベースボールのトレーニングもカラテのトレーニングも辛いけど楽しかった。だが勉強はただ辛かった。それでもスノーホワイトと離れたくないという一心で耐えきり、テスト当日を迎えた。

 

 

◇ファル

 

「今日はドラゴンナイトのテストが返ってくるらしいぽん」

「そうみたい、今日答案持ってくるって連絡があった」

 

 日が落ち始め夕日がネオサイタマの街並みを染め上げる。ドラゴンナイトのアジトも夕日が窓から入り中にいるスノーホワイトを茜色に照らす、夕日の光を気にすることなく魔法の国のアイテムや道具の数をチェックしながら相槌をうつ。

 

「もし60点以下だったら、どうするぽん?」

 

 スノーホワイトはファルの言葉に返事をすることなく、道具の整理を続ける。答えは分かっている。これはスノーホワイトが提示した条件だ。気分次第で幾らでも反故にできる。ドラゴンナイトの意志を尊重し、その身を守るのがスノーホワイトの目的だ。つまり自分から離れることはありえない。つまり茶番だ。

 茶番だと知らず点数に一喜一憂しているドラゴンナイトには少しだけ同情する。道具の整理が終わり日が沈んだ頃にドラゴンナイトはやってきた。

 

「ドーモ、スノーホワイト=サン」

「どーも、ドラゴンナイトさん」

 

 ドラゴンナイトの表情に安堵も落胆も見られない。見えるのは緊張だ。平均点60点を超えれば安堵し、以下だったら落胆しているはずだ。その訳はファルには分からなかった。

 

「じゃあ、答案を見せるね。ボクもまだ結果を見ていない」

 

 ドラゴンナイトは筒のようなものから答案を取り出す。その手は若干震えていた。なるほど表情の理由を理解できた。答案をスノーホワイトに見せるように広げた。

 

「ランゲージは……92点、サイエンスは85点、ソーシャルスタディは90点、フィジカルエディション89点、ジャーナリズム90点、」

 

 点数を読み上げていく、かなりの高得点だ、自身も想像以上だったのか声も嬉々としている。これはスノーホワイトの提示した平均点85点以上を上回るかもしれない。そして最後の答案を取り出す。先程までと比べるとゆっくりとしておっかなびっくりだ。このテストは点数が悪いのかもしれない。

 

「最後のマスは……70点」

 

 点数を読み上げ大きく安堵のため息をついた。ファルは瞬時に点数を計算する。平均60点は明らかに超えている。これで一つ目の条件をクリアした。そしてスノーホワイトが提示した条件は平均点85点以上だ。6科目の平均点は86点。スノーホワイトも暗算で計算し終わったのか、仕方がないといったような表情を見せた。

 

「平均点は86点、よくがんばったね。凄いよドラゴンナイトさん」

 

 スノーホワイトは笑顔を見せながら労い賞賛の言葉を贈る。これは社交辞令ではなく本心だろう。表情が自然で弟を褒める姉のようだった

 

「これで一緒に行動していいんだよね」

「うん、意地悪なこと言ってごめんね」

「平均点60点超えている手ごたえはあったけど、実際不安だったよ、テストも二択だった場合も多かったし、外れていたらもっと点数が低かった」

「一日何時間ぐらい勉強したの?」

「家に帰ってからはずっと勉強、息抜きでイマジナリーカラテやったりしたけど、7時間ぐらい」

「凄いね。どんな勉強方法したの?」

「ひたすら書いて喋って暗記、ニンジャじゃなきゃ出来なかった勉強方法だから、ちょっとズルかったかも」

「そんなことない、ニンジャでもずっと勉強を頑張ったのはドラゴンナイトさんの意志だよ。だからドラゴンナイトさんの力だよ」

「そうかな」

 

 ドラゴンナイトは不安から解放されたからか饒舌に喋る。それをスノーホワイトは相槌を打ちながら聞き肯定する。ドラゴンナイトは機嫌がよくなり、さらに喋った。

 

「じゃあ、パトロール行こうか、このワクワクする感覚懐かしいな。テスト空けにベースボールクラブの練習をする時みたいだ」

 

 嬉しさを隠すことなく言いながら窓のサッシに足をかける。外に出ようとした瞬間スノーホワイトが声をかける。

 

「行くのは今週の日曜でいい?」

「行く?どこに?」

「その、デート」

 

 スノーホワイトはデートという単語を言う際に僅かに言いよどむ。その単語を聞いたドラゴンナイトは無反応だった。おかしい、いつものドラゴンナイトなら顔を赤くし照れと恥ずかしさで挙動不審になるはずなのに、スノーホワイトもおかしいと思ったのか問いかける。

 

「平均点85点超えたら、デートに誘うって言ったよね」

 

 ドラゴンナイトは顎に手を置きながら首を右に傾け左に傾けさらに右に傾け、顎から手を放し、その手を叩き声を上げる。

 

「そうだ言ってた、言ってた」

 

 この反応、忘れていたな、スノーホワイトも同じような反応を見せており、言わなければ良かったと僅かばかり後悔の念を滲ませていた。

 

「平均点60点以上ばかり気にしていてすっかり忘れた……ということは、デート?スノーホワイト=サンと?ボクが?」

 

 自分とスノーホワイトを指さし、スノーホワイトは静かに頷く。ドラゴンナイトは顔を赤くさせ挙動不審の動きを見せた。

 

◇スノーホワイト

 

 スノーホワイトは廃ビルの一室の壁に背を預けながら、ため息をつく。ため息の原因はデートについてだった。

 ドラゴンナイトに真っ当な道に進んでもらいたいと飴のつもりで言ったが、今では後悔している。生まれてきてこの方デートなんてしたことがない。中学までは色恋沙汰は全く無く、魔法少女になってからは色恋沙汰をする余裕がなく、する気も無かった。

 まさか異世界に来て頭を悩ますことになるとは思わなかった。友達と行くのなら映画を見たり、ショッピングモールに行くだけで休日の遊びとしては充分だ。

 だが異性となると話は違う。女友達と一緒に遊ぶパターンで果たして満足するだろうか、今回は自分が主賓なのでドラゴンナイトが喜ぶプランを用意しなければならない。こういう時に経験者が居ればいいのだが、友人達に彼氏持ちは一人もいなかった。

 

「どうすればいいと思う?」

「焼きが回ったぽん、電子妖精に聞いて答えが返ってくると思うぽん?」

 

 ファルから辛辣な答えが返ってくる。感情の機微に疎い電子妖精型マスコットにデートの事を聞くのは確かに焼きが回っている。スノーホワイトは自嘲的な笑みを浮かべた。とりあえず相手が喜ぶプランを考えるには、相手の好き嫌いを把握しなければならない。

 

 ドラゴンナイトはマンガやアニメが好き、好きなジャンルはアクション系、野球部に所属しておりスポーツ系統は結構好き。こんなものか、そこから知っているデートスポットから当てはめていく。

 なら映画を見に行くならアクション系、または好きなアニメや漫画の映画だろう。カラオケは有るらしいが全く歌えないし、ドラゴンナイトも歌わないタイプかもしれない。それに一人だけに歌わせるのは気まずい。カラオケは却下。

 動物園、調べるとヨロシサンという会社が運営している動物園が有るらしい。動物が好きかは分からないので、さり気なく聞いてみよう。保留。

 遊園地、これは定番だろう、調べてみるとそれなりにアトラクションが有りそうだ。保留。

 野球観戦、興味はないが、ドラゴンナイトは野球部所属で辞めたのもやむを得ない事情が有ったようで、決して野球が嫌いになったわけではないそうだ。だが野球に対して複雑な気持ちを抱いているようなので、何らかしらの嫌な感情を思い出せてしまうかもしれない、却下。

 スノーホワイトの脳内でデート案を立案し却下するという工程が続き、試行錯誤はデート前日まで続けられた。

 


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