ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

36 / 83
第九話 だいすき ずっと またね#5

◇スノーホワイト

 

「スノーホワイト=サン。」

「モシモシ、スノーホワイト=サン、今大丈夫?」

「大丈夫、それでどうだった?」

「今日は学校休んでるって。だから今日は無しで」

「分かった。じゃあね」

「じゃあね」

 

 スノーホワイトは通話を切るとIRC通信機を魔法の袋にしまい込んだ。今日は夕方ごろにアカツキジュニアハイスクールに足を運び、マエダイラ・アラレへのイジメの調査としてセンジョウメ・フガシに話を聞くつもりだった。実際のところ昨日まではフガシは調査の対象ではなかった。だが昨晩のドラゴンナイトの提案で行うことになった。

 

「スノーホワイト=サン、明日学校でセンジョウメ=サンを調べてほしいんだけど」

「センジョウメさん?マエダイラさんの友達の?」

 

 スノーホワイトは思わず聞き返す。フガシはアラレと一緒にイジメを受けていると聞いている。そのフガシが友達をイジメさせ、さらに自身もイジメを受けているというのは不自然だ。それはドラゴンナイトも同意見でフガシは調査の対象から除外していた。

 

「何か理由は有るの?」

「一応有るけど、あくまでもボクの直感でロジカルな理由はないよ」

 

 ドラゴンナイトは前置きを置きながら理由を話し始めた。

 

「まずセンジョウメ=サンのアトモスフィアが変わっていた。前は大人しくて奥ゆかしい人だったけど、最近は押しが強いと言うか傲慢と言うか、エゴが強くなったような気がする。それと同じ時期にマエダイラ=サンへのムラハチが始まった。それにセンジョウメ=サンはマエダイラ=サンを庇ってムラハチを受けているけど、全く応えていない」

 

 アラレはフガシが庇ってくれたことでイジメに耐えているが、それはフガシが一緒にいるから耐えられている様子だが、イジメを苦にしていないように感じていた。

 

「一見辛そうにしているけど、あのアトモスフィアはムラハチを何とも思っていないって感じだった。まさにのれんをプッシュだよ」

 

 確かにドラゴンナイトの言葉は証拠も何もない直感による判断だ。だからこそ頼ったのだろう。ドラゴンナイトの認識ではスノーホワイトのジツは質問に対してyesかnoを判断できるものと思っており、それを使いフガシを調べようと思ったのだろう。

 

「分かった。明日学校に行って調べよう」

「でもあくまでもボクの直感だからね、無理しなくていいよ」

「直感も論理的思考と同じぐらい重要だから軽視できないよ。あと他に何か気づいたことあるの?」

 

 スノーホワイトはさり気なく発言を促す。ドラゴンナイトから『フガシについて他に気づいたことがあるけど、言ったら嫌われそうで困る』という声が聞こえていた。

 

「いや、これはさっきの以上に気のせいだから、きっと間違えている」

「でも、そういった気のせいから真実が見つかることもある。これは小説の受け売りだけど」

 

 母親が子供に言葉を促させるような柔和な笑みを浮かべる。その言葉と表情に安心したのか、先ほど以上に前置きを置きながら語り始めた。

 

「少し前にセンジョウメ=サンの両親のオツヤがあって、それに参加したんだよ。図書委員でお世話になって知らない仲ではないから、行った方がいいかなって。それでセンジョウメ=サンが居た。そこで一見悲しそうにしていたけど、一瞬笑ったんだ。親が死ねば誰だって悲しい。ボクだって最近は色々有るけど、親が死んだら悲しくて絶対に笑う事なんてない」

 

 ドラゴンナイトの話を聞き整理する。ドラゴンナイトが見た光景が事実だとしたら異様だ。肉親が死んで笑うなど、よほどの憎しみを持っていなければ起きない。それを見て両親を殺したのではという突拍子もない疑念を抱いたのだろう。だがその疑念を確かめようと当人に聞くことはできない。それを聞くのは明らかに非常識だ。聞いた瞬間人格を疑われ、この世界ではムラハチにあってしまう。

 何よりそんな考えを浮かんだ事に自己嫌悪し、その考えを言うことで嫌われるのを恐れ、気のせいであると言い聞かせ、今まで言わなかった。それでもドラゴンナイトは打ち明けてくれた。それは信頼の証でもあり、スノーホワイトは嬉しかった。

 

 当日フガシから聞こうと思ったら学校を休んだ。これは偶然と捉えるか何かが起こっていると考えるべきか。スノーホワイトはファルがいる端末を取り出した。

 

「ファル、センジョウメ・フガシの住所を調べて」

「直接家に行くぽん?そんなに急がなくても学校に来てから調べればいいぽん」

「もしドラゴンナイトさんが言う事が全部本当なら放っておけない」

「分かったぽん。暫く待ってぽん」

 

 先ほどまではファルの言う通り直接話を聞けばいいと思っていた。だが学校を休んでいることを聞き後手に回っているような気がする。ここで先手を打って行動しなければならないと感じていた。数分後、端末からファルの立体映像が浮かび上がる。

 

「遅れてごめんぽん。住所以外にも調べていたから時間を食ったぽん」

「住所以外?」

「学校からフガシのデータを見たり、親の勤め先での情報とか、金の流れとか色々だぽん」

「それで何か分かったの?」

「簡潔に言うとフガシは家に居ないぽん。恐らくネオサイタマ・ステイションに向かっているぽん。購入履歴で3時間後のキョート行きの新幹線のチケットとキョートからオキナワ行きのチケットを2つ買っているぽん」

「今から行く、案内して」

 

 端末には自身の位置と目的までの位置が描かれた地図が表示される。スノーホワイトはビルの屋上まで駆け上がるとビルの屋上、看板などを飛び石にして目的地までの文字通り直進で移動を開始した。

 

「2人分のチケットを買ったと言っていたけど、もう1人は誰か分かる」

「もう一人はマエダイラ・アラレの名前で席を取っているぽん。それに不自然な点があるぽん」

「何?」

「行きのチケットは取っているのに、帰りのチケットを購入した履歴が無いぽん」

 

 仮に旅行に行くのなら行きのチケットと帰りのチケットは同時に買う。そうすれば手間を省けるので大概の人間はそうするはずだ。買わない理由があるとすれば、長期滞在か、帰るつもりが無い場合だろう。学校がある時期にオキナワへの片道切符を購入、しかも中学生2人だけで。これは明らかに不自然だ。これは話を聞く必要がありそうだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「忘れ物はない」アラレは玄関前で荷物を確認する。キャリーケースに大きなボストンバック。荷物は極力持たず必要最低限にしたがそれでも嵩張ってしまった。靴を履き扉に手をかけようとするが動きを止め後ろを振り向く。15年間暮らした自宅、ここなら目をつぶっても自由に移動できるだろう。

 

楽しいことも辛いこともこの場所で体験してきた。そんな場所から今日立ち去る。もうこの場所には帰ってこない。帰ったとしても何年も経っているだろう。その頃には家は親戚たちの物になっているか、売り払われている。未練は有る、だがネオサイタマに居ては明るい未来はない。未来はフガシと一緒に行くオキナワにある。

 

アラレは財布に入れていた栞を取り出す。だいすき、ずっと、またね。青い百合を見ながら2人で決めた花言葉を思い出す。フガシは大好きだ、そしてずっと一緒で、何かあってもまた会える。栞を財布に再び入れた「行ってきます。おとうさん、おかあさん」アラレはポツリと呟いて扉を開けた。

 

「お待たせ」玄関を出るとフガシが出迎える。フガシはアラレ以上に荷物を持っていた。「フーちゃんは欲張りだな。そんな荷物持って、」「これでも切り詰めたんだよ」「しかし、大人びたねフーちゃん。さすが私コーディネート」

 

アラレはフガシの姿を見て満足げな表情を見せる。紫のトップスに7部丈のパンツ、化粧も入念に施した。171cmの身長もあり、中学生には見えないだろう。「アーちゃんもカワイイよ」「これは私の趣味じゃないからね!」ピンク色のワンピースを重ね着した姿は153cmの身長もあり年相応、もしくはそれ以下に見えた。

 

「これなら大学生とその親戚の中学生に見えるはず」アラレは自身とフガシの姿を見て頷く。アラレは中学生っぽい2人がキョートに行くのは怪しまれるから変装しようと提案する。結果身長が高いフガシを大学生風のコーディネートをすることになる。

 

「忘れ物はない、パスポートとチケット持った?」「さっき確認したから大丈夫。それよりちょっと子供扱いしてない?」「だって私は大学生のお姉さんでしょ。形から入らないと」「何~?本当はフーちゃんの方が忘れっぽいくせに。小6の遠足でもお弁当忘れて、あたしのお弁当半分こしたでしょ」

 

アラレはじゃれつくように飛びつくフガシの脇を擽る。フガシは防ぐように体をクネクネさせた。一頻りじゃれ合うと仕切りなおすようにフガシが呟く。「じゃあ、行こうかオキナワに」「うん」アラレは思い出をかみしめるように頷き、歩き始めた。

 

2人は電車に乗り継いでサイタマ・ステイションに向かう。向かう途中で駅員や鉄道警察に見つかることを危惧していたが、変装の効果もあったのか特に声を掛けられることなく、発車時刻1時間前にはサイタマ・ステイションに到着した。

 

2人は駅内のフードコートにあるタタミに座り込む。電光掲示板には「前もってチェックイン」「乗り遅れたのはお客様の責任」など前もっての行動を促すメッセージが流れていた「早く来すぎた。もう少し遅く出発すればよかったね」「遅延があって乗れないのが最悪、だから早く出発するのはリスク管理だよ」「それもそうだね」

 

2人は発車まで1時間あるので、このフードコードで時間を潰すことにした。辺りを見渡すと出張に行くであろうサラリマン達がペコペコと頭を下げながら電話している。アトモスフィアからして同じカチグミ・クラスに乗るのだろう。週末なら家族連れもいるが、今日は平日なせいかサラリマンが多い。

 

「そういえば昼ご飯どうする?」「ここで食べようか」「だったら駅弁のギュウメシ弁当食べよう!あれ一度食べてみたかったんだよね」「別にいいよ」「よし、ちょっと買ってくる」アラレは小走りで売店に向かって行きその姿を見送った。フガシは今後のことを考えながら辺りを見渡す。男性がこちらに向かってくる。

 

コートを着た30代ぐらいのドラマに出てくるデッカーのような男、男はフガシの対面に座った。「ドーモ、学校はどうしました?」「今日の講義はありません」「中学生だよね。化粧しているけどすぐに分かる。長年の勘ってやつかな」デッカー風の男はフレンドリーな笑みを浮かべながら問い詰める。

 

マッポにバレたのか?だとしたらマズい。これからどう対処する。フガシはニューロンを働かせながら会話する。「家出でキョートの親戚の家で向かいます。家出するのは罪ですか?捕まえる権利は有るのですか?」「これまた手厳しい」デッカー風の男はでこを叩き愛想笑いを浮かべる。「家出では捕まえられません。ただ」

 

デッカー風はフガシの肩を叩き耳元で囁く。「それ以外では捕まえられるのですよ。ねえ、親と友達の親を殺したセンジョウメ・フガシ=サン」フガシは目を見開きベンチから立ち上がった。「ドーモ、はじめまして、ファルコンクローです」ファルコンクローは満足げに笑う。

「ドーモ、ファルコンクロー=サン。ブルーリリィです」ブルーリリィは口元を覆う赤色の花柄のマフラーと、赤色のドレス風のシノビ装束を生成しており、本能的にアイサツした。

 

◇ブルーリリィ

 

 センジョウメ・フガシは願った。アラレと昔のように仲良くなるために何かが起こって欲しいと。自分ではなく周りの環境が変化することで事態が好転することを強く願った。他の者は願いの為に何故自分から行動を起こさないと言うかもしれない。環境が変わるのを待つ、誰かが助けてくれるのを待つ。他力本願。それがフガシの生来の気質だった。この気質は変えようと試みたが15年間変えることができなかった。

 そして願いが通じたのかフガシの環境に劇的な変化が起きた。フガシはブルーリリィに、つまりニンジャになったのだ。ブルーリリィは大いに喜んだ。これでアラレと昔のように仲良くなれる。そんな根拠のない自信を抱いていた。

 しばらく経ってニンジャについて色々なことが分かった。まずは超人的身体能力を持っていること、ジツと言われる特殊能力を持っていること。ブルーリリィのジツはヒュプノ・ジツの一種であり、ジツにかかった意識を与えることなく相手を意のままに操ることができる。ブルーリリィはこのジツを使いアラレと仲良くなるための計画を立てた。

 まずクラスのクイーンビーにジツをかけてアラレをムラハチさせるように仕向けた。アラレの心身を追い込み、限界寸前のところでアラレを庇う。そして2人でムラハチを受ける。ムラハチという辛い体験を共有することで連帯感が生まれ、そしてムラハチという地獄でブルーリリィの存在がどれだけ重要かを認識させ依存させる。

 そしてブルーリリィの目論見通りアラレは依存するように以前以上に好意を寄せていた。好きな人を傷つけ追い込み助けるというマッチポンプ。センジョウメ・フガシならできなかった。だがブルーリリィは躊躇なく実行した。

 

 中学でアラレと仲良くできなかったのは環境のせいであり、今までは間違いだった。ならばニンジャの力で環境を正しく変える。ブルーリリィにとってこれらの行為は当然だった。ニンジャとなったブルーリリィは自分の欲望の為に他者を傷つけることに一切の忌避感を持たなくなっていた。

 ムラハチされている時は幸せの絶頂だった。アラレが庇ってくれる、笑いかけてくれる、甘えてくれる。それらの感情を全て自分に見せてくれる。もっと独占したい、もっと依存させたい。アラレさえ居れば他の人間などいらない!ブルーリリィの行動はさらにエスカレートしていった。

 

 まず両親をジツで自殺させた。両親が唐突に死んだ可哀そうな少女。そんな少女をアラレは慰めて優しくしてくれるだろう。

 目論見通りアラレは自分の境遇を悲しみ背一杯慰め優しくしてくれた。あの表情を思い出すだけで今でもゾクゾクする。これだけの為に両親を殺す価値は十分にあった。最近は喧嘩ばかりで不快にさせられていた。存在自体が目障りであり始末するのに丁度良かった。両親も娘の幸福のために死ねたのだから喜ぶだろう。

 アラレの両親も同じように自殺させた。両親を自殺で失ったという悲しみが2人を強く結びつけ、さらにアラレを依存させられる。元は言えばアラレの両親の教育方針のせいで仲を引き裂かれたのだ、当然の報いである。そして絶望の淵にいるアラレにそっと呟く。

 

――――オキナワで暮らそうよ

 

 全てを失い未来が閉ざされたアラレにとって縋る相手はブルーリリィしかいない。アラレはあっさりと提案に乗った。だがこの計画自体は前もって計画したものではなく即興で思いついたものだった。ブルーリリィはすぐさま行動に移った。

 

 当面の問題は資金調達だ。アラレには親がトミクジを当て3億手に入れたと言ったが出まかせだった。アラレは3億有るからこそ計画に乗ったという面もある。早急に調達しなければならなかった。

 ブルーリリィはここでもジツを使って資金調達を行った。夜な夜な街を歩いてはサラリマンを見つけるとジツを使って限度額いっぱいまで預金口座から金を下ろさせ、さらに闇金などに限度額一杯まで金を借りさせ、その金を回収した後自殺させた。一応操られたという記憶はないみたいだが万が一ということで殺しておいた。

 それを数回繰り返し親の年収数年分の金を調達することに成功した。3億には程遠いがこれぐらいあれば暫くはオキナワで暮らせる。後はオキナワで同じように金を得れば問題ない。ブルーリリィにとって人は歩くATMだった。

 

 全ては順調に行き何の憂いも無いはずだった。だが目の前には真相を知るファルコンクローという男がアイサツする。その瞬間本能的にブルーリリィとアイサツしてしまった。何が起きている?ブルーリリィはファルコンクローの一挙手一投足を観察し様子を伺う。

 

「ニンジャに会うのは初めてかブルーリリィ=サン?」

 

 ファルコンクローはニタニタと笑いながらブルーリリィを見つめる。その瞳には妙な熱が帯びていた。

 

「親と友達の親を殺してオキナワにバカンスか、良い身分だ」

「私が殺した?両親は自殺です。マッポの検死結果でもそう判別されました。貴方もデッカーなのに知らないの?」

「そうだ殺したんだよ。ジツを使って自殺させた」

「自殺させた?何言っているの?デッカーを休職して自我科に行った方がいいと思います」

「自我科?オイオイ、本当は俺が正常だっていうのは分かってるんだろう?」

 

 ブルーリリィは思わず唾を飲み込む。どうやってかは知らないが完璧に手口を把握されている。だが証拠はない。証拠がなければ捕まえられない。まだ有利だ。動揺が体に出ないように抑え込もうと抵抗する。その様子が面白いのか饒舌になっていく。

 

「マツダ・ダイゴ、フワ・シンゾウ、ニシカワ・タゴサク。この名前に覚えは無いか?」

「知りません」

「自殺した。いやお前がジツで自殺させた人間の名だ。覚えていないのも無理はない。そこにアマクダリの構成員のモータルが居たわけだ。何であんな場所に居たのか知らないが運悪くお前に殺された。それで上から調査しろと言われて自殺現場を調査したり、金の流れを調べていくうちに辿り着いたというわけだブルーリリィ=サン」

 

 ファルコンクローはブルーリリィに顔を近づけて直視する。ブルーリリィはあくまでも平然を装う。だが鼓動は平常時より速く脈打っていた。口封じしたのが完全に裏目に出た。思わず内心で舌打ちする。

 

「面白いジョークです。マッポはこれを信じたんですか?」

「一つ勘違いしているが俺はマッポじゃない。アマクダリという組織の者だ。本当なら処分するところだが、俺の口利きで命を助けてやらないこともない。ここじゃ何だ、別のところで話し合おう。勿論ついてくるよなブルーリリィ=サン?」

 

ブルーリリィは無言で頷いた。

 

ーーーーーーー

 

「ここでいいか」ファルコンクローとブルーリリィは男性トイレに入っていく。その二人を見て用を足していた男性は思わず凝視する。女性が平然とエントリーしてきた?これから如何わしい行為でもするのか?男性は視線を逸らす。ファルコンクローは男性の後頭部を掴み立ち便器に叩きつけた。「アバーッ!」男性は額の骨が割れ即死!ナムサン!

 

ブルーリリィは死体となった血まみれの男性を冷ややかな目線で見下ろす。人が死んだというのに何一つ感じるものはなかった。ブルーリリィはトイレの奥に進みファルコンクローは入り口を背にするように立ち話を始める。

 

「それで話だが、二つの条件を飲めばアマクダリに殺されないようにしてやる。一つは俺の下でアマクダリの構成員として働くことだ。お前のジツは有用だ。俺がブレインとなれば色々とでき金も稼げる」ファルコンクローは人差し指を立てる。

 

「センジョウメ・フガシ。アカツキジュニアハイスクール三年、文芸部所属、以前はメガネをかけていたが、ニンジャになったことで視力が上がり、メガネを外す。これは俺と同じだ」ファルコンクローはブルーリリィについて話し始める。その声と見つめる目線には粘着質な情念を帯びており、ブルーリリィの体に寒気が駆け巡る。

 

「俺はナードっぽいメガネをかけた女が好みでな、今まで他の女と付き合っていたりしたが、どうもしっくりこなくてな。だがブルーリリィ=サンは実際マブで理想的なメガネナード女子だ。つまりファックフレンドになれってことだ。これがもう一つの条件だ!」

 

ALAS!特殊性癖!ファルコンクローは学生時代黒髪のメガネをつけた少女と付き合っていた経験があり、それが忘れられずメガネをつけた黒髪の少女しか欲情しないようになっていた!「まずは髪を三つ編みにしろ!そして図書室でファックだ!」ファルコンクローは目を血走らせ呼吸が荒い!ブルーリリィは好みに完全に合っていた!

 

「死ぬのはアンタだ!イヤーッ!」ブルーリリィはジツをファルコンクローに向ける。ブルーリリィはここに来たのは話を聞きに来たわけではない。始末しにきたのだ。真相を知っているファルコンクローを生かすつもりはない!「ここがオブツダンだ!死ね!ヘンタイ!死ね!」

 

ブルーリリィは親やアラレの両親にジツをかけた時は全力を出す必要がないと感じ手加減していた。だが今は違う。初めて出す全力だ。その結果何が起こるかブルーリリィも分からない。「グヌゥ……」ファルコンクローは思わず膝をつき自らの手を首にかける。

 

自殺しろと命令を送った。精々惨たらしく死ね。ブルーリリィは無意識に嗜虐的な笑みを浮かべていた。しかし数秒経っても自殺する気配はない。それどころか立ち上がりブルーリリィとの距離を詰めより首を掴み組み伏せた。「ンアーッ!そんな……」「モータルを殺せても……ニンジャをジツで殺せるわけないだろ……ニュービーが……」

 

ブルーリリィのジツ破れたり!?何故ジツが通用しなかったのか?それはカラテ差である!ニンジャのジツは無敵ではなく、相手にカラテがあれば通用しない。ブルーリリィが殺してきたモータルとニンジャとではカラテの差はムーンとトータス。ジツが利く道理はない!

 

ファルコンクローは目を見開き声を震わせながら首を絞める。一方ブルーリリィも動揺と驚愕で目を見開く。あり得ない。このジツを使えば全てが思い通りだった。何故従わない!?ブルーリリィの意識は徐々に薄れていく。「イヤーッ!」ブラックアウトする前に渾身の力で首を絞める手を振り解き距離を取る。

 

「ゲホ!ゲホ!ゲホ!」首に手を当て嘔吐きながらファルコンクローを睨みつける。ジツを使って殺せなかったのは初めだ。ブルーリリィに動揺が駆け巡る。だがすぐさまマインドセットする。ジツで殺せないなら、ジツとカラテで殺す!ブルーリリィは再びジツをかける。ファルコンクローは膝をつけ動きを止める。

 

ジツで動きを止めカラテで殺す。これがブルーリリィの導き出したプロセスである。目の前の相手を殺さなければアラレとのオキナワでの輝かしい未来は訪れない。決断的な殺意を秘めながら一歩一歩近づいていく。ブルーリリィは膝をつくファルコンクローの前でボトルネックカットチョップの構えをとる。

 

以前チョップの威力を試した時は学校の机が粉々に砕けた一撃だ。ニンジャといえど受ければ只で済まない。「イヤーッ!」ブルーリリィは渾身の力を込めてチョップを放つ。ファルコンクローの首が飛びシャンパンめいて血が噴き出るイメージがニューロンに浮かぶ。

 

「ダメだ。メガネナード女子はそんな野蛮なことはしない……」ファルコンクローの首は飛んで……いない!ブルーリリィのチョップは首に数センチ前で止まっている。ファルコンクローが手首を握り攻撃を防いでいた。「ピストルで腕を吹き飛ばしても良かったが、欠損は趣味じゃない」ファルコンクローはブルーリリィの二の腕と肩を指で突き手を離した。

 

ブルーリリィは反射的に後ろに下がり間合いを取った。「ジツで動きを止めたところでニュービーのカラテが当たるわけはないだろう」ファルコンクローはゆっくりと立ち上がる。ブルーリリィは再びチョップを繰り出そうとするが異変に気付く。右手が動かない!?右手はだらりと下がり墓石めいて動かない。

 

さらにジツも上手く使えていない。そのせいかファルコンクローは平然と立ち上がっている。ブルーリリィは不可解な現象に動揺する。その動揺をファルコンクローは見逃すことなく、間合いを一気に詰めブルーリリィの右脹脛と太もも、左脹脛と太もも、左肩と二の腕を指で突いた。その瞬間糸が切れたジョルリめいて崩れ落ちた。

 

「何をしたの?」「さあ?ただセクトにも申告していない特技と言っておこうか、俺の下につき、ファックフレンドになれば教えてやろう」「やだ、上にも下にもつかない、私はアーちゃんの隣につく」「そうか」ファルコンクローはブルーリリィを持ち上げると個室の便器に座らせて、自身も個室に入り鍵を閉めた。

 

「俺は強引にするのは趣味じゃない、自分の意志でファックフレンドになってもらいたい。なってくれるか?」「イヤだ、ヘンタイ!」ブルーリリィは明確に拒絶の意志を示す。手足は自由に動かせず、ジツも使えない。絶望的な状況であるがブルーリリィの意志は挫けていない。「これでも?」「ンアーッ!!!」ファルコンクローが体を軽く突いた瞬間激痛が走り悲鳴を上げる。

 

「おっと、周りに迷惑だ」ファルコンクローは喉元を軽く突く、ブルーリリィの悲鳴は止まる。叫ぼうにも声が全くでない。「本当はこんなインタビューはしたくない。ファックフレンドになれば痛みから解放してやる。さあ、首を縦に2回振れ」ブルーリリィは涙を浮かべながら首を横に振った。

 

この男に下につき汚されたらもう二度とアラレの傍に立てない。アラレとオキナワで暮らす明るい未来を想像しながら反抗の意志を繋ぎとめた。ファルコンクローはその様子に若干の苛立ちを見せながら体を軽く突く。ブルーリリィの体にさらなる激痛が走り、唯一自由に動く首をヘッドバンドめいて動かす。

 

「俺の下につき、ファックフレンドになれ」ブルーリリィは激痛に悶え苦しみながら首を横に振る。ファルコンクローは体を軽く突いた。「俺の下につき、ファックフレンドになれ」ブルーリリィは激痛に悶え苦しみながら首を横に振る。ファルコンクローは体を軽く突いた。「俺の下につき、ファックフレンドになれ」ブルーリリィは激痛に悶え苦しみながら首を横に振る。

 

「強情な女だ」ファルコンクローは見下ろしながらポツリと呟く。ブルーリリィはインタビューに耐え続け、気絶していた。メガネナード女子は奥ゆかしく大人しく従順でなければならない。インタビューに耐えて気絶するような意志の強さは必要ない。このままカイシャクしようと足を上げたがゆっくりと足を下ろす。

 

ブルーリリィは経歴といい容姿といい実際理想だ。性格はこれから矯正すればいい。「さてどうしようか」どのように自分好みにするか妄想する。「コンコン」だがその妄想はノック音で邪魔される。「すみません。漏れそうなんです。出来るだけ速く出てくれませんか?」

「うるせえ!他の場所を使え!もしくはそこで漏らせ!」ファルコンクローは声を荒げる。

 

良い気分だったのに邪魔された、今すぐ殺す。扉を開けようと振り返ろうとする、その時だった「違うな、これから失禁してオヌシが漏らすのだ」扉の向こうからジゴクめいた声が聞こえてきた。

 

CRASHH!突如扉に穴が開き穴から手が入る!その手は個室のスライド鍵に触れ扉の鍵を解錠したではないか!扉が開き犯人が現れる!ファルコンクローは驚愕で目を見開き思わず声を上げた。「お前は!?」「ドーモ、はじめましてファルコンクロー=サン。ニンジャスレイヤーです」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。