ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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第二話 ニンポショウジョ・パワー♯2

 ♢姫川小雪

 

 意識が覚醒して感じたのは眩暈と気だるさだった。それは風邪をひいて寝て起きた時の感覚に似ている。頭が重く視界は地震がおきているようにグラグラと歪む感覚はまさにそれだ。

 体にかけられていた布団を退かし気だるさを感じながらも何とか体を起こし辺りを見渡すとそこは見知らぬ場所だった。

 パッと見るかぎりそこまで広くは無い部屋で八畳から十畳ぐらいだろう。部屋にはちゃぶ台や箪笥が置いてありその上にある福助人形とこけしに目がいく。

 写真では見たことがあるが実物で見るのは初めてだ。それに写真で見たものと微妙にデザインが違う。

 

 そして手のひらで触れた感覚に覚えがあり、ふと視線を向けると一面に畳が敷かれていた。自室にも畳が敷かれているせいか触っていると少しだけ心が安らぐ、だがどこが違うとは言えないが自室にある畳とは何かが違う。

 

「目を覚ましたぽん!体は大丈夫かぽん!」

 

 甲高い声がする方向に視線を向けるとそこにはいつも以上に燐分を振りまいているファルがいた。ファルの声で思い出したのか小雪は自らの身体の様子を確認する。 

 まず驚いたのが魔法少女の姿がいつの間にか解かれ制服姿の元の姿に戻っていたことだった。自分で元の姿に戻った記憶は無い。では何が起こったのか?クラクラする頭で起こった出来事を思い出す。

 

 ある情報からフォーリナーXと呼ばれる魔法少女が悪事を働いていると知り調査した。そして調査の結果かぎりなく黒であり、襲いかかるフォーリナーXを返り討ちにして検挙しようとした。

 そこまでは覚えている、だがそこから猛烈な眩暈と吐き気に襲われ意識を失い気づけばここにいた。

 

「少し気分が悪い。ここはどこ?」

「スノーホワイト、落ち着いて聞いてほしいだぽん。分かりやすく言えば、ここはファル達がいた世界とは違う世界だぽん」

「どういうこと?」

「検索しても住所どころかどこの国にいるかすら分からないぽん。それに電話も一切繋がらない、こんなこと普通じゃありえないぽん。そう考えるとキークの魔法のような電脳世界に隔離されたか別の世界にいるとしか考えられないぽん。そして後者と踏んだぽん」

 

 聞いた瞬間は冗談かと思ったがフォーリナーXの魔法を思い出せば納得できる。

 フォーリナーXの魔法は「異世界に自由に行けるよ」だとすればあの強烈な眩暈と吐き気はフォーリナーXが魔法を使った時に生じたものかもしれない。そう考えれば異世界にいることも不思議ではない。 

 そしてファルから異世界に飛ばされた直後の様子を聞くと、どうやら裏手の駐車場で意識を失い、この家の住人に介護されたそうだ。小雪はその家の住人に感謝の念を抱いた。

 

 すると後ろからこちらに駆け寄ってくる音が聞こえてくる。どのような人物だろうと想像しているとファルが「相当にトンキチなことを言うと思うけど話を合せてほしいだぽん」と一言告げた。どういう意味だろう?だがファルの言葉の意味を考える間もなくフスマから家の住人が現れる。

 見た目からして大学生ぐらいであろう女性だった。トンチキなことを言うと伝えられていただけに警戒していたが顔立ちなどからしてごく普通の大学生という印象だった。

 

 だが身につけているものは普通ではなかった。上下ともに白の柔道着である。パジャマやTシャツなどのラフな格好だったら分かるが何故に柔道着を着ているのか?彼女が柔道を嗜んでいるからか?

 それでも部屋着で柔道着は着ないだろう。これがファルの言うトンチキという部分なのだろう。

 

「あっ!起きましたか!大丈夫ですか?どこか具合が悪い所ありませんか?何か欲しいものがあったら遠慮なく言ってくださいね!」

 

 女性は正座で小雪に正対し勢いよく言葉を投げかける。その勢いに気圧されそうになるが冷静に相手を分析する。

 相手は自分のことを気遣ってくれ悪意を感じない、女性であることから猥褻行為などの目的で家に運んできたようではなさそうだ。 

 ただ妙に高揚しており多少目も血走っているのが気にはなった。例えるなら憧れのアイドルを目の前にしたファンのようだ。

 

「スノー……じゃなくてユキコは今起きたばかりだぽん。そんなにワッと話さないでほしいぽん」

「マメタロウじゃなくてファル=サンすみません。ドーモ、初めましてコバヤシ・チャコです」

 

 コバヤシはファルに謝った後スノーホワイトに三つ指をゆかにつけ奥ゆかしくあいさつをおこなった。その所作につられてスノーホワイトも通常以上に深々と頭を下げる。

 

「ネオサイタマの重金属酸性雨はニンポ少女状態でない状態では体に毒ですよね。これからはニンポ力が高まるまでは重金属酸性雨用のレインコートを身につけたほうがいいですよ。よければ余ったやつをあげましょうか?」

 

 コバヤシは顔をあげて話しかける。だがスノーホワイトの頭にコバヤシの言葉は入ってこなかった。

 ニンポ少女とは自分のことか?そしてどういう意味だ?それにニンポ力とは?それにファルはスノーホワイトではなくユキコと呼んだのは何故だ?

 様々な疑問が浮かび問いかけようとするが、ファルがバチンバチンと音がしそうなほどのウィンクを見せる。その様子はスノーホワイトの魔法を使わなくても「話を合せてくれなくては困る」と聞こえそうなほどだった。

 

「あの……お手洗いに行きたいのですが」

「あっスミマセン。部屋を出てすぐのところにあります」

 

 ファルを手に取ると少しふらついた足取りで向かう。小雪は用をたすために手洗いに向かったわけではなかった。 

 状況を理解する為にもファルと話をする必要がある。そのための空間にはトイレがちょうどよかった。

 向かった先の手洗いは元の世界とほぼ同じと言っていいほど作りが似ていた。洋式のトイレで材質なども同じであり、おそらく使い方も変わりないだろう。

 部屋の畳といい内装といい、ファルの言う異世界ながらも自分が居た世界と似ているものが多く、それには安心感を抱く。

 だが今はそのことについては後回しだ。小雪は便座に座りファルに問いかける。

 

◆ファル

 

 

「説明して」

 

 スノーホワイトはいつもより少し戸惑いながら問いかける。無理もない、意識が戻ったら見知らぬ場所に居て見知らぬ人間にニンポ少女やニンポ力などという見知らぬ単語を聞かされたのだから。

 

「う~ん何と説明したものかぽん、とりあえず一から説明するぽん」

 

 ファルは困惑を帯びた音声でゆっくりと喋りはじめる。その様子は今起こっている出来事を喋りながら整理しているようだった。

 

「まず気がついたらスノーホワイトと一緒にそこの駐車場にいたぽん。何故か変身が解かれた状態で意識を失っていて、起こそうと声をかけてもウンともスンとも言わなかったぽん。そしてしばらく経ってからある異変が生じたぽん。スノーホワイトの体調がどんどん悪くなっていったぽん」

 

 ファルにはスノーホワイトの脈拍など体調の変化をすぐに察知できる機能が備わっており、すぐさま異変を察知していた。症状から察するにそこまで深刻なものではなかった。だが時が経つにつれ症状は重くなっていく。

 

「コバヤシから聞いてわかったことで、どうやらこの世界の雨は重金属酸性雨で体に浴びると毒らしいぽん。たぶんそれが原因だぽん。そこに偶然コバヤシが通りかかって雨が当たらない自分の部屋に運んでくれたぽん。コバヤシが通りかからず雨を浴び続けたら死んでいたかもしれなかったぽん、マジで危なかったぽん」

「そうだったんだ……」

 

 スノーホワイトはファルから目線を外し顎に手を当て何かを考える仕草を見せる。

 ファルには電子妖精であるが故に感情の機微に疎いがスノーホワイトが考えていることが何となく察していた。 

 見知らぬ土地で家族や友人に何も伝えることができずに朽ち果てていた可能性があった。それはとても恐ろしいことなのだろう。数秒ほど物思いにふけった後スノーホワイトは質問する。

 

「それでニンポ少女とかユキコとかは何なの?」

「え~っとそれはあれだぽん」

 

 スノーホワイトにファルは鱗粉を振りまき困惑の色をさらに強めた声を発しながら説明する。

 

「まずニンポ少女というのは、スノーホワイトの世界で言う魔法少女もののアニメとか漫画と考えてくれていいぽん。そして何故かニンポ少女が現実にいると思い込んでいて、スノーホワイトを本物のニンポ少女だと思っているぽん。あとユキコというのはスノーホワイトの名前を聞かれてファルが咄嗟に答えた偽名だぽん。ちなみにファルがマメタロウと呼ばれていたのは作中にファルに似ているキャラがいたからだぽん」

 

 スノーホワイトは胡散臭い人を見るように訝しんだ。その反応は至極当然だと思う。起きるまで軽く話をした際に助けてくれた理由を聞くとコバヤシはこう答えた

 

―――ニンポ少女好きならニンポ少女が倒れているなら助けるなんて当然のことですよ

 

 何言っているんだこいつ。

 

 ファルには表情で感情を表すことができないが、もし表情を作れるなら今さっき自分に向けた表情と同じ顔をしていただろう。そこからニンポ少女ものについて短いながら濃密な情報を一方的に叩き込まれる。

 

「とりあえずニンポ少女については置いておくぽん、それよりこれからどうするか考えるぽん?」

「フォーリナーXを探す。元の世界に帰るにもフォーリナーXしか当てがないから」

「そのフォーリナーXはこの世界にいるぽん?」

 

 ファルは不安げな声で問うがスノーホワイトはきっぱりと大丈夫と答えた。

 元の世界に帰るにはフォーリナーXの存在が必要不可欠である。だが接触しようにもこの世界にいなければこちらとしては手の打ちようがない。ファルはこの事態を恐れていた。

 だがスノーホワイトは感覚的にフォーリナーXがこの世界に居て、遥か遠くにいないのは分かっていた。何故わかるかと言われると説明はできない。一緒に異世界に転移したことで何かしらがリンクしたのかもしれない。

 

「そうかぽん、フォーリナーXを探す当てはあるかぽん?」

 

 スノーホワイトはファルの質問に首を横に振った。フォーリナーXはこの世界に居るが場所は分からない。感覚的には日本の東京のどこかに居ると分かる程度のものだった。ファルは残念そうにした後何かを思い出したように問いかける。

 

「ところでスノーホワイト、今魔法少女に変身できるぽん?もしかして何かしら不備で変身できない可能性が有るぽん、確認しておくべきだぽん」

 

 スノーホワイトはファルの言葉に従い変身を試みた。魔法少女に変身して握りこぶしを作るなど体の調子を確認しているが、その表情は渋い。

 

「どうだぽん?」

「調子が悪い、風邪をひいたような感じでこんなのは初めて。フォーリナーXの魔法でこの世界に移動した影響かも」

 

 スノーホワイトの言葉にファルの立体映像は目をつぶり考え込む仕草を見せる。魔法少女は怪我を負うが、病気にかかることもないし毒も効かない。

 だがスノーホワイトは風邪をひいた感じと言っているが、魔法少女が風邪をひくというのは聞いた事が無かった。

 

「なるほどぽん……、ところで一つ提案が有るぽん」

「何?」

「今日はここで泊っていくべきだぽん」

 

 ファルの提案を聞いたスノーホワイトは僅かばかり目の瞳孔が開く。人の家に泊まるという発想はまるで無かったのだろう。そんな様子をしり目にファルは話を続ける。

 

「ファル達はこの見知らぬ世界で文字通り右も左も分からない状態だぽん。そんな状態でフォーリナーXを探せるとは思えないぽん、情報が圧倒的に不足しているぽん。他の人物からこの世界について聞こうにも親切に教えてくれるとは限らないぽん。けどコバヤシは違うぽん、スノーホワイトをニンポ少女と信じ切っているコバヤシはある意味この世界で一番スノーホワイトに親切にしてくれる人間だぽん。スノーホワイトがこの世界での『こいつこんな事も知らないの』レベルのことを聞いても、勝手に好意的に解釈してくれて親切に答えてくれるぽん」

 

 ファルは言葉を区切りスノーホワイトの様子を見る。一理はあると思ってくれたのか、特に意見を挟むことはない。その様子を見て言葉を続けた。

 

「それにスノーホワイトの原因不明の体調不良、正直ファルには対処法がわからないぽん。人間が風邪をひいたときみたいに寝て自然回復を期待したいところだぽん、それならば落ち着けるところで休みたいけど、この世界で落ち着いて休めるところなんて知らないぽん。でもコバヤシの家なら最低限環境は整っているし泊りたいと言えば泊らせてくれるぽん」

「泊まる許可は取ったの?」

「とっては無いけど恐らく許可してくれるぽん」

 

 ハッキリ言うとコバヤシはまともな人物と断言はできない。容姿からして10代後半から20代前半ぐらいだろう。

 そんなコバヤシはニンポ少女というのはこちらで言う魔法少女の存在を信じている。これは人間の常識では異常に分類される。

 だがニンポ少女に対する想いは本物だ、短い時間だがスノーホワイトの身を本当に案じていたのは感じ取れた。そんなコバヤシなら親身にしてくれるだろう。

 それに今自分達がいる場所は魔法の国ともスノーホワイトがいた世界とも違う世界。何が起こるかはわからないのであればできるだけ万全な状態にするべきである。

 

 

「……今日だけご厚意に甘えよう。明日は体調が戻っても戻らなくてもこの場所を発つ」

 

 スノーホワイトは10数秒熟考したのちファルの提案を承諾した。便座から立ち上がりコバヤシのいる居間に向おうとするがファルの声で足が止まる。

 

「ニンポ少女の設定はどうするぽん?」

 


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