ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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第五話キャット・リペイズ・ヒズ・カインドネス♯4

ドラゴンナイトが拠点としている廃ビルの一室にスノーホワイト、ドラゴンナイト、マタタビは集まっていた。三者は三角形を作るように座りその中央にはネオサイタマの全域が書かれている大きな地図が置いてあった。「マタタビ=サンはどうだった?」「残念ながら敵のニンジャはおろかニンジャとすら出会えなかった」

 

「どこらへんを探したの?」「ここからあちらの川のほうに移動しその周辺を捜索した」「というとこの辺りか」ドラゴンナイトはマタタビが指し示したほうを確認し、現在地から南にある川の周辺を赤ペンで書き込んだ。「僕とスノーホワイト=サンはここらへんを探したけど同じくダメだった」

 

ドラゴンナイトは現在地から東側の一帯を赤ペンで書き込んだ。「でも見つからなかったけど気になることはあった。これを見てくれる」ドラゴンナイトは持っていた新聞記事のコピーをスノーホワイトとマタタビに渡した。するとマタタビは首をかしげながら眉間にしわを寄せる。「すまない、書かれていることを読んでくれないか」

 

「文字読めないの?こんなに流暢に喋れるのに?」「人の言葉は分かるのだが文字は完全には読めない。もう少し学べば多少は読めるとは思うが」「分かった。じゃあ読むね『怪奇、相次ぐ猫による傷害事件!ミナト・ストリートに住む住人が飼い猫に重症を負わされている。これは政権の乱れによるせいであり、内閣は早急に総辞職すべきだ』

 

ドラゴンナイトは現在地から北側のミナト・ストリートを赤ペンで囲んだ。「ミナト・ストリートは富裕層の地域でここ最近飼い猫による飼い主への傷害事件が多数あって命に別状はないけど軽くは無い怪我みたい。今まで大人しかったのに急にやったみたい。スノーホワイト=サンはどう思う?」

 

意見を求められたスノーホワイトは数秒ほど間をおいて答える。「マタタビさんのことが無ければ奇妙な出来事で片付いたかもしれないけど、これは何か関係性があるかもしれない」スノーホワイトの意見にドラゴンナイトは無言で頷いた。

 

「僕もそう思う」「そこにあのニンジャがいるんだな」マタタビは爪を立てて床を引っかく。床は引っかきによって抉られている。マタタビから発せられるキリングオーラにスノーホワイトとドラゴンナイトは思わず目を向けた。オーラに気圧されたドラゴンナイトは無意識につばを飲み言葉が詰まり、ゆっくりと間を空けてから答えた。

 

「絶対とは言えないけど可能性はあると思う」「情報感謝する」そう言うとマタタビは即座に飛び出していく。「フゥー」ドラゴンナイトは深く息を吐いた。「マタタビ=サンのキリングオーラは凄い、というより怖いよ」スノーホワイトも内心で同意した。

 

今までの魔法少女の活動の中で人を傷つけることに躊躇が無く自分に殺気を向けるものもいた。だがマタタビが発する殺気は純度の高さのようなものを感じた。邪魔だから殺すとかではなく絶対に殺すという決断的な意志、それが純度の高さかもしれない。そしてその純度の高さは愛する者を殺されたことから発生したものだろう。

 

「そういえば、マタタビ=サン飼い主一家のことは書かれてなかったな、日刊コレワだったらこんな衝撃的な事件書かないわけないのに」ドラゴンナイトは疑問を口にする。「たぶん強盗殺人か何かと判別されたのだと思う。それにネコがやったという証拠があっても結論は出せないんじゃないかな」スノーホワイトの答えに合点がいったという納得の表情を見せる。

 

「そうだね。そんな結論を出せば発狂マニアック扱いでムラハチされて自我科送りされるに決まっている」確かにそうだ。自分たちはマタタビから話を聞いているからこの結論にたどりついているが、普通ならたどり着けない。万が一観察力と想像力豊かな人間がたどり着けたとしても常識がその結論を否定する。

 

「しかし犯人の狙いは何なんだろう?仮に猫による傷害事件がニンジャのジツによるものだったら、マタタビ=サンの飼い主家族は殺させてミナト・ストリートの一件は怪我だけで済ましているし」ドラゴンナイトは腕を組み考え込む。スノーホワイトもまた同じ疑問を抱いていた。

 

殺した理由と殺さない理由の違いは何か?怨恨の度合いによる差か?それとも全員殺そうとしたが何かしらの理由でマタタビの飼い主家族は殺すことに成功し、それ以外は失敗したのか?スノーホワイトはいくつかの推論をたてる。「まあ、考えてもしょうがないか、それより今日からは西地区のほうにパトロールと情報収集しようと思うけどそれでいい?」

 

「それでいいよ」スノーホワイトはドラゴンナイトの提案により思考を中断した。現時点では情報が少なすぎて推論は妄想の域を出ない。確かにあれこれ考えても意味が無いかもしれない。「じゃあ行こうか」二人は窓から出発した。

 

 

「今日はダメだったね」「そうだね」スノーホワイトとドラゴンナイトは『緩い審査』『フワフワローン』と表示されるネオン看板の上に立ちネオサイタマの夜の街並みを見下ろしていた。パトロールという意味では普段どおりの活動ができたが、マタタビを操ったニンジャの情報収集という意味では空振りに終わった。

 

「マタタビ=サンはどうしているのかな、実際犯人を見つけていたりして」「かもしれない。マタタビさんのニンジャ感知能力は私たちより敏感みたいだから」マタタビのニンジャ感知力は多少離れた場所にいるニンジャの存在を感じ取ることができるようで。その力はドラゴンナイトより遥かに優れていた。

 

ギャバーン!突如ストリートの大型液晶モニターから効果音が鳴り行きかう人は視線を向ける。『ネコを救え!ある男の活動の記録!』モニターには力強いフォントで表示されると色黒でスーツを着た司会者らしき男が現われた。「これ、『知りすぎた猫はヤバイけどそれでも知りたいだ』なんで流れるんだ?」ドラゴンナイトは不思議そうに呟く。

 

人気タレントのミノモシ・モンタロウが今話題のニュースを紹介するバライティ―番組でそれなりに人気がある。だがこのような番組は街頭のモニターで放送されることはない。「最近ネコが飼い主を傷つける事件が起こっているのを知っていますか?」司会者の言葉を聞き二人は耳を傾ける。

 

「ここ数日で立て続けに起こっていますが飼い主を傷つけた猫はどうなるでしょうか?恐らく殺処分でしょう。ですがそれに反発し猫を救う為に立ち上がった人物の行動を紹介したいと思います」すると壮大なBGMとともにドキュメンタリー風のVTRが流れ始めた。

 

内容としてはペットの生産、ペットフードやペット用品などの事業を一手に請け負っているマルノミ社CEOカキフラヤ・ジンスケがミナト・ストリートの飼い主を傷つけた猫を引き取り育てていく様子を記録したものだった。

 

引き取られた猫は凶暴でジンスケを傷つけるが根気よく世話をして猫たちが次第に懐いていく様子は演出も相まって感動的になっており、涙を流す共演者たちの姿を映したワイプ映像が過剰なまでに映し出されていた。

 

「人間の愛情は動物に伝わるのですね……」モンタロウはハンカチを取り出し涙を拭いた。「ネコと仲良くなれて良かったです」共演者の人気若手女優も涙声で同意した。「そして、今日は本人にお越しいただいています。どうぞ」モンタロウの呼びかけとともにスタジオにマルノミ社CEOカキフラヤ・ジンスケが登場した。

 

40代後半で小豆色のブランドスーツを身にまとい、スーツ越しでもわかる鍛えられた肉体と爽やかな笑顔が印象的だ。そして目元から頬まで伸びる三本線の傷が目を引かせる。「ドーモ、カキフラヤ・ジンスケです」「ドーモ、ミノモシ・モンタロウです。その傷はVTRでもあった」モンタロウは痛々しそうに自分の頬に指をさす。

 

「ハイ、引っかき傷です。他にも色々ありますよ」ジンスケが腕をまくると夥しいほどの傷が露になり共演者たちが思わず声を上げた。「痛そうですね。何でこんな思いをしてまで猫を引き取ったのですか?」モンタロウの質問にジンスケは即座に答えた。

 

「人は罪を犯しても刑務所に入ってもやり直せます。ですがネコは更生する機会もなくすぐに殺処分です。それではあまりにもカイワイソウすぎる。だから引き取りました」「ヤサシミ!」「ブッタのようだ!」スタジオの観覧者からアイノテ・コールが挟まると手を上げ笑顔で応えた。

 

「スミマセン、この場を借りて伝えたいことがあるのですがいいですか」モンタロウが了承するとジンスケは語り始める。「最近はこのペットによる傷害案件のせいかペットを捨てる。保健所に連絡して殺処分を依頼する方がいます。軽い怪我ですんだが今度は重度の怪我を負ってしまうかもしれない。処分しようとする気持ちはわかります」

 

「ですが待って下さい。その前に私たち、マルノミ社に連絡して下さい!連絡していただければ無償、いや有料でペットを引き取らせて頂きます!そしてご希望があれば人を傷つけないように再教育し、再び飼い主様に引き渡したいと思います!」

 

ジンスケの言葉にスタジオがどよめく。「いいんですか!?それじゃジンスケ=サン、いやマルノミ社は全く得していないですよ!」「それでかまいません。利益よりペット達、弱きものを守るのが高額収入者の使命、ノブレスオブリージュです!」

 

「本当かな?」ドラゴンナイトは番組を視聴しながら思わず呟いた。カチグミというのは利益第一主義で他のことを犠牲にしている。環境、低所得層、労働者。それはカワベ建設、カチグミである親もそうだった。どうせジンスケもパフォーマンスで言っているのだろう。だが本当にそう思っていて欲しいという気持ちも有った。

 

「スノーホワイト=サンはどう思う?」「何ともいえないかな。でもこの人の話が本当ならミナト・ストリートの件とマタタビさんが操られた件は関係ないかもしれない」「どういうこと?」ドラゴンナイトはスノーホワイトの言葉の意味を理解できず首をかしげた。

 

「マタタビさんは操られた後に暫くして正気を取り戻した。でもVTRの猫はある程度長い期間凶暴で人を傷つけていた。もしミナト・ストリートの猫が操られて傷つけていたら暫くしたら正気に戻ると思う」「なるほど」「ただ単純に慣れない環境でネコが怖がってあのCEOに攻撃的になっていただけかもしれない」

 

今まではミナト・ストリートの事件とマタタビの事件を関連付けていたがそうではない可能性も出来てきた。スノーホワイトは犯人のニンジャ探しが困難になったのを感じた。「では今日はここまでです。ではグッデイ、グッバイ」司会のモンタロウの恒例のアイサツで番組は終了し、街頭モニターはメガコーポの宣伝に切り替わった。

 

「あっ、もうこんな時間だ」ドラゴンナイトは時計を見る、時刻は22時30分を回っていた。いつもは廃工場での組み手は23時に終わる予定になっている。ここから廃工場に行って組み手をするとなると時間はほぼない。「スノーホワイト=サン、今日組み手やってもいい?もし時間がダメならいいけど」

 

ドラゴンナイトとしては組み手で試したいこともあり、なにより一度組み手をやらないと堕落してカラテが鈍るという気持ちがあったのでやっておきたかった。だがスノーホワイトの事情を無視するわけにはいかない。「私は大丈夫だよ。でもドラゴンナイトさんは大丈夫?遅くなると親が心配するんじゃ」「別に親は僕のことなんて心配してないよ」

 

ドラゴンナイトの表情に一瞬影が差す。だがすぐさま普段の表情に戻った。「じゃあ行こうか」ドラゴンナイトはパルクール移動を開始し、スノーホワイトは声をかけず黙って後ろをついていく

 

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「またしてもミナト・ストリートで飼い猫による傷害事件発生!内閣は総辞職すべきである」「タダオ僧侶、マルノミ社CEOカキフラヤ・ジンスケ=サンを第三級聖人認定」「シシマイ社のバイオ猫に遺伝子欠陥!?」部屋の壁には新聞や雑誌などの記事を切り抜いたものが張られていた。他には不如帰のショドーにUNIXが置かれているデスクがある

 

男性はデスクに座りUNIXの電源ボタンを押しIRCクライアントを立ち上げた

 

#ns gokuhi :njslyr:ドーモ、調べてもらいたいことがある。ミナト・ストリートの事件、マルノミ社、ニンジャ案件の可能性あり

#ns gokuhi:ycnan: 奇遇ね。私もマルノミ社について調べていたの、少し手伝ってもらえる?

#ns gokuhi :njslyr:ヨロコンデー

 

 


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