ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター 作:ヘッズ
ドラゴンナイトは今夜も人助けのパトロールをおこなっていた。
そこで火災現場に出くわし救助者を助ける為に現場にエントリーする。
そこには多くの救助者がいた、どう対処するか悩んでいると謎の人物がエントリーする
その人物と協力し救助者を火災現場から避難させた。
そしてエントリーした人物にアイサツしようとした瞬間胸が高鳴る!
同じぐらいの少女!しかもヤバイ級にカワイイ!カワイヤッター!
一方少女、スノーホワイトはドラゴンナイトの姿を呆然と見ていた
◆ファル
「そうちゃん?……」
スノーホワイトはそう呟くと心拍数が一気に上がった。表情も何事にも動じず鉄仮面と言っていいほどの無表情はまるでない、誰が見ても動揺しているのがわかるほどの表情だ。
これ程まで動揺している姿は初めてみた。だが今目の前にいるドラゴンナイトと名乗る少年を見ればこれほどまでに動揺するのも無理はない。
魔法少女ラ・ピュセル、岸部颯太。それはスノーホワイトにとって特別な人物だ。
スノーホワイトと同じく森の音楽家クラムベリーのN市で開催された魔法少女選抜試験の参加者の一人であり、そしてスノーホワイトとラ・ピュセル、岸部颯太は幼なじみだった。短い間だがラ・ピュセルとともに人助けをしていた。
その時間は二人にとって至福の時だったのだろう。N市の試験で使われた電子妖精ファヴのデータから二人が楽しそうにしている様子が記録の一部として保存されていた。
そしてラ・ピュセルは魔法少女選抜試験において参加者の一人である森の音楽家クラムベリーに殺された。
その岸部颯太と目の前にいる少年はまさに瓜二つだった。顔の造形、声質、N市の試験で使われていたファヴから吸い取ったデータと少年を比べて99.996%の照合率。これは誤差であり照合率100%と言っていい。これならば声紋認証でも顔認証のセキュリティでもパスできるレベルだ。
岸部颯太が死んだという事実を知らなければ、今いる少年を岸部颯太と認識していただろう。
そしてドラゴンナイトという名前。ラ・ピュセルの姿は龍と騎士のイメージを取り込んだ姿だった。まさに龍の騎士ドラゴンナイト。岸部颯太と酷似した少年が名乗るのだからなんという皮肉だろうか。
「そうちゃん……」
スノーホワイトはもう一度岸部颯太の愛称を涙声で呟くと掌で顔を覆う。ドラゴンナイトはその様子に困惑しているのか、どうしたらいいかとアタフタとしている。
◆ドラゴンナイト
「ドーゾ、落ち着くよ」
ドラゴンナイトはスノーホワイトにザゼンドリンクを手渡した。
スノーホワイトは無言で頭を下げるとザゼンドリンクのキャップを開け飲み始める。その姿を見ない様に意図的に目線を逸らし、廃ビルの屋上から火災現場を眺め買ってきたザゼンドリンクに口をつける。
さきほどの駆けつけた火災現場には消防車が到着していた。どうやら暴徒によって立ち往生していた消防車とは別の車が来たようだ。
消防員が懸命に放水しているが鎮火することなく、炎上したビルはネオサイタマの夜を緋色で染めている。もう少し救助活動を続けるべきだったのかもしれない。だがあの状況でそのことを考える余裕はまるでなかった。
ドラゴンナイトの頭の中は混乱の極みだった。何がいけなかったのだろうか?アイサツしたのがそんなに悪かったのか?掌で顔を覆うスノーホワイトの姿を見て浮ついた気持ちは跡形なく消え去った。
「修羅場インシデントか?」
「女を泣かせるんじゃねえぞガキ」
「火事が起こっているのに悠長だな!」
すると自分達の様子を通行人たちが囃し立ててくる。この時間帯にティーンエイジャーが居るのが珍しいのか二人に注目が集まっていた。
ドラゴンナイトは視線が集まるのを嫌がり、瞬間的にスノーホワイトの手を取り、路地裏に逃げ込み壁を駆け上がりビルの屋上を移動してその場を離れた。
そしてテキトウなビルの屋上に移動し、お互いを落ち着くためにザゼンドリンクを買ってきたのが顛末である。
手を引いたのは少し強引だっただろうか?ザゼンドリンクを飲みながら己の行動を省みる。
ザゼンドリンクのヒーリング成分のせいか精神が落ち着いてきた。一つ深呼吸をつき当初の目的、自分以外のニンジャと交流を図るためにスノーホワイトに向かい再びアイサツする。
「ドーモ、改めましてドラゴンナイトです」
「……スノーホワイトです……」
するとスノーホワイトもドラゴンナイトのほうを向きアイサツをおこなった。
とりあえずアイサツする意思はあるようだ。これでもアイサツをしなかったら、いくらヤバイ級にカワイイ同年代の女性ニンジャといえど交流を図る気にはなれない。
「えっとスノーホワイト=サンもニンジャだよね?ニンジャに会ったのは初めてで、直感的にはそう思うけど確証がなくて」
ドラゴンナイトは恐る恐る確認するように問う。結果的にはその直感は間違っていた。
ニンジャは宿ったソウルから相手がニンジャかそうでないかが分かる。
だが特殊な状況下において判断を見誤る場合はある。スノーホワイトが初めて戦ったニンジャのコールドスカルがそうである。動揺からニンジャ判断能力が低くなりニンジャではない相手にアイサツをしてアンブッシュをくらった。
ドラゴンナイトのソウルと自身の資質、そしてニンジャになりたてのニュービーであることからニンジャソウルを判断する力が低かった。さらに魔法少女の雰囲気はニンジャと似ている部分があることも原因の一つだった。
スノーホワイトは問いに無言で首を振り、ドラゴンナイトその動作を見て胸をなで下ろす。
「えっとニンジャになったのはいつぐらい?僕は一週間ぐらい前のニュービーだけど」
「私もそれぐらいです」
スノーホワイトは目線を合わさずそっけなく答えた。
それから数秒の間会話がなくなる。会話する際にはよくあることだが、そこまでコミュニケーション能力が高いというわけでは無く、同年代の女性ニンジャということもあってドラゴンナイトのニューロンは必要以上に焦燥感にかられていた。
(((どうする?次は何を話せばいい?というより会話の手ごたえがない。それに目を合わせてくれないし僕に興味がないのか?)))
「何であの火災現場にいたのですか?」
沈黙をやぶったのはスノーホワイトだった。予想外の質問による動揺と自分に興味が向いたことへの嬉しさで反応が遅れながらも答える。
「えっと……いつも通りパトロールしていたらビルが燃えているのを見えて、現場に行ったら4階に人が残っているって聞こえて助けようと思ってあそこに飛び込んだからかな」
「パトロールとは?」
「それはあれだよ。地域を見回りして泥酔したサラリマンを家まで運んだり、ヤンクやヨタモノに絡まれた人を助けたり。昨日はサラリマン狩りをしていたサークル・サドガシマっていうヨタモノ集団を捕まえたかな」
ドラゴンナイトは少しまくし立てる様に喋りサークル・サドガシマを捕まえたことを強調するかのようにアクセントをつけた。
するとスノーホワイトはそれに反応するかのように目線をドラゴンナイトのほうに向ける。ドラゴンナイトは目線があった恥ずかしさからか目線を逸らしながら質問する。
「それでスノーホワイト=サンは何で火災現場に居たの?」
「私も同じような理由です」
スノーホワイトの答えに平静を装いながら相槌をうつが内心ではガッツポーズする。
同じ理由と言うことは善良な心の持ち主ということである。それならば誘いに応じてくれるかもしれない。デートに誘う時の心境はこんな感じなのかも。ドラゴンナイトは心を奮い立たせ提案する。
「あの……もしよかったら僕がやっているパトロール一緒にやらない?二人だったら色々と捗るし、それに悪いニンジャに襲われても一人より二人のほうが安全だし、何かあったら守れるし……」
恥ずかしいので最後の方は相手にも聞こえないように呟く。スノーホワイトに視線を向け何か嫌な記憶を思い出したかのように苦々しい表情を浮かべていていた。その反応を見て察する。
これは嫌われた。それはそうだ、いきなり誘っても応じるはずがない。まずは段階を踏むべきだった。まあ善良なニンジャがいると分かっただけで励みになると己を慰める。
「……いいですよ」
「ワッザ!?」
「ただ条件と言うより手伝ってもらいたいことがあるのですが」
だが返ってきたのは意外な答えだった。拒否されると思っていたが了承してくれるとは。ただ条件を付けてくるということはあの態度からして無理難題だろう。
「ある人物を探しています。フォーリナーXと名乗っている女性です。活動のついでに探すのを手伝ってもらえますか」
「ヨロコンデ―!」
その人はどんな関係ですか?と聞こうとしたがその言葉を飲み込んだ。
恐らく深い事情があるのだろう。それを聞くことは奥ゆかしくない行為だ。何よりそれに尋ねて機嫌を損ねることがあれば困る。
スノーホワイトはドラゴンナイトにフォーリナーXの特徴を伝え、集合場所を決めるとドラゴンナイトの元から去っていく。その後ろ姿を眺め視界から完全に消えたのを確認してから叫んだ。
「ヤッター!」
初めて会ったニンジャが自分と同じ志を持つ善良なニンジャでしかもヤバイ級にカワイイ!そんなスノーホワイトと一緒に活動ができる。まるでカトゥーンの中の出来事だ。
一緒にパトロールすることで仲良くなって色々と間違いがおきてネンゴロに……
「イヤーッ!」
ドラゴンナイトは己を戒めるように右手で力一杯顔を殴りつける。口の中に血独特の鉄臭い匂いが広がる。邪念は捨てろ。
スノーホワイトを誘ったのは同じ志を持つ同士として誘ったのだ。それに万が一そういう関係になったとしても目指すのは善行を通じての清い関係だ。
口の中の血を吐きだすと自宅に向かってパルクール移動を開始する。その動きからは嬉しさを全身に漲らせていた。
♢スノーホワイト
「何で一緒に行動する約束をしたぽん?」
スノーホワイトは重金属酸性雨にうたれながらビルの屋上伝いで移動する。その最中にファルが問いかける。
「このまま一人で探してもフォーリナーXは見つからない。ならこのネオサイタマに詳しい人に協力を仰ぐべきだと思うけどこの世界での知り合いも居ない。そんななか相手から接触してくれたならこの機会を生かすべきだと思う。ファルがこの世界のネットに繋がれるのなら話は別だけど」
スノーホワイトはネオサイタマに来てから人助けをしながらフォーリナーXを探していたが、何一つ手掛かりを見つけることができなかった。
そんなネオサイタマで生活するなかで元の世界のインターネットのようなものがあるのが分かった。ネットを使えれば捜索が捗ると、ファルを通じてネットを活用できないかと提案があり試したが結果は失敗だった。
ファル曰く自分が知るネットとはまるで違い接続できないそうだ。UNIXと呼ばれるPCのようなものならネットを使うことができるが買うための金銭をまるで持っていない。
ファルはスノーホワイトの答えを聞き黙りこくる。それからお互い言葉を交わすこと無く無言で移動した。
移動を続けるなかスノーホワイトはあるビルの屋上にある給水塔を見つける。
その屋上に着地すると雨が当たらない給水塔の下のスペースに座り込みファルがいる携帯端末の電源をきった。
この後の様子は誰にも見られたくはない。そしてスノーホワイトは変身を解き姫川小雪になった。
魔法少女になると健康な体と強い精神が宿る。強い精神とは怪我をして痛くても動ける。気分が落ち込んでいても頑張れる。そして悲しくても泣けないということでもある。
ドラゴンナイトの姿をみて岸辺颯太との様々な思い出、そして岸辺颯太はもうこの世にはいないという悲しみが押し寄せてきた。スノーホワイトは泣きたかった、だが魔法少女では涙を流すことができない。故に魔法少女の変身を解いた。
最初にドラゴンナイトの姿を見た時は心臓が止まりそうだった。
その姿は幼馴染の岸辺颯太にあまりにも似ていた。その姿を見て一瞬だけそうちゃんは生きていたと妄想すら抱いてしまうほどにだ。
そして動揺し何の抵抗もなくドラゴンナイトに手を取られどこかのビルの屋上に連れてかれ話を聞くことになった。
ドラゴンナイトは自分のことを話し、自分がしている行動について語った。
その声は全く同じでまるでそうちゃんと話しているようだった。そして善行をおこなう精神は清く正しい魔法少女が好きでともに人助けをしたそうちゃんと同じだった。
ドラゴンナイトは一緒に人助けをしないかと誘って来る。その瞬間脳内で映像が思い浮かぶ。N市で二人で人助けをしてマジカルキャンディーを集め鉄塔の上で語り合った夜を。
あれは夢のような日々だった、今までの人生で一番幸せだったのかもしれない。だが夢はN市で開催された魔法少女選抜試験の開始と岸辺颯太の死で幕を閉じる。
スノーホワイトの脳裏にふと過る、誘いに応じればあの幸せだった日々の続きが見れるかもしれない。
ドラゴンナイトはそうちゃんではない、それは重々理解している。それでも追い求めたいほど輝かしい思い出だった。
フォーリナーXを探すために必要なことだ。魔法少女として人助けすることは正しい、人助けを二人でおこなうことは問題ない。
様々な理由でドラゴンナイトの誘いの応じることを正当化させていく。
そしてある懸念があった。ドラゴンナイトはニンジャであると言っていた。そしてネオサイタマにきた夜に戦ったコールドスカルもまたニンジャであると予測できる。
力を持つ者は力に溺れ悪事を働く、魔法少女狩りの日々で悪事に手を染める魔法少女を何人と見てきた。
ニンジャもまた同じだろう。人助けをするということは厄介事に首を突っ込むことである。もしニンジャが悪事を働いていている姿を目撃したら?
岸辺颯太、魔法少女ラ・ピュセルであれば悪事をやめるようにと説得し、実力行使できたら毅然と立ち向かうだろう。
そしてドラゴンナイトも恐らくそうだ。だが悪いニンジャの力が強大で返り討ちにあってしまったら。その時自分は立ち直れるだろうか?
「そうちゃん……そうちゃん……」
小雪は膝を抱えすすり泣くその声は重金属酸性雨が建物にあたる音とマグロツェッペリンから流れる企業広告の音でかき消される。
その様子を髑髏めいて模様をうかべる月はただ見下ろしていた。
ニンジャ少年と魔法少女 終り
中学生のニンジャ!そういえば中学生ぐらいのニンジャはアズールぐらいしかいないのか。
そうちゃんにそっくりのドラゴンナイト。彼がスノーホワイトにどのような影響を与えるのか?それは私にも未知数です(笑)
あと今のネオサイタマは3部という設定で書いています