ニンジャスレイヤー・バーサス・マジカルガールハンター   作:ヘッズ

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プロローグ的な話です。オリジナル魔法少女が出てきます。
そしてニンジャスレイヤーの出番はほんの少ししかありません。



第一話 ウェルカム・トゥ・マッポーシティ

 とあるアパートの一室、TVからは明るい曲調の楽しげな 歌とともにスタッフロールが流れていた。

 女性は座布団に座りゲーム機のコントローラーを持ちながら感慨深げに画面を眺めている。外見は十代後半から二十代前半、顔は整っており一般的には美人と言われる部類だ。

 髪は金色で一部はみつあみで編み込まれ、それでも腰もとまで届くほどの長髪だった。目は釣り目でそのエメラルドのような碧色の瞳には涙を少し貯め込んでいる。

 スタッフロールが終わり画面は暗転する、すると女性は深く息を吐きフローリングの床に大の字になった。

 

長かった。

 

 フィールドにいる雑魚一匹の攻撃を受けただけでゲームオーバーになる理不尽ともいえる難易度。あまりの難易度に何度コントローラーをフローリングの床に叩きつけそうになったことか。

 そして今しがた倒したラスボス、あれにもかなり苦労させられた、試行錯誤の繰り返しで何回コンティニューしたかすら覚えていない。

 その苦労の末に感動的な物語の結末を見られたことも相まって女性の胸中には得も言えぬ充実感と達成感が満ちていた。達成感を噛みしめるように横になった後、女性は体を起こしノートPCを立ち上げる。

 他の人はどう感じたのだろうか、それが気になりネットの掲示板でそのゲームについてのスレッドにアクセスした。

 自分の感想を書き込み、ストーリーが良かったなどラスボスにはマジ苦戦したなどの書き込みに同意しつつスレッドを読み、一通り読み終わり時計を確認すると時刻は深夜の三時を回っていた。

 

 頃合いか、それにこのゲームをクリアしたらやると決めていたのだ、行くなら今だ。女性は部屋着のTシャツとジャージを脱ぎ捨て、黒一色のフラメンコを躍る際に着るようなドレスを身に纏い、童話に出てくる魔女のようなつばが異様に大きい黒の三角帽子を被る。

 まるで仮装パーティーにでも行くのかと思われる、異様な格好だがこれはある意味女性の仕事着だった。

 

 彼女の名前はフォーリナーX。職業は強いて言うならば魔法少女だ。

 

 

 魔法少女とは魔法少女として才能がある生物が、魔法の国の特別な技術によって魔法の力が増幅されて変化した生物である。

 魔法少女になると超人的な身体能力と五感。そして魔法と呼ばれる特殊な力を一つ使うことができる。

 そして魔法少女になったものは魔法の国から無償の人助けを推奨され、自己の利益のために魔法少女の力を使うことは推奨されておらず、大半の魔法少女はその言いつけに従っている。

 

 魔法少女の力で金銭を得ることができないのであれば、魔法少女は職業とは呼べない。だが一部の魔法少女は魔法少女統括機関と呼ばれる組織に雇われている職業魔法少女も存在する。

 芽田(めた)利香(りか)改めフォーリナーXも職業魔法少女だった。だがフォーリナーXは魔法少女統括機関には属してはいない。ある個人から仕事を依頼しそれを達成し金銭を貰う。個人事業主である。

 魔法少女フォーリナーXの魔法は『異世界に行けるよ』文字通りフォーリナーXが住む世界とは異なる世界に行ける魔法である。

 しかしこの魔法は魔法の国にとって有用なものではなかった。

 様々な異世界に行き来し統括管理している魔法の国にとっては異世界に行ける程度の魔法は必要無かった。

 だがフォーリナーXの魔法は魔法の国が統括管理していない異世界にも行くことが可能だった。その事実を知った魔法の国のある人物はフォーリナーXに接触しある依頼をする。

―――異世界に行き、実験に使える珍しい物や技術などを持ってきてほしい

 そこからフォーリナーXの職業は魔法少女。正確に言えば魔法少女の力を持ったトレジャーハンターになった。

 フォーリナーXの魔法少女としての才能なのか、収集した物の大半は依頼主にとって有用なものだった。

 その結果、報酬は高給取りまではいかないまでも普通に生活できて、ちょっぴり贅沢ができるほどの金額をもらえていた。

 

 魔法少女は変身すると独自のコスチュームに身に纏う。フォーリナーXは人間に戻ることはなく常に魔法少女の姿でいるが、部屋の中では極力別の服に着替えている。

 魔法少女のコスチュームは体にフィットし着心地も最適である。だが仕事のオンオフははっきりしていたい。そういった理由からコスチュームから別の服に着替えていた。

 

 フォーリナーXは仕事に行くと決め、気持ちを切り替えるためにコスチュームに着替え、

身だしなみをざっと確認し玄関を出て住宅地の屋根を飛び跳ねながら目的地に向かう。

 一般人が歩けば20分程度かかるが、魔法少女の身体能力で障害物をショートカットすれば数分でつく距離だ。

 フォーリナーXはゲームをクリアした達成感が残っているのか、夜の街を鼻歌交じりで上機嫌に移動する。

 

 

 街中を抜け河川敷のサイクリングロードを駆け抜け、目的地である陸橋下にたどり着く。深夜であるせいか人の気配はまるでなく、河川独特の臭いが充満し川のせせらぎが静かに響き渡る。

 初めて魔法を使い異世界に旅立つ際にできるだけ目立たない場所がよいと探し、見つけたのがこの陸橋下だった。そして異世界から自分の世界に帰った場所もここだった。

 今まで十数回ほど異世界に向かったが、魔法を使える場所も帰ってくる場所もこの陸橋下のみだった。

 

 フォーリナーXは深呼吸を一回して目をつぶり意識を集中させる。この魔法はすぐさま使えるものではなくある程度の時間が必要である。そしてそれは覚悟を決める時間でもあった。

 異世界に飛ぶ際に視界はグニャグニャと歪み、内臓を手づかみでシェイクされるような不快感が襲ってくる。最初のころは異世界に着いた際にいつも盛大に吐いていた。

 今では吐くことは無くなったが何回やってもなれるものではない。そして覚悟を決めると同時に次に向かう異世界に思いを馳せると同時に祈った。

 

 この魔法には複数の制約があった。

 行く異世界は指定できない。

 一度行った異世界はもう一度行く事が出来ない。

 行った異世界で最低でも半年はいなければならない。

 

 これで居心地の悪い世界に飛ばされた日には目も当てられないことになる。

 戦闘には使えない、利便性が乏しい、日常では役に立たない。一般的にはハズレの部類の魔法と言えるだろう。それでもフォーリナーXはこの魔法が好きだった。異世界に行けば、他の魔法少女では体験できないことを体験できる。

 そしてこの魔法を使えば自由でいられる。自分の魔法を使っている限り、どの魔法少女よりも自由だという自負があった。

 

 突如フォーリナーXは何かを察知したのか集中を解き後ろを振り返る。十メートル先に少女といえる女性が立っていた。髪はピンク色のショートカット。服装は学校のセーラー服のような白い服に、そこかしこに白い花飾りが散りばめられている。

 そんなかわいらしい外見とは裏腹に無表情で無機質な印象を受ける。この雰囲気この身なり、これは魔法少女だ。フォーリナーXは自身の警戒レベルを一気に上げる。

 自慢ではないが魔法少女との交友関係は狭く知人でも数える程度にしかいない、そして自分に接触する魔法少女はほぼいない。そんな自分に魔法少女が接触してくることは異様であるといっても過言ではない。

 

 

「私は監査部の者ですが、何か心当たりはありますか?」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間その少女の元に全速力で詰め寄る。魔法少女の身体能力で踏みしめた土は抉られ砂煙が舞い上がった。

 思い出した!あれはスノーホワイト。魔法少女狩りのスノーホワイト!

 

 

♢ファル

 

「いたぽん?」

 まんじゅうを半分から白と黒に塗り分けて目をつけたようなマスコットの映像が浮かび上がり、黄金の鱗粉をふりまきながら尋ねる。

 このマスコットはファルと呼ばれ、魔法少女をサポートするために作られた電子妖精である。ファルの問いに少女は無言で首を振った。

 少女の名前はスノーホワイト。魔法少女であり悪しき行いをする魔法少女を独自で調査逮捕するその姿は巷では魔法少女狩りと恐れられている。

 スノーホワイトはとあるアパートに出向き、一室の扉の前で聞き耳を立てた。魔法少女の聴覚であれば、外からでも中の住人の息遣いは聞こえてくる。居留守は通用しない。その結果息遣いすら聞こえず室内に誰も居ないことを確認した。このアパートの一室に来たのにはわけが有る。

 スノーホワイトが悪事を働く魔法少女を摘発し続けいつしか魔法少女狩りと呼ばれるようになっていた。

  魔法少女狩りの活動をするにつれ知名度は上がり、様々な悪事を告発するメールをスノーホワイトが持つ携帯端末、つまりファルに送られてくる。そしてある一通のメールにはこう書かれていた。

―――とある研究者が怪しげで非人道的研究をおこない、ある魔法少女がそれに加担している。名前はフォーリナーX。魔法は『異世界に行けるよ』 真実を確かめてほしい。

 添付ファイルにフォーリナーXの魔法についての詳細、現住所まで書かれていた。ファルはこの情報の真偽の確認作業を始めた。

 まずフォーリナーXと呼ばれる魔法少女は自らが記憶するデーターベースに登録されている。だがこの魔法少女が実在するとはいえ、このメールの内容が真実とは限らない。それにメールの発信元がまるで探知できなかった。

 ファルならばメールの発信元を特定するのはたやすいことである。だがこのメールはプロテクトが固い。それほどまでに身元を隠すと言うことは何かやましいことがあるのか?もしかすると罠では?

 

 ファルは様々な可能性を検討し、一旦考えを保留した。自分はスノーホワイトのマスコット。決定はスノーホワイトに任せるべきだ。

 スノーホワイトに判断を仰ぐとメールに書かれている案件を調査することに決めた。別件の案件を片付け、メールに書かれている住所に向かったのは夜中の三時を回った頃だった。

 

「ただ単純に出かけているか、それともスノーホワイトの動きに気付いて逃げたかぽん?もしくは情報自体がガセネタだったぽん?」

「メールに書かれていた場所にいく。ナビゲートして」

「了解だぽん」

 ファルは一瞬沈黙した後、現在地とその場所を示した地図を携帯端末の液晶に表示する。情報によるとフォーリナーXが使う魔法は特定の場所でしか使えなく、その場所も記されていた。

 もし異世界に逃げ込まれたらこちらからは手出しできない。その可能性を考え異世界に行かれる前に接触する狙いだろう。

 現在地から目的地まで人の徒歩で20分。魔法少女なら数分でつける距離。スノーホワイトは軽くジャンプしアパートの屋根に着地、そこから屋根伝いに移動し目的地に向かう。

 移動してから数分、スノーホワイトは目的地にそれらしい人物の姿を捉えた。

 

 あれがフォーリナーX。

 

 スノーホワイトが近づくとフォーリナーXは振り向く。その様子は明らかに警戒している。魔法を使用する場所に別の魔法少女が現れたのであれば当然の反応と言える。

 スノーホワイトは相手の緊張を解こうと笑顔を作ること無く、無愛想ともいえる無表情で端的に質問する。

 

 

「私は監査部の者ですが、何か心当たりはありますか?」

 

 スノーホワイトの魔法は『困った人の声が聞こえるよ』それは深層心理や反射すら声として聴くことができ、心に疚しいことが有れば心の声として聞くことが出来る。

 フォーリナーXと面向かった時には悪事についての心の声は聞こえなかった。だが心当たりという単語を盛り込んだ質問をすることでやましいことがあれば心の声が出てくる。

 

 するとはっきりと聞こえてきた。

 

 

『自分がやっていたことがバレていたら困る』

『スノーホワイトをここで倒せないと困る』

 

 その心の声が聞こえてきた刹那、フォーリナーXが猛烈な勢いで襲い掛かってきた。

 

 

♢フォーリナーX

 

 

 自分の仕事の依頼主がどんな実験をしているかは知らない。だが依頼をこなしていくうちに詳細は分からなくとも断片的なことは分かってくる。

 依頼主がおこなっている実験は少なくとも胸を張って正しいと言えることではないということを。

 

 何回目かの依頼の際にあるオプションが追加された。特殊な能力を持っている生物を生け捕りにしてくれたらボーナスを出すと。フォーリナーXは特に訳を詮索することもなく、考えることもなかった。

 ボーナス狙いである世界である程度の怪我で有れば瞬時に再生する犬のような生物を捕獲し依頼主に献上する。

 すると賃金がいつもより少しばかりほど増えていた。

 

 次の世界でも特殊な能力を持っていた生物を捕獲し献上した。だがその生物はこちらでいう人間と同じような生物だった。さすがに人を献上するのには忌避感はあった。

 だがその世界の人型生物はこちらでいう死刑を待つばかりの罪人だった。どうせ死ぬなら有効活用した方が得であり、相手も生きることが出来るかもしれない。

 所謂win-winというやつだ。そんな気軽な気持ちでフォーリナーXはその人型生物を捕獲した。すると賃金がいつもよりさらに増えており、積極的に人と類似した生物を捕獲してくれと頼まれる。

 

 人型の生物を捕獲して来いと頼む時点で碌でもないことをしているのはすぐに分かった。

 人体実験かそれに類似するものでもしているのだろう。だがそのことは頭に置きながらもフォーリナーXは人型の生物の捕獲に勤しんだ。

 

 誰かが幸せになる分誰かが不幸になる。それがフォーリナーX長くは無い人生で悟った摂理だった。

 幸福の量は一定量であり、誰かが幸福になればバランスを取るように誰かが不幸になる。ならば自分の幸福のために誰かに不幸になってもらおう。

 今まで散々不幸な目にあってきたのだ。自分には幸福になる権利がある。

 

 しかしこの行為は誘拐である。一般的には重罪であり、発覚すれば重い刑が科せられるだろう。だがフォーリナーXは逮捕されることについては全く心配していなかった。それは自分の行いを咎める制約は無いからである。

 魔法少女にも人間での法律のようにルールが有り、それを破れば監査部と呼ばれる部門に所属している魔法少女が処罰を下す。

 魔法少女としての資格はく奪、刑務所での拘留。最悪死刑なども有りうる。

 だが魔法少女のルールに異世界での行動については何一つ記されていない。つまり異世界でどのようなことをしてもルールには違反しない。極端な事を言えば異世界で大量殺人をおこなっても何一つ問題は無いのだ。行為をやめるとするならば、それは個人の倫理観によるものだろう。

 フォーリナーXは自分の身勝手な幸福の追及のために倫理観は捨てていた。監査部が調査しても逮捕することはできない。何の憂いもなく仕事を行った。

 

 そしてスノーホワイトがやってきた。他の監査部なら問題は無い。だがスノーホワイトは問題だ。

 魔法少女狩りと呼ばれるこの魔法少女は相当強引な手口で悪事を働く魔法少女を捕まえていると聞いている。それがフォーリナーXの元に来た。

 魔法少女のルールに違反しなくとも、スノーホワイトのルールに違反したということだろうか。口で言いくるめようとも問答無用で逮捕するだろう。そうなれば最低でも魔法少女の資格はく奪は免れない。

 

 

 嫌だ!もうあの不自由な生活に戻りたくはない!

 

 

 フォーリナーXは電撃的な速度で決断を下し行動に移る。この場でスノーホワイトを無力化し、魔法を使い別の異世界に逃げ込む。

 監査部の人間に暴行を働けば正式に罪人になるだろう。そうなれば安息の地は無く、あるとするならば別の世界だ。

 自分の生まれ育った世界に二度と居られなくなることは辛く、後ろ髪引かれる思いも有る。だがフォーリナーXにとって最重要事項は魔法少女でいることであった。

 

 フォーリナーXは機先を制するように姿勢を低くしながら飛び込み間合いに入る。スノーホワイトにタックルをしかけ組み敷き、そこから打撃か締め技で動かなくさせる。それがプランだった。

 不意打ち気味に仕掛けたのが功を奏したのか、両の手がスノーホワイトの腿裏にあと数十センチで届くこの瞬間でも反応はない。

 タックルは決まる。そう確信した瞬間顎に伝わる衝撃とともにフォーリナーXの視界に星一つもない夜空が映る。そして一瞬意識は途絶える。

 

 顔面に伝わる鈍い痛みとともにフォーリナーXの意識は覚醒する。目に映ったのは夜空ではなく無表情で淡々と拳を振りおろすスノーホワイトの姿だった。

 フォーリナーXのタックルは決まらず、逆にカウンターの形で膝を合せられ顎を打ち抜かれていた。さらにフォーリナーXの上に馬乗りになり、拳を振りおろす。

 

 フォーリナーXはスノーホワイトの打撃で失いかける意識を懸命に繋ぎとめていた。ここで意識を失えば、スノーホワイトに逮捕され何かしらの罪に課せられるだろう。

 そうなると魔法少女でいられなくなる。魔法少女でいられなくなることはフォーリナーXにとって死ぬことと同じことだった。

 だがこの状況を脱出することは困難だった。相手に馬乗りにされ両腕はスノーホワイトの膝で拘束されている。動かそうにも全く動かない。

 魔法を使ってこの状況を切り抜けようにもフォーリナーXの魔法は瞬時に使えるものではなく、発動するのにも有る程度時間がかかる。スノーホワイトの打撃を受けながら使えるものではない。それでも抗い続ける。

 何秒か?それとも何分間殴られ続けただろうか?

 視界は混濁しスノーホワイトの姿はコーヒーにミルクを一滴こぼした時にできる波紋のようにグニャグニャと歪んでいる。それに吐き気までこみ上げ今にも吐いてしまいそうだ。

 脳へのダメージによるものだろう?いやこの感覚は知っている。

 すると薄れゆく混濁する視界に驚愕と苦悶の表情を見せるスノーホワイトの姿が映る。慣れていないとこれはキツイぞ、フォーリナーXはスノーホワイトに見せつける様に犬歯を見せニィッと笑う。

 

 二人の周辺は色が溶け合ったように歪み、数秒後には二人の姿は跡かたもなく無くなっていた。

 

 人は窮地に立つと潜在能力が引き出され通常以上の力を出すと言われ、それらは覚醒、火事場のくそ力など様々な呼ばれ方をされている。それらは魔法少女にも存在する。

 生命の危機に反応したのか、それともフォーリナーXの魔法少女で有り続けたいと言う執念がそれを引き起こしたのだろうか?

 通常ではできるはずのない、殴打されながらという状況で自らの魔法を発動させていたのだった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

「安い、安い、実際安い!バリキドリンクでセンタ試験を乗り切ろう!」重金属酸性雨が降りしきる鈍色のネオサイタマの空を遊泳するかのようにマグロ型の飛空艇マグロツェッペリンが飛び交い、非人間的な音声で極彩色のネオンに彩られた町並みを多くの人たちが行きかう人々に呼びかける。

 

行きかう人々は一瞬音声につられて上を見上げるが、すぐに視線を戻し黙々と歩き続ける。

その様子をとあるビルの屋上から腕を組みながら見つめる人物がいた。その人物は赤黒のシノビ装束を身に纏っており、口元には忍殺と刻まれたメンポを身につけていた。そのメンポからジゴクめいた蒸気が規則正しく噴き出る。

 

シノビ装束の人物はふと雲に覆われてうっすら浮かび上がる髑髏めいた模様の月を見上げた。インセクトオーメンツと言うべきだろうか、唐突にニューロンをちりつかせる何かを感じ取った。吉兆か凶兆かは分からない。だが何かが起こるという漠然とした予感を感じていた。

 

 

「WASSHOI!」赤黒のシノビ装束の人物はその予感を心の奥底にしまいこみ極彩色のネオンの街並みに飛び込んだ。

 


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