D.C.Street.Runners.~ダ・カーポ~ストリートランナーズ   作:ケンゴ

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Act.3 黒のGTO③ -対戦-

「あれが噂のGTOか」

 

 純一がそう言いながら、駐車場に止まった黒色のGTOを見る。えらく厳ついエアロパーツで武装されており、車体の大きさと相成りかなりの威圧を感じる。

 

「初音オートの代表ってのは誰だ?」

 

 そのGTOから降りてきたドライバーがそう問う。すると、周りの走り屋たちは一斉に、ケンタら5人の方を見た。それを確認すると、GTOのドライバーは5人の元へ歩み寄ってくる。

 

「おまえらが、ココで最速の人間か?」

「最速ねぇ……」

 

 気怠そうにケンタがポリポリと頭を掻き、そしてほかの4人を見る。

 

「別にオレらは最速を名乗ってるわけじゃね―が。まぁ初音オートの人間かと聞かれたら、イエスと答えるけどな」

「なら話は早い。お前らの中で一番速いやつが俺とバトルしろ。俺がバトルで勝った時は、俺の車を見かけたときに無条件で道を開けてもらおうか」

 

 ニヤリと笑みを浮かべるGTOのドライバー。その様子を見たケンタは、更にやる気を無くす。

 

「正直あんたみたいなのが絡んでくると、こっちは迷惑なんだよね。大した腕もない癖に意気がってさ」

「なんだと?」

 

 GTOのドライバーの表情が険しくなる。ケンタの言葉に、多少イラついたようだ。

 

「ハッ! バトルすら受けれないような臆病者にそんなこと言われるとは……傑作だぜ。まぁこんな僻地に速いヤツなんて居ないと思うけどな!」

「……それなら試してみますか?」

 

 少し怒気を混じらせた声でGTOのドライバーにそう言ったのは、音夢だった。

 

「なんだ、女が相手かよ。悪いがオレは遅いやつに興味ない――」

「逃げるんですか?」

「なんだと……?」

 

 GTOのドライバーの言葉に被せ、音夢が挑発を投げる。両者とも、お互いの顔を見る。一触即発とはまさにこのことだろう。

 

「良いだろう。さっさとてめぇの車をスタートラインに並べな!」

 

 GTOのドライバーはそう言うと、自分の車へと乗り込む。

 

「この峠は、この俺――森山 修司(もりやま しゅうじ)が手中に収める!」

「ふふっ、弱い犬ほどよく吠えるんですよ?」

 

 最後まで挑発する音夢。彼女もまた、自分の愛車に乗り込んでスタートラインへと着くのだった。

 

「なんか妙なことになってきたね」

「まさか音夢が走ることになるなんてね」

「まぁ、どんな走りをするか見せてもらおうじゃないか」

「……なんでお前ら、俺の車に乗ってんだよ」

 

 スタートラインにつく、音夢の白いエボ6と森山の黒いGTO。そしてその2台の後ろに停車する、純一の黒いエボ3。

 

「いやー。こういう時、後ろにシートがある車は便利だよなー」

「人の話聞けよ」

 

 純一がエボ3のリアシートでくつろぐケンタに突っ込む。現在、純一のエボ3には助手席に眞子、リアシートにケンタとことりが乗っている。

 

「気にすんなよ。どうせなら2台の後ろを追っかけたほうが楽しいじゃねーか」

「ほぼフル乗車の状態で、下りの追走なんか出来るか!」

「聞こえない聞こえない。ほら、前の2台がスタートしたぞ!」

「あー、もう!」

 

 エボ6とGTOのスタートを見届けたケンタの声に促され、純一はヤケクソでエボ3をスタートさせた。

 

 

・バトル車両・

MITSUBISHI LANCER Evo.6(朝倉 音夢)-V.S- MITSUBISHI Z16A GTO(森山 修司)

 

・バトル追走・

MITSUBISHI LANCER EVO.3(朝倉 純一、水越 眞子、白河 ことり、大城 剣太)

 

バトルコース「初音山・下り・夜・晴れ」

バトルBGM「Express Love(頭文字D ARCADE STAGE Ver.3参照)」

 

 

「始まったぞ! どっちが先行だ!?」

 

 バトルが始まりスタート地点でざわめきギャラリーたち。初音山のスタート地点から第1コーナーまでの距離は凡そ300m弱の長い直線。

 

「先行は――GTOだ!」

 

 スタートラインをほぼ同時に飛び出した2台だったが、前に立ったのは森山の黒いGTOだった。第1コーナー突っ込みまでに、完全に音夢のエボ6の前へと出る。

 

「流石は鬼トルクのGTOね、車重の重たさを感じさせないわね」

 

 眞子が助手席でそう言うと、すかさず純一が突っ込む。

 

「ただ音夢の奴が、本気でアクセル開けてたかどうか怪しいけどな」

「そうだな。GTOとエボ6TMEの車重差は300キロ近く、そしてトルクはGTOが44キロ弱でエボ6が38キロ。いかにGTOが鬼トルクとはいえ、やっぱり300キロ近くの車重差を簡単に覆せるほどじゃあない」

 

 もちろんノーマル状態での話だけどな、とケンタは付け加える。音夢のエボ6はともかく、相手のGTOも全くのノーマル車両とは考えにくい。

 

「まぁバトルはまだ始まったばっかだ。どうなるか分からないさ」

 

 エボ3に乗っている全員が、前を走る2台を見た――。

 

 

 スタートして、エボ6の前へと出るGTO。もうすぐ第1コーナーである、緩やかなS字コーナーが見えてくる。セオリー通り、アウト側からパーシャルスロットルで進入するGTO。後ろを走るエボ6も同様だ。

 無難にS字を立ち上がり、続いて2台に迫りくるのは左の複合ヘアピンコーナー。コーナー中腹から出口にかけて、入口よりも曲率がきつくなっており、見た目以上の減速が必要なポイント。

 GTOがまずブレーキングを開始。重たい車体を止めるための強力なブレーキで減速し、そのままステアを曲げていく。次いでエボ6のブレーキング。GTOと比べて軽量な車体ではあるが、ここでは無理せずにGTOのラインをトレースしてコーナーを駆け抜けていく。

 

「やっぱりブレーキと旋回じゃ、こっちの方が有利だね……」

 

 前を走るGTOよりも余力を残したブレーキング。そして音夢の操るエボ6が所属する第2世代ランエボシリーズ最大の特徴――AYC(アクティブ・ヨー・コントロール)システムを効かせ、よりシャープなコーナリングが実現する。

 GTOが先行のままコーナーを立ち上がって加速する、しかしエボ6もしっかりとその後ろを追走している。

 

「思ってたよりはやるな」

 

 森山がGTOの車内で吐き捨てる。バックミラーに映る白色のエボ6を見て、そして再び前を見る。次は右コーナー。上り車線に登坂車線が存在するので、このコーナーは3車線分のコーナリングラインを描ける。

 GTOは一気に車体をイン側へと寄せていくが、エボ6は少し余裕を持たせて道幅のセンターを中心にしてのコーナリング。ここから少し直線が現れるが、そのあとは低速のヘアピンカーブが連続するテクニカルセクションとなる。

 

「ここはタイヤを温存だね」

 

 バトルはまだ始まったばかり。これからの勝負を考え、音夢はタイヤを温存する走りに切り替える。全幅の大きいGTOが前に居ては、追い抜くのにもかなり神経を使う。ならば様子見だと、音夢はそう考えた。事実スピードは乗っている、あとは相手の出方次第だ。

 

 

「手堅い作戦だな」

「そうだね、前を走るのが大きい車だとちょっと慎重になっちゃうよね」

 

 エボ3のリアシートで、ケンタとことりがエボ6の動きを見てそう言う。普通ならば、このポイントはGTOのように一気にイン側へと寄せていくのがベターだ。

 

「対向の登板車線を含めて3車線あるから、ぶつかることはまず無いんだけどなー」

「頭ではわかってても、やっぱり躊躇うよな。流してる時に追い越す分には、簡単にいけるんだけどな」

 

 ステアを握る純一がケンタに返答する。エボ3のフロントスクリーンには2台のテールを捉えているが、バトル開始直後とはいえフル乗車に近い状態では、流石に全開走行をする前2台に追い縋ることは難しい。徐々に2台との距離は遠くなりつつあった。

 

 

 バトル中のGTOとエボ6は低速コーナーが続くテクニカルセクションへと突入していく。その大きな車体と道幅いっぱいのコーナリングラインを活かし、エボ6へのブロックラインを走行するGTO。

 

「そんなにインを締めなくても、ここで行く気は無いですよ……」

 

 音夢は車内でそう呟きGTOを追従する。この走り慣れたコースで、GTOよりもシビアなラインでコーナーを駆けるエボ6。ブレーキングへの入力もGTOに比べれば非常に滑らかだ。

 

「ちっ……切り返しが多い区間だな……!」

 

 忙しくステア舵角を修正しながら、森山は悪態をつく。エボ6よりも遥かに大柄な車格を持つGTOの左右への動きは、はっきり言ってダルい。特にこんなテクニカルセクションであれば尚更だ。

 しかし少なからずブロックラインを走行しているので後ろのエボ6に追い抜かれることはまず無い。とはいえ、後方を走る音夢に追い抜きの意志が無いので、当然といえば当然なのだが。

 

「やはり、その大きな車体ではこの区間はキツそうですね」

 

 GTOの動きが苦しいのは後ろから見ていて分かる。道幅いっぱいのコーナリングラインとブロックラインで誤魔化しているが、エボ6よりも加速減と左右旋回の動きが大きい。

 

(でもまだ我慢)

 

 このテクニカルセクションの終わりを告げる、S字コーナ―から続く低速左ヘアピンコーナーへと2台は進入。やはりGTOはブロックラインを走行し、少し強引とも見えるイン側への寄せ方をする。それに対しエボ6はクリッピングポイントに付くタイミングを遅らせ、コーナー出口でより多くアクセルを開けることができるコーナリング。

 

「くっ……!」

 

 コーナー立ち上がり。GTOの真後ろに、ぴたりとエボ6が張り付く。脱出速度はほぼ互角、そしてこの後は曲率が不規則に変化する左右の高速コーナーが連続し、更に途中には低速ヘアピンが存在する区間――通称“初音ワインディング”と呼ばれる、この初音山で最も高難度のセクションが現れる。

 

(旋回能力はランエボの方が上だが……)

 

 森山はバックミラーに映るエボ6の姿を気にしつつ、ステアを進行方向へと切り込んでいく。

 

(こんな曲がりくねった区間での追い抜きはありえねぇだろ!)

 

 シフトレバーを3速へと叩き込みシフトダウン。エンジンブレーキを微妙に効かせながら連続コーナリングを開始するGTO。そしてエボ6も初音ワインディングへと進入し、バトルは中盤戦へと突入して行く。

 

 

「流石にもうキツいぜ、タイヤが鳴き始めてきた」

 

 追走するエボ3のステアを握る純一の手が忙しく動く。フロントタイヤからの手応えが薄い。

 

「朝倉君、無理しなくていいよ」

 

 後ろからことりが純一に声を掛ける。エボ3の挙動が徐々に緩慢になっていくのが感じられたからだ。

 

「そうだな。あのGTOの実力も大体わかったことだし、クーリング走行に入ろうか」

「ああ、そうさせて貰うぜ」

 

 アクセルペダルから足を離し、エンジンブレーキを効かせる純一。前を走っている2台の姿は、あっという間に彼方へと消えていく。

 

「勝敗の行方は見えたしな――」

 

 エボ3のリアシートで、ケンタが小さくそう呟いた。

 

 

「振り切れねぇ……」

 

 前を走るGTOの背中に、ピタリと張り付いて追走するエボ6。GTOの走行ラインをトレースし、森山にプレッシャーを与える。

 

(俺のGTOより、エボ6の旋回能力が良いのは分かるが……ここまで追い回されるもんなのか!?)

 

 バックミラーに映るエボ6の姿を確認する森山。右へ左への高速コーナリングを続ける2台だが、その動きは両者で異なっていた。

 

(くっ……! クリップにつくのが、向こうに比べてワンテンポ遅れちまう……!)

 

 ケンタも純一らに説明していたが、GTOとエボ6とのノーマルでの車重差はおよそ300キロ。エボ6に比べるとステアの切り返し時の反応はイマイチであり、さらに高速でコーナリングを繰り返しているのだから尚更である。

 

(もうすぐこの区間も終わる……その後は低速ヘアピンが2つ3つ続いた後、アクセルを踏める区間になる。そこで一気に突き放してやる!)

 

 乱暴にシフトレバーを3速へと叩き込み、そしてGTOが連続高速コーナー区間を抜ける。

 

(この後に続く低速ヘアピンを抜けるとストレート区間……向こうのGTOのパワーがどれだけ出てるか分からないけど、こっちの戦闘力なら食らいつけるはず)

 

 GTOのテールを見据える音夢。そして2台の眼下に、右ヘアピンカーブが迫ってくる。まずGTOのブレーキランプが点灯、続いてエボ6のブレーキランプも点灯する。一気に車体をイン側へと寄せるGTOとエボ6、理想的なコーナリングラインを描いてコーナーを立ち上がる。少し間を置き続いて現れるのは左ヘアピンで、そして間髪入れずに右ヘアピンが待ち構えている。

 

「絶対に行かせねぇよ!」

 

 GTOがセンターラインを跨いでの走行ラインでブレーキングを開始、後方を走るエボ6に対するブロックラインだ。しかし音夢はそれを意にも介さずアウト側ラインからのブレーキングを行う。2速シフトホールドのまま、ブレーキペダルをリリースしながらステアを進行方向に切り込んでいく。

 

「っ……!」

 

 GTOのコーナリングラインが少し膨らむ。コーナー中腹を過ぎたあたりでようやくイン側に車体を乗せるが、きちんとクリップにつけていたエボ6がアウト側ラインから攻め込んでくる。このまま行けば次のコーナー進入でエボ6にインを取られる――そう判断した森山は、アクセルを開けるポイントを若干早めてコーナー脱出速度を稼ぎ、エボ6の前で次コーナーへのアプローチラインを死守。

 

(そこまでやりますか……)

 

 そんなGTOの動きを後ろで見ていた音夢。GTOの走行ラインをきっちりトレースし、相手にプレッシャーを与える。バトルは既に、コース半分を消化していった――。

 

 


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