D.C.Street.Runners.~ダ・カーポ~ストリートランナーズ   作:ケンゴ

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Act.13 訪島者① -見学-

「朝倉君、大丈夫……?」

「ずっとその調子だけど、お前マジで大丈夫かよ」

 

 昼休みに突入した初音オート。ショップ内の事務所の机に突っ伏してる純一に、ことりが心配そうに声をかける。

 あのお気楽な性格なケンタですら、ことり同様に心配そうな声色を出すほど、純一はぐったりとしていた。

 

「あー……まぁ仕事は出来てるから」

 

 ゆっくりと体を起こし、2人の方へ向き直る純一。

 とは言え流石にこの状態で整備作業は難しいので、事務作業へと業務チェンジしてはいるのだが。

 

「朝からそんな調子だけど、何かあったの?」

「ちょっと……な」

 

 あいかわらず心配そうな顔をすることり。純一は今朝の出来事を思い出す。

 あのレヴォーグのドライバーに初音オートまで送ってもらったはいいが、初音山を下り終わり街中に入ってもその勢いは止まらなかった。

 

(街中の交差点を4輪ドリフトで駆け抜ける経験なんて初めてだぞ……)

 

 そのおかげで思っていたより早く店に到着できたのだが、その過激すぎる走りによって純一はほぼノックアウト寸前。

 走り屋のプライドとして平然を保ってはいたが、レヴォーグのドライバーに名前を聞きそびれる位にはキツいものがあった。

 ちなみに山頂駐車場に置き去りにしたエボ3は、早めに出勤してきた同僚に引き取りに行ってもらい、現在リフトの上で鎮座している。

 

「世の中にはヤバい奴が、他にもたくさん居るってのを思い知らされた朝だったぜ……」

「何だそりゃ?」

 

 純一は目の前に居る、その他多数の“ヤバい奴”を見ながらそう呟くのであった――。

 

 

――同時刻。

 

「話には聞いていたが、不思議な島だよなぁ……」

 

 初音島の街中を走る1台の車――白色のレヴォーグのステアリングを握るネガネをかけた男性が、そんなことを呟く。

 

「はぇー……本当に桜ばっかりなんだねー……」

「えぇ、素敵な光景ね」

 

 レヴォーグのリアシートに座る女性2人も、そんな初音島の街並みに溢れる桜の木々を見て感想を漏らした。

 

「神秘的って言えば聞こえはいいが、1年中桜が枯れないとか考えようによっちゃ不気味だぞ」

「色んな専門分野の学者が調査してるみたいだけれど、未だにその原因は解明されていないみたいね」

 

 黒髪の大人びた女性が、観光客向けの案内パンフレットに記載された説明文を見る。

 

「噂だと魔法使いさんの能力の根源が具現化したものだとか!」

「いや流石にそれはねーだろ」

 

 緑髪の小柄な女性が嬉々として話すマンガのような設定に、ステアリングを握る男は苦笑しながら突っ込みを入れる。

 

「もー、お兄ちゃんは夢が無いなぁ」

「仕方ないわよ、兄さんだもの」

「お前らココで車から放り出すぞ」

 

 呆れた声の女性2人に、兄と呼ばれた男は半ギレの表情――と言っても演技だが――で返答した。

 

「それで? 目的のお店はもう近いのかしら?」

「んーと……今朝確認してきたら、この辺りのはずだが……っと、あったあった」

 

 対向車線側に見える、目的地の店の看板を見つけた男はレヴォーグをそちらへと向けて走らせる。

 

 

――それから十数分後。

 

「……マジかよ」

「……マジだね」

 

 メガネをかけた男と小柄な女性は、目的地の店内で声を潜めていた。

 2人の視線の先に居るのは、このお店の従業員と思われる女性スタッフだ。

 

「意味わからんくね?」

「いや、もしかしたら島内で流行ってるのかもしれないよ」

「だとしてもこの状況ではあり得ねぇよ」

「ですよねー」

 

 2人の視線を釘付けにする女性スタッフは、いま現在は2人のツレである黒髪の女性と話している。

 

「……何でベレー帽被ってんだ?」

「……すごく似合ってるけどね」

 

 その女性スタッフ――白河 ことりの頭にあるベレー帽に、2人はツッコミを入れざるを得なかった。

 初音オートでは最早見慣れた光景なのでショップ常連や他のスタッフたちは気にも留めないが、初来店の客はこの2人のように物珍しい視線を送るのが習慣化されつつあった。

 

「それではこれより作業に入りますので、この札をお持ちになって、あちらのスペースでお待ち下さい」

「ええ、よろしくお願いするわ」

 

 レヴォーグのカギと引き換えに数字の書かれた札を渡された黒髪の女性は、指定された待機スペースに備えられたソファーに座る。

 

「なんでお姉ちゃんは一切のツッコミをいれずにいられるの」

「貴女と兄さんの相手してると、あれくらいは普通に流せるようになるわよ」

 

 小柄な女性もソファーに座り、姉と呼ばれた女性は軽く息を吐くとソファー近くにある本棚から雑誌を抜き取り、ペラペラとページをめくって行く。

 

「オレはちょっと店内見学でもして来ようかな」

「行ってらっしゃい、時間が来たら電話するわ」

「あいよ」

 

 男は2人を残し、サービスカウンター近くに居た店員を捕まえる。

 

「ココってピット作業内見学ってOK?」

「作業エリア内への立ち入りは禁止ですが、ピット横に備えられたスペースで良ければ見学可能ですよ」

「じゃあちょっと案内してもらえるかな?」

「わかりました」

 

 男は店員と一緒に作業ピットエリアへとやって来ると、ピット内がよく見えるような大きな窓が設置された部屋に通される。

 

「見学はこちらの部屋からお願いします」

「ん、ありがとね」

 

 窓の近くに備えられた椅子に腰を掛けてピット内を見渡すと、少し離れた二柱リフトに載せられた1台の車を発見する。

 

(……軽傷だったようだな)

 

 男は小さな笑みを浮かべると、ピット内で慌ただしく動き回る作業員たちを見つめた――。

 


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