D.C.Street.Runners.~ダ・カーポ~ストリートランナーズ   作:ケンゴ

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Act.11 同型車⑥ -結末-

「どういうことだよ?」

 

 頭に?マークを浮かべる音夢と美春の代わりに、純一がケンタへ質問する。

 

「ジムカーナ選手と峠道の相性バッチリだって言ったのはお前じゃないか?」

「確かにな。だがそれは、あくまでもコースの造りが似てるってだけだ。サーキットでやるジムカーナ競技コースと峠道では、決定的に違うことが1つある」

 

 ケンタは石垣に座ったまま、3人を見上げてニヤリと笑う。

 

「それは“対向車の存在”だ。完全クローズドのサーキットコースは一方通行――つまり対向車の概念がないんだよ」

「――ッ!!」

 

 ケンタの言葉を聞いた3人は、ハッとした表情になる。

 

「峠道は一般公道、つまり対向車がいつ飛び出してくるか分からない。峠の走り屋とサーキットドライバーの決定的な違いは、対向車に対する処理能力だ。

もちろん峠の走り屋だからって、確実に対向車を処理できるわけじゃあない。だがそれでも普段から対向車の存在を意識した走り方をしているのとしていないのでは、その差はデカい」

 

 石垣から腰を浮かし、再びコースへと目を移す。 

 

「初音山コースは最終コーナーが右の中速コーナー、つまり対向車がブラインドから飛び出してくる状況だ」

 

 ケンタは3人の方へ振り返る。

 

「その右コーナー手前。コース唯一の3車線分のラインを描ける左曲がりの高速複合コーナーが、今回のバトルの勝負ポイントになるハズ。そこで前に出た方が、このバトルの勝者になる――」

 

 

 2台同時に左コーナーを抜け、ほぼ直線と言った右コーナーを横並び状態で駆けてゆく。

 

「――来たか」 

 

 2人の目前に現れる、左へ曲がる高速複合コーナー。ケンタが指摘した通り、コース唯一の3車線分の走行ラインが描ける勝負ポイント。

 

(次の右コーナーで勝負は仕掛けられねぇ……。ココが勝負どころ!)

 

 両車ともシフトレバーの位置は4速ギアに入っている。クロスミッションのおかげで、22Bの方が若干スピードは乗っている状況だ。

 

「悪いがアウト側2車線分のスペースはいただくぜ!」

 

 イン側からの進入ラインを走行する22Bに対し、宮沢はインプレッサを真横にピッタリと並走させる。眞子の走行ラインの自由度を奪い、コーナリングスピードを遅くさせるのが狙いだ。

 

「ライン選択の苦しいイン側に追い込むつもりでしょうけど、お生憎様!」

 

 眞子はインプレッサの存在を意に介さず、そのまま高速コーナーへと進入してブレーキングを行い始める。

 

(――ッ、このラインで突っ込む気かよ……!)

 

 隣を走行する22Bの走行ラインに驚きつつも、宮沢もブレーキングを開始した。

 宮沢の乗るインプレッサよりも、眞子の乗る22Bはブレーキキャリパーの容量と制動力が大きい。つまり2台同時にブレーキングを開始しても、22Bの方が早めに速度を落とせるということだ。

 

「こーゆー嫌がらせ(ライン封じ)には慣れてるのよ!」

 

 インプレッサよりも先にブレーキングを終える22B。前荷重姿勢のままステアリングを進行方向に切り込み、コーナリングを開始していく。

 

(チッ……想像以上にタイヤのグリップが残ってねぇ……!)

 

 22Bよりもキャリパー容量が少なく、タイヤもワンサイズ以上小さい物を使用しているインプレッサは、痛恨のプッシングアンダーを誘発してしまう。

 それにより、コーナリングへと移行するのが22Bよりも大幅に遅れてしまった。

 

(走行ラインの自由度はこっちに分があるが、旋回~立ち上がり速度は確実に向こうが上だ……!)

 

 インプレッサに対して走行ラインの苦しい22Bだが、DCCDをリア寄りに設定しているお蔭で若干オーバーステア気味の姿勢を維持し、速度は低めだが軽快感のあるコーナリングを見せつける。

 アンダーステアと格闘するタイヤのスキール音を響かせ、無理やり曲がる姿勢を作ったインプレッサではあるが、そのコーナリング速度は22Bに到底及ばない。

 

(しかもココは、出口に向かって曲率のキツくなるタイプの複合コーナー……)

 

 既にタイヤのグリップが限界を迎えているインプレッサは、コーナー中腹からステアリングを切り込んでも、ただ無情なスキール音を響かせるだけで曲がって行こうとはしない。

 少し前まで真横に居た22Bは、既に立ち上がりの加速姿勢に入っている。

 

「……ココまでか」

 

 ふぅ、と小さく息を吐くと、宮沢はアクセルペダルから足を離す。

 よしんば22Bに追いついたとしても、次はブラインドの右コーナー。対向車の存在が全く予想できない場所で勝負を起こそうという気は、彼には更々なかった。

 失速するインプレッサを嘲笑うかのように、22Bはそのままの勢いで最後の右コーナーにテールランプの軌跡を残して姿を消していった――。

 

 

 

――宮沢インプレッサ失速。勝者、水越 眞子&22B-STi。

 

 

 

「お疲れさん」

 

 頂上へと戻ってきた22Bとインプレッサのドライバー両名に、労いの声をかけるケンタ。

 

「ほれっ」

「ありがと。それよりも勝負の結果は聞かないの?」

 

 純一から受け取ったスポーツドリンクを飲みながら、眞子はそんなことを問う。

 

「ああ。前後タイヤの溶け方で、まぁ何となく結果は見えてるからな」

 

 2台が帰ってくるなり、前後のタイヤを確認していたケンタは何かを悟った顔をしている。

 とは言え、音夢と美春はきょとんとしていたので、苦笑しながら宮沢が勝負の結果を教えていた。

 

「しかしノーマルのインプレッサで眞子の22Bに喰らいつくとはな……流石はプロレーサーってトコか?」

「おや。知っていたのか」

「何となく、ドコかで見たことある顔だなとは思ってたからなー」

 

 先ほど音夢たちに見せた、自身のスマホに表示したページを宮沢にも見せるケンタ。

 

「うわー、デカく載ってるなぁ……あの人、こーゆーのはちゃっかり宣伝するんだなぁ」

 

 表示された自分の顔写真が載ったページを見て、思い当たるスポンサー先である1人の顔を思い浮かべながら少し愚痴る宮沢。

 

「プロとしてキッチリ勝たせてもらうつもりだったが、流石にタイヤとブレーキがノーマルじゃキツかったな。最後の方は止まりきれなかったし」

「ハンドルこじった様なタイヤの使い方からして、後半はアンダーステアと格闘してた感じだな」

「ああ。22Bのようなデフコントロールもないから、パワーオーバーにも持って行きづらくてねぇ。というか、22Bがアレほど走れるとは思ってもみなかったよ」

 

 宮沢が22Bと眞子の方を見ると、眞子が駆け寄ってくる。

 

「そういえばさ、4連続ヘアピンで私の22Bをどうやって抜いたのよ。しかも土埃あげながらとか意味わからないんだけど」

「ん? ああ、あれは道路と土手の境目にある縁石にタイヤを引っかけて曲がったんだよ。サーキットジムカーナでも縁石内側にタイヤをワザと落とし込んでコーナリング中の遠心力を弱める事があるんだが、そのテクニックの応用ってトコだな」

 

 宮沢がジェスチャーを加えながら、眞子の質問に回答する。

 

「そんな曲がり方があっただなんて……」

「はい。美春もビックリです!」

 

 音夢と美春が宮沢の説明を聞いて驚く。

 

「なるほどね、縁石内側に溜まった土手の上を走ったから土埃が上がったわけね」

「そんな無茶するヤツが他にも居たとはな……」

 

 納得する眞子と怪訝な目をする純一。彼の頭の中には、似たようなことを仕出かした知り合いの顔が思い浮かんでいた。

 

「まぁ最終的には負けたワケだけどな」

 

 宮沢は苦笑しながら、自分のインプレッサに乗りこむ。

 

「今日は楽しかったよ。またドコかで会ったら、またよろしく頼むぜ」

「ええ、今度はもっと戦闘力のある車乗ってきなさいよ?」

「次は勝たせてもらうよ、それじゃあな」

 

 眞子と宮沢がお互いを健闘すると、インプレッサはゆっくりと駐車場を後にした。

 

 

「――もしもし、宮沢です。アレはちょっと大きく出過ぎじゃないッスかねぇ」

 

 初音山を下りながら、宮沢は誰かと電話をしている。アレとは、先ほど見せられたページについてだろうか。

 

「まぁ良いですけどね、こっちは車貸してもらってる身ですし……。ええ、先ほど走り合ってきましたよ」

 

 口元を緩める宮沢。久しぶりの公道レースで、すこしテンションが上がってしまっているようだ。

 

「中々やりますよ、正直言うと競り負けましたし。どうですか、旅行ついでに行ってみたら。桜も嫌になるほど咲き誇っててキレイですよ」

 

 電灯に照らされる桜の花びらを見ながら、宮沢は電話相手にそんなことを言う。

 

「それに同じ匂いを感じましたから。いやいや、いい意味で、ですよ」

 

 苦笑しながら電話を続ける。

 

「ええ、それじゃあ」

 

 宮沢は通話を終えると、携帯を助手席側に放り投げた。

 

「面白くなりそうな予感がするぜ、初音山の走り屋さん達」

 

 彼はそんなことを車内で小さく呟いた――。

 

 

 


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