やっぱりオリジナル展開難しい……
そして早くも流れやら設定やらがズタボロになってしまっている……
どこのことかというと……本編でどうぞ
「お、大神の指輪が『天下一品』で作られた──!?」
「…………」
『天下一品』専用の採掘場……『魔場』にて真の『斬空刀』を完成させるために必要な石を採りにきた一行。しかし、その石が大神が操る『青い炎』でも燃え散らせることができない代物だということが判明し、その石を加工できるのは『天下一品』当主の匠だけということから、かつて大神の本当の力を抑えていたあの指輪が『天下一品』で作られた物という可能性が浮かんだのだった。
間接的なものとはいえ、優以外の『コード:ブレイカー』……大神にも『天下一品』との関係があることがわかり、驚きで大きく目を見開く桜。当の大神は彼女のように大きな反応を示してはいないが、それでも動揺しているのだろう。彼の表情からは強い緊張感が感じられた。
「……イ、イヤイヤ! さすがにそれはネーんじゃねーノ!? 大体、
「……それはオレにもわからない。だが、乙女の話を聞く限りはその可能性が高い……それだけだ」
しかし、そんな意外な可能性を刻は真っ向から否定する。かつて『天下一品』は“エデン”に武器を提供する協力関係にあったという話は彼らも聞いていたが、今の『天下一品』は“エデン”と縁を切っている状態ということも聞いていた。だから刻の言う通り、匠が大神のためにあの指輪をつくったとはとても考えられない。
その矛盾はこの可能性にいち早く気付いた王子自身も感じていたらしく、刻の言葉に強く反論することも無く彼女は目を閉じながら呟いた。
「……大神」
「……なんですか? 桜小路さん」
大神の指輪についての疑念が膨らむ中、桜はポツリと大神の名を呼んだ。突然のことに驚いた大神だったが、それを表に出そうとはせず、あくまで平然を装ってそれに応えた。
そして、桜は真剣な目を大神へと向けた。
「そもそも……あの指輪はいったい何なのだ? 人見先輩の時から気になっていたが……できれば、何も隠さずに教えてほしい。お前は、あの指輪をどうやって手に入れたのだ?」
「…………」
指輪と『天下一品』の関係から一度離れ、大神が指輪を手に入れたルーツについて尋ねた桜。それは、仲間のために“悪”へと堕ちた人見との闘いの時に初めて指輪を外した時から彼女の中に渦巻いていた一つの疑問。聞く機会もなく、また聞いたところで答えないのではと感じていたため聞かずにいたが、こうして指輪が話の中心に上がったのだ。謎を解くためにも、まずはそのルーツを知ろうと思ったのだろう。
「なるほどな……。たしかに、零が指輪を手に入れた経緯がわかれば『天下一品』との関係も見えてくるかもな」
「オイ、大神。あの指輪はどこで手に入れたんだヨ。まさか道に落ちてたから拾ったってワケじゃねーダロ?」
桜の質問をきっかけに、一同は大神へと注目する。彼が指輪を手に入れた経緯からヒントを得ていこうとしたのだ。
「…………」
他の者たちの視線が集中する中、大神はしばし沈黙する。
だが、彼の中で覚悟が決まったのか、小さく息を吐く。そして……彼はその口を開いた。
「あの指輪は……『捜シ者』から渡された物です。手袋とは別に、ある日唐突に……ね」
『──ッ!?』
『捜シ者』……その名を聞いた瞬間、乙女を除いた全員が大きく目を見開いた。その様子を見れば、誰もそこで『捜シ者』が関係してくるなどとは思っていなかったということがわかる。
しかし、一人だけ……驚きで目を見開きながらも、すぐに冷静さを取り戻した者がいた。
「……なるほど。そういうことでしたか……」
「平家先輩……?」
目を見開いたかと思うと、ほんの少しだけ考えこんだ平家。そうして彼が発した言葉と表情には……明らかな“納得”の色が見えていた。
「オイ! なに一人で納得してんだヨ! なんかわかったのか!?」
「……『捜シ者』はかつて、“エデン”において『コード:シーカー』と呼ばれていました。『コード:ナンバー』のみ与えられる我々『コード:ブレイカー』とは違い、彼は『シーカー』という『コード:ネーム』を与えられていた特別な存在。……しかし、彼はその高すぎる能力を脅威とした“エデン”に裏切られ、“悪”へと堕ちてしまった……」
「な……!」
それは、かつての『捜シ者』との闘いの中で会長と虹次が話していた『捜シ者』の過去。『コード:ブレイカー』とは別の異能者として“エデン”に名を連ねていたという、大神たちはまだ知らなかった真実。
『捜シ者』が“エデン”に所属していたこと、『コード:ブレイカー』以外に異能者の存在がいたこと、『捜シ者』が悪に堕ちた理由は“エデン”にあったこと……それらの事実に衝撃を受けながらも、彼らは論点を元に戻していく。
「つ、つまり……“エデン”に所属していた『捜シ者』なら『天下一品』のことを知っててもおかしくねーってことカ……?」
「せやけど、なんでわざわざ
「……それはわかりませんが、大神君と過ごしていた時の彼はロスト中。大神君が自身に敵対してきた時のために保険として作らせたと考えるのが妥当──」
「違ェよ」
「……王子殿?」
「あの人は……そんなことをしたりしない。真実なんてわからないが、それだけは断言できる。あの人は零をそんな風に見ちゃいなかった」
真剣な目つき、そして何があっても揺るぎそうにない凛とした姿勢で平家の前に王子が立ち塞がった。これまで平家から何と言われようと強く反抗してこなかった王子だったが、今回ばかりは違う。真正面から平家に立ち向かっていっている。
おそらく、彼女の中には確信があるのだろう。かつて『捜シ者』を誰よりも近くで護ってきた……彼女ならではの確信が。
「……あくまで可能性の一つというだけです。いえ、そんなことよりも……“悪”に堕ちた者を庇うとはやはり元“悪”ですね、八王子泪」
「オレのことを何と言おうと構わない。だが、あの人が零のことをどんな風に思っていたか……それだけは譲れない」
「では教えてほしいものですね。その“思い”とやらを」
「…………」
両者ともに一歩も引かず、正面から睨み合う二人。平家の中の“悪”に対する思い、そして王子の『捜シ者』に対する思い……二人の中にある純粋な思いがぶつかり合っていた。
それぞれが譲れない思いで対峙することで、その緊張感は周囲一帯へも広がる。張りつめた緊張感で、誰一人として彼らの間に入ろうとする者も──
「どうでもいいな」
「……大神?」
張りつめた空気を引き裂くように響き渡る大神の声。今まで平家と王子に向けられていた視線は一転、大神へと向けられた。彼は他の者たちに背を向け、進行方向に向けて先頭に立った。
「
「大神……」
そのまま話を終わらせようとするかのように、言い切るような口調で大神は言葉を並べていく。だが、おそらく大神の真意は違うのだろう。
両親を失った自分を育て、生き抜く術を教えてくれた恩人。何があっても自分が斃すと決め、それでもそれが叶った時は溢れるように涙が流れた。それだけ大神の中で『捜シ者』という存在は大きい。損な存在が自分に何を思っていたのか……気にならないはずがない。
他の誰でもない。『捜シ者』の真意を誰よりも知りたいのは……大神のはずだった。それを感じ取っても何も言えず、俯いた桜はそんな彼の名を呟くことしかできなかった。
「……まぁ、そもそも頭を悩ませることでもない」
「え……?」
ふと、大神の口調が和らいだ。何事かと顔を上げた桜が見たのは……
「
振り返り、フッと嘲笑するかのような笑みを浮かべる大神。正直、なんの解決にもなっていない方法を語っているわけだが……もしかしたら、そこは問題ではないのかもしれない。
なぜなら……
「……お前がそう言うんなら仕方ねぇ。せっかくだから、死んだ後の楽しみにしといてやるよ」
「何も解決していませんが……まぁ、いいでしょう」
「って、ちょっと待つのだ、大神! 私は地獄になんていかないぞ! ……多分」
「ア~ア。だとしたらオレに情報が来るのは一番最後カ~。こん中で一番長生きするとしたら絶対にオレだもんナ~」
「ほんなら、
「嫌な言い方すんナ!」
言ってしまえば、まるで馬鹿みたいな話。死んだ後に故人の遺志を知れるなど、何の根拠もない。しかし、そんな何の根拠も確証もない言葉を言ったからこそ大神の「どうでもいい」という言葉は他の者たちへも伝染し、張りつめていた緊張感を知らぬ間に解いていった。
なんだか一気に空気が軽くなったような感覚に浸りながら、和気あいあいと談笑を始めた一同。そんな彼らを一歩離れて眺めていた優と乙女。隣に立つ彼らにしか聞こえないような声で、ポツリと呟いた。
「良い人たちだね、優君」
「ああ。……だからオレも気に入っている」
「それ、皆に言ってきたら?」
「……それだけは遠慮する」
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──
「なぁ、この際なんで『捜シ者』があの指輪を作ったかは後回しでいいが、その……『青い炎』でも燃え散らない石ってのはそれ自体に封印みたいな力があったのか?」
その後、再び目的へと向けて歩き出した一同だったが、その道中に王子が乙女に目的の石について尋ねた。大神の例の指輪……それが『青い炎』でも燃え散らない特殊な石で作られたというのはわかった。これで大神がいくら『青い炎』を使っても指輪が無事だったことは説明できるが……封印の役割についてはまだ不確かなところがある。燃え散らないどころか『青い炎』……異能を抑え込む力が果たしてその石にあったのか。王子が知りたいのはそこだった。
そして、それに対する乙女の返答はというと……
「あ~、無い無い。その石の力はあくまで『青い炎』でも燃え散らないってだけ。封印の役割をしてたのはまた別の石だよ」
「別の石?」
「そう。え~っと……」
例の石は燃え散らないだけ、と言う乙女。そこでまた、指輪に使われた別の石の存在が判明した。すると、乙女は何かを思い出すように眉をしかめてから……
──ムニュ
「……は」
何の躊躇もなく、自分の
「ん~……あ、あった。ハイ、これだよ」
「ど……どこにしまってんだ、ゴラァァァァ!!」
「え? どこって……むn」
「言うなァァァァァ!!」
念のために言っておくが、今の乙女は昨日と同じ……着崩して胸元が大きく開いた着物を着ている。そのため彼女が自身の胸の谷間に手を突っ込んでいるところも、石を捜そうと手を動かしたことで形を柔軟に変えていく胸すらも周囲にバッチリ見えてしまっているのだ。
つまりどうなってしまうかというと……
「……ゴ、ゴホン」
「ナ……! ナ……!」
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……!」
(夜原先輩、気絶しまいとお経を唱えておられる……)
年頃の男性陣にとっては刺激が強すぎる光景だったというわけだ。まぁ、一方で……
「『ふわ丸』、ムニュムニュやー」
「ふふ、相変わらず常識に囚われない」
まったく気にしていない男性陣もいるわけだが。
──ガガガガッ!!
「テメーら!! そのだらしねーツラをなんとかしやがれ!!」
「り、理不尽ダ……」
「南無、阿弥……」
「痛いわー」
「な、なんでオレまで……」
それでも平家を除いた男全員、王子による制裁(頭突き)を受けたのだった。
「……ゴホン。この際、さっきのことはひとまず忘れるとして……だ。乙女、その石はなんだ?」
「んー? これも『魔場』でしか採れない特殊な石の一つだよ。まー、かなりのレア物だけどね」
「レア物……ですか?」
制裁を終えた王子は咳払いをして気を取り直すと、改めて乙女の方へと向き直った。その手に先ほど取り出した石……まるで丹念に磨かれた墓石のように独特の艶を放つ灰白色の石を握った乙女は、王子の質問に答えながらその石をジッと見つめている。
そうして、その石を「レア物」と称することに大神が反応を示すと、乙女は「そ」と言ってから……何気ない顔で続けた。
「これは『
「な……!?」
「異能を抑え込むって……マジかヨ!?」
「……本当だろうな。大神のあの指輪が何よりの証拠だ」
『珍鉱石』という特殊な石の力が明かされ、一同は息を呑む。異能を無力化する珍種が希少な存在だというのに、それと同様の力を持つ石があるなどにわかには信じられないのだ。
しかし、現に大神が指輪を外すことで飛躍的に『青い炎』の力が上昇したのを彼らは目の当たりにしている。そして、その指輪が壊れたことで今まで表に出てこなかった『コード:エンペラー』が復活したところも。
本当にその『珍鉱石』にそういった力があるかどうかはともかく、そういった力がある石があるのは揺るぎない真実なのだ。
「私はお父さんと比べて鍛冶関係はからっきしだから詳しくは知らないけど……あの指輪は『青い炎』でも燃え散らない石をベースにして、粒子状になるまで砕いた『珍鉱石』と一緒に作ったって話。なんで作ったかは知らないけどね……っと」
手にした『珍鉱石』を眺めながら指輪に関する情報を話す乙女。しかし、突然何かに気付いたようにその足を止めた。先頭にいた彼女が足を止めたため、他の者たちも反射的に足を止める。
そして、ふと前を見た時に目の前の光景が今までとは違うことに気付く。
「な、なんだコリャ……」
「分かれ道……ですね」
今までの洞窟らしい一本道とは違い、少し広めの空間に到着した一同。彼らがいる方とは反対側の壁の方には奥へと続くであろう穴があったが……その数は五つ。典型的な分かれ道であった。
「こりゃ素人だけで行ったら戻ってこれねぇパターンだな……。乙女、どの道に行けばいいんだ?」
「わかんない」
「そうか、わかんないか。なら仕方────は?」
五つの分かれ道を目の当たりにし、『魔場』が想像以上に複雑な空間であることを改めて感じた王子が案内人である乙女に正解の道を尋ねる。
だが、正解を知っているであろう彼女の口から出たのは……「わからない」という予想だにしないものだった。
「お、おい! まま、まさかここまで来て迷ったってわけじゃ──!」
「あー、違う違う。そーゆーことじゃないの」
乙女の返答を聞いて一気に不安感が増した王子に対し、乙女は平常心のままテクテクと歩きだした。
「実を言うとね、私もお父さんもこの『魔場』の全体図を把握しているわけじゃないの。どこを行っても、どこまでも空間が広がっている。……
「行き止まりが……無い……?」
「どこまでも続く闇の空間……どんな人間でも呑み込む魔の空間なんだよ、
『…………』
乙女のその言葉に、彼女以外の人間のほとんどが思わず息を呑んだ。『魔場』に入った際に、『魔場』と呼ばれる由縁は普通では考えられない鉱石と話していたが、今の話を聞く限りでは真の由縁は違うのだと感じてしまう。行き止まりもなく、どこまでも人を呑み込んでいく魔の空間……それこそ、ここが『魔場』などと呼ばれる由縁なのだと。
「一応、この先に行けば目的の石は採れるポイントなんだけど、なにせ希少なレア物だからね。一つのポイントで採れるのも、一回の鍛冶ですぐ使いきっちゃうくらい。しかもそのポイントも目に見える特徴とかもないから、普通に見つけるのはほぼ無理。大神君の指輪を作った時も、お父さんが十日くらい『魔場』に引きこもってようやく見つけたくらいだもん」
さらに、乙女の話した石に関する話で一同はさらに絶望する。この『魔場』のことを最も知っているであろう匠でさえ、十日も籠らなければ見つけられないほど希少な石。人手があるとはいえ、ほぼ全員が採掘と洞窟探検には素人レベル。見つけるのは、それこそ奇跡でも起きない限り不可能である。
「オ、オイオイ! まさかオレたちもこんな洞窟に籠って掘らなきゃいけねーのかヨ! オレはゼッテー嫌だゾ! なんで優のためにそこまでしなきゃいけねーんダ!!」
「私は大丈夫だよ? むしろ、この薄暗い洞窟に優君と二人きりなら……うふ、うふふふ……」
「二人きりじゃないだろうが。そして今のを聞いてオレも帰りたくなったぞ」
「アハハ、冗談冗談。……じゅるり」
「冗談に聞こえない音が聞こえてきたんだが」
ネガティブな情報ばかりを与えられ我慢できなくなったのか、刻は怒りを露わにした。そんな刻とは対照的にこの状況すら楽しんでいる様子の乙女だが、そんな乙女を見て優はひっそりと二、三歩後退っていた。
「大丈夫、大丈夫。ポイントはすぐにわかるからさ」
「は……?」
満面の笑みを浮かべながら、先ほどとは正反対のことを乙女は口にする。確かに彼女は先ほど、ポイントを見つける特徴は無いと言っていた。だが、彼女は今、確かに言った。「ポイントはすぐにわかる」……と。
「……ポイントに特徴は無いんじゃなかったんですか?」
「
「目に見えない特徴……?」
「そ。はい、じゃあ刻君」
「ア……? オレ?」
矛盾した発言をする乙女に不信感が込められた視線を向ける大神だったが、乙女は平然と「目に見えない特徴ならある」と答える。それでも話の先が見えずに頭を悩ませる大神。
しかし、そんな大神をよそに、乙女は怒りを露わにしていた刻を呼ぶ。そして、唐突に彼に言った。
「『磁力』であの分かれ道の先、全部調べて」
「ハ?」
「ほらほら、騙されたと思って」
「イヤイヤ……急に言われても意味がわから──」
「い・い・か・ら」
「……ハイ」
『磁力』で道の先を調べるよう話す乙女に対し、刻は訳が分からず反論する。しかし、有無を言わさない迫力の乙女の笑顔に圧倒され、刻は仕方なく道の先の方向へと掌を向けた。
──キィィン
「…………ア?」
「どうしたのだ? 刻君」
道の先にあるであろう
「ほんのわずかだが……ココだけ磁場が他と違うナ。数値にしたら1%にも満たねぇくらいだが……」
「オッケー。じゃあ、その道だね」
「オ、オイ!」
『磁力』を操る刻だからこそ気付くことができたほんのわずかな違和感。そうして探り当てた一つの道に、乙女は何の迷いもなく進み始めた。唯一の案内人である彼女と別行動をとるわけにもいかないため、他の者たちも急いでその後を追う。
すると、乙女は歩きながら振り向いた。
「さ、こっからは遊騎君だよ」
「はにゃ?」
「今から諸々と説明するからさ、ちょっと周りの反響音を聞いといて。私の声の」
「……なんでや?」
「大丈夫。ちゃんと説明するから」
「……わかったわ」
刻に続き、遊騎にも異能を使っての探りを依頼する乙女。「説明する」という乙女の言葉を信じ、遊騎は両耳に手を添えて周囲の壁にぶつかって反響する乙女の声に歩きながら集中し始めた。
「……それで? 刻と遊騎の行動にはどんな意味があるんだ?」
「もちろん、石を見つけるためだよ」
素直に乙女の言葉を信じた遊騎を見ながら、優は乙女に説明を求める。対して乙女は、歩くペースを特に変える様子も無く説明を始めた。
「私たちが捜している石……『
「『青ノ不灰石』……」
「変な影響……というのは?」
「まずは周囲一帯の磁場を狂わせること。といっても、それはほんのわずかなレベルだから普通の機械じゃ気付けない。敏感な感覚を持ってる人間じゃないとね」
おそらく、これが先ほど刻に『磁力』で探らせた理由。機械では気付けないほど微々たるレベルでの磁場の違いに気付ける人間……つまり『磁力』を操る人間にしか、どの分かれ道の先に目的の石である『青ノ不灰石』があるかはわからないということだ。
「といっても、その狂わせる範囲も結構広いから磁場の違いだけじゃピンポイントで捜せない。だから今度は……『音』が必要なの」
「……あったで」
「え?」
突然の遊騎の呟きに、全員がその足を止めて遊騎を見た。すると遊騎はスタスタと一人で歩き出し、壁の前で立ち止まった。
そして、その壁をコンコンと叩きながら他の者たちの方に振り向いた。
「ここだけ少し変な風に反響してきたわ。せやから、多分ここや」
「おお! 結構近くにあったね!」
遊騎の報告を聞いて、乙女は笑顔でその壁へと近づいていく。目に見える特徴は無いというのは本当のようで、その壁も他の壁も特に違いは見られなかった。それでも、乙女は遊騎の耳……『音』の異能を信じており、目的のモノが見つかったことを喜んでいた。
「じゃ、後は優君の番だよ」
「……オレの?」
「そ。優君の『脳』を使って、この壁を砕くの。多分、それが一番手っ取り早いし」
「……わかった」
「ちょっと待ってね? 今、鶴嘴とか出すから」
「いや、必要ない」
乙女からの指示を受けると、優はゆっくりとその壁の手前へと移動していく。それと同時に、他の者たちはその場所から一定の距離をとる。自分以外の全員が離れたことを確認すると、優はゆっくりと呼吸を整え……ゆっくりと構えた。
「拳があれば……十分だ」
静かな呼吸を繰り返しながら、優は『脳』で自身の身体能力を解放する。常人では扱いきれない程の力をその拳に溜め、集中力も極限まで高めている。
「…………」
集中している中で、ここまで辿り着くまでの過程を思い出す。王子、平家、刻、遊騎……そして、おそらく大神の『青い炎』はこの先で必要になってくる。
一度は自分の失態で失った武器のため、彼らはここまで協力してくれた。彼らだけではない。乙女も、匠も……自分のために手を貸してくれたのだ。
「──みんな」
彼らの力を無駄にはしない……そう心に決めた優の拳に、より一層の力が宿る。
「ありがとう」
──ドンッ!!
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─────
──
「燃え散れ。」
──ゴォ!
大小様々な大きさの石に対し、大神は『青い炎』で燃え散らそうとする。しかし、それらの石はいつまで経っても灰になることは無く、その身に『青い炎』を灯し続けていた。
「──ピッ」
「オッケー。本物の『青ノ不灰石』……だってさ」
「ああ……今のはオレらもなんとなくわかったワ」
『青い炎』でも燃え散らない様子を見て、匠は吹き戻しを吹くと同時に両手で丸を作ってみせた。そのジェスチャーのおかげで、刻たちにも持ち帰ってきた
あの後、優の一撃によって砕かれた石を一人ひとりができる限り持ち帰り、なんとか無事に『天下一品』まで戻ってきた。そして、本物であるかどうかを確かめるために大神が『青い炎』を灯してみせた……というわけだ。
「これだけあれば足りる?」
「ピッ」
「そっか。よかった、よかった」
「で、ではついに『斬空刀』が完成するのですね! よかったですね、夜原先輩!」
「……ああ」
「な~に照れてんだヨ。さっきみたいに素直になれって。『みんな、アリガト~』ってさ」
「殴るぞ」
量も問題ないことを確認すると、一同は改めて安堵の息を漏らす。後は『斬空刀』が完成するまで待てばいい……と思っていた。
「……一つだけ聞く。優、お前は『斬空刀』が完成したとして……何のためにその刀を使う?」
安心しきっていた一同の間に、ピリッとした緊張感が一瞬のうちに流れる。見ると、吹き戻しを外した匠が鋭い視線を優へと向けていた。まるで優を試しているかのように……これから完成するであろう
「…………」
匠の鋭い視線に対し、優は逃げることなく真正面からその眼をジッと見た。気を抜けば圧倒されそうなその迫力を前にし、彼は大きく息を吸ってから……答えた。
「……この『青ノ不灰石』は、オレ一人じゃ決して手に入れることはできなかった。『コード:ブレイカー』の皆がいたからこそ、手に入れることができた。ならオレは、彼らと同じ『コード:ブレイカー』として、裁くべき“悪”を裁くために……その力を使います」
「…………」
優の答えに対し、匠は何も言わない。しばらく優の顔を見つめたかと思うと、急にフイッと背を向けて歩き始めた。答えを間違った……その不安と緊張感が漂い始めた────その時だった。
「──この石は扱いが難しい。『斬空刀』が完成するのにも相応の時間が必要になる。完成するまで、お前は『コード:ブレイカー』で在り続けることだ。……無事に完成したら、すぐに伝える」
「……よろしくお願いします!」
その言葉を最後に、匠はそのまま部屋から出ていった。彼には聞こえないかもしれない……それでも優は、深々と頭を下げた。そして同時に、緊張の糸が解けたようにワッと歓喜の声が溢れる。
「おめでと~、優君! お祝いのハグ! 後でお祝いのキスもあげる! そしてぜひお祝いに一夜を共に──!」
「一個たりともいらん!! さっさと離れ──アーッ!!」
「なーに遊んでんだカ……」
すっ飛んできた乙女にくっつかれたことで悲鳴を上げる優。そんな二人の様子を、他の者たちはあきれ顔で眺めているのだった。
しかし、ただ一人……桜だけは満面の笑みを浮かべていた。そんな彼女の表情に気付いた大神は、ポツリと呟いた。
「……よかったですね」
「ああ! 本当によかったのだ!」
復讐のために自らの全てを捨てた優……彼はこれからもその目的のために“悪”を裁き続ける。それを良しとしたわけではないが、今の彼は以前の彼とは違う。仲間の存在を受け入れ、一人ひとりを信頼している。そして、おそらくそれは他の『コード:ブレイカー』たちも同じ……そう感じていた桜は、屈託のない笑顔を向けた。
しかし、彼女はまだ気付いていなかった。
その仲間という存在がすでに崩壊していることを。
これから起こる逃れることのできない新たな闘いの幕開けは……すでに始まっているのだと。
はい、以上です
前回訂正した指輪の件ですが、やっぱり『捜シ者』が渡したっていうのが一番しっくりきたので『捜シ者』が渡したということにしました
とりあえず手袋をお守りとして渡して、その後に指輪を渡したということになっております
ガタガタですみません
次回からはまた原作ストーリーなので少しは投稿も早くなるかと思います
それではまた次回、よろしくお願いします