CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

98 / 112
前回の話を投稿してからすでに二か月……
時の流れの速さと自分の文章力のなさに引いております
投稿ペースも遅い、中身も薄い……そんな駄作で本当に申し訳ないです
そして今回でオリジナル展開は終わりと言っていた癖に、終わらせられないという計画性の無さ……
そんな今回です、どうぞ





code:77 『魔』の石

 乙女と匠……優の過去を知る二人の存在。

 優の家族に起きた悲劇と、彼と『狂った透明人間(クレイジー・ステルスマン)』の間の因縁。

 そして、優の刀である『斬空刀』が未完成だったという事実。

 

 

 

 

 

 たった一日を思い返してみても、多くの優に関する事実が明らかになった。今まで優自身が話そうとしなかったこともあれば彼自身も知らなかったこともあり、優を含めた全員が衝撃を受けた。

 そして、そんな激動の一日を乗り越えていった彼らは今……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あー……気持ちえ~わ~」

 「疲れが吹き飛ぶようですね」

 「イヤ~……しっかし信じらんねぇよナ~。まさか家に温泉があるとは思わなかったワ」

 そう……彼らは今、温泉へと入っていた。

 といっても、別の言い方をすれば乙女宅の浴室なのだが。

 「ただのボロ屋だと思ってたけど、中々いいモンだな」

 「ウチの風呂より狭いけど、めっちゃ気持ちええわ」

 「天宝院グループ社長の自宅と比べたら狭いに決まってるでしょう……」

 遊騎は狭いと言っているが、一般的な家庭の浴槽と比べたらかなり大きめだった。その証拠に、彼ら三人が一緒に入っていてもまだ少し余裕がある。さらに、浴室や浴槽も木で作られているため木の香ばしい匂いが彼らをさらにリラックスさせていた。

 まるでちょっとした旅館のような入浴を楽しんでいると、脱衣所とを隔てる扉がガラリと開き、新たにもう一人が入ってきた。

 「邪魔するぞ」

 「お先にいただいてます」

 「遅いでー、(ななばん)

 「アレ、平家は一緒じゃねーのかヨ」

 「平家さんは後で入るそうだ」

 「あっそ……つーかサ、あの服脱いだらピカピカ光っちまうのにどうやって風呂に入るんだろーナ」

 「知りませんよ……。本人に聞いてください」

 「服のまま入ればええやん」

 「服はさすがに脱ぐダロ……」

 新たに入ってきた優は風呂桶を手にして、そのまませっせと身体を洗い始めた。それに対し、刻は平家がどうやって入浴するかについて気になり始め、一人で悶々と考え始めた。

 そんな刻をスルーする大神は、気付けばこちらに背を向けて身体を洗う優の背中を目で追っていた。そこには、先ほど滝で見たのと同じ……無数の傷痕が刻まれていた。彼が家族の仇をとるために必死の思いで鍛え上げたその証拠とも言える……彼の努力の証である。

 「……こんな身体だから、オレは人前で肌を見せることはまず無かった」

 「……すみません」

 「別にいいさ。滝でも見られたんだから、もうお前たちに隠す必要はない」

 大神の視線に気付いたのか、優は手を止めてポツリと呟いた。素直に謝罪する大神だったが、優はまったく気にしていないような声色で返した。

 「元から隠す必要なんかねーっつの。傷痕なんてどーにも思わねーシ」

 そうして再び手を動かした優だったが、急に刻が話に加わってきた。どうやら考え事はひとまず終わったらしい。

 「ま、そんなボロボロになるまでテメーを鍛えた奴には興味あるけどナ。……予想はつくけどヨ」

 「……オレの師匠は、匠さんだ」

 優の返答に刻は「やっぱりナ」と、百も承知と言いたげな表情で呟いた。すると、彼は浴槽の端まで移動してそのまま背中を預けた。

 そして、スッと細めた眼を優へと向けた。

 「アイツ、いったい何者なんだヨ」

 「……どういう意味だ?」

 「言葉のまんまの意味だろーガ。人間離れした身体のお前を簡単にぶっ飛ばせるわ、“エデン”とも関係を持っているわ…………正直、信じろって言われても素直に信じらんねー印象だ」

 「…………」

 刻の鋭い視線に込められていたのは……疑惑。だが、冷静に考えて見れば無理はない。かつて関わりがあった優以外の人間にしてみれば、突然現れた第三者に他ならない。そんな人間が一般的には知られていない情報を知っていたり、『コード:ブレイカー』である優を上回る実力を持っているのを急に見せられれば、頼もしさより怪しさを強く感じるのが普通である。

 「……大神と遊騎も同意見か?」

 「……まぁ、すぐに信頼はできませんね」

 「“エデン”とつるんでたって話やしな」

 急に話に巻き込まれた大神と遊騎だったが、彼らの口から刻と同意見である言葉が出てくるのにそこまでの時間はかからなかった。特に遊騎にしてみれば、日頃から「嫌い」と言っている“エデン”と繋がりがあったというだけで良い印象は持てないのだろう。

 「…………」

 自分以外の誰一人として匠のことを信用しようとしない状況に、優は静かに息を吐きだした。

 そこでちょうど自身の身体を洗い流すと、彼はそのまま立ち上がった。そして、その身体を大神たちの方へと向き直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なら、しょうがない。そこはお前たちの好きにすればいいさ」

 「……エ?」

 淡泊としか思えない言葉を言ったかと思うと、優はそのまま湯船に入る。四人目が入ったことで少しだけ狭く感じるようになった湯船の中で、刻はポカンとしたまま間抜けな声を出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……そんだけ?」

 「悪いか?」

 「イヤ……普通この流れだったら『お前らは知らないだろうが』とか『あの人の何がわかるー』とか言って昔のエピソードとか語るとこじゃねーノ?」

 「話すようなエピソードはない」

 まさに拍子抜けといったような様子で予想していた反応を語る刻だったが、それでも優は何も変わらない。話しながらタオルを畳んで頭に乗せて、温泉気分を味わっている。いや、実際に温泉なのだが。

 「……お前、もしかしてアイツのこと嫌いなワケ?」

 「バカ言うな、あの人には感謝しかしていない。ただ、オレが匠さんをどう思っていようとお前たちには関係ないだろ。それとも、オレがそれっぽいエピソードを話せばすぐに信用するのか?」

 「そりゃ……すぐに、は無理だろーけどヨ」

 刻の言葉に「だろ」とだけ返すと、近くにあった風呂桶をバスケットボールのように指先で器用に回してみせた。明らかに遊んでいるその態度を見れば、彼が本心のままを言葉にしているということは夜原優という人間の性格を知る者ならばすぐにわかった。まぁ、意外とは感じるだろうが。

 するとそれを察してか、優は風呂桶を回しながら呟いた。

 「結局、人と人の信頼関係なんて時間の問題だからな。オレにはあの人を信頼できるだけの時間はあったが、お前たちにはまだそれだけの時間がなかった……それだけだ。あの人が信頼できるかどうかは、これからお前たち自身が決めればいい」

 決して大神たちに匠の人間性を説いたりせず、個人の問題として話す優。一見すると冷たくも見えてしまうが、別の味方をすれば優の匠に対する信頼の高さを表しているようにも見える。匠という人物の人間性を信じているからこそ、それをどう思うかは個人の自由……そういうことなのかもしれない。

 「……まぁ」

 ふと、優の態度が変わった。回していた風呂桶を軽く上に飛ばしてからキャッチしたかと思うと、どこか遠い目をしながら……彼は噛み締めるように呟いた。

 「家族を亡くして絶望しきっていたオレを、あの人はずっと面倒を見てくれた……それだけは、わかっていてもらいたいかもな」

 「…………」

 その言葉を聞いただけで、彼の中にある匠に対する言い表せないほどの感謝の気持ちが伝わってくるようだった。そして、優にとって匠は師匠であると同時に、親代わりでもあるということもわかった。そんな彼ならば、ここまでの信頼を置いているのも納得できる。

 「……ま、あなたの言う通りですね。あの人が信頼できる人間かどうかはこれから判断すればいい。あなたの話を含めて、ね」

 「せやなー」

 「つっても、そんな会うことはないだろうけどナ。こんな山奥まで何度も来たくねーシ」

 今のやり取りで、彼らの中で匠に対する疑惑が消えたかはわからない。それでも、少しは彼に対する評価や見方が変わるかもしれない。まぁ、それは彼ら個人の問題なのだが。

 「……あぁ、そうそう」

 すると、そこで優が思い出したように口を開いた。何事かと思った大神たちが視線を向けると、優は持っていた風呂桶についた水分をタオルで拭きながら話し始めた。

 「さっき信頼関係は時間の問題なんて言ったが……例外(・・)がいることを忘れていた」

 「……例外?」

 「ああ」

 と、その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ガラッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 「優く~ん! 一緒には──」

 ──ゴッ!!

 「」

 タオルを巻いた状態で入ってきた乙女の顔面に、優が投げた風呂桶が直撃する。彼女は呻き声一つ上げることなく、そのままパタンと倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「コイツだけは何年経とうが信頼できそうにない。人が風呂に入るといつもこうだからな」

 「……た、大変ですね」

 その後、倒れた乙女は匠が回収していったため、彼らは問題なく風呂から上がった。ちなみに、この回収すらもいつものこととのこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────

 

 ───────────────────────

 

 ─────────────

 

 ─────

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ピッ」

 「おはようございます、匠さん」

 「おはよう優君! 昨日は、激しかったね……♪」

 「お前が夜中に忍び込もうとしたからな。激しく叱って柱に縛りつけたな」

 翌日、朝食を終えた彼らは匠の仕事場に集まっていた。朝の挨拶を済ませる中、何やら気になるやり取りもあったが他の者たちも少しは慣れたのだろう。誰一人としてツッコむことはなかった。

 「……それで、集まったのはいいんですけど何をするんですか? そもそも、なぜ優の刀を完成させるのにオレたちが必要なんですか?」

 「ピッ、ピピピピーピッ」

 「…………」

 「ピピッ、ピピーピピ」

 「いや……わかんねーっての」

 やり取りが終わったところで、こうして大神たちまで呼ばれたことへの説明を求める大神。思えば、彼らがこうして『天下一品』までやってきたのは平家の思惑があってこそだ。ずっと追及せずにいたが、彼はここに到着した時、乙女に対して確かにこう言った。父親……匠に頼まれて大神たちを連れてきた、と。

 それに対する説明を本人である匠に求めたのだが……彼は吹き戻しを咥えたまま話しているため、大神たちには何のことだかわからない。刻が呆れ顔でツッコんでいると、乙女が匠の隣に立って通訳を始めたのだった。

 「理由は簡単、君たちがいないと真の『斬空刀』は完成しないから。正確に言うなら……君たちの異能(・・)が必要。……だって」

 「……異能が?」

 「ピッ」

 コクリと頷く匠に対し、刻は「ハッ」と呆れたように鼻を鳴らす。そして、わざとらしく頭をかきながら口を開いた。

 「それってつまり、『この刀に全員の異能を込めろー』ってコトかよ。アッホらし。ファンタジーとかゲームの世界じゃねーんだゼ? そんなんで刀ができるわけ──」

 「もちろん、そんなことはやらないよ。ていうか、やったところで刀が壊れるだけだしね」

 間髪入れずに刻の言葉を肯定する乙女。ならばどうするのか……誰かがその疑問を口にするよりも先に匠は乙女へ吹き戻し越しの言葉を伝える。

 そして、彼女はなんの戸惑いもなく、彼らにその方法を伝える。

 「とりあえず今から…………洞窟探検ね!」

 『……は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、私は留守番してるから頑張ってきてね~」

 『……は?』

 「いかにも、同じセリフなのに怒りと威圧感を感じるんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────

 

 ───────────────────────

 

 ─────────────

 

 ─────

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「というわけで……ここが我が『天下一品』専用の採掘場! その名も──!」

 「ちょっと待てェ!」

 「えー!? 何か言ったー!?」

 「だーかーらー!!」

 その後、特に詳しい説明もなく乙女に外へと連れ出された一同は、『天下一品』専用の採掘場とやらに来ていた。しかし、そこは採掘場と言われてもすぐには信じられない場所だった。だからこそ、また刻が叫んでいるのだ。

 なぜならそこは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ドドドドドド!!

 「ここってどう見ても採掘場じゃなくて()だろーガ!!」

 「採掘場だよー! 滝でもあるってだけー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、彼らが今いるのはまさに昨日、匠に殴られた優が打たれ続けていたあの滝だった。急に洞窟探検と言われたかと思えば滝に連れていかれ、挙句にそこが採掘場だと言われた刻たちはもはや乙女と匠が何をしたいのかすっかりわからなくなっていた。

 「オイ、優! ちゃんと説明しろヨ! ここが採掘場ってどーゆーことだヨ!」

 「……オレだって知らない。そもそも、採掘場があるって話自体が初耳なんだ」

 ──ドドドドドド!!

 「アー!? 聞こえねーヨ!!」

 「知らねぇって言っている!!」

 もはや大声を出さないと何も聞こえないほど滝に近づいている一同だったが、どこからどう見ても滝である。採掘場や洞窟があるとは思えないし、ここに土地勘がある優ですら知らないというのだ。彼らにしてみればすっかりお手上げ状態だった。

 「ハイハイ、イライラしない! 答えはすぐにわかるよー! ってことで泪ちゃん! お願い!」

 「ちゃ、ちゃん!?」

 「『影』であの滝、止めて!」

 「ハ、ハァ!? いきなり何を──!」

 「いーいーかーらー!」

 唐突過ぎる乙女からの“お願い”に、突然のちゃん付けに照れる暇もなくなった王子。何をしたいのか問い詰めようとするが、乙女はまるで聞く耳を持とうとしない。

 こうなっては仕方がない。会ってまだ間もないが、こうなった乙女はテコでも動かないというのは王子もなんとなく感じ取っていた。

 「──ったく、しょうがねぇな!」

 ──ギュオ!

 まさにヤケクソとばかりに、王子は滝に向かって手を伸ばす。それと同時に、彼女の『影』は形を変えてその方向へと飛び出していった。

 そして、次の瞬間──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──パァン!

 半円を描くように広がった『影』は、その内部へと滝の水が浸入することを見事に防いだ。そうして滝の一部分が露わになったことで……彼らはようやくそれ(・・)を発見することができた。

 「あ、あれは──!?」

 ちょうど滝によって隠れていた岩壁……そこにある、歪な形ながら確かに開いている空間。それはまさに、“洞窟”と呼ぶにふさわしいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「『天下一品』専用の採掘場……『魔場(まじょう)』にようこそ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「フラッシュ・ザ・ワールド!!」

 ──ピカァ!!

 「お~、さすが平家」

 「いえいえ、それほどでも。これで先に進めそうですね」

 王子の『影』を使って滝を止めるという意外な方法で採掘場……『魔場』へと入ることができた一同。しかし、そんな彼らを襲ったのは圧倒的な暗闇。ライトや火で照らそうとしても、その深すぎる暗闇のせいでほとんど灯りとしての役割を果たせなくなるほどだった。

 だが、『光』の異能を操る平家にしてみれば些細な問題。特製の制服をはだけさせたことで漏れ出た彼の『光』は、『魔場』を支配していた暗闇を一気に振り払った。

 「初めてコイツがいてよかったって思ったゼ……」

 「初めて……? 刻君……その言葉は聞き捨てなりませんねぇ?」

 「じょ、冗談だってノ!」

 「…………」

 相変わらず緊張感を感じない刻と平家のやり取りを聞き流しながら、大神は『光』に照らされた一帯をぐるりと見渡す。見た感じは特に何の変哲もない、「洞窟らしい洞窟」という印象だった。壁と天井の役割を果たすごつごつとした岩壁に、独特のひんやりとした空気。もう少し奥に進めばコウモリが大量に出てきてもおかしくはない。

 「……『魔場』なんて名前の割には、案外普通な洞窟ですね」

 「そりゃあね。ここが『魔場』って呼ばれているのは、見た目とか危険度とはまったく別の話だから」

 「油断したら死ぬけどね」と平然と歩きながら付け足す乙女。そのことには誰もツッコもうとはせず、黙って彼女の後へと続いた。『光』でなければ照らせないほどの暗闇……常人なら、少しでも奥に進めば二度と帰ってこれないだろう。

 「ここが『魔場』なんて呼ばれているのは、ここで採れる石たちが原因。この辺はまだ入り口だから()と変わらない石が採れる。でも奥に進めば進むほど、この世のものとは思えない……それこそ、()法とか()界のものなんじゃないかって思えてしまうような石が存在している。そんな石たちが採れる、世界規模で見ても唯一の場所……それがこの『魔場』」

 「この世のものとは思えない石……?」

 急にオカルトチックな話になり、桜は思わず首を傾げる。たしかに、急に「この世のものとは思えない」と言われたところで何も思い浮かびはしないだろう。

 それは乙女もわかりきっているようで、「そ」と相槌を打つと歩きながら話し始めた。

 「砕くと一瞬だけ七色に光る石とか毎晩三時になると叫び声みたいな音を出す石、持ってるだけで幸運になれる石もある。あと水切りをすると二十回以上跳ねる石とか」

 「なんか段々しょぼくなってってねーカ……?」

 「水切りの石、欲しいわー」

 にわかには信じがたい効果(?)を持つ石たちに関する話に、刻は明らかな疑いを持った目で乙女のことを見ていた。まぁ彼に限らず、遊騎を除いた全員がそうなのだが。

 「……で、今回私たちが採ってくる石はその中でも希少中の希少。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『青い炎(・・・)でも絶対に燃え散らない石(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 「な──!?」

 その言葉を聞いた瞬間、乙女以外の全員があまりの衝撃にその足を止めた。これまで幾度となくあらゆるものを燃え散らしてきた大神の『青い炎』……かつて『コード:エンペラー』が操り、一度つけば他の異能でも消し去ることができないというその『青い炎』でも燃え散らない石の存在を知らされたのだ。驚くのも無理はない。

 しかし、一人だけはまったく違う感情を抱いていたのだが。

 「テメェ、テキトー言ってんじゃねーぞ!? この『コード:エンペラー』様の『青い炎』で燃え散らせないものがあるわけねーだろうが!!」

 「オ、オイ! 今まで大人しくしてたくせに急に出てくんじゃねぇ!」

 「うっせー! テメーは黙ってろ!」

 『青い炎(自分)』に燃え散らせないものがあると言われ、怒り心頭といった様子で出てきた『コード:エンペラー』。『天下一品』に到着してからずっと出てこようとはしなかった彼だったが、さすがにプライドが傷つけられたのだろう。

 「…………」

 「お、乙女さん……! その、これは違うんですよ……! 今のは手品というか──!」

 「ああ、大丈夫。『コード:エンペラー』さんでしょ? お父さんから聞いてるよ」

 「ッ……!?」

 突然現れた『エンペラー』をジッと見つめる乙女に気付き、大神はとっさに『エンペラー』を隠してなんとか誤魔化そうとする。だが、彼女は特に驚きもせずにそれ(・・)が『コード:エンペラー』であることを見抜いていた。異能の存在を知っているのはまだしも、『コード:エンペラー』の存在まで知っているという事実……乙女と匠(彼ら)が持っている情報量に、大神は思わず息を呑んだ。

 「ねぇ、『エンペラー』さん。今のあなたはまだ目覚めたばかりだから覚えてないかもしれないけど、かつてのあなたでも燃え散らせないものが確かにあるんだよ」

 「だーかーら! テキトー言うんじゃねー! この『エンペラー』様に燃え散らせないものなんてあるわけが──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──指輪」

 「あ!?」

 「大神君が左手親指にしていた指輪……今から採りに行くのは、それに使われた石なんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お、大神のあの指輪に──!?」

 続けて語られた乙女の言葉に、桜たちは再び衝撃を受ける。『エンペラー』の目覚めと共に砕け散った大神の指輪……あれに使われた石こそが、今から彼女たちが採りに行く石なのだという。

 だが、その事実と今までの乙女の言葉を合わせて考えてみると……今まで明かされていなかった一つの真実が浮かび上がってくる。

 「お、おい……。ちょっと待て……。たしか、ここで採れる石って他では採れないんだろ……?」

 「ついでに言うと、その石に手を加えたりできるのはウチのお父さんだけ。他の職人さんたちはそんな石の存在すら知らないだろうね」

 すると、その真実がいち早く気付いた王子が目を見開きながら乙女に尋ねる。そうして返ってきた乙女の返答を聞いて、彼女の眼には確信の色が宿った。

 「じゃ、じゃあやっぱり……」

 「王子殿? いったいどうし──」

 そして、彼女は確信へと変わった真実を口にした。

 「材料の石はここでしか採れない、そして加工できるのも一人だけ……。だったら、浮かび上がってくるのは一つだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 零のあの指輪は『天下一品』で作られた……ってことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 




以上、予定を変更して終わらせられなかった今回でした
大神の指輪については原作でもどこから来たとか誰が作ったとかは特に描かれていなかったので、思い切って出してみました
その上で訂正ですが、71話目で指輪は『捜シ者』から貰ったなんて書いてあったのですが、大神が『捜シ者』から貰ったのはあくまで手袋だけなので私の思い違いでした
本文の方も訂正します

さて、次回は前半に大神の指輪についてと石採掘について
後半は刀を打ってもらってそのまま帰る予定です(今度こそ予定通りに行けばいいですが……)
ではまた次回、よろしくお願いします



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。