CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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最近、家にいるとすぐ眠くなるのがちょっとした悩みです
そしてとっくに成人してるくせにウルトラマンにドハマりしてる最近です
ウルトラマンジード格好いいっす
以上、本編とは一切関係がない作者の近況報告でした

では、本編どうぞ!





code:76 理不尽な不幸が始まりを呼ぶ

 「はーち……きゅーう…………じゅう! もういいかーい?」

 「もういーよー!」

 「よーっし! どこだー!」

 都内に建つ二階建ての一軒家、その中で無邪気な表情で遊ぶ幼い少年。特に珍しい光景ではない、どこにでもあるような平和な光景。

 「こら! 遊ぶのはいいけど家の中で走らない!」

 「はーい!」

 「ハハハ、本当に元気だなぁ」

 台所に立ち食事の準備をする母親と思われる女性からの言葉に手を挙げて答えながら、少年は隠れた遊び相手を捜す。そんな少年の様子を見て、ソファに座る父親と思われる男性は静かに笑みを浮かべる。

 そして、それから数分が経つと……

 「(ひかる)、みーっけ!」

 「みつかった~……」

 少年がもう一人の少年を連れて母と父のいる空間まで戻ってきた。もう一人の少年は少年よりも幼く、どこか少年と似た顔つきをしていた。二人はそっくりな笑顔を浮かべながら、父が座っているソファへと向かっていった。

 「お父さん! 光の奴、お父さんとお母さんのベッドの下に隠れてたんだよ!」

 「あんな狭い所によく入れたな、光」

 「だって他に隠れられるところ無かったんだもん」

 父の隣まで移動し、先ほどと変わらない無邪気な表情で話す二人の少年。父も嫌な顔などせずに少年たちの話に頷き、答えている。そのまま他愛ない話が続くかと思った……その時。

 ──グ~

 「あ、お兄ちゃんお腹鳴った」

 「お母さん、お腹空いた~」

 「あれだけ動いたんだから当たり前でしょ? ……はい、できた」

 空腹を知らせる音が鳴ったことで、二人の話す対象は父から母へと移る。そんな少年たちに対し、仕方なさそうな表情を浮かべる母は、作っていた物を完成させて皿へと移す。

 そして、二つの皿を持って少年たちと父の元へと向かっていった。

 「はい、おやつのホットケーキ。今日のは自信作よ」

 「やったー! いただきます!」

 「いただきます!」

 「って、こら! 食べる前に手を洗ってきなさい!」

 「ハハハ!」

 まるで、絵に描いたような幸せな家族。誰が見ても「満たされている」と感じることができる、それでいて一般的な家庭の姿。これは、確かにかつて存在していた日常の風景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、現在は当時の名も失った少年……夜原優の過去に、確かに存在した真実である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ドドドドドドドド!!

 「優君の家は、特別変わったことはない普通の家だった。専業主婦のお母さんに仕事熱心なお父さん、そして光って名前の優君にそっくりな弟……どこにでもあるような、普通の家族」

 近づくだけで耳がどうにかなってしまいそうなほどの轟音を放つ滝がなんとか視界に入るくらいの位置で、乙女はその滝に打たれている優の過去について静かに語り始めた。

 だが、その内容は乙女本人が言うようにあくまで普通の家族の話。探せば同じような家庭などいくらでも出てくるだろう。そこには、確かに特別などなかった。

 「……ま、普通と違うところがあるといえば優君が異能を持っていたことかな。そして、両親も異能の存在を知っていたこと」

 「異能を知ってたってことは……まさか」

 「そ。仕事熱心なお父さんがやっている仕事は“エデン”の研究者。主に異能関係のね。ちなみにお母さんも元々は同じ。だから『脳』っていう不安定な異能を持っていても、優君は生きることができた」

 優が持つ異能……『脳』は扱い方を知らなければ自分自身を取り返しのつかないレベルまで傷つけてしまう諸刃の剣とも呼べる異能。現に彼は、幼少時代には幾度も傷ついては治りを繰り返してきたと大神たちに話したことがある。まさに生き地獄と呼ぶにふさわしい壮絶な経験だが、彼がそれを乗り越えることができたのは彼自身の気力と、乙女が言うように両親のおかげだった。

 もし異能の存在も知らない者が親ならば、自身の子どもの異常に恐怖を抱くだろう。それこそ、育てることを放棄してしまうほど。しかし、優の両親がそれをしなかったのは彼らが“それ”が異能であると知っていたから。そういう意味では、優は恵まれた環境で育ったと言える。

 「ちなみに、優君のお父さんとウチのお父さんは“エデン”での関わりは関係なく昔からの知り合いなの。よく皆で遊びに来てたし、優君と知り合ったのもそこから。そして、愛し合ったのも……」

 「その辺の話はしなくていいです」

 「ちぇ」

 そこで初めて、優と乙女の出会いについて明確な答えが明かされた。親同士の繋がりによって知り合ったというが、“エデン”に所属する優の父親と“エデン”に協力する匠が知り合いだったとは、ある意味では奇妙な繋がりである。

 その流れで優との思い出を語り始めようと頬を赤らめた乙女を見て、大神はド直球な言葉でそれを止めた。思い出話を止められた乙女は口を尖らせる。すると、そこで彼女の声が響き渡る。

 「お、乙女さん!」

 「なに? 桜小路さん」

 「え……っと」

 乙女が振り返ると、そこには桜が思い詰めたような表情をしながら立っていた。その表情からは、その胸の内に抱えている言葉をはたして口にして良いのか……そんな思いが感じられた。

 「ッ……そ、その……」

 しばらく口ごもる桜。しかし、それが数秒ほど続いたところで……

 彼女は覚悟を決めたかのように拳を握る。そして、乙女の目をジッと見つめながら口を開いた。

 「夜原先輩のご家族についてはわかりました……。で、でも……今その方たちは……」

 「……もういない。言ったでしょ? 殺された、って」

 「どうして……いったい誰が……」

 「…………」

 話を聞く限り、一部を除いては本当に普通の一家である優の家族。だが、今はその家族は優一人を残して存在していない。さらに、「殺された」という乙女の言葉が物語っているのは……それが誰か他者の手によってもたらされた結果だということだった。

 誰がそのようなことをやったのか……。幸せに満ちていたであろう優の生活の全てを壊した者が誰なのか……桜は目を伏せながら静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、乙女の次の言葉でその目は大きく見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……犯人はわかってるよ(・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 『!?』

 「え!?」

 乙女のその言葉に、桜だけではない。大神たちも大きく目を見開いて乙女を見る。優の家族を奪った人間は誰なのか……その場にいる誰もが乙女の次の言葉に耳を傾けた。

 そしてそれを察してか、乙女はゆっくりと……口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──『狂った透明人間(クレイジー・ステルスマン)』、って聞いたことない?」

 『ッ──!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「クレイジー……ステルスマン?」

 乙女が口にした名前を聞いて疑問符を浮かべる桜に対し、大神たち『コード:ブレイカー』の間には一斉に緊張感が走った。そこから導き出されるのは……『コード:ブレイカー』(彼ら)『狂った透明人間』(その存在)を知っているということだった。

 「大神……お前は知っているのか? その者が、どんな人間なのか……」

 「…………」

 それを察した桜は、近くにいた大神にその正体を尋ねる。大神は一瞬、言うべきか迷っているような表情を見せたが……静かに息を吐き、彼はゆっくりと桜の顔を見た。

 「……オレたちは実際に会ったことはありませんが、話だけなら聞いたことがあります。最低最悪の、稀代の連続快楽殺人犯……それが『狂った透明人間(クレイジー・ステルスマン)』です」

 「連続……快楽殺人犯……?」

 「名前の通り、狂った奴さ」

 真剣な表情で「連続快楽殺人犯」と話す大神に対し、桜はその聞き慣れないワードをすぐには理解できずに繰り返す。すると、大神の言葉を引き継ぐかのように王子がポツリと口を開いた。

 「動機も不明、狙う相手もおそらく奴の気分次第……そんな風に人を殺す。『Re-CODE』として動いていた時も、もちろん『コード:ブレイカー』になってからも……あそこまで狂った奴の話をオレは聞いたことが無い。だが、奴の異常性、残虐性……そういう“悪”らしいところだけで評価するなら、奴は間違いなく『捜シ者』以上の“悪”だ」

 「な──!?」

 『捜シ者』以上、という王子の言葉を聞き、桜の顔は驚愕の表情一色に染まり上がる。世の中を“悪”ばかりと悟り、ならば自身が“悪”の頂点として君臨しようとした『捜シ者』。そこには彼なりの正義の心があったが、その行動の異常性と残虐性は桜もよく知っている。

 しかし、この『狂った透明人間(クレイジー・ステルスマン)』はその『捜シ者』すら超える異常性と残虐性を有しているという。そのような“悪”が何をするのか……桜は想像することすらできなかった。

 すると、そんな桜の胸の内を察してか、乙女が静かに呟いた。

 「──信じられないでしょ? でも、実際にそんな人間がいて、何十……ううん、もしかしたら何百人っていう人を襲っている。そして……優君はそいつに家族を奪われた。それもまだ小学校に上がったばかりの頃にね」

 

 

 

 

 

 はたして、その時の優の胸中にあったのはどんな感情だったのか。

 

 

 

 

 

 「優君が助かったのは本当にたまたま。たまたま学校から帰るのが遅くなったから現場に居合わせなかっただけ」

 

 

 

 

 

 異能という点を除けばごく普通の家庭に暮らす小学生が、ある日突然に家族を奪われた。

 

 

 

 

 

 「だから優君は見ただけ……。血生臭い家を、真っ赤な血の水たまりを……」

 

 

 

 

 

 絶望か、虚無か、悲しみか、怒りか……。

 

 

 

 

 

 「そして……動かなくなった家族を、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 どこか遠い目で語る乙女の言葉を聞き続けた桜からは、もはや反応という反応は返ってこなかった。ただ気付けば……桜の眼は今もなお滝に打たれ続けている優の姿と、その身に刻まれた無数の傷を捉えていた。それらを見ているだけで溢れてきそうになる涙を必死にこらえるように、桜はグッと自身の拳を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……けど、『狂った透明人間(ヤツ)』は無残に人を殺すだけじゃ終わらない。……むしろ、殺し自体は前菜みたいなもんだ」

 「えぇ……殺しだけでは終わらない。本当に胸糞悪いのは……そこから先です」

 「……え?」

 しかし、そこで桜の視線は優から離れる。王子と大神が口にした……明らかな嫌悪感を感じさせる呟きを聞いて。

 人を殺すこと自体を前菜とまで言わせる……そう、『狂った透明人間(クレイジー・ステルスマン)』の真の狂気はそこから先にこそあった。

 「……どういう、ことですか……?」

 「…………」

 何も知らず、その狂気に触れようとする桜。口にして良いものかと、一瞬は口をつぐんだ大神たちだったが……すでに彼女は狂気の一部を知ってしまっている。

 大神は、その狂気の内容を言葉にして伝えた。

 「……『狂った透明人間(ヤツ)』は殺した相手に対して必ずしていることがあります。それが男だろうと女だろうと……子どもだろうと老人だろうと。一人としてそれ(・・)をされなかった被害者はいません」

 「……一体、何を……何をするというのだ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──死体を弄んで自身の性欲を解消させる(・・・・・・・・・・・・・・・・・)んですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………え?」

 大神の言葉を聞いた桜の眼から、完全に光が消えた。想像の斜め上どころか、もはや別次元といってもいいその驚愕の内容に、桜は怒りを覚えることすら通り越して呆然としてしまっていた。

 「死体相手に興奮して()っちまうとか……ホント、ここまで胸糞悪い変態ヤローなんて他にいないゼ」

 「死者に対する冒涜……いえ、もはや冒涜以上の凌辱です。決して許すことはできません」

 「会ったことなんかないけど……ホンマに嫌いやわ」

 「同感だな……」

 常軌を逸した、人としての尊厳も何もかも無視した凶行に対し、それぞれが嫌悪感を示していた。俗に言う裏社会で活動する彼らにここまで言わせるのだ。一般人ならば理解するより先に気分を悪くしてしまうだろう。現に……

 「…………」

 ある程度、裏社会にも触れていった桜ですら今にも意識を失ってしまいそうな様子だった。それでも二本足で立ち続けているのは、彼女の芯の強さのおかげとも言えるだろう。

 そして、そんな桜の視線は……無意識に乙女の方へと向けられていた。

 「……じゃあ、夜原先輩……の、ご家族も……まさか…………」

 「…………」

 搾り出したように放たれた桜の言葉に、乙女は何も答えようとはしない。言葉ではもちろん、頷くことも首を振ることさえもしない。だが、力強く自身の身体を抱きしめている彼女の様子を見る限り、何もなくとも答えが浮かんできてしまう。

 そう、大神が言ったように「それ(・・)をされなかった被害者はいない」……それはつまり────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──そうだ」

 『ッ!!』

 瞬間、今まで会話に加わっていなかった者による肯定の言葉が響き渡る。短いながらも、詰めるに詰め込まれた嫌悪と憎悪が入り混じったその言葉に……一同は大きく目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今でもはっきり思い出せる……。血と死体の臭いに混じって嫌でも鼻に入り込んでくる……吐き気がこみ上がってくる悪臭がな」

 「……夜原、先輩」

 「……滝に打たれながら聞いてたのかヨ」

 「『束脳・反転』で聴力を強化してな。集中すれば目当ての音だけ聞きとることだってできる」

 振り返った桜の眼に飛び込んできたのは、全身から水を滴らせる優の後ろ姿だった。彼はどこからか用意したタオルで身体を拭いており、その様子だけ見ると何も感じていないようにも見える。

 だが、彼らは確かに聞いていた。嫌悪と憎悪が入り混じった彼の言葉を。彼がこちらに背中を見せているのも、おそらく今の自分の顔を見られたくないのだろう。

 ……殺意に満ちた表情を。

 「……ごめんね、優君。勝手に……話しちゃって」

 「…………」

 「許せないならそれでいいよ……。悪いのは、私だからさ」

 背中を見せたままの優に対して、乙女は勝手に彼の過去を話してしまったことを素直に謝罪する。しかし、優は何も言わずに自身の身体を拭き続けている。それが彼女に対する怒りからなのか、許さないという意思表示なのかはわからないが……彼女はそれを見ても言い訳も何もしなかった。

 「ただ私が勝手にしたことだから、ただの自業自得──」

 ──ビチャ

 「──って、冷たっ!?」

 しかし、そんな乙女の言葉は唐突に途切れた。突然の暗闇と水気が彼女を襲い、何が起こったのかと身体を跳び上がらせる。そして、次の瞬間には──

 「……許すも許さないもない。お前が話した方がいいと思って話したんなら……別にいい」

 「……優、君」

 「それでも悪いと思うんだったら、タオル(それ)洗っといてくれ。それでチャラだ」

 先ほどの言葉とは違い、嫌悪や憎悪なんて微塵も込められていない柔らかな言葉。それを乙女にかけていたのは、他ならぬ優だった。自身についた水分を拭いたタオルを彼女の顔に押しつけながら、何も気にしていないことを告げる。

 彼なりの優しさに包まれたその言葉を聞いた乙女は、押しつけられたタオルをギュッと握った。

 「うん……ありがと、優君」

 ふと、タオルから一粒の雫が零れ落ちる。それは握ったことにより絞り出された水分なのか、それとも乙女から流れた水分(・・)を新たに吸い取ったからなのか……いや、どちらでもいいだろう。

 どちらにせよ、そこにマイナスな感情は存在しないのだから。

 「…………」

 「……おい、いつまでも顔につけてると服まで濡れるぞ」

 「ねぇ……これって優君が使ってたタオルなんだよね?」

 「……そうだが?」

 「…………」

 「…………」

 「……パクッ」

 「食うな!」

 「ヂュウゥゥゥゥ……!」

 「吸うなァァァァァ!!」

 「優君の身体を拭いたタオルが目の前にあるのに吸わないなんて選択肢がある!? いいや、無い!!」

 「真剣な顔で言うことじゃないだろうが!!」

 その証拠に、彼らのやり取りは最初に見たのと同じようなものにすっかり戻っていた。……まぁ、常識とはかけ離れた内容だが。

 それでも……

 「……プッ、アハハハ!」

 「……やれやれ」

 「ったく、イチャイチャしてんじゃねーヨ」

 「ホンマ仲良しやな」

 「……仕方ねぇ奴らだ」

 「フフフ……」

 そのおかげで、沈みかけていた彼らにも自然と笑顔が戻った。気付くと、先ほどまで彼らの間に渦巻いていた重苦しい空気は綺麗さっぱり消えてしまっていた。

 「大丈夫! ちゃんと洗っとくから! 一通り楽しんだ後で!」

 「洗っても使えなくなるだろうが! やっぱり自分で洗うから返せ!!」

 「もっと! もっと優君のエキスを!!」

 「やめろォォォォォォォォ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ─────────────

 

 ─────

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──ったく、滝に打たれるより疲れる……」

 「私、今日はご飯いらないかも♪」

 「ちゃんと食え」

 数分後、ようやく満足した乙女は顔をツヤツヤさせながら満足気に笑っていた。その背後には、彼女とは対照的に疲れ切った顔をしながら服を着る優の姿があった。そして、すっかり最初に会った時の雰囲気に戻った二人を大神たちは安心したように眺めていた。

 「…………」

 しかし、その中で一人だけ……王子だけが何やら考え込んでいた。顎に手を添えて真剣な表情を浮かべる彼女は、その真剣な面持ちのまま口を開いた。

 「なぁ、話を蒸し返すようで悪いんだが……優が『コード:ブレイカー』になった目的はわかった。そうなると、“エデン”は対価としてお前に『狂った透明人間(クレイジー・ステルスマン)』の情報を与えている……ってことでいいのか?」

 「……ああ。オレが『コード:ブレイカー』として動いている限り、奴に関する情報があれば逐一もらえるようにはなっている」

 「……ってことは、やっぱ『狂った透明人間(クレイジー・ステルスマン)』は──」

 「その通り、現在も野放しになっている状態です」

 王子の言葉を遮るように、平家が口を開く。いつものように腕を組んだ状態ではあるが、その表情からはどこか怒りに似た感情が感じられた。

 「情けない話ですが……『狂った透明人間(クレイジー・ステルスマン)』は証拠もほとんど残さずに現場を去ります。……唯一手掛かりとしてあるのは、現場に残る彼の体液(・・)のみ。しかし、そこから採取したDNAをいくら検査しようとも一致する人間はどのデータベースにもいない。まさに透明人間……“エデン”も手を焼いている、というのが現状です」

 「そんな……」

 「ですが、奇妙なことにここ数年は彼が起こしたと思われる殺人は起こっていません。国外に逃げたかとも考えましたが、どの国でもそれらしい事件はありませんでした。何か理由があって姿を隠しているのかもしれません」

 「エージェントが捜してはいますが」と付け加える平家の中にあったのは……まさに屈辱。決して“悪”を許さない彼にしてみれば、『狂った透明人間(クレイジー・ステルスマン)』という狂いに狂った殺人者が野放しになっているのが許せないのだろう。いくら事件が起こっていないとしても、何人もの人間を弄んできた人間が平然と生きているのだから。その証拠に、腕を組む彼の手にはかなりの力が込められており、手が触れている部分の制服にシワができていた。

 「……それでも、かつて起こった事件の情報はもらえています。それだけでも助かっていますよ」

 「……ありがとうございます、優君」

 「ピッ」

 「えぇ、わかっています。焦ってもしょうがないですからね……」

 「ピッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 『…………ん?』

 もはや狙っているとしか思えない三度目のこの光景……この後、驚いた刻が絶叫したことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なんでアンタらはこう、気付いたら話に混ざってんだヨ!!」

 「ピッ」

 「気付かなっただけだろう、だって」

 「気付くように来いってノ!」

 会長と乙女同様、気付いた時には話に混ざっていた匠。涙目ながらに抗議する刻を適当にあしらうと、匠は改めて優の方へと向き直った。昔からの知り合いとはいえ、仮にも先ほど殴った者と殴られた者。一瞬にして、ピリッとした緊張感が周囲に漂った。

 「……頭は、冷えたか?」

 「はい。……申し訳ありませんでした」

 「何を謝る?」

 「……自分が未熟だったばかりに、『斬空刀』を折ってしまったからです」

 「当然だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの『斬空刀』は……未完成品(・・・・)だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 『──ッ!?』

 匠の言葉に、優たちは言葉を失う。これまで優が必殺の武器として扱ってきた『斬空刀』が未完成品……誰も予想だにしなかった衝撃の事実に、彼らは息を呑むしかなかった。

 「だが、もう完成させてもいい頃合いだ。……これからの闘いのためにもな」

 「え……?」

 最後に、呟くように言った匠の言葉に桜は首を傾げる。だが、意味深なその言葉の真意を確かめるよりも先に、匠は一同に背を向ける。

 「『斬空刀』を真の(・・)『斬空刀』として完成させる。そして、そのためにはお前たち全員に協力してもらう……『コード:ブレイカー』」

 顔だけ振り向かせた匠の鋭い眼が『コード:ブレイカー』一人ひとりの眼を射るように見る。その眼は、過去や事実を知るだけでは終わらない……彼らも動くべき時が来たことを大神たちに告げていた。

 

 

 




わりとガチな悩みはPS4やモニターなどなどを買ったに加え、新たにハマったウルトラマンのグッズにつぎ込んでしまっているので財布が悲鳴を上げております
まぁ、自業自得ですが

さて、いよいよ明らかになった優の目的
復讐に生きる彼が狙うのは死体に興奮して行為に及んでしまうド級の変態殺人犯
はたして本編に出てくるのはいつになるやら……
今の予定ではオリジナル話はひとまず次回で終わりです
それでは次回、またよろしくお願いします






↓(余談)






この話の投稿日、何気なく引いたガチャで……なんとグリッターティガのカプセルが当たりましたァァァァァ!!(前日に10回やっても当たらなかったのに……)
急にウルトラマンの話題が出たのはそれでテンションが上がったからです、すみません
ちなみに、好きなウルトラマンはティガ、ダイナ、ガイアの平成三部作
一番はダイナ……という、作者のわりとどうでもいい情報でした



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