書く体力もなく気付けばすでに月末
夏なんて、嫌いだぁぁぁぁぁ!
『コード:ブレイカー』である大神たちと、彼らが暗躍する世界を体験しつつある桜。一般人にしてみれば理解の外をいっている世界を経験している彼らにしてみれば、ある程度のことは「あり得ること」として理解できる。
「お、乙女……! 離れろ! 毎回、毎回……来るたびに突っ込んでくるな!」
「やだっ! 優君が中々来ないのが悪いんでしょ! だから私は悪くない! 断じて!」
しかし、そんな彼らでも万能ではない。そう簡単に理解できないことだって当然のことながらある。
「突っ込んでくるのは完全にお前が悪いだろうが! というかさっさと離れろ!」
現に、目の前にある光景がそうだ。
「すー……はー……。すー……はー……。ふふ、ふふふふふふ……! た、たまらん……!」
「人の匂いを嗅ぐなァァァァァァ!!」
なぜ『コード:07』こと夜原 優が、乙女と名乗る一人の女性によってもみくちゃにされているのか……何も知らない者たちは、誰一人として理解することなどできなかった。
「も~、優君ったら照れちゃって。可愛い──なっ!」
「──グ!? ム、ムガ!!」
しかし、事態は置いてけぼりの大神たちを待っていてはくれない。乙女は我慢できないとばかりに、優の頭に真正面から抱きついた。あくまで“頭に”抱きついたので、当然ながら優の頭の位置は乙女の頭の位置より下になる。
つまり早い話、優の顔は乙女の豊満な胸元に完全にうずめられることになる。
「バ、バカ! やめ──!」
「ダメ! 今日は何があっても離さない! だから優君も逃げちゃダメ~!!」
──ギュウウウウウ……!!
離れていても音が聞こえるくらいの力で、さらに優の頭に抱きつく乙女。そうなると、余計に優の顔も乙女の胸にうずめられてしまう。その結果、何が起こるのかというと……
「~~! ~~~~……!」
段々と呼吸することすら難しくなってくるわけで顔も真っ青になる。さらに……
「…………グハッ」
女性と目を合わせただけで真っ赤になって倒れてしまう優が、女性特有の柔らかさに耐えられるわけもない。呼吸困難と女性に対する拒否反応……その二つが合わさって、優の顔はなんとも言えない血色になる。
そして、彼は大粒の涙をボロボロ流しながら気を失うのだった。
「あれ……優君?」
優から力が抜けたことを感じ取った乙女は、何かあったのかと優の頭を解放する。そして、ボロボロになった優の顔を見て、彼女は優に何があったのかを悟った。
「……ああ! 安心して寝ちゃったのか! しょうがないな~、よーしよし」
「」
……否。彼女は何一つ理解しないまま、屈託のない笑顔で優の頭を優しく撫で始める。当の優はそれを拒否することもできないまま、乙女に撫でられながら気を失い続けるのだった。
『…………』
そして、気を失ってはいないが、何が起きているのかわからず放心状態になっている者が大勢。
「お、大神……。私は何が起きているのかよくわからないのだ……」
「……いえ、オレもです」
「な、なんだヨ……。あのセクシー和服美女は……」
「こ、公衆の面前でなんつーことを……!」
「
桜は目を点にし、大神は開いた口が塞がらないまま立ち尽くし、刻と王子はひたすら顔を真っ赤にしていた。その中でも、遊騎はいつも通りといった様子で優と乙女のやり取りを眺めていた。
すると、遊騎と同じく平常運転の人物が何食わぬ顔で乙女へと近づいていった。
「お久しぶりです、乙女さん。元気そうで安心しました」
「え? …………あ、平家。いたの?」
「えぇ、ずっと。相変わらず優君以外は目に入らないんですね」
「当たり前でしょ。私の優君への気持ち……舐めてるんだったら殺すよ?」
「そんな滅相もない。その純粋で大きい、素敵な気持ちを軽視するなんてできませんよ」
「うん、わかってるならよし」
近づいていったことで、ようやく平家の存在にも気付いたらしい乙女。なにやら物騒な発言を織り交ぜられていたが、二人の間にはそれなりの信頼関係があることが伺えた。
「……あれ? ねぇ、平家。あっちは誰?」
平家に気付いたことで、その奥にいた大神たちにも気付いた乙女は首を傾けながら彼らを指差す。すると平家は「ああ」と言うと、そっと自身の胸に手を添えてから話し出した。
「実はお父上から頼まれまして、優君の同業者を連れてきたんですよ」
「……同業者?」
同業者、という言葉を聞くと、乙女は目をパチクリさせて大神たちをジッと見つめた。まるで何かを観察するかのような、何かを見極めようとするかのような……彼女の視線は、それだけ用心深く彼らのことを見ていた。
そして一通り見渡すと、乙女は「ふーん」と呟いてから……続けた。
「じゃあ、あの人たちが今の『コード:ブレイカー』……人見の後輩たちってわけね」
『ッ──!!』
(コイツ、『コード:ブレイカー』のことを知っている……!?)
(それだけではない……。人見先輩のことも……!?)
当然のことのように呟いた乙女の発言により、大神たちの中で緊張感が一気に高まる。一般人ならもちろん、裏の世界でも一部の者しか知らない『コード:ブレイカー』の存在を、彼女は知っていた。さらに、かつて『コード:ブレイカー』のトップである『コード:01』として大神たちを導き、彼らのために自ら“悪”へと堕ちた人見についても知っているようだった。
これまでの行動も十分におかしかったが、この二つを知っているという事実によって、彼女が普通の人間ではないということは誰しもが悟っていた。
「わかった。それじゃあ、居間に行ってて。お父さん呼んでくるから」
しかし、そんなことは気にする様子も無く乙女は立ち上がる。そして、そのまま家の中を指差して中に入っているよう促す。平家はもちろんそれに従おうとしたが……その前にするべきことがあった。
「ありがとうございます。……あと、できれば優君を離してもらいたいのですが」
「は?」
「……ですから優君を離しt──」
「やだ」
立ち上がった乙女……平然としているが、その腕には未だ気を失った優がしっかり抱かれていた。ちなみに優の体重は60kg前後、さらに今は完全に脱力している状態。しかし、乙女はまさに余裕といったような表情で優を抱えていたのだった。
そんな乙女からなんとか優を回収しようとした平家だったが、言葉を重ねるごとに彼女から殺気に似た何かが放たれていた。さらに無意識なのか、否定の言葉を並べるごとに彼女が優を抱く力は段階的に強くなっていった。気を失っているから無言だが、普通なら悲鳴を上げるレベルの力だろう。
「ふむ……それは困りましたね」
すると、平家は目元を押さえながら「やれやれ」といった様子で頭を振った。さすがの彼も諦めたのかと思われた……次の瞬間。
「実は優君、この前の戦いでかなりの重傷を負いました。ですので、無理に動かすと傷が開いて命の危険があるのですが……乙女さんがそれでもいいなら、どうぞそのままで」
「え!? や、やだ! そんなのやだ! 居間に運んで寝かせるから! そしたら大丈夫!?」
「おや、いいんですか? ぜひ、そうしてあげてください」
全然そんなことは無く、彼の巧みな話術により優も一緒に居間へと通されたのだった。
平家の巧みな話術により、優と共に中へと入ることに成功した大神たち。家の中は見た目通り古風な内装で、まるで昭和にタイムスリップしてしまったかのような錯覚に陥りそうになる。
そんな感想を抱きながら畳が敷き詰められた居間に通されると、乙女は「お父さん呼んでくる」とだけ言って大神たちを残してその姿を消した。もちろん、優を畳みの上に寝かせた状態で。そして、まさに乙女が消えた瞬間だった。
「う……」
「……気がつきましたか?」
頭を押さえながら優が起き上がった。あまりにもタイミングがドンピシャなようにも思えたが……大神はそのツッコミを静かに胸の内にしまいこんだのだった。
「大神……? ここは……」
「あの乙女とかいう人の家です。あの人は今、父親を呼びに行ってます」
「……そう、か。…………助かった」
キョロキョロと辺りを見渡して、乙女の姿が無いことを確認する優。そして大神の言葉が真実だと確認すると、とてつもなく深い安堵の息をついた。
そんな優の姿を情けなくも思いながら、大神は小さなため息をついてから腕を組んだ。
「それで……あの人はいったいなんなんですか? あなたの知り合いということはわかりましたが……その他がわからないことだらけです」
「そうだ! なんでテメー如きがあんなセクシー美女に可愛がられてんだヨ!!」
「テメェは黙ってろ」
そして当然のことだが、乙女について尋ね始める。外でのやり取りで、少なくとも彼女と優が知り合いであるということはわかる。だが、それ以外のこと……『コード:ブレイカー』のことや人見を知っていたことについては何もわかっていない。
彼女はいったい何者なのか……大神はそれを探ろうとしていた。……完全に私怨に塗れている刻とは違って。
「…………」
「言っておきますが、ここまで来た以上は『関係ない』は通用しません。なぜあの人は『コード:ブレイカー』や人見のことを知っていたのか……全部説明してください」
「……ハァ。相変わらず、余計なことばかり言う……」
目を伏せて、口を閉ざそうとする優を見て、大神は追い打ちをかけるように彼の逃げ道を無くす。すると、乙女が『コード:ブレイカー』や人見のことを話していたと知らなかった(気絶していた)優は苛立ち気に頭をかいて、大きなため息を漏らした。
「……説明、か。何から話せばいいもんだか……」
「んなもん決まってんダロ! テメーと乙女チャンの関係だ、ゴラァ! 包み隠さず洗いざらい全部まるっと話しやがれ!」
「
「ア、アハハ……」
大神に追い詰められたことで何から話そうかと優が考え始めると、少し暴走気味な刻が感情のままに自身の気になっていることをぶつける。そんな刻を見守る遊騎と苦笑いを浮かべる桜を尻目に、優は静かにその口を開いた。
「アイツ……いや、乙女は…………
オレに『コード:ブレイカー』の存在を教え、オレが『コード:ブレイカー』になるために手配してくれた人間だ」
「え──!?」
静かに語られた優の言葉……だが、その静けさとは対照的に、桜は強い衝撃を受けていた。そして、ほぼ反射的に過去に聞いた話が彼女の脳内で蘇る。
「そ、そういえば先輩はある知り合いに頼んで“エデン”に行って『コード:ブレイカー』になったと前に……! で、では乙女殿がその知り合いなのですか!?」
「そういうことだ」
かつて、優が『コード:ブレイカー』であることを知った時に聞いていた彼が『コード:ブレイカー』になった経緯。当時は話そうとしなかった事実が、まさかのここで明らかとなった。
だが、決してそこで満足してはいけない。なぜなら、肝心な部分についてはまだ微塵も明らかになっていないのだから。
「優……ハッキリ言うが“エデン”はこの国で言うところの暗部だ。その存在を知っている人間っつーのは、どう考えてもただ者じゃねぇ。……それこそ、“エデン”と直接関係がある人間じゃねぇとあり得ない。乙女は……“エデン”の何なんだ?」
「…………」
その部分を見逃すはずもなく、王子は鋭い視線を優に向けながら彼の真正面に立つ。その視線から逃れるでもなく、同じく真正面から向かい合う優だったが、その口は閉ざされたまま。話すことを迷っているのか、それともどう話すべきかと考えているのか。
それを探ろうとすると……二人の間に一つの人影が入り込んだ。
「そのことについては、優君よりは当人
入り込んだ人影……平家はいつものように腕を組んだ状態で、どこか冷ややかな態度を王子に向けていた。だが、すでに慣れたものなのか、王子は気にすることもなく平家の言葉に首を傾げた。
「……当人たち?」
「えぇ……いらっしゃったようですよ」
──ガラッ
平家が居間の戸に視線を向けたのとほぼ同時、その戸が勢いよく開け放たれた。そうして姿を見せたのは、黒を基調とした甚平を着た青年。男性にしては長い灰白色の前髪はピンでバツ印に留められ、留められていない方の髪も赤い鉢巻きによって目元にはかかっていない。
「…………」
だが、何より特徴的なのはその口元。一瞬キセルや煙草のようにも見えるが、その正体は雑貨屋や祭りの出店で売られている吹き戻し。それを咥えた謎の男の登場に、大神たちは思わず息を呑んでいた。
(誰だ、コイツ……。見た目から考えると……乙女チャンの兄貴とかカ……?)
吹き戻しを咥えているからか、何も話さない男をまじまじと眺める刻。その見た目の若さから考えても乙女の兄弟だろうと予想していると、平家は紹介するようにその男に掌を向けた。
「ご紹介します。彼は
「……ハ、ハァァァアァァァアァアァアアァァ!!?」
予想を完全に裏切った平家の紹介に、刻は山全体に響き渡ったのではと思わせるほどの声を放つ。大袈裟なようかもしれないが、少なくとも彼が感じた衝撃はそれ以上のものだったことだろう。その証拠に、今の刻はすっかり腰を抜かしてしまっている。
そんな刻とは対照的に、優は瞬間的に姿勢を正す。そして、深々とその頭を下げた。
「お久しぶりです、匠さん」
「ピッ」
「はい、身体の方はすっかり。匠さんも変わりないようで何よりです」
「ピッ」
「またまたご冗談を。とてもそんな風には──」
「待て待て待て待てェー!!」
優と匠……二人の間で淡々と繰り広げられる会話(?)。本人たちは何気ない様子でしているが、何も知らない者たちから見ればその光景は異常にしか見えない。刻が大声で会話に割り込んできたのもそれが理由だ。
なぜなら優の言葉に対して、匠はただ吹き戻しを吹いているだけなのだから。
「色々待て! ツッコみたいことがめちゃくちゃあるが……! まず、何で今ので会話できてんだヨ!」
「……なんでと言われても困るんだが」
「なんで困るんだヨ! なんでピーピー言うだけでわかるんだヨ! 意味わかんねーヨ!!」
「テメェはヨーヨーうるせぇ」
「うっせーゾ! この
もっともな疑問を真正面からぶつける刻だったが、当の優は困ったように頭をかき始めた。そんな理不尽な対応に声を荒げる刻と、そんな刻をさらに煽る大神。二人のやり取りに置いていかれながらも、優は頭の中で言葉を整理して説明を始めた。
「あー……まぁ、匠さんは昔からこういう人だったからな。いつの間にかわかるようになってたってわけだ。……あ、でも大事なことはちゃんと言葉にするから心配することは無いと思うぞ」
「お前の耳っつーか、理解力はどーなってんだヨ……」
つまり要約すると……「慣れ」ということらしい。それだけでわかるようになるとは到底思えないが……現にできている人物が一人いる。この現実がある以上、信じるしかない。
すると、そうして一段落したところで今度は別の疑問が浮かびあがる。その疑問は、今まで口を閉ざしていた王子から放たれた。
「……なぁ、聞きたいことがまだある。その、乙女の父親って話だが……本当、なのか?」
王子が疑問に思うのも無理はない。それは、ただ純粋に見た目の問題。実年齢はわからないが、乙女は見た目から考えても優よりは年上に見えた。だが、それに対して匠の見た目はかなり若かった。それこそ二十代と言っても疑われないほどだ。
だから、たとえ乙女の父親と言われてもすぐに信じることなどできるはずもなく……
「ああ、本当だ。匠さんと乙女は親子だ」
「……義理の、とかか?」
「まさか。匠さんはあくまで
「いや、ちょっとってレベルじゃねぇだろ!」
「……わかった。とりあえずは信じることにする」
納得できない刻たちに対し、優は当然のことのように匠と乙女が親子であることを改めて告げる。そして、あくまで匠は実年齢より
そして、もう一つの疑問を彼らにぶつけた。
「さっき、この鍛冶屋が“エデン”にも武器を提供していたって言っていたが……それは本当か?」
「……事実ですよ。八王子 泪、あなたは私の言葉を疑っているんですか?」
王子の疑問に対し、答えたのは当人である匠ではなく平家。その表情は、気に入らない相手に自身を疑われたこともあり、この上ないほど不愉快だと主張している。
「別にお前の言葉を疑っているわけじゃない。ただ信じられないだけだ。少なくとも、“エデン”に武器を提供するような人間がいるなんてオレは知らなかったからな」
「ソーソー。んで、知らないのはオレらも同じだゼ、先輩。きっちり説明してもらおーカ」
不愉快さを前面に出している平家を前にしても、王子はあくまで冷静な様子で言葉を返す。さらには刻も王子の側に立ち、同じく情報を引き出そうとした。
また、会話にこそ入ろうとはしないが大神と遊騎も気にはなっているのだろう。その視線は平家へと向けられている。そして、桜も緊張した面持ちで平家からの返答を待っていた。
「──本当だよ。
「……乙女」
「お茶、持ってきたよ。配っちゃっていいよね?」
「ピッ」
「はいはーい」
(こっちもちゃーんとわかってるのネ……)
肯定の言葉と共に入ってきた乙女の姿を見た王子は、その言葉を頭へと入れながらも彼女の一挙一動に眼を光らせる。それを知ってか知らずか、落ち着いた様子で匠と言葉を交わすと、彼女は運んできたお茶を一人ひとりへと渡していった。
「ハイ、優君」
「…………」
「そんな警戒しなくても大丈夫だよ。さっきは久しぶりだからアレだったけど、元気な姿を見れてもう安心した。だから、こうして近くにいるだけで私は満足だよ」
「……そうか」
「あ、ちなみに私の身体の感想は? 興奮した?」
「やっぱり離れろ、お前」
「冗談なのに~」
順々にお茶を渡していき、最後の一つを優へと渡す。玄関先での騒動があったからか、どこか警戒している様子の優だったが、乙女の言葉を聞くとすぐに安心してお茶を受け取った。その後のやり取りを見ても、彼らの間にある信頼関係が伺える。
だが、今の話題は二人の関係ではない。
「なぁ、乙女……何度も聞き返すようで悪いが、さっきの話は本当か?」
「ん? あぁ、武器提供の話ね。本当だけど、言った通りそれは先代まで。お父さんはもう“エデン”とは縁を切っているから、今じゃもう昔話だね」
優にお茶を渡したところで、再び“エデン”との関係について問われる乙女。彼女はそのまま優の隣に座ると、特に隠そうとする素振りも見せずに話し始めた。
すると、その内容を補足するかのように平家も口を開いた。
「基本的に、我々『コード:ブレイカー』は各々の異能を用いて動きます。ですが、異能を持つ者の中には優れた武器を持ってこそ初めて真価を発揮する者もいる。そんな『コード:ブレイカー』に対して武器を提供する唯一の鍛冶屋……それがこの『天下一品』なのです」
言い聞かすように指を立てながら話す平家だったが、そんな彼とは対照的に乙女は「今はほぼ無関係だけどね~」とケラケラと笑いながら茶々を入れる。
要するに、乙女の自宅である『天下一品』はかつて『コード:ブレイカー』に武器を提供していた唯一の鍛冶屋。だが、現当主である匠はそれを行っておらず、今は無関係だということだ。随分と奇妙な立ち位置だが、少なくとも、乙女が『コード:ブレイカー』に関する情報を持っていてもおかしくはない事実ではある。
「……なるほどな。とりあえず、この家と“エデン”の関係性はわかった。しかし、そうなると優はなんでここを尋ねてきた? お前と乙女が昔馴染みなのは察したが、ただ顔を見に来たわけじゃあないんだろ?」
「…………」
「やだなぁ、そんなの決まってるじゃん。優君は私が寂しがってるのを感じ取って──」
「黙ってろ」
これまでの話から、乙女と匠についてある程度のことまでは理解した一同。そうなると、次に気になるのは彼女たちと繋がりを持っていた唯一の人間……優がここを尋ねた理由だ。出発前に会長に言ったように、彼は少なくとも数日間はここに滞在する予定だったのだろう。だが、ただ顔を見に来るだけなら一日あれば事足りる。ならば、何日かの時間を要する用事があるということだ。
「……はぁ」
わざとらしく顔を赤らめる乙女の言葉を制すと、優は溜まったものを吐きだすかのように大きく息を吐いた。そして、ウエストポーチから何かを包んだ深緑色の風呂敷、自らの懐から少し大きめの巾着を取り出して自身の前に置き、そのままその中身を明かす。
「これが……オレが今日ここに来た理由だ」
そう言って取り出されたのは、刀身も柄も粉々となった彼の愛刀……『斬空刀』。先日の闘いで、大神と桜を護るために犠牲となった……数少ない彼の武器。
「これは……『斬空刀』か? ……壊れたってのは聞いていたが、どうしてこれが理由に──」
理由として示された『斬空刀』を見て、王子は顔をしかめる。そこに込められた真意がなんなのか、彼女がそれを理解しようと考えた……まさにその瞬間だった。
──ドガァ!!
「な!?」
突然の轟音と、油断すれば吹き飛ばされるほどの衝撃波が部屋全体に広がる。何があったか、頭が理解するよりも先に……王子の眼は
を捉えていた。
「…………」
先ほどまで優が座っていた場所で拳を振り抜いた姿勢で立つ匠と、その直線上の壁に倒れかかる……額から血を流す優の姿だった。
見た目が若すぎる乙女パパ、匠さんです
どこか癖のあるキャラにしたかった結果、吹き戻しを吹いて話すということに……謎ですね、はい
さて、そんな匠さんの鉄拳で終わったわけですが……正直言って続きはいつになるかわかりません
というのも、夏は少し忙しくなる季節なので書く時間も書く気力も保てるか不安なのです……
それでも書ける時は書いていこうと思うので……よろしくお願いします!