CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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お待たせしました!
今回の番外篇もこれにて終了、次回からはまた本編へと戻ります
さて、今回はオリジナルストーリー……もといオリキャラの過去話です
今回も勢いに任せて書いたので、気になる点はあるかもしれませんが……ご了承ください
では、どうぞ!





code:extra 20 咲けない少女

 

 

 

 

 

 ──どうして?

 

 少女には不思議な力があった。

 

 

 

 

 

 ──どうして私なの?

 

 しかし、少女はそのような力は望んでいなかった。

 

 

 

 

 

 ──ねぇ、神様。

 

 その力に希望を感じたのは一度きり。

 

 

 

 

 

 ──どうして私は……

 

 だが、その希望は一転して少女の全てを絶望に染めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──独りにならなきゃいけないの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そして、わるいかいじゅうはまほうつかいにたいじされて、みんなしあわせになりました」

 「はい、おしまい。咲ちゃん、絵本読むの上手ねぇ」

 「えへへ!」

 少女は幸せだった。

 優しい両親に温かな家。幼い子どもながら、彼女は今の自分を包む周りの環境に満足していた。

 「まだ三歳になったばかりなのに、ここまでスラスラ読めるとはなぁ。やっぱり咲は天才だな!」

 「てんさい?」

 「頭がいいってことだよ。将来有望だな!」

 「ゆーぼー?」

 「もう、パパったら……」

 少女は賢かった。

 三歳ながら文字を完璧に覚え、ある程度のことは全て覚えて自分で行うことができた。一般的な保育園や幼稚園ならば、五歳児クラスからできるようにするであろうことを、少女はすでにできていた。

 「さき、ほめられてるの?」

 「もちろんだ! 咲は自慢の娘だよ! ほら、高い高いだ!」

 「キャハハ! わーい!」

 少女はよく笑った。

 楽しいこと、嬉しいことがあれば素直に笑顔を見せた。その笑顔も、純粋無垢としか言いようがない輝くような笑顔だった。その笑顔を見るだけで、少女の両親も自然と笑顔を浮かべていた。

 恵まれた環境に恵まれた才能。順風満帆な人生を予感させる要素を多く持った少女は、他の大人から見ても幸せ者だった。大きな悩みなど抱えることも無く、人並み以上の人生を送っていくのだろうと誰もが思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、今まさに彼女が抱えている悩み(・・)のことなど誰一人として気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──キィン

 意識を集中させ、手の届かない位置にあるぬいぐるみが浮かびあがる様をイメージする。瞬間、ぬいぐるみは誰の手にも触れることなくふわふわと浮かびあがった。

 「ッ──!」

 ──ポトン

 そして、やめようと思った瞬間にそれは止まる。ピタリと静止し、空中から床に向かって一直線に落下して軽い音を立てて床に転がる。

 「…………」

 今起こった摩訶不思議な現象が自分の意志で起きたものであると認識するかのように、少女(・・)は自分の掌を見つめる。一見すると信じられないことだが、自身の中に感じる感覚、ハッキリと感じる自分の意志から、彼女は確信する。

 (やっぱりこれ(・・)って、さきがやってることなんだ……)

 少女が初めてこの力を使った時のことは、ほとんど覚えていない。というより、その時の自分は物心もついていない赤ん坊であり、両親から聞いただけの話である。

 当時、まだ赤ん坊の少女が寝ている場所の近くでは異様に物が落ちた(・・・・・・・・)。しかも落ちた物は、空の哺乳瓶や音が鳴る玩具など。さらに、不思議なことに何か物が落ちた後は必ず少女は何かを訴えるように泣いた。そして、その訴えのほとんどは|その時に落ちた物を与えると静かになったという《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。

 つまり、彼女は赤ん坊の時から無意識にこの力を使っていた。視界に入った自分が求める物を手に入れようと、触れずしてその物体を動かしていた。物心ついた今では、意識を集中させればある程度の物は動かせるようになっていた。

 (やっぱりこれって……まえにテレビでやってた“ちょーのーりょく”……? ママやパパに……聞いた方がいいのかな……?)

 少女が持つその力……何も知らない者はその問いに「YES」と答え、何か知る者は「NO」と答えるだろう。だが、少女はそのことすら知らない。

 そう、この時の少女はまだ何も知らない。後に、この力が原因で自身の人生が大きく狂わされてしまうことを。この力で、他者を傷つけてしまうことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この“異能”の力のせいで──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それじゃあ、この問題を……咲さん、解いてみて」

 「はい!」

 数年後、少女は普通の(・・・)小学生として小学校に入学し、充実した生活を送っていた。

 結論から言うと、少女は力のことを隠し続けた。実年齢以上に賢い自身の頭で考えた末、今まで通り隠していた方がいいと感じたのだ。そして、おそらくその答えは正しかった。

 「……はい、正解です! さすが咲さんね!」

 「咲ちゃん、すごーい!」

 「えへへ……!」

 現に、そうしたおかげで少女は普通の……少し賢い優等生として生活することができていた。

 普通に学校に通い、普通に勉強をし、普通の友達に囲まれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やっぱり咲って頭がいいな! スッゲーよ!」

 「あ、ありがとう……」

 特定の異性に対して、普通に特別な感情を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 相手は特に優秀というわけではないが、席が隣ということで接する機会が多く、徐々に気になっていった存在だった。彼の笑顔を見るだけで、彼から認められるだけで、両親に褒められた時とは少し違った喜びが心を満たした。

 「えー!? 咲ちゃん、あんなのがいいのー!?」

 「あ、あんなのじゃないよ! すごく優しいんだから!」

 同性の友達からの評判は決して高い方ではないが、それでも少女は胸の内の感情を認めていた。それが原因で何かがあっても構わない、とまで考えていた。

 「う~ん……。優しいのはわかるんだけど……ねぇ?」

 「そうそう。ホラ、今も話してる」

 「……?」

 少女の意中の人物について、苦い表情を浮かべる友人たち。突如としてどこかを指差してきたため、少女は首を傾げながらその指の方向を見る。そこには、意中の彼が友人たちと話す姿があった。よほど盛り上がっているようで、その話し声は少女たちまで聞こえてきた。

 「カッコよかったよなー! 昨日の『エスパ丸』!」

 「うんうん! 超能力の必殺技を出すところ、超すごかった!」

 「あーあ。オレも『エスパ丸』みたいに超能力使えたらなー」

 「そしたらヒーローじゃん! オレも使いてー!」

 『エスパ丸』……というのは最近になって放送を始めた子ども向けアニメーションである。忍者の格好をした『エスパ丸』が、生まれ持った超能力を駆使して悪事を働く敵を退治する……キャラクター全てが二頭身のヒーロー系の作品だ。噂では、『エスパ丸』のキャラクターはかの天宝院グループの天才若社長の落書きから生まれたとかなんとか。

 「今どきあんなの見てるなんてガキっぽーい」

 「超能力なんて使えるわけないのにねー」

 仮想の空間に存在するヒーローに憧れる……特に男子ならば一度は抱いたであろう夢のはずだ。年齢を考えても、彼らはそのような夢を抱いても不思議ではない。だが、同年代の女子から見れば「下らない」の一言で済ませられる話題であるのも事実であった。

 「……ヒーロー」

 「ん? 咲ちゃん、何か言った?」

 「あ……ううん、なんでもない」

 無意識のうちに口にした呟きをごまかし、少女は何気ない話を友人たちと交わす。

 しかし、どんな話題に変わろうと、彼女の頭の中では変わらず一つの希望に似たものが渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (超能力……。私が使うところを見せたら……もしかして────)

 それが、絶望への入り口だとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……化物」

 「──え?」

 「コイツ、化物だ! 近寄るな、化物!」

 「な、なんで……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「咲に近づくなー!」

 「近づいたら超能力で殺されるぞ!」

 「こっちに来るな!」

 「違う……違う……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちょっと! 咲が化物なんて、いい加減にしてよ!」

 「超能力使えるなんて馬鹿みたい! ねぇ、咲! 咲もちゃんと言いなよ!」

 「…………」

 「なんで何も言わないの!? 違うって、嘘つかないでって言えばいいのに!」

 「……ねぇ、まさか…………本当なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 「化物が来たぞー!」

 「避難だ、避難!」

 「……あ、あの」

 「こ、こっち来ないでよ!」

 「何かする気!? そんなことしたら、すぐにママとパパに言ってやるんだから!」

 「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女の現実は、そのほとんどがかつての形も残さずに崩れ去った。かつて友人と思っていた者たちも、かつて思いを寄せていた者も、全て。自身を“害”とみなし、あらゆる迫害……『イジメ』を受けた。

 幸いにも、「超能力が使える」という話の発信源が子どもであり、超能力という非科学的な内容であったことから、メディアなどが取り上げたり相手の保護者が執拗に動くことは無かった。

 だが、この現実の崩壊は確実に少女の身と心を蝕んでいった。

 「……咲? 最近、あまり元気がないみたいだけど……何かあったの?」

 「……大丈夫」

 「本当か? 何か悩みがあるなら、父さんたちに言ってみろ」

 「…………」

 それは、実の両親からの優しい言葉すら苦痛なものに感じるほど。

 本来ならば薬となるはずの彼らの言葉も、今の少女の精神状態では毒にしかならない。だが、少女の心の闇を知らない両親は、薬として少女に言葉をかけ続ける。

 「なに、安心しろ。父さんたちはお前がどんな悩みを持っていようと、解決するまで一緒にいてやる。それが、親の責任だからな」

 「そうよ。咲は私たちの娘なんだもの。絶対に見捨てたりしないわ。そう──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ドンナコトガアッテモ(・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──っ、ぅ……!」

 仮にそれが本当に薬なのだとしたら、少女の心に築かれつつあった壁を越えたのだろう。

 仮にそれが毒なのだとしたら、少女の心に築かれつつあった壁を溶かしたのだろう。

 「う、ぐ……! ふぐぅ……!」

 だが、たとえそれが薬だとしても……

 それが、たとえ毒だったとしたら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おと、さん……! おかあ、さん……! 私ィ──!」

 与え続ければ害を及ぼし、その全てを崩壊させる。

 それは、確実に幼い少女に対しての止めとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「────」

 傘もなく、上着もなく、直に当たれば痛みを感じるほどの激しい雨の中、一人の少女が歩く。

 その顔は深く俯いており、その表情はまるで見えない。さらに、激しい雨が人々の視界を遮り、その少女の姿自体がまるで幻のように感じられた。

 「────」

 少女は、言葉もなく歩き続ける。まるで、言葉自体を忘れたかのように。

 雨のせいか、呼吸音すら出ているかわからない。それほど、少女の口は音を発していなかった。

 「────」

 少女の周りに人はいない。あえて近づこうとする者もいない。

 だから、誰も気付かない。彼女が雨に当たる理由を。

 そこに、無意識に選んだ“罰”と“恐怖からの逃走”の意味があることを。

 (……なんで?)

 少女の内なる問いに、答える者はいない。いくら問いかけようと、いくら考えても。自分の中で答えは出てこない。

 それでも、少女は問いをやめない。

 (全部……嘘だった。どんなことがあっても、見捨てないって言ったのに)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ヤメ、テ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ッ──!!」

 数分前の記憶(・・・・・・)が唐突に蘇り、少女の中で不快感が一瞬で限界を超え、すでに吐き出したはず(・・・・・・・・・・)の胃の内容物が一気にせり上がってくるのを感じる。

 少女は人気のない所を求めて駆けだし、たまたま近くにあった公園の茂みに頭を突っ込んで口元を解放する。

 「う、ぉえ……! ゲホ、ゲホ!」

 出るはずのない内容物を無理に吐き出そうとし、息苦しさと不快感で咳き込む。しかし、それでも身体は中身を吐き出そうとする。

 どう考えても異常な状態。普通ならば幼い彼女が経験するような状態ではない。だが、今の彼女はとてもじゃないが正常ではない(・・・・・・)。いや、正確に言うなら正常ではない経験をした直後だった。

 (私……私は…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 「殺したんだね」

 「──!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「信じていた大切な人に否定され、我を失ってその命を絶たせた。唯一記憶に残っているのは、原型もわからない状態で血に塗れて、助けを乞う醜い肉塊の姿。雨が降っていてよかった。この雨なら人通りは少なくなるし、身体についた返り血も洗い流してくれる。……まぁ、君にとっては自分の頭を冷やすための“罰”だったのかもしれないけど」

 「だ、誰……?」

 気配もなく、気付けば背後に立っていた見知らぬ男。その男の口から発せられる言葉に戸惑いながら、少女は身を護ろうと無意識に距離をとった。

 その見知らぬ男は、少女と同じように傘もささずに雨の中にいた。だから、彼も少女同様に全身が濡れている。しかし、異常な状態に見える少女と違い、その男の濡れる姿はどこか常識離れした美しさが感じられた。

 「でも、君は気にする必要はないと思うよ。だって、最初に裏切ったのは彼らなんだから」

 「……やめ、て」

 少女を擁護するような言葉を口にする男だったが、その言葉を聞いた少女の口から発せられたのは否定の言葉。だが、それは擁護自体を否定したわけではない。

 「結局、どれだけ大きなことを言っても彼らはただの人間なんだ。だから、社会なんてものが決めた程度の常識の中でしか物事を考えない。そんなつまらないものに縛られているから……」

 「やめて……」

 否定が向けられたのは、男の言葉そのもの。その言葉の一語一句が、確実に自身の心にヒビを入れていることが感じられたから。だから少女は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私たち(・・・)のような社会から外れた存在を拒絶する」

 「──やめてぇ!!」

 男が語る真実(・・)を否定しようと、激情のままに力を解放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──私に、その力は通用しないよ」

 「ひっ……!」

 自分の首に突き立てられたそれ(・・)を見て、少女は冷や汗と共に冷静さを取り戻した。降り落ちる雨粒を全て弾くほど鋭利な刀身。かすかに先端が触れている首からは、独特の「ひやり」とした感触があった。

 そして、男は少女に突き立てていた刀を静かに戻した。

 「悪いけど、君とは住んでいる世界が違うからね。平和に暮らしてきた君の異能量じゃまず私には効かない」

 「…………」

 思わずぺたりと座り込む。いや、正確に言えばガクンと足の力が抜けた。雨水を吸って泥と化した地面が服と地肌に触れるが、そんなことを気にする余裕は無かった。

 もう、何もわからなかった。なぜこの男は自分しか知らないはずの真実を知っているのか。なぜ刀なんて持っているのか。なぜ自分の力が通用しないのか。

 あらゆる疑問が浮かんでは口にすることもなく消えていく中で、少女は一つだけを静かに呟いた。

 「……誰、なんですか。あなたは……」

 「……私かい?」

 唯一口にしたその疑問を聞き、男は雨で濡れた髪をかき上げる。すると、男は少女に近づいていって目の前に立つ。

 そして、静かに膝を突き、少女に向かって手を差し伸べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私の名は『捜シ者』。君のように力を持った者たちを捜す者」

 「……さが、しもの」

 途端に、白に包まれた男の姿がキラキラと輝き始める。男自体が輝いているわけではない。男の身体を流れる雨粒が光を反射させ、輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付いて見上げると、いつの間にか雨は上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──どうして?

 

 消えゆく意識の中、少女は自身と向かい合う一人の男を見つめる。

 

 

 

 

 

 ──どうして、『捜シ者』(あの人)だったんだろう。

 

 同時に、『捜シ者』(恩人)の指示で行った自身の罪の数々が思い浮かぶ。

 

 

 

 

 

 ──もし、あそこにいたのが……

 

 それらを楽しいと思ったことなど一度もない。逃げ出したいと常に考えていた。

 

 

 

 

 

 ──『捜シ者』(あの人)じゃなくて……

 

 だからなのか、少女は今まさに自分の命を奪おうとする彼を見つめ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──あなただったら、もっと違っていたのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「目には目を 歯には歯を 悪には────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の言葉と共に光に包まれた空間を目に焼き付け……少女()の意識は暗黒に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 




以上、咲の過去話でした
彼女は「一般家庭に生まれた異能者」という設定で登場させましたが、遊騎やリリィのエピソードと比べるとまだライトな方なのかな……と書き上げてから思ったり思わなかったり
さて、次回からの本編は……『エンペラー』復活篇!!
『エンペラー』ってあの!? まさか! ……なんて、原作を知っている方なら「だろうね」って感じですよね
ですが、ただ『エンペラー』が復活するだけでは終わりません!
この章で……ついに! 今まで謎に包まれてきたあのキャラが光を浴びることに!
それではお楽しみに!



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