CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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あけましておめでとうございます!
新年最初の投稿、お待たせしました!
今回はタイトルの通り、完全に過去話です!
そのため、原作ストーリーには特に関与はしない妄想だけの一話となっております
内容としては短編集……みたいな感じです
色々と過去が複雑な「CODE:BREAKER」のため、どこかおかしいところがあっても全ては私の頭が悪いせいです、申し訳ありません……
そんな不安な内容ですが、どうぞ!





code:extra 19 『渋谷荘』、過去の住人たち

 

 

 

 ~朝の風景~

 

 

 

 「うん! いかにも、今日もいい天気なんだな!」

 寝間着姿のまま、会長は自室のカーテンを開けて外の天気を確認する。開けた瞬間、全身を優しく包み込むような温かさを持った日光が視界いっぱいに広がり、思わず目を細める。それでも、身体を芯から温めて目も覚まさせてくれる温かさがあるため悪い気はしない。会長は「うんうん」と頷いた。

 「……おや?」

 ふと視線を下に向けると、庭の木々が昨日までと比べて整っている。まるで一流の庭師が整えたかのように、鮮やかな風情を朝日と共に醸し出している。

 いったいなぜ……と首を傾げたところで一人の人物が現れる。麦わら帽子を被り、首にタオル、長靴に軍手と、完全に庭いじりをする格好をしている。ただ一点……

 「ああ、君だったのか。なら、納得だね。朝からご苦労様!

 

 

 

 

 

 

 

 

 『捜シ者』君!」

 「あ、おはようございます。お師匠様」

 まるで明暗を逆にしたかのように白い学ランに身を包んでいるということ以外は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今日はちょっと早起きしましたので、朝食のついでに庭も綺麗にしておこうかと思って」

 「いかにも、感心だね! 熱心な弟子を持って、私も鼻が高いよ!」

 やんわりとほほ笑みながら何気ない言葉を口にする『捜シ者』。その優しげな様子はまるで「畑仕事をするおじいさん」にも通じるものがあり、なぜか異様に似合っている。

 そんな『捜シ者』に対し、会長は寝起きであることを隠そうともせずにそのまま話をする。そして、まるで自分の手柄であるかのように偉そうに胸を張り始めたが、すぐにがっくりと俯いてしまった。

 「これでもう一人の住人も君みたいに真面目だったらよかったんだけどねぇ……。()のことだから、今日もまだ寝てるんでしょ?」

 「はい。何度か起こしに行きましたが、見事にぐっすりと」

 「やっぱり……」

 予想通りの現実だと知らされ、会長はため息をつきながらより一層深く俯く。しかし、未だ温かく全身を包み込む朝日のせいか、目の前で柔らかい笑顔を浮かべ続ける『捜シ者』のせいか。あまり深く考えようとはせず、すぐに気分を切り替えたように会長は頭を上げる。

 「ま、今はいいや! 起きたからご飯食べよーっと! ところで、今日の朝食はなんだったのかな?」

 「今朝はご飯とわかめの味噌汁、卵焼きとお浸しに漬物です」

 「うむ! 日本人らしい朝食だね! さて、私より長く寝てる人には何も残らないよう、たくさん食べなくちゃ」

 そう言って、会長は寝間着のまま食卓へと向かい始める。そんな自由な会長の後ろ姿を、『捜シ者』は相変わらずの笑顔で見送っていった。

 (……ふう)

 食卓へと向かうために廊下を歩く会長。その足取りは軽いものだが、その胸中は先ほど浮かんだ悩みで未だに満たされていた。

 そう、もう一人の住人について。

 

 

 

 

 

 

 

 

 (本当にしょうがない弟子なんだな……人見は)

 今も自室で大口開けて寝ているであろう、寝るのが大好きな弟子の顔を思い浮かべながら、会長は食卓へとその足を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ガラン

 「……あれ?」

 しかし、食卓に着いたところで会長はピタリと全身が静止する。朝食があると思っていたテーブルには何も無く、調理器具もきちんと片づけられている。

 もしやと思って冷蔵庫を覗いてみたが、ほとんど何もない。少なくとも、先ほど『捜シ者』から聞いた今朝の朝食のメニューは。

 ……と、そこでどこからか声が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「確かに人見の寝過ぎは注意すべきです。ですが、お師匠様も十分に長く寝ていますからね? そして、長く寝ているような人には……言われるまでもなく何も残っていないんですよ……?」

 「……は、はい」

 この弟子も(自分が不真面目故)十分に悩みの種になる、と感じながら、会長は大人しく自分で朝食の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~修業の佳境~

 

 

 

 「『空中放電(フラッシュ・オーバー)』!」

 「『空間圧殺(PRESSER)』!」

 修行の時間を迎え、人見と『捜シ者』はそれぞれが持つ異能でカラクリ珍種を次々に蹴散らしていく。

 広範囲に広がる人見の『電力』はカラクリ珍種を炭と見間違えるほど黒く焦がし、一瞬でその動きを止めてしまう。さらに、自分に向かって突っ込んでくる手の平サイズのカラクリ珍種の動き一つひとつを全て見切っており、かすることもなく次の攻撃へと移行していった。

 同様に、『捜シ者』の『絶対空間』による空間を操っての攻撃は一撃でカラクリ珍種を次々と破壊していく。また異能だけではなく、会長から仕込まれた剣術も織り交ぜながら向かってくるカラクリ珍種全てを残骸にしていった。人見と同じように、一撃もかすることなく。

 (カラクリ珍種を使う修業としては最高難易度だが、あんなに軽々とこなしている……。一つひとつが手合わせ時の私と同じスピードとパワーを持っているというのに……)

 「……ふぅ。いかにも、末恐ろしい二人なんだな」

 修行場で見事な動きをする二人の弟子を見て、会長は思わずため息を漏らす。今、彼らが行っている修業は、会長の修業の中では最終段階に近いレベル。手合わせ時の会長……コケシを取った大神たちが手合わせした際の会長と同じスピードとパワーで動く無数のカラクリ珍種を相手にする修業。また、このカラクリ珍種は動きだけでなく、異能の通りにくさも最高レベルで、生半可な異能ではまず弾かれる。

 少なくとも、大神たちでは一分ともたないレベルの内容だった。そんな修業を、人見と『捜シ者』の二人はというと……

 「『捜シ者』~、そっちはもう何体壊した?」

 「144体ってところかな。そっちは?」

 「142……今回は良い調子だと思ったんだけどなぁ」

 「まだ同等じゃないか。ほら、行くよ」

 何事も無いように言葉を交わすほどの余裕を見せながら、カラクリ珍種を相手にしていた。どこまでも人間離れした二人だが、冷静に考えれば納得できることでもある。

 片や『コード:ブレイカー』のエースである『コード:01』の称号を長年維持してきた人見。その長さは、歴代の『コード:01』の中でも上位に入る。

 そして、その『コード:ブレイカー』の上に位置する存在である『コード:ネーム』と呼ばれる者たちの一人……『コード:シーカー』こと『捜シ者』。どちらも並みの異能者ではない。

 「はああああ!」

 「おおおおお!」

 そして、最終的には両者ともに300を超えるカラクリ珍種を無傷で破壊し、見事この修行をクリアしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~『渋谷荘』の元・真の主?~

 

 

 

 「いや~だからね? ついさっきまで修行をしていたんだから、お互いに疲れてると思うし……」

 「確かに疲れてるけど、それを理由に放棄しようとは思わないかな」

 「疲れてる時に無理にやっても、良い結果は出ないと思うよ? 急がば回れというし、ここは昼寝でもしてからでも……」

 「それは、単に君が寝たいだけだろう?」

 「……正解」

 修業を終え、思い思いの時間を過ごそうとする人見と『捜シ者』。しかし、そんな両者の間には奇妙な緊張感が漂っていた。

 一方の人見は冷や汗を流し、しどろもどろといった様子で『捜シ者』を言いくるめようとしているように見える。それに対し、『捜シ者』は爽やかな笑顔を浮かべながらも、不動の山のようにどっしりと構えており、人見の言葉を華麗にかわしてみせていた。

 この二人、何を理由に対立しているのかというと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さ、諦めて掃除をするよ?」

 「えぇ~……」

 どこから用意したのか、バケツ、雑巾、ゴム手袋などなど……掃除のための道具を一層爽やかな笑顔を浮かべる『捜シ者』。その笑顔を見て、人見は思いきり顔を引きつらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやね、掃除をするのは良いことだと思うよ? けど、なんでわざわざ修行が終わってすぐにやらなきゃいけないんだい?」

 「身体を動かしたばかりの今なら目が冴えてるだろう? いつも寝てばかりでろくに掃除もしていないんだから、良い機会じゃないか」

 「むしろ身体を動かしたから今すぐにでも寝たいんだけど……」

 どうやら、『捜シ者』は何が何でも人見に掃除をやらせたいが、当の人見はそれを拒否しているようだった。互いの言い分を言い合いながら、一歩も譲ろうとしない両者。その言い合いはいずれ無言の睨み合いへと化し……

 「…………」

 「…………」

 しばらく睨み合った結果……決着は着いた。

 「……はぁ、わかったよ。確かに、少し埃っぽくなってきたかなとは思っていたんだ」

 参った、と両手を挙げる人見。その姿を見て、『捜シ者』は満足気に微笑む。

 「そう言ってくれると思ってたよ。それじゃあ、人見は自分の部屋と一階をよろしく」

 「え? もしかして掃除って、『渋谷荘』全体……?」

 「他の場所は私がやっておくから。さ、行くよ」

 「……早くも後悔したよ」

 『捜シ者』から道具一式を手渡され、トボトボと歩く人見。その背中からは滲み出る後悔を感じるが、今となってはもう遅い。

 そんな後ろ姿を見ながら、会長は煎餅の袋を開けながら手を振る。

 「いかにも、よろしくね~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もちろん、お師匠様もやるんですよね? だって、『渋谷荘』の主ですものね?」

 「え、え~っと……いかにも、私はこれからやることが……」

 「お師匠様?今ならまだ、人見と分担して一階の半分ほどのスペースをやっていただければ何も言いませんが……?」

 「誠心誠意お掃除してきます……」

 「はい、よろしくお願いします」

 しかし、『捜シ者』に許されるはずもなく、彼も道具一式を持ってトボトボと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~月と星~

 

 

 

 「目には目を 歯には歯を 悪には厳正の閃電を」

 「ぐあああああ!!」

 深い闇に閉ざされた夜の世界を、人見の手から放たれた『電力』が一瞬だけ照らす。その『電力』が直撃した男は最期の雄叫びを上げると、皮膚のほとんどが黒こげになった状態で斃れた。嗅ぎ慣れなれていなければ嘔吐しそうになるほどの悪臭が漂い始め、人見は“エデン”のエージェントに連絡して後始末を任せた。

 「……ふぅ」

 そうして彼は、お気に入りの昼寝スポットである川原まで移動した。短いため息をつくと、そのままゆっくりと腰を下ろして空を眺める。そこには、数えきれないほどの星々と、一部として欠けることなく満ちた状態で周囲を照らす月があった。

 「…………」

 その景色から……正確には月から目を離そうとはせず、人見はただじっと空を見上げ続けた。瞬きすらも忘れて、ただずっと。

 だから、()に声をかけられるまでその存在にも気付けなかった。

 「なんだか今日はナイーヴな気分のようだね」

 「……やあ、『捜シ者』」

 かけられた言葉に敵意がないことを感じたため、人見は身構えることなく視線だけを動かして、その人物が『捜シ者』だと認識した。軽く手を挙げて挨拶すると、再び空へと視線を戻す人見。そんな人見の隣に、『捜シ者』は何も言わずに座り込んで同じように空を見上げる。

 ただ黙って空を見上げる二人。数分が経とうとした頃、ポツリと人見が呟いた。

 「……月と『コード:ブレイカー』はよく似ている」

 「月と……?」

 「そう」と答えると、人見は立ち上がって月に向かって手を伸ばす。そうして、彼は静かに続けた。

 「月はこうして眺めてる分にはとても美しい。けど、近くで見たらどうだろう? クレーターでデコボコになり、生気の欠片も感じない灰白色の荒廃した大地。……『コード:ブレイカー』だって同じさ。建前は世のために“悪”を裁く存在だ。けど、実際はただの人殺しであり、“エデン”の都合で動かされている人形さ。そうやって……人形のまま死んでいった仲間を何人も見てきた」

 「…………」

 「私から見れば、月も『コード:ブレイカー』も良く見えるのは表面上だけ。その実態を間近で見てしまえば、今までと同じように見ることはできない。……ふと、そんなことを考えてしまうんだ」

 静かに語られる人見の言葉を、『捜シ者』は何も言わずに聞き続ける。人見の秘められた思いが込められた言葉を肯定も否定もせず、黙って空を見上げたまま。人見もそれ以上は何も語ろうとはせず、再び二人の間に沈黙が漂う。

 しかし、その沈黙は『捜シ者』の呟きで終わりを迎える。何の前触れもなく、唐突に。

 「……それでも、いいんじゃないかな」

 「……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「少なくとも、こうして見る分には美しい夜空の一部だ。たとえ全てじゃないとはいえ、一部でも美しく見れる部分や見える時があるのなら、それでいいと私は思うよ。そもそも、存在全てが美しいものなんて存在しないだろうし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──ッ!」

 『捜シ者』の言葉に、人見は大きく目を見開く。空を見上げたまま語られたその言葉によって、何か見落としていたものを見つけたかのように。

 「……ハハ」

 ふと、目元を押さえて笑いだす人見。その笑いは抑えようにも抑えられず、徐々に大きくなっていく。そして気付けば……

 「ハハハハ! 一本取られたよ!」

 口を大きく開けて、大声で笑い始めた。その表情は、悩みから解放されたように清々しいものだった。

 人見は頭をかきながら、『捜シ者』の方に向き直り微笑んだ。

 「確かに、全部が綺麗なものなんてあるわけない。そんな簡単なことにも気付けなかったなんて、どうかしてたよ。……それに、私たちは全てを承知で今を生きている。全てを……ね」

 「……そうだね」

 清々しい笑みを浮かべる人見を見て、『捜シ者』の顔にも優しい笑みが浮かぶ。すると、『捜シ者』はそのまま立ち上がり、改めて人見に向き直る。

 「さ、帰ろう」

 「ああ」

 帰るべき場所へと向かい、歩を進める二人。月と星が彩る夜空の下、二人の姿は他よりも明るく照らされているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~会長、過去のミニミニ事件~

 

 

 

 「いかにも、突然だけど縮んでしまったんだな!」

 「本当に急だね……」

 「珍種特有の、ロスト的な何かですか」

 ある日、何の前触れもなく縮んでしまった会長を見て、人見と『捜シ者』はその急すぎる展開に反応しきれずにいた。しかし、そう頻繁に起こることじゃないとはいえ、以前にも見たことがある現象だったため、特に慌てることは無かった。むしろ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃ、今日の修業は体格差がある相手を想定しての修業だね」

 「それはいいね。すばしっこいから、二人で相手すればちょうどいい」

 「……え?」

 生き生きと、その表情を(悪い意味で)輝かせ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『よろしく、お師匠様』

 「い、いやぁぁぁぁぁ!!」

 会長が縮めば復讐に走る……どうやら、それはいつの時代も同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




『捜シ者』は今の王子ポジションだったに違いない(確信)
ほとんどが書いている時のノリで書いたものなので、本当に深い意味はありません
深い意味は無いのにシリアス調を書いてしまうという謎の行動……
さて、今回の番外篇も残すところあと一話ですが……ネタが無い(泣)
とりあえず、なにかそれなりのものを書ければと思っております
それでは、今年もよろしくお願いします!



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