やはり頭を使うのは苦手なようで、過去の話を考えると時系列とかいろいろ考えすぎて書くのがすっかり遅くなりました……
さらに文章も何を言いたいのか自分でも良くわからずな状態で、なんだか申し訳ないです
とりあえず今回はとある人物の過去がメインなので、言ってしまうと冒頭と最後の部分にある現在のところは無視してもらっても構いません
それでは、どうぞ!
「…………」
チャポン、とボトルの中でウィスキーが音を立てる。自分がボトルを動かせば、それに合わせて音は立ち続ける。しばらくその音を聞き続けたかと思うと、静かにテーブルの上に置く。
倒れる様子も無い、常に携帯している愛用のボトル。夜の『渋谷荘』のリビングで八王子 泪は、何も言わずにボトルを見続ける。
「……くそ」
しかし、すぐに再びボトルを手に取り、口をつける。その様子は、まるで何かに耐えていたが、我慢できずに……そのように見えた。
「…………」
飲める分だけ飲み終えると、王子は懐へと手を伸ばす。そこにある薄い物に触れると、ゆっくりと出して机の上に置く。
それは、かつて同志だった者たち……虹次と雪比奈と写ったあの写真だった。
この写真は、今となっては王子が『Re-CODE』に所属していたことを証明する数少ないもの。そして、今の彼女の立場を考えれば……確実にその立場を危うくするものでもある。
それでも、王子は子の写真を手放そうとはしない。この写真が原因で、今まさに行動を共にしている仲間に敵意を持たれようとも。
この……一度切り離した後に再び繋げられた写真は、決して手放そうとはしなかった。
──ズアッ!!
「が……!」
屈強な体格をした男の胴体に一線が入り、そこから上半身と下半身とでずれていく。その背後では、同じ位置で真っ二つに切り裂かれている男の影があった。
「……ふん」
下半身という支えを失った上半身、力さえ保てなくなった下半身が音を立てて倒れる。命を失い、物言わぬただの物体となった男に冷たい視線を送る女性……八王子 泪。黒いコートに腰まで伸びた髪と、現在とは違った出で立ちをしているが、その手にある黒い鎌……それは彼女のみが操る『影』の鎌だった。
「…………」
特に言葉をかけることもせず、王子は鎌を消して男の身体に背を向ける。周囲には、すでに崩れかけた建物ばかりで、人の気配はほとんど感じない。それもそのはず、彼女がいる場所は一般的にゴーストタウンと呼ばれる場所で、すでに荒廃した
だが、なぜそのような場所に彼女が、そして彼女の手にかかった男がいたのか。そんな疑問をよそに、人がいないはずのそこで王子に近づく二つの人影があった。
「やっぱりここか」
「その様子だと……すでに用事は終わったようだな」
一人は黒を主調としたフードと十字架型のアクセサリーを首から下げた褐色の男。もう一人は胸元を少しはだけさせたスーツを着る左目に瘢痕を刻んだ男。
多少の違いはあれど、その要旨はほとんど現在と変わらない……雪比奈と虹次の二人だった。
「……お前らか。つうか、なんでここにいるんだよ。気配まで消して見物しやがって」
「泪のすることなんて、よほどのバカじゃない限りわかる」
「ああ!? ようするにオレはバカだって言いてぇのか!?」
「そう言ったつもり」
「そこまでにしておけ、雪比奈。話が横道にそれたままになる」
明らかな雪比奈の挑発に、王子は先ほどまでの静かな雰囲気とは真逆に猛々しく彼に掴みかかる。そんな一触即発の二人の間に割って入った虹次は、二人を落ち着かせて話を続けようと少し先に転がる男の死体に視線を向けた。
「あの男……近くの町を騒がせている連続強姦殺人魔だろう。噂されていた見た目と同じだ。被害者の発見現場も、このゴーストタウンと町のちょうど中間地点だからな。ここに潜んでいるだろうことは明白だ」
「それに気付かない町の警察はただの無能の集まり」
死体と化した男の正体を詳しく話す虹次。その横で雪比奈は棘のある発言をしているが、虹次はそれについては何も触れず王子を見る。そして、静かにその肩を叩く。
「お前のことだ。どこかで奴のことに気付いて、始末せずにはいられなかったんだろう。町で奴の噂を耳にしていた時のお前は、とてもじゃないが穏やかとは言えない様子だったしな」
「……チッ」
全てを見透かすような虹次の眼に射抜かれ、王子は視線を外しながら舌打ちをする。それは、虹次の推理が正解であると認めたと、長い付き合いである虹次にはわかっていた。
すると、またも雪比奈が横から突っかかってきた。
「異能者でもなんでもない、ただの“
「奴らの真似なんかしてねーよ。ただ気に入らねぇから始末しただけだ。それ以上でも以下でもねぇ」
「本人がそう言っているんだ。そういうことにしておいてやれ、雪比奈」
王子の行動を「無駄」と言い切る雪比奈に対し、今度は冷静に言葉を返す王子。そんな二人を見て、虹次はフッと笑みをこぼし、そのまま歩き始めた。
「さぁ、戻るぞ。『捜シ者』も、そろそろ待ちくたびれた頃だ」
「……ああ」
虹次の言葉を受け、王子も静かに歩き始める。彼らが共に歩むべき唯一の人物の元に。虹次と雪比奈と同じ……一人の『Re-CODE』として。
そうして、王子が『Re-CODE』として活動を続けて数年が経った。世界中を転々としていた彼女らが再び日本を拠点にし、ちょうど日和と名付けた少女を保護した頃のことだった。
「あ? 写真?」
「……ん」
首を傾げる王子に対し、日和はコクンと小さく頷く。複雑な境遇に置かれ、ほとんど他者を信用しないようになっていた日和だったが、王子たちに対しては少しずつ心を開いていくようになっていた。その証拠に、彼女の髪には王子がプレゼントしたリボンがしっかりと結ばれていた。
そんな日和が、どこから拾ってきたのかカメラを手にして「写真を撮りたい」と言ってきた。突然のことに理解が追い付かない王子だったが、日和がポツリポツリと説明を始めた。
「みんなと……ずっと一緒にいたいから。写真だったら、ずっと持ってられるし……証拠にも、なるから……」
「日和……」
小さな手でカメラを握りしめる日和。思えば、日和自身から「これがしたい」と言ってきたのは今回が初めてだった。子どもの成長などには詳しくない王子だったが、これも成長や信頼関係の賜物かとふと思った。
「……しょうがねぇな。今ここに全員はいねぇけど、めんどくせぇからさっさと撮るぞ」
「……うん!」
そして、王子は近くにいた他の『Re-CODE』たちに声をかける。否定的な態度の者もいたが、ちょうど暇だったこともあり、最終的にはその場にいた全員が一列に並んだ。
「面倒臭い」
「うるせぇぞ、雪比奈。一回で終わりなんだから黙って立ってろ」
「泪、そういうお前はなぜ日和に背を向けている? それでは顔が見えんぞ」
「……しゃ、写真なんてほとんど撮られたことねぇから、どんな顔していいのかわかんねぇんだよ」
並んだはいいが、ガヤガヤと静かにならない一行。彼ららしいといえばらしいが、撮る側としては困ってしまう。まして、日和はまだ幼い少女だ。どうすればいいかわからず、ただあたふたとしていた。
「え、えっと……えっと……」
いつ撮るべきか、どう撮るべきか考え続ける日和と、まとまる気配がない王子たち。考えに考えた末、日和は……
「る、泪!」
「あ──?」
──カシャ!
「ハハハ! おい、雪比奈! お前、口がポカンって開いてるじゃねぇか!」
「顔半分と背中しか映ってない泪に言われたくない」
「ちょうど振り向いた時だったからな。仕方ないだろう」
「つか、なんで虹次はちゃっかりカメラの方見てんだよ」
「オレはいつ撮られてもいいように構えていただけだ」
現像した写真を見て、各々で感想を言い合う王子たち。撮るまでが大変だったが、いざ完成した写真を見てみるとよく撮れているように見えた。
撮影した日和も、満足そうに笑みを浮かべていた。
「……なぁ、日和。なんで撮る時、オレの名前呼んだんだよ」
「泪が、こっち見てなかったから……」
「そ、それはなぁ……」
「やっぱり、泪の顔はちゃんと写真にしたかったから……よかった」
「……ハァ」
撮影の際、急に名前を呼ばれたことで反射的に振り返った王子だが、結果としてそれが満足できる写真へと繋がった。終わり良ければ総て良し、と考えれば良い結果であることは違いない。そう考えて、王子はそれ以上言うのをやめた。
「つか、日和。ココ、一人肩だけしか映ってねぇぞ」
「……あ」
ただ一点だけを除いて。
「泪!」
「……日和」
先のものも見えないくらい激しい吹雪の中、
その顔は吹雪のせいもあり、よく見えない。一方の日和は息を切らしており、信じられないといったような表情をしていた。
「嘘……だよね? 泪が、『Re-CODE』じゃなくなるなんて……。『コード:ブレイカー』になるなんて……。皆を殺した……『コード:ブレイカー』になんて……」
「…………」
日和の問いかけに王子は何も答えない。ただ静かに日和を見下ろし、その表情を見つめていた。彼女たちにとって、『コード:ブレイカー』というのは敵以外の何者でもない。数か月前に起こった『捜シ者』たちと『コード:ブレイカー』たちとの闘い。『コード:ブレイカー』の大半が再起不能・死亡という痛手を与えたが、同様に『捜シ者』の勢力にも多くの犠牲が出た。特に、あの写真にもわずかながら写っていた当時の『Re-CODE』の一人が死亡したというのは大きな犠牲だった。
──オオオォォォォ……
すると、王子の様子に合わせたように激しかった吹雪の勢いが弱くなる。吹雪に吹かれ続けていた髪が一瞬だけ普段通りに重力に従う。まさにその瞬間であった。
「……ああ、本当だ」
王子の口から、決定的な言葉が放たれたのは。
「…………」
再び吹雪が勢いを増す。無数の雪が肌を冷やすが、もはや寒さも感じない。寒さ以上に、精神的に感じた衝撃の方が大きかったからだ。口を動かそうとしても、上手く言葉が出てこない。これも寒さで凍えているためではない。言葉の出し方も忘れるほど、日和が感じた衝撃は大きいものだった。
「……な、んで」
「……お前に言う必要はない」
ようやく出てきた言葉に対しても、王子は冷たい言葉を返す。そのまま日和に背を向け、何の躊躇もなくその足を一歩前に出す。
──ギュ
だが、日和の小さな手がコートを掴んでその足を止める。
「離せ、日和。何をしても……変わらない」
「……嘘、だよ」
コートを掴んだ手がかすかに震える。それが震えるくらい力を込めているからだと、王子は背中越しながら感じていた。それでも何も変わらないことを告げるが、日和は手以上に震えた声で否定する。
「家族に……なってくれたんだもん。一人になった日和に、たくさんのものくれた……。日和の傍にいるって、言ってくれ──」
──ビリィ!
「ッ──!!」
日和の目の前で、一つの長方形が裂ける。
それは写真。かつて日和が撮った、王子、虹次、雪比奈が中心に映った思い出の一枚。
その写真を、王子は自らの手で切り裂いた。自分が写った部分と、虹次と雪比奈が写った部分。それは言葉で聞くよりも確実に目で見える、
「……これが現実だ。次に会うことがあれば……オレたちは敵同士だ」
「────」
王子の言葉に、日和は何も答えない。ただ呆然と、衝撃で見開かれた眼で王子を見つめていた。彼女のコートを掴んでいたはずの手も、力無く下を向いている。
──ザッ
立ち尽くす日和に、王子もそれ以上の言葉をかけようとはしない。振り返る様子もなく、一歩を積み重ねていく。
二人の距離が離れていくごとに、どんどん吹雪の勢いが増していく。それはすぐに互いの姿を見えなくさせ、二人の間に白い壁を形成しているようだった。
そうして家族であったはずの二人は別れ、八王子 泪は『流麗の守護神』から『裏切り者』となった。
「……ハァ」
頭に浮かんだ過去の記憶を振り払うかのように、王子は首を横に振る。そして、ボトルに残ったウィスキーを全て流し込み、勢いよく立ち上がる。そうして窓の前まで歩き、そのまま窓を開けて外の空を眺める。
点々と小さいながら無数に散らばる星の中にある一際強い光を放つ月。太陽と比べれば眩しさを感じることはないが、その時の王子が見た月からはどこか神秘的なものを感じ、思わず目を細める。広い夜空に存在する星々と月。夜を照らすその光を目にしてから、王子は改めて写真へと視線を移して一人の人物を思い浮かべる。
(……日和)
どうしようもならない決別をわからせるために、破かざるを得なかった少女が自らの意志で撮った一枚の写真。破った後でも捨てることはできず、再び繋ぎ合わせて持ち続けている。
自分の行動で、かつて自分を心から信じた少女の心にどれだけの傷を刻むか、築いてきた信頼が憎しみにすら変わるであろうことはわかっている。それでも、彼女に後悔はない。何が起ころうと、自分がどう思われようと構わない。
彼女にあるのは、その覚悟だけだった。
(お前たちとの闘い……『コード:ブレイカー』として、オレは容赦するわけにはいかない。……それが、虹次との誓いでもあるしな)
写真を再び懐にしまい、王子はグッと拳を握る。『コード:ブレイカー』として、誓いを交わした同志として……改めてその覚悟を噛み締めるかのように。
(──だが、それでも……)
しかし、それでも人というのは完璧ではない。全て自分の思う通りにはいかない。たとえそれが自分自身のことでも。
(日和……お前との闘いだけはないことを祈りたい)
『流麗の守護神』であろうとも、捨て切れない優しさがあるように。
その微かな願いを秘めて、後に彼女は闘いへと赴いていった。
いかがだったでしょうか
今回は王子の写真についての妄想エピソードでした
そして、さらりと書いていましたが写真の端に映っていた謎の人物という原作の謎の一つについても、「以前の闘いで死亡した『Re-CODE』の一人」という形にさせていただきました
時系列など、どこかおかしな点があったかもしれませんが、「冷目は頭が悪いんだな」と察してください……
次回もまた過去がメインの話を予定しています
妄想全開となりますが、ご容赦ください
では、また次回!