数日ほど書ける状態じゃなかったので遅れました……
さて、いよいよ『捜シ者』との闘いもクライマックス!
『コード:ブレイカー』と『捜シ者』&『Re-CODE』、両者の激しい闘いの結末は……!
それでは、どうぞ!
「おおおおおお!!」
雄叫びに合わせるかのように、『青い炎』が勢いを増していく。
身体を包んだそれは優しくなど無く、容赦なく四肢を燃え散らしていく。
「────」
その中でも、『捜シ者』は抵抗の一つもせずに満足気な笑みを浮かべていた。
「大神君! ちょっと待って!」
誰一人としてその現場を……大神が『捜シ者』を燃え散らそうとすることを止めない中、会長だけが静止の声を上げる。それが大神のことを思ってか、かつて生活を共にした愛弟子を救おうとしての行動かは他の者にはわからない。
それでも、彼は本気で大神を止めようとしていたことだけは伝わり、それも止めようという無粋な者もいなかった。
「大神君ってば! それ以上やったら、本当に──!」
しかし、その声量を考えれば大神にも届いているはずであろう会長の声は、何の変化も生まない。
──はぐっ
「やめるのだ! 大神!」
『ッ──!?』
そのあまりに無謀な
「桜小路! お前、いつの間に気付いて──!?」
『捜シ者』の攻撃を受けて、気絶していたはずの桜だったが、いつの間にか意識を取り戻していた。そして、あろうことか捨て身で大神を止めようとしている。彼女がいつから見ていたのかわからないが、彼女がそこまでして大神を止めようとする理由はわかっている。むしろそれは「いつものこと」である。
だが、今は「いつも」のような状況ではない。
「バカ野郎、優! そんなこと今更どうでもいい! あのままじゃ、桜小路も『青い炎』で──!」
「……失礼は承知だが、バカはそっちだ」
「アァ!?」
桜の安否より、いつから気付いていたかについて反応した優に対し、王子は慌てた様子で『影』を構える。すると、優は軽くため息をついて呆れたように呟く。そこにもしっかり反応した王子だったが、優は無視して桜たちを見据えた。
「桜小路は自覚していないといっても、異能が効かない珍種。そして、『青い炎』だって異能には変わりない。あの炎で桜小路は死なない」
「そ、それは……そうだが……」
(なにより、オレはその現場をもう見ている……。桜小路は安全なはず……)
そう、桜は異能が効かない唯一の存在である珍種。無意識にとはいえ、彼女の身体が異能を打ち消してしまうのだ。だからこそ彼女は今まで、どんな捨て身の行動をしても無事でいられた。
「大神! 殺してはダメだ! それに、このままではお前も無事では──!」
──ゴオ!!
「うわ!」
しかし、今回は違った。いくら桜がその場にいようと、異能である『青い炎』は消えようとはしない。それどころか、さらに勢いを増していこうとしていた。
この予想外の事態に、周囲の者たちも再び危機感を覚えていく。
「お、おい優……! 本当に、桜小路は無事なのか!?」
「……おかしい。前は桜小路が突っ込んだ時点で『青い炎』は消えていた……。小さくなったわけでもないのに、どうして……」
「こ、このままじゃあ……危険だ」
桜の安否を気にし始める王子と優に対し、会長は確信を得ているような様子で「危険」と呟いた。珍種についてこの場にいる誰よりも理解している会長の言葉に、王子と優も反射的に聞く体勢になった。
「桜小路君の珍種パワーより、『青い炎』の放出量が圧倒的に多い……! もう大神君自身でも制御しきれてないんだ……!」
「な!? それじゃあ桜小路は……!」
「いや……このままじゃ全員巻き込まれてもおかしくない。あの『青い炎』は……それだけの異能なんだ」
『ッ──!』
会長の言葉に、王子と優は思わず息を呑む。人一人が扱う異能の暴走が、その場にいる全てを巻き込んでいくという予想だにしない状況。いつもならまず否定しようとするが、今まで言葉として、光景として『青い炎』がどれだけ特別な異能であるかを痛感した彼らは、もはや否定しようがなかった。
しかし、そんな絶望的な状況の中で……一人が静かに立ち上がった。
「……いかにも、私が行こう」
「会長……!?」
「桜小路君一人でダメなら二人でだ! それなら『青い炎』でもなんとかできる!」
『捜シ者』の一撃で、すでに大量の血を失った会長。立っているのも辛いはずの彼だが、残った力を振り絞るようにして走り出した。その視線の先に捉えるのは大神たち。桜のように大神に触れて、自身の珍種パワーを解放しようと──
「虹次!!」
「──『
──ビュア!
「うわっ!?」
瞬間、『捜シ者』の声が響き、名を呼ばれた
「……わかっている。
──ドカッ
全て承知している……そんな悟ったような表情を浮かべる虹次。そして、彼はそのまま近くの瓦礫に向かって……堂々と腰を下ろした。
(お前の死に様……ここで見届ける)
「……よし」
救いの手を妨害し、後は手を出そうとはしない
そして、彼は吼える。
「うおおおおお!! 『
──ガガッ!!
咆哮に似た声の後、幾重もの光が『捜シ者』の身体を通る。空間を切断する防御不可能な攻撃は、身体を燃え散らす『青い炎』を……大神の左腕ごと『捜シ者』の身体を斬り刻んでいった。
「ぐっ!」
「うわ!」
突き刺していた左腕をかき消されたことで、大神は桜と共に吹き飛ばされる。暴走していた『青い炎』だったが、かき消されたことで増すに増した火の手は一気に弱まっていく。周囲に広がり、桜もろとも燃え散らそうとした炎が消えたことで、周囲の者たちの危機は去る。
ただ一人、自らの身体を斬り刻んだものを除いて。
「──オレに勝ったと思うなよ、零! オレはお前ごときに殺されるような男じゃない!! この死はオレ自身の意志だ!」
「なっ……!? そんな、何を言って──!」
勝ち誇ったように、自信たっぷりに豪語する『捜シ者』。大神に斃されるのではなく、自らの手で死を選ぶ……そう言い放つ『捜シ者』に、桜は大きく目を見開く。
しかし、『捜シ者』は桜にはまるで目もくれず、その隣を見つめる。隣で呆然と、散り行く『捜シ者』の身体を見る……大神を。
「いいな! 間違っても自分の手柄だなんて思うな! お前が殺すよりも早く、オレが自分で死んだ! それが真実! お前はオレを殺せなかった! ハハハ! 先に地獄に逝っているぞ、零!!」
目的を果たせなかった大神を笑うように、『捜シ者』は笑みを浮かべる。
そのことを身体の芯まで染み込ませるように、何度も自分の死を言葉にして繰り返す。
「──だが、お前はまだ来るな」
「──ッ!」
そして、彼は笑みを浮かべる。
「生きろ、零。生きて生きて……苦しみ続けろ。夜な夜な殺した
言葉が進むごとに、『捜シ者』の身体が消えていく。未だ自分の身体に残った『青い炎』を連れていくかのように、散り散りに崩壊していく。
「この死よりも辛い生き地獄を……十字架を背負って歩き続けろ。お前にはそれが似合いだ」
足が、腕が、身体が……少しずつ『捜シ者』という一人の人間を構成していたものが散っていく。その中で、生き残ることこそが苦行と大神に告げていく。
最後まで──
「──お前に死など甘すぎる。苦しんで生き抜きな」
最期まで──『捜シ者』は大切なものを教え込むかのように笑みを浮かべ続けた。
──スゥ
「……さらばだ、
「うっ……! うぅ……!」
『捜シ者』の消滅と共に、大神の左腕と化していた『青い炎』が鎮まっていく。雄々しく揺らいでいたそれは、生々しい痕が残った肌色の腕へと戻った。
『青い炎』も消えたことで、改めて闘いの終わり……『捜シ者』の死が伝わっていく。独特の
「一番非情で一番辛い……。だからこそ一番、大神君に響く言葉……ですか」
「生き残るからこその罪……“悪”としても、育ての親としても望んだ結果、か」
「……つまらない。つまらな過ぎて……何も考えられない」
「悲しいんだよ……雪。お前は、悲しいから何も考えられないんだ。お前はかつての私と同じで……誰よりもあの人を尊敬していたから」
敵である『捜シ者』の最期の言葉に込められた意図について、ひっそりと呟くように考える平家と優。その傍らでは、『捜シ者』を尊敬する者と尊敬していた者が心を痛める。その痛みの意味がわからない雪比奈と、その痛みを知る王子……かつての同志が悲しみに沈んだ。
(……『捜シ者』が、死んだ────)
「…………」
その死を目の前にし、最も近くで感じ取った者である桜と大神。様々な意志が飛び交う中、桜の中には『捜シ者』の死という現実だけが響き渡る。
そして、最期の言葉を向けられた大神は……
──バサッ
なんの声もなく立ち上がり、身体に纏わりついた埃を払い落していく。そして、すっかりボロボロになった制服の上着に袖を通す。いつものように、バイトを終えて後始末をする時のように、平然と。
「お、大神……」
あまりにいつも通り過ぎる大神の姿に、桜は思わず声をかける。かけるべき言葉はあったかもしれないが、今の彼女にしてみれば名を呼ぶだけでも精一杯だった。
「…………あ、なんですか?」
「……えと、その」
一方、声をかけられた大神の様子も精一杯なようだった。誰が見てもわかるほど、明らかにワンテンポ遅い返事。どこか虚ろな眼は、声をかけた桜ではなくその後ろにある背景を見ているようだった。いつも通りなようで、いつもと違う……そんな大神に、桜は次にどんな言葉をかけるべきかと迷いだす。
刹那、鋭く煌めく物体が宙を駆けた。
──ドドド!
「ッ!」
精一杯な状態ながら、飛来する物体に反応して大神はその場から跳ぶ。その次の瞬間、巨大な氷の柱が大神が立っていた場所を貫いた。明らかに大神を狙って放たれた氷の柱。だが、この場にいる中で氷を操れる者は一人しかいない。
「やめろ、雪比奈。もう闘いは終わった」
「…………」
『水態』によって氷を操る雪比奈を、虹次が肩を掴んで止める。しかし、雪比奈は明らかな殺気を込めた眼を大神に向けたまま、ゆっくりと口を開いた。
「……『捜シ者』が死んで満足か? 答えろ……大神」
何があっても眉一つ動かさない雪比奈だったが、今の彼の表情からはハッキリとした怒りの色が感じられた。尊敬していた者である『捜シ者』の死に対する怒り……全てはそこから来た行動と言葉。
それらを向けられた大神は、フッと微笑んでみせた。
「……えぇ、満足ですよ。裁くべき“悪”は滅んだ。まぁ、最期に自ら命を絶つとは意外でしたが」
「思い上がるな。お前が生き残れたのはお前の力ではなく、その左腕……『コード:エンペラー』の力だ。……いや、それよりも堕ちたものだな。仮にも育ての親である『捜シ者』が死んだというのにその態度とは。“悪”というならば、今のお前の方がよっぽど“悪”に見える」
微笑む者と怒りに染まる者……対照的な二人が向かい合い、互いの言葉をぶつけ合う。その中で、何事も無かったかのように微笑むその態度を責める雪比奈。真正面から“悪”と断言された大神だが、彼はそれでも微笑みを崩すことなく、さらに清々しそうな表情を見せる。
「……オレは“悪”ですよ、他の誰よりも。育ての親だろうが関係ありません。アイツはオレの手で斃したかった。直接斃したわけじゃありませんが、そこまで追い詰めることができた。そのための力が他人のものだろうと、手を下したのはオレです。……だから大満足ですよ?」
今までは、『捜シ者』の名を聞いただけで尋常ではないほどの殺気を放つこともあった。それほどまでに強く、斃すことを目的としてきた者を斃した。達成感のようなものを感じるかもしれないが、その相手は過酷な戦場で共に過ごし、生き残る術を教えてくれた育ての親。
そのような存在を失った喪失感を考えると、達成感などあっという間に塗りつぶされてしまいそうに思える。それでも、大神は微笑み続ける。喪失感など欠片も感じていないように、ただただ達成感だけを胸に秘めて微笑み──
──むにっ
「噓つき」
瞬間、微笑んでいる大神の口が桜の手により大きく横に広がった。
「この噓つきの能面を剥いでくれる!」
「ひょ……!?
両頬を引っ張られ、さらにぐいぐいと上下左右へと伸び縮みさせられる大神。突然のことに戸惑う大神は、両頬からの痛みに耐えながら目の前にいる桜を見る。
そして、彼女の眼から流れる涙に初めて気付いた。
「……なんで、あなたが泣いて──」
「好きだったのだろう?」
「……え?」
桜の眼から流れる涙に、大神は思わず疑問の声を漏らす。しかしそれ以上に、桜の口から放たれた言葉が大神にとって印象的だった。印象的な言葉に上書きされた疑問は、尋ねるよりも先に桜の口からそこに込められた思いが語られた。
「どんなにひどい悪人でも、どんなに憎くても……お前にとって、大切で大好きなたった一人の兄上だったのだろう? ……だけど、もういないんだぞ?」
言葉が進むごとに、桜の声が身体と共に震える。徐々に、大神の頬を掴む両手の力も弱くなっていき、震える両手は離れていった。それでも桜は支えを求めるように両手をグッと握りしめ、縋り付くように大神の身体にそっと拳を当てた。
「どんなに会いたくても、声が聞きたくても……もうできないんだ。触れることも、声を聞くことも、笑いかけてくることも……二度とない。もう、絶対に──」
──よお。今は……零だったか? 久しぶりだな。見ないうちにデカくなったじゃねぇか。
──またバカみたいに缶詰ばかり喰ってんだろ? ま、そういうとこ気に言ってるがな。
「…………」
大神の頭の中に、『捜シ者』の言葉と顔が鮮明に浮かぶ。元の姿に戻り、記憶を取り戻した彼だからこそわかる過去の自分との違いと笑顔で口にできる軽口。闘いの中では決して見ることができなかった穏やかな雰囲気の笑顔が、まるで写真のようにはっきりと脳裏に焼き付いていた。
「なのに、お前は……!」
ふと、絞り出すような声を出す桜。数分前の出来事を思い出す大神の様子に気付く余裕もなく、わなわなと震えるほど拳に力を込め始める。
そして、涙目ながらにキッと大神を睨みつけながら、その声を荒げた。
「何が“大満足”だ、この噓つき!! 悲しいなら悲しいって言えばいいのに、どうしてお前はそれができないんだ!! 」
「……ハッ、何を言うかと思えば。オレは悲しくなんてないですよ、桜小路さん。大体、オレはそんな感情なんてとっくの昔に……
忘れ、て──」
霞む視界。
上手く出ない声。
それが意識して起きたものではないと、彼は気付く。
「……え?」
そして、眼から流れて頬を濡らす……一筋の雫があることにも。
「なんだ……? これは……?」
自分の眼から流れた液体をすくい取り、不思議そうに眺める大神。
「ッ、ぉ……大が──! ふ、ぐ……!」
その姿を見た瞬間、なんとも言えない感情が桜の中に溢れ出す。そして、その感情を発散するかのように、大粒の涙が一斉に溢れ出ていった。
まるで、大神の中を満たす分の感情も流れ出すかのように。
「どうして、大泣きしているんですか……? 桜小路さん」
「お前、が……知らないから……」
「え?」
「お前が、泣き方を知らないから……! 泣き方を知らないお前の代わりに、泣いているのだ……!」
いつの間にか大神を支えにしていた両手も離し、溢れる涙を拭い続ける。それでも涙は止まろうとはせず、桜は泣き続け、大神は静かに傍に居続けた。
「……う」
闇に沈んでいた意識がゆっくりと鮮明になってくる。何度か瞬きすると、霞んでいた視界もはっきりしてきて瓦礫の山が映る。
意識を取り戻した天宝院 遊騎は、無意識に一人の人物を捜そうと視線を動かす。そして、運よくその人物を見つけることに成功し、その名前を呼ぶ。
「し、時雨……」
顔を伏して斃れ、血を流す見知った人物。自分を憎み、敵として立ち塞がった人物。それでも、遊騎は時雨を救おうと自身の身体を起こそうとする。力を込める度に全身から激痛が走り、意識を再び持っていかれそうになる。その極限状態は、大神たちにまで意識を向けられないほどだった。
それでも、遊騎は時雨に向かって手を伸ばし──
──ザァ
「ッ!?」
瞬間、時雨の身体が塵になって消えていく。その身体どころか、流れた血まで塵と化していく。何事かと思った遊騎だったが、すぐにその正体について理解した。
(これは、『灰塵』の
「……オレが本気で『捜シ者』のような“
渋谷荘の外……電柱の上から古びたその建物を見下ろす一人の人物。その手には、開きかけた光り輝く箱が浮かんでいた。その人物……時雨は傷一つ無いその身体で、音もなくその場を後にした。
CODE:NOTE
Page:47 『絶対空間』
『捜シ者』が操る異能。空間を自在に操ることができ、空間を消したり足したりすることで一瞬で距離を詰めることも空けることも可能。しかし、物体ごと空間を消すのは不可能かと思われる。
移動以外に、空間を切断することであらゆるものを切ることができる『
※作者の主観による簡略化
実際のところただのチート。