CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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いよいよ『捜シ者』篇もクライマックス!
復活の大神!
力ずくで優を止めた彼の真意とは!
最終局面を前に、大神と『捜シ者』の過去も明らかに!
色々と詰め込んだ一話となっております!
それでは、どうぞ!





code:66 「悪には悪を」

 夢を見た

 幼い頃の、懐かしい夢を

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこでも彼は、勝ち誇ったように笑っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハァーハッハッハ! “(クズ)”共が! オレを斃して、コイツの左腕を奪うんじゃなかったのか!?」

 「…………」

 幼い大神と『捜シ者』……二人の旅には常に敵という第三者の存在があった。多くは大神が持つ『コード:エンペラー』の左腕を狙った者たちだが、中には『捜シ者』を斃して名を上げようという者もいた。今回の者たちは前者。十分すぎるほどの武装をし、すでに人がいなくなった廃墟で彼らを襲い、左腕を奪おうとした。

 「うぐ……! ば、化物が……!」

 「おっと、まだ生きてたか。めんどくせぇ……」

 ──グシャ!

 「がっ──!」

 しかし、結果は悲惨なものだった。可能な限りの武装と人数を集め、その気になれば村一つ全滅させることはできるほどの規模になった。それでも、『捜シ者』という一人の人間に挑むには足りなかった。どんな武器を使おうと、何人で襲いかかろうと……彼はポケットから手を出すこともなく全滅させた。

 そして、生き残っていようと慈悲はない。生きていれば、なんの容赦もなく止めを刺す。それが『捜シ者』という男のやり方だった。

 「…………」

 そんなやり方を何十回と間近で見てきた大神は、人の命が途切れる瞬間を目の前にしても何の反応もない。同じ年頃の子どもならば恐怖で動けなくなるような光景にもかかわらず、彼は眉一つ動かさずに消えていく命を見送った。

 「おい」

 「?」

 すると、沈黙を続けていた大神に向かって『捜シ者』が声をかけた。突然のことに大神は首を傾げ、ジッと『捜シ者』を見上げる。だが、『捜シ者』は声をかけておきながら視線を合わせようとはせず、そっぽを向いたまま続けた。

 「お前から見てこいつらはどうだ? 気の毒に見えるか? それとも自業自得か? ……オレから言わせれば完全に自業自得だ。力の差も理解せず、ただ自分たちの欲のために動いた結果こうなった。そもそも、殺す気でかかってきた以上、自分が殺されるのも当然だ」

 「…………」

 返答こそしないものの、大神は『捜シ者』の言葉を否定する気は無かった。殺す気で向かっていくのならば、逆に殺されてしまうのも十分にあり得る。むしろ、正当防衛として成り立つようなものだ。(『捜シ者』がそう考えて行動したかは別だが)

 自分の欲のためだけに武器を取った者たちの末路……そう考えると、『捜シ者』の言葉は真理であり、桜のように命を無条件で大切にする者でもない限り真正面から反対するのは難しいだろう。

 「さて、そろそろ行くぞ。何度襲われようが関係ないが、居座り続ければまた同じような連中が来る。雑魚の相手など面倒なだけだ」

 そう言って、『捜シ者』は大神に背を向けて歩き出す。結局、彼がどんな意図をもって大神に先ほどの言葉を投げかけたのか明かされないまま。

 後を追おうと歩きだした大神。だが、それ(・・)を見つけた瞬間、その足を止めた。

 「う……」

 斃れた者たちの中の一人、中年の男がもぞもぞと動いていた。その位置は背を向けている『捜シ者』からは死角となっており、気付かれていない。このままいけば、彼は幸運にも生き残ることができる。

 「…………」

 大神はチラリと、歩き続ける『捜シ者』を見る。振り返る気配はない。余計な物音を立てなければ、このまま気付かれないかもしれない。

 「……!」

 すると、大神はなるべく足音を立てないように注意しながら、男の傍へと歩み寄った。そして、手錠で繋がれた両手で男の背中へと手を伸ばす。苦しそうに呻く男の姿を見て、大神は少しでも彼を楽にしてやろうと考えたのだ。そのまま背中をさすろうと、ゆっくりと手を──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ピン

 小さな、栓を抜いたような音が大神の耳に届く。だが、その音が何なのか理解するよりも先に、大神の視界は閃光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ドォン!!

 一帯を包み込むような閃光の後に、凄まじい爆音がビリビリと空気を震わせる。それらが止んだかと思うと、大量の煙が視界を封じ、むせ返るような火薬の臭いが充満する。栓を抜いた音と、その後に起こった爆発。言葉で説明するよりも、この状況自体が全てを物語っていた。

 男が使ったのは、手榴弾。死ぬなら道連れに……とでも考えたのだろう。それとも、最初からそのつもりだったか……今ではわからない。どちらにしろ、男は限界に近い意識だったのだろう。誰か近づいてくることだけ感じ、それを『捜シ者』と信じて自爆した。

 しかし、実際に彼の元に歩み寄ったのは大神。そして、爆発に巻き込まれたのも……大神である。最後の自爆すら標的には届かず、代わりに幼い大神がその犠牲に──

 「──チッ、下らねぇ。“(クズ)”の分際で余計なことしやがって」

 「…………」

 大神は……無傷だった。あの至近距離で爆発を受けたというのに、身に纏ったものが焼け焦げたような跡もない。彼が受けるはずだった衝撃や痛みは……全て『捜シ者』が引き受けており、彼の身体の実に半分ほどの皮膚が弾け、大きな火傷まで負っていた。

 『絶対空間』による移動で大神と男の間に一瞬で移動した『捜シ者』は、大神を少しでも下がらせようと手で押しのけた。もっと余裕があれば大神ごと移動できたかもしれないが、どうやらそこまでは間に合わなかったらしい。結果として、大神を護る(・・・・・)にはこれが最善の方法となった。

 「ったく、このバカが! 一番余計なことしてんのはテメェだ! “(クズ)”の心配する暇があったら、オレの役に立つ努力をしやがれ!」

 ドン、と苛立ったように『捜シ者』は大神を押す。傷を負ってすぐのため力が入らないのか、いつもなら倒れてしまう大神もなんとか持ちこたえていた。それがさらに気に喰わないのか、『捜シ者』は大きく舌打ちしながら大神に背を向けた。

 「チッ、クソが! ……『細胞再生』」

 ──ゴポ、ゴポ

 背を向けたまま、それ以上は何もしない『捜シ者』。小さく呟いた後、『細胞再生』で弾けた皮膚と火傷を治癒させ始めた。ゴポゴポと聞き慣れない音が鳴り続ける中、それに混じって他の聞き慣れない()が聞こえてきた。

 「ぐ、く……! つっ……!」

 「…………」

 それは、何かに耐える声。『捜シ者』の口から意図せずして漏れている声だった。大神は今まで、『捜シ者』が何かに耐えるところを見たことなど無かった。モノでいえば、耐えるような状況になる前に奪い取っていた。痛みなども、そもそも感じる前に全てを終わらせていた。

 今、『捜シ者』が耐えているのは痛みなのか、それとも『細胞再生』に伴う異能の消費なのか。大神にはわからない。わからないからこそ、彼には黙ってその様子を見ていることしかできなかった。

 「ハァ、ハァ────ッ!」

 ふと、自分を見ている大神の姿が視界に入った。ついさっきまで、目の前で爆発という命の危機にいたというのに、いつもと変わらぬ無表情のままでいる少年の姿が。ただ見ているだけ……それを理解していても、『捜シ者』は反射的に動いた。

 「何を見ていやがる!」

 「ッ!!」

 容赦なく、『捜シ者』の足が大神の顔を蹴り飛ばす。ただ反射的に、苛立ちをぶつけるかのような『捜シ者』の暴力に、大神はその場に倒れる。蹴られた衝撃で口内が切れ、鉄臭い血が口から流れていく。

 しかし、大神はそれを腕で拭うと、黙って『捜シ者』を見上げる。向かっていこうとも、距離をとろうともせずに。ただ黙って、『細胞再生』ですっかり元通りになった『捜シ者』の姿を見ていた。

 「この……!」

 今の自分の姿を見られていることに不快感を感じ、反射的に手を出した『捜シ者』。それでも自分のことを見続ける大神の姿に、思わずまた手が出そうになる。

 「……チッ」

 しかし、再び大神が傷つくことは無かった。大きく腕を振り上げた『捜シ者』だったが、真っ直ぐと自分を見つめる大神の姿を見て、苛立ちを感じながらもゆっくりと手を下ろした。

 そうして、『捜シ者』は再び『細胞再生』による治癒を行い、自爆によって受けた傷を完治した。その上で、『捜シ者』は大神を見下ろしながら口を開いた。

 「……『細胞再生』は細胞一つひとつを再生して治癒する異能。細胞単位で治癒するこの異能は、ただでさえ異能を大量に消費する。傷が大きければ大きいほど余計にな。……お前にこの話をするのは初めてだが、少なくともオレに隙ができたことはわかったはずだ」

 何を思ってか、弱点ともとれる情報を『捜シ者』は語り出した。いくら大神との間に力の差があるといっても、そういった情報は知っているだけでも価値がある。『捜シ者』にとっては損でしかない言葉を語り、彼はその上で大神に問いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お前……どうして逃げなかった?」

 「…………」

 その問いに、大神は何も答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ガシャン!

 大神が答えないでいると、彼の目の前に缶詰が大量に入ったリュックが乱雑に置かれた。カンパン、甘口カレーなど、缶詰の中身は子ども用のものばかりだった。このリュックが何を意味するのかわからず大神が首を傾げると、『捜シ者』は静かに背を向けた。

 「……お前には飽きた。それ持って、とっとと消えろ」

 ──キィン!

 ボソリと、それだけ呟くと『捜シ者』はゆっくりと歩き出した。さらに、大神の両腕を封じていた手錠を『空間切断(SEVER)』で破壊し、完全に彼を自由にした。

 突然の解放に、大神はその場に立ち続ける。ただ静かに、自由になった自分の両手を見つめていた。すると、『捜シ者』が歩みを止めないまま再び呟いた。

 「世の中には“悪”しかいない……オレのこの考えは変わらねぇ。“正義”なんて言葉を振りかざして無意味な犠牲を増やしていく……それができるのは、そんな“悪”が世の頂点に立っているからだ。だからオレは絶対悪として頂点に立つ。そして、犠牲を強いるクソみてぇな考えを持っている気に入らねぇ連中を一人残らず殺す。……他の奴らから見れば、オレも無意味に人を殺す“悪”。所詮は“悪”同士の自滅、ってことで終わる」

 それは、彼が思い描く理想。彼が受けた過去の経験から生まれた、不動の思い。ふと、『捜シ者』は立ち止まって空を見上げる。後ろにいる大神は顔の半分ほどしか見れなかったが、その眼はどこか遠い所を見ているようでもあった。

 「……色で言うなら、“悪”は黒だ。黒を塗りつぶすには、より濃い黒であるしかない。そして、黒は他の色があろうと、黒に染め上げる。『悪には悪を』……“悪”を消すなら、自分がより強い“悪”になるしかない。誰よりも強い“悪”になり、世界をオレの色に染め上げる……オレには、そんな方法しか思いつかなかった」

 自分をあざ笑うかのように、ククッと喉を鳴らす『捜シ者』。そこまで語ると、『捜シ者』は再び歩き出す。大神の方には振り向かず、ただ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……お前は、オレのようにはなるな」

 自分の願いだけを、彼に向けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 その言葉だけで、『捜シ者』()を理解できたとは思わない。それでも、少しは近づけたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──タッタッタ

 そして、もう少しだけ近づいてみたい……ほんの少しだけ、大神はそう感じて足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ついてくんじゃねぇ!!」

 ──ゴン!

 「……痛ぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見た。幼い頃の、懐かしい夢を。

 そして、彼は夢から覚める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ゴッ!

 「大、神──!?」

 『捜シ者』の一撃により、すでに再起不能に陥っていたと思われていた大神。しかし、その彼が再び立ち上がり、味方であるはずの優に拳を放った。完全に不意を突かれた優は、踏ん張ることすらできずに倒れ込む。

 「零! お前、何をしていやがる!?」

 味方を攻撃するという大神の行動に、王子は彼の無事を喜ぶよりも先に行動の真意を問いただそうとする。

 「…………」

 ──ガッ!

 しかし、大神はその問いに答えようとはしない。それどころか、倒れた優の胸倉を掴んで無理やりにその身体を起こさせた。

 そして、大神は怒り(・・)を込めた眼を向けた。

 「人が気絶し(落ち)てる間に余計なことしてんじゃねぇ……。アイツは、オレが斃す」

 「……やっぱり、そこかよ。つか、もっと他に止め方あっただろ……」

 「勝手に人の代わりを語りやがったんだ。こっちだって勝手に止めてやる。……わかったら、隅の方で大人しく治すことに集中していやがれ」

 それだけ言うと、大神は胸倉を掴んでいた手を離す。重力に従って座り込む優に背中を向け、大神はそのまま歩き出す。その先には……『捜シ者』が傷一つ無い状態(・・・・・・・)で立つ。再び自分の前に立ちはだかる大神の姿を見て、彼はニヤリと笑みを浮かべる。

 「どこまでもどこまでも……ゴキブリ以上にしぶとい野郎だな、お前は。……さっきまでオレの身体を燃やしていたお前の炎は消えた。それでもお前はまだ……オレを斃すつもりか?」

 「関係ねぇ、炎が消えたならもう一度くれてやるよ。今度は……ちゃんと死ねるまでな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ゴオッ!

 「テメェは、オレが燃え散らす」

 ──キィン!

 「その前に、オレがテメェを殺す」

 大神の左腕でもある『青い炎』が猛り、『捜シ者』の指先が空間を切り裂こうと輝く。向かい合う二人の間にあるのは……もはや殺気のみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おおおおお!」

 「ハッ! それが本気か、零!」

 『捜シ者』の姿をその眼に捉え、確実に当てようと大神は左腕を振るう。しかし、『捜シ者』はそれを全て紙一重でかわしてみせる。『絶対空間』による移動ではなく、その場で身体を動かして。大神の動きを見切り、余裕の笑みを浮かべている。

 だが、大神も突っ込むだけで終わるわけではない。

 ──ゴアァ!!

 「くっ! また火種か!」

 「オラァ!」

 動きを見切られている以上、『捜シ者』はもちろん隙を突いて攻撃してくる。だが、その瞬間に大神の目前に青色の火柱が立つ。火種を発火させることで火の壁を発生させ、『捜シ者』からの反撃を封じていた。さらに、そうして怯んだ隙に次の攻撃に移っている。

 「はああああ!」

 「がああああ!」

 全力で、自分が持つ全てを懸けて闘う二人。何かの拍子に攻撃が当たる度、互いにその姿を捉えた視線が交差する度に、大神の中で今までの記憶が蘇る。決して幸せとは言えない、非日常な日常の日々が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「邪魔だ! 二度とオレの前を通ろうとすんじゃねぇ!」

 「ッ──!」

 理不尽な理由で、何度も痛めつけられてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハハハ、いいぞ! もっと楽しませてみせろ!」

 「……冷てぇ」

 彼が女に囲まれ豪勢な食事があっても、自分は隅っこで冷えた缶詰だけを食べてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「休める時に休め……死にたくなければそうしろ」

 「…………」

 それでも、休む時や眠る時は隣にいさせてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「心配はいらない、大丈夫さ。お前にはオレがついている」

 「オレ、には……」

 あの日(・・・)……母を殺し、異能を失ってからも兄でい続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「自宅にいる時こそ用心するべきだ。侵入者用のトラップを欠かしてはいけない」

 「……わかった、気を付ける!」

 あらゆることを教えられ、そのおかげで生き残れたことが何度もあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──いいかい、約束だ。人殺しはダメだ。もちろん、お前が死ぬのもダメだ。この手袋は、人を傷つけないための“お守り”だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──うおおおおおお!!」

 ──ドッ!

 その全ての思い出を断ち切るかのように、巨大な炎と化した左腕が『捜シ者』の胸を貫いた。優との闘いのことを考えると、有効な一手と思える。

 しかし、『捜シ者』は何も問題は無いように笑みを浮かべる。

 「ハッ! 夜原 優の真似事か! だが、『細胞再生』がある限り『青い炎』で貫かれようが痛くもかゆくも──!」

 『細胞再生』により、傷口の治癒を始めようとする『捜シ者』。だが、そこで彼は気付く。あまりに決定的な、その違和感に。

 「な、なんだ……!? 心臓が、再生しないだと!?」

 大神の左腕が突き刺さっている箇所は……完全に心臓を貫いていた。『細胞再生』は心臓だろうと治癒させることが可能らしく、それこそが『捜シ者』が余裕を保ってきた理由だった。

 しかし、その心臓が一向に再生しない。異能がロストしたわけではなく、その他の異常もない。何があったか考えを巡らせていると、大神が冷静に告げた。

 「オレの左腕が突き刺さって、燃やし続けているからだ。どれだけ『細胞再生』を使おうが、オレの左腕が胸を貫いている限り心臓は再生されない。そして、直に触れているから『絶対空間』で逃げることもできない。……もう終わりだ」

 心臓が再生されず、失った状態が続く。その先に待っている結果は、誰もが予想できる。異能者とはいえ、身体の構造は人間と同じ。心臓を失えば、その先にあるのは……死、のみ。

 「クソが! その手を離しやがれ! 『空間切断(SEVER)』──!」

 ──ゴアッ!!

 「ぐはっ!」

 「……たとえ死んでも、絶対にこの手は離さない」

 離れられないなら、と『空間切断(SEVER)』で大神の左腕を掻き消そうとする『捜シ者』。しかし、『捜シ者』から放たれた光が左腕に向かうよりも先に、貫いている左腕がより強く勢いを増す。身体の内側から放たれた『青い炎』はすぐに全身まで広がり、その熱さと痛みに『捜シ者』は大きくのけぞる。

 さらに、大神が意地でもとその場から動こうとしない。たとえ左腕が掻き消されたとしても、完全に消える前により大きな炎を灯すくらいの覚悟が見て取れた。そんな大神の覚悟を感じ取ってか、『捜シ者』は抵抗ではなく強気な言葉を口にした。

 「ハッ! そうまでオレを殺したいか!? オレが憎いか、零!!」

 心臓を燃やされ続け、その状態が長く続いたためか『捜シ者』の口元から血が溢れ出る。死に近づく体でも、『捜シ者』は強者としての態度を崩そうとはしない。あくまで強気な笑みで、強い口調でその言葉を投げかけた。

 その『捜シ者』に対し、大神は左腕で大きく猛る炎とは真逆……冷静な口調で、呟くように言葉を返した。

 「……そうさ。アンタは最低の“(クズ)”だ。アンタと一緒に回った戦場でも、『コード:ブレイカー』として裁いてきた“(クズ)”共でも……アンタ以上の“(クズ)”はいなかった」

 「当然だ! それがオレの目指した道! オレは絶対悪として“(クズ)”共の頂点に──!」

 「──それでも!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも……アンタはオレにとって、たった一人の味方だった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どんな“悪”が目の前に現れようと、完膚なきまでに斃してきた

 

 

 

 

 

 

 どんな方法を使われようと、絶対に護ってくれた

 

 

 

 

 

 

 だから、誰よりも信じられた

 だから────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──だからオレの手で斃す。アンタが他の奴に斃されるトコなんて、死んでも見たくねぇんだよ」

 すがりつく子どものような眼で、どこか悲しげな表情で……大神は、胸の内に秘めたその思いを『捜シ者』へと告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「零……」

 「オレはアンタのようにはならない。何があろうと……絶対に。でも──」

 大神の言葉に、『捜シ者』は大きく目を見開く。瞬間、彼の肌がボロボロと燃え散っていく。意識してか、それとも無意識か。今まで身体が燃え散ることを妨げてきた『細胞再生』が止まっていた。

 服も、髪も、皮膚も、何もかも……徐々に燃え散っていく。その姿を前に、大神の全身は小さく震え始める。それでも彼は左腕を離そうとはせず、絞り出すように最後の言葉を投げかけた。

 「『悪には悪を』──アンタの嘘のない、この言葉が好きだった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
今回も自己解釈満載でお送りしました
ついに決着が見えてきて、『捜シ者』篇も残りわずかとなりました
この勢いを保ち、少しでも早く更新していこうと思います!
また次回、よろしくお願いします!



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