月末の方に色々立て込んでしまい、作業が遅れました……!
さて、全力でぶつかる大神と『捜シ者』の闘い!
クライマックスを迎えようとしている局面で……あの人物が立ち上がる!
それでは、どうぞ!
『渋谷荘』地下にて人知れず行われている、『コード:ブレイカー』と『捜シ者』たちの闘い。それぞれ激闘を繰り広げていった彼らだが、すでにその闘いも最後が近いことを誰しもが少なからず感じていた。
『パンドラ
「……ク、クク」
異能『絶対空間』により圧倒的な力を見せつけた『捜シ者』だったが、大神は『青い炎』を真の意味で使いこなしていくことでそれに追いついていく。現に、一度は『捜シ者』の身体を燃え散らそうと『青い炎』が彼を呑み込んだ。
だが、『捜シ者』は何の躊躇も迷いもなく、自身の身体を傷つけることでそれを無効化する。結果として深い傷を負うこととなった『捜シ者』だが、彼は深く俯きながら不気味な笑い声を静かに上げる。
「クク、面白れぇことを……クハッ、言うじゃねぇか……」
「…………」
ぼたぼたと、音を立てて流れ落ちる血に混じって響く『捜シ者』の笑い声。自分で自分を傷つけ、挙句に笑い続ける異常な行動に、大神は警戒を最大限に高めて『捜シ者』を見据える。すると、彼から発せられる
──ゴポ、ゴポゴポ
「誰が……ククク、誰を斃すって……?」
「な──!?」
突然、何かが泡立ったような音が響き渡る。それが大きくなるのと同時に、彼の身体から流れ出ていた血が
異常な行動に続き始まった異常な光景に、会長は大きく目を見開く。しかし、彼はかつて『捜シ者』の師として共に暮らし、道を示した身。その光景の原因には一つだけ覚えがあった。今の状況を考えれば、間違いなく最悪とも言える事実が。
(ま、間違いない……! これは異能『
「ハーハッハッハ! 絶望しろ、零! 誰にもオレを斃すことはできねぇ! 絶対にな!」
生まれながらに持っているという異能……今までの異能者を見る限り、一人につき異能は一つというのが当然だと誰しも思うだろう。しかし、現実は違った。
空間を完全に支配する『絶対空間』と細胞を再生することで異常な速度で傷を治癒する『細胞再生』。攻撃を当てることすら難しい上に、当てたところで一瞬で治癒してしまう……味方ならばこれ以上ないほど頼りになる組み合わせだが、敵となると絶望しか感じないような悪魔の組み合わせ。
その力をもって、勝ち誇ったような笑いと共に顔を上げる『捜シ者』。その身体のどこにも、先ほど刻まれたはずの傷は残っていなかった。改めて自身こそが絶対の頂点であることを思い知らせるような『捜シ者』の行動だったが、大神は……
「……何度も言わせんじゃねぇ。
変わらず『捜シ者』の前に立ちはだかる大神の眼には、絶望など欠片も存在していなかった。むしろ、彼は最初からこの状況をわかっていたようだった。全てをわかった上で、彼は闘い続けていた。
そして、彼は再びその闘いを始める。
「──燃え散れ!」
──ドン! ゴアァァァ!!
「ぐおおおぉぉぉぉ!!」
未だ左腕として燃え続ける『青い炎』で、大神は床を殴りつける。その瞬間、『捜シ者』の足元から巨大な青い火柱が上がり、再び『捜シ者』を呑み込む。殴られた時と違い全身に燃え移った『青い炎』に、『捜シ者』は切断による無効化もできず地を唸らせるような叫び声を上げる。
「大きな傷を『細胞再生』している間、テメェは極端に動きが鈍くなる……さっきのようにな。その間に新しい火種を足元に潜ませておいた。全身に燃え移った以上、切断もできないし、燃えている状態じゃ『細胞再生』をしたところで、燃え散った皮膚が治癒されるだけで『青い炎』は消えない。今度は死ぬまで痛みと恐怖を味わいな」
無意味かと思われた外側からの攻撃だが、無効化できないほどの範囲……全身を一度に攻撃することで決定打としてみせた大神。さらに、同時に『細胞再生』すら一種の足枷としてみせた。燃え散らないよう治癒したところで『青い炎』は消えないため痛みは続き、痛みから逃れようと治癒をやめれば全て燃え散っていく。文字通り、生き地獄を『捜シ者』に与えてみせたのだ。
一気に形勢逆転となった大神……だが、事態は思わぬ流れとなる。
「……下らねぇな。痛みだと? 恐怖だと? お前の言葉、そっくりそのまま返してやるよ……
『青い炎』にその身を焼かれながらも、『捜シ者』の言葉に変化はない。弱る様子も無く、ヤケになる様子も無い。強いて言うならば……
「この傷の疼きに比べれば! オレが抱いた憎しみに比べれば! こんな炎、心地よささえ覚えるな!」
「なに──!?」
『細胞再生』しても消えない古傷をなぞり、
すると、それが隙となり『捜シ者』は大きく拳を振りかざした。
「このまま全員死んでいけ! 『
──ズンッ!!
「チィ!」
「うわああ!」
『青い炎』に身体を蝕まれる中、『捜シ者』が拳を振り下ろす。瞬間、数メートルは離れているはずの地点を中心に、周囲が円形に押し潰されて崩壊していく。その円形の範囲に巻き込まれた大神と会長も、崩壊に巻き込まれていく。まるで重力そのものが重くなったような負荷を感じながら、二人はなんとか体勢を立て直そうとする。
「ハハハ! 『
「しまっ──! 桜小路さん!」
空間をぶつける『捜シ者』の攻撃により、中心となった地点から崩壊していく。最悪なことに、すでに『捜シ者』の攻撃で崩れかけていたこともあり、その崩壊はそのまま広範囲を巻き込んでいく。
『捜シ者』の攻撃を受けて倒れた桜たちがいる地点も例外ではなく、ビキビキと音を立てて亀裂が走っていく。そして、そのまま地中に向けて崩れていこうと──
「気ィ抜いてんじゃねぇぞ、零!!」
刹那、叱るような大声と共に黒き空間が桜たちを優しく包み込んだ。
「皆のことは私が護る! 私の『影』が皆の盾にして、この命に代えても絶対に!」
「王子! お前、そんな傷で……!」
見ると、全身に重傷を負った王子が息を切らしながら『遮影』を展開していた。桜たちをまとめて包み込んだ『影』は絶対防御の空間となり、周囲の崩壊による影響を無効にした。
だが、見るからに限界を迎えている王子のことを考えれば、それも長くはないかもしれない。王子の身を案じる大神だったが、そんな大神を王子は真っ直ぐ睨み返した。
「余計なことに気を回してんじゃねぇ! お前はお前の決着をつけることだけに集中しろ! 『捜シ者』を……あの人を止めるんだ!」
「王子……」
自分を含めた仲間の安否を「余計なこと」と切り捨て、王子は大神にやるべきことをやるよう諭す。自らの命を懸けて仲間を護り、同時に大神に全てを託した彼女の思いを感じた大神はグッと拳を握る。
だが、その思いを挫くように一つの影が王子に向けて落下していった。
「コソコソと逃げ出したかと思えば……。『捜シ者』の邪魔はさせない!」
「雪比奈──!?」
どうやら王子を追ってきたらしく、雪比奈は落下しながら周囲に氷を生成する。生成された氷は重力も加わって普段の倍近い勢いで落下していき、周囲に『遮影』を展開したことで隙だらけになった王子を完全に捉えていた。
しかし、忘れてはいけない。先ほどまで彼らがいた空間にいた、もう一人の存在を。
──キィン!
「私は『光』……その気になれば光速での移動も可能なのです。その私を相手にしておいて、他の者を追えると思っているんですか?」
「どこまでいっても……面倒な奴だ!」
光速で移動することで先回りしていたのか、落下した氷は平家が横から放った光線によって粉々に砕かれる。彼らの間にある因縁に加えて徹底的に邪魔をする平家の姿に、雪比奈は今までにないほど感情……殺意を表に出して攻撃を続けた。
「う、うう……」
再開された平家と雪比奈の激闘の近く。『捜シ者』の手によって引き起こされた崩壊で瓦礫の山と化した場所にいた会長は、腹部の傷から感じる痛みに耐えながら顔を上げる。すると、そこには二人の男が荒ぶる感情のままぶつかり合っていた。
「おおおおお!!」
「いくら燃やそうと無駄だ! オラァァァ!」
全身に負った深い傷と共に闘い続ける大神と、身体を『青い炎』で燃やされたそばから治癒を続けて痛みを受け続ける『捜シ者』。両者の勢いは衰えることは無く、加わってきた王子たちの存在すらもう無視しているようだった。
そんな両者の……強いて言えば『捜シ者』の闘う姿に、会長はただただ脅威を感じていた。
「燃えたそばから再生し続けるとは、なんて異能量なんだ……。身体も死ななければ心も死なない……何が、君をここまで……」
「まったく、大した化物だ」
「こ、虹次君……」
すると、瓦礫に座って王子と同じようなボトルでウィスキーを飲む虹次が入ってくる。未だ続いている崩壊をものともしないように、彼はそのままほくそ笑むような表情で会長を見て……静かに問いかけた。
「でも……アイツをあんな化物に
「そ、それは……」
虹次の問いに対し、会長は途端に口ごもる。その態度は、明らかにその問いの答えを知っている者の反応だった。
だが、その反応が返ってくるのを虹次もわかっていたのだろう。彼は再びウィスキーを口にしてから、ゆっくりと真実を語り始めた。
「そもそも、“エデン”には『コード:ブレイカー』とは別の異能者たちが存在する。『コード:ナンバー』などという番号ではなく、各々が『コード:ネーム』が与えられるほどの実力を持った者たちが」
「……その通りだよ。高い知性に、優れた二つの異能……正義を愛し、人命を心から思いやることができる気高き心。宇宙の理の探究者とも呼ばれる者『
『コード:ブレイカー』以外にも存在していたという異能者の存在。今まで大神たちが話してこなかったことを考えると、彼らはその存在すら知らないかもしれない。もっとも、かつてのエースであった人見や古くから“エデン”に所属している平家ならば知っているかもしれないが。
そんな存在に名を連ねていた一人が……まさに『捜シ者』。『コード:シーカー』という『コード:ネーム』を与えられ正義を行使した実力者。だが、そこにこそ彼が変わった理由はあった。
「周囲の状況や些細な人の動作から全てを察する、まるで人の心を読んでいるかのような洞察力。何を考えているのか、凡人には到底計り知れないほどの独善主義。おまけにあの異能だ。その高すぎるスキルは周囲に恐怖に似たものを与え……
結果として、“エデン”はアイツをまだ見ぬ脅威として抹殺を企てた」
──なぜ、私が?
──私が何をした? 何か間違っていたのか?
──これが、
──何が正義だ
──
──私は……いや、オレは!
──ならばオレは絶対悪となり、全ての者に復讐を!!
ただ自分の信じる正義のために行動してきた。そんな彼の持つ力を危惧し、切り捨てた“エデン”。結果として全てに復讐を誓った『捜シ者』の行動は正当なもののように思えてしまう。さらに、言ってみれば今の状況は当時の“エデン”が招いた状況とも言える。
「……そうさ、彼は何一つ悪くなかった。全ては、“エデン”が勝手に恐怖して勝手に彼を切り捨てただけ。今でも彼のロストを、『刻を遡る』姿を見ると思い出すよ……。もう二度と見ることができない、あの純粋な笑顔を……」
『──お師匠様』
無力な自分を悔やむように、グッと拳を握りしめながら会長は呟く。瞬間、頭の中にかつて見た『捜シ者』の姿が思い浮かぶ。今となっては過去の姿……大神と瓜二つな姿で、大神とは正反対に素直で純粋な笑顔を浮かべる『捜シ者』。その優しき声と笑顔の持ち主は……すでに復讐の化身と化した。
「アイツがいくら『細胞再生』しようとあの古傷を消さないのは、その憎しみを消さないためなんだとオレは思いますよ。まぁ、何があってもオレは死ぬまでアイツの『
消えずに残る“エデン”に抹殺されようとした時に刻まれた古傷。彼にとって憎しみの象徴とも言えるその傷は、いかに『青い炎』に包まれようとしっかりと刻まれている。
そうした強い意志を持つ『捜シ者』を『
「ハァーハハハ! 無駄だってわからねぇのか、零! いくら燃やそうとオレは死なねぇぞ!」
「関係ねぇ! テメェが死ぬまで燃やし続ける!」
──ガキッ!!
『青い炎』に燃やし続けられる者と『青い炎』を操る者……『捜シ者』と大神の拳が真正面からぶつかり合う。今までなら『絶対空間』によって難しかったぶつかり合いだが、今となってはそれが当然となっている。全身を『青い炎』で焼かれ続けて『細胞再生』による治癒を行っているため、『捜シ者』にとっては拳による傷など気にならないのだろう。
だが、『細胞再生』を持たない大神は確実にダメージを負っていく。すでに何度も殴られ、大量に出血している。しかし、それでも彼の拳の勢いは衰えない。
「おおおおお!!」
──ゴッ!
「ぬぅ!」
そして、彼の左腕による拳が『捜シ者』の顔を殴り抜ける。『青い炎』と化している彼の左腕に殴られたことで、痛みと熱さが『捜シ者』を襲い、その身をのけぞらせる。
だが、全身を『青い炎』で焼かれる彼にとっては、そんな痛みと熱さはあってないようなものだった。
「この、クソがァァァァ!!」
──ドゴォ!!
「ぐあ!」
お返しとばかりに、『捜シ者』の拳が大神の顔面を真正面から捉える。大神と比べてはるかに大きい体格から繰り出された拳の威力に、大神はなんとか踏ん張ろうとするが無情にも身体が吹き飛ばされる。幸いにも後方にあった瓦礫に突っ込んだことで距離が開くことは無く、大神はすぐに立ち上がろうと──
「これで終いだ……零。
『
「──ッ!!」
刹那、『捜シ者』の手から圧縮された空間が放たれ、大神の身体を瓦礫ごと押し潰した。
「──…………」
瓦礫の下、血だまりと共に顔を床に伏せる大神。立ち上がろうとする気配は……まるでない。
──オオオオオォォォォォォ…………
『捜シ者』の身体を燃やしていた『青い炎』が……
「れ、零ィィィィィ!!」
「大神君──!?」
「……やっと終わったか」
全てを見届けていた王子の悲痛な叫びにより、離れた場所で激闘を繰り広げていた平家と雪比奈も戦いの結末を知る。まさかの結末に平家は大きく目を見開き、雪比奈はフッと笑みをこぼす。
「『
今まで闘いのために出していた両手をゆっくりとポケットにしまいながら、雪比奈は大神の敗北を確信する。いや、正確に言えば敗北ではない。もっと重く、信じられないような事実……
「オレの身体を燃やしていた『青い炎』が消える……それが起こるのはアイツ自身が消そうとするか、維持できなくなった時。そう、今のように……死ぬことでな」
「────」
死を告げる『捜シ者』の言葉に、大神は何も答えない。ピクリとも動かず、ただ自分の身体から流れた血だまりに顔を伏せている。
──ゴォォォォ……
ただ静かに、すっかり弱々しくなった左腕の『青い炎』が揺らめくだけだった。その指先すら、少しも動く様子がない。
「さて、後はその忌まわしい
その左腕を見据えて、『捜シ者』がゆっくりと大神に歩み寄る。最後は自分の手で決着をつけようと、高々と手刀を振り上げる。その眼に迷いはなく、勝ち誇った笑みを浮かべて『捜シ者』は別れの言葉を告げた。
「──あばよ、零」
『捜シ者』の手刀が、左腕を切り落とそうと左肩に向けて振り下ろされた──
──ゴキャ!!
「がっ!!」
瞬間、『捜シ者』の背後から全身の骨を砕くような衝撃が走る。完全に不意を突かれた一撃に、『捜シ者』は思わず膝を突いた。あまりに突然のことに、王子は周囲を見渡す。
「な!? 今の、いったい誰が──」
「…………」
「優!?」
『捜シ者』のはるか後方……何かを投げた体勢のまま立つ優の姿に、王子の眼が大きく見開かれた。
「……いくら一瞬で避けられるといっても、攻撃に気付かなければ避けられない。だからオレが投げたただの瓦礫でも当たる」
「夜原、優……!」
「大神に意識を向けすぎたな……『捜シ者』」
「最後の抵抗のつもりか……? 随分とくだらないことをするじゃねぇか……」
全身に広がったダメージを感じながら、『捜シ者』は振り向いてギロリと優を睨む。それに対し、優は掌についた瓦礫の欠片を払いながら、チラリと大神を見る。
「……悪いな、大神」
ボソリと、誰にも聞こえないほど小さな声で優は大神に謝罪する。それがどのような意味を持つのか、それは優にしかわからない。だが、その謝罪から覚悟を決めたように、優はゆっくりとその場で構える。
「来い、『捜シ者』。大神に代わって……オレがお前を殺す」
以上、次回は優VS『捜シ者』をやらせていただきます!
最初に考えた時は優は最後までやられたままにしようと思っていましたが、思いのほか空気だったり外野感が否めないので入れさせていただきました!
近接メインの優が『捜シ者』相手にどう闘うか……ご期待ください!
また、冒頭にあった『細胞再生』のデメリット的な部分ですが、勝手な解釈で入れさせていただきました。
原作を読んでいてそんな印象を受けただけなので、「それは違うぞ!」などのご指摘はご勘弁を……
それでは、オリジナル展開の次回が少しでも楽しめるものになるよう頑張ります!