後半の方は結構ダイジェストで済ませてるのでわかりにくいかもしれません。
「さあ、桜小路 桜。始末させてもらう」
黒髪に白のメッシュという髪色をした男が武器を構えた。彼は始末屋である
その後、剛徳は「行くところがある」と言って家を出て、大神たち『コード:ブレイカー』三人は泊まることにした。そこに、新たな始末屋である春人がやってきた。実はこの春人という始末屋。過去に大神が裁いたはずの“悪”だった。彼は、大神の『青い炎』で燃え散る自らの左手を切り離して生き残ったらしい。その春人の他に、外から銃を撃つ始末屋がいた。名は『
「……おい優。お前が何とかしろよな。お前しかまともに動けないんだシ」
ロストして子どもの姿になった刻がボソリと呟いた。しかし、優の返事は弱気なものだった。
「相手は大神が裁き損ねた春人だ。異能を使ってもそう簡単には勝てない。それに、下手に戦えば外の『壱49』に蜂の巣にされる。オレの異能は銃相手だと不利だ」
「お前ってホント不利な相手が多いよナ。そんなんで『コード:ブレイカー』になれたとかおかしな話だゼ」
「不利な相手?」
自分の命を狙う始末屋がいるというのに、疑問を遠慮なくぶつける桜。肝が据わっているのか、それとも馬鹿なだけなのか。……まあ、確実に後者だろう。
そんな桜の疑問に刻が優を親指で指差しながら答えた。
「こいつは異能の特性上、不利な相手が多いのサ。異能者相手も苦手だし、銃みたいな遠距離用の武器を持った奴も苦手。ただ身体能力が高くなるだけなら、特殊能力染みてる『青い炎』も『磁力』も防げないからネ」
「オレの異能の特性上、近づかなければ攻撃は出来ない。だから遠距離用の武器を持った相手も戦いにくい。ただの人間を相手にしての近接戦闘なら問題はないんだがな」
「そ、そんな……」
状況が最悪であるということを改めて実感する桜。彼女は何かを考えるように俯くと、急に顔を上げて言い放った。
「この役立たずどもめ。お前達に護ってもらうなどまっぴら御免だ。私の方がよっぽど役に立つ。それでは、おひらきだ!」
そう言って、桜は廊下を全速力で走っていった。『壱49』の銃弾が桜を狙ったが、一発も当たることはなかった。桜の脚力はそこまでのものだったようだ。
残った大神たちは、先ほどの桜の顔を思い出していた。そして、刻がポツリと呟いた。
「……あれってあの顔だよナ」
「そうだな」
春人が来る少し前のことだ。大神たちは桜の部屋に招待された。その時にユキから桜が嘘をつくときに決まった表情をするという話をされた。ユキ曰く、桜が嘘をつくときは必ず誰かのためについているらしい。だから、ユキは嘘をつかれてもよしとしている。さっきの表情はその表情。目は点になり、わざとらしく口角を上げた口。見間違えるはずがなかった。先ほどの桜の言葉は……嘘だった。
「あのバカが……!」
未だにロスト中の大神が桜の後を追っていった。いつの間にか、春人がいなくなっていたからだ。おそらく、桜を追っていったのだろう。その大神を追おうと、刻も走り出す。
「あ! 待て大神!」
「ワン!」
刻が走り出すと、『子犬』もほぼ同時に走り出した。どうやら、刻に対抗しているようだった。
「バカか、お前! 歩幅が違うんだから追い抜けるわけ……」
ない。そう言おうとしたその時。『子犬』がさっさと刻を追い抜かした。『子犬』は振り返って、刻を鼻で笑った。
「テメェ! 待て!」
大神を追うという目的を忘れ、『子犬』を追いかけはじめる刻。すると、近くにあった部屋のドアが開いた。
「ねぇ、どうしたの? さっきから変な音が……」
「あ、ヤバ!」
出てきたのはユキだった。彼女が出てきたのは当然とも言える。なにせ、今までのやり取りは全てユキがいた桜の部屋の近くで行われていたのだ。桜の部屋でユキによる桜の嘘をつく時の顔についての話が一段落した時に春人がやってきたので、ユキを避難させる暇がなかったのだ。『壱49』の銃弾の音など、普段の生活では聞き慣れない音が鳴り続ければ、誰でも不審に思って確かめようとするだろう。だが、今の状況は危険すぎた。
「こうなったら……お母さ~ん!」
「え?」
ユキを部屋の中に入れるために、刻が子どもの姿を最大限に利用してユキに抱きついた。そのままユキを部屋に押していき、なんとか彼女が怪我を負うことは回避できた。ついでに、『子犬』が刻の頭に噛り付いていたので『子犬』の無事も保証できるだろう。廊下に残ったのは、優一人。
「ナイスだ、刻。さて……」
優は銃弾が来た方向を見た。今は銃弾は発射されていない。どうやら弾を補充しているようだ。優は自分が取るべき行動を考えた。考えがまとまると、独り言のように呟いた。
「……さて」
次の瞬間、優は自分が着ている制服のボタンに手をかけた。そして、ボタンを一つずつ外し始めた。
「ああは言ったが……オレなりの対策ってものがあるんだよ。それを見せてやる……」
「何かする気でしょうか……? しかし、おそらくあの男も『コード:ブレイカー』……。油断はできませんね」
銃のスコープ越しに廊下の様子を確認している『壱49』は、優の行動に疑問を抱きながらも警戒心を高めていた。そして、全てのボタンを外し終えた優は、制服の内ポケットに手を忍ばせた。そこから取り出したのは……一丁の拳銃だった。
「ホホホホ……! これは驚きました。まさか『壱49』と張り合うつもりですか?」
優の無駄とも言える行動を『壱49』は笑い飛ばした。それもそのはず。『壱49』は長距離狙撃用の銃で遠距離から廊下を狙撃しているのに対し、優が取りだしたのはただの拳銃。どう考えても届くはずがない。
すると、優はゆっくりと目を閉じた。数秒後、目を開けた優は拳銃を構えた。それを見て、『壱49』は勝利を確信した。
「ホホホホ! 愚かな! あんな銃で『壱49』に対抗するなど! そのようなことは無駄だと教えてさしあげましょう!」
『壱49』が一発の弾を発射した。弾は優の頭部に向かって一直線に進んでいった。
「…………」
その場から動こうとしない優。そして、ゆっくりと引き金に手をかけた。
そして……撃った。
「ホホホ! そこからでは何発撃っても無駄です! さあ! 頭を撃ち抜かれて死になさい!」
優の行動をあざ笑う『壱49』。しかしその瞬間、一つの音が空間に響き渡った。
「な!?」
それは、まるで金属と金属がぶつかり合うような音。そして、発射した弾を追っていたスコープ越しに見えた信じられない光景。
「バカな! 弾で弾を!?」
その光景とは、優の拳銃から発射された銃弾が『壱49』が発射した銃弾に当たり、威力を相殺させるというものだった。自分の目に映ったありえない光景に驚く『壱49』だったが、すぐに次の行動に移った。
「おのれ!」
数に物を言わせて弾を乱射する『壱49』。すると、優は内ポケットからもう一丁の拳銃を取り出し、二丁の拳銃から次々と弾を撃った。そして、あの音が次々と響き渡っていった。
「…………そ、そんなバカな」
『壱49』が弾をいくら撃とうと、それが優に届くことはなかった。それどころか、優が立つ桜小路家の廊下を傷つけることすらなかった。『壱49』が撃った全ての弾を、優が拳銃で無効化したのだろう。
「く……! しかし、いずれ弾切れを起こすはず! それまで撃ち続ければ……」
「
『壱49』の背後から突然聞こえてきた声。その次の瞬間、『壱49』の武器である狙撃用の銃が一瞬でただの鉄くずとなった。
「終わったか。……『壱49』。お前にしてみればオレはあり得ないことをしているだろうな。だが、オレはそれが可能だ。ある能力に通常時以上のリミッターをかける代わりにその対となる能力を限界以上に強化する技……『
聞こえるはずもない説明を淡々と述べる優。そして、『束脳・反転』により強化された彼の目には『壱49』を討つ一人の人間の姿がうっすらと見えた。
「……まさかあなたがいるとは。ありがとうございます」
その人間に向かって軽く一礼すると、優はユキと刻(+『子犬』)がいる桜の部屋に入って刻を蹴り飛ばした。
「行くぞ、この野郎」
「イデェ!」
その後、優はユキの頭を掴んで彼女を眠らせた。
月のみが視界を照らす夜の世界。その中でも、月明かりすら通りそうにないほど木々が密集した場所を一人と一匹が走っていた。
「あー、くそ。まだイテーよ。優! テメェ、あとで覚えてろヨ!」
「別にいい。今すぐ地面にたたき落してほしいなら勝手にしろ」
「……嘘デス」
ロストしているためか強く言い返せない刻。今の状況は、『子犬』が先頭で匂いを嗅ぐことで大神と桜を探し、その『子犬』の後を優が追いかける形だった。ちなみに、刻は優におんぶされている。だから走っているのは“一人”と一匹なのだ。
「つーか、お前も考えろよナ! ユキちゃんがいるのに銃でやり合いやがって。しかも、ユキちゃんを眠らすし。あの後ユキちゃんと一緒にお風呂でも入ろうと思ってたのにヨ!」
(やっぱり落とすか……)
最初は正論のように聞こえたが、後半は明らかに刻の煩悩だった。それを聞いて、優の中に危ない考えがよぎったその時。一つの光が彼の視界に入った。前を走っていた『子犬』も、光の方に向かって吠えている。どうやら、あそこに大神たちがいるらしい。
「行くぞ」
「リョーカイ。つか、もう下ろせ」
言われてすぐに刻を下ろす優。その後、彼らは光の方に向かって進んでいった。そして、彼らは驚きの光景を目の当たりにした。
「桜チャン!?」
彼らの目に飛び込んできたのは巨大な『青い炎』。そして、炎の中にいる桜と春人の姿だった。どうやら、大神がロストから戻り『青い炎』を使い春人を燃え散らそうとしたようだ。しかし、そこに桜がいる理由が全くわからない。
「ワン!!」
「……待て」
桜を心配して飛び込もうとする『子犬』。刻が首を掴むことでそれを止めた。その目は、炎の中にいる桜に向けられていた。その後ろでは、優も同じように桜をジッと見ていた。
「ぐ……! ダメだ……! お前は死んじゃダメだー!!」
「う……!」
桜が叫んだ瞬間、桜から光が放たれた。そのあまりの眩しさに刻たちは目を瞑った。そして、次に目を開けた時……
『青い炎』は跡形もなく消えていた。
「本当に大神の異能を打ち消した……。これが桜チャンの……珍種のパワーってやつか……」
「実際に見ると驚きだな……。厄介な奴」
刻と優が驚きの声を上げる。どうやら彼らは、桜の珍種としての力を見るために傍観に徹していたようだ。すると、一部始終を見ていた大神が声を大にして笑い始めた。
「あっはっはっは! あなたは本気で、命懸けでオレに悪人殺しをやめさせようというわけか。……面白い」
ニヤリと笑みを浮かべる大神。桜は珍種だが、桜にその自覚はない。それなのに、彼女は『青い炎』の中に飛び込んだ。大神にとって、そんな無茶苦茶な行動をとる桜は興味深い存在となったのだろう。
「なぜ炎が……。いや、それよりなぜオレを助けた? オレはお前を殺そうとしたんじゃぞ……?」
桜によって命を救われた春人は多くの疑問を感じていた。『青い炎』が消えた理由も気になるが、何より気になるのは桜が自分を助けた理由だった。桜の命を狙った自分を助けるなど、正気の沙汰ではないからだ。
そんな春人の問いに、桜は真っ直ぐな目をして答えた。
「そんなことは関係ない。お前は大神に殺されかけても、生きてきた。お前は命の尊さを知っている。だからお前は生きるべきだ。たとえどんなに苦しくても。そして、もう人殺しなどするな」
桜の真っ直ぐな言葉に、春人は何も言えなかった。あくまで“悪”を裁くのではなく、説得することでやり直させようとする桜。しかし、そんな桜の思いを大神はあっさりと否定した。
「残念ですが、春人。あなたには死んでもらいます。一度死にかけたのに人殺しを続けるような悪(クズ)は殺します」
左手に『青い炎』を灯し、薄ら笑いを浮かべる大神。桜は大神を止めるべく春人の前で両手を広げた。
「させん! お前にそんなことをする権利などない!」
先ほどまで自分の命を狙っていた春人を護り、あろうことか背を向ける桜。今の桜にとって、春人は“悪”などではなく、護るべき“人”なのだろう。しかし、大神は止まろうとしなかった。
「あるんですよ。オレはそのためだけに存在しているんですから」
『青い炎』が灯った左手を伸ばす大神。しかし、桜は退こうとしない。『青い炎』が桜に届くまで、あと数cm────!
「ッ!」
その時、大神と桜の間で何かが跳ねた。明かりが無ければほとんど何も見えないこの暗闇の中でも、それが何であるかはっきりと見えた。
「光る……ムチ?」
そう。それは自ら光を放つ一本のムチだった。そして、そのムチの出所から学生服を着た一人の男が現れた。
「あなたの仕事は桜小路さんの護衛。始末屋の殺しは逸脱行為……。この『コード:02』平家将臣はそんなこと許しませんよ?『コード:06』大神零君」
「平家先輩!?」
現れたのは大神と桜が通う輝望高校の生徒会書記である平家だった。どうやら、彼も『コード:ブレイカー』だったらしい。
「平家先輩も『コード:ブレイカー』だったのですか! 驚きです!」
自分の学校の先輩が『コード:ブレイカー』であることに対して悠長に驚きを示す桜。そんな桜に刻が横槍を入れた。
「一緒にしないでヨ。桜チャン」
「どうした? 刻君。まさか平家先輩も夜原先輩と同じようにお情けで『コード:ブレイカー』になったと言うのか?」
「いや、違うけどサ。こいつはオレたちのバイトをこっそり見ては“エデン”にチクるチクリ屋なんだヨ」
刻の皮肉染みた言葉。しかし、当の平家は薄ら笑いを浮かべて右手を額に当てた。
「嫌ですねぇ、刻君。私はジャッジ。『コード:ブレイカー』の裁きが正しく行われているのか監視するのが私の仕事でもあるんですから」
すると、平家はどこからか如何わしいタイトルの本を取り出し、バッと開いた。
「とりあえず今回の仕事。大神君は65ポイント。優君は40ポイント。刻君は5ポイントです」
「はあ!? なんでそんなにオレが低いんだよ! ふざけんな!」
どうやら開いたページに査定が書かれた紙が挟んであったらしい。すると、その査定に刻が腕をぶんぶん振り回して猛反発した。しかし、平家が人差し指で刻の額を押さえているのでその腕が届くことはなかった。
「あなたのそのロスト姿が何よりの証拠でしょう?」
「うるせえ! お前のロスト姿よりマシだろうが!」
刻がその言葉を言った瞬間。平家の目がキッと刻を見た。
「悪い子だ。おしおきが必要ですね」
すると、刻は一瞬で桜の背後に移動した。そして……
「ゴメンナサイ」
素直に謝罪の言葉を口にした。それを聞くと、平家はゆっくりと目を閉じた。
「……良い子です」
「おお!」
完璧に刻を教育している平家。その完璧っぷりに桜は目を輝かせていた。一方、刻は「あれだけは絶対に嫌ダ……」と言いながら『子犬』を抱きしめていた。どうやら、彼にとって平家のおしおきはトラウマ級のものらしい。
すると、優が平家の前に出て頭を下げた。
「すみませんでした、平家さん。本来ならオレが裁くべき『壱49』を平家さんに任せてしまって……」
「いいんですよ、優君。あの状況では仕方ありません」
「……ありがとうございます」
刻と違い、普通に平家と話す優。平家の口調から、完全に怒りが収まったのを確認した刻は平家に文句を言い始めた。
「たく、最初から動けよなヘンタイ。結局、あいつは殺したワケ?」
「そんな酷いことはしませんよ。ただ、心には死の束縛をさせてもらいましたけどね」
「そっちの方がヒデェ……」
平家の言葉に刻が再び恐怖した。すると突然、桜が叫んだ。
「春人がいない!?」
見てみると、桜に庇われていたはずの春人の姿がどこにもなかった。どうやら、彼らが談笑している間に姿を眩ませたらしい。
「…………」
すると、大神は黙って歩き始めた。そんな大神を、平家が微笑を浮かべながら止める。
「大神君。勝手なことをすると評価が下がりますよ? あなたには他に優先すべき仕事があるでしょう」
「……知りませんね。あいつはオレが燃え散らします」
そう言って再び歩き出す大神。桜は、それを物理的に止めようと手を伸ばした。
「待て、大神! 春人を殺しては……」
「桜小路さん。彼は本来の仕事をしに行くだけです。お茶にしましょう」
平家はそんな桜の肩に手を置いて彼女を止めた。そして、いつの間にか用意していたティータイムセット一式まで案内し桜を座らせた。しかし、雲が立ち込めてきたのでティータイムはすぐに中止になったとか。
「えっと、ここを右か……」
春人が桜小路家を襲ったあの日から数日が経った。桜は今、ある場所に向かっている。と言っても今持っている紙に書かれた住所に向かっているのでそこに何があるのかはわからないの。桜がここに向かう元の原因は昨日のことだ。
春人がいなくなった次の日から、桜は今まで通り普通に学校に行っていた。その時に大神から聞いたことだが、行方をくらませた春人は神田が探しているらしいが見つからないらしい。その日、とある用事で再び桜小路家に来た大神と刻を歓迎するため、桜小路家では再び宴が開かれた。大神は剛徳に借りた刀を返しに、刻は『子犬』に借りを返しに来たらしい。
その時、剛徳は桜に話があると言った。剛徳は今回の事件の原因は自分にあると桜に打ち明けた。しかし、桜はそのことを知っていた。春人からその事について聞いていたのだ。春人を雇った依頼主は、妻と子どもを『鬼桜組』と敵対するヤクザとの間に起こった抗争に巻き込まれて失ったということを(この依頼主は春人の襲撃後、大神によって裁かれた)。剛徳はその責任を取るために組長をやめると言った。そんな剛徳に、桜は思いっきりチョップをかました。そして、剛徳が組長をやめたら『鬼桜組』の組員の行く先がなくなる。それに剛徳を慕っている組員の信頼を失ってしまう、と。桜はそれが嫌だったのだ。剛徳は昔、「もう人を傷つけるようなことはしない」という約束を桜との間に交わした。『指切り』ではなく、恋人つなぎのように指全部を組む桜小路家の結束の証……『指組み』をして。桜は再び剛徳と『指組み』をした。そして、桜の思いを伝えた。剛徳は涙を流し、組長を辞めることをやめた。その夜、桜は大神から、剛徳に渡してほしい、と言われて一通の封筒を預かった。またこの時、桜が剛徳とユキの実子ではないこと……拾われっ子であるということが判明した。
そして今朝、桜は剛徳に大神からの封筒を渡した。そこには一人の子どもの写真と、住所が書かれた紙が入っていた。しかし、剛徳はこれら二つに覚えがないらしい。なので、桜が向かっているというわけだ。
「ここか……」
桜は紙に書かれた住所に到着した。そこにあったのは何の変哲もない幼稚園で、子どもたちが楽しそうに遊んでいる。その子どもたちの中に、写真に写っていた子どもの姿があった。見たところ、他の子どもたちと何ら変わりはないようだった。
「大神……。あの子が一体なんだというのだ……」
「あの子は、ある意味お前と同じと言えるべき子どもだ」
「夜原先輩!? それに平家先輩も!」
呟いた桜の背後から、聞き慣れた声がした。振り向いてみると、そこには電柱に背中を預けて立つ優と道の真ん中でティータイムを楽しむ平家の姿があった。優はそうでもないが、平家は周囲の人たちから奇妙なものを見る目で見られていた。
「おはようございます。桜小路さん」
「おはようございます。平家先輩、夜原先輩。ところで、夜原先輩。あの子が私と同じとはどういうことですか?」
周囲から奇妙な目で見る平家とも普通に挨拶を交わす桜。彼女にしてみれば、もはや見慣れた光景なのだろう。
そして、桜の疑問に優は淡々と答えた。
「あの子は今回の事件でお前同様、春人のターゲットでありながら無事だった子ども。始末屋・春人が始末しなかった子どもだ」
「え……?」
優の言葉を聞いて呆然とする桜。そこに平家の言葉が続く。
「入手したリストによると、あの子はあなたの次に始末されていたはず。桜小路さんを始末できなかったのだからあの子を始末するはずと思っていたのですが……不思議ですねぇ」
「春人が消えてからあの子を見張っていたが、春人も、春人以外の始末屋が来ることはなかった。前者も後者も依頼人が死んだからというのはあるだろうが……春人に関してはどこか引っかかる」
「……もしかしたら誰かの情熱と行動で、ちょっとした気まぐれを起こしたのかもしれませんねぇ」
誰かの情熱と行動。それは、紛れもなく桜のこと。桜の真っ直ぐな言葉が“悪”に……春人に通じたのかもしれないということなのだろう。
「どう思われますか? 桜小路さん」
「……私にはわかりません。ですが、もしかしたら…………」
平家の問いに、桜は曖昧な答えを返した。しかし、その時の桜の顔はこの上なく嬉しそうな顔をしていた。
「……桜小路さん。お茶をご一緒しませんか? 珍しいお茶を手に入れたんです」
「はい!」
「優君もどうぞ」
「……頂きます」
その後、彼らは路上でのティータイムを満喫した。これは桜の後日談だが、その日のお茶は本当に美味しく感じたという。
以上で序章篇は終了です。
次回からは男前度が高すぎるあの方の話です。
また、次回からこの後書きのスペースで、人物・用語等を自分なりに解説する『CODE:NOTE』というものを始めたいと思います。
それでは、また次回。