CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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お久しぶりです!
ヒートアップしてきた大神と『捜シ者』の闘い……!
なので今回は完全に大神と『捜シ者』メインの回となっております!
彼ら以外はほとんど出ません!
というか前回やられた人たちは一言も話しません!(笑)
それでいいのかオリキャラ! となりますが、次回にまさかのどんでん返しが……?(予定)
それでは、どうぞ!





code:63 戦場が語りし真実

 「さぁ、鮮度が命の野菜だよ! 早いうちに買ってきな!」

 「この生地、一番のオススメさ! 奥さんになら似合うぜ!」

 「助かるわ! 息子がこの果物を食べたがってたの!」

 少し外に出れば広大な砂漠が広がる地域にある小さな町。決して豊かとは言えない町だったが、そこで暮らす人々の顔には笑顔が耐えず浮かんでいた。

 声を張り上げて客を集めようとする商人、家族のために食材を求める主婦……様々な人々が町の中心にあるマーケットにて、どこからか流れる民族音楽を耳にしながら過ごしていた。

 ──ドンッ

 「あらあら、ごめんなさい。坊や、大丈夫?」

 と、その中に一人だけ異質な子どもがいた。明らかに地元の人間ではない顔立ちをし、砂から身を護るためかボロボロのフードで身体を覆っている。その顔は何も感じていないように無表情で、静かに目を伏せたままその場に立っていた。

 「…………」

 その子どもはぶつかった女性にペコリと頭を下げると、変わらず目を伏せたまま歩き始めた。独特な雰囲気を持つ子どもに女性は首を傾げたが、深く追及はせずにそのまま別れる。

 すると、途端に周囲の砂を撒き上げるような強風が発生する。道行く人々が足を止める中、その子どもは変わらず歩き続けようとするが、強風によって身に纏っていたフードが大きくめくれ、その内側が晒される。そこで露わになったものを見て、一部の人間たちに動揺が走った。

 「今の……見たか?」

 「ああ、この町にいるって噂は本当だったってことか……!」

 フードがめくれたことで露わになった子どもの身体は、一目で普通の子どもではないとわかる外見をしていた。左肩部分には痛々しい接合手術の痕と思われる傷を持ち、どういうわけかその両手には小さな手錠がかけられていた。

 その姿……正確には左腕(・・)を見た一部の人間たちは、途端にその眼を野心に染めていく。

 「間違いない……! 『青い炎(・・・)』の異能者……『コード:エンペラー』の腕だ!」

 「殺せ! あのガキを殺して……あの腕を奪え!」

 瞬間、左腕を見て様子が変わった者たちの懐から様々なタイプの拳銃が取り出される。町中だろうと構うことなく、一斉に幼い子どもに向かって銃口を向けて近づいていく。

 「……気に入らねぇな」

 あまりに突然すぎる状況に、一般の者たちは咄嗟に反応することもできない。そんな中、一人の男が標的となっている子どもの前に立つ。新品の上着に身を包み、サングラスをかけている。だが、そのサングラスでは隠しきれないほど長い一筋の傷痕がある。

 男は、心から面倒そうにポツリと呟く。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「死ね! この“(クズ)”が!」

 男が言葉を吐き捨てた瞬間、子どもを狙って近づいてきた者と近くにいた一般人(・・・)全員から血が噴き出す。男が何かをしたのは明白だったが、それが何か知る者はいない。両手をコートのポケットに入れたまま(・・・・・・・・・・・・・・・・・)の男が何をしたのか……わかるはずの者もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「気安く近づくな! コレ(・・)はオレの物だ! 『青い炎』は誰にも渡さねぇ!」

 グイ、と力強く子どもの手を拘束する手錠の鎖を引っ張る男。一見すると子どもを護ろうとするような行為だが、そうとは思えないほど荒々しい。

 さらにはその子どもに対して、はっきりと「物」扱いしていることを断言する。男はその言葉をより印象付けるかのように、かけていたサングラスを外して子どもを両の眼で威圧的に見下ろす。

 「いいか、お前はオレの側でオレの役に立て。オレは必ず最強の“悪”になる。人々が恐怖し、今死んだような“(クズ)”ですら絶望してひれ伏す存在となる。誰もがそれを“正義”と呼ばざるを得なくなるほどの絶対悪にな!」

 「…………」

 側にいるだけで圧倒されるほどの威圧感を放つ男の言葉に、子どもは何も言わずに視線を外す。そうして目に映ったのはたった今、巻き込まれてしまった一般人の少女。買い物袋が近くに堕ちているところを見ると、買い物帰りだったのかもしれない。

 「キャアァァァァ!!」

 「テ、テロだ! 通行人が犠牲になったぞ!」

 状況を理解した他の一般人たちの悲鳴を聞きながら、その子どもはゆっくりと少女に近づく。すると、幸いにも致命傷は避けたのか、近づいてくる気配を感じて少女は震える声で手を伸ばし始めた。

 「た、助けて……。痛い……痛──」

 ──グシャ!

 「ッ──!」

 伸ばした手を取ろうと、その小さな手を震えさせながら子どもも手を伸ばす。しかし、その手を取るよりも前に大人の足が少女の頭を容赦なく踏みつける。勢いよく頭を踏みつけられた少女は強く頭を打ち、そのままピクリとも動かなくなる。

 目の前で消えた少女の命に目を見開きながら子どもが顔を上げると、そこには少女を巻き込んだ張本人である長身の男がなんとも思っていないような表情で少女を見下ろしていた。

 「コイツも死んだ……。一歩間違えればテメェがこうなってたんだ、よく見ておけ。そしてよく考えろ……こうなった元々の原因はテメェだってな」

 「……!」

 まだ救える可能性がある少女に止めを刺しながらも、男は子どもに教え込むような口調で話しかける。狙われた自分が少女のような変わり果てた姿になった可能性、こうして男が手を出すきっかけになったのは自分……自分の左腕を狙った者たちがいたこと。幼いながらにそれを理解した子どもは愕然とし、大きく目を見開く。

 「──!」

 すると、まるで少女たち一般人の仇とでも言いたげにナイフを構えて男に突っ込む。なんの計算もなく感情に身を任せただけの子どもに、男は避ける素振りも見せずにその場に立つ。

 「うぜぇ」

 そして、ただ真正面から子どもの顔に蹴りを入れてその軽い身体を倒す。いくらナイフを持っていようと結局は子ども。見切るのも容易ならば真正面から迎え撃つのも容易ということだ。

 改めて自身の無力を噛み締めるかのように、子どもは倒れた場所から動かずに黙って俯く。だが、その無力感が意外な行動へと駆り立てた。

 ──ガッ! ガッ!

 「ッ……!!」

 なんと、ナイフを自身の左腕へと向けた。いくら両手に手錠をかけられていても、自分の左腕に届くくらいの余裕はある。そのまま自分の身体から切り落とそうとするように、もう二度と左腕を狙う者が現れないように。

 だが、その左腕を目的とする男がそれを止めないはずがなかった。

 「何をしていやがる! 言っただろ、それはオレのだ! それがあるからテメェは道具としてオレの側にいれるんだ! 道具の分際で勝手なことをすんじゃねぇ!」

 荒げた声と共に、先ほどより威力が増した男の蹴りが子どもの顔を捉えてナイフも手放させる。それだけでは終わらず、そのまま男はその顔を踏みつけることでその顔を地につける。まさに道具……いや、道具以下の存在であるかのように扱う男に対し、その子どもは……

 「…………」

 ぐりぐりと顔を踏みつける足に力を込められながらも、明確な憎しみを込めた眼を男に向ける。自分の身体に広がる痛みなど気にせず、ただ目の前にいる男を睨みつける。同年代の子どもならばまず経験しないであろう憎しみを向ける子どもを見て、男はニヤリとその口元を歪める。

 「その眼……オレが憎いか? なら、もっと憎め。“悪”は憎しみの分だけ強くなる。オレもお前も多くに害をなす“悪”……この世で“悪”が生きるには、より強い“悪”になるしかない。だから、よく覚えておけ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──悪には悪を(・・・・・)、だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲に斃れる死体の中、子どもは目の前でそう語る男の背中を目に焼き付ける。同時に、男が発したその言葉を自らの心に強く残した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今、かつての子どもと男が互いの信念をかけて本気でぶつかろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「覚悟しやがれ……テメェはオレが燃え散らす」

 「…………」

 殴られた際に切ったのか、口内から溢れ出た血を拭う『捜シ者』。彼と相対する大神は、揺るがぬ覚悟を秘めたような強い眼でその場に立つ。

 その左腕全体を『青い炎』へと変化させて。

 ──ビシ、ビシビシ……!

 『青い炎』に変化したとはいえ、形状は元の左腕と変わらない。親指にしていた指輪もそのままだが、今までよりも大きな音を立てていた。見ると、いくつかヒビも入って小さなか欠片がポロポロと床に落ちていく。誰が見ても壊れる直前に見える指輪と変わり果てた左腕を見て、会長は怪我によって荒くなった息を整えながら呟く。

 「指輪をしたままなのに、本来の力を取り戻しつつあるのか……。あの『コード:エンペラー』の腕が……」

 目の前で起きている光景に驚きを感じながら呟く会長に対し、より間近で左腕の変化を目にした『捜シ者』は興味深そうにまじまじと左腕を観察する。

 「ふむ……お前の怒りや憎しみに呼応して左腕自体が『青い炎』に変化したってところか。面白い、その炎が見てくれだけじゃないってところ……見せてみろ」

 「黙れ」

 経験と知識から、『捜シ者』は左腕の変化についての仮説を立てる。そして、それだけの余裕があることを思い知らせるようにほくそ笑む。

 それでも、大神は冷静さを失わずしっかりと『捜シ者』の姿を捉えて左腕を伸ばす。

 ──フッ

 「──チッ!」

 だが、その左腕は再び空を切る。周囲を見ると、『捜シ者』は大神のはるか横に立っている。手応えのなさを感じつつ、大神はすぐに『捜シ者』が移動した場所へと意識を向ける。舌打ちと共に『捜シ者』がいる方向に向き直ろうとするが……

 「とろいな」

 「──ハァ!」

 「ハハハ! どこを燃やそうとしている! その炎はやっぱり見てくれか!?」

 向き直ったその瞬間に『捜シ者』に背後を取られる。すぐに反応して左腕を背後に振るうが、背後を向いた矢先に再び背後を取られて避けられる。

 左腕が『青い炎』に変化したことで炎の範囲が広がったが、それでも炎が当たらなければ意味が無い。そして、いくら左腕を振るっても『捜シ者』は一瞬で移動して当たらない。

 圧倒的なまでに不利な戦況の大神の姿を見て、会長は改めて『捜シ者』が持つ異能(・・)について脅威を感じる。

 「やはり強すぎる……! 『捜シ者』の異能……『絶対空間(ぜったいくうかん)』は空間ごと瞬時に足したり消すことができる……。だから相手と離れるも相手を近づけさせるも……『捜シ者』にとっては自由自在。どんな異能だろうと彼にヒットさせるのは奇跡に近いんだ……」

 『捜シ者』が持つ『絶対空間』。対象との間に空間を足すことで瞬時に離れることができ、逆に空間を消すことで対象を引き寄せることもできる。相手の攻撃を避けるも背後を取るも自由自在とすることを考えると、彼との闘いは彼が全てのコマを支配するゲーム盤の上で行われるゲームと同じ。いくら足掻こうと決してどうにかできるものではない。

 現に、大神は何度左腕を振るっても『捜シ者』に当たることは無い。近づく度に空間を足され、一定の距離を保たれてしまう。勝つのは絶望的とも思えてしまう状況だが、会長は悔しさではなく託すようにグッと拳を握り、胸の内で大神に語りかける。

 (でも大神君……君ならば、きっと奇跡を起こせる……! 君と『青い炎』がとんでもない番狂わせを起こしてくれると……信じている!)

 大神にその言葉は届かずとも、彼と『青い炎』に希望を確信している会長。だが、そんな希望を打ち砕くように『捜シ者』はまた大神の背後を取る。

 「──ガラ空きだ」

 そして、ニヤリと口元を歪めて大きく振り上げた拳を振り下ろす。完全に背後を取られたことで見切るのはほぼ不可能。容赦なく振り下ろされた拳が大神の頭蓋との距離を縮める──!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──悪を滅せ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ゴオ!

 「な!?」

 瞬間、『青い炎』と化した左腕が大きく燃え上がる。大神の身体の倍以上とも思えるほどの大きさの炎は背後にいる『捜シ者』の身体を呑み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──っと、危ねぇ」

 しかし、炎が身体に燃え移るよりも先に『捜シ者』は空間を足す。完全に意表を突いていたが、ダメージを与えるには至らなかった。

 未だに大きく燃え上がる左腕を見て、『捜シ者』はフッと興味深そうに口元を緩める。

 「『青い炎』の量が前とは桁違いだな。だが、結局は触れなければいい話だ。そして零……お前はわかっているはずだ」

 「…………」

 「お前と違って、オレは触れなくても殺すことは可能だってことをな……」

 そう言って、『捜シ者』は静かに右手を大きく開く。それと同時に細い光が数本、彼の指から一斉に放たれた。

 「『空間切断(SEVER)』!」

 ──ガガガッ!

 『捜シ者』が右手を開いた次の瞬間、指から放たれた光が通った個所がいとも簡単に切断される。瓦礫も、『パンドラの箱(ボックス)』を護っていた扉も、桜たちが倒れる床も……何もかも。そして、完全に切断されたことでバランスを失った部屋は音を立てて崩れていくが、崩壊するには至らなかった。

 切断された切り口を見てみると、まるで最初からそういう形をしていたように滑らかなものだった。その滑らかな切り口とは対照的に、切断した張本人である『捜シ者』は荒々しく声を張り上げる。

 「どうだ! 『空間切断(SEVER)』は空間自体を切断する! そこにあるのが何だろうと関係ない! さぁ、全員死んでいけ! オレが絶対の存在だと身体の芯まで叩き込みながらな!」

 空間を足したり消すだけでなく、切断することまで可能な『絶対空間』。まさに全ての空間に対する絶対の支配者とでも言うべきその力に、多くの者は絶望にその心を染めるだろう。

 だが、彼と対峙している者の眼は未だ闘志に満ちていた。

 「やめろ!」

 ──ゴオ!

 圧倒的な力を目にしながらも『青い炎』と化した左腕を振るう大神。大きく燃え上がる左腕は、勢いよく振られたことでその勢いに乗り、『捜シ者』まで伸びていく。

 しかし、『捜シ者』は自分に迫る炎を見ながら、小さく鼻を鳴らした。

 「──フンッ、諦めの悪い。『空間切断(SEVER)』!」

 ──キィン!

 「なっ!?」

 再び『捜シ者』の指から細い光が放たれる。その光は『青い炎』が伸びる空間を通りすぎ、次の瞬間にはその空間を切断する。空間を切断されたことで、そこにあった『青い炎』すら切断される。途中で切断された『青い炎』の先は勢いを無くし、『捜シ者』に届くことなく空中で消えていく。

 「ダ、ダメだ……! いくら『青い炎』でも、あの『絶対空間』が相手だとどうにもならない……!」

 『青い炎』をいとも簡単に無力化する『絶対空間』の力に、会長は改めて強い脅威を感じる。相手との距離も自由自在で、防御すら無視した攻撃……その全てを意のままに操るほどの強さを持つ『捜シ者』。まさに最強の異能と最恐の異能者である。

 「……この国にいると、平和すぎて“正義”がいかに嘘くせぇものかわからなくなる時がある」

 その最恐の異能者は、つまらなそうに周囲を見渡す。その眼はすぐ近くの空間ではなく、自身がいる日本全体を見渡しているようにも見えた。

 日本は世界的に見てもかなり平和な国だ。『戦争をしない国』としての顔があり、普段の生活でも命の危機を感じる場面は少ない。実際に過ごしている身としてはそう感じない部分もあるかもしれないが、他国と比べればマシな方だ。少なくとも、彼らが見てきた国と比べれば。

 「だがな、零。お前はその眼で見てきたはずだ。“正義”の薄っぺらさ、そこに存在する矛盾を。テレビでもゲームでもない……あの生の戦場でな」

 「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よく見ておけ、これが戦場だ」

 「…………」

 『捜シ者』が『青い炎』を操る子ども……幼い大神を連れてやってきたのは高くそびえ立つ岩場。そのはるか下では、まさに地獄のような光景が広がっていた。

 「我らの“正義”のために!」

 「怯むな! ここで奴らを根絶やしにしろ!」

 「いやぁぁぁ!」

 「た、助けてくれぇぇぇ!!」

 殺意に任せて銃を撃つ者たちと、大粒の涙を流しながら逃げ惑う人々。さらに、はるかに離れている彼らのもとに届くほど強い焦げ臭さと硝煙の臭いが充満していた。明らかに子どもに見せるような光景ではないが、『捜シ者』はそのまま幼い大神に問いかける。

 「片や“正義”と信じる主義主張のために無差別テロを繰り返すテロリスト、片やそいつらの制裁という“正義”を掲げて一般人すら巻き込んで人殺しにやってきた連中。さぁ、本当の“悪”はどっちだ?」

 「…………」

 それぞれの正義を持って銃を撃ち続ける二つの集団。どちらも同等の犠牲者を出している中、確実に一般人だと思われる人々も犠牲となっている。“たまたま”そこにテロリストがいて、“たまたま”そこで制裁のためにテロリストを追いかけていた集団が追い付いた……そんな“たまたま”のせいで無残にも命を奪われた多くの者たちが。

 だが、テロリストも無意味にテロを行うわけではない。何かを訴えようと集った者たちがそれを訴えるためにテロを行っている。彼らにしてみれば、そこまでせざるを得ない状況にした社会が“悪”なのだ。

 それに対し、彼らを制裁するために来たのは社会を護る立場にある者たちだろう。社会に害をもたらす彼らを“悪”とし、問答無用で亡き者にしようとしている。

 「……フン」

 「言うまでもない」

 互いに自身を“正義”と、互いに相手を“悪”とする双方。そのどちらかが本当の“悪”かという『捜シ者』の問いに対し、同行していた虹次と雪比奈(『Re-CODE』)は答えがわかりきっているような態度を示す。

 ──ザッ!

 だが、問いかけられた幼い大神が答えを口にするよりも前に、戦況が動く。決着をつけようと、互いに銃を持った者たちが一斉に前に出てくる。未だ逃げ遅れている一般人を気にする者は一人もおらず、巻き込むような勢いで引き金に手をかけようとする。

 すると、それと同時に『捜シ者』の姿が幼い大神の隣から消える。

 「時間切れだ。いいか、答えは──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ドッ!

 「──答えはどっちも“悪”だ」

 そう言って、『捜シ者』は戦場の中心までの空間を消す。その瞬間、線上にいた全ての者たちの身体が空間ごと切断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これが現実だ! ハハハ! ハハハハハハハ!」

 「……ッ」

 戦う者も、一般人も、何もかも。全ての命が奪われた戦場で、『捜シ者』の笑い声だけが響き渡る。その光景を見て、今まで黙り続けていた幼い大神の中で強い何か(・・)を感じた。それを噛み締めるように、『捜シ者』が彼らの命を奪ったのと同じ異能の力を持つ自身の左手をグッと握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いくら“正義”を語っていようと、その名の下に犠牲は増えていく……。これが“悪”以外の何だというんだ!? この世に“正義”など存在しない! あるのは“悪”だけ! 全てが“悪”だ! ならオレは絶対悪としてその頂点に立つことでオレを“正義”とする! それがオレの辿り着いた理だ!」

 決して我欲ではない。彼は今まで見てきた“正義”と“悪”の姿から今の答えに辿り着いている。自らを“正義”と語りながら無意味な犠牲を増やす者たち、“正義”である自身の保身のために“悪”と同じ道に手を染める者たち……本当に多くの者たちを見てきたのだろう。

 確固たる信念を持って辿り着いた答えを口にする『捜シ者』には、一切の迷いが感じられなかった。

 「さぁ、零……。わかったなら──」

 「──それがどうした?」

 だが、そんな『捜シ者』の前に変わらず立ちはだかる大神。彼の眼にも……迷いなど欠片も存在していなかった。

 「燃え散れ!」

 「バカが!」

 ──キィン!

 諦めず、左腕を構えて大神は真正面から突っ込んでいく。それに対し、『捜シ者』は空間を足して距離をとるのではなく、空間を切断することで正面から迎え撃った。いくつもの光が大神に触れ、次の瞬間にはその部分が切断される。

 「闇雲に突っ込んできたところで何ができる! オレには『青い炎』など……無意味!」

 ──ブワッ!

 「あ、『青い炎』が!!」

 さらに続けて、無数の光が大神の左腕を襲う。左腕が存在している空間を次々に切断され、左腕の形を保っていた『青い炎』はどんどん散り散りになっていく。

 そして、ついに左肩付近の空間が切断され、左腕と化していた『青い炎』全てがかき消される。希望を託した存在が消えたことで、会長は思わず身を乗り出す。大神はそのまま突っ込もうとするが、すでにかき消された左腕はそのまま────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ゴォ!

 「なに!?」

 かき消されたかと思われた左腕……そこから、巨大な『青い炎』が突如として吹き出す。無力化したはずの『青い炎』の復活に反応しきれなかった『捜シ者』は、空間を足す暇もなく大神の接近を許し……

 ──ゴッ!

 『青い炎』で形成された左腕の拳が、炎と共にその頬へ確かに届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ボゥ!

 「チィ!」

 大神の拳の直撃を受けた『捜シ者』。『青い炎』で形成されているとはいえ、その威力は普通の拳と同等の威力であり、さらに『青い炎』が頬に勢いよく燃え移る。

 『絶対空間』の特性上、当てることすら難しい『捜シ者』への攻撃をついに成功させた大神。そして、今まで閉じていたその口を静かに開き始めた。

 「“正義”の名の下に犠牲が生まれる……確かにそうだ。アンタと一緒に、そういう世界を何度も見てきた……」

 拳に乗せた思いを改めて言葉にするように、静かに……それでも強く語られる大神の言葉。彼は最後まで言い切るよう、再び強く拳を握りしめる。そして……

 「だが、それでも……!」

 彼は真正面から『捜シ者』の顔を見て、真正面から彼の答えを否定する。

 「それでも! 罪のない者たちを殺す権利は誰にも無い! “正義”にも、オレにも! テメェにもだ!」

 “正義”の名の下に生まれる犠牲を“悪”とする『捜シ者』。だが、その彼も戦場で罪のない犠牲者を生んだ一人。そして、彼の野望が叶えばまた多くの犠牲が生まれる。歪んだその野望を止めるため、大神は激昂する。

 「……下らねぇ正論だな。そんなものが本気でまかり通るなら……この世に“悪”など最初から生まれない!」

 ──キィン!

 普段の冷静さなど忘れて感情のままに放つ大神の言葉に、『捜シ者』は静かな笑みを浮かべる。それと同時に、大神に殴られた頬目掛けて『空間切断(SEVER)』の光を放つ。そして……

 ──フッ

 「な──!?」

 次の瞬間、『捜シ者』の頬を燃やしていた『青い炎』はその姿を消す。一度ついたら異能で消すことはできないはずの『青い炎』が消えたことに、会長は自分の眼を疑う。

 「いくらオレを燃やしたところで、表面数ミリのところで空間を切断すればそれ以上は広がらない」

 見ると、『捜シ者』の頬には大神に殴られた傷とは別に細長い傷が刻まれていた。おそらく『青い炎』が燃やしている部分の皮膚ごと空間を切断することで、火の元を断ったのだ。

 数ミリ単位の皮膚を犠牲にすることで、後に全身を燃え散らすであろう『青い炎』を無効化してみせた『捜シ者』。当てることすら難しいというのに、当たったとしても決定打にならない事実を目にして、その場に絶望が────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ボ! ボボゥ!

 「──!?」

 絶望に染まりかけたその時、その絶望を照らすように点々と青い光が生まれる。『捜シ者』の身体から生まれた(・・・・・・・・)光は徐々に大きくなり、そして……

 ──ゴアァァ!!

 「燃え散りな」

 巨大な業火として、『捜シ者』を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「気付かなかったのか? 殴るのと同時にアンタの体内に火種(・・)を埋め込んだ。外側表面を燃やす炎は確かに切断して無効化できるだろうが、内側からの炎(・・・・・・)は切断できないだろ?」

 外側からではなく、火種と呼ばれるものを埋め込むことで身体の内側から『捜シ者』を燃え散らす『青い炎』。おそらく、『青い炎』が持つ真の力なのだろう。

 かつて人見と闘った際、大神が親指の指輪を外したことがある。その時に見せた、離れた相手を燃え散らす炎、相手を追尾して燃え散らす炎……どちらも火種を操ることで可能にしたものなのかもしれない。だが、その時と今で決定的に違うのは……大神がまだ指輪をしているということである。

 (指輪をしているというのに、火種まで操るとは……! 君は、もうそこまで『青い炎』を自在に操れるようになったのか……!)

 未だ親指でカタカタと揺れる指輪を見ながら、会長は大神の成長ぶりにただ驚く。明らかに修業の時とは比べ物にならないほど強くなっており、それだけ今の大神を突き動かしている覚悟が大きいということを改めて感じる。

 決死の覚悟で繰り出した大神の攻撃により、ついにその身を燃え散らされていく『捜シ者』。なす術も無く、『青い炎』に包まれる中……ポツリと呟く。

 「……ったく、だからお前はまだまだ甘い」

 「なに……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「『空間切断(SEVER)』!!」

 ──ブシャア!

 「な──!?」

 不敵な笑みを浮かべて、『捜シ者』は自身の身体の一部(・・・・・・・・)を切断する。小さな円を描くように切断された部分から大量の血が溢れ、一目見て重症だとわかる状態になる。

 だが、それと同時に……彼の身体から、『青い炎』が消えた(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 「体内に火種がある……それなら身体ごと切り刻み、火種を取り除いてしまえばいいだけだ」

 「そ、そこまで……そこまでの覚悟を持って、“悪”を貫くのか……!」

 全身の至る所から多量に出血しながらも、『捜シ者』は不敵な笑みを浮かべて君臨する。自身の身体を犠牲にしてでも野望を達成しようとする覚悟に、会長は畏怖の念に似た感情を抱く。

 しかし、大神は違う。『捜シ者』の行動は確かに意外だったが、すぐに真剣な表情に戻る。外側からの攻撃も、内側からの攻撃も無力化された。それでも、彼は諦めない。

 「……それがなんだ? テメエはオレが燃え散らす」

 彼はまだ、静かに闘志を燃やし続けていた。

 

 

 




CODE:NOTE

Page:46 『電力』

 かつての『コード:01』である人見が操る異能。攻撃方法としては相手に触れることで体内に電撃を流すことが主となる。それ以外にも、『電力』を帯電させることで罠を仕掛けたり、それらを集めて雷並みの電撃を起こすことも可能。一点に『電力』を集中させることで、鉄をも溶かすほどの熱を持つ『電力』をつくることも可能。
 攻撃以外にも、一瞬だけ相手を怯ませるほどの光を放てたり、脳に電気信号を送ることで他者を操ることもできる。また、筋肉に直接刺激を与えることで死者も操ることが可能という多様な応用が可能な異能。

※作者の主観による簡略化
 なぜか電気系の力を持っている人って変人が多いような……(人見は除く)



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