CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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お久しぶりです!
新しい小説投稿したりなど、こっちが進んでないのに自由にさせてもらってすみません!
しかし今回で原作9巻は終了!
同時に刻と虹次の対決も終わりを迎えます!
互いの信念をかけた対決、その勝敗は!
今回は刻成分100%でお送りします!
それでは、どうぞ!





code:57 捧げし天使の両翼

 「あなた、天使だもん。はね、はえてるよね」

 「……ハァ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──これが、寧々音との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 藤原家の家族構成は三人家族であった。まだ一国会議員として動きながらも、後には総理まで上り詰める一家の大黒柱。そんな彼の血を引き、金銀妖眼を持ついたって普通の少年(・・・・・・・・・)である実子。

 そして、数年前に新たな家族として迎えられた異能を持つ少女……藤原 寧々音の三人である。

 思えば、藤原家に寧々音が迎えられたのは突然のことだった。ある日、実子の少年の前に現れた幼い少女。教育係として傍にいた父親の部下は、その少女を「姉」と紹介した。

 急に姉ができたことにも違和感を感じたが、何より違和感を感じたのは彼女の()だった。同じ血を引く父親ですら持っていない金銀妖眼を、突然現れた少女は持っていた。それどころか、よく見れば見た目もかなり似ている。それこそ、本当は実の姉弟だったのではないかと疑ってしまうくらい。だが、それがよかったのかもしれない。元々、寧々音のつかみどころのない穏やかな性格の影響もあるかもしれないが、少年は寧々音を「姉」とすることを否定せず、すぐに打ち解けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、寧々音の存在をきっかけにして、少年と父親との距離は確実に開いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「寧々音、お前の異能は本当に素晴らしい。私の自慢の娘だよ」

 時が過ぎ、少年も寧々音も成長した。その頃には、少年の周りに非日常が渦巻くことが日常となっていた。異能、『コード:ブレイカー』、“エデン”……父親である藤原議員が表立った議員としての仕事以外に行っている、世間にも知られていない裏の仕事として知る機会はあった。そして何より、寧々音がその非日常の一員(『コード:ブレイカー』)になってからはそれが常だった。

 「誇りに思っていいぞ、寧々音。お前()本当に出来の良い子どもだ」

 「…………」

 愛用の煙草をふかしながら、目の前で自らの異能……『磁力(・・)』を見せる娘。それに対し、実子である少年はその光景から目を逸らし、寂しそうに目を伏せていた。それを知ってか知らずか、藤原議員の満足そうな言葉から察せられるように、今の彼にとって大切なのは寧々音だけだった。その理由はただ一点、異能が使えるというだけである。

 「しかし、いつ見ても残念です。本来なら跡を継ぐべき弟君ではなく、寧々音さんの方に異能があるとは。……やはり後継は寧々音さんに、ですか? 藤原議員」

 「さすが平家君。いかにも、後継は寧々音一人いればいい。()は必要ない」

 『コード:ブレイカー』のジャッジとして、少年たちの教育係の責任者としてよく藤原家にいた平家の言葉。それに対して藤原議員は悩む素振りも見せずに答えた。それはまるで自分にとっての子どもは寧々音だけとでも言っているようで……

 「ッ──!」

 ついに耐えられなくなり、少年はその場から逃げるように走り出した。自分の存在を否定されてしまったようで、もうここに自分の居場所はないように感じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハン、必要ネェならこっちから出ていってやるヨ」

 数十分後、少年は必要最低限の荷物をまとめて家を抜け出した。異能や『コード:ブレイカー』という一般には知られてはない情報が集まっている藤原家は他の国会議員に比べてセキュリティは固い。だが、それでも長年住んでいる自分の家だ。抜け道くらいはいくらでもある。いや、そもそもそれに引っかかったところで父親はどうもしないだろう。叱りもせず、説得もしない。そんな未来が少年には確実に見えていた。

 「……ったく、何が異能だ。あんなの、ただの『磁力』の化物じゃねーカ」

 その未来を振り払うように、少年は強気な口調で独り言を続ける。自分は普通であり、おかしいのは彼らであると。そう自分に言い聞かせて、少年は家から離れようと──

 

 

 

 

 

 

 

 

 「化物じゃないものー」

 「ドワアァァァァ!!」

 離れようとした……まさにその瞬間。背後から聞き慣れた声がして、少年は叫び声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ね、寧々音! ビックリすんだろーガ!」

 急に声をかけられたが、やはり姉弟。どんな状況でも声を聞けば誰だかわかるらしい。少年は怒りの言葉を口にしながら振り返った。そんな少年に対し……

 「やったのー」

 「喜ぶナ! ったく、相変わらずワケわかんねー!」

 寧々音はなぜか万歳して喜びを表現していた。意味がわからない寧々音の行動にツッコむと、寧々音はそれをスルーするように首を傾げて口を開いた。

 「ねぇ、お家から出ていくの? まだ子どもなのに」

 「う、うるせぇ! 関係ネーだろ!」

 「あるよ。だって姉弟だもの」

 「……それを、それをヤメテェから出ていくんだろーガ!」

 と、そこで寧々音の言葉が止まった。思いの丈を絞り出したような少年の言葉を聞いて。少年は嘘を言っていない。姉弟……もとい家族をやめたいからこうして出ていこうとしている。自分を必要としていない、自分の居場所がないここから。

 「なんで?」

 「え……」

 「なんで?」

 「ッ──」

 すると、寧々音は首を傾げることもせず、真っ直ぐと少年の眼を見て問いかけた。あまりにも真っ直ぐな視線と言葉に、少年は俯くことで目を逸らす。そして、今までため込んでいたものを吐きだした。

 「うるせーナ! 寧々音はどこまでバカなんだヨ! この家にはな、異能を持ってる奴しか必要ねーんだヨ! オレは異能なんて持ってない普通の人間なんだ! だからこんな化物屋敷、こっちから出てってやるっつってんの!」

 今まで誰にも打ち明けようともしなかった心の内。だが、少年は決壊したダムのような勢いでその全てを吐き出した。家が、父親が自分を求めていないことを。自分が普通という望まれない人間であるということを。

 「……わかったか。お前には関係ねーんだヨ。わかったら帰れよ、バーカ」

 「……ム」

 言いたいことを全て出し切ったところで落ち着いたのか、少年は寧々音に帰るよう諭した。もう自分と彼女は無関係とでも言いたげに。

 しかし、当の寧々音は少年の「バカ」という発言か、それとも少年の心の内にか。ムッとしたような、おもしろくなさそうな表情をしていた。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃあ、あげる」

 「ハ?」

 何を言っているのか……と少年が振り返ると、寧々音は静かに自分の額を少年の額に合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──イィィィン

 

 

 

 

 

 

 

 

 「!?」

 瞬間、寧々音の額を通して何かが流れ込んでくるのを少年は感じた。それは脳全体を流れるようで、かつ身体に染み渡るようで。まるで空のグラスに水が注ぎこまれたような、なんとも奇妙な感覚だった。決して不快感は無いが、その奇妙な感覚がむず痒さとなり身体全体にはしる。

 「や、やめろ!」

 奇妙な感覚で力が抜けそうになる自分の身体を支えるように、少年は拳を握って力強く叫んだ。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ガシャ!

 「……え?」

 彼の近くにあったマンホールの蓋が、突然飛んでいった。誰の手にも触れずに。なぜそうなったかはわからない。だが、一つだけ確かなのはそれが少年が力を込めた瞬間(・・・・・・・・・・)だったということだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「い、今のは……」

 「『磁力(・・)』なの」

 「ハ……?」

 「寧々音の異能、半分あげる。だから姉弟やめないでほしいの」

 「ハ、ハァ!?」

 一瞬、なんの冗談だと少年は感じた。だが、先ほどまでとは明らかに違う感覚が自分の中にあるのを感じていた。ほぼ手探りの状態ながら、少年はその感覚を表に出そうと力を込めてみる。

 ──イィン……

 「う、嘘ダロ……?」

 すると、先ほど飛んでいったマンホールの蓋がふらふらと浮き上がった。飛んでいった時と同じように誰の手にも触れず。それはまさに、金属類を磁化させて操る……以前に説明された『磁力』の能力そのものだった。

 しかし、『磁力』の説明を受けていたように少年は異能についてある程度は知っていた。だが、人から人への異能の譲渡など聞いたことが無い。だからどうやったかはわからない。いや、少年が気になっているのはどうやって(・・・・・)ではなくどうして(・・・・)だった。

 「なんで……なにやってんだヨ、寧々音! こんなことしてどうす──」

 「──天使かと思ったの」

 「エ……?」

 どうして寧々音が自分に異能を分けたのか、問い詰めようとする少年。しかし、そんな少年に対して寧々音は、まるで当然のことをしたかのように口を開いた。

 「初めて会った時、寧々音の弟になりに……白い羽が生えた天使が来てくれたんだって思ったの」

 その言葉を聞いて少年の中で蘇ったのは、初めて会った時の記憶。自分のことを「天使」と無邪気な顔で言い、羽があるのだと話していた。……その羽を確かめようと少年の服を脱がそうとしたが。

 当時は意味がわからなかった寧々音の行動と言葉。しかし、今になってわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「寧々音……とってもとっても嬉しかったの」

 「寧々、音……」

 彼女は会った時から……天使を愛でるように自分のことを愛していた、ということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして『磁力』を得た少年は、寧々音の跡を継ぐように『コード:ブレイカー』になり、『コード:04』()として闘っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うおおおおおお!!」

 『渋谷荘』地下にて繰り広げられる『コード:ブレイカー』と『捜シ者』勢力の対決。その中で『Re-CODE:03』であると同時に、姉の仇である虹次と対峙する刻。最初は修業にて得た磁撃砲(ガウスキャノン)にて優勢に立った刻だったが、本気を出した虹次の反撃によりすでに限界を迎えていた。さらに、腕に強い負荷がかかるため二発が限度である磁撃砲(ガウスキャノン)も撃ち切ってしまった。

 しかし今、刻はその限度を超えて磁撃砲(ガウスキャノン)を放とうとしていた。汞にて動きを封じた虹次を吹き飛ばそうと。

 ──ゴッ!!

 そして、ついに鉄塊が刻の左腕に直撃した。

 「っ、ぐ……! ぐぁ……!」

 「刻……! お前、本当に腕一本を犠牲にするつもりで──!」

 直撃の瞬間、目の前にいる虹次にも聞こえるほどの音で腕全体が壊れていく。肉は裂け、骨も砕かれようとしている。しかし、刻の眼は死なない。腕を下げようともしない。『磁力』を弱めようともしない。ただ一つ、自分の心に誓った覚悟のために。

 「テメェは……ぜってーブッ斃す!!」

 ──ドン!

 そしてついに、刻の左腕に直撃したエネルギーを加えた『磁力』が虹次の身体を吹き飛ばした。

 「ぐう! ぬ、おおおお! 『神風(かみかぜ)』!」

 しかし、虹次もただ吹き飛ばされるだけではない。両手から『空』によって生成された鋭い風を放って自分にかかるエネルギーを掻き消そうとする。

 ──ガ! ガガガ!

 だが、磁撃砲(ガウスキャノン)のエネルギーは凄まじく、一向に止まる気配は無い。

 「く……! これでも止まらんとは大したパワーだ! だが刻! これでもオレは斃せはしないぞ!」

 強気な言葉を繰り返す虹次。人によっては一種の強がりのようにも聞こえるが、先ほどまで見せていた圧倒的な強さがそれを物語っている。そして何より、闘いを楽しむように浮かべている笑みがまだ終わらないのだということを証明していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──じゃあ、もう一発(・・・・)ならどうヨ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「な!?」

 吹き飛ばされる虹次の延長線上……そこにあったのは驚きの光景だった。

 先ほどの磁撃砲(ガウスキャノン)で力すら入らなくなった左腕を袖を食い縛ることで支え、すでに一度磁撃砲(ガウスキャノン)を放っている右腕を後ろに構えている。

 その前後には……磁撃砲(ガウスキャノン)の鉄塊。

 「バカな! 連発する気か!?」

 吹き飛ばされているところに同等のエネルギーをもう一撃……単純計算でエネルギーは倍になる。一発でも止められないエネルギーが倍になれば、間違いなく虹次は耐える間もなく吹き飛ぶだろう。

 そして同時に刻の右腕も……両腕が壊れることを意味している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、それでも構わなかった。たとえ両腕が壊れようと、全身が壊れようと知ったことではない。寧々音()のためだと言うのなら喜んでその身を捧げる。

 とっくの昔に、(少年)はそれを誓っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よ……っと!」

 ──イィン……

 異能を持つ姉から異能を分け与えられた少年は、少しでも『磁力』を上手く扱おうと特訓を始めた。家にある様々な金属をいくつも操ってみせて、少しずつではあるが扱いにも慣れてきていた。

 「スゲェ……! なんてスゲェんだ、異能って! 見てろよ、クソ親父! これでテメーの鼻をあかして──」

 「何もわかっていないようですね、刻君」

 「ドワァ!」

 今まで自分を軽視してきた父親を見返そうと集中する少年。だが、突然背後から声をかけられたことでその集中は途切れた。『磁力』を解いてしまい、ちょうど特訓で使っていた鉄アレイが全て床に落ちて重低音を奏でた。

 背後を見ると、平家が壁に持たれた状態でそこに立っていた。相手が平家であるとわかった少年は、眉をひそめながら口を尖らせた。

 「ビックリさせんなよ、ヘンタイ! ……テメーがそうやってオレをバカにできんのも今のうちダゼ。今に寧々音以上に『磁力』を使いこなしてみせるんだからナ」

 自分を奮い立たせるように少年は強気な言葉を口にする。実は少年は寧々音から異能を貰い受けたことを、平家にだけは話していた。彼も『コード:ブレイカー』ではあるため異能には詳しいし、昔から教育係として接してきたため信頼もしているというわけだ。

 「……君は、異能が何であるか本当に理解していますか?」

 「ハァ……?」

 だが、そんな少年の言葉を無視して一つの問いを投げかける平家。あまりに突然の問いに少年が答えられないでいると、平家は冷静な視線を少年に向けて、答えを示した。

 「……異能の源は人の生命力。つまりは……命です」

 「……命?」

 平家が放った答えは、あまりにも重い雰囲気を纏った声によってもたらされた。その雰囲気に気圧されて、少年は思わず印象に残った単語の身を繰り返す。

 すると、平家は「そう」と一言応じてから言葉を続け、衝撃の事実を突きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「寧々音さんが『磁力』の半分をあなたに与えた。それはつまり、寧々音さんの命を半分あなたに与えたということ。そして、『磁力』の総量が半分になった分、それだけバイト中の死のリスクが高まる。……彼女は、それらを全てわかった上であなたに異能を与えたのですよ」

 ──あなたと姉弟であるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そ、そんな……。これが、寧々音の命……」

 ふと、異能を分け与えてくれた時の寧々音の笑顔が浮かんだ。あの時、自分の命を縮めるのをわかった上であんな笑顔を浮かべていたのだと、真実を知っても信じられなかった。それくらいあの時の彼女は、いつものように無邪気で、優しい笑みを浮かべていた。

 「そこまでして、オレのことを……」

 同時に、強い後悔が少年の心を支配した。今までの自分は、異能を使えることにいい気になって無駄に使い続けていた。命を懸けて分け与えてくれた寧々音の……姉の生命力()を。

 (寧々音(ねーちゃん)──!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時、少年は決めた。この身体とこの異能、全てを寧々音のために捧げよう、と。彼女自身が気付かなくてもいい。ただ、彼女のためにその全てを使いたい。

 それが命を懸けて自分を引き止めてくれた彼女に対する、唯一の恩返しだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ドン!

 右腕全体に衝撃が走る。

 左腕と同じように、耳を塞ぎたくなるような音を立てて右腕が壊れていく。

 だが、構わない。たとえ二度と両腕が使えなくなろうとも。

 寧々音()の仇を討てるなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──無駄にはしない

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──この最後の一撃を

 

 

 

 

 

 

 

 

 「くらえ! 最後の磁撃砲(ガウスキャノン)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寧々音の、命の一撃を──!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「『神嵐(かみあらし)』」

 刹那、全てが風の牙によって噛み砕かれ、刻の身体を吹き飛ばした。

 「まさか『神嵐(コイツ)』まで出すことになるとはな。見事に強くなったな、刻。だが──オレの勝ちだ」

 (そ……そんな、バカ、な──)

 全てを懸けた刻の一撃は──破壊神の前に粉々に砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体全体に力が入らない。

 ただ流れるように空中を飛ばされていき、徐々に落下しているのがわかる。

 硬い床が近づいている。その先に待っているのはただ一つ。その床に倒れる未来だけ。

 そんな現実を虚ろな意識の中で感じながら、刻は静かに眼を閉じた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──嫌だ!

 前もそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──二度と、地面になんか突っ伏したくねぇ!!

 姉を失った時も、初めて仇に向かっていった時も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──たとえ死ぬことになっても!

 もう、十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──絶対に!!

 地面を身体で感じるのは、もう──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ザシャアァァァ!!

 どう身体を動かしたのかはわからない。だが、刻は空中で無理やり身を起き上がらせ、その両足で地面に立った。そして──

 ──イィィン!

 周囲にある鉄骨を虹次に向かって勢いよくぶつける。周囲の残骸全てを武器にし、尽きることなく追撃をする。

 ──ガン! ガン!

 「…………」

 しかし、それは全て無駄だった。鉄骨などを普通にぶつけるだけでは、虹次に対してなんのダメージにもならないことは最初のうちにわかりきっていた。『空』による空気の壁で全て払い落されていった。

 ──イィン……

 それでも刻は攻撃をやめない。斃すまでやめないと言いたげに、自分の周囲に残骸を浮かせ、それを虹次に向かってぶつけ続ける。

 彼は……まだ諦めていなかった。

 「ほう、まだ向かってくるのか……! まさに限界をも超える鋼鉄(はがね)の意志! いいだろう、刻! その意志に応えてオレも──」

 だが、そこで虹次は気付いた。今の刻がどのような状態か。その全てを理解した上で……虹次は静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「刻、貴様……立ったまま気絶(おち)ているのか」

 「…………」

 すでに刻に意識など無かった。だが、それでも彼は地面に立ち、攻撃を続けた。その口元に強い意志を感じさせる笑みを浮かべたまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「両腕を犠牲にしただけでなく、気絶(おち)てもなお立ち向かわんとするこの強い意志。一体どこから……」

 呟き、虹次は再び刻を見る。今もなお彼は残骸をぶつけ続ける。すでに虹次は『空』による防御をやめており、一つひとつが直撃するがほとんどダメージはない。それほど弱い『磁力』で動かしていた。

 だが、ここまで来たら力の強さは関係ない。純粋な力ならば虹次は圧倒的に勝っていた。しかし、この意志の強さに関しては敗北を認めざるを得ない……虹次は心からそう感じていた。

 そして……確信した。

 「……刻よ、お前ならなれるかもしれぬ。いずれ来るであろう、オレたちが求める本当の闘い……そこで闘い抜く真の戦士に」

 刻に語りかけるように言葉を続ける虹次。気絶している刻に聞こえるはずもないが、虹次は満足そうに彼の元へ歩み寄っていった。

 『刻! どうした、何があった!?』

 『返事せーや、よんばん! よんばん!』

 刻の胸ポケットにしまわれていた通信機から大神、遊騎の声が響く。だが、その通信を向けられている刻は答えられず、通信を聞いていた虹次も答えようとはしなかった。

 彼は黙って刻を抱え、担ぎ上げるようにして軽々と持ち上げた。

 「……我が心友(とも)よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 待っていろ……お前の『捜シ者』を一人見つけた。今、連れていく」

 

 

 

 

 

 

 

 




CODE:NOTE

Page:43 『影』

 『コード:05』八王子 泪が操る漆黒の異能。自身の影で生成した鎌を『斬影』として操り、敵の影を截断することで攻撃する。影と実体は表裏一体……繋がっているため、影を截断されれば実体も同じように截断される防御不可の攻撃。また、『遮影』として影を展開することであらゆる攻撃を防ぐこともできる攻防に優れた異能。しかし、影が存在しない対象に対してはまったくの無力という致命的な弱点もある。
 さらには『影』を自身の身体に纏うことで、触れたもの全てを喰らう最強攻撃と敵の攻撃すら喰らい尽くす鉄壁防御を兼ね備えた『女帝の矛と盾(エンプレス・パラドックス)』を発動できる。この技は影が直接攻撃するため、影があろうとなかろうと関係なく攻撃で斬る。しかし、この技は加減なく敵を喰らい、さらには強力過ぎて自身の身体すら喰われる恐れのあるリスクが高い技のため多用はしない。

※作者の主観による簡略化
 なにげに最強スペック。



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