CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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お久しぶりです!
新しい環境に慣れるのに精一杯ですが、なんとか書き上げることができました!
ただ、久しぶりに書いたので色々とお見苦しい部分や意味がわからない部分があるかもしれません……
申し訳ありません……!
今回は優と無数の“悪”たちとの闘い!
そしてあの因縁の対決も!
モブですが、様々な異能も出ますのでお楽しみに!
それでは、どうぞ!





code:54 垣間見る強さ

 『捜シ者』が傘下に置く無数の異能者の一人である『転移』を使う男。彼の手により、彼と同じく『捜シ者』に仕える無数の異能者たちが一同に『渋谷荘』の地下に現れていた。だが、そんな圧倒的な数の暴力に対抗するのは……たった一人の強すぎる暴力だった。

 「うおおおおおお!!」

 威勢のいい大声と共に、2mを超える大男が標的に向かって突進していく。真っ直ぐと伸びた両腕の先を見ると、その手は鉄のように『硬化』している。そのまま『硬化』した両手で標的を押し潰そうとしているのだろう。

 しかし、そんな直線的過ぎる力任せの攻撃が()に届くはずもなかった。

 「…………」

 ──ガシィ!

 「なぁ!?」

 2m以上の巨体から繰り出されるパワーを乗せ、さらに鉄のように『硬化』した手による突進攻撃。常人ならば直撃を受けた時点で死んでいる。大神たち『コード:ブレイカー』なら問題ない。だが、それは避けるからであり、いくら彼らでも真正面からこんな攻撃を受ける気は無い。

 だが、ここにいる彼らの同業者……優はそれをやってのけた。大男の超パワーの攻撃を、優はしっかりと両の手で受け止めてみせた。受け止められるとは思っていなかった大男は、額から嫌な汗を溢れさせながら驚愕の言葉を漏らした。

 「う、嘘だ……! オレの『硬化』のパワーがこんなガキに……!」

 「嘘じゃない。どうしても信じられなければ……この痛みで証明してやる!」

 ──バキィ!

 「ギャアァァァァァ!!」

 大男の攻撃を受け止めた優は、そのままの体勢で冷ややかに大男の顔を見上げる。そして、自らの両手で受け止めている大男の手をなんの容赦もなく粉々にした。『硬化』していたことが仇になり、跡形も無く砕け散ってしまった大男の手。そこから伝わる激痛を少しでも逃がすように大声を上げるが、その後の優も容赦はない。

 「フッ!」

 「うごぁ!!」

 痛みに悶える大男の腹に向かって重く鋭い蹴りを喰らわせた。そのまま大男は後ろに吹っ飛んでいき、最終的には進路上にいた他の者たちも巻き込んでいった。

 「……ふん。会長が手加減した時の攻撃の方がまだマシだな」

 「オラァ! よそ見してんじゃねぇ!」

 「まったく、次から次へと!」

 他の者たちも巻き込んだまま失神した大男に向かって、優は小さく余裕の言葉をかけた。しかし、彼を襲う敵は大男だけではない。背後から次の敵が襲ってくるが、優は振り向きながらの回し蹴りを繰り出した。だが、そこで感じられるべき手応えは優が考えていたものとは違った。

 ──ガゴォン!

 「ッ!?」

 優の蹴りは何の問題も無く敵を無力化した。だが、その敵から感じられる手応えは人にしては硬く、さらにはバラバラに砕けてしまった。砕けた破片を見てみると、大小それぞれの岩だった。だが、問題はそれだけではなかった。

 ──ゴゴ、ゴゴゴゴゴ!

 「破片から再生……面倒だな」

 優の蹴りでバラバラに砕け散った破片の一つひとつが音を立てて動きだし、それぞれ破片同士でくっ付き始めた。そのサイズはバラバラで、小型のものがほとんどだが中型のものもあった。全身が岩でできており、まるで岩人形だった。おそらく、先ほど優が砕いたものは大型の岩人形だったのだろう。それが砕かれたことで新たに岩人形を大量に生成したのだ。

 岩人形たちは優を取り囲んでいき、その動きを制限しようとした。ちょうど子どもくらいの大きさだったが、なにぶん数がある。どんどん優の周囲を取り囲んでいく。

 だが、それでも優にとっては面倒なだけであって、問題ではなかった。

 ──キィィィン!

 「囲んでくれたのはありがたいな。おかげで、一撃で済んだ」

 岩人形全員で優を取り囲んだのとほぼ同時。優は『斬空刀』を一瞬で抜き、そのまま周囲を一閃した。その切れ味の鋭さを物語るように、岩人形たちは真っ二つになって再び転がり落ちた。

 すると、そこで一人の男が口走った呟きを優は聞き逃さなかった。

 「オ、オレの『岩石』で作った岩人形をこうも簡単に……!」

 「……この手のは、本体を仕留めれば終わりだな」

 自らの異能で生成した岩人形をいとも簡単に無力化された男。その男に狙いを定め、優は足元にあった岩人形の破片である岩を手に取った。そして……

 ──ブン!

 「ぶはっ!」

 空気を切るような音を立てて、岩は男の顔面に直撃した。『脳』によって強化された優の腕力で投げられ、男はそのまま再起不能になった。

 「調子に乗りやがって! オレの『消化』で特別にブレンドされた消化液で骨まで溶けろ!」

 仲間がやられても動じることなく、さらに別の男が前に出て優に迫っていく。男は走りながら口をすぼめると、そこから唾を飛ばすように消化液を繰り出した。それに気付いた優が避けると、消化液は地面に付着した。すると、異臭と低音を撒き散らしながら付着した部分を溶かし始めた。

 「人に向かって唾を吐くな、って誰かに習わなかったかよ……。その口に蓋してろ!」

 ──ズガァァン!

 「う、ぐ……!」

 男の攻撃方法に呆れながら、優はその手に拳銃を構える。そして間髪入れずに発砲すると、銃弾は男のすぼめた口を通って男の喉を貫いた。その正確な射撃の腕に驚く暇もなく、男はその場に斃れた。

 「これで三十人目……だな。あと何人いるのやら」

 硝煙を吹き消した優が斃した敵の数を確認する。しかし、目の前に未だ広がる無数の敵を見て、思わずため息をついた。すると、その無数の敵の中から少し前も聞いた声が響いた。

 「まったく恐ろしい奴だな、夜原 優……。これは本気でいかないとかもなぁ」

 「本気、か。仲間を『転移』させるだけのお前の本気がなんだか知らないが、関係ない。何をしようとオレはここでお前ら全員を斃す」

 ──ウオオオオオオオ!!

 どこか余裕を感じさせる男の発言に対し、優は改めて強い意志を言葉にしてみせた。そして、未だ目の前に広がる殺気立った無数の敵に向かって、彼は真っ直ぐ突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いくで~、にゃんまる号令~。にゃんち03!」

 「……にゃんち04」

 「にゃ、ん……」

 「ろくばん! 声小さいで! ちゃんと確認せなあかん!」

 一方、『捜シ者』に追いつくために先に行った大神たち。緊迫した様子の優とは違い、どこか和やかな雰囲気を漂わせていた。どこから用意したのか、それぞれのナンバーに合わせたゼッケンを一人ひとり着け、遊騎の号令によって自らの存在を確認していた。

 だが、やる気になっているのは遊騎だけで、刻と大神は「どうしてこうなった」とでも言いたげな表情をしながら号令に参加していた。

 「ネェ、遊騎クン……。どうして急にこんなやる気になってるワケ?」

 「ななばんに言われたからな。にばんがおらん今、一番上なのはさんばんのオレや。せやから、よんばんとろくばんはオレが守ったるし」

 「遊騎クンは責任感が強いんだネ……。……優の奴、余計なことしかしねぇナ」

 急にやる気を出した理由を刻が尋ねると、遊騎は優と別れる直前に彼から言われた言葉を実行していることを告げた。有言実行していく遊騎の行動力に刻は少し引きながら、誰にも聞こえないほどの声で優への苛立ちを言葉にした。

 すると、今まで黙っていた大神が精一杯の笑顔でなだめるように遊騎に声をかけた。

 「えぇと、そんな無理に番号にこだわらなくても……」

 「そーだヨ、(ゆう)チャン? 『よんばん』じゃなくて『刻クン』って呼んでくれれば──」

 「嫌や」

 それぞれ話しながら着けているゼッケンを脱ぐ大神と刻。すると、その刻の言葉を遮るように遊騎はバッサリと否定の言葉を告げた。そして、少しだけ足早になって二人の前を走り出しながら、遊騎はその理由を口にした。

 「名前やなくて番号で呼ぶ。……友達やあらへんもん」

 「…………」

 「……へいへい、またそれですカ」

 遊騎が頑なに番号呼びにこだわる理由……それは友達ではないから。遊騎邸で桜に「友達だ」と言われた時も、『渋谷荘』で大神と刻の間に入った時も。彼は自分に友達は無く、『コード:ブレイカー』同士も友達ではないと告げた。この「友達」というのは、遊騎にとって何か強い意味を持つ言葉なのだろう。それこそ彼の過去が関係してくるような、とてもとても深い理由が。

 そのいつも通りの返答に、大神は静かに遊騎を見て、刻は呆れたようにため息をついた。互いの過去を詮索しない無言の掟がある『コード:ブレイカー』(彼ら)にしてみれば、こうして無理に踏み入っていかないのが普通である。

 「せやかてオレは、認めたヤツしか番号で呼ばん。にばんも嫌いやけど認めとるし、ななばんも同じや。だから、にばんがごばんを助けて戻ってくることも、ななばんが敵を斃して戻ってくることも信じとる」

 「遊騎……」

 すると、先ほどの言葉に補足するように遊騎は言葉を続けた。友達ではないから名前で呼ばない。それでも、番号で呼ぶのは彼が「同業者」として認めた証だという。普段から平家とは意見の対立が目立つ遊騎だったが、心の底では彼を認めているようだ。そして、優のことも。

 そんな遊騎の仲間に対する信頼を感じ、大神が彼の名を呼んだ……その瞬間。

 ──ゾクッ!!

 『──ッ!』

 突然、全身を駆け抜けるような寒気と共に押し潰されるようなプレッシャーを感じた。まるで身体全体が警鐘を鳴らしているかのように、彼らは思わず走っていたその足を止めた。

 そして、その目の前にはそのプレッシャーを放つ存在が確かに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「悪いが、『捜シ者』のところには誰一人として行かせはしない」

 「……虹次!」

 三人の前に立ちはだかる一人の男……瘢痕の『Re-CODE:03』の異名を持つ虹次が重苦しいプレッシャーと共に放ったその一言は、確実に大神たちの警戒心を振り切らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……刻、よくぞここまで来た。だが、今は前回と違い散歩中などではない。あの時のようにお前と遊んでいる暇はなさそうだ」

 「…………」

 虹次は大神たちを一瞥すると、刻にその視線を向けて静かに語った。やはり彼も『捜シ者』を守護する存在である『Re-CODE』が一人。『捜シ者』が関わった事態となれば一切の容赦なく敵を討つ。以前、『渋谷荘』で会った時とは違うのだとひしひしと伝わった。刻もそれを感じているのだろう。彼は虹次の言葉を黙って聞いていた。

 すると、刻の隣にいた遊騎が一歩前に出て、強い意志を込めた眼で虹次を睨みつけた。

 「遊んでる暇がないのはオレらも同じやし。だからさっさと……そこどけや!」

 「燃え散れ!」

 自らの足に『音』を纏い、遊騎は音速で虹次に突っ込んでいく。そして、大神も『青い炎』を左手に纏いながらそれに続いた。向こうが本気である以上、こちらも本気で行くしかない。相手にしてみれば多勢に無勢だが、それを無視するほどの力が虹次にはある。先手必勝ではないが、遊騎と大神は少しでも闘いを有利に運ぼうと虹次との距離を詰めていった。

 だが──

 「『無空(むくう)』」

 「な──!?」

 瞬間、遊騎が足に纏っていた『音』と、大神が左手に纏っていた『青い炎』が消えた。だが、虹次は目に見えて何かしたわけではない。なぜなら、彼は大神たちの前に現れてからずっと同じ姿勢……両手をポケットに入れたまま一度も出していないのだから。

 何をされたのか理解が追い付かない二人に対し、虹次はゆっくりと両手を出した。そして、二人の前にそれぞれの掌を向け、諭すような言葉を向けた。

 「……帰れ、生き急ぐな。お前たちはまだ若いのだから」

 ──ドンッ!

 掌から放たれた『空』の衝撃に、大神と遊騎はなす術も無く吹き飛ばされる。背中が床に叩きつけられる前になんとか体勢を整え、二人はそのまま受け身を取ってダメージを逃がした。

 「遊騎、無事か!」

 「大丈夫や。……けど、やばいで。多分やけどアイツ、一瞬だけ自分の周りを真空状態にしたんや。真空状態やったら、空気で振動を伝えるオレの『音』は届かへん。それに、真空やと酸素が少なくなるからろくばんの『青い炎』も消えてまう」

 「チッ……!」

 虹次に視線を向けたまま遊騎の安否を確認する大神。遊騎はその声に最低限の返答をすると、冷静に先ほどの現象についての考えを述べた。すると、再び両手をポケットにしまった虹次が「そうだ」と口を開いた。

 「オレの異能『空』はその名の通り、空気そのものを操る。風を起こすも止ますも、空気圧を上げるも下げるも自在というわけだ。『無空』はまさに空気を無くす技。この技の前では『青い炎』も『音』も無意味。さぁ、どうする?」

 自らの異能について説明しながらも、一切の隙を見せない虹次。余裕を感じさせる表情をしているが、実際そうなのだろう。それほどの実力さが彼らの間にはあった。そんな相手を異能を使わずに斃すのははっきり言って至難の業だ。

 しかし、だからといって簡単に諦められるようなら、彼らは今ここにはいない。

 「……関係ない。異能が効かなくても、邪魔するなら斃すだけだ!」

 「せや! わかったらさっさとそこを──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「大神! 遊騎! そこをどけぇぇぇぇ!」

 『ッ!?』

 ──カッ!!

 それまで響いていた全ての音を掻き消すような大声の後、思わず目を瞑ってしまうほどの眩い光が空間を包んだ。そして次の瞬間、全てが揺れた(・・・)

 ──ドガァァァァァン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……よそ見してんじゃねぇヨ。アンタの相手はオレだろ」

 「刻!」

 突然の光と轟音が空間を包んだかと思うと、はるか上方から刻の声が届いた。見ると、彼はいつの間にか廊下の天井の上に立っていた。どのようにして上ったかはわからないが、今はそんなことはどうでもいい。

 問題なのは、刻がいる位置から先ほどまで虹次がいた位置への直線上、そこにあったはずの天井や壁など何もかもが破壊されていることである。特に虹次の背後にあった壁の損害は最も大きい。まるで巨大な鉄球が高速で突っ込んだかのように粉砕されており、刻が放った攻撃の威力の高さを物語っていた。さらに、その代償か。彼の右腕部分は制服が肩近くまで破れ、露わになった腕もボロボロの状態だった。

 「なんつう威力や……!」

 「『磁力』でこれを……!? 刻! お前、修業で何を習得した!?」

 一瞬のことだったため、遊騎と大神も何があったかわからなかった。そのため、壁などの損害を見て刻が放った技の威力に驚愕するばかりだった。そして、それは虹次も同じである。

 「…………」

 グッ、と右の頬に刻まれた傷を指でこする。直撃こそしなかったが、避けきれなかったのも事実。前回と違って早々に傷を刻まれ、虹次は今まで見せていた余裕を捨てて眼を細めた。そうして鋭い視線を向けた人物……天井から身軽な動きで下りてきた刻は、真正面から虹次と対峙しながら大神と遊騎に声をかけた。

 「オイ、お前ら邪魔だ。さっさと先に行って『捜シ者』を追え。コイツはオレが斃す」

 「何言うてんのや! あかんで、よんばん! アイツ、めっちゃ強いで!」

 追っ払うかのように手を振りながら、二人に先に行くよう伝える刻。だが、相手はあの虹次であり、刻は一度負けている。それを知っている遊騎は当然のように反対し、一緒に闘おうとした。すると、刻はその言葉を遮るように、ボロボロになった右手で遊騎の胸を叩いた。

 「バーカ。強ぇから天才のオレ様にしか相手できねぇんだろーガ。……早く行け。そんで、絶対『捜シ者』にパンドラの箱(ボックス)を渡すな。頼んだぜ、遊騎(さんばん)

 「ッ……! ……わかった。任しとき!」

 気合いを入れるかのように、刻の拳に力が込められる。拳を通して彼の覚悟が伝わるようで、遊騎は大きく目を見開いた。そして、自らに向けられた番号呼びを受け、遊騎は力強く頷いた。

 「おう。……ア、つっても下っ端の大神(ろくばん)には期待してないカラ」

 「……ハッ、期待してねぇのはオレも同じだ」

 遊騎への信頼を感じさせる言葉を言ったかと思うと、いつもの調子で刻は大神に厳しい言葉をかけた。だが、遊騎と同じように番号で呼んでいることから、大神のこともしっかり信用しているのが伺える。それを受け入れるように、いつもの調子で大神も言葉を返した。

 「──だが、死ぬなよ」

 「──ハンッ。誰に向かって言ってやがル」

 ただ一言、いつもならば言わない言葉を添えて、大神は遊騎と共に先へと進んでいった。二人分の足音が響いていき、それは少しずつ小さくなる。そうして、最終的に静寂に包まれた空間に残ったのは二人だけ。全てを託して二人を先に行かせた刻と、その二人を黙って素直に行かせた(・・・・)虹次の二人だった。

 「……誰一人として通さねぇんじゃなかったのかヨ。みすみすと二人を通しやがって」

 「ふっ、無粋なことを聞くな。ただ純粋に、強くなったお前と闘うことに集中したかっただけ。お前の強さを見てみたくなった、という方が正しいかもしれんな」

 二人だけの空間の中、刻が口を開いて一つの疑問を投げかける。最初に「誰も通さない」と言っておきながら、大神と遊騎を行かせたことが気になったらしい。すると、虹次は静かに笑いながらその理由を答える。その返答はまるで、刻を対等の相手と認めているかのように聞こえた。

 だが、刻にとっては認めていようといまいと関係なかった。どちらにしても、やることは同じ。そのために彼は修業を乗り越えて、強くなった。

 「へぇ? そいつは光栄ダナ。けど、残念。そいつは無理な話だ。アンタはオレの強さを目にする前に……ブッ斃す」

 「斃す」……その言葉を自らの心に誓うように、刻は自らの胸の前で力強く拳を握った。そして、決意が込められた金銀妖眼(ヘテロクロミア)で虹次を見据えた。口角を上げ、自信に満ちた力強い表情を浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ズゥゥゥゥン!

 全身を震えさせるほどの重低音と共に、部屋全体が大きく揺れた。突然起こった揺れの衝撃に、多くの者が動揺を隠しきれずにいた。だが、そんな中で一人だけ……優だけは何かを察したように、鉄の扉で封された出口の方をチラリと見た。

 「……あいつら、派手にやってるみたいだな。まぁ、オレも人のこと言えないか」

 「うおおおおお!!」

 フッと自嘲するように笑みを浮かべる優。それが隙に見えたのか、彼の近くにいた異能者たちがそれぞれの異能を全開にしながら向かってきた。腕を植物のように伸ばす者、溶岩をその手に纏う者とバラバラの攻撃方法で優に迫る。だが、優にとっては何ら問題ではない。

 ──スパァァァン!

 「……これで、七十七人だな」

 グチャリと剥き出しになった肉が床に倒れる音が響く。先ほどまで生きて動いていたというのに、一瞬で吐き気を催すような肉塊になってしまった。不快感しか感じない音と光景だが、それを気にする者は一人としていない。というのも、そんな肉塊よりもそれを作ってみせた優の方に意識が向いているからだった。

 「う、嘘だろ……?」

 「こんなの、勝てるワケが……」

 近くにいる者と身を寄せ合い、彼らはただ優を見る。優は手にした刀を風を切るように振って付着した血を払い落し、冷ややかな眼を動かして次の標的を見定める。そこには先ほど見せたような自嘲の笑みは欠片も残っていない。

 すでに闘いが始まってから結構な時間が経っていた。他の者を先に行かせて一人残った優に対し、片や『捜シ者』に従う無数の“悪”。ほとんどが異能者であるにもかかわらず、その力の差は圧倒的だった。先ほど一人の男を両断した優が呟いたように、彼はすでに七十七人もの“悪”を裁いていた。その間、ほとんど目立つ傷を受けることなく。思わず拍手してしまいそうなほどの闘いをする優に対し、敵である異能者たちはすっかり恐怖を感じていたのだ。

 「どうした? さっきまでの勢いはもう終わりか?」

 「ひっ……!」

 自分を取り囲むようにしながらも一定の距離をとる者たちの一人に、愛刀である『斬空刀』の切っ先を向ける優。照明が反射してきらりと輝くと、切っ先を向けられた者は顔を真っ青にして全身を震わせた。一歩、また一歩と距離を詰めていく優。それに合わせて周囲は後ずさっていき、声にならない悲鳴を上げていく。

 「──はぁ、怖いねぇ」

 すると、一人の男がその間に割って入った。それは、この部屋に来た時に最初に会った異能者……異能『転移』を操る異能者だった。

 「いや、怖い怖い。強さもそうだが、何よりその容赦のなさだ。さすが『コード:ブレイカー』ってところだな」

 「自分から前に出てくるとはな。それは降参か? それとも本気とやらを見せてくれるのか?」

 恐れ入った、とでも言いたげに両手をひらひらと振る男に対し、優は切っ先を男に向け直す。今のところ、『転移』についてわかっていることは移動専門の異能であること。直接、闘うような異能とは思えないが、何を隠しているかわからない。優は探りを入れながら、いつでも動けるように構えていた。

 男はそれを察してか、特に隠す素振りも見せずに首を縦に振った。

 「まぁな。正直言うと、今ここにいる奴ら以外にまともな戦力はいない。……大したものだよ。たった一人で『捜シ者』に仕える異能者の半数近くを斃しちまうんだからな」

 「なるほど。つまり、この部屋にいる奴らを全員斃せば、『捜シ者』の戦力は間違いなく落ちるってことか。なら、さっさと終わらせてもらおう」

 もう別の場所に控えている戦力はいないということを自白する男。こんな状況では特に嘘をつくメリットもないため、おそらく本当のことなのだろう。その告白を受けて、優は早く終わらせようと改めて『斬空刀』を構えた。狙いはもちろん『転移』を使う男。たとえ何かを企んでいようと、それを使われる前に斃す気でいた。

 「いい加減、オレも疲れてきたからな。一気に終わらせて──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ピキィィィン……!

 「──ッ!?」

 瞬間、優の身体がその場で止まり、今まで静かだった表情が驚愕の色に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おや、どうした? なんだか、身体が重そう(・・・・・・)だな?」

 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら優との距離を詰める男。普段ならなんの問題も無く切り捨てられる間合いに入っているにもかかわらず、優はそれが実行できなかった。いくら身体を動かそうとしても、何か強い力に押さえられているようにピクリともしなかった。

 「これ、が……本気か……」

 幸い口の動きまでは押さえられなかったが、ひどく喋りづらかった。そんな優とは対照的に、男は軽やかにその口を開いて言葉を続けた。

 「その通り。まぁ、本気というよりは奥の手って感じだがな。たとえ『コード:ブレイカー』全員を相手にしたとしても勝機を見出すことができる……最強の奥の手だ」

 明らかに誇張しているような話だったが、優は「誇張だ」と切り捨てようとは思えなかった。実際にその力を自分が体験しているというのもあるが、男の表情は今までにないほど自信に満ちていたのだ。そして、男はその表情のまま指を鳴らした。

 「ほら、出てこいよ……奥の手の役立たず(・・・・・・・・)

 男はかなり矛盾しているような呼び名で誰かを呼ぶ。すると、優と男を囲むように密集していた“悪”たちをかき分けるように、ある一人の人物が出てきた。その姿を見て、優は思わずその眼を大きく見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 「女、の子……!?」

 無数の“悪”の群れから現れたのは、幼い顔つきと身体つきをしたまだ小学校低学年ほどと思われる少女だった。おずおずと小刻みに震える両手を前に出し、力を緩めまいと荒い呼吸を繰り返しながら、栗色の髪をした少女は優の前に立ちはだかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




オリジナル異能についての簡単な説明です!

『硬化』……身体の一部を鉄のように硬くする。皮膚だけでなく骨や筋肉なども一緒に硬くなる攻防兼ね備えた異能。

『岩石』……岩同士を繋ぎ合わせて、自在に操ることができる岩人形を作り出せる。たとえ壊されても岩がある限り、何度でも復活が可能。

『消化』……体液の全てを強力な消化液にすることができる。性質は酸性で骨すら容易に溶かす。

以上です!
とっさに考えた異能ですので特に深い設定などはないです(笑)
最後に出てきた少女もとい幼女の正体については……次回明らかに!
それでは、失礼します!



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