CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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今回は桜のご両親が登場します。
また、夜原さんが軽く暴走します。





code:06 桜小路家へ

 「神田先生は?」

 「サポートに徹するって。『マイ・マスターは役に立たないけど、刻君がいれば安心だワ~』って言ってたし」

 「……あまり下らない嘘をつくな」

 「うっせえ。てか、元々桜チャンを護る今回のバイトは大神のバイト……。大神が異能をロストしたおかげでオレが呼ばれたんだシ。つか、なんでお前もいるんだヨ」

 「このバイトはオレにも話が来ていた。元々はオレと大神でやる予定だったらしい。だからオレがここにいても不思議じゃないだろう」

 「へっ。『コード:07』と一緒とか。やっぱり『コード:06』は下っ端ってことか。かわいそうだね~。最強の大神君」

 「…………」

 神妙な顔をしている桜の問いに、刻が軽口を交えながら答えた。その後、突っかかってきた優と苛立ち気に話しながら、大神に嫌味を言う刻。大神は、眉をひそめながらただ黙っている。

 だが、それは仕方のないことでもある。大神は昨日の夜から異能を使いすぎによって起こる、異能が二十四時間使えなくなるロストという状態となっていた。また、この時の大神は異能が使えなくなるだけでなく体温が著しく下がる。そのため、今の彼は立って歩くだけでも精一杯なのだ。

 「そもそも、なぜ私が命を狙われる?」

 桜が最も気になっている疑問を口にした。今より数時間前。担任の神田が“エデン”のエージェントであることが判明した。そして、その神田の口から出た話が、『コード:ブレイカー』が行う次の仕事に桜の特殊な家庭事情が関係しているということ、そして桜の命が狙われている、というものだった。今、彼らはそれに関わる仕事を行うため、ある場所に向かっていた。

 「……忘れたとは言わせないヨ」

 刻が言い終わるのと同時に、彼らは立ち止まった。目的地である……桜の自宅に着いたからだ。だが、それはどう見ても一般的な家庭とは言えなかった。なぜなら……

 「桜お嬢! お帰りなさい!!」

 武家屋敷のような豪邸、スーツを着た男たちが玄関までの道を挟んで並び、桜に向かって頭を下げていた。スーツを着た男たちの出迎えと「お嬢」という敬称。それらが意味する答えを刻が口にした。

 「君はこの任侠組織、『鬼桜組(きざくらぐみ)』組長の娘なんだかラ」

 そう。これが神田の言っていた桜の特殊な家庭事情。彼女の実家は任侠組織である『鬼桜組』。桜はその組長の娘なのだ。これでは、命が狙われていようと警察に助けを求めることはできない。

 「そんなに家は特殊か?」

 しかし、当の桜はあまりわかっていないようだった。そんな桜を見て、刻は呆れたような顔になった。

 「自覚ないのね……。ま、でも安心していいヨ、桜チャン。オレたち『コード:ブレイカー』は法で裁けない悪を裁く。それは『法で護れない人を護る』ってことでもある。ヤクザの娘となれば警察にはそう簡単に頼めない。そんな君はこのオレが護ってアゲル」

 こんな時でも軽口を交える刻。だが、彼の言っていることは間違いではない。警察に助けを求めることのできない桜が命を狙われている。その桜を護るというのが、今回の『コード:ブレイカー』たちの仕事なのだ。

 だが、当人である桜はあっさりと言った。

 「必要ない。自分の身は自分で護る。では失礼する」

 そう言って家に入ろうとする桜。刻は慌てて桜を止めようとする。

 「ちょ! じゃあ、アレ! お友達として遊びに来たってコトで!」

 「……うむ。それならよい。案内しよう」

 機転を利かせて家に入ること自体は許された刻たち。桜は彼らを案内するためにさっさと家の中に入った。そんな桜の背中を見ながら刻たちはひそひそと話し出した。

 「オレがあいつの友達など虫唾が走る。さっさと訂正しろ」

 「ウルセー! だったら帰れ、お前!」

 眉間にしわを寄せて明らかな嫌悪を示す優。どうやら、桜に無理矢理目を合わせられたことをまだ許していないようだった。そんな優の態度を見て苛立つ刻だったが、優は平然とした態度で言い返した。

 「バイトを受けた以上、帰るわけないだろう」

 「チッ、うぜぇな……! ……まあいい。最近続いている有力暴力団組長の子どもの暗殺。そのせいで組同士が疑心暗鬼に陥って今にも抗争に発展しかねナイ状況……。それを防ぐためにも、ここでオレたちが止める必要がある。それに、“エデン”としては観察対象の珍種に死なれるわけにはいかナイ。と言っても、本来ならオレのバイトじゃないしオレはサボっちゃおうかな~。その時はロストした大神君と犬野郎の優がどうするのか見せてもらうとするヨ」

 「…………」

 苛立ちながらも今回の仕事の背景を口にする刻だったが、結局は軽口で終わった。そんな刻を、大神は相変わらず黙ったまま睨んでいた。

 話が終わった彼らは、桜の後を追って桜小路家に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 「おお……!」

 桜小路家の玄関は見事の一言に尽きた。見た目からも予想できる通り和を中心とした仕様となっており伝統と格式を感じられた。普段は感情を表に出さない優も感動して目を輝かせている。

 「うっわー、広っ! こんな置物、ヤクザ映画でしか見たことないナァ~」

 「アア!? なんやアンチャン! ケンカ売っとんのか、コラ! わしらはヤクザちゃう! 任侠や! 桜嬢のご学友でもそこんとこ間違わんでもらおうか!」

 「は?」

 わざとらしく大声で話す刻。すると、『鬼桜組』の組員たちが刻の言葉に真っ先に反応した。彼らにしてみれば、刻の言葉は馬鹿にしているようなものに聞こえたのだろう。組員たちはものすごい形相で刻を睨みつけるが、刻はそれでもおちゃらけてみせる。しかし次の瞬間、組員以上の形相と殺気を感じた。

 「その通りだ……! 刻……!」

 「え?」

 「任侠とヤクザは月とスッポン……! 誇り高き任侠組織を! チンピラの集まりのヤクザと一緒にするな! 昔ながらの漢の集まりなんだよ! 任侠ってのは!」

 「は、はい……。ゴメンナサイ……」

 先ほどの目を輝かせていた状態とは真逆。鬼のような形相と殺気で刻に迫る優。その迫力に刻は思わず素直に謝っていた。そして、優の言葉を聞いた組員たちはワッと優の周りに集まった。

 「おお! そっちのアンチャンはわかっとるの! その通りや! わしらは誇り高き任侠や! いやあ、嬉しいの! 若いアンチャンにわかる奴がおるとはの!」

 一人は優とぶんぶんと勢いのある握手をして、一人は優の肩をバンバンと叩いたりと、優は組員たちにいたく気に入られたようだった。

 「いや、それほどでも。ところで、『鬼桜組』の組長と言えばあの方ですよね?『関東のあばれ龍』の異名を持つ……」

 「おお! その通りや! よく知っとるの!」

 「あ、『あばれ龍』……?」

 優の言葉に、組員たちは嬉しそうに、刻は大神の後ろに隠れて恐る恐る反応した。すると、優はペラペラと説明を始めた。

 「弱きを助け強きをくじく仁義に命を懸けた昔カタギの漢の中の漢。任侠の世界の人間が畏れ、尊敬する漢。そこからついた異名だ。本名は桜小路(さくらこうじ) 剛徳(ごうとく)さんだ」

 それは、言い方が悪いが桜が命を狙われる原因となっている男のことであった。『鬼桜組』の組長にして桜の父親。彼について生き生きと説明する優を見て、未だに大神の背中に隠れている刻は尋ねた。

 「随分と知ってんな……。いくらバイトのためとはいえ、そこまで情報集める必要なくねーか?」

 「何を言ってる。このことはこのバイトを受ける前から知ってたぞ」

 「はあ!?」

 バイトを受ける前から知っていた。それはつまり、ほとんど趣味の世界ということを意味していた。驚く刻を無視して、優は珍しく自分から桜に話しかけた。

 「さあ、それより早く行こう。会うのは初めてなんだ。案内してくれ、桜小路」

 「わかりました。しかし、夜原先輩は父上のファンだったのですね。意外です」

 目こそ合わせないものの桜と普通に話している優。歩いていく二人の背中を見ながら、刻は小さな声で大神に尋ねた。

 「なあ。なんであいつ、あんなに生き生きしてんの? つーか、怖いんだけド……」

 「……優は和風の物とか昔ながらのものが好きらしい。だからだろう」

 「マジかよ……」

 好きにしても限度がある。だが、優の前でそれらの物を馬鹿にするような発言はよそう、と刻は固く心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 「着いたのだ」

 桜によって案内されたのは奥の方に位置する襖によって閉められた部屋。どうやら、この中に剛徳がいるようだ。

 「いよいよ『関東のあばれ龍』に……」

 「まあ、そんな異名持ってるってことは結構強面な人なんだろーナ」

 もはや素で楽しそうな優に剛徳という人物について色々と予想している刻。大神は特に興味がないようで相変わらず無表情だ。

 「父上。桜、ただいま帰りました」

 桜が襖を開けた。そして、彼らは『あばれ龍』と対面した。

 

 

 

 

 

 「…………や。おカエリ、桜チャン。ケホッ……」

 

 

 

 

 

 (えええええ!!?)

 あまりにも予想と違いすぎた剛徳の姿に、刻が大袈裟とも言えるほどの驚愕の表情を浮かべていた。それもそうだ。『あばれ龍』という異名を持ち、仮にも任侠組織のトップに立つ男だ。目を合わせるだけでも一般人なら気絶するような雰囲気を持った強面の男などを想像しただろう。しかし、そこにいたのは青白い顔に細長い体格をした明らかに具合の悪そうな男だった。

 「桜チャーン! 無事か!? ん!? 今日も学校は元気で楽しかったかい!?」

 「大丈夫です。父上」

 剛徳は桜に近寄って娘の無事を確認していた。その様子を見るだけで、彼が桜を溺愛しているということが安易に予想できた。すると、剛徳は鼻血を出して倒れかけた。

 「大声を出して鼻血とめまいが……。桜、救急箱を……」

 「はい。父上は本当に病弱でいらっしゃる」

 二人の様子を見れば見るほど、『関東のあばれ龍』という異名が嘘に感じてくるようだった。刻はこっそりと大神に近づいて話しかけた。

 「え……? あれなの? マジで? なあ、大神?」

 「……そうなんじゃないですか? 別にどうでもいいですが」

 平然と答える大神。刻は、剛徳と会うことを最も楽しみにしていた男の意見を聞くことにした。

 「冷めてんな、お前……。なあ、優はどう……」

 「…………」

 「石化してやがル!?」

 かなりショックだったようで、優はその場で固まっていた。期待が大きかった分、実際に見た時のショックも大きかったのだろう。

 そんな中、桜たちが入ってきた襖とは別の襖が急に開いた。そこから現れたのは、セーラー服に、クマの刺繍がなされたエプロンを着て、手にはお玉を持った可愛らしい少女(?)だった

 「桜きゅんが男の子連れてきたってホント~? こんなこと初めて~!」

少女(?)はパタパタと大神たち男三人に近づいた。石化していた優だったが、それには気づいたようでサッと目を逸らした。

 「しかも三人!? キャー! 誰が本命!? しかもこっちの彼ハーフじゃない!? カッコイイ~!」

 ブンブンと両手を振って騒ぎ立てる少女(?)。すると、刻が彼女に優しく話しかけ始めた。

 「何? 君、桜チャンの妹? もしかして、オレに興味あるのかナ?」

 しかし、次の瞬間に桜が発した言葉で、刻の顔はまたも驚愕に変わる。

 「コスプレもほどほどにしてくださいと言ったはずです。母上」

 「母ぁ!?」

 またも衝撃の事実だった。どう見ても少女にしか見えない少女(?)の正体は桜の母親だった。

 「だって、似合うんだもーん。ねー、ゴー君」

 「幼妻ユキちゃんがかわいすぎてまた鼻血が……」

 病弱で今にも死にそうな父親に少女にしか見えないコスプレが趣味らしい母親。これが任侠組織『鬼桜組』の組長とその妻なのである。また、妻である桜小路(さくらこうじ) ユキに擦り寄られ鼻血を出す剛徳の姿を見て、優は再び石化したというのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「姉さん! いただきやす!」

 「……桜チャンの家って、いろいろ強烈だネ」

 「そうか? 気にしたことはないぞ」

 剛徳とユキに挨拶した三人は、「客人が来たら同じ釜の飯を食う」という『鬼桜組』のしきたりによって開かれた宴会に出席していた。一般家庭では考えられないような家族構成やルールに刻は少し引いていたが、桜はまったく気にしていないようだった。やはり、自分の家のことなので慣れてしまっているのだろう。ちなみに、先ほど何度も石化していた優はというと……

 「人は見かけによらないんだよ……。病弱だろうが『あばれ龍』に違いないんだ……。ハ、ハハ……」

 乾いた笑いを浮かべながら宴会に参加しようとしていた。だが、その手は異常なほど震えているため、箸を全く使えていない。

 一方、桜は組員たちと賑やかそうに話していた。まあ、会話の内容を聞いてみると、「桜嬢に婿なんて早い!」と、大神たち三人の誰かが桜の恋人か何かだと思い込んでいるようだった。会話の内容は何にしろ、組員たちに囲まれて話す桜を見て、大神はポツリと呟いた。

 「……いい御家族ですね」

 「ああ!」

 大神の言葉に、桜は満面の笑みで答えた。

 

 

 

 

 

 

 「手品いきますよ、手品~」

 「おおー! 浮いてやがるぜ!」

 「と、刻君……。それは……」

 宴会もだいぶ盛り上がってきて、刻は『磁力』による手品を披露していた。異能を使う人間から見れば明らかに異能の無駄遣いだが、それを止める者はいない。優は何とか正常に戻って食事をしており、大神はいつの間にか宴会を行っている部屋から姿を消していた。

 「……む? 大神と父上は?」

 桜が大神と剛徳がいないことに気づいた。桜は、近くにいた優に聞いてみることにした。

 「夜原先輩。二人がどこに行ったか知りませんか?」

 「知らない」

 端的に答える優。どうやら、この返答にも慣れたようで桜は気にせずに考え出した。

 「そうですか……。では、探してきます!」

 そう言うと、桜は部屋を飛び出した。こういう時の桜の行動力は凄まじいものがあった。二人がいる場所の見当がついているかどうかは知らないが。

 「……ふぅ」

 「ねえねえ。優君だったよね?」

 大きく息を吐いた優の隣に突然やってきたのはユキだった。優は慌てて目を逸らす。

 「は、はい……」

 「さっき桜きゅんが言ってたんだけど、優君がゴー君のファンってホント?」

 「はい……。素晴らしい方だと思っています……」

 「うわ~、ユキちゃん嬉しい! やっぱりゴー君はカッコイイよね!」

 パタパタと手を振るユキと苦笑いを浮かべる優。どうやら、今の優にとってユキと話すのは結構辛いものがあるらしい。優は、ユキのペースに飲まれまいと自分から話題を振ることにした。

 「……あの、一ついいですか?」

 「な~に?」

 「その、剛徳さんは前から病弱なんですか? 桜さんを心配させないための演技……とかではないんですか?」

 それは剛徳の姿を見たときから気になっていたものだった。仮にも『鬼桜組』の組長なのだ。それなりの実力があるはずなのだが、剛徳の姿からしてそんな実力があるとは思えない。だから、仮に病弱だとしてもそれは愛する娘である桜の前で演じている“嘘”なのではないか、と優は考えていた。……そうであってほしいという優本人の希望も入っているかもしれないが。

 「演技なんかじゃないよ。でも、最近は危ないことしてないから大丈夫!」

 あっさりと明るく希望を否定された優。また乾いた笑いを浮かべながら話を繋げた。

 「ハハ……。まあ、『鬼桜組』はこの雰囲気を見ても悪いことなんてしなさそうですもんね。これには何か理由があるんですか?」

 「気になる?」

 ユキが下から優の顔を覗き込んだ。優は視線だけを動かして目を合わせないようにして答えた。

 「え、ええ……」

 「……それはね、桜きゅんとゴー君が約束したからなの」

 「約束?」

 「うん。それは……」

 ユキが話そうとしたその時。手品をしていた刻が手品をやめて、突然叫んだ。

 「大神ー!! 北に四十五度の方向!!」

 その瞬間、家の奥の方から窓が割れる音が響いた。その音を聞いて、宴会を行っていた部屋はパニックになる。

 「な、なんだ!?」

 「い、一体なにがあったの~!?」

 パニック状態の中、優は刻に近づいてこっそりと話しかけた。

 「始末屋だな」

 「ああ。どうやら金属系の武器を使う連中みてーだ。おかげでオレの『磁力』で気づけたシ。けど、どうせザコだ。神田チャンが何とかするだロ」

 「……そうだな」

 満月が外の闇を照らす中、桜小路家に不穏な影がよぎろうとしていた。




世の中には見てはいけないものがあると言います。
夜原さんにとって剛徳さんとユキさんはまさにそれだったのでしょう。
ちなみに、次回で序章篇は最終回です。
ラスボスは「……じゃ」の人です。

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