原作だと胸が熱くなる展開ばかりの部分なので、これからは常にテンション高い状態で書けそうです(笑)
そのため、ほとんどその場で思いついた妄想を入れたりしてしまうと思いますが、ご了承ください……!
そして、優がどのように闘いに参加していくのか……ご期待ください!
それでは、どうぞ!
code:50 罠まみれの開幕戦
「私のパンドラ
「……貴様には絶対に渡さない」
休日の朝というにもかかわらず、そこには通りかかる人など一人もいなかった。そこで対峙する十一人の者たち以外の人間など存在しないかのように。
奪う者たちと守る者たち──
『渋谷荘』の地下に眠るパンドラ
「そういえば、桜小路 桜はどうしたんだい? 姿が見えないけれど」
「貴様には関係ない」
「……そうか」
「そんなことより、『捜シ者』サン? なんでパンドラ
大神の横に立った刻が『捜シ者』に、その目的であるパンドラ
「……ハァ」
すると、『捜シ者』は急に面倒臭そうにため息をついた。そして、ひどく邪悪な意思の宿った眼を大神たちに向けた。
「やっぱり全員、殺さないとダメか……。面倒くさいな」
『──ッ!!』
その眼に射抜かれ、その言葉を聞いた瞬間に『コード:ブレイカー』たちは構えた。何か動きがあればすぐに異能を発動できるよう、警戒心を最大にする。だが、それは『捜シ者』の傍にいる『Re-CODE』たちも同じだった。彼らもほぼ同時に構え、両者の間に重い緊張感が走った。
「……泪、どうしても邪魔するならあなたも殺さなくてはなくなる」
「それが今のオレたちだ、雪比奈」
「死が最も相応しい奴も一人いるがな」
「時雨……」
緊張感の中、それぞれ因縁がある者と言葉を交わしていく。かつての同志である雪比奈と王子に、過去に因縁のある時雨と遊騎。そして……
「…………」
「…………」
互いに無言で向かい合う刻と虹次。二人の間に言葉はなかったが、それでよかった。二人の因縁の中に言葉はいらない。真実という言葉は全てが終わった後でいい。
「……そうはさせない」
他の者たちを守るように大神が一歩前に出た。その眼は鋭く『捜シ者』を射抜いており、その眼に宿った強い覚悟を乗せて大神は宣言した。
「誰も殺させはしない。死ぬのは貴様だ、『捜シ者』」
「…………」
大神の覚悟が込められた眼と言葉を受けても静寂を貫く『捜シ者』。そのまま睨み合いを続けるかと思われたその時……事態は動いた。
「──もう! ゴチャゴチャとうるさいんだ
──ドン!
「ぐ……! 急に爆発かよ、あのシャボン玉女!」
我慢の限界に達したかのように日和が前に出た。そして、そのまま無数のシャボン玉を大神たちの周りに浮かせると、それらを一斉に爆発させた。爆風から身を守る大神たちだったが、至近距離ではなく少し離れての爆発だったため負傷はほとんど無かった。しかし……
「──しもた! アイツら、おらへんで!」
「なに!?」
爆発で一瞬だけとはいえ『捜シ者』たちから目を離してしまった大神たち。その一瞬の間に『捜シ者』たちはその場から消えてしまった。急いで振り向くと、閉まっていたはずの『渋谷荘』の扉が開けられていた。どうやら完全にしてやられたらしい。
「追うぞ!」
「遊騎、『捜シ者』たちとはどれくらい離れている?」
「そこそこ離れとるわ。急がんと」
『捜シ者』を追って『渋谷荘』の地下を進む大神たちは、遊騎の『音』で『捜シ者』たちとの距離を確認しながら疾走していた。いくら
「そこそこだったら心配ねーダロ。出発前にクソネコが『渋谷荘』の対侵入者用トラップを発動させたんだ。それに引っかかればいくら『捜シ者』でも扉のとこn──わあぁぁぁぁ!!?」
「刻!?」
直接的に力になれない会長が発動させたという対侵入者用のトラップ。それを頼りにしようとした矢先に刻が大神たちの目の前から消えた。しかし、視線を下に向けてみるとまだかろうじて無事だった。見ると、刻がいた部分の床のパネルがしっかりと抜けている。刻はなんとか周囲の床にしがみついているが、これがトラップなのだろう。
「マ、マジでビビった……! けど、これでトラップのすごさは証明され──って、ん? なんだコレ」
涙目で全身を震えさせる刻が己を犠牲にしてトラップの有能さを証明した……かと思った矢先、しがみつく刻の前に小さな『にゃんまる』が近づいてきた。その手には「ようこそ」と書かれたボードを持っており、何かと思った次の瞬間……
──ドゴオオオオ!!
「ドワァァァ!」
「と、刻! なんだよ、この光線は!?」
『にゃんまる』の口が開いた瞬間、謎の光線が刻をフッ飛ばしてしまった。突然のことに理解が追い付かない王子が慌てるが、事態はそれを待ってくれなかった。
「これをくらうニャン!」
「く……!この──! 」
今度は頭上から江戸時代の火消しのような恰好をしたミニ『にゃんまる』が降ってきて、大神に対して謎の液体をかけ始めた。ふざけた攻撃に苛立ったのか、大神はすぐに左手の手袋に手をかけた。しかし、それを隣で見ていた優が一つの違和感を覚えた。
「──! ちょっと待て、この臭いは……! 大神! これはガソリン──!」
──ドガァン!
「大神ィィィィ!!」
ミニ『にゃんまる』がかけた液体がガソリンだと伝えようとした優だったが時すでに遅く、大神は『青い炎』を発動せてしまい、ガソリンに発火して爆発していた。だが、これだけでは終わらず、事態はさらに悪化していった。
──バチン!
「暗くなりやがった……。ハッ、『影』の異能を使うオレがこんな暗闇でビビるわけが……」
──シュシュシュシュシュ!
「キャアァァァァ! 後ろ! 後ろからは止めてくれぇぇぇ!!」
暗くなった瞬間、王子の背後から無数の手裏剣が飛んできた。手裏剣という攻撃よりも、急に後ろから攻撃されたことによる驚きが強かった王子は必死でその場から逃げ出した。
「ごばん! って、これ……『かげまる』やし!」
王子の叫び声を聞いて助けようと向かう遊騎だったが、王子を攻撃したものが『にゃんまる』シリーズの悪役である『かげまる』だと気付くと、目を輝かせて『かげまる』を追いかけ始めた。
「待てや、『かげまる』! 『にゃんまる』のためにもお前を捕まえて──って、なんや!?」
しかし、走り出した瞬間に遊騎は身体のバランスを崩した。見ると、彼の足元には先ほど大神にかけられたガソリンが溜まっており、非常に滑りやすくなっていた。つまり遊騎は滑って転んだわけで、さらにその先には──
──ザクゥゥ!
「『にゃんまる』……オレ、『かげまる』捕まえられへんかったわ……」
床のパネルの一枚ほどのスペースに無数の太いトゲが置かれており、遊騎は転んだ勢いのまま突き刺さってしまった。はっきり言って、一番痛々しい。
「くそ、地上は滑るから危険か……。だったら跳んで移動すれば……!」
遊騎の犠牲のおかげで地上の危険さを実感した優は『脳』で身体能力を強化し、力強く床を蹴って跳んだ。そのまま移動をして事態を好転させようとした……が、その目の前に『にゃんまる』の顔がデザインされた巨大な鉄球が迫ってきた。
「嘘、だろ……」
その後の優が迎えた展開は……誰もが想像する通りであった。
「まったく、暗闇の中で闇雲に動くからですよ。今、この目障りな闇を私の『光』で払って──」
「目標、発見だニャン!」
「……What?」
闇雲に動いたことで痛い目に遭った優に呆れながら、平家は制服のボタンを少しずらしていった。そうして溢れてきた『光』で視界を照らそうとした瞬間、無数に設置された矢を構える『にゃんまる』に狙い撃ちされてしまった。暗闇の中で光るものは狙いやすい、というのがよくわかる展開であった。
この時、彼らは実感した。今まさに自分たちが置かれている状況……これこそがトラップに引っかかっていると言うのだ、と。
「なんで『捜シ者』じゃなくてオレたちが引っかかってんだヨ!!」
「異能に即したトラップが発動とは、さすが会長ですね」
「平家さん、確かにすごいんですけど褒めてる場合じゃないと思います……」
「あの野郎……! 性格の悪さが良く出てやがる……!」
「クソネコが余計なことしやがって……!」
「てゆーか、『捜シ者』は『渋谷荘』に住んどったんやろ? トラップのかわし方くらい知っとるとちゃうんか?」
『あ』
『捜シ者』の進路を阻むためのトラップのはずが、思いっきり大神たちの進路が阻まれていた。まだ闘ってすらいないというのに、全員ボロボロになってしまっており、感心、呆れ、怒りなどそれぞれの感情を吐き出し始めた。そんな中、遊騎が頭に刺さったトゲを抜きながら『捜シ者』がトラップをかわすことができた理由を言い当ててみせた。少し考えれば気付くようなものだが、声を揃えて気付くところを見てしまうと間抜けそのものである。
「……足音、どんどん遠のいていくで。これじゃあ『捜シ者』はパンドラに向かって一直線やわ」
「く……! 早く行──なに!?」
『捜シ者』たちの足音を聞いて距離が開いていることを遊騎が知らせると、大神は急いで先に進もうとした。しかし、運悪くそこでさらなるトラップが発動してしまった。彼らの周囲を取り囲むように現れたのは無数の黒いミニ『にゃんまる』。それらは一斉に大神たちに向かって体当たりを繰り出してきた。
「ぐあ!」
「どんだけいるんダヨ!?」
「くそ、すばしっこい……!」
「こ、こいつら……! 突進してくる奴らと集まって動きを封じる奴らに分かれてるのか……!」
黒いミニ『にゃんまる』に苦戦しながら言葉を漏らす大神、刻、王子。その中で優は、それらが体当たりだけでなく動きを封じようとしていることにも気付いた。見ると、彼らの足元には黒い塊のように集まったミニ『にゃんまる』がしっかりと彼らの足を掴んでいた。
「くそ……! こんな……!」
今すぐにでも『捜シ者』を追わなければならない。しかし、現実は非常なものでどんどん黒い塊に呑まれていく。一つひとつが小さいとはいえ、全てが一斉に力をかけてくるため徐々に押しつぶされそうになってしまう。どんどん狭くなっていく視界の中、大神は先に進んでいく『捜シ者』たちの幻を見た。自分たちに背を向けて進んでいく『捜シ者』。その先にあるパンドラ
「こんな、ところで……!」
そうはさせない。
そのために自分はここにいる。
そのために自分たちはここに残っている。
そのために──彼らは闘う。
「こんなところでもたついてる暇、オレたちにはねぇんだよ!!」
自分たちを押し潰そうとする黒い塊を、彼らはそれぞれの異能でまとめて打ち破る。
『光』のムチで切り刻み
「悪たる『Re-CODE』の好きにはさせてはいけませんよ、皆さん」
『脳』で強化した脚で破壊し
「もちろんです」
『音』速の蹴りで蹴り飛ばし
「時雨……」
『影』の鎌で截断し
「アイツらは、オレが止める……!」
『磁力』で粉砕し
「虹次……! 首洗って待ってろヨ……!」
『青い炎』で燃え散らしていった
「……さあ、行くぞ!」
「……いいね」
「……どうかされましたか?」
再び進みだした大神たちのはるか先を進む『捜シ者』と『Re-CODE』。ふと『捜シ者』が立ち止まり、何かを見上げる。同じ場所を見る雪比奈だったが、そこには何もない。何かあったのか『捜シ者』に尋ねると、『捜シ者』はその口角を上げて再び歩き出しながら呟いた。
「楽しくなってきた……」
「……そうですか」
何が楽しいと感じさせるのかはわからないが、『捜シ者』の表情は確かに楽しそうだった。口角は上がり、その眼には先ほど見せたような邪悪さは欠片も無かった。雪比奈は静かに納得の声を放つと、他の『Re-CODE』たちと共に『捜シ者』の後に続いた。そして、目を伏せながら続けた。
「次の手は……もう打ってあります」
「遊騎、どうだ?」
「まだ離れとるけど大丈夫や。アイツら歩いとるからすぐに追いつけるわ」
「よーやくトラップ地獄は終わりカ……」
『捜シ者』たちを全力で走りながら追う大神たちは、遊騎の『音』で距離を確認しながら進んでいた。先ほどのトラップの後もしばらくトラップが続いたが、それらを切り抜けてようやく安心して進めるようになったのだ。また、今回はそこまでロスもしていない。その理由はというと……
「ふふふ、優君が会長から聞いていたトラップの情報を思い出したおかげですね」
「つーか、最初から思い出しとけヨ! おかげでヒデー目に遭っただろーガ!」
「お前が真っ先に引っかかって泥沼状態になったから思い出せなかったんだよ。途中から大丈夫だったんだから文句を言うな」
実は前日、会長は優に全トラップの情報を教えていた。優は『脳』のおかげで記憶能力も優れているため、膨大な量のトラップの情報も覚えられると思ってのことだろう。まあ、結果としては最初の方は思い出せずに引っかかってしまったわけだが。
「まったく……こんな時までいつも通りな奴らだな。王子からも何か言って──王子?」
『捜シ者』を追いかけている最中だというのにケンカ腰の刻と口の減らない優。緊張感のない二人に呆れた大神が王子の方を向くと、一つの異変に気付いた。
「待て! ……王子は、どこに行った?」
「ハ!?」
「ほんまや。ごばん、おらへん」
異変に気付いた大神が一言制して立ち止まった。見ると、黒いミニ『にゃんまる』のトラップを抜けた時には確かにいたはずの王子の姿がどこにも無かった。大神に言われて他の者も気付いたらしく、周囲を見渡してみるが姿は見えない。すると、平家が深いため息をついて言い放った。
「やはり元『Re-CODE』、きっと寝返る気でしょう。皆さん、次に八王子 泪と会ったら容赦なく攻撃しましょう」
「そう判断するのは早すぎるかと……」
いなくなった瞬間に心配ではなく疑惑の目を向ける平家。相変わらず王子を嫌っているようで、本当に会った途端に攻撃しそうな雰囲気を纏っている。優が落ち着かせようとしていると、遊騎が「お」と声を漏らした。
「ごばん、いっぱいおるで」
王子を見つけたように言う遊騎だったが、彼が言った「いっぱい」という単語のせいでその信憑性は薄くなった。王子は一人だけしかいない。そう何人もいるわけがないのだ。何かと見間違えたのだろうと大神たちは無視していると、遊騎はさらに続けた。
「よんばん、ごばんがいっぱいおんねんて」
「アー、ハイハイ。おるおる、よかったナ。一杯でも二杯でもいいから真面目に捜s──」
遊騎に引っ張られた刻が適当に相槌を打ってそれに答える。だが、そう長くは付き合っていられないため、真面目に捜すように言おうと遊騎と同じ方向を向くと……信じられない光景が広がっていた。
『…………』
「ホントにいっぱいおるー!!」
「さっきから言うとるやろ」
そこにいたのは王子、王子、王子……
何人もの王子がそこに立っていた。
「な、なんだこれ……? こんなトラップは聞いてないぞ……」
「
「上手いこと言ってる場合カ!」
刻が叫んだことでようやく振り向いた大神たち。その異様な光景に引きつつ、何があったのか考える。優は驚きながらもトラップである可能性は否定したため、おそらくトラップではない。仮にトラップだとしても意味がわからない。しかし、そんな中でもフリーダムな発言をする遊騎とそれにツッコむ刻はさすがである。
「……ふむ、これはおそらく『Re-CODE』の一人である日和さんの異能技『
すると、なんとか攻撃せずに待機していた平家が答えを述べてみせた。一度見ていたこともあり、その特殊性から日和の仕業だとすぐに見抜くことができたのだろう。しかし、そうなると問題はここからである。
「それって……遊騎に化けたアレか!」
「じゃあ、『にゃんまる』が匂いくんくんせぇへんとわからんのか。オレらじゃごばんの匂いわからへんし」
「いや、仮にわかったとしても男がやったらただの変態だろ……」
平家の言葉を聞いてようやく思い出した刻たち。同時に解決策も思い出すが、その解決策ができる唯一の人間がいないことにもすぐに気付いた。遊騎は残念がるが、優は顔を引きつらせながら自分たちがその解決策を行うことの問題性を指摘する。
唯一の解決策も使えないとわかると、どうやって見抜くか考え始める一同。すると、また遊騎が勝手に動き始めた。
「考えてもしゃーないわ。待っとき、ちょっと一発かまして──」
「バカヤロー! もし本物に当たったらどうする気だヨ! マジで殺されるゾ!」
「緊急事態ですし、仕方ないでしょう。それに、殺されるのが嫌でしたらこっちが殺す気でやればいいのでは?」
「テメーは黙ってろ!」
危うく王子の大群に向かって音波を放つところだった遊騎を刻が寸でのところで止めた。確かに一斉に攻撃してしまえば本物以外は消えてしまう。しかし、その後の報復を考えるととてもじゃないがその方法をすることはできない。遊騎に続いて平家もムチを構えるが、刻は必死でそれも止める。どちらにせよ、必要以上に怪我を負ってしまうこのやり方は効率的とは言えないため、却下された。
そして、議論の結果……ある奥の手を使うことが決定した。その方法とは……
「王子! あなた自覚はしていないんでしょうが、本当に美人ですよ!」
「い、いつもアリガトな? お前のそういうところ、マジでキュンとくるワ」
「……ま、芸術的センスだけは最高と言っておきます」
「料理は美味いし、家事もピカイチ。お前みたいな奴を嫁にもらった男は世界一の幸せ者だな」
「ていうか、オレの嫁候補の一人やし」
『泪々ってマジ最高ー!』
褒めて照れたものが本物……これこそ彼らが考え出した奥の手である。結果として自分たちが被害を受けるかもしれないが、いざとなったら優を前に出せば被害は最小限で済むと考えたのである。大神、刻、平家、優、遊騎の順で褒めていき、最後には全員で「最高」とまで言う。普段の王子のことを考えれば、ここまで言えば確実に照れる。そして、その結果はすぐに出た。
『…………』
「……アレ?」
結論:全員ニセモノ
「まったく、吐き気がする……。褒めて損しました」
「……お疲れ様でした」
「ところで遊騎君……ドサクサに紛れてすごいコト言ってなかった?」
「ん?」
「……お前もな」
その後、五人一斉に王子の『
しかし、そうなると問題はシンプルなものになってくる。むしろ、彼らが最初に抱いた疑問である。言いたいことを言い終えると、周囲を見渡しながら大神が呟いた。
「王子は……本物の王子は、どこに……」
まるで迷路のように入り組んだ構造の『渋谷荘』の地下。正式なルートを通ればいいが、少しでもルートから外れると出ることすら難しくなってしまう。彼女たちは今、そんな正規ルートから外れた場所にいた。
「ふふ……残念だった
「ハァ、ハァ……」
正規ルートと比べて照明が弱いのか、薄暗いそこに陽気な若々しい声が響いた。しかし、何者かの苦しそうな声もかすかに響く。同時に、何かが滴るような音も。
「なんとか言ったら? もう限界なんて言わないで
「ッ……! 日、和……!」
そこにいたのは、優越感に満たされたように立つ『Re-CODE』日和と、全身に深手の傷を負って血を滴らせながら膝を突く王子の二人だった。何をされたのかまではわからないが、ここで二人が闘っていたということは明らかだった。よく見ると、二人の周囲の壁は虫に食われたように穴だらけになっている。
「『捜シ者』と『Re-CODE』を裏切るなんてバッカみたい。私、知ってる
目の前で膝を突く王子を見下ろしながら、日和は言葉を続ける。その口元の前に親指と人差し指の先端を触れさせることで作った小さな丸を構え、話しながらもそこから次々とシャボン玉を作り出しながら。そうして作り出したシャボン玉は二人を取り囲み、どんどん逃げ場をなくしていく。
「アンタみたいな裏切り者は日和が殺すべきだってコトを……
状況は最悪。
味方は自分一人。
王子は……完全に追い詰められていた。
CODE:NOTE
Page:39 『青い炎』
『コード:06』である大神 零が操る異能。左手でのみ操り、触れたものを跡形も無く燃え散らすことができる。しかし、雪比奈が生み出した氷など燃え散らせないものもいくつか存在する。
基本的に直接触れているものしか燃え散らせないため、遠距離からの攻撃は後手に回る。だが、近接戦ではほぼ一撃で決めることができるほどの強さを持つ。また、人見と闘った際には左手の親指にはめていた指輪を外すことで、人見の異能を一瞬で打ち消し、炎が追尾して直接触れていなくても燃え散らすことができた。そのため、まだ隠された部分があると思われる。
※作者の主観による簡略化
オレに触れたら火傷するぜ……的な(←実際それどころではない)