お待たせしてしまってすみません!
内容が上手くまとまらず、長くなってしまいました!
さて、今回の話ですが『渋谷荘』でのドタバタではなく、懐かしの1-Bクラスメイトたちも加えてのドタバタとなっております!
今回が男子たちで次回が女子たち……という流れになっております!
結構、急ピッチで書き上げたので色々とゴチャゴチャしているかもしれませんのでご注意ください!
それでは、どうぞ!
「……じゃあ、お前ら。準備はいいな?」
静かなトーンで放たれた言葉を聞き、周囲の者たちは頷くことで了解の意図を示す。中には頷くことすらしない者もいるが、文句が出てこないためそれも了解の合図だと言葉を放った本人は受け取った。
「わかった。それじゃあ、お前ら……」
全員から了解の意図を得たことを確認し、声の主は続けて言葉を放つ。そして、その手に持った物を高々と振り上げて……
「第十回! 『リア充大神に学ぶ彼女ゲット講座』を始めるぞー!!」
目の前の机に勢いよく叩きつけて堂々と声の主……輝望高校1-B所属の前田は堂々と宣言した。
「イエーイ! さすがMCマエシュン! その調子で頼むぜ!」
「てゆーか、第十回って。これが初めてじゃん」
「多分、本人は気にしてない……っス」
「まあ、マエシュンらしいと言えばらしいですね」
まさに今どきの高校生が見せるノリノリの集まりの様子。だが、そんな中に彼らと同じ高校生でありながら場違いな雰囲気を醸し出す者たちがいた。
「ふふふ……盛り上がってますねぇ」
「まあ、元から賑やかなクラスですからね」
「ホ~ラ、期待されてるゼ? リア充の大神君?」
「…………」
前田たちの盛り上がりとは別に、静かに微笑みを浮かべる平家。
おしぼりで丁寧に手を拭きながら平家の言葉に続く優。
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら隣の者と肩を組む刻。
刻に肩を組まれながら、呆れと困惑が混ざったような微妙な表情を浮かべる大神。
仮初の高校生活を送る彼ら『コード:ブレイカー』たちは今、平凡な高校生たちの必死な集まりになぜか参加していた。
彼らが今いるのはカラオケボックス。九人という大人数だが、かなり広めの部屋だったため窮屈ということはなかった。また、カラオケボックスという空間は部屋にいない人間の邪魔が入らない密室であり、防音性能も上々のため周囲を気にせずに騒ぐことができる貴重な場所。前田たちがどれだけ盛り上がろうと他の客に迷惑がかかることもないというわけだ。
さて、それはいいとして、大神たちのことを知る者にしてみればこの状況は理解しがたいものだろう。なぜ彼らは集まっているのか、前田たちのクラスメイトである大神はまだしもなぜ先輩である平家と優がいるのか、なぜ他校の人間である刻までいるのか、大神は修業をしなくていいのか……疑問は尽きない。
そもそも、事の発端は放課後になった瞬間から始まった。
「大神、また今日もすぐに帰るのか?」
「いえ、今日はゆっくり帰ろうと思います。根を詰めすぎるとかえって効率が悪いので今日は修業も休みだと会長から言われましたし」
「おお! そうなのか!」
一日の授業が終わってそれぞれが帰り支度を始める中、桜と大神は穏やかな雰囲気で放課後の予定について話していた。
普段は学校が終わればすぐに『渋谷荘』に帰って会長との修行に励む大神だったが、大神たちの体調を気遣ったのか珍しく今日は無条件で修業が休みだった。まあ、何事もオンとオフがあってこそ上手くいくものである。オンがとてつもなくハードなため、一日くらい完全にオフの日があっても不思議ではない。
その貴重なオフの日をどのように過ごすか……桜がそう切り出そうとしたまさにその時、見知った男子が固まって現れた。
「お~い、大神! 今日こそオレたちに付き合ってもらうぜ!」
「あ、桜小路さん。もしかして話に割って入っちゃったかな? ごめんね」
「いや、構わないのだが……もしかして大神に用事か?」
「……っス」
ようやく授業が終わったからか、随分とテンションが高い武田。続いて出てきた沖田は申し訳なさそうに桜に対して頭を下げるが、当の桜はまったく気にしていなかった。むしろ何事かと首を傾げており、そのまま疑問を口にしたところ、上杉が頷きながら必要最低限の言葉で答えた。
「え? あ、あの……オレ、今日は──」
「おいおい! 用事があるとは言わせねーぞ! 今、桜小路さんと『今日はゆっくり帰る』って話してたの聞こえたぜ!」
「マエシュン、それを聞いた瞬間に動き出しましたからね。おかげでその後の話の内容はまったく聞こえませんでしたが」
突然のことに理解が追い付かない大神はかわそうとしたが、前田が力強く肩を組んだ状態で先ほどの会話の内容で逃げ場をなくす。一瞬、修業について勘付かれたかと身構えたが、その後の島津の言葉でその心配はなくなった。
「いや、それは確かに言いましたけど……色々と帰り道にやることが──」
「ねぇねぇ、桜小路さん。悪いんだけど、今日はちょっと大神君のこと借りてもいいかな?」
「うむ、構わんぞ」
「ちょ! 桜小路さん!?」
自分の発言を指摘されて逃げ場が無くなってもなお逃げようとする大神。そんな大神をよそに、沖田が一緒に帰るであろう桜に対して大神を借りる許可をもらおうとしていた。すると、意外にも桜はそれを軽々と了承した。逃げ道を考えていた大神だったが、桜の発言を聞いて一気に驚愕の表情を浮かべた。
すると、桜はジトリと目を細めて大神の方を向くと、釘を刺すように言葉を続けた。
「大神、この機会にクラスメイトとしっかり親睦を深めてくるのだ。私のことなら心配するな。今日はあおばたちと帰るからな。皆、大神のことは頼んだぞ」
「よっしゃー! 桜小路さんからオッケーもらったぜ! っつーことだ、大神! 今日は珍しくオレたち全員も予定無しなんだ! とことんまで付き合ってもらうぜ!」
「ちょ、ちょっと! まだオレはいいなんて一言も……!」
「はーい、連行連行~」
大神本人の意見はどこへやら、桜の許可一つでトントン拍子で話が進んでいった。男子たちに引きずられ、荷物を持ったままの状態で大神は連れていかれた。そんな大神を見て、桜はただ一言。
「うむ、これも青春の一ページなのだ」
「ところでマエシュン、今日はどこに集まんの? いつものファミレス?」
「バーカ! 今日は全員がオフなんだ! バッチリ騒げる場所じゃねーとつまんねーだろ!?」
「つーわけで今日はカラオケだ! 団体で安くなるサービス券もバッチリ持ってるぜ!」
「だから、少しはオレの話を……!」
廊下に出ても大神を引きずったまま話を続ける前田たち。大神が何を言っても聞こえないふりをし、武田に関しては用意していたサービス券をひらひらと揺らしている。先ほども言っていたが、今日は彼ら全員が完全にオフ。それぞれバイトや部活などがあるため、意図せずして全員の予定が合うというのはちょっとした奇跡である。
すると、その奇跡が引き寄せたのか……珍しい人物たちと鉢合わせした。
「おやおや」
「……何やってんだ、お前ら」
「あ! 平家先輩に夜原先輩! こんちは!」
ちょうど帰るところだったのか、平家と優という上級生コンビと鉢合わせとなった。平家は面白がって笑みを浮かべているが、優は呆れたような表情を浮かべていた。知った顔とはいえ急に上級生と鉢合わせたら慌ててしまいそうだが、武田は何食わぬ顔で二人に対してなぜか敬礼した。
「いやー、今日は珍しく全員オフなんですよ! だから大神連れて遊びに行くとこっす!」
「ああ、なるほどな……。だが、見たところ大神本人は納得してないみたいだが」
「みたいじゃなくてしてないんですよ……」
武田はそのまま二人に対して状況を説明したところ、優はとりあえず納得した様子で大神を見た。すると、大神はすでに疲れた様子でぐったりとしていた。いくら常日頃、会長から修業を受けているとはいえ今の彼は一般的な高校生を演じている。力任せに振りほどくなどという目立つことは避ける必要がある。つまり、完全に逃げ場はない。それを実感して諦めたのだろう。そんな大神を見る優の視線には、かすかだが哀れみの感情が込められているようだった。
「あー!」
すると、そんな空気を振り払うような大声が突然響いた。見ると、先ほど武田が持っていたサービス券を島津が見ていた。いつの間に渡されたのかはわからないが、島津はある一点を見てその肩をわなわなと震えさせていた。
「島津、急にどうしたんだよ。デケー声出して」
「あの、このサービス券……
「ハァ!?」
突然の大声に驚いた前田が声をかけると、島津はサービス券の裏面を指差しながらまさかの条件を口にした。見落としていたのか、武田が慌てて確認すると……そこには「ご利用の際の注意」として確かに記載されていた。「このサービス券は八名以上でのご来店でご利用可能」……と。
「うーわ! 完全に見落としてた! ヤベー!」
「何やってんだ、バカ野郎! えーっと、一、二、三……大神入れても六人じゃねーか!」
まさかの事態に慌てだす大神以外の男子たち。完全に置いていかれた大神、優、平家の三人だったが、大神にとっては好都合だった。これで諦めてもらえればいい……そう思っていた。
しかし、世の中はそう簡単にいかないようで、彼らの中の一人が静かに突破口を指し示してしまった。
「…………」
「……んあ? どうしたんだよ、デカ杉」
「……っス」
今まで黙っていた
「……ん?」
「おや」
そこにいるのは
「……夜原先輩! 平家先輩! 一生のお願い、聞いてください!」
次の瞬間、上杉の言いたいことを理解した前田は目にも止まらぬ速さで頭を下げた。
そして、今に至るというわけである。ちなみに、なぜ刻がいるのかというと……
「せっかく高校生組の『コード:ブレイカー』が揃ったのです。刻君も呼んでしまいましょう。それと桜小路さんのことはご心配なく。八王子 泪に護衛させますので」
と言って平家が呼んだのだ。当の刻は平家から連絡が来たことに身構えていたが、一通りの説明を受けると「面白そう」と言って参加を決めた。また、最近は表立った襲撃がないとはいえ、桜に何があるかはわからない。普段は大神が観察兼護衛をしているがこの状況のため、平家の判断で王子に任せたようだ。まあ、というのも大神が桜の護衛を言い訳にして帰るのを防ぐためなのだが。
こうして、1-B男子五人と『コード:ブレイカー』四人……異色の計九人がカラオケボックスに集まったというわけだが、見事に大神たちは五人のテンションとは違う。大神に至っては冷めていると言ってもいい。まあ、彼に関してはほぼ強制的に連れてこられたため仕方ないとも言えるが。
すると、そんな四人に対してそれぞれ飲み物が置かれた。見ると、沖田と島津がどこか申し訳なさそうな顔を浮かべていた。
「ごめんね、大神君。ほとんど力ずくで連れてきちゃって……。けど、悪気はないんだ。皆、大神君と少しでも仲良くなりたいと思ってるんだよ」
「そう。ですから、できれば最後までお付き合いください。ただ、平家先輩と夜原先輩は完全に巻き込んでしまいましたね……。それに刻君……ですよね? 他校なのに、来てもらってすみません。三人の分は私たちで払っておきますので、もし帰りたくなったら遠慮しないでください」
申し訳なさそうな顔で頭を下げる沖田と島津。おそらく、彼らと同じ思いを他の三人も持っていることだろう。大神が転入してきたばかりの頃、クラスメイトの名前を覚えない大神のためにわざわざ名簿を作ったほどだ。冷めた目で見ればお節介であったりお人好しの行動に見えるが、それだけ彼らが仲間思いというだけなのだ。
そして、結果的に巻き込んでしまった平家たちにもこうして頭を下げる。当然の礼儀とも思えるが、それがわかっているだけでも大したものだろう。
「いえいえ、気にしないでください。それに、提案を受けて参加を決めたのは他ならぬ自分自身ですから。むしろ場違いな私たちの参加を許してもらえて嬉しいものです」
「平家さんの言う通りだ。自分で考えて参加したんだから、金だって自分で払うさ。まあ、後輩と親睦を深める数少ない機会だと思えば楽しいものだしな」
「そーそー。学校違うケド、同じ高校生なわけだシ。楽しまなきゃ損デショ。ネ~、大神君?」
「オレは別に……」
二人から謝罪を受けても、特に気にする様子もなく思い思いの言葉をかける平家たち。大神はあまり乗り気ではないようだが、少なくとも参加することに関しては受け入れたように見えた。
「そう言っていただけるとありがたいです。じゃあ、せっかくの機会ですので僕たちも思いっきり楽しむとしましょう」
「そうだね。じゃあ、大神君。楽しんでね」
四人からの言葉を受けて、安堵の表情を見せる島津と沖田。いったん大神たちから離れた彼らは憂いが無くなったからか、少しテンションが高くなっているように感じた。
すると、今まで談笑していた前田たちはそれぞれ席に座り始め、マイクを持った前田のみが立つ形となった。そして、彼は最初のテンションを維持したままマイクを通して話し始めた。
「よっし! それじゃあ僭越ながらMCは前田ことこのオレ、マエシュンが務めさせてもらうぜ!」
「おいおい! それを言うならマエシュンこと前田だろーが!」
「細かいことは気にすんな! それじゃあ、さっそく大神! お前には洗いざらい話してもらうぜ!」
「……え?」
一通りの挨拶を済ませると、前田は颯爽とした動きで大神にマイクを渡した。突然のことに大神は理解が追い付かず、思わず首を傾げた。そして、彼はその疑問をそのまま口にした。
「あの……話すって何を?」
「バーカ、最初に言っただろ!? これは『リア充大神に学ぶ彼女ゲット講座』なんだぜ! ……まあ、早い話は、だ。どうやって桜小路さんと付き合ったか教えろや、コラァ!」
疑問に対する前田の必死な返答に、大神の思考は思わずストップした。はっきり言って、それを大神に聞くのは見当違いというものである。なぜなら、大神と桜が付き合っているという事実はなく、あくまでそう見えてしまうだけだ。一緒にいる理由も先ほど言った通り、観察兼護衛のためだ。言ってしまえば、大神に聞いたところで前田が望むような答えは返ってこない。
「いや、ですからオレと桜小路さんはそういうのじゃ──」
「そんなん決まってんでショ~。こいつが桜チャンを暗がりに連れ込んであんなコトやこんなコトをして……そのテクでメロメロにさせたんだヨ!」
「な、なんだとぉぉぉぉ!?」
「刻、テメェ……!」
なんとか誤解を解こうとする大神だったが、刻の嘘で固められた発言によってそれは無理な状況となった。そんな最悪の状況を作り出した刻に対して大神は怒りを露わにするが、当の刻はゲラゲラと笑っていて悪びれる様子は一切無かった。
「なるほど……。やはり、そういったワイルド肉食系がいいんですね……」
「ぼ、僕にはちょっと無理かな……」
「ちくしょー! 大人しい顔してやることやってるってことかよ!」
そんな刻の発言を真に受けてショックを隠しきれない1-B男子たち。だが、少なくともそれをそのまま実践すれば間違いなく最悪の結果で終わるだろう。というより犯罪である。
「つーかさ、皆は彼女作ンのに何してるか話そーゼ。んで、テクがご自慢のエロ神君に良いか悪いかジャッジしてもらってサ」
「お! それいいな!」
「テメェはいい加減にしろよ……!」
すると、またも突拍子のないことを刻は言い始めた。その提案に周囲は一斉に賛同し始めたが、大神本人は今にも刻に対する怒りが爆発しそうだった。
その後、彼らは話す順番を決めるために大神を抜いた全員でじゃんけんをし、それぞれが彼女を作るために努力していることを話すことになった。
「じゃあ、まず一番手のオレが行かせてもらうぜ!」
「いけー! タッキー!」
「オレがしてるのはお前らが知っての通りバンド! けど、全然モテねーんだよ! バンドやってる奴はモテるって話は都市伝説だからな! お前らも気を付けろ、バカヤロー!」
「あれ? でもタッキー、バレンタインとか結構チョコもらってなかったっけ?」
「全部ご丁寧に『義理』って書かれてたよ! 思い出させんな、ちくしょー!」」
大きくエアギターをしながら涙ながらに告白する武田の姿からは、とめどない虚しさが溢れてくるようだった。しかし、そんな武田に追い打ちをかけるような沖田の言葉で彼は完全にダウンしてしまった。そのため、早くも次の者に順番が回っていった。
「よっし! 次は……沖田! お前だ!」
「う、う~ん……」
続いて話すのは武田をダウンさせた張本人である沖田。しかし、順番が回ってきたものの何を話すか悩んでいるのか、腕を組んで眉間にしわを寄せていた。
「僕、特に努力してることはないんだよな……。剣道部を頑張ったりとか、明るくするようにしてる……とか?」
「沖田はアレだろ! 上手いこと女子の先輩とかをたぶらかす方法を常に考えてんだろ! バレンタインだって先輩からのばっかだったしな!」
「ちょっと! 人聞きの悪いこと言わないでよ!」
言われもない前田からの指摘に沖田は顔を真っ赤にして反論した。おそらく、彼が年上に好かれるのは努力ではなく天性のものなのだろう。なにせ彼は高校生にしては幼く女々しい顔立ちをしている。そこに真面目な性格が合わさることで、女性は母性に似たものを感じてしまうのだろう。
「そ、そういうマエシュンはどうなのさ! あおばちゃんに好かれるような努力してるの!?」
「ハァ!? なんでそこであおばが出てくるんだよ! アイツは関係ねーだろ! あんな推定98cmの小悪魔女に!」
「98!? 高校生でそれは反則ダロ!」
「なんでお前まで反応してるんだよ……」
「う、うるせー!」
すると、沖田は負けじと前田に対して幼馴染であるあおばの名前を出して反論した。その効果は絶大だったようで、前田は顔を真っ赤にして慌て出した。その中で出てきた彼女の一際大きい部位の話に思わず反応した刻だったが、完全に呆れている優からの言葉ですぐに引っ込んだ。
「大体オレはな! あおばは関係なしにバスケを頑張ってんだよ! スポーツできる奴はモテるってのが昔からの定石だからな!」
「それだったらマエシュンよりデカ杉じゃね? だってマエシュン補欠だけどデカ杉はレギュラーなんだし」
「別にモテるためじゃないっス。バスケは好きだからやってるだけっス」
「勝ち誇りやがって、コノヤロー! 一年レギュラーでその身長とか紫○か、って話だろ!」
「え? オレ?」
「え?」
なんとか話題を変えようと、バスケを頑張っていることを胸を張って宣言する前田。しかし、今までダウンしていた武田が容赦なく上杉を比較対象にしてくる。さらに、その上杉から純粋な言葉を聞いてしまったため前田のダメージは計り知れない。その反論も支離滅裂になっていた。なぜ刻が反応したのか……はこの際、置いておくとしよう。
「ふふふ……マエシュン、スポーツマンがモテるというその考えはもう古いですよ。情報化の時代、モテるのは頭がキレる男です。だから私は常に勉強を──」
「けど島津はムッツリだからなー」
「そうそう。パソコンの中は好きなアイドルのセクシー画像だらけだし」
「ちょっと! なにもそれを言わなくてもいいでしょう!」
もはや順番など関係なく暴露大会のようになってきた一同。その証拠に島津は勉強を努力していることよりもあまり明かされたくない秘密をさらっと暴露されてしまった。これでは何を言っても台無しというものである。
「そ、それよりも次の人に聞きましょう! えーっと……と、刻君はどうなんですか!? 見たところ結構モテそうですが!」
「んあ? あ~、オレはな~」
これ以上、被害に遭うのを避けるため、島津は次の人物への話題転換を促した。そして、たまたま視界に入った時の指名したが、当の刻は飲み物を飲みながら完全にだらけていた。
しかし、島津の「結構モテそう」という言葉に気を良くしたのか、刻はキリッと顔を整えてから堂々と話し始めた。
「オレはもちろん超モテるゼ? 特に努力っつー努力はしてねーケド……言っちゃえば彼女を作らないことが努力って感じだナ。もしオレに彼女できたら色んな女の子を悲しませちゃうからサ」
「ス、スゲェ……!」
「なんか別格って感じ……」
指を鳴らしてポーズを決めたまま話を続ける刻の姿からは、溢れるほどの自身が感じられた。事実、彼はとてもモテるのだろう。彼自身がプレイボーイであるということもあるが、顔も整っているし通っている学校も超エリート校。俗に言う優良物件というやつなのだろう。
「言い方を変えればただの女たらしってことだな」
「そうですね」
「オイ、コラ! せっかくの美談なのに歪んだ解釈すんな!」
しかし、優と大神のように偏った解釈をすれば酷いものだ。言い方を変えればいくらでも変わってしまうため言葉というものは恐ろしいものである。
「じゃあ、平家先輩はどんな感じっスか? やっぱそのミステリアスな感じを保つとか?」
「おや、私ですか? そうですねぇ……」
なにやら睨み合っている刻たちを放っておき、武田が話題を変えようと平家に話しかける。いつの間にか出された飲み物ではなく愛用のティーカップで紅茶を飲んでいたが、この際気にしても仕方ない。平家はティーカップをソーサーの上に置き、顎に手を当ててしばらく考えると、ニヤリと口角を上げて口を開いた。
「努力と言うほどではないですが、いつでも意中の女性を縛れるように束縛の技術を向上させていますね。腕前が気になるのでしたら、今ここで披露しても……」
「い、いえ! 大丈夫っス!」
「オイ、変態! お前の危ない趣味を一般人に見せつけてんじゃねーヨ!」
「……悪い子ですね、刻君。ちょっと外に出ましょうか」
「ハァ!? お、おい! ヤメロって! お前ら! 誰でもいいからコイツ止め──ギャアァァァァァ!」
(やっぱ平家先輩怖ぇ……!)
妖しい笑みを浮かべながら、どこから出したのかわからない荒縄を手に武田に迫る平家。武田は顔を真っ青にしながら遠慮すると、刻が平家を叱り始めた。すると、やはり彼でも変態と呼ばれるのは不名誉なようで、平家はその目を細めて刻を射抜くと、そのまま刻の襟を掴んでカラオケボックスから出ていってしまった。刻の助けを求める声は聞き入れられず、最終的には防音性能があるはずの壁越しでも聞こえるほどの悲痛な叫びが残った者たちの恐怖心を高めた。
「じゃ、じゃあ気を取り直して……夜原先輩お願いします!」
「……オレか」
数分後、戻ってきた平家と刻が戻ってきたところで話が続行した。刻は真っ白になって口から魂のようなものが出ているが、何があったか聞くような勇者はいなかった。だが、話が続行したといっても残ったのは優だけだったため。実質、もう終わりと言っていい。優が何を言えばいいのか考えていると、他の者たちはそれぞれの意見を述べていった。
「やっぱ夜原先輩はウチの女子の反応見ててもポイント高いからなぁ……」
「大神君の歓迎会と一緒に先輩のおかえり会をやった時はすごかったっス」
「オレたちからはよく見えなかったけど、なんか『可愛い』ってめっちゃ言ってたな」
「それとアレじゃない? やっぱり日頃から人に優しくしてるところとか」
「あとはクールなところですかね。対価を求めていないように見えていいんでしょうか?」
今までのことや聞いた話から色々と考えていく前田たち。大神の歓迎会にかこつけて巻き込んだこともあったため、彼らのクラスは他のクラスと比べて優との関わりは少しだけ濃い。そのため、無条件で人に優しくするクールな男という情報以外にも、女子が「可愛い」と評価する彼のとある習性も知っている者も多い。
「で、夜原先輩。実際のところどうなんスか!? 何をやったら、そんなにモテてるんですか!?」
「……いや、何をやってると言われてもな」
考えれば考えるほど優のポイントが高くなっていくことで、彼の答えにますます期待が募る一同。身を乗り出して優に詰め寄る前田だったが、一方の優は困ったように頬をかいていた。
そして、彼はそのままポツリと呟いた。
「オレ、そもそも女が苦手だからモテる気は一切無いんだが……」
──ピキィ!
その瞬間、前田たちの中で必死に積み上げてきた何かが一斉に固まり、そのまま音を立てて崩れ去っていった。
「……世の中って、残酷だよな」
「タッキー、もう言うな……。涙、これで拭けよ……」
「すまねぇ……」
暗くなり始めた空を仰ぎながら、武田は涙を流しながらポツリと呟いた。そんな武田の肩に手を置きながらハンカチを渡す前田だったが、彼自身今にも泣き出しそうだった。
優の最後の一言をきっかけに、色々なものが崩れ去った彼らはそのまま解散した。店を出たところで大神たちとは別れたので、今は1-Bの男子たちだけだった。さらに言うなら、今は五人全員が傷心状態となっていた。
「ハァ……。オレたち、何やってもモテねぇのにモテてる本人は『女が苦手』って……」
「私たち、今まで何をやってきたんでしょうね……」
「でも、ある意味ベタな展開っス」
「僕、自身無くなってきた……」
トボトボと歩いていく彼らの背中からはなんとも言えぬ哀れさが滲み出ていた。まあ、青春真っ只中の彼らにしてみれば恋愛関係は大事だ。どれだけモテるかが一種のステータスにもなっているのだろう。そのステータスが高い人間から根本を否定するような言葉が出たのだ。もはや妬みなどを通り越して諦めが出てしまっていた。
「……えぇい! おい、お前ら! いつまでもウジウジすんな! 考えてみろ! 夜原先輩が女が苦手だってんならオレたちにもチャンスはある! 敗れた恋に傷つく心を慰めるっていうチャンスがな!」
「そんな上手くいくでしょうか……」
「うるせぇ! プラスに考えりゃいいんだよ! よっし! 気分晴らすためにゲーセン行こうぜ! 今日は遊びまくるぜ!」
「調子の良い奴……。けど付き合うぜ、タッキー! せっかくだ! 勝負しようぜ!」
「あ。じゃあ、マエシュンが勝負に負けたらあおばちゃんに告白するっていうことでどう?」
「ハァ!? 沖田テメェ!」
「……っス」
武田の一言でいつもの調子を取り戻していった1-B男子たち。この日、彼らは色々と傷つく結果となったが、最終的には男同士の友情をより深めることができたという。月が光り始める中、彼らの笑い声はどこまでも響いていった。
というわけで、懐かしの1-Bクラスメイトたちと『コード:ブレイカー』高校生組という珍しい組み合わせでした。
正直、変人で有名な平家をそう簡単に誘うかと悩みましたが……話しの都合上、簡単に誘わせていただきました。
あと、刻が反応した紫○は某バスケ漫画のあの人ですね。
中の人ネタです、ハイ。
前回は『捜シ者』組で、今回と次回はクラスメイトたちをメインにと『コード:ブレイカー』たちの影が少しずつ薄くなっているようですが、彼らには本編で大活躍してもらうことにします(笑)
次回は桜とクラスメイト(女子)たちのガールズトークとなっております。
もしかしたら隠れて護衛している王子も出る……かもしれません(笑)
では次回、しばらくお待ちください!