CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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ほとんど勢いに任せて書きました!
このテンションが続けば一気に進められるんですけど、果たしてそう上手くいくのか……
できるだけ、続くように頑張りたいと思います。
今回はほとんど原作と同じような感じです。
優もとい優子さんは前の話でかなり暴れてもらったので(笑)
それでは、どうぞ!





code:45 ミニミニ事件簿

 「ふわぁぁ……。やっぱ早起きは気持ちがいいもんダナ……」

 色々と騒動もあった祭りの翌日の『渋谷荘』。王子という主が規則正しい生活をさせている(主に強制的に)おかげか、すっかり早起きが習慣になった刻は大きく欠伸をしながら廊下を歩いていた。

 「まだ朝飯には早いからナ……。軽く走りにでも行ってくるカ」

 そう言うと、腕を伸ばしてストレッチを始める刻。こうして朝食までの空いた時間も自らを鍛えるために使おうとする刻の姿勢は、彼の強くなろうという意思を明確に表していた。簡単なストレッチを済ませると、刻はそのまま玄関に向かおうとした。だが、その瞬間……

 ──ドゴォォ!

 「のわっ!」

 突然、何かが刻の目の前を横切った。それも、目にも止まらぬほどのスピードで。それは思いきり廊下の壁にぶつかり、壁に大きなクレーターを作った。一体、何が横ぎってきたのか。確かめようと壁に視線を動かした刻が見たのは、『渋谷荘』の住人の一人だった。

 「ゆ、遊騎!? お前、何やってんだヨ!?」

 そこには、遊騎がひっくり返ったような状態になっていた。どうやら音速のスピードで転がり、そのまま壁に突っ込んだようだ。だが、そうなると気になるのはそんなことをした理由。意味も無くこんなことをしても、なんの意味も無い。刻は遊騎に理由を尋ねると、遊騎はなんとも不快そうな声で答えた。

 「……カサカサすんねん」

 「カサカサ……って、なにがだヨ?」

 「耳の奥がカサカサして気持ち悪いねーん!!」

 「ドワァァ! バカ! 音速で暴れんな!」

 カサカサする、という遊騎の言葉が理解できず、刻は疑問符を浮かべる。だが、答えにたどり着くよりも先に遊騎は再び音速で転がりだし、壁にぶつかっては破壊し、ぶつかっては破壊しを繰り返した。ただでさえ古い『渋谷荘』は所々がどんどん穴だらけになっていき、遊騎はとうとう食堂にまで突っ込んだ。

 「あ……」

 「……ごばん、カサカサすんねん」

 食堂に突っ込んだ遊騎と、遊騎を止めようと追いかけた刻の視界に映ったのは、まさに食事の準備をしていた王子の姿だった。いつもの黒の革ジャンではなくエプロンを着け、出来上がった食事を取り分けている最中だった。その後の展開は……いつものことである。

 「じゅ……準備中に覗き見してんじゃねー!」

 ──ゴッ! ガッ!

 「な、なんで朝からこんな目に……」

 「……カサカサとズキズキすんねん」

 「ど、どうしたのだ──って、刻君に遊騎君! 何があったのだ!?」

 「朝から勘弁してくださいよ……」

 見事、王子の頭突きを喰らった刻と遊騎。今までの騒ぎを聞きつけて飛び起きたのだろう。桜と大神が急いで食堂までやってきた。だが、そんなことは気にせず、『渋谷荘』の主は遊騎の胸倉を掴んだ。

 「オラ、遊騎! よくもオレの『渋谷荘』をぶっ壊してくれたな! こっち来い!」

 「ぶっ壊し……じゃあ、この穴は遊騎君が……。じゃなくて、王子殿! ちょっと待──!」

 王子の言葉から、何があったのかをおおよそ理解した桜。一瞬、そのことに気を取られたが、これから遊騎に下されるであろう制裁を予感し、それを止めようとする。

 だが、王子が止まるはずもなく、制裁のための道具を手にして──!

 「……こ、こより?」

 制裁をするかと思われた王子が手にしたのは、ティッシュの先端をねじって作ったこよりだった。そして、遊騎の頭を自分の膝の上に置くと、そのままこよりを遊騎の耳の中に入れた。

 「ぴくっ──! ……カサカサ、治ったわ」

 「ほらな。見ろ、先端が濡れてるだろ。カサカサしたのは水が耳の中に入ってたからだ。遊騎、お前は『音』の異能で常人の何十倍も耳がいいんだから、髪洗う時は耳に水が入らねぇように気を付けろって前に言っただろ」

 「んー、そういえば言うたった」

 「次からは気を付けろよ。……ほら、逆」

 「んー」

 そう言って顔の向きを逆にする遊騎。どうやら、遊騎が暴れていたのは水が耳の中に入ったことによる異音と不快感のせいだったらしい。それを王子は一瞬で見抜いたというわけだ。朝からの大騒動のあっけない幕切れに、巻き込まれた刻は何も言えなくなっていた。その横では大神も飽きれていたが、桜は「やはり王子殿は優しいのだ」と王子に聞こえないようにこっそりと言っていた。

 だが、どうやら朝の大騒動はこれで終わらないようだった。

 「カサカサ全部、治ったし。ごばん、ありがとな」

 「礼はいらねぇよ。ただ、ぶっ壊したところは自分で直せよ。さて、早いとこ準備を──」

 「ずるい!」

 耳の中に入った水が無くなったらしく、遊騎は王子の膝から起き上った。王子は遊騎に壊したところを直しておくように言うと、食事の準備に戻ろうとした。その瞬間、もう一人の住人の唐突な声が響いた。

 「げっ! 優子!」

 「ずるい、王子様! 朝から遊騎君に膝枕なんて! まだ私は一度もされたことないのに!」

 「あ、あのな……これは仕方のないことで……」

 「じゃあ、私にも膝枕して! もちろん私の気が済むまでー!」

 「うわぁぁぁぁ!」

 もう一人の住人……優子は来て早々、滅茶苦茶な理論を展開し始め、そのまま王子に向かって飛び込んでいった。優がロストしたのは祭りの最中なので、元に戻るのも今日の夜。それまではずっと、このような感じだろう。そして、その間の主な犠牲者は王子であると誰もが思った。

 「皆、おはよう」

 「会長! おはようございます!」

 そんな大騒動が全て終わった頃になって会長が現れて挨拶を交わす。もう慣れたものなのか、会長は周囲の惨状を見ても特に慌てる様子は無く、大神と刻に向かって声をかける。

 「さて、優君は優子君になっちゃったから今日はお休みだね。食事が終わったら二人とも始めようか」

 「んあ? なんの話ダヨ?」

 突然の言葉に、理解が追い付かない刻は首を傾げる。すると、会長はどこに隠していたのか、柄が『にゃんまる』型の刀を取り出し、二人に向けて差し出した。

 「もちろん修業さ。言った通り、私が直々に君たちの相手をしよう」

 『……!』

 会長のその言葉に、二人の顔つきは一瞬で真剣なものとなる。会長が直々に相手をしての修業……その言葉に、修業が佳境に入っているということを二人はひしひしと感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、それじゃ説明を始めようか」

 あの後、なんとか優子を押さえつけてから朝食を済ませた大神たちは、地下の修業場に集まった。本当は優子に見学だけでもしてもらおうと会長は考えていたが、王子からそう簡単に離れるはずもなく、仕方なく本人の好きにさせた。よって、修業場には大神、刻、会長の三人のみ。そして、会長は二人の準備ができたことを確認すると、説明を始めた。

 「まず、修業の内容だけど……最初は二人一緒にやるからね」

 「ハア!? そこは実力が上のオレとマンツーマンだろ!」

 「ふざけんな。兄弟子の方が先に決まってんだろ」

 「まあまあ、話は最後まで聞いて」

 二人同時に行う修業と聞いた瞬間、不満を口にする刻。だが、大神も負けじとオレ様っぷりを発揮し始めた。また喧嘩が始まるかと思ったが、会長はすぐに止めたため何とか収まった。

 「マンツーマンの修業は次の段階。まずは……この『にゃんまるコケシ』を私から取ることだよ。ちなみに、私はここから一歩も動かないでおかきでも食べてるから。先に取った方から相手をしてあげよう」

 そう言うと、会長はどこからか座布団とおかきの袋を取り出した。座布団を敷いてその上にあぐらをかいて座ると、膝の上に顔の部分が『にゃんまる』の『にゃんまるコケシ』を置いておかきを食べ始めた。これは言ってみれば、二人に対する挑発。たとえ全力の二人を相手にしても、自分ならば座っておかきを食べたままで余裕だという、とてもわかりやすいものだった。

 そして、その挑発にプライドが高い二人が乗らないはずもなく、二人は一斉に己の異能を解放した。

 「このクソネコが……! あんま舐めてんじゃネーヨ!」

 「ズタボロになっても知らねぇからな! 後悔すんなよ!」

 まず先行したのは大神。『青い炎』を纏った左手を構え、一直線に会長に向かっていった。修業の目的である『にゃんまるコケシ』を取るより先に会長を戦闘不能にすることを選んだようで、左手は会長に向かって伸びていった。

 「ほい」

 だが、会長は『青い炎』を纏っていないギリギリの場所を狙って片足を伸ばした。座っている姿勢からの足技だというのにその力は凄まじく、大神の左手は完全に止められた。

 「チィ……!」

 「甘いよ」

 ならばと大神は右手を『にゃんまるコケシ』に向かって伸ばす。しかし、会長は『にゃんまるコケシ』を乗せている膝を器用に動かして『にゃんまるコケシ』を膝の上から自らの頭上に乗せた。

 「ほらほら、早くおかきを食べる暇が無くなっちゃうくらい私を忙しくしてよ」

 「じゃないと太っちゃうな~」と軽口を続ける会長。その様子は余裕そのもの。その言葉でさらにイラつきが増した大神は『青い炎』を纏った左手で会長の顔を狙って何度も攻撃を繰り返す。

 「やっ、ほっ」

 「ちょこまかと……!」

 しかし、その連続攻撃すらも会長は素早く身体を動かして避け続ける。左手はもちろん、『青い炎』すらかすっていないらしく、会長の着ぐるみは焦げてすらいない。

 「大神! どいてろ!」

 瞬間、背後から刻の声が響く。反射的に反応した大神は大きく後ろに跳んだ。すると、会長の頭上から鉄骨が何本も降ってきた。おそらく、刻が最初から攻撃に参加しなかったのはこの下準備のためだったのだろう。座っている状態で突然の頭上からの攻撃は対処しづらい、そう考えた刻の攻撃だったが……

 「よいしょっと。はい、邪魔邪魔」

 会長はその場でごろりと肘をついて寝そべると、片足で鉄骨を全て弾いた。またいつの間にか用意していたのか、肘の部分にはクッションが置いてあった。頭上からの攻撃すら簡単にかわす会長。だが、刻の攻撃はそれだけでは終わらない。

 「背後いただき! コケシはもらったゼ!」

 会長が鉄骨を弾いている間に背後に忍び寄っていた刻。寝転んだ直後という隙を突いて、頭に乗っていた『にゃんまるコケシ』に手を伸ばして掴んだ。自分の手に感じる確かな感触を感じ、刻は改めて自分の実力の高さを示そうと……

 「──アレ? これ、おかきの袋……」

 「それ捨てといてね~」

 『にゃんまるコケシ』だと思って取ったのはおかきの袋だった。一瞬のうちに入れ替えられたのだろうが、その早業は目にも止まらぬものだった。刻は相変わらずの軽口に眉間にしわを寄せながら、いったん会長から距離をとって大神と並んだ。

 「うおおおお!」

 「舐めんなよ、クソネコが!」

 今度は大神と刻、同時に二人がかりで会長に向かっていく。『青い炎』と『磁力』を放ちながら、二人はどんどん会長との距離を詰めていく。すると、今までおかきを食べるだけだった会長の手元がゆっくりと動いた。

 ──スッ

 その手にあるのは二枚のおかき。それを食べる様子は無く、二人に見せつけるように持っている。まるで、「これで止める」とでも言いたげに。

 「ハッ! バカかよ、アンタ! そんなおかき如きでオレたちが止められるとでも──!」

 そんな会長の意図を察した刻は会長に不敵な笑みを向ける。確かに、会長自身は強くともおかきはおかき。ただのお菓子でしかない。そんなものを使ったところで『コード:ブレイカー』二人を止められるはずがない……はずだった。

 ──ピン!

 「消え──!?」

 だが、会長が二枚のおかきを持っている手だけで器用に弾き飛ばした。そのスピードは凄まじく、二人の視界からは完全におかきが消えていた。そして、次の瞬間……

 ──パァン!

 「ぐあっ!」

 「つぅ!」

 「あ~あ、割れちゃった。最後のおかきだったのに」

 二枚のおかきはそれぞれ、大神と刻の眉間に直撃して粉々に粉砕した。ただのおかきだったため、ダメージはほとんど無いが二人の動きはそこで止まってしまった。今までの動きやおかきで二人の動きを止めたことも驚きだが、さらに驚くべきは最初の宣言通り、会長は最初に座った場所から一歩も動いていないということである。寝転ぶなどはしたが、身体の位置は動いていない。

 (嘘ダロ……? コケシが取れねぇどころか、立たせることすらできなかった……)

 (ただ者じゃないことはわかっていたが……コイツ、とんでもなく強い──!)

 「ふぅ……。いかにも、こんなんじゃ虹次君にも『捜シ者』にも勝てないよね」

 ただ座っているだけの人間を相手にする。それだけのはずなのに、立たせることも動かすこともできなかった。それに、『にゃんまるコケシ』を取ろうにもかすりもしなかった。会長の強さを改めて実感する刻と大神に対し、会長は座り直しながら厳しい言葉をかける。

 「大神君はバカ正直すぎるし、刻君は色々と考えすぎだよ。二人とも、正反対過ぎてちょっと笑えちゃうよねー」

 「ザ、ザケンナ! もう一回やらせろ!」

 「え~。今日はおかきも無くなっちゃったからお終い。新しいの買っといてね」

 会長がクスクスと笑いながら二人に言葉をかけると、刻はリベンジしようと声を荒げる。しかし、会長はおかきの買い置きを頼むと二人に背を向けて歩き出した。

 「オ、オイ! まだ何にも教わってねぇんだゾ!? このまま終われるカ!」

 それでも刻は引き下がろうとはせず、講義を続ける。すると、会長はピタリと足を止め、背を向けたままの状態で静かに声をかけた。

 「……私が二人に、どうやったら強くなれるかを手とり足とり教えると思っているのかい? だとしたらそれは間違いだよ。人の成長に教科書は存在しない……どうやったら自分は強くなることができるのか、自分で考えてみることだよ。いかにも、修業の相手はいつでもしてあげるからさ」

 「…………」

 「くっ……」

 会長の言葉に、二人は何も言えなくなった。今までのやり方から見ても、会長が教科書のように丁寧に教えるとは考えられない。どうやったら対等に戦うことができるのか、どうやったら勝つことができるのか、どうやったら強くなれるのか……それを考えることも修業の一環なのだろう。会長はそのまま修業場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「う~ん、しかし遊騎君も派手にやったね。そろそろ『渋谷荘』も修理してるだけじゃ限界かな」

 修業場から出た会長は、今朝の遊騎が残した爪跡である多くの損害を見ながら呟いた。幸いなことに、今は大神や刻といった弟子(という名の働き手)も多くいるため修理でもなんとかなったが、この惨状を見るとそうも言っていられない。

 (いっそのこと、このまま『渋谷荘』を改築して……憧れのおしゃれマンションにしちゃおっかなー)

 そんなことを夢見て心を躍らせていく会長。とりあえず一息ついたら『渋谷荘』改築計画でも立てようかと考えていた……その時。

 ──コツン

 「……おや?」

 突然、目の前に立ち塞がった何かにぶつかった。だが、おかしい。会長がいたのは『渋谷荘』の廊下。廊下にはそこまで大きいものは置かれていない。会長は何にぶつかったのかと思い、ぶつかった何かをジッと見つめる。果たして、それが何だったのか。それを理解した瞬間、会長は全てを理解した。

 「いかにも、これは……」

 会長の目の前に立ちふさがった何か……それは、『にゃんち』というラベルが巻かれていて、中にはオレンジジュースが入っているペットボトル(・・・・・・)だった。

 「会長、すまないがもう一度だけ修業を──」

 ちょうどよく、大神と刻が修業場から会長を呼びに来た。そして、彼らも会長に何が起きたのかを理解した。それは、彼らも一度だけ見たことがある現象。自分たち異能者とは違う……例のアレを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「てへっ☆ いかにも、無理なんだな」

 そこにいたのは、ペットボトルと同じくらいのサイズに着ぐるみごと小型化(・・・)した会長だった。目の前で起こっている信じられないことに、大神は思わず大声で叫んだ。

 「お……お前もかー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いかにも、珍種は時々小っちゃくなるって言ったでしょ?」

 「マ、マジかよ……!」

 「おお、会長! 私と同じなのだ!」

 小っちゃくなっても動じず、平然としている会長。さらに、大神の大声に反応して桜たちも集まってきた。桜はかつての自分と同じ状態の会長に親近感を覚えるが、大神は突然のことに全身から力が抜けて座り込んでいた。

 「ああ、大神君……。そんなに気に病むことは無いよ。これは君や刻君のせいじゃない。桜小路君の時のように慌てることも──」

 「んなこと、誰も気にしてねーヨ……」

 座り込んだ大神を見て、会長は「気にする必要はない」と声をかけるが、同時に刻の悪意に満ちた声が頭上から響いた。見ると、刻がこの上なく悪い顔をして会長を見下しており、ボキボキと拳を鳴らしていた。

 「覚悟しろヨ、クソネコ……! 日頃のお返しさせてもらうゼ……!」

 「ええ!? ちょっと大神君! 助け──!」

 「羊の借り……ここできっちり返させてもらうぞ……!」

 「……い、いかにもぉぉぉぉぉ!?」

 あまり人の恨みは買うものではない……その教訓とばかりに復讐の標的とされた会長。大神と刻から逃げるため、必死で『渋谷荘』内を駆け巡っていった。また余談だが、数年ぶりに命の危機を感じたと会長は後に語る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「オラオラー! クソネコ、どこ行きやがった!」

 「このパチンコで『にせまる』捕まえたるしー」

 「こら、遊騎。パチンコ使ったら他の奴にも当たるだろうが。つか、優子はさっさと離れろ!」

 「そんなー! 会長よりも私を見て、王子様!」

 「会長ー! 私が小っちゃくなった時の服を着てみてほしいのだー!」

 「おやおや、皆さん。ずいぶん賑やかですねぇ。今日は何の遊びを?」

 いつの間にか平家まで参加しており、『コード:ブレイカー』全員(+桜)による会長捜しが始まっていた。ドタドタと『渋谷荘』内を走り回る『コード:ブレイカー』たち。まるで子どものように会長を捜していた。一方、その標的である会長はというと……

 「ふぅ……。いかにも、屋根の上に登ってしまえば安全なんだな」

 なんとか『渋谷荘』の外に出て、屋根の上という安全地帯に陣取っていた。眼下では、『コード:ブレイカー』たちが走り回る様子が見える。どうやら、自分の居場所がわかるまではしばらくかかりそうだった。

 「さてさて、皆の気が済むまでここでこうしていようかな。ここだったらいくらでも逃げられるし、いざという時は──」

 「ワン!」

 「うひゃあ! ……って、『子犬』君?」

 「アン!」

 突然、背後から聞こえた声に、油断しきっていた会長は大きく身体を震わせる。反射的に後ろを見てみると、そこには『子犬』がいた。大神たちならまだしも、『子犬』は犬だ。会長の匂いを追ってここまで来たのだろう。それに、見たところ『子犬』からは刻のような悪意は感じない。会長はそのまま一緒にいることにした。

 「しかし、本当に騒がしいことだよね。毎日毎日、何かしら事件が起きている気がするよ」

 「ワン、ワン」

 「遊騎君は乱暴、刻君は神経質で扱いも面倒、大神君は堅物だし、桜小路君はマイペース、優君は色々と特殊で、平家君は傍観するだけだし、八王子君は言うに及ばず……。ここまで濃いメンバーも珍しいけどね」

 言葉を話さない『子犬』だからか、心の内をポツリポツリと話し出す会長。そんな会長の言葉に、『子犬』は静かに鳴いて答える。

 「一体どこに行っ……ッ! 見つけ──!」

 先ほどの会長の言葉がちょうど終わった頃、外を捜していた大神が屋根の上に会長の姿を発見した。すぐに捕まえようとしたが、隣に『子犬』がいることや、何かを話している様子を見て、ひとまず様子を見ることにした。

 一方、会長はそんなことには気づかず、そのまま話を続けた。

 「あーあ、本当に厄介者ばっかりだよ。八王子君と二人だけの静かな時に戻りたいなー」

 グッと背中を伸ばして愚痴をこぼす会長。自分たちを厄介者呼ばわりする会長に対し、大神は眉間にしわを寄せる。

 「……でも」

 だが、急に会長の雰囲気が変わった。ただ愚痴をこぼしていた時とは違い、もっと深い感情が込められているようだった。どこか悲しげで、どこか名残惜しそうな……そんな雰囲気を纏いながら、会長は遠くを見るように呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「皆がいるとそれだけで、私はとてもウキウキと楽しい気分になっちゃうんだよなぁ……。私のような珍種は人を不幸にする種……。本来なら人と暮らすべきではない。……でも、闘いが始まるその時まで、私は……」

 「…………」

 会長のその言葉は、珍種である自分にはこうして人と笑い合うことすら許されない……そんな言葉にも聞こえるようだった。それは、会長の自身に対する戒めなのか、自らの覚悟を再確認するための言葉なのか……それはわからない。だが、その言葉に込められた深い感情を察した大神は一瞬、言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あー! テメェ、クソネコ! やっと見つけたゾ!」

 「観念しーや」

 「会長ー!」

 すると、刻たちも外に出て会長を見つけたらしく、大声を張り上げる。刻と遊騎は虫網を持っており、完全に捕まえる気満々である。それを見て、会長は先ほどまでの雰囲気を振り払い、堂々と胸を張ってみせた。

 「いかにも、甘いよ刻君。私にはこれがあるんだ。……『珍鎮水』~!」

 これまたどこに隠していたのか、会長は桜の小型化を戻した道具である『珍鎮水』を取り出した。珍種である会長の血を基にした血清のようなその液体を使って元に戻ろうと、会長は栓を開けようと──

 ──ツルンッ

 「あ」

 『あ』

 ──ガシャァァン!

 栓を開けようとした……まさにその時。不運にも手元が滑ってしまい、『珍鎮水』が入った容器は会長のすぐ傍に落下し、粉々に割れてしまった。さらに、中身の『珍鎮水』は外気に触れた瞬間、音を立てて蒸発してしまった。

 「イ、イヤァァァァァァ!!」

 まさかの事態に叫び声を上げる会長。誰がどう見ても自業自得なその光景に、『コード:ブレイカー』たちは完全に言葉を失って呆れていた。最後の手段である『珍鎮水』が使えなくなり、会長は顔を真っ青にして焦りに焦っていた。

 (ど、どうしよう……!? 『珍鎮水』は今ので最後なのに! これじゃあ、元に戻れない! 新しく作ろうにも、今の私の血じゃ『珍鎮水』は作れない! いや、そもそもアレ(・・)がないと……!)

 「と、とりあえず戦略的撤退! 行くよ、『子犬』君!」

 「ワン!」

 「あ! 待て、コラー!」

 予想外の大ピンチに会長は試行錯誤を繰り返す。とりあえず捕まることだけは避けようと、会長は『子犬』の背中に乗って『子犬』と共に再び逃亡劇を繰り広げた。それを見て、刻たちは再び会長を追いかけ始める。

 時間はそのまま過ぎ去っていき……そのまま夜になっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「会長……結局、ご飯になっても戻ってこなかったのだ。『子犬』も帰ってきておらんし……どこに行ってしまったのだろう」

 夜になった桜の自室。パジャマに着替えながら、行方知れずの会長のことを案じていた。だが、すぐにそれは杞憂だと桜は感じ始めた。

 「だが、会長はすごいお人だからな。きっと明日になれば元に戻って──」

 「あ」

 ──プチ!

 「ん?」

 会長のすごさを信じて、明日には元に戻っているだろうと考えた桜が布団の中に入った時だった。腰を下ろした辺りに何やら違和感を感じた。さらに、何者かの声がしたのだ。気になって見てみると、そこには意外な人物がいた。

 「か、会長!? まだ小さいままだったのですか!?」

 「い、いかにも……」

 そこには、桜の体重が乗っかったことでペラペラになってしまった会長(ミニ)の姿があった。会長に気付いた桜が布団から出ると、会長は何とか自力で薄くなった身体を元に戻した。そして、会長はここにいる理由を話し始めた。

 「実は、恥ずかしい話なんだけど『珍鎮水』はあの落としてしまった分が最後だったんだ。そこで、君の力を借りたいんだよ、桜小路君」

 「私の……ですか?」

 桜の力が必要だという会長だったが、当の桜は自分が何の役に立てるのかさっぱりわからなかった。すると、会長は力強く桜のことを指差しながら、彼女にもわかるように言葉を添えた。

 「いかにも、私が元に戻るには、君が持っているあのカードキーと君の血が必要なんだよ」

 「えっ?」

 (そう……。人見が君に託したカードキーと、もう一人の珍種である君の血がね……)

 自分が珍種であることを知らない桜にとって、なぜ会長が自分の血を求めるのかはわからなかった。だが、一つだけ感じたことがあった。今まで明かされなかった(キー)の謎……いよいよそれが明かされようとしているのかもしれない。桜は、心の中でそう強く感じていた。

 

 

 




CODE:NOTE

Page:35 珍種のロスト的な何か

 珍種に不定期に訪れる、異能者でいうロストのような現象。だが、ロストとは色々と異なる部分が多い。まず、ロストだと一人ひとり違う現象が起きるが珍種の場合は小型化という共通の現象が起きる。次に、事前に兆候が現れるロストと違い突然起こる。そして、ロストは一日で元に戻るがこれは時間経過で元には戻らない。元に戻るには会長が作った『珍鎮水』という特殊な道具が必要。
 珍種という存在が希少なため詳細は不明で、起こる場合も不定期なのか、珍種としての力を強く使ったりすると現れやすくなるのかは謎である。

※作者の主観による簡略化
 まさにギャグ要素(笑)



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