CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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今回は日常と説明回です
優の意外な一面と関係性がわかります
また、最初に感想の方でもツッコまれていた「なぜ『脳』のリミッターを解除しても優は無事なのか」という疑問に関する説明があります
私自身、脳や身体の構造に詳しいわけではないので、理論的におかしい部分や「そんなのありえねーだろ」と感じる部分もあると思います
その時は「自己解釈で、二次元だから仕方ない」と割り切ってください、お願いします……!
では、どうぞ!





code:41 強さに隠れた脆さ

 「とゆーわけで、今日から優君も私に弟子入りして一緒に暮らすことになったからよろしくね。部屋は『壱號室』だから間違えないようにね」

 「よろしく頼む」

 夜が明け、外に出ていた大神たちも帰ってきた後、改めて弟子入りが決まった優を会長が紹介した。優が頭を下げると、先住者たちはそれぞれの反応を返してきた。

 「夜原先輩まで来てくださるとは! これでもっと賑やかになるのだ!」

 「あなたまで弟子入りするとは……まあ、理由は聞きませんがね」

 「言っておくが、兄弟子様の言うことはちゃんと聞けヨ?」

 「ななばんなのに『壱號室(いちばん)』なんやなー」

 「ローテーション組み直さなきゃか……面倒くせぇ」

 それぞれが思い思いの反応をしたが、明らかに歓迎しているとわかるのは桜のみだった。『コード:ブレイカー』はほとんど興味が無さそうだったが、拒否の姿勢は見せない。彼らなりに歓迎しているのだろう。

 紹介が済んで解散すると、優はすぐに遊騎に声をかけた。内容は……昨日のことだ。

 「遊騎……昨日はすまなかったな。あんな言い方しちまって」

 「かまへんわ。オレも頭に血ィのぼってたからな。おあいこやし」

 「そうか……ありがとな、遊騎」

 「こっちのセリフやし」

 ガッ、と拳を合わせる二人。どうやら、この二人のいざこざは解消したようだ。そこはよかった点だったが……一番の問題は違った。

 「…………」

 「…………」

 刻と王子……二人の間には明らかな溝ができていた。無理もない。王子は元『Re-CODE』で、刻にとって寧々音()の仇である虹次の同志だった者。簡単に埋まるような溝ではない。優は二人の様子を横目にしながらも、何かしようとはせず部屋に戻ろうとした。

 「優、待ちやがれ」

 「王子……? 何か用──」

 突然、王子に呼び止められた。優は何事かと思い、振り向いた……その瞬間。

 「和食、魚、五品以上」

 「……!」

 三つの単語を淡々と口にする王子。一見すると意味がわからないが、優はその意味がわかったらしく真剣な目つきに変わる。そして、彼はスッと目を閉じた。

 「久しぶりだからって容赦はしないってことか……。条件はわかった。やってやる」

 「それでいい。言っておくが、腕が落ちてたりしたらぶっ殺すぜ?」

 「わかってる」

 そう言うと、優はリビングに戻っていった。二人の様子を偶然、見ていた桜は王子の物騒な発言が気になり、こっそりと王子に尋ねた。

 「お、王子殿……? 一体、なんの話をしていたんですか……?」

 「ん? 深い意味は無いさ。それに、少し待てばいいことだ。そうだな……一時間も待てばわかるさ」

 「はあ……」

 意味深なことを言うと、王子はリビングを後にした。桜は意味がわからず、ふと時計を見上げた。今は午前六時前。普通に起きたとしたらかなり早い時間だ。だが、時間を見ても何があるのかはさっぱりわからない。桜は考え込もうとしたが、上手く考えがまとまらないため部屋で休むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、きっちり一時間後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「りょ、料亭なのだぁぁぁぁぁ!」

 一時間が経ち、再びリビングに向かった桜が見たものはなんとも豪勢な和食の数々だった。ふっくらと炊き上げられた白米、わかめと豆腐の味噌汁、こんがりと焼かれた焼き魚、綺麗に盛り付けられたホウレンソウのおひたし、きんぴらごぼう、ふんわりとした卵焼き……まさに一流料亭で出てきそうな食事だった。まだ見ただけだというのに、桜の口からは涎が溢れそうだった。

 「いい匂いがしたと思ったら食事ですか」

 「あー、腹減った。思えば帰ってから何も食ってないもんナ」

 「なんや今日は気合入っとるなー」

 すると、匂いに釣られて大神たちもやってきた。四人はいそいそと席に着くと、一斉に食べ始めた。

 「美味しい! この味噌汁……ダシが絶品なのだ!」

 「きんぴらごぼうとか久しぶりだゼ。……はー、ちょうどいい味付け」

 「この卵焼きも美味いで。ふわふわやし」

 それぞれ食事を絶賛する桜たち。しばらく食事を堪能していると、これを作った人物についての話になった。

 「しかし、王子も頑張りましたね。帰ってすぐだというのに、こんな食事を作るなんて」

 「やはりこれは王子殿か……。やっぱり王子殿は料理が上手なのだな!」

 「料理が上手くても、作った人間はクソヤローだけどナ」

 「まだ言っとるんかい。さっきみたいに素直に褒めたらえーやん」

 「うるせぇ!」

 『渋谷荘』にいる者たちの中で、ここまでの食事を用意できる人物……それは彼らが知る限りでは王子しかいなかった。だからこそ、思いもしなかった。その予想が……間違っていると。

 「おっと、少し出遅れたか」

 「あ、王子殿! 今日の朝食、とても美味しいです!」

 「はあ? 何言ってんだ、桜小路。これ作ったのはオレじゃないぞ」

 「え?」

 王子の言葉に桜は目をパチクリさせる。すると、王子は平然と言葉を続けていく。

 「オレはずっと『渋谷』に昨日の落とし前をつけてたからな。料理する暇なんてなかったぞ」

 「い、いか……にも……」

 よく見てみると、王子の後ろには釣り糸(テグス)で全身をグルグル巻きにされ、ボロボロになった会長の姿があった。何をされたのかは……想像するのも恐ろしい。

 「そ、そうなのですか……? では、これは誰が……」

 桜が考え始めた、その瞬間……答えが部屋に顔を出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「オレじゃあ不満か?」

 「や、夜原先輩ィィィィ!?」

 桜の眼に映ったのは、エプロンを身に纏った優。驚愕の事実に、桜は声を大にして叫び散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「夜原先輩……料理ができたのですか!?」

 「いや、前に言っただろ。一人暮らしだから自炊はするって」

 「こんなにお上手だとは聞いていません!」

 「自分から『オレは料理が上手い』なんて言うわけないだろ……」

 驚きすぎて慌てふためく桜に対し、優は呆れたような表情で言葉を返していく。そんな二人をよそに、王子は自分の分の卵焼きを手に取り、口に運んだ。しっかりと味わってから飲み込むと、何食わぬ顔で口を開いた。

 「和食で、魚も使ってて、品数も五品以上……味も前より上がってるな。……やるじゃねぇか、優」

 「当たり前だろ。下手なもの作って、ぶっ殺されたくないからな」

 王子にしては珍しく肯定的な評価を受けても、平然としている優。桜は完全に置いていかれていたが、王子が最初に呟いた言葉を聞いて、ようやく一時間前の謎が解けた。

 「も、もしかして王子殿が言っていたあれは……料理の条件だったのですか!?」

 「そうだ。優の料理の腕はオレといい勝負だからな。たまに、お互いに条件を出し合って料理を作るのさ。特に和食は優の得意分野だ。オレが本気出しても、和食だと優には敵わない」

 「よく言うさ。逆にオレは王子の洋食には勝てないからな。あんまり作らないとはいえ、あそこまで差があるとは思ってなかった」

 意外なところで、意外な優の特技が判明した。王子が完全に認めるほどの腕前という事実に、桜は完全に呆然としてしまっていた。

 その後、彼らは優が用意した食事を一気に平らげ、それぞれがやるべきことへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、今日も修業を始めようか」

 「ちょっと待て!」

 食事も終わり、ロストから戻ったため地下室での修業に向かった大神たち。いざ修業を始めようと会長が声をかけると、今度は刻が声を大にして叫んだ。会長はわけがわからず、首を傾げながら尋ねた。

 「どうしたんだい? もしかして刻君、疲れて修業できない?」

 「違ーよ! オレが聞きたいのはそこじゃねぇ! なんでコイツ(・・・)がここにいんだヨ!」

 「……優、誰のことかわかります?」

 「わからん」

 「お前だ、お前! 一番新入りの弟弟子!」

 直接ツッコまれても知らん顔をする優。そう、刻が騒いでいるのは……なぜ優がもう地下室に来れるのか、ということである。

 「オレだって最初はあの恥ずかしいスーツ着て体力強化してたから、すぐに来れなかったんだゾ! お前も覚悟決めて『にゃんまる』スーツ着て買い物にでも行ってこい!」

 「と、言われてもな……」

 困ったようにため息をつく優に対し、刻はその様子がさらに鼻につくようでイライラを募らせていた。すると、今まで黙っていた会長が二人の間に割って入ってきた。

 「まあまあ、刻君。そのことについては私が説明しよう。答えは単純。優君には体力強化は必要ない、って私が判断したまでだよ」

 「ハア!?」

 会長が簡単に理由を説明したが、とても納得できる内容ではない。現に、刻は先ほどよりも苛立っているのが見ただけですぐわかる。

 「ダ・カ・ラ! なんでコイツには必要ねーんだヨ! 納得できるように説明しろ!」

 「そこに関してはオレも同意ですね。人が嫌々ながら通ったステップを無視して同じ位置に来られるというのは、刻じゃなくても不満は感じます」

 刻が会長に詰め寄ると、大神もそれに続いてきた。知らん顔をしていたが、彼も『にゃんまる』スーツをしっかりと着た一人だ。それを勝手に免除と決めたからには、相応の理由が無いと彼も納得できないのだろう。

 すると、会長はやれやれとため息をつくと、二人に背を向けて歩き出した。そして、背を向けた状態で話し始めた。

 「……そうだね。それじゃ、今日の修業は中止して、一つ話をしようか」

 「話……?」

 「そう、なぜ優君に体力強化が必要ないのかね。その前に……」

 修業を免除した理由を話そうとした会長だったが、くるりと体の向きを変えて優の方を見る。そして、真剣な雰囲気を漂わせながら彼に尋ねた。

 「優君……全て話していいね?」

 「……ええ。そうしないと、納得はしてもらえないでしょうから」

 会長の質問に、優は静かに目を閉じて答えた。わざわざ優に聞いたということは、その理由を説明するには優個人の事情にまで踏み込む必要があるということ。そして、優はそれを了承した。認めてもらうために、己を晒すことを決めたのだ。

 「わかった。では、話すとしよう。まず、二人とも……異能を持つ者は生まれつき異能を持っているということは理解しているかな?」

 「ハ? なんの話だヨ……」

 「いかにも、これが最初のポイントなんだよ」

 「……まあ、知っていますよ。異能は先天性的なもので、持つ者と持たない者がいますから」

 そう、大神の言う通り、異能者は生まれた時から異能を持っている。ある程度、成長してから発言したり、誰かから与えられるということは普通ならあり得ない。それは、全ての異能者に通じることだ。

 「その通りだね。そして、それは優君も同じことだ。彼も生まれつき『脳』という異能を持って生まれてきた。……だが、この『脳』が厄介だったんだ」

 「どういうことですか?」

 「優君の『脳』の異能は、自らの『脳』のリミッターを外して身体能力を向上させる異能。そして、この向上した身体能力というのは普段はリミッターによって隠されている。……でも、これってなぜだと思う? ハイ、刻君!」

 「学校の授業かよ……。えーっと、確か人間の身体が壊れないように、ダロ? もしリミッターがなくて常にフルパワーだったら、人間の身体はあっという間に壊れちまうらしいカラな。だから人間はどんなに頑張っても『脳』全体の三割程度の力しか出せねー」

 「いかにも、その通りだよ」

 刻の答えに会長は拍手を送る。刻の答えは正しく、人間の『脳』にかけられているリミッターというのは、その身体を守るためにかけられている。本来持つ力に耐えられるほど、人間の身体は丈夫ではない。リミッターを外した人間の力がどれほどのものか……優の力を間近で見ている大神たちはよくわかっていた。

 「ここで異能の話に戻るけど、いくら生まれつき異能を持っているからと言って、それを完全にコントロールするのには時間がかかる。自分たちにも覚えがあるんじゃないかい? 幼い頃、上手く異能を扱えなかったことが。それか、それゆえに虐げられた異能者の話とかね」

 「…………」

 「…………」

 会長の言葉に、大神と刻は何かを思い出したように黙ってしまった。会長の言うように、彼らにもあるのだろう。異能を上手く扱えなかったことも、虐げられた異能者の話も。虐げられた異能者に関しては、記憶に新しい者としてリリィなどがいる。彼女も『分泌』という異能を扱えず、多くの人から虐げられてきた。その他にも、遊騎や優も同様の経験がある者たちである。

 「そして優君も同じだったんだ。彼は幼い頃、異能を上手く扱うことができず……何度も死にかけてきたんだ」

 「死にかけてきた……?」

 「どういう、ことダヨ……」

 「…………」

 急な話の展開に二人は呆然とし、優は何かを思い出したように静かに目を瞑っている。すると、会長は重苦しい様子で言葉を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「簡単な話だよ……。幼い頃の優君は異能が上手く扱えなかったゆえ、常にリミッターが解除された状態で日々を過ごしてきた。まだ身体が出来上がってもいないほど子どもだった彼は……一歩、歩くだけでも足は折れ、拳を握っただけで指の骨が全て折れるなど想像を絶する過酷な日々を送っていったんだ」

 「……!」

 「な……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 今まで知るはずもなかった優の隠された過去。だが、それは予想のはるか上をいくものだった。

 「ちょ、ちょっと待てヨ! 確かにガキの頃は異能を上手く使えねーかもしれねーが……それはさすがに盛りすぎダロ!?」

 「第一、そんなことが続いたらすぐに死んでしまいますよ。話を盛るにしても、もう少しリアルな内容を──」

 「事実だ」

 会長の言葉が信じられず、嘘であると主張する大神たちに対し、優は冷静な顔つきで端的に告げた。その端的な言葉が、冷静な顔が……紛れもない真実であると物語っていた。

 「オレは子どもの頃、何十回と入退院を繰り返した。全身の骨も筋肉も……全てが数えきれないほど壊れていった。何度、死にかけたかも覚えていない。それに、被害があるのはオレの身体だけじゃない。力の制御ができないオレの行動は周囲をどんどん傷つけていき……オレは孤立するしかなかった」

 「……マジ、なのかよ」

 「…………」

 優本人からの重苦しい雰囲気の言葉……それは何よりも重みを感じるものであり、刻と大神はほとんど言葉を失った。そして、優はそのまま続きを話し始めた。

 「だが、今のオレが戦えるのはその子ども時代のおかげだ」

 「……どういうことですか?」

 「いかにも、それこそまさに超回復ってことさ」

 急に話の中に割って入ってきた会長。修行に関することとなれば自分が説明するつもりらしく、そのまま言葉を続ける。

 「優君は幼い頃、全身の骨や筋肉が壊れては治り、壊れては治りを繰り返し、その度に優君の身体は負荷に負けまいと強くなっていった。……つまり、優君の身体はすでに体力強化も必要ないほどハイスペックということさ」

 「ッ……!」

 ようやく大神たちは理解した。優が体力強化を免除された理由……それは最初に会長が言った通り、まったくと言っていいほど必要ないからである。というより、すでに身体が出来上がっている状態なのだ。そして、優の身体に隠されたもう一つの事実を会長は告げる。

 「まあ、ハイスペックなんてものは超えてるかもね。現に優君の身体は、どんなに『脳』のリミッターを解除した状態を続けても、ほとんど無害になっているからね」

 「……それは当然でしょう? 『脳』のリミッターが解除されれば身体能力が強化される。身体の丈夫さだって──」

 「──されないさ」

 ポツリ、と優が呟く。小さく、静かなはずのその声は確実に二人の鼓膜に届き、知られざる真実を伝えた。

 「オレが『脳』を使ってリミッターを解除したとしても、強化されるのは身体能力だけ。……身体の丈夫さに関しては欠片も強化なんてされちゃいない。じゃなかったら、子どもの頃に何度も死にかけるわけないだろう」

 「ちょ、ちょっと待てヨ! じゃあ、何か!? 優の身体は、リミッターを外して強化された力にも耐えられるくらい強ぇってのカ!?」

 「いくらなんでも、そんなのはあり得ませんよ……。それこそ人間の限界を超えている」

 力は強化されても身体の強さは強化されない……その言葉に刻と大神は一斉に反論する。それが真実だとするならば、優はすでに人間を超えるレベルの身体を持っているということになる。だが、今までの話を全て考えれば、真実であると信じるしかない。だとしても、彼らは納得できなかった。

 「そうだ……証拠でもあるってのかヨ! 自分の身体は限界を超えてるってヨ!」

 「……あいにく、証拠はない」

 「ほらな! だったら信じるわけには──!」

 「だが、証拠は無くても……確信していることはある」

 そう言うと、優は静かに掌を自分の胸に当てて、二人のことを真っ直ぐと見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「オレの身体はもうとっくに限界を迎えている……。もし今後、一回でも身体が壊れれば……二度と元には戻らない。完全に壊れるだけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ッ……!』

 その言葉に、二人は息を呑んだ。あと一回でも身体が壊れれば元には戻らない……それは、二度と戦えないということを意味する。つまり、彼にとって闘いとは一つひとつがギリギリのものであるということであり、少しでも油断して壊されれば次は無い。彼は常に……生命を懸けて闘っていた。

 「オレは今までの闘い……かなりの傷を負ってきたが、それでも身体が壊れるほどのものじゃなかった。だが、今回は違う。最悪の場合、この修業だって無理をしたら身体が一気に壊れるかもしれない。だが、オレはそれでも構わない。全て承知の上で会長に弟子入りしたんだからな」

 「……生命よりも大事な覚悟、というわけですか」

 「そうだ」

 大神の問いに、優は真っ直ぐな眼を向けて答える。その姿は、彼は覚悟している者であるということを嫌でも感じさせるものだった。

 「……ケッ。『コード:07』のくせに……言ってくれるじゃねーカ」

 「…………」

 優の真実を知った刻は、少しずつ普段の調子を取り戻した様子で言葉をかける。すると、刻は優に向かって人差し指を突き立てた。優が意味を考えるよりも先に、刻が声を荒げて宣言した。

 「指一本だ! 指一本分くらいはテメーが生命懸けてるって認めてやるヨ! だがな、絶対に忘れんじゃねーぞ。生命懸けてんのはテメーだけじゃねー。オレと大神だってそうなんだからナ!」

 「……当然だ」

 やり方は乱暴で、素直とは思えない言い方だったが、刻は確かに「認める」と口にした。それは、今まで優のことを「犬」と扱っていた頃と比べたら大きな変化と呼べるものだった。

 「まったく、面倒な言い回しですね。普通に言えないんですか」

 「アァ!? うるせーぞ、大神!」

 「いかにも、貴重なシーンを見れちゃったんだな~」

 「クソネコはもっと黙ってろ!」

 大神の文句を発端に、いつもの調子を取り戻していった大神たち。そして、その様子を上から見守る者たちもいた。

 「ななばん……大変やったんやな」

 「……大変なのは皆、同じだ。それに、生命懸けてんのだってな」

 「…………」

 そこにいたのは、遊騎と王子、そして平家だった。三人は大神たちの修業の様子を見に来ていたため、彼らも優の過去について聞いていた。彼らも話が続くことで驚いてはいたが、今の彼らを見て安心を感じているように見える。

 「まあ、いいわ。いざとなったら、オレがななばん助けるし」

 「大丈夫ですよ。優君はスペシャル☆ボディですから。そう簡単に遅れは取りません」

 「…………」

 安心したからか、その場を後にして上に戻る三人。遊騎と平家が先に戻ると、王子は再び優のことをジッと見つめた。瞬間、ある思いが頭をよぎった。

 (死ぬ気でやれよ、優。半端にやったら最後……。『捜シ者』たちにその身体……壊し尽されるぞ)

 『捜シ者』()たちの強さを知る王子だからこそ感じる重い……それが現実となるかどうかは、まだわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「優、今朝の味噌汁のダシを教えてくれないか? 参考にしたい」

 「ああ。報酬は……夕食に出たハンバーグのソースの作り方でどうだ?」

 「仕方ねぇな……。よし、交渉成立だ」

 優からの告白も終わった後、修業は中止のはずだったが、やる気を出した大神たちの希望で短時間だけ行うことになった。短時間だったため誰もロストすることは無く、すぐに夕食の時間になった。その夕食も終わったかと思うと、キッチンでは王子と優がお互いに料理の腕を高めるための意見交換会を行っていた。

 「二人とも、とても仲良しなのだ。やはり趣味が合うと仲良くなれるのだなぁ」

 その様子を、桜はリビングで椅子に座りながら見ていた。それぞれが実際に材料を手に取りながら、ポイントを紙にまとめている。お互いに切磋琢磨するその姿は、桜の心をじんわりと温かくさせた。

 「なあ、『子犬』。見えるか? 夜原先輩と王子殿のあんな楽しそうな顔、見たことが無いのだ」

 「ワン!」

 自分では気付けなかった部分や意外なポイントの発見、互いに軽口を交えながらの意見交換会は自然と二人を笑顔にさせ、和やかな雰囲気を漂わせていた。『子犬』もそれを見て、桜と同じようにほっこりとした表情を見せる。

 「あんな風に笑顔で話す姿、とても貴重…………ん?」

 ふと、ある違和感に気付く。急に、何か大切なことを見落としているという考えが桜を支配する。それが果たして何なのか。桜は必死に考え込むがわからない。ならば、と桜は違和感を感じた時に見ていた王子と優の姿をもう一度見る。だが、やはりわからない。二人は普通に話しているだけだ。時に笑い、時に驚き、時々目も合わせながら(・・・・・・・・)話して────

 「あ、れ……?」

 二人の姿を見て、桜の中で違和感が少しずつ形作られていく。少しずつ……彼女は自分の頭の中で情報を整理していく。

 (夜原先輩と王子殿が話している……。楽しそうに、目を合わせながら。……そういえば、夜原先輩は女性とだけは目を合わせられない……。そして王子殿は…………女性!)

 桜の中で違和感が確信に変わった。間違いない。優は今……女性である王子と目を合わせている。しかも、どんなに目を合わせても倒れることも無く。桜は、自分の身体に冷や汗が流れるのを感じた。

 「こ、この二人……ただの仲良しさんではない気がしてきたのだ……!」

 思わず真剣な顔つきになる桜。その眼は、しっかりと王子と優の二人に疑惑の視線を送っていた。

 

 

 




CODE:NOTE

Page:32 仙堂 竜二

 『捜シ者』の配下の異能者の一人であり、仙堂 竜一の弟。兄と違って冷静さは欠けており、常に異能任せの行動をとる。だが、『Re-CODE』になるという野心は同じであり、そのために刻を斃そうとした。だが、逆に王子によって斃される。
 異能は『引火』。自分が狙った場所に火を点けることで爆発させることができる。そのため、ガスボンベに狙いを定めて『引火』することで大爆発を起こしたり、相手の身に纏うものに『引火』させることで零距離の攻撃を行うことができる。

※作者の主観による簡略化
 出オチ君



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