CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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気付けば、今回で五十話目の投稿……(たしか)
本編はまだまだですが、少しずつでも進めていこうと思っています
今回はタイトルからも予想できますが荒れます
そして、優が弟子入りするか否かも明らかに!
それでは、どうぞ!





code:39 決裂

 「うおおお!」

 「まだまだ……! もっと来いヨ!」

 大神と刻……二人の修業が始まってから数日が経った。刻も第一段階の体力強化をクリアし、今では二人とも『渋谷荘』の地下で行われている修業を行っていた。その修業内容とは……

 「さっきからチマチマと……まとめて燃え散れ!」

 「おっと、かなりデカいのが来たナ。一気に沈みなヨ!」

 二人がいる修業場の四方から次々と飛び出してくる小型、中型、大型の『にゃんまる』型の人形。二人はそれを異能で次々と破壊していった。その様子を、会長、桜、王子は上から見守っていた。

 「うんうん……二人とも、かなり早くカラクリ珍種を壊せるようになったね」

 「カラクリ珍種……あの『にゃんまる』のことですか?」

 「いかにも、そうだよ。あのカラクリの表面には私の珍種血清が薄く塗ってあってね。フルパワーの異能でないと破壊できないように調整してあるカラクリ……というより、ロボットなんだ。二人とも、最初は小型を数体壊すだけでやっとだったんだよ」

 見てみると、確かに二人とも修業を初めて数分だというのに大量の汗をかいている。異能をフルパワーで使い続けている証拠だ。最初は小型でやっとと言っていたが、今では大型のものも壊せるようになってきている。しかし、そんな二人の様子を見た桜の中には、一つの大きな不安が残っていた。

 「会長……こんな風に異能を使い続けていたら、すぐにロストしてしまうのではないですか?」

 「いかにも。それこそが修行の目的だからね」

 「ロストが目的……ですか?」

 「……超回復、って知ってるかい?」

 超回復……それは筋力トレーニングなどで筋肉に強い負担をかけた後に休息を入れると、負荷に負けまいと筋量・筋力がトレーニング前より増えることである。よく言われるのは、筋肉痛というのはこの超回復が起こっている証拠である、ということである。

 「異能も同じなんだ。フルパワーで異能を使うことが異能のハードトレーニングとなり、その後に迎えるロストが休息の時間。これを繰り返していき、超回復させることで異能量をアップさせるんだよ」

 トレーニングとロストを繰り返す……異能のことを詳しくは知らない桜だったが、それがもたらす結果が一つあることを彼女は知っていた。そして、それこそが彼女の中にある大きな不安の正体でもある。

 「しかし、そんなにロストを何度も繰り返しては……『コード:エンド』が近づいてしまうのではないですか……?」

 「……いかにも、それがこの修業のデメリットさ。でもね、仕方がないことなんだ。そうしなければ、強くはなれない。……それに」

 会長は静かに呟くと、一歩前に出て大神と刻を見た。二人は人見の死(『コード:エンド』)を目の前にした。おそらく、説明を受けなくても理解しているだろう。この修業が自分の寿命を縮めていると。だが、彼らは……彼らの眼には“恐れ”など欠片も無かった。彼らの眼にあるのは……

 「これが、大神君と刻君の決意……“覚悟”なのだよ」

 「“覚悟”……」

 たとえ自分の寿命を縮めることになったとしても、成し遂げたいことがある。大神が言った「生命よりも大事な覚悟」……それを成し遂げるためなのだろう。そのために、二人は自らの生命を少しずつ削っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……茶番だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「王子殿……?」

 思わず出たような王子の呟き。王子の方を見ると、彼女はどこか悲しげな顔で二人を見ており、そのまま言葉を続け始めた。

 「こんなことやっても『捜シ者』に勝てるわけがない。……『捜シ者』(アイツ)はバケモンさ。それに、虹次だって半端な強さじゃない。こんなことでアイツらの強さに追いつくことができないなんてこと、あの二人が一番よくわかってると思うんだがな」

 「……王子殿は、『捜シ者』たちのことをよく御存知なのですか?」

 「…………」

 桜の問いに、王子は答えようとはしなかった。王子の言葉……それは『捜シ者』たちの実力を全て知っている、と言っているようにも感じられた。でなければ、大神と刻を見て「追いつけない」とハッキリ口に出すことはしないはずだ。

 『捜シ者』たちに関する質問には答えてもらえない。そう感じた桜は、別の質問を彼女に投げかけた。

 「あの……そもそも王子殿はどうして『コード:ブレイカー』に?」

 思えば、『コード:ブレイカー』のほとんどにしている質問。ほとんど真面目に答えてもらった試しはないが……王子は静かに桜の方を向き、しっかりと眼を見て答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さぁ……なんでだろうな」

 「王子、殿……」

 その時の王子の表情は、微笑んでいて、優しくて……悲しく儚げだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぐ……!」

 「ッ! 大神!?」

 王子と話し込んでいると……大神の苦しげな声が下から届いた。桜は思わず身を乗り出して様子を見ると、左手から『青い炎』が消えていて膝を突いていた。これはどう見ても……ロストだ。

 「大神君、ロスト! 今日はそこまでだよ! 刻君はそのまま続行してね!」

 「……大神」

 桜の呟きに、答える声はどこからも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハァ……! ハァ……!」

 (こんなにも身体が冷たい……。こんな思いをしてまで、大神は……)

 修業が終わった後、桜は大神に肩を貸して部屋まで連れていくことにした。大神は断ったが、王子から「ロストした奴は黙って言うこと聞け」と頭突き付きで怒られたため、仕方なく了承した。大神のロストは体温が急激に下がること……桜は大神に触れている部分から感じる彼の冷たい体温を感じながら、ずっと考えていた。なぜ、ここまでするのか。ロストという辛い体験を何度もするだけでなく、自分の生命すら犠牲にしている。大神たちがそこまでする理由が……桜にはわからなかった。

 「……ありがとう、ございます。後は大丈夫ですから……」

 桜が一人で考えていると、いつの間にか大神の部屋である『陸號室(ろくごうしつ)』の扉の前に着いていた。大神は桜から離れると、かすかに震えながら桜に笑顔を向けた。

 桜は、その笑顔が学校で使う仮面の笑みと同じ、偽りの笑みであると知っている。自分の辛さを悟らせないための嘘の笑顔であると。そんな嘘の笑顔を浮かべた大神が扉を開け、部屋に入ろうとした……その時。

 「……そこまでして、やらねばならないこと……なのか?」

 それが限界だった。彼女は、知りたいことを相手に悟られないように聞きだす知識も技術もない。しかし、正面からの問いが相手を傷つけることもある。今回のように、深刻なことである場合はなおさらだ。怒られるかもしれない、嫌われるかもしれない。それでも……彼女にはこの問いを投げかけることしかできなかった。

 「…………」

 大神は扉に手を触れたまま黙っていた。怒りを感じているのか、それとも失望しているのか。どちらともとれる大神の様子に、桜は少し怯えていた。だからだろう。どうしても大神の顔が見れない。

 すると、大神は静かに、力強く答えた。真っ直ぐ、桜のことを見て。

 「……ええ」

 「……そうか」

 満足だった。大神の覚悟は、決して揺るがない。彼の中で、この覚悟はそれほどのものなのだ。それがわかっただけで、桜は十分だった。それがわかれば、自分ができることは一つしかない。

 「頑張れよ、大神」

 「……はい」

 そう言って大神は扉を閉じ、桜も自分の部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、事件が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「キャアァァァァァ!」

 「ぬお!? な、なんだ!?」

 夕食も済み、布団に入っていた桜の耳に響いたのは誰かの叫び声だった。眠気も何もかも一気に覚め、桜は声の出所を探るべく部屋の外に出ていった。

 「だ、誰なのだ?」

 「なんなんだよ……。遊騎の騒音子守唄の次は叫び声かヨ……。ロストして疲れてるんだから早く寝かせてくれヨ!」

 「オレはよんばんが頑張ってるから応援しとるだけやで。けど、あの声は『にせまる』やな」

 「会長?」

 「まったく……ロストの時くらい静かに過ごさせてほしいものです」

 見ると、大神たちも声を聞いたらしく部屋から出てきていた。遊騎はいつも通りだが、大神と刻はロストしている。もしも何者かが侵入していたのだとしたら、戦う力はかなり限られている。遊騎のおかげで声の出所が会長とわかった四人は会長を探すため、管理人室がある一階へと向かっていった。

 すると、一階階段前にある玄関にて四人がよく知る人物同士が対峙していた。

 「王子殿! それに平家先輩!」

 「……一応、オレもいるんだが」

 「夜原先輩まで!? いや、それよりも何があったのですか!?」

 見ると、平家が『光』のムチで王子の手を縛っており、明らかな殺気を放っていた。その傍には、優が神妙な顔つきで佇んでいた。よく見ると、廊下の真ん中には足に釣り糸(テグス)が絡まっている会長の姿もあった。

 「……ん? なんだ、コレ」

 「ああ! それ、見ちゃダメ!」

 何があったのかが全くわからない桜が困惑していると、刻があるものを見つけた。見ると、会長の傍に落ちている箱から数枚の写真が出てきており、刻はその中の一枚を何気なく手に取った。会長はそれを止めようとしたが、時すでに遅し。その写真は刻たちの視界に完全に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なんだよ、コレ……」

 その写真に写っていたのは、『Re-CODE』である雪比奈と虹次。そして、髪が長いが見間違えるわけがない。その二人と肩を並べて写真に写っていたのは……八王子 泪だった。

 「この写真は一体……」

 「見ての通りです。そこの八王子 泪はかつて、『捜シ者』直属の部下である『Re-CODE』のメンバー。つまり……我々の敵だった女です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お、王子殿が元『Re-CODE』!? それは本当なのですか!?」

 「……ああ、本当だ」

 平家の言葉に思わず大声出す桜。すると、王子が静かにその言葉が真実であることを告げる。本人からの肯定……それは何よりも有力な証拠である。彼女は認めたのだ。自分は……かつて『コード:ブレイカー』の敵であったと。

 「許せませんね、“悪”である『Re-CODE』だったあなたが『コード:ブレイカー』を名乗ることが。今すぐ消えていただきたい……」

 「お前……コイツと、一緒にいたってのかよ。……仲間だったってのかよ。寧々音(ねーちゃん)を殺した虹次(コイツ)と……!」

 元『Re-CODE』……それが知られた瞬間、平家の殺気が濃くなり、その眼も鋭く王子を捉えている。さらに、刻も写真を握りしめながら真剣な顔つきで王子に敵意を向け始める。王子は、その敵意から逃げようとはせず、真っ直ぐ刻の顔を見ながら口を開いた。

 「虹次はかつて同じ志を持った仲間。そして……最も信頼した同志だった」

 「ふざけんな!」

 「やめろ、刻……!」

 「離せ! 許せるワケねーだろ! こんな奴を庇ってんじゃねーよ!」

 王子の言葉に、刻は我を忘れて掴みかかろうとする。たまたま近くにいた大神はそれを止める。ロストしているとはいえ、刻もロストして子どもの姿だ。身体が上手く動かなくても体格差を利用すれば止められる。

 だが、今の刻はそれでも止まろうとはしない。それどころか、大神にも無情な言葉をかけ始めた。

 「それともなにか!? 大神、テメェはアイツの気持ちがわかるってか!? そーだよな! だってお前は同じ“悪”! 親殺しの──!」

 「ッ! テメェ──!」

 興奮しきった刻の言葉に、思わず大神も激昂して刻に向かって拳を振りかざす。その拳が刻に届くより前……二人の間に一人が割って入っていった。

 「……ええ加減にしろや」

 「遊、騎……」

 大神の拳を止め、刻の頭を押さえつける遊騎。遊騎に拳を止められたことで、大神の頭が少しずつ冷え始める。すると、遊騎は眉をひそめ苛立ち気に口を開いた。

 「どいつもこいつもガタガタやかましいわ。今のオレらは『捜シ者』と『Re-CODE』を斃すっちゅー目的が同じやから一緒にいるだけや。それぞれがどんな奴かなんて関係ないやろ。友達でもないのに……私情挟んで喧嘩する必要なんてないやろ、アホらしい」

 「…………」

 「…………」

 遊騎の言葉に、大神と刻は完全に沈黙した。同時に、平家も王子から『光』のムチを外し解放する。すると、遊騎は平家の方にも向かっていき、言葉を続けた。

 「にばんもや。ごばんにばっか当たり強すぎやで、いつもいつも。全部、お前の大好きな“エデン”が決めたことやろ。ルール守れてオレのこと叱る前に、そのルールの中でごばんをいびってる自分のこと叱りや」

 「言い過ぎだ、遊騎。平家さんは“エデン”に忠実な機械じゃない。個人の思いや考えがある以上、納得できないこともある」

 「…………」

 遊騎は平家に言い詰めたが、平家は何も言わなかった。代わりに、優が平家を庇うように遊騎に反論した。二人の間に不穏な空気が流れたが、優が顔を逸らし、遊騎が部屋に戻ったことでその空気は打ち切られた。同時に、平家も『渋谷荘』の奥へと消えていった。

 「オイ、大神と王子。テメーら二人、二度とオレにツラ見せんなよ」

 「テメーのツラなんて命令されても見る気はねぇよ」

 「二人とも、いい加減に……おい!」

 「桜小路、あんたには関係の無いことだ。あまり首を突っ込むな」

 それぞれがまるで別の方向に進んでいった『コード:ブレイカー』たち。たった一枚の写真……それが彼らをバラバラにしてしまった。桜は、落ちていた例の写真を拾い上げてよく見てみた。

 よく見ると、雪比奈、虹次と王子の間には明らかに破った跡があった。今はテープで繋げてあるが、これが意味するのは、この写真は一度破ってまた繋げられた写真。なぜ、王子と虹次たちの間で破られているのか。もしかしたら、一度は彼らと決別したが、心のどこかで彼らを思っていたのかもしれない。

 「……もういいだろう。個人の物は持ち主のところにあるべきだ」

 唯一、桜と共に玄関に残っていた優が桜の手から写真を取り上げ、箱の中にしまう。それを見ながら、桜はボソリと呟いた。

 「なぜ、王子殿は『Re-CODE』を抜けて『コード:ブレイカー』になったのでしょうか……」

 「……さあな。だが、王子だってバカじゃない。自分が『Re-CODE』を抜けて『コード:ブレイカー』になった時……こうなることは覚悟していただろうさ。そして、たとえ『コード:ブレイカー』の中で孤立したとしても、『Re-CODE』(かつての同志)とも闘うってな。……どちらからも敵とみなされるであろう行為と知っていながら王子はそれを選び、それだけの覚悟があった。それだけだ」

 「…………」

 その時、桜の頭に浮かんでいたのは『コード:ブレイカー』になった理由を聞いた時の王子の表情だった。彼女も、大神たちとは違うタイプの覚悟をその胸に秘めていた。だからこそ、あんな悲しい表情を浮かべながらも『コード:ブレイカー』であり続けるのだろう。

 「む……? あれは、刻君!?」

 ふと、桜が外に目をやると刻が外に出ていた。おそらく、裏口から外に出ていったのだろう。

 「子どもの姿なのに……! 着替えて、追いかけます!」

 そう言うと、桜は急いで二階に上がっていった。いくら夜とはいえ、寝間着で外に出るわけにはいかない。玄関には、優と会長のみが残った。

 「……この写真は私が戻しておくよ。元々、この写真を持ちだしてしまったのは私だからね。申し訳ないことをしたよ……」

 「…………」

 会長は優から写真が入った箱を受け取ると、大事そうに抱えて歩き出した。優はその後ろ姿を見ながら立ち尽くしていたが、ふと何かを決意したように会長を真っ直ぐ見て、声をかけようとした。

 「あの、会ちょ──!」

 「せっかくだから、管理人室においでよ。生徒会同士、親睦を深めようじゃないか」

 「あ……はい」

 言葉を遮られた優だったが、会長の提案には大人しく賛同した。そして、二人はそのまま管理人室へと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いかにも、お茶でいいかな? まあ、お茶しかないけど」

 「あ、いただきます……」

 管理人室に招待された優はどこか落ち着かない様子だった。先ほど言いかけたことを気にしているのだろう。そして、おそらくそれが彼の……

 「はい、お茶。それで、優君。いかにも、私にどんな用事があるのかな?」

 「……お見通しでしたか」

 「いかにも、生徒会長だからね」

 ぽむ、と自慢げに胸を叩く会長。それに対し、優は何度か呼吸を繰り返して気持ちを落ち着かせた。そして、改めて会長の前に座り、真正面から真剣な眼差しを向けた。

 「……『渋谷』生徒会長」

 真剣な表情を会長に向ける優。そして、彼はその真剣な表情のまま……会長に頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お願いします。オレも……会長のもとで修業させてください」

 

 

 

 

 

 

 

 




~今日の一コマ~

桜「ところで会長、なぜ急に叫び声を上げたのですか?」

会長「いや~、王子に一矢報いようと思ってね。何か恥ずかしい秘密を暴こうと部屋に忍び込んだらこんなことに……。いかにも、皆には申し訳ないことをしてしまったんだな……」

優「……つまり、この仲たがいの原因は会長にある、と?」

会長「いかにも、そういうことになっちゃんだな」

王子「なに開き直ってやがる! やっぱテメーは……一回死んどけ!」

会長「ギャアァァァァァ!」

優(オレ、この人に弟子入りを頼んで大丈夫なのか……?)



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