単行本でいうと八巻に突入しました……遅いですね
今回は最初に日常パート入りますが、完全にバトルですね
そして、日常とバトルでは段違いでバトルの方が書きやすかったです
やっぱり日常は動きより言葉重視だからですかね
バトルは動きを書くのが楽しいです
また、今回から根強い人気を誇るあの人がついに登場です
では、どうぞ!
降り止まぬ雨の中、『渋谷荘』では会長特製の鍋が振る舞われていた。
「いかにも、完成したよ。石狩鍋エビ天入り」
「なんで石狩鍋にエビ天が入ってんだヨ……」
「……ま、会長流のアレンジなんだろう」
刻の呆れたツッコミに対し、優が悟ったように呟いた。そんな彼らに対し……
「うむ、やはり会長の鍋は最高なのだ」
「鍋にうどん……そしてエビ天。さすが会長、デリシャス☆コラボレーションです」
「石狩うまいわー」
それぞれ鍋を口にしながら感想を口にする桜たち。彼らにしてみれば、そんなことはどうでもよいことらしい。それを見て、刻たちも気にしてもしょうがないと感じ、鍋について気にするのをやめた。
しかし、彼らは別のことが気になり始めた。鍋ではなく、その周りにいる者についてだった。
「……んで、テメーはいつまで沈んでんだヨ」
「…………」
刻の視線の先……そこには桜たちと少し距離を置いて俯いている大神がいた。どうやら、まだ『にゃんまる』スーツの件が頭にこびりついているらしい。
「ったく、メンドくせ。気にしすぎだっつの」
「お前、あれだけ笑っといてよく言えるな」
「知ーらね」
優の言葉に対し、刻は平然と顔を背ける。その様子を見て、優はため息をついてから他の者たちと同様に鍋を口にし始めた。
「ねーねー、ゆー君。寧々音、おうどん欲しーの」
「ああ、わかりました。……はい、どうぞ」
「ありがとーなのー」
優が鍋を口にしていると、急に寧々音が隣に来た。そして、服の裾を引っ張ったかと思うと優に用事を頼み始めた。優は特に気にする様子も無く、素直に応じた。
寧々音は取り皿を受け取ると、夢中でうどんを食べ始めた。
「…………」
ふと、その様子を遠くから眺める刻。その眼には、どこか悲しそうな色が宿っていた。歳相応とは思えない幼い様子の寧々音。
そんな彼女との悲しき思い出が、刻の中では繰り返されていた。
「ね、寧々音ぇぇぇぇ!」
目の前で飛び散る真っ赤な鮮血。その鮮血の元は彼にとって良く知る人物。自分とよく似た顔つき、同じ髪色と
「おい、寧々音……! しっかりしろよ、オイ……!」
「…………」
揺すっても、呼びかけても寧々音は答えない。口元は動かず、眼は閉じられ、彼女から流れる鮮血は嫌な温かさを感じさせた。しかし、それに対して彼女の身体はどんどん冷たくなっていった。
そして、それ以上に冷たい眼を彼らに向ける者がいた。
「…………」
顔はフードを被っているため見えない。見えるのは近くに瘢痕が刻まれている眼。その者はなにも言わず、ただ彼らを見下ろしていた。
「……お、お前ー! お前が、お前がぁぁぁ!」
刻は身体を震わせながらも自分を見下ろす者に向かっていった。込められるだけの力を込め、握り拳を振るう。しかし、幼い子どもである彼の拳はあまりにも無力だった。
「うわ!」
その無力な拳が何度か振るわれた後、瘢痕の人物が刻を払いのける。刻はそれに耐えられず、勢いよく倒れる。全身から痛みを感じるが、彼はそれに屈するわけにはいかなかった。
「く、くそ……!」
刻は痛みに耐えながら、再び立ち上がろうと全身に力を込める。すると、彼の頭上から無情な声が降り注いだ。
「この女はお前の代わりに死んだ。……お前は殺さん。弱き者は殺す価値なし」
「……!」
無力だった。その時の彼は、斃れる姉を救うことも、姉の仇を討つこともできないほど無力だった。そして、彼の中では瘢痕の人物の言葉が何度も繰り返され、彼はそこから動くことができなくなった。
この時、彼は最愛の姉を失い、自らの無力を感じ、命を懸けても斃すべき敵を見つけた。
「…………」
目の前で無邪気に振る舞う
「ちょっと一服してくるワ。灰皿、借りてくゼ」
自分の中で蘇った悲しき記憶を振り払うためか、それとも寧々音から少し離れて冷静になりたかったのか。どちらかはわからないが、刻は灰皿を持って部屋を出ようとした。
だが、それと同時に『コード:ブレイカー』全員の表情が変わった。
『──!』
感じた。
その場にいた『コード:ブレイカー』全員がある気配を感じ、部屋の雰囲気はがらりと変わった。今までの平和な雰囲気とは違い、敵を前にしたかのような静けさに包まれた。
そう、彼らが感じたのは敵の気配。それも、生半可な実力の相手じゃない。相当の実力を持つ敵が近くにいるということを、彼らは感じていた。
(この感じ……間違いねェ……!)
その中で一人、刻のみが確信に似た何かを感じていた。彼はかつて感じたことがあった。この敵が発する気配を。その記憶が言っていた。斃すべき敵がすぐそこにいる、と。
「……オレが行く。誰も手ェ出すなヨ」
「と、刻君? それにみんなまで……一体どうしたのだ?」
刻は灰皿を置き、簡潔に言葉を済ませるとそのまま外に向かっていった。未だ状況がわからない桜は頭に疑問符を浮かべているが、その疑問に答えを差し伸べようとする者はいない。彼女のことだ。敵がいるなど教えたら戦わないよう説得するはずだ。しかし、状況を考えればそうはいかない。特に、刻にしてみれば。彼以外の『コード:ブレイカー』たちもそれを察し、あえて何も言わないのだ。
「マグネス、お出かけなの? いってらっしゃいなの。早く帰ってきてね」
そんな中、寧々音のみが刻に近寄って声をかける。闘いに赴く彼を鼓舞するような、彼の安全を願うような……彼女にしてみれば、深い意味は無いと思われる言葉。しかし、刻にしてみればその言葉は、何よりも力になるものだった。
「……ハイ、藤原サン」
彼女に微笑み、刻は改めて覚悟を決めた。そして、未だ雨が降る『渋谷荘』の外へと歩き出した。
「…………」
雨の中、傘もささずに『渋谷荘』を眺める男。しっかりと被られたフードから覗く褐色色の肌。『Re-CODE』が一人である雪比奈……彼はただ黙って『渋谷荘』を眺めていた。攻撃する様子も無く、ただただ黙って。
「……雪」
そんな彼に近寄り、愛称で彼を呼ぶ一人の人影。瞬間、今まで雨に濡れていた雪比奈に雨が降らなくなった。止んだのではない。雪比奈と人影の周囲にだけ雨が全く降らなくなった。見ると、人影の周囲に見えない膜のような物があり、それが雨を弾いていた。
声をかけられた雪比奈は、特に表情を崩すことなく淡々と口を開いた。
「なぜ、あなたがここに? 瘢痕の『Re-CODE:03』……破壊神と呼ばれるあなたが」
「…………」
瘢痕の『Re-CODE:03』。それは、刻にとって宿命の相手。かつて、寧々音を殺した……彼女の仇。瘢痕の『Re-CODE:03』と呼ばれた人影はコートのフードを深く被り、顔を見ることはできない。しかし、その左目周囲に刻まれた瘢痕はしっかりと確認できた。彼は黙って雪比奈を見ると、静かに口を開いた。
「『捜シ者』が『渋谷荘』にはまだ手を出すな、と」
「それを伝えるためだけに、あなたがわざわざ? あなたらしくない。あなたはもう『コード:ブレイカー』にも『
「……ただの散歩だ。帰るぞ、雪」
あくまで散歩のついでに『捜シ者』からの伝言を伝えたという瘢痕の『Re-CODE:03』。それを彼らしくないと雪比奈は言うが、彼は真意を語らずにそのまま歩き出した。
瞬間、周囲の鉄材が小さく揺れ、一人の少年が彼らに声をかけた。
「待てヨ。ようやく会えたんダ。そう簡単に帰すわけにはいかないヨ……瘢痕の『Re-CODE:03』サン」
雨の中、塀に寄り添って立つ刻。彼は探し続けてきた敵を目の前にし、猛る気持ちを抑えてその場にいた。しかし、そんな彼に対して瘢痕の『Re-CODE:03』は静かに答える。
「……誰だ。
「な……!」
刻に背を向けたまま、自分と刻は初対面だと言う瘢痕の『Re-CODE:03』。その言葉は、確実に刻が抑え込んでいた気持ちの蓋を開き始めた。
「テメェ……しらばっくれてんじゃねーぞ! オレと同じ眼をした『コード:ブレイカー』を殺したこと……忘れたとは言わせねぇぞ!」
「……悪いが、覚えがないな」
最初に比べ、荒さが増した刻の言葉を受け、瘢痕の『Re-CODE:03』は足を止めた。しかし、彼は変わらず静かに「覚えがない」と言う。そして、彼は首のみを動かし、その瘢痕が刻まれた鋭き左目で刻を見た。
「自分より弱き者に興味はない」
「──!」
その言葉が、刻の気持ちの蓋を完全にこじ開けた。
「ふざけんな!」
──ゴオ!
今まで押し止めてきた感情を全てぶつけるかのように、怒号と共に刻は異能を解放した。『磁力』で周囲の鉄材を操り、何の容赦もなく背中を見せている瘢痕の『Re-CODE:03』にぶつける。だが……
──バキィ!
「なに!?」
勢いよく放たれた鉄材は瘢痕の『Re-CODE:03』の身体に届くより前に、音を立てて折れ曲がっていった。というより、彼の周囲に
「……下らん遊びに付き合うつもりは無い」
「遊びかどうかは……
瞬間、瘢痕の『Re-CODE:03』の足元から何かが現れた。銀色に輝く液体状の何かは、瘢痕の『Re-CODE:03』をあっという間に包み込んだ。一瞬のことだったが、雪比奈はその何かの正体についてすぐに結論を出していた。
(あれが仙堂を斃したという、水銀を用いて自由自在に操る『コード:04』の最強兵器……汞か)
そう、刻が使用していたのは仙堂を斃した際に使用した汞だった。仙堂と戦った時は最後の最後まで使わなかった汞を最初から使ったということは、それだけ彼が本気だということが伺える。
「いくゼ……! テメェはこれで……ねじ切ってやる!」
そう言うと、刻は瘢痕の『Re-CODE:03』を包み込んだ汞を操り、硬度を上げてその面積を一気に小さくした。これは、自分を取り囲む360度の鉄の壁が一気に迫りくるようなものであり、普通ならば押しつぶされるなり全身がねじ切れてしまう。
しかし……
──パァン!
「なっ!?」
勝負がついた、と刻が思った瞬間だった。突然、破裂音が響いたかと思うと汞が弾け飛んだ。突然のことに刻は眼を見開くと、驚くべき光景がそこにはあった。
「…………」
「無傷……だと……!?」
そこには、自分が着ていたコートもろとも汞を弾き飛ばしたのか、素顔が明らかになった瘢痕の『Re-CODE:03』の姿があった。そして、だからこそわかる。彼が……まったく傷を負っていないと。
瘢痕の『Re-CODE:03』の姿は、まさに静かな実力者という印象だった。白シャツに黒の上着とズボン、ライオンの
「遊びは終わりだ」
──ビュオ!
「ぐああ!」
一言、それが刻の耳に届くと同時に身体に激痛が走った。何をされたかはわからない。だが、激痛と溢れ出る血でわかる。自分は……攻撃されたのだと。
(嘘ダロ……。いつだ、いつ攻撃された……? いや、それより
防御も攻撃も、何もかもがわからない瘢痕の『Re-CODE:03』の異能に思案を巡らせる刻だったが、どうしてもわからない。異能がわからなければ対策や戦い方も考えようがなく、わかっている時と比べると戦いやすさはまったく違ってくる。ただでさえ実力に差がある相手のため、異能の正体を知れば少しは勝機が見えるはずだった。
しかし、その相手から無情な言葉がかけられた。
「これで力の差はわかったはずだ。早く去れ。力の差をはき違えれば待っているのは死のみ」
「ふ、ざけんなよ……誰が、この程度で……」
「……わからんか」
諦めるよう言葉をかけても、刻は諦める様子を見せない。当然だ。長年追い続けてきた因縁の相手なのだ。一度や二度、攻撃を受けたり攻撃が通じなかっただけで諦められるはずもない。しかし、それに対して瘢痕の『Re-CODE:03』はもう刻のことは見ていなかった。刻を見ることも無く、静かに現実を突きつけた。
「もう終わった、お前は殺さない。……弱き者は殺す価値なし」
「──ッ!」
それは、かつて寧々音を殺された時にもかけられた言葉。自らの無力さを噛み締めさせられた……あの時と同じ。
「黙れ!」
過去に受けたものと同じ言葉に激昂する刻。鉄材を放ちながら瘢痕の『Re-CODE:03』に向かっていく。全身の痛みも何もかもを無視して。しかし、現実は冷たかった。
「無駄だ」
「ぐはっ!」
鉄材もろとも、刻は正面から見えない攻撃を受ける。鉄材はバラバラになり、刻は攻撃に耐えられず後方に飛ばされた。飛ばされた先にあった壁にぶつかったものと全身のものという二つの激痛が刻を襲う。しかし、それでも彼は諦めようとはしなかった。
「うぅ……うおおおおお!」
三度、瘢痕の『Re-CODE:03』に向かっていく刻。しかし、結果は同じだった。見えない攻撃を受け、全身に激痛が走り、大量の鮮血が流れる。
だが、それでも彼は諦めなかった。
「ま、まだだ!」
何度も
「うらあああ!」
何度も
「ハア、ハア……うあああああ!」
何度でも……向かっていった
「がは……!」
何度も攻撃を続けては攻撃を受けていた刻だったが、とうとう続いていた攻撃が止まった。彼はおびただしいほどの血を流しており、もはや意識を失っても不思議ではないレベルだ。一方、瘢痕の『Re-CODE:03』はまったくの無傷。傷どころか、服には汚れ一つついていない。刻は今まで、彼に触れることさえできていなかった。
「……いい加減にしろ。勝機が無い相手に向かったところで命を縮めるだけだ。ましてや、お前のように無作為に突っ込むだけならなおさらだ」
攻撃の手が止んだ刻に対し、瘢痕の『Re-CODE:03』は振り返ることも無く言葉をかける。彼にしてみれば、本当に殺す気は無いのだろう。ただ、向かってくる以上は相手をしているだけにすぎないのだ。でなければ、ここまで諦めさせようとはしないはずだ。
「…………」
一方、刻もとうとう精神的にも限界が来ているのか俯いたままで言葉を発しようとしない。二人の間には、未だ降りしきる雨の音だけが響いた。
そして、刻からの返事が無いことを感じると、瘢痕の『Re-CODE:03』は再び歩き出した。それに合わせて雪比奈も歩き出す。これで終わり……誰もがそう感じた。
「……『風』、だろ?」
「なに……?」
ポツリと呟かれた刻の言葉に、瘢痕の『Re-CODE:03』はその足を止めて刻の方を見た。すると、彼は密かに笑みを浮かべていた。希望を見つけた……そう言いたげに。
「ずっと見覚えがあったんだ……アンタの見えない攻撃。何度も喰らってようやくわかったゼ……。あの時に見た……『Re-CODE:07』の風牙と同じ攻撃だってな」
風牙……優が研究所で斃した『Re-CODE:07』の異能は『風』。彼は『風』を凝縮させて刃の如き破壊力を持った『風』をぶつける『鎌鼬』という技を使って優を苦しめた。それをずっと見ていた刻は覚えていた。そして、瘢痕の『Re-CODE:03』の攻撃がそれと同じものだと感じたのだ。
「……ま、同じ『風』だとは思っちゃいないさ。同じ異能を持つなんて普通はあり得ねーからナ。それでも、似たような異能だってことはわかったんだ。今まで通りには──」
「愚かだな」
その言葉は、瘢痕の『Re-CODE:03』からではなかった。彼の傍にいた雪比奈……彼からの言葉だった。彼は相変わらずの無表情だったが、その目からは愚か者を見下ろす冷たい感情が見えた。
「この人の異能があの風牙と同列だとでも言うつもりか? 勘違いも甚だしいな。異能の特性上、似ていると思う部分はあるだろう。だが、この人と風牙では比べ物にならん。別格などという言葉も生ぬるい。言うなれば、別次元の異能だ」
「別次元、だと……」
淡々と語られる雪比奈の言葉を聞きながら、刻は雪比奈を睨みつける。自分としても絶対の自信は無かった考えだったが、ここまで否定されればいい気はしない。
すると、雪比奈は決定的な一言を時に向かって告げた。その氷のような視線を向けながら。
「元々、異能量の差も大きい。だが奴の……風牙の異能など、所詮はこの人の劣化版に過ぎん」
「な……!」
風牙の『風』を劣化版と言い切る雪比奈。異能の相性が悪かったとはいえ、優をギリギリまで追い詰めた風牙の異能をそこまで言うということは、それだけ瘢痕の『Re-CODE:03』の実力は圧倒的だということだ。その事実に、刻は思わず目を見開く。
すると、今まで黙っていた瘢痕の『Re-CODE:03』が口を開いた。
「もうやめろ、雪。確かに奴は『捜シ者』が余興として選んだ仮初の同志。真の同志ではなかったとはいえ……これ以上、死者を愚弄する必要はないだろう」
「…………」
その言葉を受け、雪比奈はその口を閉じた。瘢痕の『Re-CODE:03』は風牙を「仮初の同志」と言ったが、それでも彼にとっては「同志」には違いないのだろう。戦いに死んだ風牙に敬意を表している。だからこそ、雪比奈の言葉を止めたのだ。
「見苦しいところを見せたな。だが、もうわかったはずだ。お前はオレには勝てん。……お前にも親や兄弟がいるだろう。その者たちを大事にして暮らせ。そんな生き方もいいものだ」
「……!」
その言葉に、刻の中で今までのことが次々と浮かび上がってきた。
『コード:ブレイカー』になり、父親は父親から主になり、自分はそれを守る番犬となった。
『コード:ブレイカー』になり、姉の中から自分の存在は消えた。
『コード:ブレイカー』になり、本当の名前も捨てた。
『コード:ブレイカー』になったからこそ……全てを捨てた。そうなることを覚悟していた。
だが、それはずっと一つのことを目指したからこそ。たった一つ──
「この女はお前の代わりに死んだ。……お前は殺さん。弱き者は殺す価値なし」
──全ては
「……っざけんな。今のオレには、そんな生き方なんて残っちゃいねーよ……。全て捨てたんだ……何もかも全て……。ただ一つ…………テメェをぶっ殺すためにだァァァァ!」
思いの全てを乗せた刻の拳が放たれ…………止まった。
「ぐ、が……」
瘢痕の『Re-CODE:03』に届くより前……彼の異能によって刻の全身が止まった。『風』に似た何かが刻の全身を押さえつけ、ミシミシと骨を軋ませる。その状態の刻に対し、瘢痕の『Re-CODE:03』は振り向きもせず、静かに言葉を告げた。
「……何度も言ったはずだ。死ぬ、と。なぜ、そこまでする?」
「……ひと、つ」
瘢痕の『Re-CODE:03』の問いに、刻は全身の軋みを感じながらも声を振り絞った。そして、その思いの丈をぶつけた。
「キズ一つ……テメェの、身体に刻み込まなきゃ……オレの中で、次は無ェ……。例え死ぬことになったとしても……命なんて、とうの昔に捨てた……」
「……お前、名は?」
「……今の、オレの名は……刻むと書いて…………『刻』だ」
「…………」
刻の、文字通り命懸けの言葉を受け……彼はついに動いた。
「憶えておこう。オレの名は
瘢痕の『Re-CODE:03』……虹次は振り向き、その手を刻に向けた。同時に、刻を自らの異能から解放し、彼の覚悟に、自らも応えると宣言した。
「バカ、だな……。まだ……終わってねぇって言っただろうが!」
「あ……が……」
「……見事だ。その姿でまだ立ち上がってこられるとは天晴れ」
刻の首を片手で掴み、彼の身体を空中で支える虹次。すでに、刻は力を使い果たしていた。
刻の最後の攻撃……敵の頭部を両手で挟み、両手から強力な『磁力』を発して頭の血液を加速し爆発させる必殺の技である『高磁界』。どんな人間でも生き残れはしないこの技を虹次に使った刻だった。しかし、それすらも虹次には通用しなかった。
「お前の最後の技……確かに普通の人間なら死んでいた。だが、オレには通じぬ」
もはや絶望的だった。何をしても、どんな技を使っても……虹次には勝てない。それどころか、傷一つすら刻み込むことはできない。彼の強さは……もはや別次元だった。刻は力を使い果たし、首を掴まれている以上、いつでも命を摘まれる。何もできない。そう感じていた……はずだった。
「──プッ!」
突然、刻が何かを口から吐き出した。見ると、それは歯だった。おそらく、虹次の攻撃を受けていた中で取れたのだろう。しかし、よく見るとその歯には微量の血液がついていた。刻のもの……かとも思ったが、口に含んでいた時に血など舌に付着して取れてしまうだろう。なら、この血は誰のものか。
答えは、簡単だった。
──つー…………
虹次の頬に血が流れる。見ると、彼の頬には真新しく刻まれた……一筋の傷。それは間違いなく、刻が刻みつけた傷だった。
「ヘヘヘ……キズ、一つ……目」
「……いいな。良い覚悟だ、刻。オレが滅すに値する男だ──!」
瞬間、虹次の手刀が刻の身体を切り裂いた。
~今日の一コマ~
優「ところで会長、修行中の大神は食事とかどうしてたんですか?」
会長「えーっと、初日はおでんで、次の日はうどん、次は鍋……あとはそのローテーションかな。ちなみに、食べる時は頭だけ外してもらってたよ」
優「あのスーツで箸を使って食べられたんですか?」
会長「難しいみたいだったから仕方なく私が手伝ったよ。そしたら大神君ったら文句ばっかり言うからさ~。嫌になっちゃうよ、まったく」
大神「テメェが……テメェがわざと顔やスーツの中に熱々の具や汁を落とすからだろうが!」
会長「いかにも~」
優(……今度、ホントに大神に優しくしてやろう)
~完~
すみません、CODE:NOTEはお休みで小ネタを書かせていただきました
いや、半端なものですみません
これからもたまに、こういったもの書くかもしれません
主にCODE:NOTEのネタ切れの際に
今回やった理由は……まさにそれです