CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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約三か月……お久しぶりです。
ようやく落ち着いてきたので投稿させていただきました。
久しぶりだったので何だか色々と不安ですが、読んでいただけたら幸いです。
今回は原作とは少し順番が違うところがありますが、特に深い意味はありません。
この方がそれっぽいかな、と思ってやっただけですので。
また、とりあえず今日からまたぼちぼちと投稿しようと思いますが、しばらくは原作まんまのストーリーが続きます。
そのため、オリキャラの影がどんどん薄くなりますのでご注意を……
それでは、どうぞ!





code:34 嘘から始まる幾重の謎

 「こ、これが『捜シ者』が捜していた(キー)……?」

 夕焼けに染まる放課後の輝望高校。『捜シ者』にさらわれた桜も会長の活躍で戻り、そのおかげで大神の調子も戻ったので彼らが抱えていた当面の問題は解決したかに見えた。だが、そう思ったのも束の間。『子犬』が今まで口の中に隠していた、『捜シ者』が捜す(キー)が見つかったのだ。

 一見どこにでもある形の(キー)。特徴といえばタグに書かれた「渋谷」という文字のみ。特徴は少ない(キー)だったが、桜はそれを手に入れた時のことを少しずつ思い出していた。

 「そ、そういえば……人見先輩殿が私に『コード:ブレイカー』をやめた理由を話した時に、この(キー)をもらったような……。これが『捜シ者』が捜している(キー)だったのか!」

 「人見が……!?」

 「その通りです」

 かつて“エデン”に反旗を翻し、大神たちと敵対した人見の名が出たことに『コード:ブレイカー』たちは驚きを隠せない様子だった。ただ一人、冷静に桜の言葉を肯定した平家を除いて。

 「ですが、その(キー)は元々“エデン”の物。人見が“エデン”を抜ける際、無断で持って行ったのです。桜小路さん、返していただけますか?」

 「返すって……“エデン”に、ですか?」

 「はい」

 (キー)は元々“エデン”の物であるため、“エデン”に属する者として(キー)を回収しようとする平家。桜は(キー)を返そうとしたが……ふと、その手が止まった。平家が口にした「“エデン”」という言葉が……彼女の中にあった人見の姿を呼び起こし、桜の中で鮮明に流れ始めた。

 『愛する者に思いを伝えることもできず、墓標を立てることさえも許されない……! そんな彼らの思いを……! 私は……貴様を許さない!』

 人見は……たとえ孤独な闘いだとしても、かつての仲間(とも)たちと闘うことになろうとも『コード:ブレイカー』のために“エデン”と闘おうとした。そこまでの覚悟を持っていた男が、意味も無く(キー)を持ち出し、意味も無く桜に託すとは思えない。ならば、この(キー)には大きな意味がある。それも、桜にも関係があると思われる意味が。

 そう考えると、このまま平家に返すことは躊躇われる。だが、あるべきところに返すべきだとも思っている。どちらの行動を選択するべきなのか、桜は顔をしかめながら考え……決断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「わかったのだ。返すのだ」

 「ありがとうございます」

 「……ん?」

 平家に言われた通り、(キー)を返す桜。だが、その様子を見ていた他の『コード:ブレイカー』たちは違和感を感じていた。その正体は……桜の表情。彼女が見せる表情は……彼女が見せる特有の「嘘の顔」だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ところで会長。先ほど仰っていた桜小路を解放する連れ戻す代わりに『捜シ者』とした約束というのは何ですか?」

 「あれ? 聞こえてたの?」

 「言っとくが、優だけじゃなくてオレらにも聞こえてたからナ」

 桜から感じた違和感を一先ず放っておくことにしたのか、優は会長が言っていた『捜シ者』との約束について聞き返した。会長はとぼけてみせたが、そこに刻も参加してきたため逃げ道は無くなっていった。

 「オラ、早いとこ言えヨ。どんな約束してきたんだ?」

 「いかにも、いかにも……その件に関してはまったく記憶がございません!」

 「堂々とシラ切ってんじゃネーヨ!」

 「まあ、いいじゃないの。(キー)がちゃんと“エデン”にあれば。じゃ~ね~」

 「待て、コラー!」

 刻に迫られる会長だったが、あえて堂々と誤魔化すことで話を逸らし堂々と逃げていった。刻は口でこそ「待て」と言ったが、追いかけて捕まえても無駄だと悟ったのだろう。無理に追おうとはしなかった。

 「そういえば大神、よく私がいなくても学校に来たな。偉いぞ」

 一方、(キー)を返した(?)桜は大神に話しかけに行っていた。自分がいなくても、大神がきちんと学校に来ていることを喜ばしく感じたようだ。

 「…………」

 だが、対して大神は黙ったままだった。子ども扱いにも似た桜の言葉に苛立ちを感じたのか、他に何か思うところがあるのか。それはわからないが、彼は俯いたままで桜に言葉を返そうとはしなかった。

 「……大神? どこか具合でも──」

 大神の黙秘が体調の不調が原因かと感じた桜。『捜シ者』にやられた傷が目に見えて残っている今の大神のことを考えれば、推理としては妥当なものだろう。

 そして、大神を気遣って何も考えずに手を伸ばす桜。しかし、それに対しての彼の行動は誰もが予想しなかったものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「脱げ」

 「え」

 「は」

 大神が放った一言に……空間が一瞬で固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お、大神……? 何を──」

 「いいから早く脱げ!」

 「う、うわぁ!」

 「ちょ! 大神!?」

 大神が口にした突然の言葉に、言われた当人である桜は言葉の真意が全く理解できていなかった(彼女だけでなくここにいる全員がそうだが)。しかし、桜がその真意を理解するより前。大神は急に桜に掴みかかり、あろうことかそのまま彼女の服を脱がし始めたのだった。突然のことに刻も顔を真っ赤にして慌てる。

 制服をめくり、靴も靴下も脱がせ、腕もまくらせ……どんどん彼女の肌を露わにしていく大神。桜も抵抗するが、突然のことに力が入らないのだろう。そして、力が入らなくなったのがもう一人。

 「げ……限界、だ……」

 「ななばんが倒れた」

 「優君には少し刺激が強かったみたいですね」

 顔を真っ赤にして倒れた優。女性が苦手な彼にとって今の状況は、平家が言うように刺激が強かった。だが、年下である遊騎が平然としているところを見ると何とも言えなくなる。

 「大神……! もう、やめ──!」

 「──ッ!」

 そんなことも無視して桜の皮膚を晒す大神。桜も必死にやめさせようとするが、大神は止まらない。しかし、大神の行動はいきなり止まった。ある場所……首の後ろを見たことで。

 そこには……『捜シ者』の右手に刻まれていた刺青とまったく同じ刻印(マーク)が刻まれていた。

 「お、おい! これって『捜シ者』と同じ刻印(マーク)じゃねーカ!?」

 「え? な、なんなのだ?」

 大神が止まったことで、刻たちの視線も桜に刻まれたマークに集まる。こうなると、大神の行動の意味よりも桜にこのマークが刻まれている意味の方が重要となってくる。

 自分の首の後ろのことのため、いまいち状況を把握できていない桜に簡単に何があったか伝える。マークが刻まれていることを知った桜が首の後ろを擦るが、消えるはずもなかった。すると、そのマークを見てから黙っていた大神がボソリと呟いた。

 「……いつだ」

 「え?」

 「いつ『捜シ者』(ヤツ)にその刻印(マーク)をつけられたんだ!?」

 「おい、大神!?」

 呟いたかと思ったら、今度は先ほど以上の勢いで桜に掴みかかっていった。おそらく、大神はこの刻印(マーク)の意味を知っている。そして、それが桜に刻まれているかもしれないと予想していたのかもしれない。そう考えれば先ほどの行動も、この刻印(マーク)が刻まれているか確認するためだったんだろう。

 しかし、当の桜はというと……

 「わ、わからぬ……。情けないことだが、ずっと気絶していたから……」

 「くそ……!」

 まだ現状が呑み込めておらず、ただ自分が気絶していたということを話す。それを聞いた大神は、桜に刻印(マーク)を刻んだ『捜シ者』を憎んでか、それとも桜に刻印(マーク)を刻ませてしまった原因をつくってしまった自分を許せなくてか。大神は歯が砕けてしまうほど強い力で歯を噛み締めた。

 「……大神。私には、わからぬことがある……」

 歯を噛み締める大神を目の前にし、桜は驚いた様子を見せていた。が、彼女の中にあった疑問を口にし始めた。

 「お前の兄上殿である『捜シ者』はどんな人なのだ? ……悪、なのか? たしかに兄上殿はとても怖くて、陶器のように冷たい体をしていた。けど……なんだかとても、懐かしい匂いがした気がするのだ」

 「…………」

 「さ、桜チャン……?」

 桜が抱いた疑問……それは「『捜シ者』は悪なのか?」というまさかの疑問だった。彼が纏う独特で異常な雰囲気を実際に感じていた桜だったが、それでも彼女はわからなかった。彼が悪なのか、悪ではないのか。彼女にそんなことを思わせてしまうほど……彼女が感じた「懐かしい匂い」は印象深いものだったのだろう。

 「……すみません。少し一人にしてください」

 「え? 大神……?」

 桜が抱いた疑問を聞いた大神。そこに何か思うところがあったのか……彼は桜たちに背を向け、静かに歩きだした。桜も一瞬、追おうとしたが大神の神妙な雰囲気を感じ、その足はすぐに止まった。

 すると、大神はピタリと立ち止り、桜の方を振り向いた。

 「大丈夫です。(クズ)は……人は殺しませんから」

 「大神……」

 それだけ言うと再び歩き出す大神。彼がわざわざ誰も殺さないと言い、去っていった。そこには自分たちが知り得ない深い理由がある……そう感じた桜はただ彼の名を呟くことしかできなかった。

 その後、ひとまず(キー)の回収と桜の安全の確保もできたため、『コード:ブレイカー』たちの長い護衛も打ち切られることになった。そのため、『コード:ブレイカー』たちも一時的に解散することになり、そこには桜と『子犬』のみが残った。

 「……さて、行くぞ『子犬』」

 「わふ?」

 「決まっているだろう……」

 一人と一匹となった桜たち。そんな中、桜は『子犬』に向かって何かを決意したかのように呟く。しかし、『子犬』はもちろんわかっておらず、首を傾げている。すると、桜は自分の懐からある物を取り出そうとした。そして、彼女はある物を取り出した。

 「この(キー)がなんの(キー)か探るのだ!」

 「わふ!?」

 それは平家に渡したはずの……『捜シ者』が狙っている「渋谷」のタグがつけられている(キー)だった。まさかの現実に『子犬』は慌てふためいていた。

 (この(キー)は人見先輩殿が存在した唯一の証……。それを私に託したということは、この先には人見先輩殿が伝えたい何かがあるはず。なら私は、それを知りたい……)

 桜は自分に(キー)を託した人見の思いを感じながら、決意を新たにして(キー)で開けるであろう先を目指しに行った。……偽物を渡した平家に心の中で謝りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……さて、この(キー)はしかるべき場所に置かねばなりませんね。さて…………ん?」

 平家が渡された(キー)。他の者と別れた後、改めて本物か確認すると、つけられていたタグには「1-B 桜小路 桜 下駄箱」と書かれていた。

 「…………」

 その後、輝望高校では「放課後、女子生徒の下駄箱を開ける西洋の鎧」の噂が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の渋谷。そこはなんとも都会らしく建物の灯りが全てを照らしており、夜とは思えないほどだった。また、仕事や学校帰りの人たちも多いため、人の賑わいに関しても夜とは思えない。そんな中、一人の少女が渋谷中を駆け巡っていた。一匹の小犬を連れ、その手に「渋谷」と書かれたタグがついた(キー)を持って。

 「……な、無いぞ。渋谷中を探したのに、開けられる物が何一つ無いぞ……」

 「くぅ~ん……」

 少女……桜は肩で息をしながらベンチに座り込んでいた。その隣では、『子犬』も疲れ果てた様子でへたり込んでいる。

 彼女たちは大神たちと別れた後、渋谷に向かいロッカーがある場所をしらみつぶしに回っていった。理由はもちろん、(キー)がなんの(キー)なのか探るためだ。しかし、「渋谷」のタグがつけられているため渋谷にあるはず……と推理して来てみたものの、結果は惨敗だったというわけだ。

 「ぬう……でも渋谷に関係しているのは間違いないはずなのだ。よし、どこか見落としがあるかもしれん。もう一度、渋谷中を回って……」

 ベンチに座りながら、また途方もないことを言う桜。彼女自身のやる気は十分だが、隣の『子犬』はその無茶な言葉に声にならない悲鳴を上げていた。すると、そんな彼女たちに声をかける男たちがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ったく、何やってんダカ。こりゃ、桜チャン一人じゃ一生かかっても見つけらんねーっつの」

 「非効率的にもほどがあるな」

 「と、刻君! 夜原先輩まで!」

 聞き慣れた声がした方向……そこには私服に着替えた刻と優がいた。刻は煙草をふかしながら、優は極端な呆れ顔を浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「桜チャン……平家に渡した(キー)って偽物ダロ?」

 「そ、そんなことは……」

 「桜小路……オレたちがお前の嘘顔を見抜けないと思っているのか?」

 「うぐ……」

 『コード:ブレイカー』二人を相手に誤魔化そうとした桜だったが、あっという間に論破されてしまった。だが、論破されたからと言って大人しく(キー)を彼らに渡しては平家に嘘をついてまでこの(キー)を持った意味が無い。

 「わ、渡さぬぞ! たとえ“エデン”のものであっても──」

 「バーカ、とらネーヨ。仕事じゃねーシ」

 「大体、後からそんなことするんだったら嘘だとわかった時点で止めてる」

 「えっ……!?」

 慌てながら(キー)を渡すことを拒否した桜だったが、意外にも二人からは(キー)をとり返す気は無いとの返答が来た。そもそも、刻はなんとなくわかる。そこまで“エデン”のために動くはずもない。だが、優に関しては意外だった。彼は最初に『コード:ブレイカー』としての自分を見せた時、自分は“エデン”に従う、とまで言っていた。刻たちが言うようにお情けで『コード:ブレイカー』になったということを考えれば、彼の“エデン”への忠誠心は強いものだと予想できる。だが、現状はこれだ。二人とも、“エデン”など関係なく動こうとしていた。桜はその真意がわからなかった。

 「ふ、二人とも……じゃあ、なぜ今ここに来たのだ……?」

 「……んなもん決まってんダロ」

 桜の問いに、刻たちは真剣な雰囲気を漂わせる。それと同時に、携帯型の灰皿に吸っていた煙草を押し込み、桜に向かってかすかに微笑んだ。

 「人見が何を遺したのか知りたい……ってのが理由じゃダメなのかヨ」

 「人見さんが危険を冒してまで手に入れた(キー)をお前に託した。そこには必ず、何かしらの意図がある。なら、オレはそれを確かめる。それだけだ」

 「刻君……夜原先輩……」

 そうだ。考えるまでもなかったのかもしれない。二人はただ、“エデン”のためにと思う気持ちよりも人見のためにと思う気持ちの方が強かった。ただ、それだけのことだった。自分とてそうだったというのに、と桜は見抜けなかった自分が情けなく感じた。

 「……ありがとう。刻君、夜原先輩」

 「桜チャンが礼を言うことでもないデショ。……さてと、ちょっとその(キー)貸してみ」

 「うむ!」

 二人の気持ちを知り、改めて礼を言う桜。刻は悪戯な笑みを浮かべながら、桜から(キー)を貸してもらう。なんの躊躇もなく渡すところを見ても、完全に桜の警戒心は解かれていた。

 「早い話、この(キー)がぴったりハマる鉄材……鍵穴を見つけりゃいいんダロ? そんなこと、オレ様の『磁力』をもってすれば簡単だヨ」

 そう言うと、刻は(キー)を手にして『磁力』を発動させた。刻は『磁力』を使えば、ある程度の範囲の金属を探知することができる。以前、始末屋が桜小路家を襲った際、大神にどの方向から敵の攻撃が来るか伝えたのもその能力を使ったからだ。この能力、その気になれば範囲にある鉄材の細かな形まで把握することができる。刻は今、その能力を使って(キー)が入る鍵穴を探していたのだ。

 「……見つけたゼ。ここからそんなに遠くもない」

 「おお! ありがとう、刻君! では、さっそく行こう!」

 「オッケー。つーわけで優、よろしく」

 「……は?」

 見事、鍵穴を見つけ出した刻とその報告に歓喜する桜。いざ向かおうとすると、刻は優に意味深な笑みを向けていた。

 「いや~、オレ様ちょっと異能使ったら疲れちゃったんだよネ~。ぶっちゃけ遠くないっつてもちかくもないわけだシ~。優だったらオレたち抱えて走っても異能使えば余裕だろうけどオレ様にそんな体力残ってないしな~。桜チャンも今までずっと一人で渋谷中を探してたんだから疲れてるだろうナ~」

 「……お前、珍しくオレがいても文句を言わないと思ったら、そういうことか」

 おそらく、刻は「自分は疲れたからお前が連れていけ」と言っているのだろう。その刻の言葉を聞き、優は勝手に任せられていた自分の役割を思い知った。しかし、一人だけそれを飲み込めていないのがいるのだった。

 「え? 別に私は大丈夫だぞ、刻君。まだピンピンして──」

 「うっせ」

 「ぬお! い、痛いのだ……」

 「ほ~ら、桜チャンも体が痛いってよ~」

 状況を飲み込めていない桜に思いきりチョップをかました刻。うずくまる桜をよそに、まだ優に対して意味深な笑みを向けていた。

 そして、何を言っても無駄だとわかったのか、優はため息をつきながら答えた。

 「……わかった。確かに『脳』を使えばお前らを担いで行くことは可能だ。案内は任せたぞ、刻」

 「うっせーよ。言われるまでもねーシ」

 その後、彼らは人目につかない場所まで移動し、優は二人と『子犬』を担いだ状態でビルの屋上や電柱の上などを足場に移動を始めた。

 そんな規格外な移動をした三人と一匹は、ついに(キー)がハマる鍵穴がある場所に着いた。その場所とは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なんと、墓地とは……。確かに私では一生見つけられなかったぞ」

 「ハ、ハハ……オレもビックリ……」

 「意外だが、確かに鍵穴はあるからな」

 三人と一匹が辿り着いた場所は……まさかの墓地。夜というのもあり、その場に漂う雰囲気の怪しさはとんでもないものだった。

 「あー、でも鍵穴はコレだゼ! 早いとこ開けちまおう!」

 「そうだな、お墓に入っている方には申し訳ないが」

 「……ある意味、墓荒らしだな」

 「そういうこと言うなっつーの!」

 とりあえず早く済ませようと思ったのか、刻は一つの墓の下部にある小さな扉の鍵穴を指差して(キー)を取り出す。桜もそれを了承したが、優はボソリと不吉なこと言う。刻は即座に文句を言うと、改めて鍵穴に視線を戻した。

 「ここに『捜シ者』が求めてる“エデン”のトップシークレットがある……! この眼で、確かめさせてもらうゼ!」

 勢いよく(キー)を鍵穴に差し込み、そのまま鍵を開ける刻。そして、その勢いのまま小さな扉を開ける。そこに隠されていたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ハズレ。残念でした。 by人見』

 人見のイラスト付きでそう書かれた紙と、少し大きなアヒルのオモチャがあっただけ、だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「人見ィィィィィ!! アイツ、人のことバカにしてんのカ!」

 「お前、見事にハメられたな……」

 「うるせー! テメーも一緒だ、ボケ!」

 まさかの事実にヒステリックに叫ぶ刻。自ら頭を掻き毟り、イライラは最高潮だとわかる。そんな刻を見て、何も言えない桜と優。すると、また聞き慣れた声が彼らの元に届いた。

 「めっちゃもといちらしいやん。いつものらりくらりで本当のことは何も言わん。それがもといちやったし」

 「遊騎君!」

 見ると、遊騎が見知らぬ人の墓に両手を合わせている。相変わらずなマイペースさだが、それよりも今は遊騎がここにいることが不思議だった。

 「遊騎、どうしてここに来たんだ?」

 「にばんに(キー)渡す時、『にゃんまる』が変な顔しとったから気になってな。『音』で『にゃんまる』の声見つけて、ここ来たんや」

 「私を心配して来てくれたのか……。ありがとう、遊騎君。優しいのだな」

 「『にゃんまる』には負けるわ」

 優の問いに遊騎は平然と答えると、桜とハイタッチを交わす。先ほどまでとは打って変わり、和やかな雰囲気になったが、約一名これでさらにイライラを募らせていた。

 「んなことしてる場合じゃねーっつの! どーすんだよ、この(キー)!」

 「んー、なんで『渋谷』って書いてあんのかな」

 「聞けよ!」

 和やかな雰囲気にヒステリックをぶつける刻。しかし、それでもマイペースを貫く遊騎。(キー)を持って眺めている。そんな遊騎を見て刻はさらに叫ぶが効果は無い。

 「わけわからん。こんなタグ……もういらんわっ」

 「イテ!」

 すると、遊騎は急に「渋谷」のタグを取り外して刻に向かって投げた。急なことに刻は反応できず、タグの直撃を受けた。刻はやり返そうと、落ちたタグを拾って遊騎に向かっていった。

 「人見のすることなんてオレが知るワケねーダロ! オレに当たるんじゃ────ア、レ?」

 「……? どうした、刻」

 急に刻の動きが止まった。ただ黙ってタグを見つめている。おそらく、タグになにか違和感を感じたのだろう。優が首を傾げるが、何の反応も無い。

 「これは……磁気シートが入ってやがる! これ、カードキーだぜ!」

 「ってことは……そっちが本物の(キー)だった、ってことか」

 「もといち、きっとよんばんやったら気付くと思ったんやないか?」

 「ハ、ハア? んだよ、その回りくどい方法……。大体、なんでこんな墓地にダミーを置く必要があるんだヨ、わけわかんネー……」

 刻がタグに触れた瞬間、彼の『磁力』が無意識にタグの中にあった磁気シートに反応したのだろう。磁気シートの存在から、タグがカードキーであり、それこそが本物の(キー)だと判明した。この(キー)自体の謎はほとんど刻の異能によって判明したことを考えると、遊騎の言う通りこれも人見の意図だったとも思える。刻は急に照れ臭くなったのか、一気に大人しくなっていた。

 しかし、もう一人だけ様子が変わった者がいた。その者はタグがカードキーだと判明した時から、墓地のある一点を見つめていた。そして、ボソリと呟いた。

 「……ここだ」

 「……桜、チャン?」

 「私……小さい時にここに来たことがある」

 桜だった。墓と墓が向かい合う訪問者が通るスペース。彼女はそこを静かに見つめていた。そして、彼女はゆっくりと振り返り、刻が持つカードキーを手に取る。

 「この(キー)……そうだ。あの時、ここで……」

 カードキーを手に取り、改めて過去に来たことがあるという場所を見つめる。瞬間、彼女の中で靄がかかっていた過去の記憶が次第に晴れていく。そして、彼女の頭の中でその記憶が再生された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「────」

 「──、────」

 今、彼女たちがいる場所……そこに存在する二つの影。一つは幼き少女、もう一つは若い青年。青年は膝を突いて少女と向かい合い、何かを誓うかのように右手を胸に当て、左手を差し出す。少女はそれを見て、静かにある物を差し出す。あのカードキーを。

 これは彼女の記憶。ならば少女は彼女に違いない。だが、青年は違った。彼のことはここにいる全ての者が知っている。今の彼女も知っている。見間違えるはずがない。彼は…………今は『捜シ者』と呼ばれる白き青年だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……そうだ。ここで『捜シ者』と会ったんだ。そして、この(キー)は私が『捜シ者』に渡したんだ」

 「ハ、ハァ!?」

 突然の話に刻は信じられないという顔をする。当然だ。“エデン”の物とされていた(キー)が実は自分が『捜シ者』に渡したと話されたのだ。混乱するのは当然だ。だが、なぜ『捜シ者』の手に渡った物が“エデン”の物とされ、再び『捜シ者』が狙っているのか。いや、今はそれよりも注目すべき点があった。

 「ちょっと待てよ! ってことは、その(キー)は元々、桜チャンの物だったってことかヨ!?」

 「……のような気がする」

 「どっちだー!」

 まさかの事実を確かめようとしたが、当の桜から不安な言葉が出る。再び、刻の叫びが夜空に木霊するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なんだと!?」

 時を同じくして桜小路家。組員がいない桜小路家の家に剛徳の声が響き渡る。受話器を握り、この上なく緊迫した表情を見せる。

 「……わかった。……ああ、もちろん。…………失礼する」

 ガチャリ、と重苦しく受話器を置く。それと同時に、彼の後ろから弱々しい声が届く。

 「剛徳(ゴー)くん、電話……あの人?」

 「……ユキちゃん(ママ)

 「桜のこと……よね?」

 「…………」

 振り返ると、ユキが不安そうに覗いていた。だが、電話の内容を聞いていないにしろ、彼女もわかっていた。今の電話が誰からのもので、その内容がどんなものだったのか。不安に染められている彼女を安心させようと、剛徳は静かに彼女を抱き寄せた。

 「桜がウチに来てくれてから11年余り……。来るべき時が来たのかもしれない……」

 「剛徳(ゴー)くん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「桜の記憶が蘇る時が…………」

 

 

 

 

 

 

 

 




CODE:NOTE

Page:27 時雨

 『Re-CODE』の一人を任せられている男。キチンと着られたスーツに左眉に刻まれたバーコード、そして何があっても表情を崩さない冷徹な男。異能は不明だが、触れずに対象を切り刻むことができる。新宿での事件ではその異能を使って数人を切り刻んだ。
 また、まだ詳細は謎だが遊騎とは真理という人物を巡っての因縁があり、彼を殺したとされる遊騎を自分が殺すと宣言している。

※作者の主観による簡略化
 アンドロイドっぽい。



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